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TruCalling VirtualSeason3
(トゥルー・コーリング バーチャルシーズン3)

3x05 Whisper:ささやき
作者: Erin 
作者補助: Tina 
校正:Kitty
翻訳:Mhorie
翻訳版情報提供者:lucky32kkさん
             エバンスセンスエヴァネッセンス
             実在のバンドの名前で、登場人物のエイミー・リーも実在の人物です。
             訳注)実在の人物をモデルとして登場させているだけで
                本内容のバンド及びエイミー・リーは実在のバンド及びエイミー・リーとは一切関係ありません。


「来たよ」
トゥルーはドアから聞こえる声に呻きました。
何事なのか、休日だというのに早く起こされるほどの重要な事なのか。
彼女はドアに急いで向かいながら眠い目をこすり目を覚まそうとしました。
彼女がドアを開けるとそこには弟が立っていて驚きました。
「姉さん、今晩の予定はキャンセルした方がいい。
 俺さ、センチュリーイベントのチケットを手にいれたんだ」
ハリソンは興奮して挨拶も抜きに話しだしました。
彼は一束のチケットを手に持ってヒラヒラと振ります。
トゥルーは手を伸ばすと彼の手からチケットを取ると調べました。
「これってエヴァネッセンスの今晩のコンサートじゃない!
 前から行きたいって思ってたけど、でも一時間で完売したって?」
彼は自信たっぷりにニヤッとしました。
「俺にはコネがあるんだ」
彼女は『本当に?』という顔つきをしました。
「オーケー、ポーカーで勝ったのさ」
彼女は頭を振ります。
「まあ、たまたまあたしの休みだからいいけどさ。何枚チケットがあるの?」
彼女はチケットに目を通します。
「五枚?あたし達五枚ものチケットをどうするつもり?」
「あたし達?誰が姉さんを招待するって言った?」ハリソンはとぼけて言います。
彼女は彼に一瞥して。
「あんたねえ、休みの日に叩き起こしておいてチケットをくれないって事はないよね」
「ああ、あげるよ。でもさ、姉さんに俺にエイブリーとジェンセンの四人だと一枚チケットがあまっちまう」
とハリソンが続けます。
トゥルーはハリソンが勝手にジェンセンを呼ぼうとしている事に何か言おうとして瞬きしましたが、
間際になって言うのを止めました。
トゥルーはハリソンに最近のジェンセンのおかしな行動を説明する方法がなかったし、
ハリソンはその事を理解できないと思ったからです。
彼女は携帯電話の留守電に三回もの無言のメッセージについて罪悪感を覚え心の痛みを感じていました。
多分彼女が今まで彼を避けていからでしょう。
でももし彼が今晩来たなら彼女の罪悪感は多少なりとも楽になり彼と一緒にいられると思いました。
なぜなら最近彼女はまったくその考えが嫌になっていたからです。
「ラッキーな5人目が誰なのか?」とハリソンはトゥルーの思考を中断させて言います。
「なあ、デイビスはどう?」
トゥルーは思わず笑ってしまいました。
「デイビス?エヴァネッセンスのコンサートに?」
「どうしてさ?二人とも話し合って決着ついたんだろ?」
彼女はドアから離れるとハリソンも後に続きリビングルームの中に足を踏み入れると彼女は肩をすくめます。
「うん、そうだよ。デイビスがキャリーにあたしの事を話したことは許せないけど
 友情のためにうまくやろうと思ってる。でもこのコンサートをデイビスが好きかどうか分からないよ」
「いいじゃん?俺は好きだと思うよ。デイビスは少し死体安置所から出た方がいいって」
 とハリソンは少し身震して言います。
トゥルーはこの事を考えに入れます。
「ええ、彼に聞く分には問題ないと思う。多分嬉しがると思うよ」
「そうこなくっちゃ!」と彼は熱狂的に言います。
トゥルーはため息をつきます。
「分かる?これはあたしにとって本当に必要な事なの。
 あたしの生活は毎晩続く死とストレス、それから離れたいよ」
「本当に今晩は楽しくなるぞ。エイブリーはノーとは言わないと思う。
 俺はクールにビックイベントシーズンに誘うんだ」
ハリソンは自己満足に浸りながら言います。
彼はトゥルーに三枚のチケットを手渡します。
「誰かさんと違って俺は今日仕事があるんだ。だから姉さんとデイビスとジェンセンの分。
 俺とエイブリーは一緒に行くからそこで会おう」
「ありがとう、ハリー。」
「じゃあまた今晩、姉さん。それからパーティーの準備をしといた方がいいよ、感動もんだぜ」
彼はアパートを出ながら言います。
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数時間後
「トゥルー。やぁ、君は今日休みだと思ったけど」
デイビスはトゥルーが死体安置所の事務所に入って来ると驚いて顔を上げて言います。
「そうだよ、来たのは仕事とは全くの無関係」
彼女はポケットから一枚のチケットを引っ張り出しました。
「今晩エヴァネッセンスのコンサートにあたし達と一緒に来ない?ハリーがチケットを手に入れたんだ」
彼女は手を伸ばして優しく差し出しました。
「来た方がいいよ、楽しいから」と彼女は熱心に勧めます。
デイビスは彼女とチケットを見つめると、誰かに空は本当は緑だったという事を聞いたかのような顔をしました。
「うーん、あー、もちろんだ、俺、あー…」
彼は喉のイガラッポサが取れたように、
「君達と一緒に行きたいよ」
トゥルーは微笑します。
「素晴らしいわ!すごく楽しくなるよ。それであたしとジェンセンと一緒に車で行く、それとも現地で落ち合う?」
彼は彼女からチケットを受け取ります。
「俺の方は、あー、現地で会う事だな。今日は仕事があるんでね」
彼は机の上の書類の山を指してジェスチャーで表現します。
トゥルーはうなずきます。
「楽しみだよ、楽しい休息だよ…分かる?うまくいけば、素敵で楽しい普通の晩なんだよ。
 じゃあ、今晩会いましょ、デイビス!」と彼女はオフィスを出ながら言いました。
彼女が行った途端にデイビスはおどおどして微笑します。
「うわーっ、今まで女性からコンサートに誘われた事なんてなかったのに」と彼は大声で畏怖して言います。
トゥルーは夜を楽しみにしながら廊下をエレベーターの方へゆっくりと歩きます。
「友達としてコンサートに誘ったんだけど。何か変な言い方したかな?」
彼女はエレベーターのドアが閉まるとつぶやきました。
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「ええっハリー、持ってこなかったって」
トゥルーがうめくような声で言います。
ハリソンは少し青白く見えます。
「自分達のチケットを忘れたなんて信じられないよ!」
エイブリーは頭を振ります。
「私はこれが夢だと思いたいわ」
彼女はトゥルーと目を合わせ、トゥルーは彼女に同情的な目で見ました。
「おい、誰も文句言うなよ、俺が家に走ってチケットを持ってくるから」とハリソンは決心します。
「最初の方が聞けないじゃない」とエイブリーが静かに不平を言います。
トゥルーは彼女の腕を彼女の周りに置きます。
「じゃあ、いいよ。ハリソンがチケットを持ってくるまでジェンセンとあたしがあなたと一緒にここで待つよ」
彼女は確認のためにジェンセンをちらっと見ます、そして彼はうなずきます。
「オーケー。じゃあ、俺がいなくて淋しくなる前に戻ってくるから」
ハリソンは弱々しく言い急いで自動車に行きました。
トゥルーはコンサートホールの外壁に寄りかかってため息をつきます。
「我が弟ながらあきれるわ」
「まあ、彼も悪気はないんだから」とジェンセンが楽しそうに言います。
「ジェンセン、私はね途中三回もチケットを持ってるか尋ねたの」とエイブリーが皮肉たっぷりに言います。
「そうなんだ」とジェンセンが言います。
トゥルーは頭を振ります。
「いいじゃないか、僕らの楽しい晩が…少し伸びただけさ。全てが楽しいよ」
数分後に彼らは中から微かにオープニングの音が聞こえてきました。
「少なくともあたし達は不愉快な金切り声を上げる事はないわ」とトゥルーが状況を軽視しようとして言います。
エイブリーはため息をつきます。
「それがコンサートの中で大好きなとこなのに」
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数ブロック離れた場所でハリソンは手にチケットを持って急いで戻ってきます。
このようなバカなミスをしてエイブリーを失望させた事に対して自分自身に腹を立てていました。
彼は汚名返上する方法を見つけなければなりません。
「Tシャツを買うならここだよ!」
数フィート離れた場所でがっしりした男が一抱えの海賊版エヴァネッセンスのTシャツを通行人に振り回して叫んでいました。
ハリソンは最初通り過ぎましたが、ニヤッとして止りました。
彼は踵を返し男に接近しました。
男の持っている色々なTシャツを物色して、
「これはいくらだい?」
フィッシュネットの長袖にエヴァネッセンスのロゴが黒で書かれたシャツを示して尋ねます。
「10ドルだ」男は彼に大声で答えます。
「よし!一つ買った」とハリソンはエイブリーへのお詫びの品を見つけたことがうれしそうでした。
