言葉のごった煮>トップへ

TruCalling VirtualSeason3
(トゥルー・コーリング バーチャルシーズン3)

3x07 Crazed:クレイジー
作者: Erin
翻訳:Mhorie

エピソード 3x07: Crazed クレイジー
Airdate: 2006.06.25 公開(本家サイト)
あらすじ: アナベル・ウィンターズは新進気鋭の映画スターで何千という熱狂的なファンとハリウッドホットスポットのVIPリストにも載る全てを手に入れた女優です。その彼女の死を誰が望んだのか?トゥルーは若手女性スターを救うために疾走するとき、レポータのミッシェルからの新しい疑惑を避けなければなりません。

「アナベル!」
「アナベル!こっちよ!」
スタイリッシュな白いトレンチコートと大きな黒いサングラスを身につけた魅力的なブロンドの若い女性が
書類の束を抱えた背の低いもう少し年嵩の女性と
どう見てもボディーガードだと分かる黒いスーツを着てがっしりしたアフリカ系アメリカ人の男に両側を挾まれて無印のステージドアから出てきました。
半狂乱になって写真を撮ったり若手女優にサインを貰おうと彼女の写真を掲げて振り回すファンの人垣できていました。
アナベルは優しい微笑を浮かべ、大きなブランド物のハンドバッグを持たない方の手で集まってくれたファンに対して手を振ります。
「こんにちは、皆さん」
彼女は楽観的な表情で脇にいるボディーガードをちらっと見ます。
「いいかしら?」
彼はため息をつきます。
「少しだけですよ。早くしてください」
彼女はボディーガードに溢れんばかりの笑顔を返し素早く一番近くのファンの所へ行きました。
そして彼女の写った大きな写真を受け取ると、サッとコートのポケットからサインペンを取り出します
「かわいいわね、あなたのお名前は?」とアナベルは12才ぐらいの女の子に聞きます。
「ケイシーよ」彼女は興奮した甲高い声で今にも倒れそうに見えます。
アナベルはサインを写真にスラスラっと書いて少女に渡すと次のファンへと移ります。
ボディガードはファンがあまり近づかないようにしながらアナベルの脇にイライラしながら立っています。
もう一人の女性は既に道路に待っているリムジンに向かいます。
アナベルは誠意を持ってサインをしたり若いファンと一緒に写真を撮るためのポーズをするのさえ彼女の自然の魅力と立ち振る舞いは輝いています。
「オーケー皆さん、ウィンターズさんは次の場所に行かなければなりません」とボディーガードは大声で告げるとリムジンに向かわせるために手をアナベルの背中にかけます。
サインを書いてもらったラッキーな人達は興奮して飛び跳ね、ファン達が「さようなら」と叫ぶとアナベルは最後にファンに向かって手を振ります。
リムジンの中へとアナベル・ウィンターズはマネージャーの隣にサッと滑り込み、ボディーガードは助手席に座ると運転手に目的地を告げます。
「アナベル、あなたはいつも私を驚かせてくれるのね」と彼女のマネージャーは頭の振りながら言います。
「たいていの女優はいつも大騒ぎになるからサインするのが嫌になるもんだけど」
アナベルは軽く肩をすくめるとハンドバッグからコンパクトを出して鏡を覗き込みます。
「私は皆が好きなのよ。あの娘たちは私を慕ってくれるわ、そのためなら数分ぐらい惜くわないわ」
マネージャーは再び頭を振ります。
「まあ、いいわ、これからシックスティーンマガジンとのインタビューがあるから。
それが終わったらしばらくの間家に帰れるわ、でも先週からの撮影の続きがあるから今晩また戻って来なければならないわ」と彼女は書類の束の一枚を見ながら言います。
アナベルはヌードカラーの口紅を塗っています。
「聞こえてるわ」
「ああ、それからベティー・フォードのスポークスマンにその契約についてブレイクに話をする必要があるわ」と彼女が続けます。
「抜け穴がないように確認しておいてね」
若いスターは顔に怪訝な表情を浮かべました。
「ええ…でもそれについてはさあ、ブレイクはもう私の代理人じゃないの」
マネージャーは目を大きくしてアナベルに振り返りました。
「からかわないでよ、アナベル。あなた、自分の弁護士をクビにしたの?私にいつ話すつもりだったのよ?」
彼女は肩をすくめます。
「ごめんね、ブレンダ。そんなに大事な事だと思わなかったのよ」
「当然ながらそれは重大なことよ!私に相談もしないでそんな重要な事を決めたの?」
ブレンダは非常にストレスが溜まった声で言うと、アナベルはマニキュアを塗った手を上げます。
「落ち着いてよ。私が何とかするから。ソフィーって知ってるでしょ、映画の共演者の?
彼女が弁護士を紹介してくれたんだ、キャロル何とかっていう人。
彼女の名刺は持ってるから後で電話して彼女に私の代理人をしてもらえるように頼むから。 それで全てOKでしょ」
ブレンダは少し落ち着きを取り戻しました。
「いいわ。自分の管理下に置きたいって聞こえるけど。だけどまじめな話、本当に重要な代理人を変えてもいいの?」
リムジンが高層ビルの前に駐車場に入ると話し合いは中断しました。
アナベルはもう一度コンパクトミラーで顔を確認するとコンパクトをハンドバッグに戻しました。
「着いたみたいね」
アナベルはブレンダの方に向くとブレンダの肩に軽く手を掛けました。
「何にも心配しなくていいの。全てこっちで抑えてるから」
アナベルはマネージャーに本当に魅力的な笑みを向けました。
ボディーガードは自分の依頼人のためにドアを開けました。
アナベルは素早く車を降りると彼女の長い髪は後ろに流れ、完ぺきに絵に書いたような優雅さとスターダムを持っていました。


「それでさあ、姉さん、どうなの?」
ごく普通のダイナーでハリソンはテーブルの反対側にいる姉を見つめながら抑揚のない声で心配して訊ねます。
トゥルーはコーヒーカップをしっかり握ってハリソンの視線から目をそむけました。
「いつも通り、元気よ」
「そうじゃないだろ。知ってるんだぜ、姉さん」
ハリソンは内緒話をするためテーブルの上に頭を突き出し辺りを見回します。
「姉さん、その飛行機、リンジーが乗るはずだった飛行機だよ。爆発したろ、姉さん。その事で悩んでないなんて事はないだろう」
「そんなことはないよ」と彼女は声を潜めて言いました。
「済んでしまった事は仕方ないわ、ハリソン。あたしは学んだの」
ハリソンは気遣ってトゥルーを見ます。
「じゃあ、何で事故が起きたと思ってるんだ?つまりさ、デイビスが飛行機の手配をしていたって言ってただろ?」
「そうよ。あたしはデイビスがやってくれたんだって思ってる。
デイビスもあたしと同じぐらいへこんでるわ。
でもあたし達はリンジーを助ける事ができたじゃない」とトゥルーは認めました。
彼女はコーヒーカップの底を見つめます。
「それはもう起きてしまったことよ。本当にもう一度一日をやり直して、あの人達を救えたらどんなにいいかと思ってるけど、それはできないわ。
だから今あたしができる事は一生懸命やるってことよ。次にやり直す日がきたら、何が何でもやってみせるわ。
あたしはまたあんたを失いたくないんだよ」
彼女の声は小さくなっていきました。
「そんな思いはしたくない」
ハリソンは悼ましそうに微笑します。
「そうじゃないだろ、姉さん。
なあ、俺達は誰でも失敗するんだ、分かるだろ」
『大抵の人の失敗では沢山の人が死ぬことはない』と彼女は思いました。
あの事故からほとんど毎晩、目を閉じれば彼女に助けを求める人達の顔が夢の中に現れていました。
しかしその事はすでに失敗に終わった事でした。
そして彼女は二度と同じような事を起こさせないと誓う以外何もありませんでした。
彼女は話題を変えるために一旦沈黙しました。
「それで、エイブリーとはどうなの?」
ハリソンはしかめっ面になりました。
「ああ、リンジーが来たことでちょっとギクシャクしてる、エイブリーは…
俺には分からないよ、少し冷めたのかも。でもそれは、若い娘特有のジェラシーだと思う。
俺は彼女がそれを乗り越えると思うよ」
トゥルーはハリソンの顔を見ます。
「ハリソン、エイブリーの嫉妬がどこから来てるのか理解する必要があるわ。
つまりね、あんたとリンジーの間には何かがあったのは事実。
エイブリーと付き合ったのはまだ日が浅いから、それで彼女は少し不安になってるの」
彼は何気に肩をすくめます。
「まあ、そうだと思うけどさ」
ウエートレスがテーブルの上に勘定書きを置くと二人は笑顔で応えました。
それからハリソンはいつもと同じように勘定書きを見て心配そうな顔でトゥルーを見ます。
彼女は手を伸ばして勘定書きを取るとため息をつきました。
「サンキュー、姉さん」とハリソンは感謝します。
トゥルーの目はあきれたと言わんばかりになりました。
彼女はハリソンが今までに片手で足りるぐらいしか朝食の代金を支払った事がないと指を折って数えてしまいました。
トゥルーはテーブルの上に勘定を置くと二人はテーブルから立ち上がります。
「それで今日の予定はなんだい?」
ハリソンは尋ねます。
トゥルーはドアから出ようとしましたがテイクアウトの袋とトレーにコーヒーカップを3つ乗せてバランスをかろうじて取っている女性を先に行かせるために止まりました。
女性は感謝の意を笑顔で応えドアから慎重に出て行こうとしました。
トゥルーは弟の質問に答えるために口を開きかけましたが悲鳴によって遮られました。
トゥルーは激怒し金切り声を上げてドアの外に立っている女性を見ると、
女性の持っていたコーヒーが歩道一面にぶちまかれ、野球帽をかぶった男がものすごい勢いで謝っていました。
「ちょっと、どうしてくれるのよ!」と女性は金切り声で叫びます。
「申し訳ありません、弁償しますから」と男は申し訳なさそうに言います。
女性はただ彼をにらみつけます。
「どこかに入るときは気をつける事をね」
女性は嵐のようにダイナーから立ち去ると客達もその場を離れ、通行人達はその場であっけに取られていました。
トゥルーとハリソンはお互い見交わし野次馬の群れを突破しようとしたとき疲れきった顔をしたウエートレスが歩道の片づけをしに出てくるのに立ち会いました。
トゥルーとハリソンは歩道に出るとお互いさよならを言って、その日のお互いが共有した終わりと始まり各個人の生活へと戻るため別々の方向へと向かいました。
トゥルーは通りを歩きます。
外は素晴らしい日で、通りには早朝のジョギングをする者、買い物客、出勤途中のビジネスマン、いつもと一緒でかなり混雑していました。
彼女は新聞スタンドを見つけると雑誌を見て立ち止まり一部を取り上げてぱらぱらとめくりました。
彼女は誰かがそばに来たのも全く気が付かないほど没頭します。
「おはよう、トゥルー」と聞き覚えのある声がしました。
トゥルーは心の中で罵って雑誌で顔を覆うと目を閉じました。
彼女はちょうど今会いたくない気分です。
彼女はゆっくりと雑誌を下げるとミッシェル・キャリー記者が目の中に飛び込んできました。
「こんにちは、ミッシェル。実は、帰る途中なんだ、後でまた会いましょう」
彼女は素早くラックに雑誌を押し戻して早足でその場を後にしますがレポータは素早く追いかけるとトゥルーの行く手をふさぎました。
ミッシェルがトゥルーの目を見つめるとトゥルーの表情は鋼鉄のように固くなります。
「悪いんだけど」
「別にあなたが明日そのスタンドに立ち寄って新聞の表紙に自分の事が書かれてもいいっていうんなら、私の話を聞かなくてもいいけど」とミッシェルはいつも以上に強引で危険な含みのある態度で言います。
トゥルーは驚いて頭を振ります。
「あたし達、この問題は解決したはずじゃないの。何があたしから聞きたいっていうの?」
「740便のことについてよ」とミッシェルは即答しました。
ミッシェルの言葉にトゥルーの顔は段々と蒼ざめてきました。
「何の話をしてるのか分からないわ」とトゥルーは乱暴な口調でレポータにつぶやきます。
けれどもミッシェルは腕を伸ばしトゥルーを捕まえ、そして彼女にはったりを言います。
「ふーん、でも私は知ってるのよ。見て、証拠を持ってるの」
ミッシェルはトゥルーを放すとコートのポケットから手帳を取り出しページをめくり読み始めました。
「いいかしら、740便がイギリスに出発する予定日の午前11時20分に、あなたがその便について尋ねていた事を知ってるわ。
そしてそれから」と彼女はページをめくって続けます。
「その晩、あなたはタクシーの運転手にお金を渡して『空港が見える道を通って』って言った。
740便が出発する予定の同じ空港のね。
それから、あなたは戻ってきて飛行機が滑走路上で爆発するほんの数分前にアパートに戻った」
彼女は勢いよく手帳を閉じるとトゥルーを見ます。
「それは何かがその飛行機に起ころうとしていた事を事前に知っていたように思えるわ、トゥルー、
そしてもしそうなら多数の死者に関してあなたには責任があるんじゃないのかしら」
トゥルーは驚き彼女を呆然と見つめました。
「それじゃあ何の証拠にもなってない」
トゥルーは一瞬中断すると慌てて考えました。
「友達のリンジーがイギリスから来てたの。
彼女はその便に乗ろうとしてた、だからどうして帰ろうとしたのか尋ねたわ。
そしてタクシーの運転手にあたし達が話し合うことができるように遠回りしてくれるように頼んだ、そしたら彼女はここにいてくれるって決めてくれたの。
その飛行機で起きた事をTVで見たときあたし達は震え上がったわ、だから彼女がその飛行機に乗らなかったのは奇跡なのよ」
ミッシェルは深く息を吸い込み、ゆっくりとうなずきました。
「あなたの話は説得力があるわ。
もしこれがあなたにとって初めての事なら、あなたを信じたかもしれないわね」
ミッシェルは唇を尖らせます。
「これは重大なことよ、トゥルー。その飛行機で人が沢山死んだの。
もしあなたがこの件に関係しているなら…。必ず見つけ出すわ」
彼女は最後の不吉な言葉を言い終えるとトゥルーを一瞥して歩道の向こうへと歩いていってしまいました。
そしてトゥルーはミッシェルの後ろ姿を見つめたままそこに立ち尽くしていました。


