言葉のごった煮>トップへ

TruCalling VirtualSeason3
(トゥルー・コーリング バーチャルシーズン3)

3x06:On Open Wings:翼を広げて
作者:
Kitty, Forgotten Conscience  
作者補助: Cherrygurl  
校正:Kat
翻訳
:Mhorie

トゥルーとリンジーはお互い無言でタクシーに乗って移動しているところです。
トゥルーは唇をしっかりと一文字に閉じ真っ直ぐに前を見つめていてかなり不機嫌と無表情の入り混じった表情をしていてどちらとも判断しかねました。
彼女は静かにため息をつくと左隣に座っているリンジーの方に向きましたがすぐには話かけづらく親友を見つめました。
「リンジー …」
トゥルーは押しつぶしたようなため息を唇から吐き出しました。
「何も言わないで、トゥルー」とリンジーは顔をトゥルーの方に向けながら言います。
リンジーはちょうどマラソンを完走した後のように疲れきっていまように見えました。
「私が思っていたより長い時間がたっていたのね、最後の想いも罪の意識に感じ…」
「罪の意識なんか感じちゃだめ!」トゥルーは彼女の言葉を遮り訴えました。
「あなたが我慢しなければならなかったほど不愉快な思いをさせた事は謝るから。
 ねえリンジー、本当に悪かったと思ってる、次に戻って来た時はもっと良くなるように約束する…」
「私が次に戻ってくる?」リンジーは冷笑しました。
「次なんてあるのか分からないわ」
リンジーはトゥルーに辛そうな表情を見ると彼女は少し頭を垂らしトゥルーにわずかな微笑を向けました。
「あなたと学校、あなたと元カレ、そしてハリソン…」トゥルーは頭を振ります。
「この旅行は本当に悪夢よ。来なきゃよかった…」
「あなたは本当にハリソンの事を想っていたのね?」トゥルーは友人の腕を強く握り締め同情して尋ねました。
「いつもよ」リンジーは目に涙を溢れさせながらつぶやくと空いた方の手で涙を拭いました。
「その感じ分かる」と静かに言うとトゥルーはリンジーから手を放しもう一度まっすぐに前を向きました。
「そうね」リンジーは到着した時からトゥルーに繰り返し話を聞いていました。
「ジェンセンね…」
「彼はもう行ってしまった」トゥルーは全く信じられないというふうに頭を振って言います。
「つまりあたしは彼が残念な事になるって分かってた。でも…彼は去ったわ。あたしや学校…多分彼のキャリアさえも捨てて…」
「でも少なくても彼はあなたより2歳も年下の誰かのためにあなたを捨てたわけじゃないわ」とリンジーは苦々しく言います。
リンジーの目は今にもダムが決壊するかもしれないと思い悪態をつくのをやめました。
「ハリソンがそういう事になっている事も分からないなんてバカだったわ…」彼女は次第に声が弱まって自分の手を見下ろしました。
「一人だったと?」
リンジーは頷きました。
「エイブリーは…彼女はただの友達よ…」
「それって私を慰めてるつもり? 特に人の心をもてあそんで…彼が昼食の間、私の事を気にかけた?」
リンジーは一筋の涙を頬に流しながら言いました。
「戻ってきたのはあたしに会うためじゃないの?ランドルはいないわ…ねぇ?ハリソンも。あたしはどうすればいい?」
トゥルーはハッキリと聞こえるほどハッと息を飲み、瞬きすれば涙がこぼれそうになりました。
「本当にごめんなさい…」
リンジーは何かを言おうと口を開きかけましたがタクシーが空港の入口のすぐ外に止またので何を言おうとしたのか分かりませんがそれは彼女の唇からは出てきませんでした。
「素敵ね」とリンジーはハンドバッグの中に手を伸ばしてコンパクトを取り出しながら皮肉を言いました。
「着いたようね」と彼女は目を潤ませながら言いました。
--------------------------------------------------------------------------------
トゥルーとリンジーはお互い無言でターミナル内の航空券を受け取っている女性に向かって歩いていきます。
二人とも同じく緊張しているように見え、そしてその緊張感は誰もが分かるほどの雰囲気をかもし出していました。
リンジーはわずかな可能性すら自分にはないと思い込んでいます。
彼女を悩ませた悪夢は彼女にとって幸先が悪くハリソンとランドルの二人にすら手が届かないという事実はただ彼女の失望を悪化させるだけでした。
一方トゥルーはまだジェンセンの事が心残りで何故突然彼が去ってしまったのか?
何が二人の間に起きたのか?本当の理由は分かりませんでした。
彼を救った…全てはそこが始まりだったのでしょう。
トゥルーは認めたくはありませんでしたが、ジャックの方が正しかったのではないかと思えてきました。
ジェンセンは本当に戻ってくる運命だったのでしょうか?
「それで…」トゥルーはそんな辛い思いを断ち切るように言います。
「次に来る時は2日以上をいるんでしょ」とトゥルーは何気なく言いましたが冗談はリンジーには効果がなく
「多分ね…」と彼女は単に頷きました。
「姉さん、待って…」と突然二人の背後から大声で声がかけられました。
二人は向きを変えるとリンジーは彼らに露骨にしかめっ面をしました。
息を切らし二人に駆け寄ってくるハリソンの後ろには面白くなさそうな顔をしたエイブリーが一緒でした。
「ハリソン、何しに来たの?」
リンジーは涙の跡を化粧で直しておいてよかったと思いながらも皮肉たっぷりに尋ねました。
「なんだよ、そんなこと言って…」ハリソンはトゥルーとリンジーにようやく追いついて言いました。
「君を見送りに来ちゃいけないのか?俺らあんまり話しもできなかったし」
エイブリーはハリソンの優しい言葉使いを昔の恋人に対する雰囲気を感じ取って少しブスッとした声を漏らします。
「君に見送りの挨拶に来たんだ…」
「ええ?」リンジーはその事を聞くとハリソンの目を見て唇の端に微笑が浮かび始めました。
「ああ」ハリソンが手をリンジーの肩から手へと移動させ優しく言います。
「俺は君がいなくて淋しかったんだ…」
エイブリーは腹を立てて二人の隣りへと歩みよりますが彼女の怒りはハリソンに対して全く効果がありませんでした。
「今度はいつ戻って来る予定なんだい?」
「さようならを言いに来たんでしょ、また来て欲しいなんて言わないでよ!」エイブリーは怒りました。
「あのねぇ…今は私達が話をしてるのよ」リンジーはエイブリーを一瞥して棘のある言い方をしました。
「彼の手を握り締めて?ただ話をしているですって…」
エイブリーはリンジーに冷たい視線で睨みつけ反論しました。
ハリソンは2人の間に挟まれてまいったとばかりに手を首の後ろに持っていきました。
「俺はたださようならを言いに来ただけで…つまりそれはそうじゃなくて…」
「そうじゃなくて何なの?ハリソン」リンジーは少し怒り彼を見ながら胸の前で腕組みをして尋ねます。
「そうよ、それでそれは何なの?」エイブリーも腕組みをして同様に尋ねます。
ハリソンは2人の腹を立てた女性たちを見て同じ反応にそわそわと含み笑いをしました。
場内アナウンスが搭乗客に搭乗開始の案内を告げるとリンジーは明らかな嫌悪の表情で頭を振りました。
「搭乗の時間ね…さようなら、ハリソン」
リンジーはトゥルーにちょっと作り笑顔をするとトゥルーはリンジーを抱きしめリンジーも彼女の背中を抱きしめました。
「それじゃまた、トゥルー…」
「バイ リンジー…きっとうまくいくよ。あたしを信じて」
彼女たちは抱擁を離しお互い無言になりました。
「ありがとう…トゥルー」
パン・アメリカン航空のアナウンスは最終の搭乗コールを告げます。
「もう行かないと、バイ…」リンジーはエイブリーの方を見ると睨みつけるのをやめて
「あなたに会ってよかったわ…」
「そう…」エイブリーは返事をしながらて呆れ顔になります。
リンジーはバッグを掴むと友人たちを見回し足早に立ち去りました。
3人の友人たちは去って行く友人を見送るとハリソンはエイブリーに向き直りました。
「エブ…」ハリソンはガールフレンドの不機嫌を直そうとします。
「お黙り」とエイブリーはきつく言います。
「私、家に帰る。タクシーでね…」すると彼女は踵を返すと1度も振り返らないで歩き去りました。
ハリソンは完全に今起きたことにショックを受けているようでトゥルーに振り返ります。
トゥルーは頭を振って「慎重に行動しなさい、浮気者…」とつぶやきました。
--------------------------------------------------------------------------------------
「俺はそんとこが分かんないんだよなぁ」
