ANOTHER TRU CALLING
アナザー トゥルー・コーリング

Cursed:のろい

あらすじ
トゥルーは原因不明で死んだ犠牲者に助けを求められ、
やり直しをすると目が覚めたのは飛行機の中でした。
ハリソンが手助けをしますが、その代わりに別の遺体が運ばれてきます。
トゥルーはどうしてそうなってしまったのか理解することができるのでしょうか?

第1章 警鐘。
朝早くからの電話の音にハリソンは唸って頭の上に枕をかぶせます。
外はまだ暗くこんな朝早くに電話をかけてくる者はいないと思いました。
彼は無視し続ければやがて鳴り止むと思いましたが一向に鳴り止む気配はありません。
彼は文句を言いながらも受話器に手を伸ばします。
「緊急事態か」と彼は電話にボゾボソと答えました。
「ハリソン?」トゥルーの声が雑音混じりに聞こえてきます。
「いないよ」とハリソンはボソボソと言いました。
「ハリソン、あんたの助けが必要なの」とトゥルーは彼の言葉を無視して続けました。
「朝の4時だぜ」ハリソンは文句を言いました。
「こんな朝っぱらからどんな助けが必要なんだ?」
「ごめん、時間が分からなかった」トゥルーは謝りました。
「今、空の上からなの」
「飛行機からかけてるのか?」ハリソンは少し目を覚まし、何かとんでもない事件に巻き込まれるのかと尋ねました。
「ハリソン、やり直しの日よ。
 デイビスに連絡を取ることができないの、死体安置所にも」雑音が激しくなるとトゥルーは気が狂ったよう言います。
「飛行機の中でやり直しが起きたのか?」ハリソンは尋ねました。
「どんな事があったんだ?」
「あたしがやり直すのは最後に目が覚めた時間だって知ってるでしょ、
 目を覚ました時間がヨーロッパから戻ってくる飛行機の中だったのよ」
「ちょっと待ってくれ」とハリソンはため息をついて言いました。
「飛行機から降りてまっすぐに仕事場に行ったらやり直しになったのか?」
「その通りよ」とトゥルーは頷きます。
「だから今は飛行機の中で手が出せないの、犠牲者を救う事ができないのよ。
 あたしが空港から死体安置所に行ったら、彼女が運ばれて来た。
 だからあたしがそこに行くまで、あんたとデイビスで代わりにやっておいて欲しいの」
「飛行機を急がせるわけにいかないのか?」ハリソンはベッドに寝転がり尋ねました。
「バカなことは言わないで」とトゥルーはきつく言いました。
「書くものが近くにある?」
「いや」とハリソンが答えました。
「朝の4時に書く物なんか用意してるわけないだろ」
「じゃあ出して」とトゥルーは命令しました。
「急いで、電話が通じにくくなってるから」
ハリソンはベッド脇のスタンドのスイッチを入れると突然のまぶしい光に目が眩みました。
彼は引き出し開けゴミでいっぱいの中をかき回しメモ用紙とペンを取り出します。
「オーケー」とハリソンは再び受話器を耳に当て促します。
「彼女の名前はヴェロニカ・カーター、三番街で骨董品のディーラーをしてる。
 死因は分かってないわ。
 あたしが安置所に着いた時には、まだデイビスが調べてる最中で死因の特定ができてなかった。
 年齢は四十代初めだけど、髪の毛が真っ白でもっと老けて見えるわ。
 見つけ出すのは簡単なはずよ。
 今日はあんたが彼女を見張り続けていて欲しいの。
 全部書いた?」
「ああ」とハリソンはトゥルーの電話が聞こえなくなる寸前に伝えた住所を走り書きしました。
彼は手の受話器を見て顔をしかめました。
彼は受話器を戻すとベッドから抜け出しながら、デイビスの自宅の電話番号も教えてくれたらいいのにと思いました。
電話を下に置いてスタンドのスイッチを切ると、もう一度寝ようとベッドに倒れこみます。
三十分後に彼は起き上がって再びスタンドのスイッチを入れました。
結局眠れませんでした。
姉の変な電話のせいで目が冴えてしまい、完全に目が覚めてしまいました。
もう起きてしまった方がましです。
一時間後、ハリソンは街の中を当てもなく彷徨いながら周囲の人の多さに驚きました。
彼が午前五時三十分に目が覚めるなんて事はまれで、まして外に出て歩き回る事はもっとまれです。
彼はよく知ったアパートの外で立ち止まり、キャシーはもう起きているかと思いました。
彼はトゥルーに昔の彼女の事は忘れてキャシーと付き合っていると思わせていました。
その付き合っている振りをした期間を含めると三ケ月も彼女と付き合っている事になります。
今は二、三週間前から本当に付き合っています。
『こんなに朝早くから訪ねるのは非常識だと思うかもな?
 怒るかな?
 ダイナーの仕事は朝早くからだからもう起きて仕事に行く準備をしているだろうな?