彼はシャツを買うとジャケットの中に押し込み皆が待っているところに急いで戻っていきました。
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『♪あなたが涙をこぼせば涙を拭いてあげる。あなたが叫べばその恐れと戦ってあげる。
 私はいつでもあなたを助けていたけど、それでもあなたはいつもそうやって…私の全て…♪』
数分後に彼ら四人は自分達の席に行くためにかなり興奮している観客の中を不器用にかき分けて進みます。
「何てついていないのかしら、私達、歌の途中で入って来ちゃった」とエイブリーがつぶやきます。
それは非常にまずい雰囲気です。
全員がウットリするほどのバラードに聞き惚れているところへ彼らが自分達の席を目指して割り込んできたのですから。
彼らがチケットの席番号の列に着いたときトゥルーが段階を見上げるとデイビスが通路に立っているのを見つけました。
彼女は彼を見てすくみました。
「あらら」
「ねえ、七〇年代のラブ・フェスタのような格好した男は誰だい?」
ジェンセンはクスクスと笑いながら暗い色の波の間に際立つ絞り染めのTシャツを指して言います。
「デイビスだよ」とトゥルーはため息と共に言います。
デイビスは彼らが近づいているのが分かると向きを変えます。
「おい、そこのみんな。どうしたんだ?最初の三曲も聞き逃して」
「長い話よ」とトゥルーは彼の衣装から目をそらすことができずに言います。
「あのさ、デイビス?何を着てるの?」
デイビスは突然カッコイイだろうとばかりに、
「どうかしたのか?最新のファッションを着てるんだが」
「ヒッピーのような格好がかい」とハリソンは笑いをこらえて言います。
エイブリーは古臭い言い回しに目をきょろきょろさせます。
トゥルーは一瞬目を閉じます。
「忘れて。カッコイイよ。それより席に行こうよ」と彼女は促します。
申し訳なさそうに彼らの前に立ちふさがる観客を笑顔で押しのけ自分達の席に向かいます。
彼女は自分達の席に到着すると安心して座りました。
彼女はステージと人でいっぱいの客席を称賛しエイミー・リーが美しい声で歌うハウンティングに耳を傾けます。
彼女は隣の人に声を掛けられたとき驚いてビクッとするほどのめり込んでいました。
「才能があるねぇ?歌詞も意味が深い」
彼女は声を聞くや否や信じられなくて向きを変えるとすぐ隣の席に座っている人物を見てビックリしました。
「ジャック」と彼女は怒って言います。
「世間は狭いってことさ?」と彼はいつもと変わらず陽気に言います。
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トゥルーは明らかにジャックが彼女の隣りに座っているのを見て激怒しています。
「あんた、あたしをからかってるの」
ジャックは苦痛の表情を浮かべるふりをします。
「痛いこと言うなトゥルー、俺に会えて嬉しいんだと思ったけど。仕事以外で同僚に会うなんてすばらしいだろ」
「同僚なんかじゃない。宿敵だよ」とトゥルーが痛烈に言います。
「それは聞き捨てならないな。
 俺たちは若干異なった見解を持っているかもしれないが宿敵とは言わないだろう」と彼は控え目に言います。
「どうしたんだい?」
トゥルーの隣の席に座っているジェンセンが彼女に気付き表情を曇らせました。
彼は彼女を超えてちらっと見るとジャックが彼女の隣りに座っているのを見つけます。
ジェンセンはあまり驚いているように見えません。
彼はトゥルーを見ます。
「君はジャックがここ来てる事知ってたのかい?」
「ええ、まあ、それがあたしがここに来たいと思った理由だよ」とトゥルーが皮肉に言います。
ジェンセンは彼女の返事に少し面食らっているようです。
歌が終わるとアリーナは拍手と声援の声でいっぱいになります。
トゥルーは一瞬目を閉じます。
ジャックはここで何をしていたのか?
今日は例の日ではありません。
今晩は休みの夜のはずで、全てをこなしてきた夜、しかし彼女の仕事についての考えは。
彼女は欲求不満でついにジャックに頼ります。
「ジャック、あんたの考えが全然わからない。
 あんたがあたしに麻薬を打ってどこかの部屋に閉じ込め、何にもなかった振りしてあたしの隣に座ってる?」
「厳密に言えばトゥルー、君が俺の隣の席に座ったんだ。俺は誰にも迷惑を掛けずにここで座っていたんだ」
ジャックは次の歌が始まるともっと大きな声で話をしました。
デイビスは隣のジェンセンを押しのけ、
彼らの後ろの列に座っている人達のうろたえを引き起こしてトゥルーとジャックの前に立ちました。
「ジャック、君がここで何をしているか知らないが、我々は全員休みの夜を楽しむ事ができないじゃないか」
彼は早口で言います。
「やあ、デイビス、あんたにも挨拶しておくよ」とジャックが無頓着に言います。
ジャックはデイビスを一瞥すると彼の口元には微笑が浮かびます。
「いい衣装じゃないか。非常に目立ってるよ」
トゥルーは決してその事を認めたくはなかったけどジャックと意見が合いました。
デイビスが群衆の真ん中に立ったとき暗い色の間にネオンの絞り染めのシャツを着た彼は異質のように目立ちました。
彼女はそれを無視しようとします。
「ありがと、デイビス。ジャック、彼が正しいよ。今晩はお互い休戦にしない?」
彼は肩をすくめます。
「俺が先に座ってたんだ。ただ音楽を楽しみ来たんだぜ」
彼女は彼女の目をきょろきょろさせないわけにはいきません。
「これからはあんたを無視するわ」
全員がコンサートに注意を戻したときデイビスはトゥルーに向かって頷きます。
「うーん、トゥルー、俺は…。少しこの格好…あー、この場にふさわしくないと思うかい?」
彼女はため息をつきます。
「ちょとね、デイビス」
彼はため息を漏らします。
「俺は君達若者と少し合わせようとしたんだが。それに誰も俺の格好を…おかしいって言わなかったから」
トゥルーは驚いて彼を見ます。
「一度もエヴァネッセンスを聞いた事がないの?それなのにすぐに行くって行ったわけ?」
彼はそわそわします。
「コンサートに誘われた事がないんだ」
彼女はにこやかに頭を振ります。
「本当にもっと死体安置所から出て行く必要があるね」
「その事について教えて欲しい」と彼が言います。
列の最後にいるハリソンはジャケットの内側に手をいれました。
「ねえ、エイブリー、俺が戻って来たとき君のために思いがけないものを手に入れたんだ。チケットのお詫びにさ」
彼は期待する彼女の反応をうかがってシャツを手渡します。
彼女は目の前でシャツを掴んで広げます。
「ハリソン、嬉しいわ!私シャツが欲しかったんだけど無駄遣いする事になるから!」
エイブリーがハリソンにキスをした事によって彼は驚きました。
「これがいいのよ!」
彼女はフィッシュネットの袖を称賛して黒いTシャツの上から身につけます。
ハリソンは非常に満足してにっこり笑います。
『♪ペーパーフラワーの私の世界でそして子守り歌のキャンデー雲…。
 私はずっとその場に横たわり紫の空が私の上を飛ぶのを見てる…♪』
トゥルーはジェンセンに傾きます。
「すぐ戻ってくる。トイレ休憩」
彼女は列から出ると通路の下方に向かいます。
彼女は二杯の大きな飲み物を持っている男を先に通そうと身を引き次に前にいるもう一人を中に急がせます。
「あっ、すみません」と彼女は後ろによろめいて謝ります。
彼女はその人物の顔を見上げて静止します。
「あなた」
「あら、こんにちはトゥルー。ご無沙汰ね」
キャリー・ミッシェルは胸にメモ用紙をしっかり握ってトゥルーに彼女を評価するかのように顔つきをします。
トゥルーはすぐにそわそわします。
「ねえ、ミッシェル、あたしはただここに友達と一緒に来て楽しんでるの。
 あなたの命を救ったときあたし達の間の問題は済んだはずよ」
彼女が言うと最後の人がもう少し静かに別れます。ミッシェルはわけが分からず瞬きします。
「トゥルー、早合点しないで。私はここでコンサートの取材をしてるの。覚えてると思うけど私はリポーターなの」
トゥルーは少しバツが悪そうに感じます。
ミッシェルは確かにコンサートのレビューを書いていました、そしてそれらの見出しは偶然の一致でした。
「オーケー。もしあたしの早合点なら謝るわ」
ミッシェルはうなずきます。
「私がまたあなたの事を書くチャンスがあるとすれば、トゥルー。それはしばらく後よ。
 でも私は決してあなたが私のために何をしたか忘れないわ」
トゥルーは顔を伏せます。
「あたしはただ…」
彼女は適切な言葉を捜すために言葉を切ります。
「問題ないよ」
彼女はうなずきます。
「お互いに理解しあう事は嬉しいにきまってるよ、ミッシェル」
「私もよ、トゥルー。コンサートを楽しんで。今のところ本当に良いわよ」と彼女は心から言いました。
トゥルーは薄く微笑を返してから群衆を掻き分けトイレを目指しました。
ミッシェルはトゥルーが群衆の中に姿を消すのを見ながら顔に意地悪そうな笑みを浮かべました。
数分後に、トゥルーは席に戻ります。
彼女の友人達は皆席から立ち上がり音楽に合わせて踊っています。
彼女はエイブリーの隣に入りジャックの隣に座らない事にしました。
「コンサートはどう?」と彼女が音楽の中大声で言います。
エイブリーは興奮して彼女ににっこり笑います。
「素敵よ!」
エイブリーは大声で曲に合わせて歌いながら踊ります。