ハリソンはトゥルーが見つめている空港の大きなウィンドウに背中を持たれかけながら言いました。
「つまりさあ、俺のどんなところがそんなに間違っていたんだい?」
トゥルーはため息をつくと訝るような目つきで弟を見ました。
「本当に分かんないの?」
「いや…その、多分少し恋心をもて遊ぶようなことをしたかもしんないけどさ、
 でも俺はリンジーを元気づけようとしただけだ」ハリソンはウインドウから離れトゥルーに向きをかえて言いました。
「いいかげんにしなさいよ、ハリソン、もしエイブリーがあんたの前で昔の恋人に気のあるそぶりにしたなら、
 あんたはどんな気持ちになるの?」トゥルーは少し憤慨しながら繰り返します。
「俺は一度もそんな奴に会ったことないしさ」とハリソンが言うとトゥルーは信じられずに言います。
「そうなの?その事がどんな事なのか少しは勉強しなさい、そうすればエイブリーとの仲を修復できるかもね」
ハリソンはトゥルーの言葉を考えるように少しの間汚い床を見つめていました。
「じゃあさぁ、姉さん、俺のためにエイブリーに話をしてくれないかな?俺の事を助けてくれよ」
「ダメよ、ハリー、これはあんたが自分自身でしなきゃいけないことだよ」
「いいじゃないか姉さん、いつも人を助けてるじゃないか。例の日じゃないからってさ…自分の弟を助けないって事はないんじゃない」
トゥルーは呆れ顔になりました。
「それは…見当違いよ」
彼女は他に何かを言おうとしましたが彼女の目はもう一度ウインドウの外を確認しました。
「見なさいよ…彼女の飛行機が離陸してるわ…」
「姉さん、長距離電話の料金がどのぐらい掛かると思ってるんだい?」ハリソンは即座に尋ねます。
トゥルーは再び呆れ顔になりそして話をしようと口を開きましたがリンジーが乗っている飛行機が二人の目の前で突然爆発し、
口に出すはずであった言葉の代わりに痛烈な叫び声が彼女の唇から発せられました。
--------------------------------------------------------------
「なんて事!」トゥルーは悲鳴を上げるとたった今起きた事を理解しようとします。
彼女はターミナルの方に駆け出そうとしますがハリソンが腰の周りを強くつかみます。
「行かせて…一体何をしてるの?」
トゥルーは戒めから抜け出そうとして金切り声を上げます。
「姉さん、落ち着いて」ハリソンは明らかに自分自身も動揺していますが姉の精神的ダメージのために自分は冷静を保とうとします。
「ち…ちょっと…行かなきゃ」
「どこへ行くんだい?」
飛行機が地面に激突したときトゥルーはハリソンの戒めから抜け出して叫びました。
「飛行機が…リンジー…あぁ…どうして…!?」
「リンジー!」ハリソンは姉を取り押さえると同じように叫びウィンドウに握りこぶしを叩きつけました。
ハリソンの目からは涙が溢れウィンドウから離れると力が抜けたようにウィンドウを背にして寄りかかりました。
トゥルーの顔には当惑しきった苦痛の表情を浮かべたまま呆然としたままハリソンの背後に見えるリンジーの乗っていた飛行機を見つめていました。
煙が翼から立ち昇りあちこちから炎が上がっていました。
彼女は天命として週一ぐらいのぺースで死を扱ってきたけれども、今までに苦痛とショックを経験した事は一度もありませんでした。
彼女の目は飛行機とウィンドウに額を押し付け涙を流すハリソンを交互に見ていました。
次の瞬間彼女の足は床を蹴りターミナルに向かって走っていました。
彼女の呼吸は既に荒々しくなり冷や汗でずぶぬれになっていました。
けれども彼女はまだ友人が生きている可能性があるかもしれないという希望が何よりも重要でした。
彼女はターミナルの長い廊下を走りまっすぐ炎上している飛行機がある場所のドアに向かいましたが誰かのがっしりとした手が彼女の肩を掴みました。
「行かせて!」
彼女はガッチリと肩を掴む大柄な警備員に大声で叫びました。
「お嬢さん、ここは立ち入りできませんよ」と警備員はもがく彼女を引き離そうとしました。
「あたしの友だちがあそこにいるの!」トゥルーは風呂に入れた猫のように叫びます。
「あそこに行かなきゃいけないのよ!」
「落ち着いて下さい、とにかく落ち着いて」警備員はターミナルの反対の方へ彼女を押し返しながら言います。
彼女の友人から、彼女がいる必要がある場所から離れて。
「すでに医療スタッフが行っています、それに何か分かれば我々がすぐに知らせます…」
「あたしは医者です」突然トゥルーは目を決して滑走路へと導くガラスドアから放さず言いました。
「医者?」警備は眉を上げ疑いの表情で尋ねました。
「ええ、医者よ、あたしは市の死体安置所で働いてるの…」トゥルーは警備員にウソは付いていませんが、
とにかく頭の天辺からつま先まで自分自身の震えを感じ彼女自身をなだめようとして繰り返します。
「あたしは助けることができる…あ、あなたは使える者はなんでも必要なんでしょ…」
警備員は彼女から手を離して一歩下がり中に入ってもいいという素振りをしました。
それから警備員は肩から下げている無線機のボタンを押して通信しました。
「20代の女性を通します。医者です、正式な許可です…」。
「ありがとう」トゥルーが急いで入口を通りながらつぶやきました。
------------------------------------------------------------
状況を見定めようとして担当者と医療スタッフたちが叫びあっている中、トゥルーの表情はまだ厳しいものがありました。
トゥルーは遺体が散乱しているのを見ると十分過ぎるほどの期待を越えていたことを知り口に手を当てました。
彼女は遺体の中を通り全壊に頭を振っていた1人の男性捜査官に出会いました。
「一体何があったの?」
彼女はビンの中で反響するような声で尋ねました。
彼女は自分自身と呼吸を落ち着かせるべきですが今の彼女にはただリンジーのところに辿り着くこと以外考えることができませんでした。
捜査官はまさにお手上げで腕を上に上げました。
「分からないよ。君は医者かい?」彼は疲れ切った声で言います。
トゥルーがうなずくと彼は飛行機の方を指し示しました。
「あそこに何人かスタッフがいる…もっと沢山…遺体がある」
彼も気が動転しているように見え自分自身の言っている言葉さえ理解していないようでした。
「彼らは少しの援助でも待ってる」
トゥルーはうなずくとその方向に急ぐとすぐに種々の人たちの周りに屈み込んで生存の確認作業をしている医者のグループを見つけましたが思わしくなさそうです。
更に進むと彼女の近くに横たわる遺体を見てハッと息をのみ込みました。
「どうして…」彼女はひざを落とすとひざの中にリンジーの遺体を引き寄せました。
トゥルーはリンジーの脈を確認するために彼女の首に手を当ててリンジーを見下ろしました。
けれどもリンジーの虚ろな表情と動かない胸を見たトゥルーは確認する必要がなくなりました。
リンジーの服はぼろぼろで少し焦、黒い油が彼女の体の上に斑に飛び散っていました。
「いや…神様…」とトゥルーは友人の体にしがみついて嘆きました。
「お願い…」
トゥルーは抱きしめた腕の中で何かが強張るのを感じ離れました。
彼女の天命についてはっきりとした混乱が起きました。
トゥルーは死んでいるはずのリンジーの目は生きているように大きく見開かれ彼女を見つめているのを見て驚きました。
「助けして」とリンジーがささやきます。
その瞬間、もっと多くの遺体がトゥルーの方を向くためにかすかに動き体を起こし始めました。
子供、女性、男性、高齢者、多くの全て見知らぬ犠牲者です。トゥルーは周りで死んでいた多くの遺体を見ます。
一斉に声を合わせ彼らは彼女に救いを求め始めました。
「俺を救ってくれ…」
「お願い…」
「君が必要だ…」
「私たちを助けて…」
トゥルーはショックと混乱に落ちる間もなく一日が巻き戻りました。
-------------------------------------------------------------------------------
トゥルーはベッドから起き上がると冷や汗が顔中を覆っていました。
「リンジー」胃液が喉を上昇し声を締めつけます。彼女は深く息をつきかろうじて必要最低限の酸素を取り入れることができました。
「なんて事なの…」
激しく鳴る電話の音にトゥルーは悪夢から現実へと引き戻されました。
「ハリー!」と彼女はコードレスの子機を取ると相手の声も聞かないうちに金切り声で呼びかけました。
「姉さん、そんな声を出されるとドキッとするよ」といつもの陽気な声でハリソンは言います。
「問題はないんだい、姉さん?ゴーストバスターズか何かからの電話に出たような声だぜ」