 皆仕事を持つと何時に起きるんだ?』
彼は決心し建物の中に入って、階段を上がりキャシーの部屋へと向かいます。
ドアの前に着くとノックをして、彼女が入れてくれるのを待ちました。
ドアが僅かに開き、キャシーが隙間から彼を見ました。
彼女はまだ半分眠っているように見えました。
ハリソンは誰もが仕事のために早起きしているわけではないと思いました。
彼女は一旦ドアを閉めチェーンを外すと、彼を入れるためにドアを開けました。
「今何時だと思ってるの?」キャシーは口に手を当て欠伸します。
「早かった?」とハリソンが言いました。
「起こしちまったか?」
キャシーはその質問に眉を上げました。
彼女はローブのまま立っていて、髪は乱れ、化粧もしていませんでした。
眉をひそめながら彼女はソファーに行って隅の方で丸くなりました。
「こっちの方に来たから」とハリソンは彼女の隣りに座って説明しました。
「ちょっと寄って、君に会いに来たんだ」
「会いにって、他の人を連れ込んでないかって?」キャシーは眠そうに笑って尋ねました。
「違うよ」とハリソンはちらっと寝室を見て言いました。
「そんな事はしないだろ?」
「私の隣りに座っている人だけよ」とキャシーは微笑みながら答えました。
ハリソンはにっこり笑って彼女を引き寄せました。
「何でもなきゃいいんだ」と彼は彼女をもっと引き寄せ、彼女の下唇にキスをしながら言いました。
「それで、本当は何をしに来たの?」しばらくキスをした後キャシーは尋ねました。
「仕事でも見つかったの?」
「違うよ」とハリソンはゾッとして叫びました。
「一緒に日の出でも見に行こうかと思ってさ」
「もう一度言ってみて、ハリソン」とキャシーは笑いながら言いました。
「そんな事信じるとでも思ってるの、こんな朝っぱらから?」
「行ってみる価値はあるだろ」とハリソンが答えました。
「実は、朝早く電話で叩き起こされたんだ、そしたら眠れなくなってさ」
「素敵ね」キャシーは立ち上がりながら目を泳がせました。
「自分が明け方にベッドから引きずり出されたからって、私に同じ事をしに来たの?コーヒーは?」
「ああ」とハリソンは答えました。
「それで誰からの電話だったの?」
数分後、キャシーはホットコーヒーのマグを二つ持ってハリソンの前に置きながら尋ねました。
「姉さんだよ」とハリソンはキャシーからマグを受け取りながら言いました。
「お姉さんはヨーロッパにいるんじゃない?」キャシーは尋ねました。
ハリソンは彼女がリンジーの名前を出さないように気をつけていることに気付きました。
二人ともトゥルーがリンジーの新婚生活への訪問をしている事を知っていましたが、
会話の中に出す事は避けていました。
「今こっちに戻ってきている最中で、飛行機の中からだよ」
「何か悪い事でもあったの?」キャシーは座りながら尋ねました。
「今日は俺にある人を見張るように言ってきたんだ」とハリソンは姉の特殊な能力をどのように説明しようかと思いました。
キャシーの命を救うために一度は簡単な説明をしましたが、
その時はキャシーは自分が危険に晒されている事を信じませんでした。
挙句の果てにはトゥルーとハリソンはアパートから放り出されました。
しかし助けられた後、彼女はトゥルーがこれから起こる事が分かるんだと信じたと言っていました。
ハリソンはトゥルーが彼女に一体いつ説明する時間があったのか分かりませんでした。
彼は時間を稼ぐためにコーヒーをひと口飲みました。
「私がお姉さんに助けられた時と同じような事なの?」キャシーは尋ねました。
ハリソンはうなずきます。
彼が説明したわけではないならもっと良かったでしょう。
これは姉の秘密であり、本当はキャシーに話す事ではありませんでした。
彼は彼女にもう一度アパートから放り出されたいと思いました。
「今度は骨董品のディーラーの女性なんだ」とハリソンが説明しました。
「姉さんは、自分が戻って来るまで彼女を見張ってろって言うんだ」
「簡単そうじゃない」とキャシーは言いました。
「仕事が終わったら手伝ってくれないかな?」ハリソンはためらいがちに尋ねました。
ハリソンはトゥルーがキャシーをやり直しに巻き込む事に賛成するかどうかは分かりませんでした。
しかし彼自身、単純で退屈だと気が滅入ることを十分知っていました。
キャシーが少しでも一緒にいれば、退屈しないですむかもしれないと思いました。
「今日はダイナーに行かないわ」とキャシーが答えました。
「休みか?」ハリソンはしかめ面で尋ねました。
「それならどうして俺を誘ってくれないんだ?」
「実は予定があるのよ」キャシーは微笑しました。
「ついに私のインテリアデザインの仕事に興味を持ってもらったの。
 何件かのオークションに行って商品の目利きをする予定なの」
「そいつは良かった」
「俺と一緒に来て、家具だとかの事をその女の人に聞けばいいじゃないか。
 その人は骨董品店をやってるんだ、色んな事を知ってるさ、他のところへも紹介できるんじゃないか」
「今までみたいにあなたの言う事がでたらめだって思ってたら、
 仕組んでたんでしょって思ったに違いないわ」キャシーは頭を振りながら笑顔で立ち上がりました。

第2章、捜索。
ハリソンは店の前で立ち止まり窓越しに中を見ます。
白髪の女性はいませんでした。
カウンターの後ろで新聞を読んでいる若い男以外、誰も店内にはいませんでした。
「その人はいた?」キャシーはウインドウの陶磁器のディスプレイを見ながら尋ねました。