その日の晩、トゥルーは仕事のために死体安置所の中へと入ります。
デイビスが机の前に座り何かに熱中していました。
彼女が中に入ってコートを掛けたとき彼はトゥルーに気がつきました。
「ねえ、今日誰に会ったと思う」と彼女は険しい顔をして言います。
デイビスは興味深かそうに夢中でやっていたクロスワードパズルから顔を上げました。
「誰だい?」と彼は興味を持って尋ねます。
「ミッシェル・キャリーよ」
トゥルーはひと呼吸おきます。
「彼女、飛行機について聞いてきたわ」
デイビスはトゥルーに注目しました。
「飛行機って?つまり…その飛行機ってリンジーが乗るはずだった?」
トゥルーはうなずきます。
「明らかに彼女はまたあたしの事をかぎまわってるようね。
彼女はあたしがその日に空港でその便について尋ねた事や、タクシーの運転手にお金を渡して遠回りしたこと、中途で引き返したことを知ってるって言ってたわ」
デイビスは話を促します。
「彼女はその事について何をしようとしてるんだろう?」
「分からないわ。願わくば何もない方がいいけど。でもゾッとしたわ。ものすごい決意みたいだったから」
トゥルーは心配顔になりました。
「それは妙だな。前に君がコンサートで彼女に会ったとき、もうあきらめたようだって言ってなかったか」とデイビスは考え込みました。
「その通りよ、でもそれは最初の日。やり直した日では彼女に会わなかった、そしてあなたは少し状況が変わったんじゃないかって言ったと思ったけど」
トゥルーは何かを理解しました。
「デイビス、多分ミッシェルはステージの上にいるあたしを見たのよ、その時銃の発砲はなかったけど。それがおそらく彼女がまたあたしの事をかぎまわり始めた理由よ」
今度はデイビスが心配顔になりました。
「まあ、彼女は何の証拠も持ってない。ただ大きく出ただけのことだろう」
トゥルーは確信が持てないというように頭を振ります。
「そうだとは思うけど、でももっと…彼女の場合ことは複雑だよ。あんな思いまたしたくない。
やり直した日にジャックを相手にするのだって面倒なのにミッシェルのことまで心配しなくちゃならないなんて」
デイビスはゆっくりと机に背を向けます。
「まあ、俺達が今できる事は何もないな。次のやり直しがあったら特に注意をする事しか。
人前で君が何かしてると悟られないようにするんだ」
「デイビス、そんな事できないよ、こんな状況で悟られないようになんて。あたしはしなくちゃならない事をするだけだよ」とトゥルーは断言しました。
彼女はいらついているような声で。
「もう終わったと思ってた、彼女の命を救った後これでおしまいだと」
「彼女はレポータだ。君が仕事熱心なのと同じぐらい彼女も記事を探す事に一生懸命なんだろう」とデイビスは指摘するとクロスワードパズルに戻りました。
トゥルーは椅子に座って足を投げ出すとため息をつきました。
「そうよね」
「エネルギーフィールドから連想する4文字の単語ってなんだい?」
突然デイビスは鉛筆で机を軽くたたきながら尋ねました。
トゥルーはちょっと考えて頭を横に振ります。
「分からないわ」
「Aura(オーラ)」とドアの方から声が聞こえてきました。
二人はドアの方に振り返るとキャリーがドアのところに立っているのを見ました。
彼女は仕事には不向きな古風なタイトスカートとブラウスアンサンブルを着ていました。
彼女はいつもの自信に満ちた微笑を浮かべ、トゥルーに頷くとデイビスの背中を見つめていました。
彼女が全く素晴らしいというように彼は彼女にほほ笑みます。
「それはAura(オーラ)よ」
デイビスは喜んで大急ぎで書き込むとキャリーは彼に向かって歩きます。
トゥルーはキャリーがデイビスに近づき彼の机に手を着き軽くデイビスの肩に手を掛けるのを見ていました。
トゥルはデイビスがたじろぐのではと気づいたときにはもう遅く二人の距離が大接近した事に気づいたデイビスは驚きました。
「おじゃまだったかしら?」
キャリーは二人を見比べながら何気に尋ねます。
「仕事の話をしていたのかしら?」
彼女の声の調子では死体安置所についてではないことを示唆していました。
「ダメよ」とトゥルーが軽く言います。
彼女はまだデイビスがキャリーと秘密を共有していたことに少し憤慨していました。
トゥルーはデイビスとすでに和解してはいましたが彼女は心理学者の周りにはまだ謎の部分がありキャリーを信頼するには程遠いものでした。
キャリーは我が物顔でこの場所で振る舞いそしてデイビスにも、それがトゥルーの悩みの種でした。
3人は一瞬少し居心地の悪い静寂になりましたが、突然声が割って入ってきました。
「入いるぞ!」
トゥルー、デイビス、キャリーの3人はなじみ深いガルデズの声にシャキッとしました。
段々と廊下を通って近づいてくるいつも聞きなれたストレッチャーの音は今のトゥルーには心地悪く感じました。
ガルデズが視界に入って来きて収容室へストレッチャーを引っ張って来るとトゥルーとデイビスは立ち上がってキャリーを押しのけガルデズの方へと行きました。
「今晩は何があったんだ?」
デイビスは死体袋の前に立つと暗澹として尋ねます。
「残念だよ、本当に残念な事だ」ガルデーズは神妙な声でそう言うとバッグのチャックを開け全員に犠牲者の顔をよく見せるために大きく開きました。
「彼女、どこかで見たような」とキャリーが突然言います。
キャリーがそこにいたことを思い出した3人は少し驚きました。
トゥルーは少しいらだってキャリーを横目で見るとすぐ遺体に目を移しました。
その女性は20代前半、長いブロンドの髪をしていてそして美しい顔立ちをしていました。
死んでいるにも関わらず彼女のメイクアップはほとんど完ぺきで彼女の顔は穏やかな表情をしていました。
どう見てもこの若い女性は非常に身なりが良かったことは明白でした。
「そうね」とトゥルーも認めます。
「確かにどこかで前に彼女を見たような気がするわ」
「そりゃ見た事はあるはずだぜ」とガルデズが説明します。
彼は少しみんなの気を引きます。
「彼女はアナベル・ウィンターズだ。女優のな?
彼女は2年前にティーンエージャーショーやLAシークレットだとかでビックヒットしたんだ、
そして今彼女はどこかの大作映画を制作してる最中なんだ。いや、だったになるな」と彼は少し悲しそうに言います。
「遺体はどこで発見された?」
デイビスが死体を調べるために近づきながら難しい顔つきで尋ねます。
「彼女のアパート…いい場所だ、付け加えるなら、河川を臨む新しい高級な建物のペントハウスだ。
デリバリーの男が遺体を見つけた、そいつが言うには注文品を持って行ったらドアが開いていたんで中に入ってみると床の上に大の字で倒れていたんだとさ」
彼は悲しげに頭を振ります。
「若すぎるよな。恐らく皆も思うはずだぜ、人気上昇中だったもんな」
デイビスは遺体袋のチャックを全開にすると高級そうなジーンズと黒い上着で覆われた背の高いほっそりした体格が露になりました。
「傷害の所見はないな」と彼は自分に言い聞かせるように言います。
もっと詳しく見ようとする彼の表情は真剣になりました。
「どこも異常なところは見受けられないな」
「彼女が死んでいること以外はね」とキャリーが指摘します。
トゥルーは眉を吊り上げました。
「まったくね」
彼女は遺体を観察するとデイビスに顔を向けました。
「毒かも」
「論理的な結論だ」と彼が同意します。
「毒物検査をするまで断言はできないが」
「あのー、誰か来て待ってるみたいだけど」とキャリーが廊下を指差してささやきました。
皆が振り向くとブロンドの短い髪をした40代半ばの背が低い女性がいました。
「あたしが行く」とトゥルーが言うと急いでドアの外の廊下へと行き女性のそばに来ました。
「あのー?あなたは…遺体の確認に?」
女性はショックで凝視したままゆっくりと頷きました。
「ええ、は、はい」
彼女は明らかに自分自身を落ち着かせようとして一生懸命こらえます。
「こんなはずはないわ、アナベルのはずがない…」
トゥルーが見るとデイビスはまだ遺体の検分をしていてキャリーとガルデズが少し離れた場所に立っていました。
「彼女とどのようなご関係でしょうか?」とトゥルーは穏やかに尋ねます。
「私は彼女のマネージャーです」と女性は説明します。
「私の名前はブレンダです…ところで、でも、ええ、アナベルが起きている時間はほとんど一緒にいます」
彼女は涙を溢れ出させました。
「一体何がどうしたらこんな事になるのか分からないわ!」
ブレンダはおどおどした様子で突然トゥルーに振り返り、
「何が彼女にあったの?
私が聞いたのは彼女のアパートで彼女を見つけたということだけ…」
「我々もまだ分からないんです」とトゥルーは事務的に答えました。
トゥルーはためらい。
「ブレンダさん、アナベルを傷つけるような事をする人物に心当たりは?」
彼女は明らかに考えただけでも恐ろしいという目をしました。
「いいえ!そんな人はいないはずよ。 アナベル…彼女は特別だったわ、知ってるでしょ、つまりこの世界では沢山の人と会うの」
彼女は少し嫌悪感を抱いて言います。
「でもアナベル…彼女は違ったわ。 彼女は成功してからも本物だったわ、分かります?
彼女はどんなに忙しくても辛い一日だったときでも決してサインを欲しがるファンがいたら断らないの。
それにいつも撮影現場でも愛されていたわ、彼女は…皆と仲良くできるから」 涙がこぼれ始めます。
「それは素晴らしい人だったのね」とトゥルーが慰めるように言います。
「でも何か思いつく事はない?今日会った誰かの中で怪しい人なんか、冷静に考えて」
ブレンダは考え込むと突然彼女の顔が輝きます。
「あっ…いるわ。忘れてたなんて信じられない…」
彼女の目は恐怖で大きく見開かれました。
「数カ月前に、アナベルは若い男のファンから手紙が届き始めたの。
最初は悪気もなく始まったわ、でも結局は彼も同じで…しつこくて。
それからある日彼は彼女のテレビショーの撮影現場に現われたわ。
私たちはとても怖がりました、そしてアナベルが禁止命令をしたの…
彼女が公式にハリウッドに出入りするようになって初のストーカーだって、
後でそんな冗談を言っていたわ…彼が犯人だと思う?」と彼女は怖がりながら言いました。
「断言はできませんが、それは調べてみる余地はありますね。この男の名前は何ていいます?」トゥルーが促します。
「ポール・ライアンよ。どこに住んでいるのかは分からないわ、いつも手紙には返送先の住所が書かれてなかったから。
あのー。本当に彼が犯人だと思いますか?」と彼女が静かな口調で言います。
「分かりません、ブレンダさん、でもそれは手がかりになるかもしれません」とトゥルーは正直に言います。
ブレンダは奇妙な顔つきになると突然何かに気がついた表情になりました。
「質問して悪いんですけど…調査は警察の仕事じゃないのかしら?」
トゥルーは微笑みながら。
「まあ、あたし達も警察と同じぐらい手伝いをしますから。沢山の情報があればあるほどいいわけです」
ブレンダは窓ガラスに目を移すと涙を溢れ出させ、再び遺体を見ると少し震えました。
「私、彼女の両親に電話をしなくちゃ…そして新聞社の準備も…ああ、神様」
突然かん高い声でしゃべりながらブレンダはポケットから電話を取り出すのにおろおろとしてしまいました。
トゥルーはブレンダが電話で話す相手が誰なのか聞き耳を立てていたら、別の声によって遮られ驚きました。
「それで、彼女から聞き出したあとどうすの?」
トゥルーが振り向くとデイビスのオフィスのドアの前に寄りかかって腕組みをして立つキャリーがいました。
トゥルーは彼女と論じることに嫌気を覚えましたがすぐに考え直し、
「分からないわ」と彼女は言いました。
「じゃあ、私が彼女に対して思う事は。つまり、彼女はとても若くて将来有望、完璧っていう言葉が似合いかしら」とキャリーがコメントします。
「プロファイルなんか必要ないわ。聞いたからって予測できるもんじゃないしそれに…そして今はこんな話をしてる場合じゃないでしょ」
トゥルーはそう言いキャリーの肩越しに廊下の端を見るとブレンダはまだ誰かと電話で話をしていました。
トゥルーはこの話をキャリーと論じれば論じるほど増大する不快を感じます。第一、知りたいとも思いませんでした。
キャリーが何か言おうとした時二人の女性の間のドアからデイビスが顔を出し二人を見た後廊下の端にいるブレンダを見ました。
「何か問題でも?」と彼が尋ねます。
トゥルーはキャリーを見ないように頷きました。
「ええ。ブレンダのことで、彼女はアナベルのマネージャーでかなり気が動転してるわ」
トゥルーはポール・ライアンの事など彼に話したいと思いましたが熱心に見つめているイライラの元であるキャリーの前では話す気になれませんでした。
デイビスは頷きます。
「形式的手続きについては僕から話すよ」
彼はトゥルーとキャリーを残し廊下の端で電話を切るブレンダへ向かいました。
トゥルーはキャリーから3度も情報を得るチャンスを奪われ逃げ道を探し辺りを見回します。
彼女の祈りに答えるかのように彼女の携帯電話がポケットの中で鳴りました。
彼女は電話に出るためその場を後にして中に入りました。
「もしもし?」
トゥルーは呼びかけますが長い沈黙が続き相手が電話を切ってしまったと思いました。
けれども電話の向こうからはっきりと呼吸する音が聞こえてきます。
「もしもし?」と彼女は不信に思いながらも繰り返し呼びかけました。
「どちら様ですか?」
「助けて」
トゥルーは電話を耳から放し電話を見つめました。
「もしもし?」と彼女はもう少し大きな声で呼びかけました。
しかしかすかなカチャッという音が聞こえたため相手が電話を切ったことに気づきました。
一瞬の混乱のあと再び声が聞こえてきました。
「助けて」
声が聞こえたのは電話ではない事を確認すると突然向きを変えました。
携帯電話をポケットに戻しながら収容室の中へ入るとそこにはまだアナベル・ウィンターズの遺体がストレッチャーの上に横たわっていました。
彼女が遺体の横まで歩くと次に何が起こるか覚悟を決めて美しい女性の顔を覗き込みました。
案の定、女性の目は開かれトゥルーを見て助けを繰り返しました。
「助けて」
全ての風景がぼやけて一日が繰り返えされます。
トゥルーはベッドの上で目を覚ますと窓越しの晴れわたった空、今朝と同じパジャマ、ナイトスタンドの上にある同じ水差しを見まわしました。
彼女はゆっくりとベッドに起き上がると今まで幾度となく経験し慣れるべきかもしれないのでしょうが繰り返しの伴う奇妙な現象に寒気を感じました。
彼女に助けを求める740便の人々のフラッシュバックが彼女の心を襲い、
次にストレッチャーの上に冷たく横たわるアナベル・ウィンターズのイメージに切り替わりました。
「今回は負けないわ」と彼女は硬い決心をしベッド脇へと降りていきました。