「ハリー、マインドゲームをしてる場合じゃないの」とトゥルーは呼吸を整えはっきりと言葉を発します。
「今日はあんたの助けを必要とするわ」
「そうか、まあ、姉さんがこんなにストレスがたまっているような声を聞いたことないぜ。コーヒーでも飲みながら話をしようぜ?」
「今晩リンジーの乗った飛行機に何かが起きて大変な事になる。 それを阻止するためにあんたの助けが必要なの」
少しの間があり。
「でも、例の日なら…」
トゥルーはハリソンの言葉を遮ります。
「30分後にコーヒーショップで会いましょう、そこで全てを話すわ」
短い間の後ハリソンが答えます。
「俺はもうそこにいるよ。30分後だね」
トゥルーは電話を切るとベッドにコードレスの子機を放り込み服を着替えるために寝室から出て行きました。
-----------------------------------------------------------
ハリソンとトゥルーはコーヒーショップのブースに座って話をしています。
「昨日、あたしとリンジーは一緒に空港に行った。
 最初からうまくいかなかったって言えば分かるでしょ、
 それでこういう事よ、今日の事に対して準備しておいた方が良いわ、
 さもなきゃ彼女がここに来たら彼女のバカンスはとんでもない事になるの。
 とにかくあんたとエイブリーの二人が空港に来て、あんたはリンジーへのお別れのさよならもまともに言えなかった。
 そしてリンジーは飛行機に乗ったの。そこまでは全く問題がなかったわ…」
トゥルーの声色は急に変わり自分自身を立ち直らせようとしました。
「どうしたの?、姉さん」ハリソンが心配そうな声で尋ねます。
「あたしたち飛行機が爆発するのを見たんだよ。あたしたちの目の前で、ハリー!目の前でだよ!」
繰り返しの今日はまだ始まったばかりなのにトゥルーはいら立ちそして疲れ切った声を出しました。
「でもリンジーが…」とハリソンが言いかけますが次第に声が小さくなりついには無言で考え始めました。
「彼女は昨日あたしに助けを求めた、神様に感謝するわ…」トゥルーは続けます。
「でもその飛行機の乗客全員も助けを求めてきたわ。あたしの体は2つないからあんたの手助けが必要なの」
「俺は姉さんのバックアップだ。姉さんに必要なね」
「いいわ。彼女が来たらショッピングモールでリンジーに会って、昨日予定を立てたように買い物に行くつもりよ。
 リンジーがあんたとあたしの新しい友人エイブリーと一緒に昼食を食べたいって言うわ。
 あたしたちが買い物をしている間にエイブリーが同じモールに来る、それであんたは1、2時間ぐらいあたし達と一緒に行動する。
 あんたはこれにデリケートに対処しなきゃダメだよ、ハリー。
 リンジーはまだあんたに想いを寄せるから。それが彼女が戻って来た理由の1つだと思う。
 もしあんたが気を使わないとリンジーは大変な事になるわ、そしてエイブリーもね。気をつけてよ…」
ハリソンは腕を上げて身を委ねるようにもたれてます。
「了解、了解、分かったよ。大変な事にならないようにするよ。それにさ俺がバカなマネしないように姉さんが俺を監視してくれるんだろ」
彼は姉にほほ笑みました。
「その通り、とにかくあたしは行くから。後で会いましょう」
トゥルーは立ち上がり行こうとしますが何かを思い出して言います。
「そうだ、ハリー?今日はいちゃつくのを控え目にしてよ」
トゥルーはハリソンをコーヒーショップに残してリンジーとのショッピングデートに出かけていきました。
乗客の一人が親友であったことからトゥルーは安心しきって多くの乗客を乗せた飛行機が墜落するという事実を気にかけていませんでした。
ジャックがどのぐらい彼女を行動を妨害しようとするか気にしませんでした。
カードはすでに配られ、サイは投げられていました。
悲運なのは負けるであろう戦いをする準備をすることでした。
-----------------------------------------------------------------------------
ジャック・ハーパーはエレベータから出るとリチャードのオフィスへと進んで行きました。
受付係は彼が入って来るとうなずいて入室の許可をします。
「言わんでもわかる、今日も娘が英雄的なことをしてるんだな」
リチャード・デイビーズは見上げもせずに突然の男の訪問を認めるように言いました。
「それほど 恐れてはない」とジャックが答えます。
「だが俺たちが思っているよりすごいぜ」
「どんな風に?」
リチャードの表情は全くもって読み取れずジャックを見つめると冷淡で薄気味悪く静かに自分の後継者に質問しました。
「まあ、俺が見たものからはトゥルーは個人的に犠牲を知っているように見えた。
 何着かの洋服をモデルのようにとっかえひっかえ着替えていた。
 それからラブバードのように手をつないでる二人が見えた、多分ハリソンとトゥルーの友人…エイブリーだと思う。
 それから何か空港のターミナルのようなものが見え、740便の航空券、飛行機の機内、大きな震動とものすごい爆発音を聞いた」
ジャックは彼の心の中で走馬灯を見るかのように一瞬中断しました。
「飛行機が落ちた、そしてトゥルーの友人であるリンジーが乗客の1人であったように思う。
 俺はたまたまリンジーが今日ヨーロッパに帰ることを知っている」
「まあ、お願いだから私に内緒で面白そうな事をしないで欲しいわ」とジャックの背後のドアの方から誘惑的に甘い声が聞こえてきました。
「それは考えてなかったな、もし君が是非にと言うんなら…」
ジャックは入って来たキャリー・アレンに冗談を言うとキャリーはジャックの隣りに立ち腕を胸の前で組みました。
ジャックは手早くキャリーに昨日の一日の出来事について説明します。
リチャードは手を組んでまっすぐに黒い革裏張りの椅子のに座り直すとジャックとキャリーを見上げました。
「それで、ジャック、お前の戦略は?」
----------------------------------------------------------
「死体安置所…」
「デイビス、トゥルーよ」とトゥルーは大急ぎで携帯で話します。
「おお、やあトゥルー」とデイビスが返事をします。
「あれ、今日はリンジーと一緒じゃなかったのか?今夜遅くに彼女が帰るんだと思っていたけど」
「うーん、はっきり言って彼女を空港に近づけたくないの、その事に関して」
「なんだって、トゥルー、それは…」トゥルーは彼を遮ります。
「そうよ、例の日よ。もしリンジーの乗る飛行機が今晩離陸するのを阻止できないと飛行機が爆発するわ。
 あたしの目の前で爆発するのを見たのよデイビス。またこれを再び起きさせることができません。」
デイビスは言葉に詰まります。
「なんて事だ、トゥルー。すまなかった。そ、それで俺にできる事はなにかあるかい?」
「まだだよ、デイビス。単にリンジーを救うだけじゃなくて、乗客でいっぱいの飛行機も救わなきゃ。
 みんなあたしに助けを求めてきた。もし救うことができなかったら、あたしは…」
トゥルーの声は次第に弱まりもうそれ以上話すことに耐えられなくなってきました。
「それにジャックのこと…あいつが今日どんなふうに邪魔をしてくるのか!」
デイビスはため息をつきました。
「大丈夫だ君はできる、トゥルー。君がしなきゃいけないことは集中することだ。今はジャックのことを心配するな。
 その飛行機が確実に離陸しないようにする事に集中するんだ」
トゥルーは空港に到着しターミナルの中へ進みながらため息を吐きました。
「分かったわ…ありがとうデイビス」
「どういたしまして」
「もし何か必要なら電話をする」
トゥルーは携帯電話を閉じるとターミナルの周りをあてもなく歩き回りリンジーの乗るはずのゲートの場所で足を停めました。
トゥルーがゲートのカウンターに進もうとすると誰かがすぐそばを大急ぎでやってきました。
「失礼、お嬢さん」と長い黒いオーバーコートを着た男がぶっきらぼうに言いうと
「ごめんなさい」と彼女は少し頭を下げました。
トゥルーは心から遭遇を消し去りゲートカウンターに近づきました。
リンジーの便はあまりにも早いためまだ表示されていませんでした。
「すみません」とトゥルーが尋ねます。
「イギリスへの今日の午後のフライト便は何時に出発しますか?」
ゲートカウンターの後ろにいる若い女性はコンピュータをチェックして「午後4時30分の出発です」と教えてくれました。
トゥルーは腕時計を確認すると女性に微笑み立ち去りました。
彼女の乗る飛行機は少なくともあと6時間は離陸しないでしょう。
しかし時間が経てば、人々の運命は…彼女が握っています。
突然…
「おや。浮かない顔つきだね、トゥルー?」
なんて事でしょう!