「いや」とハリソンが答えました。
「中に入って聞いてみるか」彼がドアを開くと流行遅れの小さなベルが鳴ります。
カウンターにいた若者はチラッと見上げるとすぐに新聞に目を戻しました。
「こんにちは」キャシーは若者に近づきながら陽気な声で言いました。
「今日、ヴェロニカって人が来てないか教えていただけませんか?」
「さあね」と彼は肩をすくめると再び新聞に戻ります。
「彼女は外出中だ」
「どこに行ったか分かるか?」ハリソンは尋ねました。
若者は再び肩をすくめました。
「全く分からないの?」キャシーは尋ねました。
「今日は彼女に会わないといけないの」
「どこかのオークション会場に行ってるよ」と若者は早口で言いました。
「何か買いにきたのか?」
「いや」とハリソンは店内を見回しながら答えました。
古臭く、かび臭い家具など彼は買うつもりはありませんでした。
たとえ大金を持っていて買う余裕があったとしても。
「実は」とキャシーはハリソンに黙っているようにと軽く肘で突付き言います。
「私はインテリアデザインビジネスのためにコネを探しているの。
 ここにはいくつか素晴らしいアイテムがあるわ。
 私もそう思うんだけど私のクライアントも同じぐらい評価すると思うの」ハリソンは称賛してキャシーを見ました。
彼には彼女がうまいウソをつくのを知っていました。
そのおかげで長い間トゥルーをだます事に成功していたのです。
そして若者は彼女の口車に乗ってきました。
彼は新聞を下に置いて立ち上がるとカウンターから出てきてキャシーを店の棚へと案内します。
ハリソンは期待に胸を膨らませ、彼らの後に続きました。
二人が目的の場所に着くと、あまり特徴のないアイテムがありました。
トムと自己紹介した若者はその中から大きなカタログを取り上げてキャシーの手に渡します。
そして彼は次にどれぐらいその事に関して手伝えるか詳しく話し出します。
ハリソンはじっとトムを見て、彼はまだこの仕事に慣れていないのではと思いました。
彼はまだキャシーの会社の名前さえ尋ねていませんでした。
『彼女の会社に名前なんてあったか?』ハリソンは彼女がその事について話したかどうか思い出そうとして眉をひそめました。
熱心になっているトムにあまり時間がないのでヴェロニカの居場所を聞こうとしました。
「俺たち本当に今日はヴェロニカと話がしたいんだ」
ハリソンはトムがダイニングテーブルから時計へと動いたときに言って話を遮りました。
カタログの商品は素晴らしい物なのに、店に展示されている商品はどうして程度の低い物が置かれているのかと思いました。
「彼女がどこのオークションにいるか知ってる?」キャシーはトムにとびっきりの笑顔で尋ねました。
「多分分かると思うよ」とトムはハリソンがむかつくような笑顔で答えます。
「すぐに戻るから、ここで待ってて」
「ありがと」とキャシーはトムが店の奥へのドアへと急いて行くのを作り笑いして言いました。
「奴は君に夢中だったぜ?」トムが見えなくなるとすぐにハリソンはキャシーの耳元で言いました。
「ええ、分かってたわ」とキャシーが答えました。
「でもあなたの質問の仕方じゃ分からなかったでしょ。
 少なくても今は彼は助けになってるわ」
「奴はただ君と一緒にどこかに行きたいと思ってるからだよ」とハリソンが指摘しました。
「彼がヴェロニカのいる場所を言うまでは、何を考えててもいいじゃない」とキャシーは肩すくめて答えました。
ハリソンはキャシーが情報を知るために媚を売るような真似をしたのが面白くなく眉をひそめました。
彼はどこから嫉妬心が湧き上がってくるのか分かりませんでしたが、嫉妬心は益々強くなっていきます。
「ここだよ」とトムは叫びながらリーフレットを振り回してドアから出てきます。
「ここからそう遠くない。15分ぐらいの場所だ。
 そこに行けば彼女はいるはずだよ」
「ありがとう」とキャシーは彼からリーフレットを受け取って答えました。
「すぐに戻ってきて」とトムは二人が店から出て行くのを笑顔で見送ります。
キャシーは外に出ながら頷いて微笑みました。
ハリソンは彼女の後から出るとすぐに彼女の肩に腕を回します。
がっかりしたトムが睨んでいるのを無視して、彼はオークション会場の方へとキャシーを急がせました。
「いつからヤキモチを焼くようになったの?」キャシーはハリソンの腕を振り解きながら微笑んで尋ねました。
「俺の目の前で他の男といちゃつき始めたからだよ」ハリソンは不平を言いました。
「彼はまだ子供じゃない」とキャシーは笑って指摘しました。
「さあ、ヴェロニカを見つければ、彼女といちゃつくことができるわよ」
「面白い冗談だ」とハリソンはオークション会場に入りながら答えました。
会場はバイヤーや売り手でいっぱいでした。
ハリソンはこの中からトゥルーの言っていた犠牲者を見いだすのは至難の業だと思いました。
「彼女の容姿は?」キャシーは群衆を見回しながら尋ねました。
「中年で真っ白な髪をしてる」ハリソンは答えました。
「こんなに人が多いと。スタッフに聞いてみた方が早いな」キャシーは頷き、二人は受付へと歩きます。
受付にいた身なりのきちんとした男はハリソンを一瞥した後キャシーの方を見てうっとりとします。
ハリソンは再び眉をひそめました。
この男にはハリソンはかないません。
男の髪はきちんとセットされ、ハリソンの寝癖だらけの髪とは比べ物になりません。