トゥルーはエイブリーの着ているシャツに気がつき、ハリソンが彼女のために買ったに違いないと思いました。
エイブリーが音楽に合わせて腕を振り回すとトゥルーは糸くずがシャツの袖からぶら下がっているのに気付いて
引き抜こうと手を伸ばします。
驚いたことに単なる糸くずではなくシャツに小さな穴が開いてしまいました。
トゥルーはシャツに穴を開けた事に罪を感じてたじろぎます。
トゥルーは音楽に夢中になっているエイブリーをちらっと見ます。
トゥルーはすぐに彼女に話さないことに決めます。
「楽しい夜を台無しにする事はないよね」と彼女はつぶやきました。
『♪私の最後の息を持ちます、私自身の中に無事です、あなたの私のすべての思いです、
 それが今晩ここで終わらせる快い喜びの光…♪』
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コンサートは続き、皆は楽しい時を過ごしています。
トゥルーは少なくともこの数カ月の間初めて完全にジャックとミッシェルの事を忘れているのに気づきました。
歌の間奏の間にトゥルーはエイブリーに話しかけようと振り返ります。
するとフィッシュネットの袖にできたごく小さな穴が今や巨大になっているのを見たとき彼女は愕然としました。
「あのさ、エイブリー、あなたの袖」とトゥルーは穴を指して残念そうに言います。
エイブリーは見下ろすと息が止まり眉をひそめ大粒の涙を流しました。
彼女は狼狽して指で軽く穴に触れると袖の残りは崩れてシャツに引っかかって吊るされました。
「なんて事なの」とエイブリーは明らかに気が動転していら立った状態で言います。
彼女はハリソンに頼ります。
「ハリソン、あなたが買ってくれたシャツを見てよ、どうなってるの!」
彼女は向きを変えて彼に袖がなくなっているのを見せます。
ハリソンはきまり悪そうな表情をします。
「なんてこった…不良品だ」と彼は哀れげに語ります。
エイブリーは腕を組みます。
「ハリソン、どこでこれを買ったの?ロビーの記念品の売店じゃないでしょ?」
ハリソンはトゥルーを助けを求めちらっと見ますが彼女は『自分の事は自分でしろ』という表情をします。
彼はついに切れました。
「オーケー、外のベンダーから買ったんだよ。でもさそんなふうにバラバラになると思わなかった。
 普通その手の物は…バーゲン品と同じ品質だろ」
彼女は目に見えて苦悶の表情を浮かべ次の歌が始まると怒鳴りました。
「素晴らしいわね、ハリソン。あんたは私への価値なんか海賊版で十分だって思ってるんでしょ」
彼女は怒って頭からシャツの残骸を引き抜くと丸めて彼に投げつけました。
彼はトゥルーの脇にいるエイブリーから投げつけられたシャツを寂しそうに捕えます。
トゥルーは同情して彼女の腕に触れて何かを言おうとしましたがエイブリーはただ頭を振ります。
「心配しないでトゥルー。彼の気持ちは分かったから」
「エイブリー…」
「いいの、本当に。大丈夫。ハリソンは確かに優しい。でも本当に不器用なの」
彼女は頭を振ります。
「もう一緒にいたくないよ、トゥルー」
友人も何かを言おうとしますがエイブリーは手を振ります。
ハリソンのためなのかエイブリーはまだ楽しみたいというふりをして歌に拍手を送りショーを見ています。
トゥルーはため息をつき弟に嫌悪の目を向けます。
彼はまだ丸めたシャツをつかんだまま無気力に後を見ています。
「学習効果はないな」とトゥルーがため息と共に言います。
トゥルーは音楽のビートを聞いてその場に立つと、突然ジェンセンが彼女の肩に腕を回したのを感じました。
彼女はビクッとしちらっと見上げると彼の目には傷ついているという表情を浮かべ直ぐに悪かったなと感じます。
「ごめん、あたしの場所が狭かったから。ビックリしちゃった」
「僕は最近いつもだよ」と彼はトゥルーというよりも自分自身に言っているようです。
「えっ何?」
トゥルーは音楽の大きさに彼の言葉が聞こえず尋ねました。
「なんでもない」と彼は作り笑いを浮かべて大声で言います。
彼女はこの場の状態では難しいとは分かっていましたが彼の腕にもたれようと微笑します。
ジェンセンがゆっくりと腕を外すまでの数分間彼らは不器用にそうしていました。
トゥルーは何も考えられずにただ前をまっすぐに見ていました。
およそ30分後、バンド達がお辞儀をしてステージを出ると観衆は拍手喝采を送ります。
エイブリーはまだ気が動転しているように見えハリソンも同じでした。
デイビスは自分のライフスタイルに合ってるといわんばかりに夢中になっているように見せています。
ジェンセンはトゥルーに表情の読めない顔を向けトゥルーはただ気が散っているように見えます。
『♪あなたはどのように私の目の中に開いた扉が映るのでしょう。感覚のない私の心にあなたを誘う。
 魂のない眠った心はどこか冷たくて、あなたが見つけて帰してくれるまで…♪』
エイミー・リーは心から感情的に声を震わせて歌います。
テンポが速くなりコーラスが始まると、観衆は熱狂的に手を振り回したり一緒に歌い始めます。
『♪心を開かせて、私の心を目覚めさせて。私の名前を呼んで、そして私を暗闇から救って。
 私の血に流れるように言ってください、元通りに私をゼロから救うために、私は始める…♪』
突然トゥルーはステージの一番端の側面の上に何かを見つけます。
人影がダンダンと近づいてはっきりしてくると黒服に覆面をした人物が銃を振り回しているのが見えました。
百人ほどの観客が金切り声を上げ指差しするとみんな人影に注目します。
トゥルーは何かを言おうと口を開きましたがアリーナは銃声によって耳が聞こえない状態です。
音楽は突然に止まり、エイミー・リーが床に突然倒れ込み動かず横たわると観客は叫びます。
何人かはステージに向かいアリーナを出ようとしている者を捕まえようとする状態で、
トゥルーは皆がパニックに陥りエイブリーが悲鳴を上げているのを聞きます。
2人の警備員が覆面をかぶった攻撃者にタックルしようと試みます。
トゥルーは突然誰かが腕にぶつかったのを感じて振り返ると、発砲で気が動転しているデイビスが彼女を見つめていました。
彼はショックのためいつも以上にどもっています。
「トゥルー、俺はあそこに…い、行かなきゃ。もし彼女がまだ生きているなら、俺は助けることができる。
 俺は… い、医者じゃないが、でも助けることはできる。俺は…い、医療の資格は持ってるから」
突然誰かがボリュームのツマミを回したかのようにデイビスの声は次第に小さくなっていきました。
全ての光景が突然はっきりしなくなり混沌とした音が遠くで唸りを上げるとトゥルーは目を細めました。
突然音は止まり静寂に包まれると暗い静かな部屋の何百フィートも離れた場所のように
鮮明にエイミー・リーの動かない遺体を感じました。
突然エイミー・リーは目を開くと嘆き悲しむファンの先にいるトゥルーを見ます。
エイミー・リーの声がトゥルーの心に不気味な静寂を破って届きました。
「私を救って!」
彼女の声は一日が巻き戻すトゥルーの頭に繰り返し響きました。

トゥルーはドアのノックの音を聞くとまっすぐにベッドに座り直しました。
トゥルーは何が起きたのかはっきりさせようとして数回まばたきします。
彼女はため息をつきます。
「仕事が休みの晩はこれまでね」
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トゥルーはドアを開けるために早足でドアまで行きます。
弟の言葉をうわの空で開いていると彼は無視されたと思い興奮してチケットを振り回しました。
「姉さん、今晩の予定はキャンセルした方がいい。俺がセンチュリーイベントのチケットを手にいれたんだ」
彼が継続する前に彼女は手の平を彼に向け黙らせました。
「ハリー、もう話さなくていいよ。前にそれ聞いた」と彼女は疲労した様子で言います。
「言わないで、例の日だろ」
「そうよ。昨日あたし達はコンサートに行った、そしてエイミー・リーはアンコールの途中で撃たの」
トゥルーは寝室に急いでクロゼットから着る物を捜しています。
彼女は多くの問題を抱えていることが分かっています、そして何より早く始めればそれだけもっと簡単になります。
「そんなぁ」とハリソンは信じられなくて言います。
「そうなの」とトゥルーが言います。
「あたしは全てを見てた。奇妙ではっきりしない事が起きたの、彼女は助けを求めた、だからここにいるの」
ハリソンはチケットを持つ手に力が入らず黙ったまま狼狽してそこに立っています。
「聞いてくれよ、姉さん。どこに行っても死とカオスが姉さんにつきまとう」
「信じて、あたしは分かってるから」と彼女は頭を振りながら言います。
「ちょっとハリー、もう行かないといけないから、今日、あんたの携帯の電源を入れたままにしておいてよ。
 手助けしてもらうかもしれないから」
「チケットはどうするんだい?まだ行くの?」ハリソンは疲れきった表情で言います。
トゥルーは真剣な眼差しでうなずきます。
「行くよ。三枚チケットをちょうだい」と彼女は彼の手から三枚抜いて言います。
彼は混乱しながら彼女を見つめます。
「三枚って?」
「あたしとジェンセンとデイビス。今回はデイビスに話して、着ていくものをちゃんとさせないと」彼女はたじろいで言います。
彼女は向きを変えるとドアに向かって歩こうとしましたが突然に止まって、
「それからハリー。今回はあんたとエイブリーのチケットを忘れないように。会場で落ち合うわ」