-----------------------------------------------------------------------
トゥルーは無意識的に背中に虫唾が走るのを感じました。
あまりにもよく知った声に誰なのか振り返って確認する必要はありませんでした。
ルークの死の後に彼女の夢の中につきまとったのはこの声でした。
彼女が天命として動くとき彼女をすくませるこの声、そして今これまで以上にジェンセンのことについて問題を投げかけるこの声。
運命はすでにそのコースをとることを意図されていたのか?ジェンセンは死ぬ定めだったのか?
あるいはもっと悪く−宿命だったのか?
「今回はなんなの、ジャック」トゥルーはジャックにいやいやながら向きを変え苛立ちながら言います。
「なんだい、いいかげんにしてくれ、トゥルー。それが友達を歓迎する言葉かい?」
ジャックは彼女をあざけり楽しんでふざけて尋ねます。
「ジャック、あたしは友達だと思ってない」とトゥルーが返答します。
「あんたは『放っておく』という意味も知らないバカの極みね。」
「おっと、それは少し厳しいと思わないか?機嫌が悪いのは友達のリンジーが今日死ぬからかい?」
「彼女は今日死なないわ、ジャック。それは昨日のこと。少なくとも今回はあたしの方が優勢よ。
 彼女の生活に入り込まなくてもあたしはすでにその中にいる。
 明白でしょ?あたしの友達から手を引いて」とトゥルーが激しく警告します。
ジャックは参ったとばかりに手を上げます。
「メッセージは受け取ったよ。俺は運命に干渉している君に会わないとしよう。トゥルー」
「親友が危険にさらされてる。君は俺がただじっと見守ってるなんて思ってないだろ?」
ジャックは彼女にほほ笑みかけながら答えます。
「誰がリンジーについて話をしていると言ったかな?」
「それはどういう意味?」トゥルーは一瞬の彼を見つめますがジャックは無言です。
「いいわ、今日あたしのやり方で地獄を停める。ジャック」
そう言うとトゥルーは踵を返し一人ニヤケたジャックを後にして去っていきました。
--------------------------------------------------------------------
キャリーは超ミニスカートを身に付け死体安置所の廊下を歩きデイビスのオフィスに入るとセクシーさを全開にしてくびれを強調します。キャリーは今日の作戦をジャックから受け実行し成功させようとします。
言うまでもなく彼女がデイビスとのお遊びは嫌なのですが。
彼女はドアの枠を背にして寄りかかるとブラウスの胸元のボタンを外してある事を確認し腰に手を当てコンピュータ入力に完全に没頭し座っているデイビスを見ます。
「ねえ、そこのハンサムさん…」
デイビスはコンピュータのモニタから目を上げドアのところに立っている目もくらむような美しい女性を見ると完全に今晩やり終えなければならない仕事を忘れキーボードから汗まみれの手を外すと机の下にその手を隠しました。
デイビスはいつもキャリーが近くにいると緊張し3秒が30分間にも感じられ何をどうしていいのか判断できなくなってしまいます。
「あー…やぁ、キャリー…」
セクシーな精神科医はドアから離れると緊張しているターゲットに向かってゆっくりと近づきます。
彼女は話しながら机のまわりを回ります。
「世界を救うのに忙しいのかしら?」キャリーは机の縁に座ると少しデイビスに近づきます。
彼は座っている回転式の椅子をずらし二人の距離を少し置きました。彼女は期待の眼差しを向けます。
突然デイビスは妄想に耐えられなくなりずんぐりしとした葬儀屋はコンピュータのモニタと彼女に視線を向けます。
「あー…いや、僕はただ来週のスケジュールを組んでるんだ。いつも救ってるわけじゃない」
彼女がセイレーンのように微笑すると彼はさらに落ち着きがなくなります。
キャリーはデイビスにストレスの増加に気づくと彼の反応を十分知っている彼女は少し後退し座りなおしました。
「あっそうそう、選ばれしトゥルーがしてるんだったわね。彼女は今日来てるのかしら?」
トゥルーが近くにいるかどうか調べるように彼女は入口を見ます。
「いいえ彼女は外出中で…現場に」
彼女は汗まみれの掌を隠した医者を見返します。
「ぞっとするような死から誰かを救ってるの?」
彼女は得意のカマをかけ彼をリラックスさせ口を開かせようとします。
それは成功し彼は口を開きました。
「ああ、実は彼女の親友の1人が昨日爆破された飛行機にいたんだ。彼女はそれを阻止しようとして外出している」
キャリーはトゥルーがしていることに少しショックを受けたようなふりをしました。
「本当?、それはかなりひどく彼女は傷ついているに違いないわ。
 私に何かできるかしら?カウンセリングすれば少しは気分も良くなるんじゃないかしら」
精神科医はもっと多くの情報を手に入れようと提案しました。
「いや、彼女は問題なくやっている。聞いてくれてありがとう」彼はきまり悪そうな笑顔で言います。
「それじゃ私ができることは何もないのね?」
「君が740便を何とか地上にくぎ付けすることができればね」彼は率直に言いました。
キャリーは先ほどよりもっと彼の方に近寄って微笑みます。
「あら、そういう事は本当は慣れてないけど、何かアイディアがないか考えてみるわ」
「ありがとう…」あごひげを生やした男は心理学者の彼女に微笑んで彼女の見せ掛けの思いやりに赤面しました。
彼女がゆっくりと立ち上がりセクシーに腰を振りながら去るのを見てぞくっとしました。
キャリーは死体安置所を出ると携帯電話を取り出しそれを開きダイアルをします。彼女は呼び出し音を聞き続けると誰かがでました。
「国土安全保障…」
彼女は今から自分がしようとしていることを考え微笑しました。
「あの、ちょっと報告しておきたいのですが。
 私は精神分析医で私の患者の1人が飛行機を離陸させないようにするかもしれないと思える情報があるんですけど」
電話の向こう側の男はその事に興味をそそられます。
「名前は何ですか?」
---------------------------------------------------
トゥルーは親友のリンジーと会う予定のフードコートに向かうためモールのメイン通路を歩いています。
トゥルーが近づくとリンジーがテーブルから立ち上がって合図を送ります。
トゥルーは破壊された飛行機で死んでいた幼馴染に会うと腕に鳥肌をたててしまいました。
リンジーは後に起こる不幸も知らずに精一杯の笑顔をします。苦痛はトゥルーにのみ降りかかってきます。
彼女はその笑顔を見るとその事故を未然に防ぎたいと望みました。
彼女たちはお互い向かい合うと昨日からどのように振舞えばいいのか迷います。
「ハイ…」トゥルーはどう話しかけていいのか迷いながらも声をかけました。
「ハイ、トゥルー…」リンジーは前へ一歩出ると普段より長めにトゥルーを抱きしめました。
それは昨日リンジーがイギリスに旅立ったときよりも心地良いものでした。
一方トゥルーの方は抱きしめる事によって昨日の死んだ友人を抱き締めた事を思い出し動揺しました。
リンジーはトゥルーを放すと彼女の様子に心配して顔を覗きこみました。
「どうかしたの?」
トゥルーは彼女が今日この後どのようになるのか分かっている心配事を隠そうとして目をそらしました。
「何でもないよ」
リンジーは今はその事に触れるのをやめることにしました。
彼女が短期間の帰省を決めたときからまったく彼女たちの間はうまくいきませんでした。
少なくとも幾分かは彼女に過失があることを知っています。
ランドルが雇っていたイギリスのアシスタントの女のために彼女を捨てたためリンジーはパニックになって不慣れな国で途方に暮れているよりは他のどこかへ行きたいと思っていました。
彼女はトゥルーに電話をすると飛行機の予約をして翌朝までに一番安心できる場所へ行くという思いに辿り着きました。
「オーケー…じゃあ、座る?それとも?」
トゥルーはリンジーが座っていたテーブルを見ました。
「そうね…」
仲のいい二人の友人たちはテーブルに移動して向かい合わせで座ります。
お互い全くどう言葉を発するべきか迷っています。昨日も全くうまくはいきませんでした。
トゥルーは落ち着かず椅子の中でで向きを変えます。
彼女は本当にこんな事態が起きることは予想していませんでした。特に二度目も同じ事をしなければならないとは。