『どうして俺はキャシーを見る男たちが彼女に媚を売るのに気づかなかったんだ?』
ハリソンは受付の男といちゃつかないようにキャシーに目で合図を送ります。
キャシーは面白くなさそうな笑みを浮かべ受付の男を見ます。
「私たちヴェロニカ・カーターって人を探してるんですけど」と彼女は丁寧に事務的な微笑で尋ねました。
「彼女はここに来ていますか?」
「いると思いますよ」と男が答えました。
「一緒に探しましょうか?」
ハリソンは早く彼女を男から引き離そうと男を見つめます。
「ええ」とキャシーは甘ったるい微笑で答えました。
「私たちの新居を彼女にお願いしたくて。
 私たちついさっき新婚旅行から戻ったところなの、ねえ、ハリー?」
ハリソンは彼女の言葉に慌てて黙ったまま立っていました。
結婚という考えは一度も彼の心をよぎったことがありませんでした。
ましてキャシーが突然彼を夫として紹介することなど彼は心の準備ができていなかったためショックを受けました。
ヴェロニカを探すためのルールを彼女と話し合っておくべきだったと思いました。
ハリソンは彼女が言ったウソを悟られないように笑みを浮かべます。
そして受付の男が言った言葉をかろうじて聴きました。
「…ダブルドアを入ったら4番目の右手にいるはずです」と受付の男は言いました。
キャシーは感謝の微笑を浮かべぼう然としているハリソンの腕をぎゅっとつかんで彼を引っ張ります。
「一体なんであんな事を言ったんだ?」廊下に出るとハリソンは小さな声で言いました。
「私が彼といちゃつくのを嫌がったじゃない、
 だから彼が期待しないようにするにはあれが手っ取り早い方法だったの」とキャシーは答えました。
「他になかったのか?」ハリソンは唸りました。
「君は…」
「あきれたわ、ハリソン」とキャシーはぼそぼそ言いました。
「本当に結婚してるわけじゃないじゃない。罪のない小さなウソよ。
 あなたって今まで人を喜ばせる様な事を言った事があるの?」
「姉さんも時々同じ事を言ってたよ」とハリソンは認めました。
ショックが次第に和らぐと、キャシーは興味深そうに廊下を歩き出しました。
彼は通り越したドアを数えながら歩き、4番目のドアについた事を悟りました。
彼は立ち止まりキャシーを引き寄せると部屋に入ります。
「今度は俺が話をするからな」とハリソンは彼女が今度は何を言いだすのか不安になり言いました。
「オーケー」とキャシーは微笑しながら答えました。
「私はちょっと見学してるから。
 今日はオークション会場に来る予定はしてなかったけど、来た以上最大限に有効利用した方がいいでしょ」
「オーケー」とハリソンは同意しました。
「俺はヴェロニカを探す、一時間後にここで落ち合おう」
「ええ」とキャシーは答えながら、彼女の目はその日の午後に売り出されるアイテムのディスプレイを眺めていました。
ハリソンは群衆の中にキャシーが姿を消すと、ヴェロニカ・カーターを探し始めます。
部屋の中には数人の白髪の女性たちがいました。
ハリソンは一人づつ近づいて確認しましたが違いました。
ここにはいない事を悟った彼は展示品の傍でお客からの質問に答えるためにに立っていた職員に尋ねようと振り返りました。
「カーターさんですか?」と男は部屋の中をさっと見渡して答えました。
「彼女ならあそこの陶器のセクションにいますよ」と彼はそちらの方を見てうなずきました。
ハリソンは男に礼を言い、男の示した花びんや器の置いてある部屋の反対側へと行きます。
彼は展示品を見ている人たちを見渡しました、しかし白髪の女性はいませんでした。
彼はキャシーがおかしな形の花びんを見ているのを見つけて、彼女の無言の問いかけに頭の振りました。
もう一度彼が別の職員に聞くと、すぐ後ろから「私がカーターよ」という声が聞こえてきました。
ハリソンは声のした方を見ました。
背が高く堂々としたカーターは見た目も40代でした。
しかし彼女の髪は白髪ではなく、魅力的な赤毛でした。
「あなたがヴェロニカ・カーターさん?」ハリソンは混乱して尋ねました。
「ええ、私がヴェロニカよ。私を探してたの?」カーターは返事しました。
「三番外の骨董品店のヴェロニカ・カーターさん?」
「そうよ」と彼女は彼と同じぐらい困惑した顔で答えます。
「すみません」ハリソンは謝罪の微笑を浮かべました。
「聞いてたのと違ったもんだから」
「何か御用?」ヴェロニカは尋ねました。
ハリソンは彼女を見付け出したのはいいが、まだどのように彼女に話すべきか考えていなかったため黙って立っていました。
キャシーの経験から真実を話すことは問題外であることは分かっていました。
トゥルーなら彼女に何と言ったか、それとも彼女の実の安全を確認するために遠くから見守っているだけなのか。
しかしその選択はもう遅すぎであることを悟りました。
彼はキャシーなら何か考えているかもしれないと彼女を見ると、彼女は陶器の展示品から姿を消していました。
「どうしたの?」ヴェロニカはハリソンが展示品を見つめているので興味を持って尋ねました。
ハリソンは頭をフル回転させてヴェロニカに笑顔を向け、なぜ彼女を探していたのかの説明を作り出しました。
受付でのキャシーの言った話を取り入れて、妻であるキャシーがヴェロニカに会いたがっていたと。
数分後、ヴェロニカはキャシーのような若いカップルのために新居の部屋の装飾を手伝いたいと望んでいるように見えました。