ハリソンはいつものダイナーでいつものブースに近づくとすぐにやり直しの日であると悟りました。
決定的な証拠はいつも見せる姉の堅苦しい仕事的な表情でした。
「それで、今回は誰だい?」と彼は挨拶もなしにトゥルーの向かい側に滑り込み既に用意されていたまだ暖かいパンケーキを見て驚きました。
「女優よ。アナベル・ウィンターズ、彼女のアパートで見つかった、外傷はないから、デイビスは毒だって言ってた」と彼女が簡単に説明します。
ウエートレスが2杯のコーヒーを持ってきたので一旦中断しウエートレスが立ち去るときトゥルーは笑顔で応えました。
ハリソンは食事をしながら眉間にシワを寄せます。
「アナベル、アナベル…その名前聞き覚えがあるな」
「彼女は将来有望な新人よ。でもあたし達はいいスタートととはいえない。
昨日…まあ、そのー、死体安置所で彼女のマネージャーと話をしたの、そしたらいくつかの情報を教えてくれたわ。
アナベルはポール・ライアンっていうストーカーに付きまとわれて、それまでは無害だったんだけど、今は明らかに…」
「無害じゃなくなった」ハリソンは彼女の言葉を続けました。
「あたし達が狙われるかもしれないわ」トゥルーはためらいがちです。
「まあそんなに遠くへ行くことはできないし、でもそれは少なくとも手始めにはいい場所よ」
「それで、計画は?」ハリソンはいつもの流れで自動的に尋ねます。
「あんたがポール・ライアンを見つけて調べて欲しいの。
どこに住んでるか分からないから簡単な事じゃないと思うけど、彼がアナベルに出した手紙にも返送先が書いてなかったって言ってたし、でも最初にその付近をチェックしてみて。
あたしは死体安置所に寄ってアナベルの事を調べる、そして彼女にストーカーはあなたが考えてるよりも危険だって警告するわ」とトゥルーは強い意志で言います。
ハリソンは片方の眉を上げ頷きました。
「大丈夫、何とかなるって、姉さん」
トゥルーは控え目に肩をすくめます。
「今日は負けることができない。
アナベルは生きてさえいればオスカー賞だって獲ることができる、あたしが警告さえできれば」
ハリソンは彼女にほほ笑みます。
「その意気だ!」と彼は少し興奮して言います。
トゥルーはパンケーキを食べようとしましたがハリソンを見ました。
「他に俺がすることは?」
ハリソンは姉が今まで成功してきたやり直しの日を思い出しながら言います。
「ミッシェル・キャリー。昨日彼女に会ったわ」
トゥルーはひと呼吸おきます。
「彼女は飛行機について尋ねてきた」
ハリソンはそれを引き受けます。
「俺は何をしたらいい?」
「ないわ、あたしに任せておいて。彼女に会わないつもりだから、できるだけね。今日の事は十分分かってるから」
トゥルーは朝食を食べ終えるとコーヒーを飲み干しウエートレスに会計の合図をしました。
「ジャックは?」
ハリソンはそう尋ねると急いで朝食を口にほうばりました。
トゥルーはいやそうな顔で肩をすくめます。
「分かんないよ、あいつの今日の出方なんて。でもあいつより先に行動を起こしてやるわ」
ウエートレスがテーブルの上に請求書を置くと今回のトゥルーはためらいなく財布に手を伸ばしました。
ハリソンは気分を害したような顔つきになりました。
「おい、今日は俺が払うつもりだったのに」
トゥルーはただ首をかしげて彼を見ました。
彼は参ったとばかりにため息をつきコーヒーを飲み干しました。
すぐに2人はブースから立ち上がるとドアを目指してます。
二人はコーヒーカップ3つを持ってよろめきながら出口を目指す女性を追い越しました。
ハリソンはトゥルーがその女性の前に素早く割り込んだ事に驚きました。
「すいません」彼の姉はウエートレスにチップを手渡すために手を伸ばしながら笑顔で言います。
トゥルーは一瞬ためらい出口に向かうと後ろの女性は少しいら立ったような顔をしました。
突然帽子をかぶった男がドアを開けてトゥルーにぶつかってきました。
女性は彼女にぶつかる寸前で止まります。
トゥルーがハリソンを見てドアの外に出るとハリソンも後に続き、その後ろを女性がトゥルーに微笑みながらついて出てきました。
二人が通りに出ると言葉を交わします。
「連絡するから」とトゥルーはお互いの分かれ道に差し掛かると言いました。
「それでさ、ハリソン?」
ハリソンはトゥルーの言葉を待ちます。
「ありがとう」とトゥルーはハリソンに心から笑顔で言いました。
彼は彼女にうなずきました。
「たいした事ないよ、姉さん」
二人はお互いの方向へと向かい、トゥルーはこのまま歩いていけばミッシェルからの攻撃を受ける事を知っていたので歩道の端に来るとタクシーを呼び止めました。
タクシーに乗り込み縁石から離れるとトゥルーは窓の外を見つめていました。