彼女は再びためらいました。
「それからもう一つ。もしエイブリーに何かをプレゼントするなら安物の海賊版なんか買わない事。
 彼女は年上だよ、それに昨日のあんたの顔にはまったく腹がたった」
「分かった、絶対にしない」と彼は断固として言います。
彼女は彼を見つめます。
「オーケー、オーケー。本物の記念品にするよ」
彼女は彼に笑顔をちらりと向けます。
「いいわ。後で連絡する。今はどうやって有名人を護るべきか考えなきゃならないから」
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「それでもう一度確認させてくれ。昨日俺らはコンサートに行った、そしてリードボーカルが撃ち殺された」
デイビスはオフィスの中を行ったり来たりしながら言います。
「そうよ」とトゥルーはコンピュータの前に座って言います。
彼女はサーチ・エンジンに行くと『エイミー・リー』とタイプします。
「何をしてるんだい」と彼は肩越しに見て尋ねます。
「犠牲者についての情報を知りたいんだよ。元々大ファンってわけじゃないから彼女の背後関係なんか知らないの。
 今回はどこから始めてどんなふうに彼女に警告するにはどこならしやすいのか」と彼女が説明します。
「そうだな、彼女は警備員ぐらい雇ってるだろう。
 彼女が有名人であるという事は仕事がより難しくなるな、トゥルー」とデイビスが心配している調子で言います。
「分かってるよ。でも彼女を救わなければならないの。
 デイビス、あれはとっても奇妙だった。彼女は舞台に横たわって死んでいた。それから突然彼女はあたしを見た。
 その場所には何千という他の人がいたのに彼女はまっすぐにあたしを見て助けを求めたんだよ」
トゥルーは心の中からイメージを振り払いました。
「彼女をがっかりさせる事はできない」
彼女は彼に背を向けましたがデイビスはうなずきます。
「ジャックについても考えておかないとならないな」
トゥルーは突然うなります。
「ジャック!すっかり忘れてた。昨日あいつはあたしの隣りに座っていたんだ。
 ハリソンに言ってこのチケットを変えてもらうようにする必要があるわ。
 あたしが2フィートぐらい離れて座ってないと、あいつが死神の活動を阻止する事はもっと難しくなる。」
「ジャックは昨日そこで何をしていたんだ?」デイビスは混乱して尋ねます。
「見た目はただ音楽を楽しんでたけど。あいつは今晩大いに楽しむつもりなんだと思う」と気味悪く言います。
彼女はWebページをスクロールします。
「オーケー、さあいくよ…」と彼女は大声でキーポイントを要約しながら読み取ります。
彼女がページの下の方にざっと読むと
「エイミー・リー、24歳、エヴァネッセンスのボーカリストとソングライター。
 2003年に2つのグラミー賞を取って…デビューアルバムFallenのリリースと一緒にオーバーナイトの成功をした…」
「ごく普通の幼年時代のようね。カリフォルニアで生まれて、高校時代に活動を始めて活躍して大学を卒業した。
 まあ、エイミーが6歳のとき妹が亡くなった」
トゥルーは歌手への同情の苦痛を感じました。
彼女は幼い頃に愛した誰かを失うことがどん事なのか知っていたから。
「だがそれは今回の殺人に対する動機にはならない」とデイビスが言います。
「こう言うのは酷だがトゥルー、しかし誰が彼女を殺そうと思っているのか見つけだす唯一の方法は…」
「彼女の個人情報は手にいてた。でも言う事は易しいけど実際は難しい」
トゥルーはログオフするとコートを身につけて立ち上がります。
「まああたしが彼女を見つけに行く方が手っ取り早いわ。
 彼らが町に来たときは大抵住宅街の大きなローヤル・ホテルに泊まってる。そこに行ってみるよ」
デイビスはうなずきます。
「君が何かを思いつくのは信じてるよ。俺に何かできることがあったら言ってくれ」
トゥルーは彼に3枚のチケットを手渡します。
「はい。ハリソンに電話をして可能な限りジャックから遠くの席になるようにどうにかして交換するようにさせて。
 どんな手を使っても気にしないけど、確実にして」
デイビスは一瞬止まり顔にうれしそうな表情を浮かべます。
「これは良い感じだ。再びチームとして一緒に働けるなんて」
彼女は暖かく微笑します。
「そうね。あたしは後からいくから」
彼女は立ち去ろうと振り返ってドアの前まで来ると突然デイビスに向き直りました。
「それからあのー、デイビス?あなたが今晩コンサートのための服を選ぶときさ…あんまり一生懸命にならないで」
デイビスはたじろぎます。
「えっ、何。俺は何を着ていったんだい?革の服かい?」
彼女の目はそのイメージに丸くなります。
「うーん、そんなに悪くはないんだけど。絞り染め」
「なんと」とデイビスは少し赤面して言います。
「じゃあ、俺は何を着ていけばいいと思う?」
彼女は肩をすくめます。
「分からないよ。いつもの普段着でいいんじゃない。もう行かなきゃ、また後でデイビス!」
彼女は向きを変えてデイビスに何を言ったか考えないまま玄関の方に急ぎます。
「まあ少なくとも革じゃないようだ」彼はひと呼吸おきます。
「それともスパンデックスか(訳注:レオタードのような物)…」
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トゥルーは豪華なローヤルホテルのロビーに入ります。
豪華なカーペットが床を覆い、革のソファがロビーを満たし、クリスタルのシャンデリアが天井を飾っています。
一部の金持ちだけがここの部屋に宿泊する余裕があることはかなり明白です。
トゥルーは次にどう動こうかとその場所を観察します。
ロビーは何人かの人とカウンターの後ろにいる一人の従業員がいるだけで比較的空いています。
彼女は計画を実行するために鉢植えの後ろに隠れます。
ホテル宛ての荷物の箱が玄関に山積みされているのを見つけると彼女は決心します。
彼女は一番上のボックスを選ぶと誰にも見えないようにラベルが自分に向くように回します。
彼女は素早く髪を手グシで梳かすとほとんどプロと見間違うほどの微笑を顔一面に表します。
彼女はフロントに向かって大またで近づきます。
「お預かりしましょうか?」とデスクの後ろの若いボーイが親切心で尋ねます。
彼女は内緒話しをするかのように中に寄りかかってうなずきます。
「エイミー・リーの荷物を持ってきたんだけど。
 今晩のショーの準備のために必要な物なんだ。分かる?ショーの前に使う形式的なものなんだ」
彼は疑い深く眉をひそめます。
「あなたは正式な許可証を持ってるの?」
それはエイミーがここに泊まっている事の確認ができました。
トゥルーはにっこり笑います。
「ええ、もちろんよ。
 でも残念な事にコンサート会場の控え室に置いてきちゃったの、そこで準備の手伝をしてるんだ」
彼女は心配そうな顔つきに見せようとして唇をかみます。
「私はエイミーのマネージャーのアシスタントなの、もし私がこれを彼女に渡さないとクビになるの。
 私が許可証を忘れた上に一時間も遅れてて、
 でも部屋に通してくれたら十分にクビにならないチャンスがあるかもしれないんだ」
彼女は話を止めエイミーと同じぐらいキュートで頼りなさそうに見せようとしました。
ボーイは確認するように彼女を見ると次にロビーをざっと見回します。
「まあ僕のせいで仕事をクビになるのは寝覚めが悪いな」
彼は前に寄りかかります。
「614号室だ。エレベーターで上がって左手の最初の部屋だ」
彼女は彼にほほえみます。
「どうもありがとうございます!クビがつながるわ」
ボーイの気が変わらないうちに彼女はエレベーターに急ぎました。
ドアが閉まった途端に彼女の心は急かせます。
「オーケー、彼女の部屋は分かったけど、彼女にどんなふう話をしたらいいのか?」とつぶやきました。
エレベーターが六階に止まると彼女は箱を後に残して外に出ました。
彼女は廊下の端から見渡すとメイドカートを見つけました。
誰も見ていない事を確かめるとそこまできびきびと歩きます。
ドアの開いている部屋の中から掃除機の音が聞こえてきました。
素早くカートを調べるとホテルのロゴの入ったペンとクリップボードをつかみ廊下の方に急いで戻りました。
彼女は紙に何が書いてあるのかはっきりさせようと反転させると掃除する部屋の図表でした。
614号室のドアの前で彼女は落ち着くためにひと呼吸おいてからノックをしました。
数秒後のドアが開き背が高く短く刈り込まれ茶色の髪をした普通の女性が
ベッコウ眼鏡と茶色のパンツスーツを身に着けて出てきました。
「何か用?」と彼女は少しうんざりしたように尋ねます。
トゥルーは一番の笑顔をします。
「どうも、こんにちは!私はこのホテルの接客担当をしてますリンジー・デイビーズと申します。
 我々はリー様にご不便をかけていないかのご確認のために参ったのですが」
女性は気短かにうなずきます。
「そう、あたしはリーのマネージャーよ。彼女は誰にも会わないと思うけど。
 もし部屋に問題があるなら誰かに言うわよ」
トゥルーが本命のエイミーを確認する前に彼女はドアを閉じ始めます、しかし突然特徴のある声が聞こえてきました。
「アン、誰が来たの?」
トゥルーは閉じる前にドアを押さえ中を覗くとジーンズと黒い上着を着た虚ろな表情のエイミー・リーがそこに立っていました。