ハリソンはどうしてキャシーがインテリアデザインビジネスについての話をしていたのにその事を言わなかったのかと思いましたが、
この際あまりにそれについてあれこれ思案しないことに決めました。
彼らはやっと隣の部屋のオークション会場でキャシーを見つけだしました。
ハリソンが彼女を見つけたとき、彼女は出品されている商品の一つに入札していました。
彼が彼女に来るように合図しようとしたその時、静かな部屋の中で彼の携帯電話が鳴り響きました。
「ハリソン?」と声は尋ねました。
「デイビスだ、どこにいるんだ?」

第3章 犠牲者。
「オークション会場だよ」ハリソンはヴェロニカにすまなそうに一目見ると、廊下へと出て行きました。
「トゥルーから君を捕まえろって」デイビスはホッとした声で尋ねました。
「そうかい」とハリソンが答えました。
「姉さんはあんたが捕まらないって、代わりに俺に電話をしてきたんだ。
 でもあんたの携帯の番号を教えてくれる前に電話が切れてね」
「まあどっちにしても電話には出られなかった」とデイビスは言いました。
「朝の四時に看護婦を名乗る人物から電話をもらって、いとこが入院しているってを知らせを受けたから。
 急いで出たもんだから、携帯を忘れてしまった。
 病院に行った時携帯を持っていないことに気づいたんだ。
 こっちに戻ってきた時に、留守電でトゥルーのメッセージを聞いた」
「今まで病院にいたのか?」
ハリソンはトゥルーが死体安置所に行った時デイビスから病院に行ったとういう話を聞いていない事に気づきました。
「街の外だったからね」とデイビスは言います。
「ジャックの仕業だったのか?」
「そう思うか?」ハリソンは返事しました。
ハリソンは最近ジャックの姿を見ていませんでした。
しかしそれはトゥルーが旅行中で不在であったからであったと思っていました。
彼女がいないのに、ジャックがぶらぶらと現れる理由はないと思っていました。
ジャックもトゥルーの後を追いかけてかもしれないと彼の心をよぎります。
「他に誰がそんな真似をすると思う?」デイビスは尋ねました。
「奴は何週間もトゥルーを近くで見張り続けていた。
 彼女が飛行機で立ち往生していて、やり直しが起きた事を知った。
 彼女が僕と連絡を取る前に、僕を何とかしようとしたんじゃないか」
「どうして俺には何もしなかったんだ?」とハリソンは驚きました。
「多分やったんじゃないか」とデイビスが指摘しました。
「だがトゥルーの方が早かった」
「それじゃあんたがここに来て、俺の代わりをしてくれるのか?」
ハリソンはデイビスがイエスと言えばキャシーと一緒に遊べると思いましたが、ノーと言って欲しいとも思いました。
どうしてヴェロニカを守る事を続けたいと思ったのか分かりませんでした。
多分それは彼がトゥルーを手伝って犠牲者を助けていた時に、
ある種の目的を持つ感覚、それに失敗するとは感じなかったからでした。
今まで彼の人生の中で起きた憂うつな失敗についてあれこれ思案したと言うわけではありません。
人生は太く短くがモットーでした。
しかし彼は自分の命が終わってしまうような事件があり思い直すチャンスがありました。
「しばらく、続けていてくれないか?」デイビスは尋ねました。
「僕はオフィスで、死因についての情報を探ってみるから」
「オーケー、もちろんだ」とハリソンは答えました。
「後で行くから」「オーケー」とデイビスが同意しました。
「そうだ、一つだけ。
 トゥルーが言っていたのは、死んだのは午後の中頃だということだ」
「それじゃその時まで彼女を守っておくよ」とハリソンはデイビスには見えないのに頷いて電話をきりました。
携帯をポケットにしまうとハリソンは部屋に戻り、キャシーとヴェロニカが旧友のように談笑していたのを見ました。
「こっちよ、あなた」とキャシーが叫ぶと、ハリソンはその言い方にすくみました。
ヴェロニカがこっちを見ると彼は顔に微笑を無理矢理浮かべました。
「今ちょうど奥さんと新婚旅行の話を聞いていたところなのよ」とヴェロニカは微笑しながら言いました。
ハリソンはデイビスと電話している間、キャシーが何を言っていたのか考えると怖くなり心の中でうなりました。
「有り金全部使ったんじゃないだろうな?」とハリソンはキャシーがついたウソの話題を変えようと話を振りました。
「花びんだけよ」とキャシーが答えました。
「でもね、すごく安かったの」
「さっき見ていた変な形をしたやつか?」と彼が尋ねました。
キャシーは服飾品についてはいい趣味を持っていることを知っていました。
しかし彼女がさっきまで見ていた花びんはあまりにも変な形をしていました。
彼は彼女が彼への贈り物だと言うのを待ちました。
今朝早くに彼女のドアを叩いたお返しにと。
「これよ」キャシーは微笑しました。
「私たちにぴったりでしょ」ヴェロニカは笑顔になると彼女が欲しかった商品を入札をするために離れていきました。
「新婚」の雰囲気とは違う何かを感じて。
「そんな物本当に買ったのか?」ハリソンは尋ねました。
「クライアントのためよ」とキャシーが説明しました。
「私は一つ持ってるわ、これは特別で完璧な小物なの。
 彼に電話をして、その代理として入札をしたのよ。
 彼に直接配達されることになるわ。
 もう二度と見ないから安心して」
「それは良かった」ハリソンは安堵のため息をつきました。
「それでヴェロニカに何の話をしていたんだ?」