ジャック・ハーパーはノックもせずにリチャード・デイビーズのオフィスの中に入っていきました。
リチャードは電話に出ている最中で、無表情でジャックを見上げると手を上げジャックを制しました。
「時間を割いてくれてありがとうございます。また連絡をいれます」
リチャードは受話器を置きオフィスの中を行ったり来たりしているジャックに向きました。
「例の日か?」と彼は仕事口調で尋ねます。
ジャックは険しい顔をしてうなずきます。
「犠牲は若い女だ。アナベル・ウィンターズ。映画のセットにあった椅子の1つに名前が書いてあった。
その女は女優でかなり人気が高いらしい。悲鳴を上げているファン、主に若い娘達が多かった。
多くのフラッシュ、リムジン、そしてアパートにワイン・グラス、あとはわからなかった」
リチャードはこれを聞きゆっくりとうなずきました。
「アナベルウィンターズ、聞き覚えのある名前だな。
そしてワイン・グラス…おそらく毒を盛られたんじゃないか、彼女が見た最後のものかも知れんな」
「俺も同じことを考えてた」
ジャックは劇的な効果を狙ってひと呼吸おきます。
「だが肝心の部分が分からない」
リチャードは興味をそそられて眉を上げます。
「それでそれは何だ?」
「俺はこの建物、この法律事務所を見た。
大きな看板で一目瞭然だった、デイビーズ・オドーネル・アンド・クロス」とジャックは強調して言いました。
リチャードは椅子にもたれかかります。
「まあ、それほど面白くはないな」
ジャックは机の反対側にある椅子に腰をかけます。
「そして俺は男を見た、見たのはこの辺りだ。名前は分からないが容姿は分かる。
若くて、色男で、黒髪にマッチョ、スーツ姿にネクタイだ」
彼はひと呼吸おきます。
「この男は犠牲者の最後の日に重要だ、そしてこの男はここで働いている」
リチャードははっきりと満足そうな顔になりました。
「これは確かに我々にとって有利だな」
彼はコンピュータの向かいいくつかのスクリーンを呼び出すとキー入力をしました。
「この従業員の写真を見て、お前が見たという弁護士を探せ」
ジャックはリチャードが写真を次々とスクロールさせる後ろを行ったり来たりしながら集中して画面を見つめます。
「そいつだ」と彼がモニタ上に映った男の顔写真に指を突き付けました。
リチャードは少し驚いたようにジャックを見ます。
「ブレイク・ダンカンだ。彼は我々弁護士の中でもスターだ、彼の事はよく知っているが」
リチャードはマウスを数回クリックして何かを探すためにリストをスクロールさせます。
「これは、なるほど、なかなかいいじゃないか」とリチャードはモニタ上の何かを読みながら邪悪な笑みを顔いっぱいに浮かべました。
ジャックはモニタに近づき目を細めて細かい字を読みます。
「これは、なんとも恐れいったなあ。ブレイクは若手女性スターの代理人なのか」
「実際には、それは正しい言葉じゃない」リチャードが訂正します。
「ここにアナベルが彼を解雇したと書いてある。それも最近にな」
「見つける事ができるかい?」
ジャックは助言者に目を合わせて尋ねます。
リチャードは受話器を上げると内線ボタンを押します。
「もちろんできるとも」
リチャードとジャックは顔をあわせニヤリとしました。


「それじゃ、この話をまとめると、女優が死んで、死因は不明だがもしかすると毒殺で容疑者は以前からのストーカーだというのか?」
オフィスのイスの座ったデイビスはトゥルーを見ながら要点を繰り返します。
トゥルーはうなずきながら検索サイトに検索ワードを入力します。
「ええ。やり直す前の日に彼女のマネージャーのブレンダに話を聞けて運がよかったわ。
いつもより沢山手がかりが残ってる」
彼女は明るい感じのウェブサイトを開くとそこには大きな写真であまりにも印象的な表情をした女性が映っていました。
「ここがアナベルの公式サイトね」
彼女はカラフルなヘッダーを下にスクロールさせながらホームページの内容を読みます。
「うわーっ。ブレンダが言ってた話は誇張でもなんでもなかったんだ」
「それはどういうこと?」
デイビスが彼女の肩越しに部屋の向こう側から言います。
「あのね、アナベルは公式ウェブサイトで日記を書いてる、そこで彼女はファン宛てに書いてるわ」
トゥルーは咳払いするとモニタ上の文を読みます。
「こんにちは皆さん!
私は『キャピタル・マーダー』の撮影中です、そしてすごくいい感じになってきました。
私は私の演じるキャラが大好きです、そして共演の方達も素晴らしいわ…まだほんの一部だけど本当にいいわ。
皆さんが送ってくれたファンレターやプレゼントにありがとうって言わせてくださいね。
皆があまりにも優しいから、そして私は皆さん一人一人に後で返信しようと思ってます」。
トゥルーは肩越しに眉を上げていたデイビスをちらっと見て、さらにもう少しページを下にスクロールさせます。
「少なくても1週間に1度は彼女が更新するようね」
「かなり献身的だな」とデイビスは認めます。
「同じような人達だな、彼女は誰かのためでなく自分のためにそれを書いてるようだ」
「沢山の若い娘達が本当に彼女を尊敬してるんだわ」とトゥルーがウェブサイトをチェックして静かに言います。
「えっ、すごい。公式のアナベル・ウィンターズ・ファンクラブが5千人のメンバーを超えたって」
「そりゃすごいな」とデイビスは驚きます。
彼は少し笑いながら言います。
「俺がいつも見ているアミュージング・ハウ・ピープルは全く知らない奴なんかがいっぱいでさ、芸能人なんだけど」
トゥルーはいやな顔をしてうなずきます。
「じゃあ、昨日みたいになったら、少なくても5千人の人達が悲しむ事になるんだ」
彼女は入力とクリックを繰り返し今は違ったサイトにきています。
「この映画が制作されている撮影所の住所を調べてるんだけど。
うまくいけばそこでアナベルを見つけることができるわ」
「どこから手をつけたらいいものか。ストーカーの方はどうだい?」デイビスが尋ねます。
「ハリソンに頼んだわ」とトゥルーは何気に言います。
長い間デイビスが彼女の手伝いをしていたためトゥルーはデイビスの心の痛みによる額に深く刻まれたシワを見たくないためすぐに背を向けてしまいました。
二人の間は徐々に戻りつつあったが、デイビスは一度トゥルーの信頼を裏切ってキャリーに話したときから何かが永遠に二人の間に隙間を作ったことを知っていました。
「まあ、もし何か必要なら…俺を呼んでくれ」とデイビスは小さな声で言います。
トゥルーは自信を持ってキーを打つとプリンタが動き出しました。
「住所を見つけたわ。分かってる、あなたの情報を期待してるから」
そう言うとすぐにプリンターの用紙を掴みズボンのポケットに突っ込みました。
「また後で、デイビス」
「注意しろよ」とデイビスは彼女の背中に言いました。
「いつもしてるよ」と彼女は廊下の途中から言い返しました。
トゥルーが下のボタンを押した時ちょうどエレベーターのドアが開きキャリーがエレベータから出てきました。
「おはよう、トゥルー」とキャリーは笑みを浮かべて愛想良く言います。
「こんにちは、キャリー」とトゥルーは同じくらい愛想良く、ただし笑みを除いて言いました。
トゥルーはキャリーの出たエレベーターに乗ると気づかれないように素早くドアを閉じるボタンを押しました。
キャリーは廊下に立ったまま考えいました。
トゥルーはここで朝一にやらねばならない事をする事ができました。
キャリーは携帯電話をポケットから取り出すとすぐに呼び出し音がなりましたが特に驚く事はありませんでした。
彼女はフィリップを開きながらニヤッとしました。
「それで、今日犠牲者は誰?」と彼女は声を落してエレベータホールの壁に寄りかかって話します。
言葉が終わると一瞬の間があり、
「どうして分かった?」ジャックは怪訝そうに言います。
「トゥルーがここにいたからよ」とキャリーはあっさりと言います。
「ああ、それでか、彼女はすでに仕事中か。立派だな。まあ心配はいらないさ、今回は俺たちの方に分がある」
「その言い方、好きよ」と彼女は廊下を見回し誰もいないのを確認しながらそっと答えます。
「犠牲者は女優だ、そして偶然だが彼女が最近クビにした弁護士なんだが…」
「デイビーズ、オドーネルとクロスなのね」キャリーが続けました。
「そうだ。リチャードは俺のためにミーティングをしてくれるとさ。
だからお前はデイビスの注意をそらしてくれ、奴にあまりトゥルーの手助けをさせないようにな。
トゥルーが弁護士との関係に気付いているかどうか探ってくれ」
「了解したわ」と彼女が自信たっぷりに微笑で言います。
デイビスを夢中にしておく事は赤ん坊からキャンデーを取り上げるようなものでデイビスを手のひらの上で操る事に彼女の心は痛む事はありませんでした。
「言われた通りにするわ」
「悪いな」
電話は切れ廊下を歩きながらキャリーは携帯電話をしまいます。
彼女はデイビスのオフィスの開いたドアに色っぽく寄りかかり軽くドアをノックします。
「おはよう」
デイビスはいつも彼女と会う時と同じように目を丸くし事務仕事から顔を上げました。
「おはよう、キャリー。」
「さっきトゥルーとすれ違ったけど?」と彼女が何気に言います。
「少し早くここに着き過ぎたのかしら?」
デイビスは彼女を見上げます。
「やり直しの日だ」
キャリーは驚いたふりをします。
「ああ、そうなの」
彼女はひと呼吸おきます。
「何か手伝う事ある?」
「いや、ないよ。トゥルーは自分で管理してるから」
デイビスは一瞬間をおくと彼女は彼が全ての情報を言おうとしていると思います。
「彼女は今回、運が良かった。犠牲者の友人と話すことができたんだ。それで前にストーカーした奴を探してるんだ」
「ストーカー?」
キャリーは驚いて言いますが原因はデイビスではなく彼女自信でした。
「女優なんだ」とデイビスは説明を続けました。
キャリーは理解しながら頷きます。
デイビスが不器用に机の上の書類を整理している姿をキャリーは見つめます。
「アイディアがあるわ」と彼女は突然言います。
彼は不思議そうに彼女を見ます。
「どんなアイディアだい?」
「あなたが最後にとった休みはいつ?」
キャリーはねっとりと尋ねます。
デイビスは不安そうに襟を引っ張ります。
「あのー、そのー、僕はここのところ休んでないんだ…」
「えっ、どうして?どこかに行って少し自然と触れ合って生きている実感を持つべきよ」
と彼女はデイビスを納得させようと一生懸命に言います。
デイビスは不安そうに周りを見ます。
「うーん、分からないな…もし僕が必要になったらどうするんだい?」
「本当にやらなきゃならないような仕事があるの?」と彼女は眉を上げて尋ねます。
「もしあなたが2時間ぐらい出掛けても誰もあなたがいなくなったって思わないわよ」
“しかし、トゥルーが”とデイビスはきっぱりと言い切ります。
「彼女は僕を必要とするかもしれない、彼女を助けるって約束したし…」
「トゥルーなら大丈夫よ。
それにあなたは携帯電話を持ってるじゃない、彼女と連絡を取ることができないわけじゃないわ」
キャリーはドアのそばで期待しながら待っています。
「さあ早く。楽しいわよ」
彼女はいたずらっぽく微笑します。
「私達もう少しお互いを知ることができるかも」
彼はいっそう襟を引っ張って赤面します。
「まあ...うーん、いいんじゃないかな。
とにかく今はするべき仕事はない事だし。
数時間ぐらいなら問題はないだろう」
彼はゆっくりとコートを取ると携帯電話を持っていることを確認して、心残りの表情で後を振り返りながらドアから躊躇いがちに出て行きました。