トゥルーは本当はリンジーに会うのはうれしいとは思いませんでした。
リンジーが夫と一緒にイギリスに向かって出発していったときからほとんど話をしていませんでした。
リンジーは夫と一緒にイギリスに行く事になった経緯についてトゥルーに知らせなかったのです。
Eメール、インスタントメッセージ、電話、葉書、封書、トゥルーはどの方法であるにしてもリンジーから便りが届くと思っていました。
けれども留守番電話に「到着したわ、心配しないで」とメッセージが入っていただけでその後何一つ連絡はありませんでした。
彼女は二日間もその事に対して腹を立てていました。
今ここで彼女たちは再びお互いに何を話そうかと思案しています。
トゥルーはリンジーを見つめると「それで、元気だった?」と彼女は昨日よりよい方向へ向けるため口を開きました。
リンジーはどう返事をしようかと頻繁にため息をつきます。
「私、本当にどう言えばいいのか。全て理解してるつもりだった。
 短い間だけど私は結婚していたわ、私はそれが永遠に続くだろうって確信してた。
 それなのに彼が一緒にいるところを見ちゃったのよ…」彼女はその事を思い出しひと呼吸おきます。
「…あばずれ女よ、すべてがその時から変わったわ」
トゥルーは昨日と同じように手を伸ばして友人を慰めようと手をリンジーの上に重ねます。
「大丈夫だよ、リンジー。あなたは人生をやり直す方法を見つける、そしてきっと良くなる」
リンジーは医学生の友人が握る自分の手を見ると偽りのない微笑みを浮かべます。
「今はそのことについて考えないようにするわ。戻ってきた訳は親友のトゥルーに会って…少し楽しみたかったから」
彼女が話をするとトゥルーは彼女と同じぐらい本心からの微笑を返しました。
「まあ、あたしがどれだけ楽しみになるのか分からないけどできる限りの事はする」
「オーケー、それなら行きましょ、ここに来たのはショッピングをするためだもん」
リンジーはそう言って立ち上がるとトゥルーが立つのを待ちます。
「いいわね」トゥルーはそう言いながら立ち上がる最初の店に向かって歩き出しました。
ここまではうまくいっていました。昨日は二人ともお互いの不幸を話し合い意気消沈した気分で買い物に行きました。
今回は少し不自然でしたが良い雰囲気でした。
トゥルーは他にもやる事があります。
飛行機の離陸を止める方法と昨日助けを求めた全ての人々を救うことを解決しなければなりません。
もしリンジーがその飛行機に乗らないような雰囲気にさせ引き留める事ができたなら飛行機は爆発しないかもしれない。
結局のところ運命はトゥルーの親しい間柄のハリソンをはじめルーク、ジェンセンそしてリンジーのように残酷な結果になる特徴がありました。
もしトゥルーがリンジーをその飛行機から遠ざけておくことができたなら運命は飛行機の乗客全員を殺す理由がなくなるかもしれません。
今彼女が全力でしなければならない事はジャックの事をどうするかということです。
---------------------------------------------------------------------------
明るく日当たりの良い通りエイブリーのアパートの前でハリソンは彼女が降りて来るのを待って歩道の縁に立っています。
トゥルーのだらしない弟は姉が『エイブリーと一緒に昨日は台無しにだった』と言ったので今日は好スタートをするぞ思いました。
彼女を連れ出して何かを買ってあげて万一後でリンジーに出会ったときバカな事をしないようにいつもよりもっと彼氏らしくして。
これまでのところ計画はうまくいっています。
エイブリーがまもなく降りて来てきたらCDや洋服などを見にモールに出かける予定で、大した計画ではありませんがまだうまくいっている又はそうなるようにと思いました。
「よお相棒…」
ハリソンはすぐに隣の縁石に立つジャックに振り返りました。
ハリソンはジャックがどこから湧いて出たのか辺りを見回しました。
「本当にやめろよな、ジャック。もしこっそり近付いて人違いしてたら動いているバスの前に突き出されるかもしれないぜ」
ジャックはトゥルーの弟を見るとニヤッとしました。
「お前は運命の邪魔をし人々を救って回る姉さんの味方かと思ってたんだが」
ハリソンはジャックに薄笑いをするとエイブリーを待つ間町並みや通行人を見続けます。
「そうかもな、でもあんたの気違いじみた理論によれば、俺が生きているってだけでもう運命の邪魔をしてる。
 だとしたら俺が姉さんに手を貸すかどうかそんなの問題じゃないだろ?」
ジャックは一瞬ハリソンをちらっと見ます。
「その通りだ、だがお前は本気で自問自答しなきゃならん。本当はお前の責任ではなかったのかとね?」
改心したギャンブラーは歩道の上のジャックの方に向いていぶかるような顔つきをしました。
「何の話だ?ジャック、」
ジャックはポケットに手を入れハリソンと向かい合うと説明をはじめました。
「よく考えてみろ、ハリソン。お前がまだ存在しているという事実は運命にかなりの波紋を広げるんだ。
 お前は毎日の沢山の人生に触れているんだ。たとえその事を実感していなくてもな。
 そして以前お前とリンジーはお互い深く付き合っていた。お前は今日の事故がお前のせいだという事を知ってるのか?」
ハリソンは1年程前に自分を殺ろそうとした人物をにらみつけます。
「俺のせい…?」
ジャックの笑みはより広がります。
「ああ、お前は運命がどうして生きているお前に制裁をしないのか分かるか?運命は忘れないんだ、ハリソン。
 お前が死んだはずなのに生きているという事をだ。それはただお前を消し去る事はできない。
 おそらく運命はお前から引き剥がす…リンジーをな」
ハリソンはジャックにとって好都合な言葉を考えるために一瞬ためらいましたが結局彼は姉の一番の強敵にただ目を泳がせました。
「どうでもいいよ、ジャック…」
死体安置所のスタッフが「死神」と呼ぶ男は自身の言葉への反応を窺うために一瞬ハリソンの目を見ます。
彼はトゥルーの弟に頭の向きを変えると相応な下地を仕掛けることができたこと満足していました。
彼はもう1つ別の考えをハリーの頭に吹き込むことにしました。
「おっと、俺はただ真実を話しているだけだ」
ハリソンはジャックをバカにした口調であざ笑います。
「あんたの言う真実って…」
ジャックはクスクス笑います。
「それは運命の真実だ、ハリソン。俺のじゃぁない。
 何故ジェンセンがトゥルーの元を去ったのか、そしてお前はなぜリンジーとうまくいかなかったのか。
 ふん!それは結局はエイブリーとの関係をだいなしにする」
ハリソンはジャックに対する怒りが少しづつ大きくなっていきます。
「俺の彼女に手を出すなよ」
ジャックは応える前に一瞬つまります。
「わかった、だがもし何が起きても、驚くなよ…」
「ハリソン…」ジャックは彼らに向かってくる元気のいい赤毛のエイブリーによって遮られます。
二人の男はエイブリーの方に向いて微笑みます。
エイブリーはボーイフレンドの隣にいる見知らぬ人に嫌悪感を持ちジャックの微笑みの意味が彼女を悩ませます。
彼女はジャックを無視しハリソンに近づくと彼にもたれかかって軽くキスをしました。
「よぉ、リンジー」ハリソンはエイブリーの指に自分の指を絡めるとすぐに自分の傍らに引き寄せます。
エイブリーはぶっきらぼうに「この人は誰?」と聞きます。
「あいつ彼は…」ハリソンはジャックの割込みによって遮られました。
「ジャック・ハーパーだ。また君に会えてうれしいよ。前にトゥルーのクリスマスパーティーで会ったと思ったけど…」
ジャックは手を伸ばし握手を求めるとエイブリーは彼に違和感を感じていましたが握手に応じました。
「エイブリー・ビショップ。それであなたはトゥルーの友達なの?」
ハリソンはエイブリーと姉の宿敵の間で背中をジャックに向けます。
「奴は友達なんかじゃないよ、エイブリー。無駄な時間を使うことはないぜ」
ハリソンはリンジーを急がせ離れようとしている間ジャックはただ見つめたままその場に立っています。
彼らが背を向けて歩きだすとジャックは彼らを大声で呼びとめます。
「会えてよかった」
エイブリーはいぶかるような顔つきでジャックを振り返えります。
一方のハリソンは振り返らずエイブリーと一緒に過ごすことを決心しました。
エイブリーがジャックから遠く離れていることはお互いにとって最も安全です。