「あまり」キャシーはニヤニヤ笑いながらハリソンの腕に自分の腕を絡めて部屋の側面にあるイスに引っ張ります。
イスに座ると混雑した部屋の中で群集に邪魔されずにヴェロニカを見ていることがができました。
ハリソンは今までにトゥルーを手助けしていた事に比べれば、今回はずっと楽だと感じました。
彼を傷つけようとしている者は誰もいませんでした。
キャシーは彼が何も言わないのに昼食を買って来てくれていました。
ヴェロニカとキャシーは意気投合し、ハリソンはヴェロニカと会話したくても共通の話題がないので、
キャシーに任せておけばよかっただけです。
午後の中頃が来てハリソンは今頃トゥルーが帰ってきてデイビスに会っているかも知れないと思い
死体安置所に戻ろうと思いました。
ヴェロニカとキャシーが壁紙の事で話をしているところへ、
ハリソンはキャシーにキスをして”夕食に遅れないように帰るから”と約束しました。
ハリソンが死体安置所に到着したときには死体はありませんでした。
ジャックの姿はなくオフィスにトゥルーとデイビスがいるのを見て安心しました。
しかしデイビスはジャックがデイビスを街の外に出そうとした企ての事をトゥルーに話し、
トゥルーはその話を心配顔で聞いていました。
トゥルーはハリソンの足音を聞くと席から飛び出しハリソンをギュッと抱きしめました。
「待ってたわ」と彼女は微笑しながら言いました。
「食事もできないで餓死しそうなんじゃない、あんたのことだから?」
「いいや」ハリソンはにっこり笑いました。
「姉さんよりずっとうまく聞きだしたりしてうまくやったさ」
「キャシーがそれをやったんじゃない」とトゥルーはイタズラぽく笑って言いました。
「彼女ならあたしよりうまくだますんじゃない」
「それでヴェロニカ・カーターは?」デイビスはコンピュータの席から尋ねました。
「さっきまで大丈夫だった」とハリソンは言います。
「キャシーを彼女のところに置いてきたから、もし何かが起きたら電話をかけてくるはずだ。
 うまくいってさ、話し込んでるよ。気があったみたいだ」
「それはあまりにも簡単すぎるわ」トゥルーは眉をひそめました。
「何か危険な事とか問題があったとかなかったの?」
「いいや」とハリソンは肩すくめて答えました。
「普通の日だった」
「誰も彼女を殺そうともしないし、事故にもあわなかったっていうのね?」トゥルーは質問しました。
「ああ」とハリソンは認めました。
トゥルーは今聞いた事に対してあまりにも簡単すぎると思いました。
「分からないわ」とトゥルーがぼそぼそ言いました。
「あんたが何かやったんじゃないの、でなきゃ彼女は今ここにいるはずよ」
「何もしてないよ」とハリソンはイスに深く座って言いました。
「でも一つ違ってた事がある」
「えっ?」トゥルーは尋ねました。
「姉さんの言った事が間違っていたよ」
「はっきりとした事は分からなかったかもしれないわ、でもあんまり彼女を見たわけじゃないし」とトゥルーが説明しました。
「そういう事じゃないんだ」ハリソンはそういって言葉を遮ります。
「彼女の髪は白じゃなくて赤だった」
「間違いなく白かったわ」とトゥルーが反論しました。
「俺が見たのは間違いなく赤毛だった」
「多分彼女は美容院に行ったんじゃないか、だが君の時には行かなかった」とデイビスが提案しました。
「多分」トゥルーはうなずきました。
電話が突然鳴り出したためこれ以上推理する時間がありませんでした。
デイビスは受話器を上げしばらく聞いていました。
受話器を戻すと彼はトゥルーに振り返ります。
「犠牲者が一人くるそうだ」と彼はしかめ面で言いました。
「ヴェロニカ?」トゥルーは尋ねました。
「いいや」とデイビスが答えました。
「男だ」デイビスとトゥルーが前日にヴェロニカに起きた事を話し合っている間、
ハリソンは今朝の電話の内容を細かく思い出しながら死体安置所の中をぶらぶらして待ちました。
入り口のドアが開く音がして新しい死体が到着した事が分かっても、ヴェロニカがどうやって死んだのかまだ分かりませんでした。
デイビスは立ち上がってトゥルーにここにいるように身振りで合図しました。
「もしまたやり直しが起きる可能性があるとすれば、どうするか話し合っておく必要がある。
 君はここで待って、しばらく僕一人で調べさせてくれないか」トゥルーは納得してうなずいて深く座り直しました。
二、三分後、デイビスは部屋に戻ってきました。
「ダニエル・ウィンターズ、48歳、二部上場株式ブローカーだ。
 君が昨日言った、ヴェロニカ・カーターの死因と同じだと思う」
「もう一度やり直しになると思うか?」ハリソンは尋ねました。
「もしそうなったら、ジャックが今日した事と同じ事をするんなら、
 僕が街を出て行かないように止めてもらう必要がある」デイビスはトゥルーに振り返ります。
「分かったわ」とトゥルーが同意しました。
「飛行機の電話で真っ先にやってみるわ。
 今日は最初にここに電話したけど、あなたが家にいるのが分かったから家にかけるわ。
 その看護婦はどの電話にかけてきたの?」
「携帯だ」とデイビスが答えました。
「そしたらあなたがその電話で騙されたとしても、自宅の電話にかけるようにするわ」
トゥルーは立ち上がってドアに向かいました。
「俺は?」ハリソンは会話から取り残されたように感じ尋ねました。
「あんたにも手を貸してもらうわ」とトゥルーが指摘しました。
「どうして今日が変わったのかまだ分からないわ。