「ただのホテルの従業員よ」とアンが言います、しかしトゥルーは既にドアを開け若い歌手と目を合わせるチャンスをつかみました。
「どうも、こんにちは、リー様。
 私はここで少し質問をさせていただいてローヤル・ホテルのご感想を伺いたいのですが?」
トゥルーは部屋の中に踏み出して言います。
エイミーは一瞬考えアンの方に向きます。
「いいわよ、アン。気を紛らせる事ができるわ」
「でも…」と彼女のマネージャーは反対します。
「今晩のためにあれをチェックしに行ってきてよ?」
エイミーの目がアンを見据えてきつく言います。
トゥルーが感謝の意を示す前にアンは全く読む事ができない表情で彼女を凝視します。
「オーケー。少しの間だけよ」
アンは数秒エイミーを見据えると向きを変えてスイートの他の部屋のドアから急いで出て行きました。
エイミーは二人っきりになると礼儀正しくトゥルーを見ます。
「それでどんな事を聞きたいのかしら?」
トゥルーはクリップボードを持っている腕を下ろして深呼吸をします。
「あの、エイミー…エイミーって呼んでもいい?」
「ええ、もちろんよ」と彼女が言います。
トゥルーはうなずきます。
「あの、この部屋の事で来たんじゃないの、でも安全性というのは本当よ。
 真剣にゲストの話を聞いて身の安全を知って欲しいの」
彼女は眉を上げます。
「なんか変な質問ね」
トゥルーはエイミーをあまり怖がらせないように言葉を選んで警告しようと頭を回転させます。
「私達はいつものセキュリティ基準を高める理由がない事を知っていて欲しいの。
 あなたはそのぉ…ちょっとおかしなファンだとかあなたに恨みがあるような人の心当たりはないかしら?」
驚いたことにエイミーは大笑いしました。
「あなた私にストーカーがいるかって聞いてるの?」
「ええ、早く言えば」とトゥルーは認めます。
エイミーはまだ笑いながら頭を振ります。
「いいえ。本当に私のファンは全員すごく優しいわ。それに今までの経験上ここは素晴らしわ。
 ちょっと…私好みのおしゃれじゃないけど、でも全て良いわ」
トゥルーは喜んで話題の変更を歓迎します。
「おしゃれなホテルの方が好なの?」
「ううん。勘違いしないで。私は自分の音楽とおんなじで普通の小さなモーテルでも最高に幸せよ。
 でもアンは絶対受け入れてくれないの。彼女はスターはスターらしくが心情なのよ」
トゥルーはその話題を取り上げます。
「でも私はアンがあなたに期待してるんだと思うわ。彼女はどれぐらいマネージャーをしてるの?」
「ほとんど最初からね。最初のアルバムが発表される前からずっとよ。
 私は彼女に人生を預けてるの」とエイミーが言います。
「時々意見が合わないけど、それだけの事よ」
その時アンは堅苦しく歩いて部屋の中に戻って来ました。
彼女はエイミーとトゥルーを見ます。
「すみませんデイビーズさん、エイミーは今晩ショーがあるから体を休ませる必要があるのよ。よろしいかしら?」
トゥルーはうなずきます。
「ええ、私もそう思うわ。時間を裂いていただいてありがとうございます。
 もし問題や要望があれば私に必ずお知らせください」
エイミーは彼女にほほ笑みます。
「ありがとう。そうするわ」
アンはただ気短かに見つめます。
トゥルーは外に出ると後ろ手にドアを閉じますが少し隙間を開けておきました。
彼女はスイートルームの中を窺おうとして少しの間残っています。
「ちゃんと処理してきた?」
エイミーは冷淡にに尋ねます。
「ええ。でも理解できないわ。なんでショーをキャンセルしないの?」アンは絶望的に言います。
「ダメよ。分かってるでしょ、ショーはやらなきゃならないの」
間があり、
「全ての準備は確実よね、私を信じて?」
「ええ、でもやっぱり私には理解できない」とアンが異議を唱えます。
その時点でトゥルーはメイドが廊下の端の方の部屋から出てきてこちらに来るのを見ました。
彼女はエレベーターの前に戻り今聞いた事を記憶に留める以外にありませんでした。
一旦ホテルの外に出ると彼女はデイビスに電話をします。
「それでホテルから後どうするんだい?」と彼が尋ねます。
「分からないよ。エイミーと彼女のマネージャーに会う事はできた。
 それに何らかの秘密があるみたい。今晩のショーで何かが起きる事を知ってるよに思えるんだ。
 マネージャーはエイミーにキャンセルさせようとしたんだけどエイミーは本当に落ち着いていてショーをやるって言い張ってた」
トゥルーはため息と共に言います。
「多分エイミーは誰かが彼女の命を奪う事を警告されて知ってる、だが彼女はそう思ってない」とデイビスは間をおいて言います。
「その可能性はあるわ。でもそれを見つけだす事ができるかどうか分からない。とにかくショーは数時間後。
 あたし達が着いたらすぐに楽屋に行って犯人を止める事に集中しなくちゃ」
彼女は決意して顎を締めます。
「今回はアンコール曲を思い出して間違わないようにしないと」
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「すまない、姉さん、売り切れたコンサートのチケットを五枚も交換するのは簡単じゃないんだ」とハリソンは尖った声で言います。
「なんで席を交換したいのか説明してよ」
五人は会場の外に立っていてエイブリーは訳が分からず尋ねました。
「別の場所の席からの方がもっと良い眺めだって耳にしたから」とトゥルーは嘘をつきます。
「ほら、中に入れば分かるから。多分誰かと席を交換できると思うよ」
彼女は肩越しに観客が中に入り始めているのを見ます。
「中に入らないのかい」
トゥルーとデイビスは他の仲間の後に続いて入口に向かい始めます。
「俺はどうだい?」デイビスはつぶやきます。
トゥルーは注意をそらされて目を瞬きします。
「何がどうなの?」
「服装だよ!」と彼が神経質に言います。
彼女は彼の極シンプルな普通のポロシャツと黒いスラックスを見て思わずニヤッとしてしまいました。
「とっても素敵だよ。それでさ、今晩はあなたの手助けが必要だよ。
 ハリソンはジェンセンとエイブリーの注意をそらそうとしてくれるわ。
 本当にここにいて欲しくないんだけど。
 でもあたしがいなくなっている事に気付かなけりゃ十分だよ」
「俺は何をしたらいい?」デイビスは尋ねます。
「ジャックを見張ってて。それとミッシェル・キャリーも」とトゥルーが付け加えます。
「ミッシェル・キャリー?リポーターの?彼女が来てるのか?」デイビスは信じられなくて尋ねます。
「ええ、彼女は昨日ここにいた。彼女はただコンサートの記事を書いているって言ってた。
 その事は信じるけど今晩は違うわ。彼女にこれ以上のスクープは与えられない」
「分かったやってみるよ」とデイビスは入口に近づくと言います。
「計画はあるのかい?」
彼女はおどおどして彼を見ます。
「舞台裏に潜り込んで犯人を止める事を計画っていえるかな?」
彼はため息をつきます。
「抗議をしたいところだが今まで君がそうやってこなしてきた事を知ってる。
 その上こんな厳しい状況下で君の取るべき方法はあまりないしな。
 エイミー・リーの死を望んでいる者の名前も分からないんじゃ」
「本当だよ。唯一の問題は楽屋に入り込む事とジャックを避ける事。
 おそらくあいつは犯人に余分の弾薬を渡しに来ると思う」と彼女はチケットを手渡して回転ドアくぐりながら怒って言います。
「犯人が男かあるいは女か分かるか?」
デイビスはトゥルーと一緒に歩きながら小声で言います。
彼女は頭を振ります。
「全身黒ずくめで覆面してたし、それに暗くて遠くにいたから。どっちか分からない」
ジェンセンは歩くスピードを落とすとトゥルーにほほ笑んで追いつくのを待ちます。
「こんな人ごみの中じゃ君を見失っちゃうよ」
彼女は彼にほほ笑みます。
「心配ないよ。ここにいるから」
五人は人ごみの中を歩きながらトゥルーは都合のいい座る席を捜します。
彼女はその時がきたらさっと動くことができるステージに近い場所を探します。しかもジャックに近くない場所。
彼女はちょうどいいと思う席に座っている大学生のグループを見つけます。
他の人達に待っているよう合図して彼女は大学生のグループのところへ階段を駆け登ります。
「どうも、こんにちは、あたし友達と一緒にいるんだけどあなた達の席とあたし達の席を交換して欲しいと思って。
 あなた達五人がでしょ、あたし達も五人なんだ」とトゥルーが陽気に言います。
男の一人が変なものを見るように彼女を見つめます。
「なんで俺達が席を交換しなきゃならないんだ?」
「まあ、あたし達の席の方がどちらかと言えばもうちょっとましかな、ステージのすぐ前の十五列目なんだけど。
 でもさ今日来てみたら嫌な奴が同じ列に座ってるって分かってさ、多少見づらくても他の席の方がましなんだ」とトゥルーは説明します。
彼らは顔を見合わせます。
「なるほど、あんたが俺達を何かだましていないとすればだけど」ともう一人の男が笑いながら言います。
「違うわ。ほらここにチケットの半券があるから」とトゥルーは調べさせるためにチケットを渡しながら言います。
大学生達はチケットを確認すると立ち上がって自分達の私物を片付け始めます。
「ありがとう、でいいんだよね」とグループの中の少女の一人が言います。
「気にしないで」とトゥルーは一つの問題が解決された事に安心して言います。
数分後にトゥルー、ジェンセン、エイブリーとデイビスは新しい席に落ち着きました。