---------------------------------------------------
トゥルーは洋品店ギャップの更衣室で試着したジーンズのスソ上げをして確認するとドアを開けて鏡のある場所へ出て来ました。
トゥルーは隣りの更衣室を見ると友人がまだドアの向こうにいることを確認しました。
トゥルーが鏡でチェックしているとリンジーが大きな声で尋ねてきました。
「それで、彼はあなたを捨てたの?」
トゥルーはリンジーがこれまでの数分の間に聞いてきた話題にため息をつきます。
「ええ、彼は捨てたわ。捨てたのがあたしだけなら仕方ないと思うしそれが彼の望んだ事なら毎日彼に会うことに対して我慢もする。
 でもあたしだけじゃなく学校もこの町をも捨てていった。彼がどこに行ったかあたしには分からない」
リンジーはズボンを履き終えると更衣室のドアを開けトゥルーのいるメインホールに出て来ました。
「まあ、あなたのような娘を振るなんてバカよね。でも彼があなたベッドで秘書といちゃついているのを見なかったことに感謝すべきよ」
トゥルーはそれらを買おうかどうかとジーンズのヒップを見るために腰をひねり鏡に映してチェックをします。
「そうなら本当によかったと思うよ」
トゥルーは言った瞬間、自分の発した言葉に後悔しました。
タイム・トラベラーのブルネットは心痛の面持ちで友人に顔を向けました。
「ごめん、そんなつもりじゃ…」
彼女が言い終わる前にリンジーはトゥルーを遮ります。
「大丈夫よ、気にしないで」
リンジーはトゥルーがこれ以上何言う前に自分の衣装のチェックに戻ります。
緊張の一瞬の後、リンジーは後方へ行くとトゥルーの方へゆるやかにモデルのようにターンをします。
「どうかしら?」
トゥルーはくるくる回るリンジーを見るとパンツを丹念にチェックします。
「よく分からないけど、あたしは後のポケットの形が好きじゃないなぁ」
リンジーはヒップをチェックするために止まって確認します。
「うーん、まあ私は結構気に入ってるけど」
そういうとリンジーは顔を上げ考え込んだ顔つきをしているトゥルーを見て尋ねました。
「どうしたの?」
「何でもない…」
トゥルーは更衣室の入口を見つめながら応えます。
彼女はエイブリーがもうすぐ現われるだろうということを知っています。彼女は秒を数えます。
リンジーとの話し合いがうまくいったという事でさえ彼女はコミュニケーションの不足で二人の間にはまだ緊張を感じていました。
彼女は話を持ち出すことをためらいました。
リンジーは彼らと一緒に昼食を食べてから今日の遅い便の飛行機に乗ることに決めていたからです。
トゥルーはどんな犠牲を払ってもこれから起きることを阻止しなければならないことを知っていました。
彼女は今日再びリンジーを失わないためにも。
リンジーはトゥルーの目の焦点が定まっていない様子に気付きます。
「トゥルー…?」
トゥルーの名前を呼ぶ友人の声に空想を無理やり追い払います。
「ん…?」トゥルーは困惑した様子のリンジーに振り返ります。
リンジーはあっけにとられた顔で笑います。
「私は少しぐらいの事じゃ変わらないよ」
「どういう意味?」トゥルーは尋ねます。
「コーヒーを飲んでる時も、買い物をしてる時も、いつでも何かしようとしたときあなたは常に他の事に気をとられてる」
リンジーはジーンズのウエストバンドの下で親指を動かしながら重苦しい気落ちしたため息をつきます。
「なんで私に同じように話してくれないの。あなたは皆に何か大きな秘密を隠してるの」
トゥルーは鏡に映ったリンジーの目に陰りが見えるのを感じました。
「ねえ、リンジー…」
「トゥルー…?」
エイブリーが色っぽい上着を持って更衣室の中へ入って来ました。
トゥルーとリンジーは赤毛の医学生に振り返ります。
不意にエイブリーが更衣室へ入ってきたのを見るとトゥルーは驚いた振りをしました。
「エイブリーじゃない…」トゥルーはリンジーとエイブリーの間に立つと二人の顔にもの言いたげな表情を受け取りました。
「ここで何をしてるの?」
エイブリーは手を上に上げ明るくトゥルーに微笑みます。
「何してるように見える?買い物だよ。ここで何をしているか聞かなくても分かると思うけど」
トゥルーは彼女が面白いほど素直に言ったことにクスクスと笑いました。
「そうね…」
リンジーが咳払いをするとトゥルーはエイブリーの紹介をしなかったことに気づきました。
「ああ、あー、エイブリー…こちらはリンジー。イギリスにいった親友が訪ねてきたの。
 リンジー、こちらはエイブリー。彼女は私と一緒にメディカルスクールに通ってる」
エイブリーは手を伸ばしながらリンジーに近づくとリンジーはその手をとり握手をします。
「こんにちは…」
エイブリーが戸惑った目をしたリンジーを見ます。
「こちらこそ…」
心地悪い沈黙が3人の間に漂います。トゥルーは緊張を破りエイブリーが手にした洋服を指します。
「すてきな上着ね、それ試着しないの?」
エイブリーは更衣室をざっと見回します。
「それをしに来たんだけど。ここは洋服を試着する場所でしょ?
 ハリソンはホールの向こうのレコード屋さんにDVD を見に行っているわ」
リンジーがジーンズを脱ごうと更衣室の中に戻ろうとした時、ハリソンの名前に反応し赤毛の彼女の方に向き直りました。
「ハリソンがここにいるの?」
リンジーは希望に満ちた声で尋ねます。トゥルーはリンジーの声色で昨日と同じように幸せを感じている事に気付きます。
リンジーは一瞬ハリソンの存在を考えると言葉を続けました。
「あなたはトゥルーと知り合いでしょ、それにもう昼食の時間になるしおなかも減ってきたから、
 ここの用がすんだらすぐに食堂に行って四人で食事しようよ?ねえいいでしょ」
その会話は昨日とまったく同じように行くことになってしまいました。
トゥルーは昨日より良くなった事を確認するためにエイブリーを見ました。
「あたしはいいけど、エイブリー?あなたはどうする?」
エイブリーはどう応えて言いか分からず一瞬トゥルーとリンジーを見ました。
彼女はリンジーの声に何かに期待している事を聞いていました。
まったく驚くことはこのブロンドの女性とボーイフレンドとの関係です。
多分もし一緒に昼食を食べればそれを理解することが可能かもしれません。
「いいわ…でもこれを試着してからね」彼女はトゥルーの隣りの更衣室に向かいながら言いました。
--------------------------------------------------------------------------
キャリーは再び死体安置所をまっすぐにデイビスのオフィスを目指して歩きながらデイビスに聞かれないように小声で携帯電話で話をしています。
「ありがとう、ジャック」
死体安置所の中にいたデイビスは外からの物音に顔を上げるとキャリーの出現にうれしい驚きを隠せません。
彼は今まで飛行機をどうにかして離陸させない方法を探っていましたが全く手がありません。
飛行機を地上にくぎ付けするように死体安置所から航空会社へ連絡する口実もなく、
もし実行すれば国土安全保障がすぐに彼をマークするかもしれない。
彼は本当に政府が死体安置所とそこで働く従業員、特に特別な能力を持つトゥルーのことを調査されるのは避けなければなりません。
望みがあるとすればキャリーの持つ運だけです。
キャリーはセクシーな微笑を浮かべデイビスのオフィスの中に入ってきました。
「ねえ、どんな調子?」
デイビスが椅子から立ち上がると掌の汗を拭い手で髪を梳かしました。
「ああ、キャリー…どうだった?」
キャリーは笑みを浮かべたままデイビスに近づきます。
「ええ、やってみたわ。
 国土安全保障に電話して、私の患者が飛行機をハイジャックかも知れないって言ったら、
 調査して必要なら飛行機を離陸させないって言ってたわ」
デイビスがこのニュースを聞いてほっとしたため息をつきました。
「それは本当かい…。そんなことできるなんて思わなかったよ」
キャリーは微笑みながら更に彼にぴったりと寄り添い彼のネクタイを弄びました。
「私がいて良かったと思わない?」
ずんぐりむっくりした死体安置所の係員は彼のガールフレンドに微笑みます。
「あ、ああ、そ、その本当に君がやってくれてうれしいよ…俺には何の手も打てなかったから」
スパイの精神科医は彼女のターゲットのネクタイをまっすぐにしました。
「じゃあ、うまくいったんだから、一緒にお昼を食べに行かない?