 だからあんたはもう一度ヴェロニカを見張ってて欲しいの、でないと彼女はここに来る事になるかもしれない」
「さっきの話はやり直しが起きる事を想定しての事だ」とデイビスはハリソンの脇に立ってトゥルーを行かせようとします。
ハリソンはデイビスを見ました。
いずれにしてもトゥルーには他にどうする事もできませんでした。

第4章 張り詰めた日。
電話の音にハリソンはうなって頭の上に枕をかぶせます。
外はまだ暗くこんな朝早くに電話をかけてくる者はいないと思いました。
彼は無視し続ければやがて鳴り止むと思いましたが一向に鳴り止みません。
彼は文句を言いながら受話器に手を伸ばします。
「緊急事態か」と彼は電話にボゾボソと答えました。
「ハリソンか?僕だ、デイビスだ」声ははっきりと聞こえました。
「デイビス?」ハリソンはすぐに跳び起きました。
「姉さんの事か?姉さんに何かあったのか?」
「トゥルーは無事だよ」とデイビスは安心させます。
「彼女はやり直しをしたそうだ、しかも二度目のな、今彼女は飛行機に乗っている」
「はぁ?」ハリソンは理解できませんでした。
トゥルーが無事だと聞いたすぐ後で彼はすぐに時計を見てあまりのも早い午前6時の電話にイライラし始めていました。
「僕は死体安置所にいる」とデイビスが続けました。
「二番目の犠牲者を見つける前に、死因を調査しているんだ。
 トゥルーは君がもう一度最初の犠牲者を見つけだして、昨日と同じように彼女を見張り続けて欲しいと言っている」
「昨日の事なんて分からないぜ」とハリソンが指摘しました。
「どうして俺が思い出せもしない昨日を知ってるって言うんだ?」
「トゥルーから君の行動を聞いている」とデイビスが彼に知らせました。
デイビスが電話の向こうでガサゴソとトゥルーからのメモを取り出す音をハリソンは聞いていました。
「書くものを用意したか?」デイビスは尋ねました。
「まだだ」とハリソンはペンと紙を引き出しをかき回して捜しだしながら答えました。
用意ができたハリソンはデイビスからトゥルーの二回のやり直しに渡る詳細を聞きました。
ハリソンはデイビスにヴェロニカ・カーターを探す事を約束した後、詳細を書き取って電話を切るとベッドに倒れました。
すぐに彼は昨日はキャシーと一緒に犠牲者を見張り続けたいたとデイビスが言った事を思い出しました。
ハリソンは犠牲者を探すのも悪くはないと気分が良くなり、一時間後、キャシーのアパートの近くを歩いていました。
ハリソンが彼女のアパートに到着したとき、キャシーは起きていてコーヒーのマグを持っていました。
彼女は彼がドアの前に立っているのを見て驚いていました。
「今日は何か予定があった?」と彼女は混乱した顔つきで尋ねました。
「いや」彼女がドアを大きく開けるとハリソンは頭を振りました。
「でも君の仕事のために、今日、オークションに行きたいんじゃないかなと思ってさ。骨董品の調査のためにさ」
「どうしてそれを…」キャシーの声はどもりました。
「…知ってるの?何があったの?」
「行きたいんだろ?」ハリソンは彼女の質問を避けて尋ねました。
「実際、その通りだけど」とキャシーは認めました。
「でもあなたの趣味じゃないんじゃない?」
ハリソンは肩をすくめました。
確かにそれは彼の趣味ではありませんでした。
彼は彼女に真実を話すべきであるかどうか迷いました。
しかし以前にトゥルーの特殊な能力の事を話したときキャシーは彼を信じずアパートから放り出しました。
キャシーは姉の奇妙な行動については何かがあることを知っていました。
しかし彼は彼女に話すのを避けていました。
『やめておこう』と彼は彼女に話す事はとどまりました。
「君の仕事に興味があるんだ」とハリソンは目一杯の誠実な笑顔を向けて信じさせようとしました。
キャシーは少し眉をひそめました。
彼女は彼がウソの天才だという事を知っていました。
しかし不幸にも彼女も他人の嘘を見破る事にかけては天才でした。
運良くキャシーはハリソンにそれ以上多くは語らずに、
彼女のコーヒーを飲み干すとハンドバッグを掴んでオークションに同伴することに同意しました。
二人はキャシーが働くダイナーに立ち寄り朝食を済ませた後午前中にはオークション会場に着きました。
ハリソンはフロントに座っている男に歩み寄りました。
男はハリソンを鼻であしらって、やつれた表情でいやいやながらハリソンの申し出を聞きます。
「ヴェロニカ・カーターって人を探してるんだけど」とハリソンが尋ねました。
「急いでるんで」と彼は男が疑わしそうに見たので付け加えました。
「そうですか」と男が答えました。
そしてカーターが向かっていた廊下の方をハリソンに指示をしました。
ハリソンはドアに近づき、キャシーは後ろからついてきました。
「ヴェロニカ・カーターって誰?」と彼女は受付の男が聞こえない場所に来るとすぐに尋ねました。
「三番外で骨董品店をやってる」とハリソンが説明しました。
「彼女を気に入ると思うよ」
「その人を知ってるの?」キャシーは尋ねました。
「それは正確じゃないけどね」とハリソンが答えました。
彼らは今危険な会話へと入っていました。
彼はどれぐらいトゥルーと彼女の能力についてキャシーに話さないようにできるのか?
トゥルーからのデイビスの報告によれば、キャシーとヴェロニカはかなり親しくなったようだった。
しかしキャシーはまだヴェロニカにさえ会ってもいないのにどのようにキャシーに説明できるのか?