ハリソンはどこかに行っていていません。ジェンセンはトゥルーの次に座ります。
「ここが良い席かい?」と彼は声のトーンが皮肉っぽく尋ねます。
「ええ、そうよ」とトゥルーは彼を中途半端に見て言います。
「僕は腕を君の肩に回したいんだけどわきまえているよ」
トゥルーは彼の言い回しに苦しんで止まりました。
「何でそう思うの?」と彼女が不安そうに尋ねます。
「特に理由はないよ」と彼は無表情に言います。
ハリソンは何かを隠し持って席に戻り、エイブリーの隣に座ります。
「ちょっとエイブリー、俺は今夜を特別にするために君にプレゼントをしたいんだ」
彼は背中にツアーの日付が入った黒いエヴァネッセンスのTシャツを渡します。
彼女は息をのみます。
「まあ、ハリソン、私それが好きなの! なんて優しいの」
彼女は彼にキスをしました。
トゥルーはジェンセンから気を散らせる行為に感謝して、
ハリソンが彼女のアドバイス通り今回はシャツが海賊版のフィッシュネットでない事を見てうれしくなりました。
トゥルーはハリソンに『オーケー』の顔つきをすると、エイブリーが微笑んで新しいシャツを着たときに彼は彼女にウインクで返しました。
ライトが落ちると観客は声援を上げます。
トゥルーはデイビスにささやきました。
「ジャックはどうしてる?」
「いや、奴は君が言った場所に座っていなかったよ」とデイビスが小さな声で言います。
トゥルーは不安を感じます。
「今晩変えなきゃならない唯一のことじゃないけど」
ネオンライトが光り始めるとバンドの人影がステージに浮かび上がり観客は歓声を上げます。
トゥルーは前回ハリソンが犯したミスのために外で待っていた事を思い出し今回は観客と一緒に立ち上がりました。
エイミー・リーが冒頭を歌いだすとスポットライトは彼女の上に輝きます。
『♪今私はあなたのために五万の涙を流した事を言うわ。
 あなたのために叫び、騙し、血を流した事を聞いてはくれない。
 私以外これほどこの時にあなたの手を借りたくない、多分私は一度だけ目を覚ますでしょう。
 悩まなかった日々もあなたによって破られ、私はもうドン底と思ったその時再び死にかけています。
 私はあなたに落ちて溺れかけてるわ、永遠に落ちています。
 私は現れなければなりません!私は沈んでいくの…』
トゥルーはエイミー・リーに特別な注意を払い今回は絶対に負けないと心から誓います。
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ジェンセンはコンサート会場の男性トイレにルームに入ります。
人影がありましたが明るい照明の中に入るまで視界には入っていませんでした。
「やあジェンセン。こんなところで会うなんて奇遇だな」とジャックハーパーが機嫌よく言います。
ジェンセンは少し興味深そうに彼を見つめます。
「またあんたか、僕とトゥルーのいるところ必ずあんたがいるのはどうしてなんだい?」
ジャックは肩をすくめます。
「世間は狭いって事かな」
彼はひと呼吸おきます。
「ジェンセン、楽しそうじゃないね。何か悪い事でも?人間関係かな?」
ジェンセンは眉をひそめて口を開きかけますがジャックはさえぎります。
「トゥルーの事じゃないか?なら君に教えておこう」
ジャックは頭を振って言います。
「俺は君と彼女がうまく行く事を望んでるんだが…」
「何か僕等とは関係のない仕事の事を話してるように聞こえるよ。一体何の話なんだい?」
ジェンセンはすべてを疑ってることは素晴らしいです。
「まあ俺は少し前から今までのトゥルーを知ってる。
 そして彼女が秘密を持ち明かさない事で彼女に近寄った男達をは離れて行った」とジャックが言います。
「トゥルーの周りには良くないことが起きるんだ」
二人の男達の間になんともいえない静寂の一瞬があります。
「君の後ろを見るんだな」とジャックは意味ありげな言葉と顔つきをしてトイレから出て行きました。
ジェンセンはあっけにとられた表情をしてそこに立ち尽くしていました。
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数分後にジェンセンが席に戻るとトゥルーは彼に近づきます。
「ずいぶん長かったじゃない」
彼はただ肩をすくめます。
「混んでたんだ」と彼は素っ気無く言います。
コンサートは何の事件もなく続いています。
トゥルーは目を皿のようにしてジャックを探しますが席を交換した大学生の隣の席は空のままです。
ある時トゥルーはミッシェルがしゃがみこんでメモをとったり写真を撮っているのを見つけます。
『My Last Breath(私の最後の息)』の前奏が劇場を満たすとトゥルーはデイビスに顔で合図を送りゆっくりと立ち上がります。
デイビスは無言で彼女にこの場からいなくなる事を了解して元気づけるようにうなずきます。
彼女は自分に注目されないように観客の間を中腰でゆっくりと移動します。
彼女がステージの右隣に来ると計画を実行に移すためにその場所を観察します。
彼女は必要であれば段階を登って行く事ができたが、既に犯人が下から上がってきていてバンドの後ろにいました。
彼女は段階の周りのサークルの中をゆっくりと歩きます。
「イベントセキュリティ」と書かれた黄色のシャツを着たがっしりした男達が
熱狂したファンが近づく事を阻止するためステージを囲んでいます。
ついに彼女は一人の警備員の後ろにノーマークのドアを見つけます。
少し考えて彼女はできるだけオロオロした感じをだしながら警備員に急いで近づきました。
「すいません、あたしあそこにいるが男の人がチケットもないのにここに入った事を話しているのを聞いちゃったんだけど」
トゥルーは観客の左の方を漠然と指さして言います。
「どの男だ?」と警備員が荒々しく尋ねます。
「服装は、えーと、青いシャツとジーンズよ」彼女はもっともらしく言ます。
警備員は頷くと彼女が指し示した方向にしかめっ面をして大またで歩いていきました。
警備員が行くとすぐに彼女はそっとドアへ向かい開ける前にたまたま観客の中で
青いシャツにジーンズを着ている可哀想な男に謝ります。
ありがたいことにドアには錠がかかっていません。ドアの中に入るとしっかりドアを閉じました。
彼女は長い廊下の両壁にラベルが貼られたドアが並んでいるのを見つけました。
遠くで忙しそうに動いている人達の音が聞こえてきます。
彼女はドアの上のサインを確認しながら廊下をゆっくりと歩きます。
ドレッシングルーム、メンテナンス室、保管庫。
廊下の端まで来ると何かが動く気配を感じ驚いて後ろに下がりコーナーの方を覗き見しました。
それはステージの下にある大きな奈落の底でした。
十人以上のスタッフがヘッドホンをかけクリップボードを持ち舞台の特殊効果等の調整をして忙しそうに動いています。
彼らの多くはお互いに指示を出し合っています。
「ライトを切り替えて!」
「誰かサウンドパネルをチェックして!」
彼女は辺りを見回しますが階段や隠しドアの類は見当たりません。
『Everybody's Fool』の前奏を聞くと彼女はアンコールが近づいてきた事を悟ります。
彼女は踏み出し誰かに行きたい場所へ案内してもらうため行動に移しました。
「三十番の衣装にチェンジだ」とクリップボードとヘッドホンを持った一人の男が
トゥルーの前を壁の一部でもあるかのように通り過ぎて行きました。
何人かがこの場所から急いで出て行くとトゥルーはできるだけ目立たないように後に続きます。
何人かのグループが角を曲がるとステージの奈落の真向かいに印がないドアに入って行くのが見えました。
別のドアが開くとエイミー・リーがステージからの階段を降りて息を切らして来るところでした。
五人の女性衣装係がエイミーの衣装を脱がせると新しい衣装を瞬く間に彼女に着せていきます。
そして別のスタッフが彼女に水のボトルを渡すと一気に飲み干し、次の歌の前奏が始まると向きを変え再び階段の先頭に立ちました。
トゥルーはこの曲がアンコールの前だと認識します。
彼女は部屋から忙しそうに動きまわりお互いに叫びあっているスタッフが出て行くのを待ちますが、
彼女はステージへの道を見つけた今これ以上気にしていられません。
彼女は部屋の中に入り角に立って自然を装います。
誰も見ていないのを見計らって深呼吸をすると黒いドアを開けます。
内開きのドアの中に素早く入ると直ぐにドアを閉じます。
彼女が見上げると声援を送っているファンを見て少し驚きます。
彼女はステージの少し窪んだ場所に出た事が分かり、
段々とステージに近づいて行くにしたがってロックミュージックの音が今までより物凄く大きく聞こえてきました。
彼女はその場所を調べると黄色いイベントセキュリティのシャツを着ている一人の警備員が彼女に背を向けて
階段の最上部に立っているだけで怪しい人物は見かけません。
「ここから出る事ができないな」とトゥルーはつぶやきます。
「何もなきゃいいけど」
昨日の犯人はステージから出てきたように思え、犯人達は彼女がちょうど通って来たドアから出て来たに違いありません。
彼女は犯人の通過を阻止する良い場所に陣取ったという自信でうなずきました。
彼女はドアを確認すると片側には鍵が掛かっていませんでした。
突然歌は終わり観客は声援を送ります。
トゥルーが見上げるとエイミー・リーが手を振り、バンドのメンバーが彼女に真っすぐ向かっていくのが見えました。