リチャードのオフィスでジャックと助言者はドアのノックを待ち続けていました。
粋な黒いスーツを着た若くハンサムな男がドアの辺りにやってくると、
「中に入りたまえ、ブレイク君」とリチャードは彼を促します。
彼の歩みは自信にあふれ、そして注意深く入って来ます。
彼は机の前で立ち止まると不審そうに普段着を着て壁に寄りかかる法律事務所しかも最高責任者のオフィスの中にいるジャックを一瞥しました。
「何かご用ですか、デイビーズさん?」
彼は魅惑的な笑みで尋ね、ジャックはその笑顔で何人もの女性を魅了してきたのだろうと確信しました。
ブレイクは弁護士にしては30代半ばと若く、髪を逆立てたヘアスタイルと不自然に白い歯をしていました。
「座ってくれたまえ。1つ君に聞きたい事があるんだが」とリチャードは座るように促しながら話し出します。
ブレイクは困惑した表情で座ります。
「ええ、構いませんが、それはどのような事で?」
「アナベル・ウィンターズ、若い女優だ、君は彼女を知っていると思ったが」
リチャードはブレイクが警戒しないようにさらっと言います。
ジャックはブレイクの顔に何かピンときたような表情を見ました、しかもほんの一瞬の事で瞬きでもしていたなら見逃してしまったかもしれません。
「ウィンターズさんですか、もちろん知っていますよ」と彼は淀みなく言います。
ブレイクは手グシで髪を撫で付けます。
「実際、おそらく知っているとは思いますが、ウィンターズさんは最近になって私を必要としないということを知らせてきました」
「ああ、その事で聞きたいんだが」
リチャードはひと呼吸おきます。
「君のような若く有能な弁護士がこのように重要なクライアントを失った事が不思議でね、説明をしてもらいたいのだが」
ブレイクの目はジャックの方をチラチラと明らかに彼が誰であるか尋ねたくてむずむずしているようでしたが無礼だと思われたくないようでした。
「まあ、ウィンターズさんは非常に気難しい方なんです。
ご存知でしょうが、彼女は典型的な女優でして、私の言い分をご理解していただければ、
正直に言って、私は彼女とは決して多くの話もなくただ2,3の契約の時会っただけなんです。
彼女がなぜ我々との契約を解約したのか明らかにはしませんでした。
彼女はただ変えたかっただけなのかもしれませんね」
彼の言葉遣いはスムーズで、ジャックはこの男自身断念したという感じを受けました。
ジャックは初めて口を開きました。
「まあ、理由があったに違いないさ」
「すみませんが、あなたはどちら様ですか?」
わずかな苛立ちを含んだ声でブレイクは尋ねます。
「ジャック・ハーパーだ。彼は私のパートナーなんだ。だがブレイク君、私もその質問への答えを聞きたいものだ。
ウィンターズ嬢は新進気鋭の若手女性スターであって、この法律事務所にとって多少いい宣伝活動をもたらすことができたはず、
だから何がまずかったのか知りたいのだよ」とリチャードが促します。
ブレイクは少しニヤッとします。
「デイビーズさん…このような事になって申し訳なく思います。私は常にアナベルを幸せにするため上と登らせようと思っていました。
多分彼女は他のどこかのもっと良いところに移ったんでしょう」
「ウィンターズ嬢は君に対して憤慨していないと…断言できるかね?
もし小言を言っているように聞こえたのなら謝ろう、だがそれは全てのクライアントが満足しているかを確認するために必要なこの会社での私の責任なのだよ。
もし何がまずかったのか確定することができれば、次に同じ事を起こさない事はより容易だ」とリチャードは強張った笑顔で言います。
ブレイクは考えているようです。
「まあ・・・。彼女のために行った私の提案の1つによって少し気が動転したかもしれませんね」
継続してもいいかというように彼はリチャードを見ます。
「数週間前に彼女は私に契約書を持って来ました、デザイナー関係のどこかの広報取引です。
すぐに私は契約が極めてあいまいであったことに気付きました、
それは基本的にモデルからデザイナーの家の芝生刈まで何でもすることができるという内容にも受け取ることができました。
私は彼女にもう1つ別の契約を要求することを勧めましたが彼女は怒り出しました。
私は驚きました、彼女が個人を優先して仕事をしていたとは思いませんでした、多分争いごとが嫌なのかもしれません」
ブレイクは肩をすくめます。
「数日後に彼女からもう私との契約を必要としていない旨のメッセージがコンピューターに届きました」
リチャードはそれを聞きうなずきます。
「まあ、それならば君に落ち度はなかったようだな」
ジャックのポケットで携帯電話が鳴りだし彼はそれをチェックします。
「申し訳ない」と彼はブレイクとリチャードをその場に置いたまま廊下に出ました。
1人になると彼は電話に出ました。
「もしもし?」
「トゥルーが一歩リードしてるような感じよ。
何か犠牲者に元のストーカーがいたとか」とキャリーのもの柔らかな声で言います。
ジャックは眉をひそめます。
「ストーカー?そんなビジョンは何も感じなかったが」
「まあ、聞いたところではやり直す前の日にトゥルーはマネージャーと話をしたって言ってたわ」とキャリーが説明します。
ジャックはその言葉を考えながらうなずきます。
「まあ、俺はたった今弁護士と会ったんだが明らかに何かを隠しているな。
俺は奴が彼女の事をファースト・ネームで呼ぶのを聞いた…ただの弁護士とクライアントの関係じゃない」
「多分彼らはできてるわ」とキャリーが示唆します。
「俺には分からないな。だが見つけ出すつもりだ。もしトゥルーに会ったらストーカー説を応援してやれ。
あいつをキリキリ舞させてやる」とジャックが言います。
「もし彼女が正しかったら?」
キャリーはさらっと尋ねます。
「俺がそれを処理する」とジャックは少しきつく言います。
ジャックは後ろのほんの少し開いたドアをちらっと見ます。
「もう行かないとな。後で連絡する」
ジャックは電話をしまって後方のオフィスを目指します。
ブレイクは彼の椅子から立ち上がって、そしてリチャードと握手しています。
「ありがとう、ブレイク君。素晴らしい仕事を続けてくれたまえ」とリチャードが微笑しながら言います。
ブレイクは歯をちらりと見せて笑顔になります。
「ありがとうございます、デイビーズさん」
ブレイクは踵を返すとオフィスから立ち去り、入り口に立っていたジャックに軽く頷いて廊下へと出て行きました。
「それで、お前はどう考える?」
リチャードはイスに深く座ってジャックに聞きます。
「奴の言葉にはウソが混じっているな」とジャックが何気に言います。
「奴は見事で滑らかだ。明らかに弁護士としての天命をもっている」
リチャードは少しニヤリとします。
「彼が契約について真実を話していたかどうか調べようはある。
もしそれが本当ならファイルのコピーがあるはずだ」
「そして俺は俺達の分身であるブレイクを見守ってやろうじゃないか」とジャックはドアの付近でで言います。
「油断するなよ、ジャック」、とリチャードが注意します。
「今日は私達の方に分がある。私のおせっかいな娘にそれを悟らせるな」
「心配するなって」
ジャックは後ろ手にドアを閉じてオフィスを出ます。


すぐにトゥルーは映画スタジオの脇にあるステージドアに近づきます。
彼女周囲を確認しながらゆっくりと歩くとすでに群がっている少女達とその母親はカメラや写真を手に興奮して話し合っていました。
トゥルーは群衆の背後の近くまで来ると止まります。
「アナベルが出て来るのを待ってるの?」
トゥルーは1人の12歳ぐらいの少女に尋ねました。
少女は興奮してポニーテールを上下にゆすりながらにっこり笑ってうなずきます。
「あたし達もう2時間も待ってるのよ。彼女はもうじき出てくるはずだわ!」
「えーっ、2時間も」トゥルーは驚きました。
「大ファンなのね!」
「大大ファンよ!」と少女は甲高い声で言います。
「アナベルが大好きなのよ。彼女はすごい才能があって、そしてかわいいし、彼女は全く私の理想よ。
もし彼女に会えたら…キャー」と彼女が言葉を言い終える代わりに黄色い声を上げました。
トゥルーは少女に微笑みかけ、死体安置所の生気のないアナベル顔がフラッシュバックされます。
ここにいる全ての少女達は本当に彼女を尊敬しています。
ちょうどその時ドアが開くとちょっとした騒ぎが群衆の中に発生します。
皆我先とばかりに近づこうと黄色い声を上げて手に持った物を振り回し始めます。
トゥルーは良い場所を確保しようとしました、しかし驚きもせずに今起こっている事を見守ります。
白いトレンチコートと黒いサングラスをしたアナベルがブレンダとどう見てもボディーガードだと分かる男と一緒に出てきました。
トゥルーは湧き上がる歓声に何も聞くことができません、しかしアナベルは群衆に向けて笑顔を送り、ボディーガードに何かを言っているのが見えます。
アナベルはどこからかサインペンを取り出すと次々に写真に彼女のサインをサラサラと書いたり笑顔でファンに話しかけたりしていました。
すぐに彼女はトゥルーが話をしていた少女の前に来ると丁重に自分の映った大きな写真を受け取ます。
「かわいいわね、あなたのお名前は?」と彼女は声も滑らかに尋ねます。
「ケイシーよ」と少女は今にも失神しそうな声で答えました。
アナベルは写真にサインして微笑みながらそれを返すと次の少女と一緒に写真を撮るためにポーズをします。
トゥルーはボディーガードがいらいらし始めているのに気付きます。ブレンダは既に混乱の真っ只中に止まったリムジンの中に姿を消していました。
トゥルーはアナベルに近づくチャンスは今しかないと思い行動を開始します。
サインをする合間を縫ってトゥルーは大声で呼びました。
「アナベル」と彼女はこちらに注意を向けさせるため大声で言います。
アナベルの目がトゥルーに向き、おそらくトゥルーが若い人達の中で少し場違いであることにわずかに驚きますがすぐに微笑みます。
「こんにちは。サイン帳とか持ってるかしら?」とアナベルはサインをするためにトゥルーの手を見ながら尋ねます。
「いいえ、あたしはあなたと話をしたいの。ポール・ライアンについてよ」
これをアナベルが理解するのに一瞬を要しましたがすぐに迷惑そうな表情が彼女の顔に現われました。
「ポール・ライアン?」
彼女の顔つきはますます険しくなります。
「あなたは誰なの?」
ボディガードがトゥルーに警戒するように一瞥すると群衆から彼女を離そうと手をアナベルの背中に置きます。
「ねえ、あなたはあたしを知らないわ。
でもポールの事を知ってるの、何もあなたを怖がらせたい訳じゃないけどポールがまたあなたの前に現れるんじゃないかって心配なのよ。
多分あなた一人のときに。あたしはただ注意して欲しいって言いにきたの」
トゥルーは周りの皆に聞かれないように速くそして可能な限り小さな声で言いました。
アナベルは今心配顔になります。
「ねえ、あなたが何について話をしているかよく分からないけど…
私はポール・ライアンに対して禁止命令を出したわ、彼は私の近くに来ることはできないはずよ。
それに今までの数ヶ月間何にもなかったし」
話が終わったと思ったアナベルは最後に熱愛するファンに手を振ってボディーガードにリムジンへの誘導を許しました。
けれどもトゥルーは容易にそれを断念できません。
彼女はペースを上げてアナベルと一緒に歩きます。
「その事は知ってるけど、お願い、注意して欲しいのよ。あたしは彼がするかもしれない事が怖いの。
今晩は1人きりにならないで」とトゥルーは頼み込みます。
アナベルはもうこの時点では相当いら立っているようでした。
「分かったわ、あなたが誰なのか知らないけど自分の面倒ぐらい自分でできるから、ありがとう」
トゥルーがもう一言言葉を言おうとした時には彼女はリムジンの中に逃げました。
トゥルーは窓に近づこうとしましたがボディーガードが彼女の前に踏み出て威圧的ににらみつけました。
「どうか離れてください」と彼は厳しい口調で言います。
トゥルーは後へ数歩、群衆の方へ下がりました。
ボディガードが助手席に乗るとリムジンは残念そうなファンを尻目にその場を後にしました。
群衆がゆっくりと解散し始めると、トゥルーはアナベルが彼女の言葉を心に留めてくれたと思いながらも確実にアナベルがが安全であることを確認できるまで安心はできないと感じその場に立ち尽くしていました。