 通りの向こう小さいけど素敵なお店あるって聞いたわ。一緒に話でもしながらね」
デイビスが少し後ずさりして取り乱します。
「そ、そうだな…いいかも、楽しそうだ…今コートを取ってきたら、あー、行こうか」
キャリーの微笑はニッコリとした笑顔に変わります。
「素晴らしいわ…」彼女は入り口に足を向け歩き出します。
「行きましょう」
デイビスはすぐに白衣を脱ぐと1.5mほど離れたコートラックから通常のコートをつかみキャリーの後についてオフィスを出ていきました。
--------------------------------------------------------------
トゥルー、ハリソン、リンジー、エイブリーの四人は食堂のブースにトゥルーとリンジーその反対側にるハリソンとエイブリーが座っていましたが気まずい沈黙が漂っていました。
リンジーはハリソンとエイブリーにイギリスでの出来事をかいつまんで話し終えたところです。
誰も言葉を発する事ができません。
トゥルーは慰めの言葉をかけるとハリソンがエイブリーをブスッとさせるような事を言わないように確認ます。
エイブリーは全くハリソンとリンジーの事については何も知りません。
ハリソンはついに沈黙を破ることにしました。
「あー、俺はさぁ、最初っからランドルとうまくいくとは思ってなかったよ」
リンジーはハリソンの言葉に優しさを感じ微笑みます。
彼女はまだ大変彼のことを気にかけています。
そして彼女はそのような言葉にそれ以上の何か、
ランドルと結婚した事で手放そうとして決してできなかった感情を再び持つことができると思いました。
リンジーは親友に会って自分の人生を考え直すために帰省してきたけれども彼女の心のどこかではハリソンとの間に何かが起きる事を期待していました。
「ありがとう、ハリソン…」
エイブリーはリンジーが自分の彼氏を見る目に嫉妬心が芽生えました。
今はハリソンは自分の彼氏でありこのブロンドの若い女のものではありません。
エイブリーはテーブルの上に手を出すとハリソンの手に自分の手を重ねしっかり握り締めリンジーの反応を確かめます。
リンジーはハリソンへのエイブリーの突然の行動を見せ付けられ動揺し深く座り直しました。
トゥルーは状況を打破するために慌てます。
「リンジー、あたしねぇ…」
リンジーはブースから出ようとします。
「私、私化粧室に行ってくる、すぐ戻って来るわ」
トゥルーは彼女の後を追おうとし席から出ようとした途端、ジャックが彼女の行く手を遮るようにブースに滑り込みました。
「トゥルー、これはこれは、なんとも奇遇だな?俺は食ものを買いに来たんだ。
 あれー、俺が座ったって言うのに挨拶もしてくれないのかい?」
ジャックはブースに座っている3人を見回すと2人は冷たい顔つきをしもう1人は困惑した表情を見て微笑します。
トゥルーが最初に口火を切りました。
「こんにちは、ジャック。今すぐあたしの前から出てって」
ジャックはトゥルーの言葉に耳も貸さず動こうとはしません。
「なんでかなぁ、デイビーズ家の誰かと会うといつも俺の対して過激な口の聞き方をする。俺は何か悪いことをしたのか?」
最初にトゥルーそしてハリソン、ためらっているエイブリーを見ます。トゥルーはジャックの発言に応えました。
「じゃあ言い直すよ、ジャック、あたしが外に出られるように今すぐブースから出てってください」
今度はジャックはゆっくり立ち上がるとリンジーを追いかけようとするトゥルーをブースから出します。
「まあいいだろう、でも俺はトゥルー、君に重要な話しに来たんだが。特に飛行機が今日遅く発つと事でね」
トゥルーは化粧室に向かい始めましたがジャックの言葉に向きを変えてました。
彼女は彼の冷淡な言い方に戻らざるおえませんでした。
トゥルーはエイブリーとハリソンから離れていることを確認すると話しだしました。
「何をたくらんでいるの?ジャック」
降参したかのように元死体安置所職員は手を上げます。
「何にも、俺に一体何ができるんだい?
 君は飛行機を止めようとしている。俺がしなければならない事は離陸するのを待つことだ。乗客は俺のために永眠をする」
トゥルーはいぶかるような顔つきで彼を睨みつけます。
「乗客があんたのために永眠をするってどういう意味?」
「まあ、ただ今日の午後4時30分にイギリスにフライトする予定の危ない連中がいる。
 もし他の乗客を生き残したいなら飛行機じゃなく乗客を乗せないことだ」
彼はトゥルーから後ろ向きに離れていきます。
「もし君が必要なら彼らの名前を教えてもいい。全てここに入っているからな」
彼は記憶してるよとばかりにこめかみを指で叩きます。
「でも、多分君の事だ飛行機を離陸させない方法を見つけたようだな」
カウンターの後ろでウエイトレスが注文の出来上がりを告げます。
「ハーパーさんはどなたでしょうか?」
ジャックはトゥルーに微笑むとウエイトレスへ向き直り食べものを受け取ると代金を支払い行ってしまいました。
死体安置所アシスタントのタイムトラベラーはジャックの言う事に一理あることを認めるのは非常に癪にさわりました。
彼女はリンジーに掛かりっきりでほとんど飛行機の事を忘れていました。
トゥルーは携帯電話を取り出すと死体安置所に電話します。
呼び出し音が数回鳴った後死体安置所の留守電のメッセージにデイビスがどこかへ出かけたのかと思いデイビスの携帯電話へかけ直しました。
5、6回の呼び出し音の後カチッといういつも聞く電話にでた時の音が聞こえました。
「デイビス?」
「ん、あー、やあトゥルー…」デイビスは電話に集中するために繕いますがキャリーは邪魔をしてきます。
トゥルーは彼の繕うクセがいやでした。
「デイビス、どうやって飛行機を飛ばさないようにしたの?