「シュート」と彼女が速く叫びます。
彼女はアンコールの前だということを完全に忘れていました。
エイミーとバンドは舞台裏にもう一度戻ります。
狭いスペースのため彼らがトゥルーと鉢合わせするのは必至です。
彼女は直ぐに考え階段の中央まで上がって頭を下げます。
バンドが急いで来ると彼女は決して目を合わせずに後方支援の手伝いをするスタッフのふりをして手で彼らに合図して進ませます。
ありがたいことに彼らは何も言わずに彼女を通り越してドアを抜けていきました。
安堵のため息をつくと彼女は警備員をやり過ごす事ができれば
犯人の妨害まで階段の近くの大きいスピーカーの後ろに隠れていられると思い階段を登ります。
彼女は警備員に近づき通り過ぎるときスタッフと思わせるために「失礼します」と言います。
しかし力強く彼女の肘はつかまれ驚いて向きを変えます。
ジャック・ハーパーが怖い顔をしてまっすぐに彼女の顔を見つめているました。
「あんたは!」と彼女はうろたえて言います。
「あたしが間違ってた。あんたが席にいなかったのは警備員のふりをしていたからね。いいアイディアだわ」
と彼女は嫌悪感たっぷりの声で言います。
「トゥルー、君の行き場所はどこだい?」と彼は凄みを帯びた声で言います。
「自分の席でおとなしくショーを楽しんだらどうだい」
「あたしがそんな事しないって分かってるくせに」と彼女は非難します。
「そこのステージで殺人が起ころうとしてる、もしそれがあたしの最後の仕事になってもそれを止めるわ」
彼らはお互い睨み会い下のドアが開きバンドがステージに戻ろうとしても彼はまだ動かないでいました。
『Me To Life』の前奏が始まるとトゥルーは事件が後数秒で起きてしまう事を知ります。
ジャックはトゥルーのもう片方の腕をつかむと彼女はもがきますがスピーカーの後ろの階段から彼女を引きずって行きます。
完全にバンドと同じように観客から見えない状態になります。
『♪あなたはどのように私の目の中に開いた扉が映るのでしょう。感覚のない私の心にあなたを誘う。
 魂のない眠った心はどこか冷たくて、あなたが見つけて帰してくれるまで…♪』
「くそっ!ジャック、何でいつも邪魔をするの?」
「運命だよ、トゥルー」と彼は厳しく言います。
『♪心を開かせて、私の心を目覚めさせて。私の名前を呼んで、そして私を暗闇から救って。…♪』
突然トゥルーは必死に膝蹴りをジャックに入れると痛みのため彼女を放してしまい彼女はすり抜けて行きました。
彼女は荒々しく疾走してステージドアのすき間から階段を登り始めている覆面をした人影を見ます。
犯人は彼女が走って来るのを見ると少し立ち止まりました。
トゥルーは犯人にタックルし床に倒れた犯人の銃をつかみます。
『♪私の血に流れるように言ってください、元通りに私をゼロから救うために、私は始める…♪』
観客はステージ上の騒動に注目し始めると遠くで絶叫が聞こえます。
彼女はついに犯人を床に組み伏せるとステージの向こう側の見えない床の上で銃がカタカタ音を立てていました。
勝ち誇ったトゥルーは犯人の被っている黒い覆面を剥ぎ取り顔を見るや否や驚いて口を開けてしまいました。
「アン?」彼女は取り乱し信じられないという表情で声を上げました。
トゥルーは話をしようと口を開きかけましたが銃声が雷鳴のように空気を引き裂きました。
彼女は恐怖で向きを変えるとジャックは無表情で階段の踊り場にいて銃を持ち煙が出ていました。
恐る恐る彼女はジャックの見ているエイミー・リーを見ます。
エイミーはジャックに正面を向けて立ち、彼女は胃の辺りに薄く滲んでいる銃傷に触れると膝から崩れ落ちました。
「イヤー!」
歌手が地面に倒れるとトゥルーは悲鳴を上げます。
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トゥルーはエイミーに駆け寄りますが足が鉛のように重く感じます。
彼女はエイミーの頭を抱き起こします。
「エイミー、エイミー!私が分かる?お願い目を開けて、お願いよ!」
トゥルーは何か出血を止めるために辺りを見回すと彼らの使う汗拭きの小さな白いタオルを掴みました。
どんどんと広がる出血箇所をタオルで強く圧迫します。
エイミーは口をパクパクさせ目はショックで痙攣します。
「誰か救急車を呼んで!」トゥルーは叫びます。
トゥルーはエイミーの隣にかがみこみ彼女の顔に掛かった長い後ろ髪かきあげます。
「大丈夫だよ、あたしがついてる」と彼女は懇願します。
一方、悲鳴を上げている混乱したファンの間から、倒れたエイミーとその脇でかがんでいるトゥルーに向けてフラッシュがたかれました。
カメラがゆっくりと退くとミッシェル・キャリーが意地悪くニヤッと笑いました。
「見たわよ」
段階に戻ってトゥルーはジャックが立っていた場所を肩越しに見るともう彼の姿はなくなっていました。
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コンサートホールの外の階段にトゥルー座って、警察の警備員、とまどっているファン、
今何マイルも離れている救急車の赤色灯を眺めていました。
デイビスが彼女の隣にきました。
「ハリソンとジェンセンとエイブリーに家に帰るように言っといた」と彼は静かに言います。
「君の事情聴取が終わるまで、俺は待ってるから」
彼女は感謝して微笑します。
「ありがとう、デイビス」
「トゥルー、現場で何があったんだ?俺らはかなり遠くにいたんだが、ジャックが…見えた気がした?」
彼の声は段々と小さくなっていきました。
彼女は無意識にうなずきます。
「一瞬のことだった。犯人は…実は女性が階段の上に来たんだ。
 あたしは彼女を止めた、銃は見えないところに転がっていった。
 そしてそのすぐ後にジャックは彼女を撃っていた」
彼女はゆっくりと頭を振ります。
「あいつは何の制限もないんだよ、デイビス。
 あいつはたとえ自分自身で彼らを殺さなければならないとしても、
 犠牲者が死ぬことを確認するためには手段を選ばなくなってる」
「ああ俺らはいつもジャックの非常にしつこい事は知っていた。
 だが今回は、奴の事とはいえ最低だ」とデイビスが認めます。
「奴がどこに行ったか分かるかい?」
トゥルーは頭を振ります。
「エイミーはどう?」
デイビスは促します。
「EMT(救命士)は助かるだろうって言ってた。彼女は出血多量だよ、
 でも彼らはジャックのひどい仕打ちとあたしの速い処置で、彼女は助かるべきだって言ったんだ」
トゥルーは自分が情けなくて笑います。
「もしあたしがもう少し速く行動してたら、彼女は撃たれなかったのに。
 それにまだエイミーのマネージャーがなぜ彼女を撃ったのか分からない。
 聞く前に警察が彼女を連行していったから」
「いやトゥルー、君には責任はない。君はベストを尽くしたんだ」とデイビスは強く励まします。
「何でジャックがいつもあたしより二歩も先にリードしてるのか分からない。
 あたしが舞台裏で四苦八苦してる時に、あいつは警備員のユニフォームを着て我が物顔で振る舞ってる。
 あいつがどのように情報を手に入れてるのかわからないし、
 いつも内部に入り込む事に成功してる、危険を伴ってでも。
 今晩は負けるんじゃないかと思った。
 もしジャックがこんなに卑劣な手を使わなかったら、あたしは負けてた」
「トゥルー、全ての犠牲者、全ての巻き戻しは君の学習経験だ。
 君はすでにジャックの動きを予測し始めた、そしてほとんどいつも成功してるじゃないか」とデイビスが強く主張します。
彼女は彼を見るために振り返ります。
「ほとんどじゃダメなんだよ。あたしが救えなかった人達はどうなの?どうなのよ?
 彼らは死ぬはずじゃなかった。でも彼らは死んだ、なぜならあたしに彼らを救う力が足りなかったから」
デイビスは言葉に窮し彼女の横に座ると、彼女は晴れわたった夜空をまっすぐに見ました。
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ジャックはまだ黄色のセキュリティシャツを着て虚ろな表情をしながらリチャード・デイビーズのオフィスに入ります。
彼はズボンのベルト部に手を伸ばすとまだ暖かい銃を引き抜きリチャードの机に置きます。
「これは処分する必要がある」と彼は乾いた声で言います。
リチャードは期待するように彼を見ます。
「机の上にはまだ煙が出ている銃があるが、
 病院の看護師は私にエイミー・リーはまだ安心はできないが完全に回復の見込みがあると言っていたぞ」
「俺は射撃のプロじゃない」と彼は直ぐに反撃します。
「もしあんたの娘が干渉しなかったら、俺が銃を撃つことはなかった」
リチャードは椅子にもたれて座ります。
「それとこれは関係がない、ジャック。
 自然の摂理がもう一度繰り返す事を保証する完ぺきな機会を得たという事実は依然として変わりない。違うかね?」
ジャックはまばたきします。
「あんたが何を言っているのかさっぱり理解できないぜ、リチャード」
「私が言っていることはもしお前がわざと致命的でない怪我を与えただけなら、
 それは私の娘と変わらないと言ってるんだよ。
 トゥルーが死者に助けを求められ、お前はそいつらが死ぬ運命に手を貸さないなら違いはない」と彼は厳しく言います。
ジャックは立ち上がります。
「そういう事か、何かあんた考え方が軟弱になったな?