ハリソンは一枚の紙を手に持って廊下を歩いています。
携帯電話が鳴ると彼はそれに答えます。
「やあ、姉さん」
「見つかった?」と彼女は挨拶もせずに尋ねます。
「今やってる最中。電話帳で調べたら5人もポール・ライアンがいたよ、それで確認中さ」
彼はアパートのドアの外でひと呼吸します。
「電話帳って、ハリソン?」トゥルーは疑わしげに尋ねます。
「あたし達が探している人物は電話帳に載ってないかも知れないんだよ。
それにどうやって本人だって見分けるつもり?ポールは若いんだよ、だから分かるでしょ」
「姉さん、姉さん、自分の弟を少しは信頼しろって」と彼は強く言い張ります。
「俺が今までがっかりさせたことある?」
言葉の終わりに沈黙があります。
「じゃあ、やってみて、そしてできるだけ早く見つけて。
あたしはアナベルに注意するように話したけど彼女が聞いてくれたかどうか分からないわ」
「じゃあ、俺は今ちょうどアパートの1号棟にいるから。
見つけたら、すぐに、知らせるよ」とハリソンは言葉を区切って強調しながら自信を持って言います。
お互いさようならを言うと電話を切りました。
彼は深呼吸をしてからドアをノックします。
しばらくすると足音が聞こえドアが開くと40代半ばの男が出てきました。
「はい?」と男が返事をします。
ハリソンはその男の肩越しにブロンドのおさげをした小さな女の子がカーペットの上でパズル遊びをしているのを見ます。
「すいません、アパートを間違えました!」とハリソンは笑顔で言います。
男は妙な顔つきをしたままドアを閉じました。
ハリソンはポケットからペンを取り出してリストの最初の住所を横線で消します。
「一つ消えた」と彼は慣れたように言います。
数分後に彼はマンションの一室のドアをノックします。
誰も出ないで2分ほど時間がたったころ次に向かおうとしたらドアが少し開き80歳ぐらいの腰を曲げた老人が出てきました。
「何か用かの?」と老人はしわがれ声で言います。
ハリソンはただニコッとしながら老人を見ています。
3軒目のドアをノックします。
今回はすぐにドアが開き20代半ばぐらいの男が出てきました。
その男はジーンズとTシャツを着て、痩せて筋張って、ストレートの長い黒髪をしていて黒縁のメガネと不安そうな表情をしていました。
ハリソンはこの男かも知れないと思い頭の天辺からつま先までじろじろと見ました。
「あんた、ポール・ライアン?」と彼が尋ねます。
男はすぐに頷きました。
「そ、そうですが、何か?あんたは誰だい?」
ハリソンは目的の人物を見つけたときにどう話そうか考えていなかったのでどうしようかとあせります。
「あのー、うーん、そのー、あんたにアナベル・ウィンターズについての事を少し聞きたいんだけど」
男の目は丸くなります。
「ア、アナベル?あんたは警官か?
それは解決したはずだ、決して再び彼女の近くに行かない事を約束したじゃないか」
『おっ、やったぜ。この男に間違いない』とハリソンは内心勝ち誇りました。
「そうだったな、だがあんたが禁止命令を破ってないかどうか調査にきたんだ、えーと、ここのところかなり物騒でね」
ポール・ライアンは非常に腹を立てているように見えます。
「なあ、俺はあんたが誰なのか知らない、でも俺はいやがらせなんかに屈しないぞ!」
彼はハリソンの顔の前にドアをバタンと閉めました。


「ねえ、オフィスに閉じ篭っているよりずっといいでしょ?」
キャリーはからかいます。
2人は公園を散歩しながら美しい日を楽しんでいました。
その地域は小さい子供たちや母親、ジョギングしている人や犬を散歩させている人達でいっぱいでした。
音楽が遠くから聞こえてきます。
2人はベンチのところまで来ると座りました。
デイビスは太陽の日差しにジャケットを脱ぎました。
「これはいい」と彼は認めます。
死体安置所を出てきた事についての心配はいくぶん消え失せたようでリラックスしているように見えます。
デイビスはキャリーがベンチの隙間を詰めてきたことにかろうじて気付きました。そして彼らの脚はほとんどくっついていました。
「ありがとう」と彼は突然言います。
デイビスはキャリーに振り向くとあまりの近さに少し驚いています。
「君が、そのー…僕をあそこから抜け出させてくれた事さ」
彼は突然赤面します。
「なんでいつも君と、は、話をするとどうもうまく言えないんだろう?」と彼は自分自身に言います。
キャリーは優しくデイビスの顔に触れ彼を驚かせます。
デイビスはキャリーを見ると彼女はゆっくりと寄りかかってきてデイビスは彼女を遠ざけようかどうしようかと迷っているうちにキャリーはデイビスの唇にキスをしました。
キスはほんの一瞬でしたが甘く、彼女は離れるとデイビスがほほ笑んでいるのを見て喜びます。
彼ら二人ともただ笑顔で喜び合い何も言いません。
しばらくすると彼らはゆったりと元の位置に戻りました。
「あー、君は何が飲みたい?
少し暑いからね」とデイビスは自動販売機を見ながら尋ねます。
「水がいいわ」と彼女は応えました。
デイビスは立ち上がると自動販売機に向かって狭い歩道を歩きます。
デイビスが背中を向けると彼女の顔は幸せと無垢な表情から一転して純粋に悪賢い顔に変わりました。
そしてデイビスの脱いだ上着のポケットに手を伸ばし彼の携帯電話を引き抜きました。
彼女はそうっと電源ボタンを押すとビープ音が鳴り電源が切れました。
彼女はそれを元の位置に返してデイビスが戻ってきたときにはリラックスした状態に戻っていました。
キャリーがにっこりと笑うとデイビスは彼女にほほ笑んで隣に座りました。


ジャックは雑誌をぱらぱらとめくりながら法律事務所の外のベンチに座っています。
ブレイク・ダンカンはブリーフケースを持って建物を出ます。
ブレイクがジャックの前を通り過ぎようとしたとき彼は雑誌を置いてブレイクの前に立ち並びました。
「こんにちは、ブレイク」
「また君か」とブレイクはいらだって言います。
「君、すまないが、私にはやることがあるんだが」
「何があんたとアナベル・ウィンターズとの間にあったんだい?」とジャックは突然尋ねます。
「それはどういう事だね?」ブレイクは偉そうに言います。
ジャックは肩をすくめます。
「あんたは前よりも神経質になってるように見えるんだが。
彼女があんたをそれほど興奮させるために何をしのか不思議に思っていたんだ」
ブレイクは立ち止まり頭を振ります。
「分かった、前に私が言ったことよりもう少しある。
だがそれは何も変わることはない。
彼女は私のクライアントだったが、今は違う、話は終わりだ」
「なあ、ブレイク、俺が不思議に思っている理由は俺がアナベルを知っているからだ」とジャックが言います。
「俺達は昔からよく知っているんだ。彼女が大きくヒットする前に、どう言えばいいのか、そのー、関係があったんだ…」
ブレイクの顔つきは理解したように変わります。
「ああ、じゃあそれなら君は彼女が自分の利益のみを追求するバカな女である事を知っているわけだ」
ブレイクは段々早口になり勢いを増してきました。
「ああ、それで私達はしばらく関係を持ったさ。
それは認める、彼女のブロンドのそして素晴らしさにだまされてたんだ、しかし彼女が完全に私のものになったと思い真剣に考え始めた。
結婚を望んだが彼女は我々の関係を公表する事を拒否した。」
彼は激怒して頭を振ります。
「彼女はトップに立ったと思ってるんだろう、いくつかヒットしたからな」
ジャックは少し近づき。
「同情するよ、男としてな。
彼女は俺にも同じことをした、以前彼女のキャリアに俺が関係しているなんて望んでなかったからな」
彼はひと呼吸おきます。
「誰かが彼女に本当のレッスンを教えるべきなんだ」
ブレイクは目を煌めかせます。
「全くその通りだ」
ジャックは少し微笑します。
「ただあんたが捕まらないようにしないとな。
あんたのようなやり手があんな女に復讐されてキャリアを台無しにしてはどうしようもないからな」
ブレイクはこれを考慮に入れます。
「ああ。分かってるさ」
彼は立ち去り始めます。
「あっ、そうだ、もし前に失礼があったら申し訳なかった。知らなかったものだから」
「いやいや、それは問題ない。ご自身のことに集中してくれ」とジャックが言います。
ブレイクは頷き通りへと群衆の中に姿を消しました。
ジャックは満面に笑みを浮かべ反対方向に立ち去って行きました。


ハリソンはポール・ライアンのアパートのドアの近くに隠れています。
彼は欠伸をしながら腕時計を確認しイライラしているようです。
ついにドアは開くとポールはドアに錠を掛けてアパートを出ていきます。
ポールがエレベータで一階に降りるのを待ってハリソンは出てきました。
ハリソンはドアに近づくと手をこすり合わせます。
彼は目を細めてポケットからクレジットカードを取り出します。
「お願いだから前に見た映画のようにうまくいってくれよ」
彼はドアの隙間にクレジットカードを突っ込み鍵を開こうとします。
しばらくするとカチッという音が鳴り鍵がはずれドアが開くとハリソンはニヤリとしました。
「やったね」と彼は満足気につぶやきました。
彼は中に滑り込むとドアを閉じました。
アパートの他の住人たちは誰もいません。
最初に気付いたのは若い男の一人暮らしにしてはきちんとしているようで、ピザの箱や缶ビールの空き缶はちゃんと捨ててありました。
殺風景な装飾とむき出しの壁がかろうじて家のように見える点以外は。
室内を物色すると部屋の隅にドアが見えハリソンは訝しげな顔をします。
ゆっくりとドアを押し開いて中に入りました。
「なんてこった」と彼はつぶやきます。
ハリソンは唖然としたまましばらくその場に立っていましたが携帯電話を取り出すとトゥルーの番号をダイヤルしました。
彼女は2回目の呼び出し音で電話に出ました。
「姉さん、俺だけど、今ポール・ライアンのアパートにいるんだけどさ、こっちに来て これを見て欲しいんだ」