 ジャックが今現われたわ。あいつが言葉からすると飛行機にテロリストが乗るって事だと思う」
デイビスは応えようとしましたがキャリーのちょっかいにクスクスと笑ってしまいました。
「トゥルー、それはそうかもしれないがジャックが君にそう思わせようとしているのかも。
 それに飛行機のことは心配しなくてもいい、それは俺がちゃんとやっておいた」
トゥルーはデイビスの言うことにショックを受け立ち直るのに少し時間が必要でした。
彼女は飛行機を地上にくぎ付けするなんてほとんど不可能だろうと思っていました。
「どうやっったの?」
「あー…お、俺は国土安全保障に電話して、そして俺の知っている者が飛行機を破壊しようとしていることが心配だと言ったんだ。
 彼らは乗客のチェックを完了するまでフライトさせないと言っていたよ」
デイビスはキャリーに手助けしてもらった部分を言わずに説明しました。
「えっ、ほんと?やるじゃない。でもまだ油断しない方がいいわ。
 今は3時45分、航空会社に電話をして飛行機が飛ばない事を確認してもらえる?」
トゥルーは電話の向こうにレストランの騒音を聞きながらデイビスに頼みました。
「もちろんだトゥルー、問題ない。すぐに電話をしてみるよ」
トゥルーは博識のデイビスがサポートしてくれている事にホッとしたため息をつきました。
「デイビス…ありがとう」
デイビスが再びクスクスと笑います。
「前にも言ったけど君のためにやっていることだ。何か変化があったら連絡する」
「分かった、また連絡するよ、デイビス。」彼女は携帯電話を閉じると身近な問題に戻りました。
トゥルーがリンジーの後を追い化粧室に行こうとした時ジャックの邪魔によって阻止されてしまいました。
彼女は化粧室に向かおうとした時リンジーは化粧室から出てきてまっすぐこちらに向かってきました。
トゥルーは手にコートを持ったまま彼女のところに行きます。
リンジーはコートを脱ぐとブースに座っているハリソンとエイブリーの方に向きましたがどう見ても気が動転しているようです。
「あのね、私あなたに、エイブリーに会えてよかった…ハリソンにももう一度会えてよかったと思ってる…
 でも、あー私、もう帰ろうかと思う」
ハリソンとトゥルーはこの流れは良くない事だとお互いを見ました。
トゥルーは思い切って話しだします。
「いいえ、リンジー、お願いだからここにいて。映画でもクラブでも何でもいいからさ、どこか行こうよ?」
ハリソンは姉の援護をします。
「ああ、そうだよ。4人で多いに楽しもうぜ」ハリソンはエイブリーが手を少しきつく握るのを感じました。
リンジーは少し考えるとその提案を退けます。
「いいの、わ、私はもう家に帰るつもりでいるから。まもなく出発する便があるはずだから。
 オープンチケットの利点は帰りたいと思ったらいつでも帰れるから。またいつかあなたたちに会えるわ」
彼女は向きを変えるとトゥルーのそばに来ると最後の言葉をかけます。
「いい休暇をありがとう。トゥルー」
トゥルーは彼女の弟とエイブリーを見ます。
「ちょっと行って来る…すぐ戻るから」
言葉と同時にトゥルーは踵を返すと食堂から出て行くリンジーを追いかけていきます。
外に出ると彼女はリンジーがタクシーを呼び止めるために縁石に立っているのを見つけました。
「リンジー…」ブロンドの友人はトゥルーを見ますが返事はしませんでした。
彼女はタクシーを呼び止めるために手を上げています。
「ねえ、あなたがあそこで見た事は悪かったと思ってる。
 ハリソンとエイブリーは今付き合ってるけどそれはあなたが帰る理由にはならないでしょ」
リンジーは一瞬トゥルーの方をちらっと見ますがすぐに通りの方へ顔を向けました。
「どうして…?それが帰る理由にならないって言うの」
トゥルーはリンジーの言葉に傷ついているように感じました。
「そうなの?リンジー。どうしたの、あなたはここで生まれ育ってきたんでしょ。
 何か他のことだってできる。どこか別のマーケティングの会社で仕事をしたっていいじゃない。できることがきっとあるはずよ。
 ハリソンのことで縛られる必要はないの。帰らないで、お願い…」
タクシーが縁石に乗りつけて止まりました。
「そんなことできない、ごめんね、まだ心の準備もできてないしランドルとの離婚を解決しに戻らないと」
リンジーの親友は彼女に帰らないように説得します。
「ええ、でも今そのことをしなくてもいいじゃない。あと1日待って」
リンジーはトゥルーを見るとタクシーのドアを開けて中に入ります。
「そんなことできない」
トゥルーは彼女が空港に行くのを阻止しなければならないことにため息をつきます。
たとえ飛行機が地上にくぎ付けにされているとしてもリンジーの乗った別の飛行機が爆発しないという確信はありません。
腕時計を見ると腕時計は午後3時59分を指しています。
リンジーを一人で行かせないようにタクシーの前に回り運転席の窓からリンジーに聞こえないように運転手に言います。
「ねえ、空港が見えるルートを通ってくれる?」彼女は10ドル札を運転手にそっと手渡しました。
彼は紙幣を見ると軽くうなずきました。
トゥルーは後部ドアを開けるリンジーの隣に乗り込みます。
「いいわ、行きましょう」
タクシーは縁石から離れて空港に向けて動き出しました。
リンジーは彼女の行動に少し気分を害し隣りに座っているトゥルーを見ます。
「トゥルー、あなた何をしてるの?」
「ねえ、まだあなたはすぐに帰るべきじゃないと思う。
 つまり、あなたはここに着たばかりじゃない。
 でももしもあなたが本当に帰りたいなら親友にちゃんとしたお別れもしないで帰らせるわけには行かないわ」
あきらめたリンジーはほんさっき目の前で起きたことに苦痛のため息をつきます。
「分かったわ…」
-----------------------------------------------------------------
トゥルーは昨日の体験と同じように空港に向かっているタクシーの中で親友の隣の席に座っています。
彼女はこれから起きることを恐れています。昨日はリンジーが死んでしまいました。
飛行機は地上にくぎ付けされていると確信してはいるけれども、
もしリンジーが他の飛行機に乗ったならそれが昨日と同じ運命を引きずることになるかもしれない恐れを抱いたまま、
まさにその空港に向かっています。
彼女はチラッとリンジーを見ますがリンジーが振り返ると結局は目を逸らしてしまいます。
トゥルーは昨日もそうしたように沈黙を破ることに決めます。
「リンジー…」
「私はバカだったわ」彼女はトゥルーを遮って言います。二人は目を合わせると話を続けます。
「あなたはバカなことをはしてないよ、リンジー」
トゥルーは友人に自信を持たせようとします。
「ハリソンが私を待っていてくれるものだと思って戻って来た。戻って来て分かったのは私が捨てられたことよ」
話している間リンジーの目は下を向き膝の上をさまよっていました。
トゥルーは彼女の言う事が正しいことにため息をつきます。
「そうかもしれない、けどハリソンが別の人と付き合ってるからってあなたがここにいちゃけないって事はないでしょ。
 ランドルがあなたを裏切ったのにイギリスにどんな未練があるっていうの。
 ここでもう何日か泊まっていきなよ。明日イギリスに帰ったとしてもすぐに離婚が成立するわけ、どうなの?」
「ううん、すぐには無理よ」
「それじゃぁ2、3日ぐらいこっちに泊まっていきなよ。今すぐ帰らなくてもいいじゃない?
 イギリスとランドルから離れるためにあなたはこの町に戻ってきたんでしょ。戻ってきて少しも役にたたなかったっていうの。
 たった一人であの場所に戻ってどうするっていうの。でもここにはあなたのことを心配する人達がいる。
 だからリンジー、思い直して。週末までの予定を立てていたじゃない」トゥルーは危険を冒して最後の一言を言いました。
リンジーは友人に振り返るとあきらめたようにため息をつきます。
「分かったわ、泊まっていくわ」
トゥルーは彼女の友人の早すぎる死を救ったことに微笑します。
「うん、よかった…」
トゥルーは運転席の方へ体を寄せると運転手に話かけます。
「タクシーの向きを変えてくれない?空港の代わりに元の場所に戻ってほしいの」
タクシーは向きを変え空港から友人が離れていくことにトゥルーの気持ちは軽くなっていきました。
-------------------------------------------------------------------------------
トゥルーは冷蔵庫のフリーザーを開けるとリンジーに渡したクッキー用にチョコレートアイスクリームの容器を出しました。
彼女は親友の方を向き微笑むと二人はお菓子を食べるためにソファーに戻りました。
トゥルーがソファーに跳ねるようにドサッと座るとリンジーもまねをして座りました。
「ねえ?6時間も飛行機に揺られてさバンガーズ・アンド・マッシュを食べてるよりずっといいと思わない?それが何でもさ…」
リンジーはコーヒーテーブルからリモコンを取りTVをつけるとロマンチックコメディが映りました。
別のチャンネルに変えるとアナウンサーがニュースを伝えています。
「本日の悲惨なニュースは今日の午後イギリスへ向かう740便が離陸の途中で爆発しました…」
トゥルーは画面に映る炎上しているシーンと音声に顔を蒼ざめさせチャンネルを変えました。

お終い

言葉のごった煮>トップへ