 俺達がした事の後に、突然トゥルーが正しかったと信じろってか?」
リチャードは彼をにらみつけます。
「私が言いたいのは、今回のような事が二度と起きなければ、それはお前の最大の利益になるということだ」
ジャックは怒って彼を見つめます。
「それはない」
彼はリチャードの机の上にある銃を委ねるために一瞥してオフィスから出て行きました。
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よく晴れた次の日の朝、トゥルーは病院の廊下を花束を持ってゆっくりと歩いています。
彼女は病室に着くと開いているドアの外にいる警備員に話をするために立ち止ります。
「何か御用ですか、お嬢さん?」と彼は丁寧に彼女に尋ねます。
「ええ、エイミーの見舞いに来たんだけど。エイミーの友達よ」とトゥルーが簡単に言います。
「あなたの名前は?」と彼はクリップボードを調べながら彼女に尋ねます。
「うーん、トゥルーデイビーズ。
 多分そのリストには載ってないわ。でも昨日のコンサートの事件で彼女を助けたのがあたしなの」
彼女は説明しました。
「彼女を入れて」と疲れた声が病室の中からしました。
警備員は病室の中を覗いて何か言うと、入り口の脇にどきトゥルーに手で中に入るよう促しました。
彼女は感謝して笑顔でゆっくりと病室に入ります。
エイミー・リーはベッドに横になりいくつかの機械に囲まれ、疲れた顔をして反対側の窓の外を見つめていました。
多分心配しているファンからの花が病室の部屋中に置いてありましたが彼女はそれら越しに外を見ているようです。
彼女はトゥルーが入ってくると振り返ります。
「私はここにいるあなたが誰でなのか、なぜ昨日ホテルの従業員になりすましたのか、
 どのようにステージで私の命が奪われると分かったのか説明して欲しいわ」と彼女は一本調子で言います。
トゥルーはどんなふうに返答すればいいのか分かりませんでした。
その代わりに彼女は枕元のテーブルに花を置きます。
「あなたにこの花を持って来たんだ。たくさんあるから必要ないと思うけど」
彼女はひと呼吸おきます。
「ねえ、エイミー、あたしがどうして昨日あなたを救うことになったか、なぜホテルで嘘をついたのか説明するわ。
 でもあなたが本当に私の事を信じるとは思えないし、今は重要な事だと思わないよ」
「だったらいい」と彼女が言います。
彼女は病室にトゥルーが入って来た時から初めてトゥルーを見ました。
「私はあなたに感謝してるわ。
 看護師はあなたの迅速な応急処置がなかったらおそらく舞台で出血多量で死んでたって言ったわ」
トゥルーはベッドの隣の椅子に座ります。
「あたしはただ自分の仕事をしただけ」
「あなたはお医者さんなの?」と彼女が尋ねます。
トゥルーは頭を振ります。
「医学生だよ」
二人の間に長い沈黙の時が流れました。
「エイミー、お医者さんはあなたに犯人が誰なのか言った?」
「アンよ。知ってるわ」とエイミーは再び窓の外を見て言います。
「私が彼女に頼んだんだから知ってて当然よ」
トゥルーはすごく驚いてきちんと座ります。
「あなた…あなたは自分のマネージャーに…頼んだの?」トゥルーの声は尻すぼみに消えていきます。
また長い沈黙があります。
「どうして?」
「こんな生活を求めたわけじゃない」と彼女が言います。
彼女の声は今までで一番情熱がこもっていてトゥルーの心に訴えていました。
彼女はゆっくりとトゥルーに振り返ります。
「私は決してこんな生活をしたかったわけじゃないよ」
彼女は不規則な呼吸をします。
「すべては音楽から始まったの。
 私が今までしたかった事は私自身を表現して他の人達と私の音楽を共有する事。
 こんなふうになるなんて全然思わなかった」
「全然人気が出ると思わなかった」とトゥルーは確認しようと繰り返し言います。
彼女は同意してうなずきます。
「それから突然『Fallen』がリリースされオーバーナイトで全てが変化したんだ。
 私のホテルの部屋やレコーディングスタジオ、TV出演、実演、スーパーまでリポーターが私につきまとうの。
 アンは大喜びだったわ。
 彼女は私の持っている才能をすべてを正当に評価すべきだっていつも言い続けていた。
 私は悩んで、試しに言ったのよ、これで一生懸命だって」と彼女は感情で声がうわずりました。
「でも私はそれを楽しむ事は決してできなかった。
 広報のすべて、それは決して私が欲したものじゃないわ。
 決して優雅なホテルに滞在して、物凄い特殊効果に誇張されたショーをするようなスターになるなんて望んでない。
 ただ私と私の音楽だけを望んだの」
トゥルーはうなずきます。
「やってみたらどう?」
「私は歌うことが好き」と彼女が言います。
「そして私を支援してくれるファンの全てをありがたく思うわ。
 それは決して問題じゃないの。この部屋を見れば分かるでしょ」
彼女は花を示します。
「でも私はお粗末な音響効果の小さなクラブショーでも、
 巨大なスタジアムの二十人の観客でもどんな日でも見せるわ。
 私は世間の注目を浴びることに伴ったプレッシャーを憎んだわ。
 いつも肩越しに見なければならないことが嫌いだった、
 繰り返しリポーターの同じ質問に答えなければならないことが嫌いだった、
 そして私は自分の失った日々がもっともっとあるのを見つけたの。
 もうこれ以上我慢できない限界に至ったわ」
彼女はため息をつきます。
「それはアンが参加したころよ」
「アンはあなたの考えを見通せなかった」とトゥルーが理解して言います。
「彼女はあなたがなぜ有名になること望まなかったか理解しなかったのね」
「彼女は決して理解しなかったわ」とエイミーが悲しげに言います。
「私はそうするために出演を中止してツアーの規模を縮小しようって説明しようとしたわ。
 でも彼女は受け入れてはくれなかった。彼女は私に慣れるからと言い続けたわ。
 でも私はそうじゃない」
彼女はトゥルーを見ます。
「でも私はアンに私の命を託したの。
 この事全てが始まったときから彼女は今までで最も近い人だったから。
 それが彼女でなければならなかった理由よ」
「どうやって彼女に納得させたの?」
トゥルーは静かに尋ねます。
「それは難しかったわ。大体一ヶ月前に決めたの。
 どんなふうだったか言葉では言い表せない。
 私に対する名声の全てが心を空しくさせていたの。音楽への情熱さえ失い始めていたわ。
 そんな事になるぐらいなら死んだ方がましよ」
彼女は少し中断します。
「それで、もし彼女がやらないんなら他の人に頼むってアンに言ったわ。
 私達は一緒に始めて一緒に終っていく事に同意したの。
 彼女はいつも私に断念させようとしたけどついに同意した。
 彼女に苦渋の選択を与えたと思った」
トゥルーはホテルでのアンの奇妙な行動を理解してうなずきます。
「分からない事が一つあるんだ。
 注目される事がそんなにイヤなのに何で何千という観客の前や新聞に載ってしまう事を選んだの?」
「もし私が自殺したらファンが私を憎むでしょ」とエイミーが簡単に言います。
「そうはなりたくなかった。決してそんな事は望んでなかった。
 もし私が殺されたとしたら、もうこれ以上我慢する事ができなかったという代わりに、
 重大な事件としてみんなの記憶に残ると思ったの」
一筋の涙が彼女の頬のを伝わりました。
トゥルーは意外な事実に心がぐらつき長い間静かにそこに座っていました。
しかしまだ一つの事が腑に落ちません。
「でもあなたは本当に死ぬことを望んではいなかったんじゃ?」
トゥルーはエイミーの遺体が助けを求めるビジョンを思い出し尋ねます。
エイミーは体を震わせすすり泣きをし自制を失います。
「いいえ」と彼女は涙を流しすすり泣きながら言います。
「ただスポットライトから逃げたかっただけ。その唯一の方法が死ぬ事だった」
涙は彼女の頬を流れ後ろの窓に向きました。
トゥルーは枕元のテーブルから無言で彼女にティッシュを手渡すと彼女は涙を拭います。
彼女が呼吸が落ち着くとトゥルーは話をします。
「別の方法もあるよ。死なずに注目もされない方法が。
 休みをとって、誰もあなたの事を知らない場所に行って休みをとるの。
 そうすればあなたの望む通りになるよ」とトゥルーが強く主張します。
「そうね、アンが私のために刑務所にいる今なら気楽よね」とエイミーが痛烈に言います。
「でもそんな事はこれっぽっちも思ってないわ」
「そうね、運命なんだわ」とトゥルーが確信で答えます。
エイミーは再びトゥルーに向き直るとお互い言葉も出さずに見つめあいました。
不気味な静寂の中唯一の音は機械が出す音だけで、二人は静かにそこに座っています。
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トゥルーがアパートに帰って来た時には既に外は暗く、ドアを開けうわの空で電気をつけました。
彼女はリビングルームに入いると人影を見て驚きました。
「ジェンセン」と彼女は彼が窓の外を凝視してそこに立っているのを見て驚いて言います。
彼は無表情のまま向きを変えます。
「ごめん、脅かすつもりはなかったんだ。アパートに帰って来る君を待っていたんだよ」
彼はひと呼吸おきます。
「エイミーはどうだった?」
彼女は彼がどうやってトゥルーがどこにいたのかを知ったのか深く考えずに返事をしました。
「大丈夫、治るよ。体も心も両方ともね」
彼はうなずきます。
「トゥルー、僕らは話し合うを必要がある」
彼女は彼に近づきます。
「どんな事?」
「分かってると思うけど」と彼は当然の事のように言います。
「僕らはお互い、少し前から普通じゃなかった。それからずっとね…」
「あたしがあなたの命を救ってから」彼女は目をそらします。
彼は一瞬考えます。
「君の仕事の事じゃないよトゥルー、僕らの事だ」
彼女は何の話をしているのか理解できませんでしたが聞いています。
彼は継続します。
「僕は町から出る」
彼女は驚いて顔を上げます。
「僕は町を出る必要がある。だから教えて欲しいんだ。言いたくない事は分かってるけど」
「えっ、何?」と彼女は他の適切な言葉が見つからず言います。
彼は彼女を見つめます。
「僕はバカじゃないよ、トゥルー。君がこれ以上僕と付き合いたくないって分かるよ」
「ジェンセン…」と彼女が言葉をさしはさみます。
彼は彼女を黙らせるために手を上げます。
「いいんだ、本当に」と彼が強く主張します。
「こんな事言うつもりじゃなかったんだ」
彼女は言葉を失い立ち尽くしてしまいました。
「グッドラック、トゥルー。いつかまた」
彼女は彼を見ます。
「ごめんなさい、ジェンセン」
「なんであやまるの?」と彼は不思議に思い聞きます。
お互い考え込んで張り詰めた静寂があります。
「じゃあ、これでさようならだね」
別れのキスをしようと彼は近くに寄りました。
トゥルーはじっとしたままです。
長い沈黙の後彼は彼女を通り過ぎドアを目指して進みます。
彼女にできる事は彼が振り返らず出て行くことを見守るだけでした。
トゥルーは一人ぽつんと暗いリビングルームに立ち尽くしていました。

お終い

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