10分後、トゥルーがドアをノックするとハリソンドアを開け彼女を中へ入れます。
「鍵を壊したの?彼はどこ?」
トゥルーは小さな声で言います。
ハリソンはトゥルーを黙らせるために両手を彼女に向けます。
「落ち着いて。案内するから。俺の後に着いてきて…寝室を見たらたまげるからな」
彼女は眉をひそめ彼の後について寝室の中に入りました。
彼女は部屋に入りながら辺りを見まわしますが。
一見して注目すべきものは何も無いように思います。
しかしベッドの前にあるナイトスタンドの上のTVに気付きました。
それは音を消した状態で映っていました。
彼女はテレビに映る映像を見ようと近づきます。
トゥルーはTVの画面に映る長いブロンドの髪を揺らしながら笑っている女性を見ると驚きもう一度画面を見つめます。
「これって彼女よ」とトゥルーが言います。
「ああ、間違いなくね。そしてもっとずごいのは。
俺がこの部屋の入った時、誰もいないのにTVがついていたんでおかしいなと思ったんだ。
でも、これを見ろよ」
ハリソンはTVの隣の床の上に山積みされた電子機器を指し示します。
「ポールはそれでアナベルの映像を一日中、24時間毎日流れるように設定している。少なくてもそんな感じだ」
トゥルーはかがんで床の上からDVDのケースを拾い上げてます。
「LAシークレット。これって彼女の出演作品だわ」とトゥルーが確認します。
「そしてこれも見てみろよ」
ハリソンはベッドに近づくとかがみ込みベッドの下からプラスチックの収納ケースを取り出しふたを開けます。
「取り付かれてるわね、全く」
トゥルーは膝を折りケース内の切抜きの山から一枚取り上げました。
明らかに雑誌からの切抜きと思われるパパラッチが写したアナベルの通りを歩いている写真があります。
トゥルーはその切抜きの山を調べます。
アナベルに関係する今までに掲載された事のある雑誌の記事や彼女の写っている表紙やインタビュー記事など
どんなに細かな物でもないものはないというぐらいにありました。
ケースの中は全てそれらでいっぱいで、全て完ぺきな状態で折り目やシミなど一つもありませんでした。
「うわーっ」と彼女が声を出します。
「これは確かに探している男だわ」
「ああ、だから言ったろう」ハリソンは見るからにゾッとしながら言います。
「彼はどこに行ったの?」
トゥルーは目下の事態に戻って尋ねます。
ハリソンは肩をすくめます。
「分からない。あとどのぐらい時間があるんだ?」
トゥルーは腕時計を見て頭を振ります。
「昨日死んだ時間を聞かなかった、でも今にも起きるかもしれない。
あたしが知っているのはアナベルは自分のアパートで殺されたということだけよ」
彼女はひと呼吸おきます。
「彼女のところに行かなくちゃ」
彼女は携帯電話を取り出して死体安置所に電話します。
誰も出ない呼び出し音に彼女の表情は益々イライラします。
「早く、デイビス」
留守番電話に切り替わると彼女は電話を切ってすぐにデイビスの携帯電話に電話します。
驚いたことに呼び出し音さえせずに留守番サービスセンターに繋がりました。
「デイビス、トゥルーよ。あなたの手助けが必要よ、アナベルの住所が必要なの。
お願い、これを聞いたらすぐに折り返し電話をちょうだい」
電話を切った彼女の顔は心配とイライラが入り混じった表情をしていました。
「デイビスと連絡が取れない。おかしいわ、連絡すれば助けてくれるって言ったのに」
ハリソンは肩をすくめます。
「多分何かがあったんだろ?」
「違う、デイビスはそんな人じゃない」
彼女は不安そうに周りをちらっと見ます。
「ハリソン、あたし達で彼女がどこに住んでいるか見つけだすわよ。
何か方法はない?彼女の名前が電話帳にあるとは思えないし」
「ジャックはどう?奴なら知ってるんじゃないか?」ハリソンは尋ねます。
トゥルーは立ち上がると何か考えています。
「実はさ、今日は全くジャックに会ってない」
「まあ、それはそれでいいじゃないか?」ハリソンは楽しそうに言います。
彼女はそれほど嬉しそうではありません。
「違うの、少し変だわ、あたし達はいつもある時点でお互い顔を会わせてるに。
でも今日は1度も会ってない、あいつもあたしの邪魔をしにきてない」
彼女は非常にソワソワと落ち着かなくなります。
「ハリソン、何かがおかしいわ」
彼が応えようとしたときドアの開く音が聞こえてきました。
2人はお互いを見つめあい固まってしまいます。
ポール・ライアンが寝室のドアを開けると見知らぬ二人を見た途端持っていた紙袋を床の上に落しました。
紙袋は床の上を転がり、ポールーは呆然と二人を見つめています。
「だ、誰だお前らは?」と彼の声は恐怖で上ずります。
トゥルーは手を上げます。
「あたし達はあなたを傷つけるつもりはないの。話せば分かるから」
ポールは二人を交互に激しく見るとハリソンに目を留めました。
「あんた、前に来た男だな!」
ポールは取り出されフタの開いたケースを恐怖の目で凝視します。
「あんた達、俺から何を奪う気だ?」
トゥルーは勇気を出して一歩踏み出します。
「ポール、あたし達はアナベルの事について知ってるの。あなたが何をしようとしているのかも知ってる。
あなたに彼女を傷つけさせるつもりはないわ、ポール。」
ポールはトゥルーが正気ではないと言うような目で見つめます。
「彼女を傷つける?何の話だい?」
「これだよ、ポール。ベッドルームでいかがわしいビデオをずっと再生さて興奮してるし!
身代金要求のメモを作るのに十分なスクラップ記事も持ってる!」
全てを説明するかのようにハリソンは言います。
「一秒でも長く彼女を見ていたいんだよ、そのためのTVだ!」ポールは叫びます。
「それが犯罪なのか?そうさ、俺は少しやりすぎたかもしれない、でも俺は禁止命令を出されたんだ」
「そうね、本当にそれを続けていればね」とトゥルーは言います。
「そうじゃないんじゃない、ポール。あなたはこんなことを望んでな」
「何だって?あんたら、何の話をしてるんだ?」
ポールは気が狂ったように叫びます。
「アナベルに何かあったのか?」
トゥルーとハリソンは顔を見合わせます。
「ポール、今は時間がないの、だから素直に応えて。今晩アナベルに会いに行つもりなの?」
トゥルーは率直に尋ねます。
ポールは頭を振ります。
「行かないよ!言ったはずだ、俺は経験から学んだよ、禁止命令を受けてるんだ。
しばらくの間は受け入れ難かった、でも俺はまたアナベルを怒らせるような事はしないように気を使ってるんだ」
ハリソンは彼を見つめます。
「ちょっと待ってくれ…本当に彼女を傷つけるつもりはない、仕返しはしない、何もしないっていうのか?」
「違う!俺はアナベルを愛してる、彼女を傷つる事なんて絶対にない!俺が先に死ぬんだ」と彼は涙を流しながら言います。
現実がついにトゥルーを襲います。
「この人じゃない」と彼女はゆっくりとハリソンに振り返って大声で言います。
「それじゃあ、誰が…」ハリソンは完全に迷っているようです。
「ジャック。あいつはおそらく始めからずっと、あたしが間違った方向を追っていたことを知ってたんだわ」
トゥルーは頭を手で押さえてできる限りの思考をフル回転させます。
「アナベルのアパートに行かないと」
彼女の頭に何かが閃きました。そして彼女はポールに近づきます。
「ポール。あなたなら彼女がどこに住んでいるか知ってるでしょ。
さあ早く、彼女の事なら何でも知ってるはず、どこに住んでいるかも!」
ポールは目を大きく開き怯えた目でトゥルーを見つめます。
「俺、逮捕されるのか?」
「いいえ、ポール、あなたはアナベルの命を救う手伝をするの。
彼女にあなたができる最も良い方法で彼女への愛を証明するのよ。お願い、住所を教えて!」
トゥルーは嘆願するように彼を見つめます。
針が落ちる音が聞こえるほど部屋の中は静まり返りました。
ついにポールは口を開きます。
「チェスター通りの104。アパート10B。
でも、俺も一緒に行くよ、もしアナベルがトラブルに巻き込まれたんなら…」
既にトゥルーはドアに向かいその後ろをハリソンが追いかけていました。
「だめよ、ポール、あなたはここにいて。事がこじれるとまずいの。
お願い、約束して、もしあなたが本当に彼女を愛してるならここにいてちょうだい」
ポールは頷きました。
「わ、分かったよ」
「ありがとう」
トゥルーはアパートから走り出て、ハリソンが後を振り返るとそこにはバスにでもぶつかったかのような状態のポールが紙袋の中身をぶちまけた中に立っていました。


アナベルは1人でアパートにいます。
彼女は大きな音で音楽を鳴らしジーンズと黒い上着を身につけ歌に合わせてアパートの中を忙しく動き回って踊っていました。
彼女はテーブルの上に積まれたファンレターの束の上から一枚取ると動きを止め手紙を開きます。
そしてファンレターを読みながら微笑を浮かべます。
彼女は引き出しを開けると自分の顔写真の束を取り出し、一枚引き抜くとそれにサインをして同封されていた返信用の封筒に写真を入れました。
ちょうどその作業を終えたときドアがノックされました。
驚いて時計を見ると、ステレオに急いで行き音楽を止めました。
急いでドアに行って開けると、彼女はその人物が誰であるか分かり戸惑いました。
「ブレイク」と彼女は驚いた声で言います。
ハンサムな弁護士はまだ仕事着のまま廊下に立ってブリーフケースを持っていました。
「中に入ってもいいかな?」と彼が尋ねます。
彼女は一瞬躊躇いましたが入ることができるように広くドアを開けました。
彼はアパートの中に足を踏み入れると彼女はドアを閉じました。
「ブレイク、何しにきたの?」
アナベルは別れたはずのブレイクに尋ねます。
彼は彼女を見つめたままテーブルのファンレターの隣にブリーフケースを置きます。
「話をしたいんだ」
「何について?ブレイク…。もう済んだ事でしょ。これ以上話す事なんかないわ」と彼女は穏やかに言います。
「いや、まあ、僕が君に話したいんだよ」と彼は落ち着いた声で言います。
「二人の関係が終わったなんて事はないだろう、アナベル」
「私が言ったわけじゃないわ。それにそれじゃいけないわけ、ブレイク。
この方が二人にとって一番いい方法だって分かってるでしょ」
彼女はきっぱりと言い切りますがその目は悲しそうに見えます。
彼は彼女に向かって歩みを進めます。
「僕たちは特別な関係だったんだ、アナベル」
彼女は少し緊張します。
「分かってるわ。良かったと思ってた…その時はね」
彼は彼女を見ると何か言おうとしましたがその代わりに彼は向きを換えブリーフケースの方へ行きケースを開けワインのビンを取り出しました。
「君のお気に入りだ。僕はただ・・・。僕らはさようならを言うチャンスがなかったね」
彼は仲直りのプレゼントを渡すようにワインを差し出します。
「昔の思い出のために?」
彼女はためらいがちに見えます。
「今は飲みたくないのよ。撮影現場にあと1時間で戻らなきゃだめなの」
「潰れるほど飲まなければいいさ」と彼はわずかに笑みを浮かべて言います。
彼女はため息をつくと台所に向かいました。
彼女はキャビネットから2つグラスを取るとカウンターの置きます。
ブレイクはワインのコルク栓を抜きます。
「それで、君はもう新しい弁護士を雇ったのかい?」と彼は2つのグラスにワインを注ぎながら皮肉っぽく言います。
「ええ。実を言うと彼女は今日、私の代理人をしてくれる事に同意してくれたわ」とアナベルは注がれるワイングラスを見ながら言います。
彼はこれににっこり笑います。
「ああ、それで君は格好いい若い男の弁護士を避けているんだ。僕らの事から学んだんだね?」
彼女は明らかに彼の横柄な口調に面白くない顔をします。
「ブレイク、どうしてこんな事を?」
彼はただ彼女を見ます。
「ねえ、窓を開けるかエアコンでもつけてくれないか?暑くて汗をかいてきたよ」
彼女はため息をつきエアコンの場所へ行くとスイッチを入れます。
彼女がエアコンの方に行っている間にブレイクはポケットから素早く何かを引っ張り出してグラスの1つにそれを入れるとかき混ぜて溶かしました。
彼女が戻ってくると彼女に何かを入れたグラスを渡し自分はもう一つのグラスを手に取ります。
彼女は彼からグラスを受け取ります。
「昔のあの時に」と彼は乾杯をするためグラスを彼女に向けて言います。
彼女は静かにグラスを合わせると口にグラスを持っていきます。
ワインが彼女の唇に流れ込む直前、けたたましくドアがノックされました。
彼女は険しい顔つきでドアを凝視して飲むのをやめます。
「変ね」と彼女はノックに応えるためドアに向かい、ブレイクは彼女の背中に怒りを覚えます。
若い女優はドアを開けました。
トゥルーがドアの向こうに立っています。
トゥルーの目は彼女の手に満たされたワイングラスを見ます。
「アナベル、ダメよ、それを飲んじゃ」とトゥルーは急いで言います。
アナベルは彼女を見つめます。
「あなたはさっきポール・ライアンの事を話をしていた人じゃない」
アナベルはいら立ったように頭を振ります。
「さようなら」
彼女はドアを閉じようとしますがトゥルーは彼女を押し切ってリビングの中へと入ってきました。
トゥルーの目はワイングラスを持って呆然とカウンターの近くに立っているブレイクを見ると今度はアナベルに振り返りました。
「ねえ、あなたがあたしの事を頭がおかしいんじゃないかって思ってるのは分かってる。
でもあなたが持っているワイングラスに毒が入ってることも知ってるの、本当よ」
アナベルは自分のグラスをちらっと見て戦慄した顔で彼女を見つめます。
「何ですって?それは…」
彼女は眉をひそめ額にシワを寄せブレイクを見ます。
「ブレイク…あなたじゃないわよね」
彼はカウンターの上にワイングラスを乱暴に置きワインをカウンターの上にこぼしました。
「僕がそんな事するわけないだろ、そうだろ?
僕が君をどうして殺さなきゃならないのか理由がないじゃないか」
何かが彼の内部でポキッと折れたかのように彼の目は見開き緊張しています。
ガシャンという音がトゥルーを驚かせます。
アナベルのワイン・グラスが床に落ち、トゥルーは割れた破片と床に広がるワインの中に沢山の細かい粒子があるのを見ます。
アナベルはただ固まってそこに立っています。
「違うわ。この娘が間違ってるのよ…」
突然ブレイクはブリーフケースに手を伸ばして部屋の向こう側に行きます。
「それはどうかな」
アナベルは突然突きつけられた銃を見て叫び声を上げました。ブレイクは躊躇なく銃を彼女に向けています。
「僕はこうなる事を望んでなかったんだ。きれいなままでいたかった」
トゥルーはアナベルの前踏み出します。
「ブレイク、銃を下に置いて」
「君は一体誰なんだ?」とブレイクはトゥルーに叫びます。
「これは僕と彼女の問題だ」
「ねえ、あたしはあなた達の間に何があったかのか分からない、けどこれはそんな事じゃないで諸」
彼女は次に何を言うべきか分からず恐怖で引きつります。男が誰なのかも、多分男は彼女と付き合っていて悪い別れ方をした事以外は。
トゥルーは遠くでサイレンが鳴っているのを聞くとハリソンが警察に電話してこちらに向かっている事を祈ります。
ブレイクの表情からも同じようにサイレンの音が聞こえたように見受けられます。
「ブレイク、銃を渡して。何があったって、人を殺したら刑務所に入って一生を台無しにするんだよ」
彼はしり込みしながらもまだアナベルに銃を突きつけています。
トゥルーは後ろからかすかにアナベルのすすり泣きをする音が聞きます。
「僕は君を愛していたんだ」と彼はトゥルー越しに彼女に言います。
「愛してたんだ。君に素晴らしい暮らしをさせることができたはずなんだ。
僕らは幸せになる事ができたはずなんだよ。だがもう遅いんだ!」
「ブレイク、お願い」とトゥルーは懇願します。
「すまないと思う、僕は決して君を傷つける事は望んでなかったんだ…」
サイレンの音は今ますます近づきトゥルーは助けが本当に来るのでは期待します。
「でも君は僕を傷つけた、アナベル。僕を傷つけたんだ!」と彼は叫びます。
「君にコケにされて僕がどんな気持ちだったか分かるか?
君にプロポーズしたら単に断っただけじゃなく、僕を捨てた!
誰か他に僕のような間抜けな者と一緒に逃げるなんて」
今すぐ外でサイレンが鳴っています。
「ブレイク、警察が着たわ。もう終わりにして。銃を下に置いて」とトゥルーはアナベルの前に盾となって厳しい口調で言います。
三人は無言で見つめあい、唯一聞こえるの音はアナベルのすすり泣きとブレイクの激しい呼吸だけです。
ドアを叩く大きな音がします。
「警察だ!開けるんだ!」と大声で言います。
誰も動かないと数秒後ドアが破られ3人の警察官がなだれ込みブレイクに銃を向けて警告します。
「武器を下に置くんだ!」
ブレイクは驚きの眼差しでテーブルの上のファンレターの上に銃を置きました。
警察官の1人が彼に手錠を掛けるために近づきます。
「あなたは黙秘権を持っています。あなたが発言した内容は有利不利に関わらず…」
トゥルーは振り向きハリソンが入り口に立っているのを見ました。
「ありがとう」と彼女はハリソンに声に出さずに口を動かしました。
彼は『問題ないよ』と言うかのようにうなずきました。
壁のところで座って涙を流すアナベルにトゥルーは目を向けます。
初めて彼女の事が完ぺきで大物に見えませんでした。
その代わりに彼女が傷つきやすく死を怖がる少女のように見えました。
「あなたは誰なの?」と彼女はトゥルーに尋ねます。
「ただのおせっかい焼きよ」とトゥルーはサラッと言います。
トゥルーはゆっくりとアナベルの手をぎゅっと握るとアナベルの隣に座ります。
「すべて解決したから大丈夫よ」


トゥルーがアパートに到着したときにはもう外は真っ暗でした。
彼女は部屋の中をうんざりしたように歩いてジャケットをハンガーに掛けようとしたとき携帯電話が鳴りました。
彼女は携帯を開き耳に当てます。
「もしもし?」
「トゥルー!ああ、よかった」
「デイビス」トゥルーは少し怒った声で言います。
「一体どこで何をしてたのよ?」
「お、俺はキャリーと一緒だったんだ、携帯電話の電源が入っていると思ったんだが、あ、明らかにそのはずだったんだ。何かすることがあるのかい?」彼はパニックになっているようでした.。
「もう自分で解決したわ」と彼女が冷たく言います。
「アナベルは?」と彼の声は恐れを含み尋ねました。
「生きてるし、元気よ」とトゥルーは素っ気無く言います。
「もう少しで危険な状態になったけど、でも今は問題ないわ」
「やっぱりストーカーだったのか?」デイビスが尋ねます。
「実は、違った。彼女の元弁護士だった…あの、実際にはそれほどの事じゃないわ。
彼らは内緒で付き合ってたの、ことが重大になり始めてアナベルは彼を捨て彼が切れた。
彼のエゴはそれを理解できなかったってわけ。
12歳の年齢差が彼女のイメージに合わないから終わりにしたって彼女が警察署であたしに教えてくれた」
「ああ…それは多分アナベルが聖人ではないイメージがつくのを心配したんだろう」とデイビスが熟考します。
「必ずしも、あまりにも若者たちに深く愛されてたから人気が落ちるのを恐れたわけじゃないと思う。
彼女は速くビックになろうとしたから結婚なんて思いもしなかったんだと思うよ」
トゥルーはこらえかねてため息をつきます。
「でも弁護士は拘留されて、アナベルは元気だよ」
「ああ、それはよ、良かった。ご苦労さん」
「ええ、ハリソンがすごく頼りになったから」とトゥルーは思ったことを付け加えます。
「本当にハリソンがいなければできなかったわ」
「ああ…まあ、それは良かったな」
彼はひと呼吸おきます。
「トゥルー、本当にすまなかった。二度とこんな事は起きないようにするよ」
トゥルーはうなずきます。
「分かった、デイビス。ねえ、今日は本当に長い一日…2回の長い一日だった、だから今晩あたしが仕事に行かなくても大丈夫だよね?」
「もちろんさ。休んでいいよ」
「じゃあまた明日ね」
デイビスがもう一言言葉を言おうとした時彼女は電話を切りました。
彼女は故意にニュースチャンネルを避けてTVをつけます。
彼女はもう十二分にブレイク・ダンカンの顔を見ました。
彼女はソファーに座って、どうしてうまく事が運ばなかったのかについて考えます。
かつて一度も彼女は殺人者について何も知らずに説き伏せるという事はありませんでした。
1日中間違った人物を追いかけていました、その人物はほとんどアナベルの人生に負担を掛けていました。
今日撮影所の外で黄色い声をあげ女優を崇拝している少女たちを思い出し、もし彼女が死んでいたなら今頃どんなに悲しむのかと思います。
それから彼女はジャックについて考えます。おそらく一日中ブレイクのあとを追い回し、多分ジャック自らブレイクに毒を私のかもしれない。
「辻褄が合わないわ」と彼女はうんざりしたように言います。
アナベルのアパートから戻って、彼女はすでに状況が彼女のコントロール外であったように感じていました。
トゥルー・デイビーズは自分自身の仕事の事になると抑える事ができなくなる感じが好きではありませんでした。
彼女の携帯電話がその日何回目かの耳障りな音を出して彼女の思考を中断させました。
「もしもし?」
何も聞こえません。
「もしもし?」
トゥルーは漠然と昨日も似たような電話を受けたことを思い出しきちんと座り直します。
「もし、もし、トゥルー」とよく聞いた声がためらいがちに伝えます。
「姉さんよ」


ジャックはリチャードのオフィスの中に入ります。
年季の入った男はその日の帰る準備ができていてコンピュータを消しブリーフケースの中にファイルをしまっています。
「それで、お前はどのように説明をするんだ?単に私の娘がもう一度運命を混乱させることに成功しただけじゃないか、しかも私の最も大事な弁護士の1人を失った」と彼は冷たい声で言います。
ジャックは壁に寄りかかります。
「すまなかった。俺はトゥルーをストーカーに釘付けしておいたはずなんだが、
どういうわけか知らないが彼女は間に合ってしまった」
「彼女は頭が良い。我々はそのことを知ってるだろ。多分お前は彼女を過小評価し過ぎているぞ、ジャック。」
リチャードは微笑します。
「やはり、彼女は私の娘だ」
「二度とさせないさ」とジャックは固い決心で言います。
「面白い、だがその言葉を聞くのは今日が初めてじゃない、このごろずっと聞いてるぞ」
リチャードは彼を見つめます。
「策略に力を入れる必要があるな、ジャック。これでは容認できなくなり始めているぞ」
リチャードは手を伸ばして机のライトを消すとジャックの前を通り過ぎ暗いオフィスにジャックをたった1人取り残します。
とりあえずここまで訳しました。 終わり次第アップします。

終わり

言葉のごった煮>トップへ