キャシーは再び眉をひそめました。
「くそっ」とハリソンは小さな声でつぶやきました。
トゥルーがやり直しをした時には彼は彼女の助言で窮地から抜け出す事には慣れていました。
今回も前の日と同じようにうまくいくと思いましたが、残念にもうまくいきません。
デイビスによれば、彼とキャシーはオークションで楽しい日を過ごしていたようです。
彼はヴェロニカ・カーターを見つければ、事はいい方に向くと期待しました。
ハリソンが彼女を見つけだすのはそれほど時間はかかりませんでした。
オークションのスタッフの一人が彼女を教えてくれました。
彼女は陶器のセクションで種々のアイテムを見てたっていました。
ハリソンがキャシーにヴェロニカを教えようと振り返ったとき、キャシーは展示品の商品を見ていました。
「カーターさん?」と彼は前の日にはどうのように会話をしたのか考えながら尋ねました。
しかしどういう理由にせよ、トゥルーがデイビスに、またはデイビスがハリソンにその事は話していませんでした。
それとも自分自身がトゥルーに話していなかったかも?
紛らわしくなってきていました。
「ええ」と赤の髪をした女性が嬉しそうな微笑で答えました。
「何か御用?」
「ええ」とハリソンは微笑しながら答えました。
「あの、もしあなたができるなら、その、手伝って…」
「オークション?」カーターは別の笑みを浮かべて言います。
「そうです」とハリソンは思い付きで答えました。
彼女と会話を続けるにしても彼の趣味ではありませんでした。
「まあ最初に、覚えておく事は」カーターは始めました。
「他の人たちの入札に巻き込まれない事よ。
 注意していないと、値段はすぐに跳ね上がってくるから。
 自分の予算を守って、根気よくやらないとね」
「賭けをするみたいに?」ハリソンは自分のよく知っている事に例えて尋ねました。
「まあ、そんなものね」とカーターは笑いながら言いました。
「それで一番いい方法は、他の誰も入札していない物を見つけることですか?」と彼は提案しました。
「もしあなたがそうすることができればね」カーターは同意しました。
「私はお店の商品を買うの、だから他の誰にも興味がないアイテムを入札するのよ。
 私の店に来たことがある?」
「いいえ」ハリソンは頭を振りました。
「そうなの」とカーターが答えました。
「お店から私の名前を聞いたと思ったのに」
「違います」とハリソンはどのように彼女の名前を知ったのか説明するべきかと迷いました。
どうにか、”あんたが死んで姉に助けを求めた”と思われないように。
「まあ、気にしないで」とカーターは微笑しながら言いました。
「ハリソン、これってどう思う?」キャシーは隣のショーウインドーの近くから声をかけてきました。
ハリソンはしばらく中座し、変な形をした花びんを指していたキャシーのところに行きました。
「私にじゃないわよ?」彼が顔を引いたときキャシーはすぐに言いました。
「私は今回小物に興味のあるクライアントがいるの。
 彼がこういった物が欲しいって思うものを見つけたら電話して確認しないといけないのよ」
「こんな物誰が買うんだ?」ハリソンは変な形の花びんを見て尋ねました。
「彼は沢山同じような物を持ってるわ」とキャシーは下唇を噛んで言いました。
「とにかくこれを入札して持って行くわ、彼が気に入るかどうか分からないけど」
「それの開始の値段はいくらから始まるの?」カーターは彼らの後ろから尋ねました。
「200ドルです」とキャシーが言いました。
「それはお買い得ね」とカーターが同意しました。
「お買い得だって?」ハリソンは叫びました。
「その値段だったら、たとえ彼が気に入らないとしても売れば利益になるわ」とカーターが指摘しました。
「そうですよね」とキャシーがうなずきました。

数時間後、ハリソン、キャシー、ヴェロニカはアウトドアのカフェで遅いランチを食べていました。
トゥルーの報告通り、キャシーとヴェロニカは意気投合しているようです。
ハリソンは深く座ってコーヒーを飲んでいると、
2人の女性たちが聞いた事もないようなインテリアデザインの事でおしゃべりをしていました。
「まあ、とっても面白かったわ」とヴェロニカは皆の食事が終わるとため息と共に言いました。
「でも私は仕事に戻らないといけないから」キャシーは納得してため息をついて頷きました。
「もう一度ウィンターさんに会って、花びんを手に入れるかどうか聞いてみます」
「ウィンターさん?」ハリソンは尋ねました。
『その名前は二番目の犠牲者の名前では?今デイビスが探している?』
「私のクライアントよ」とキャシーはフラストレーションのため息で説明しました。
「今までに言わなかったっけ?」
「ちょっと電話をするから」とハリソンは席から跳び上がって大急ぎでデイビスの番号をダイアルしました。
キャシーとヴェロニカの二人が聞こえない事を確認して、デイビスが電話にでるのを待ちました。
「デイビス?」と彼が尋ねました。
「ああ」とデイビスは答えました。
「ハリソンか?」
「ああ」とハリソンが振り返って後ろを見るとキャシーがヴェロニカにさようならを言っているところでした。
「もう一度教えてくれ、二番目の犠牲者の名前は?」
「ダニエル・ウィンターだが」とデイビスが答えました。
「実は今、彼と一緒にいる」
「それじゃ話す事ができないな」とハリソンは悟りました。
「その人にアパートを改装してるかどうか聞いてみてくれ」
「何だって?」デイビスは混乱して尋ねました。
「アパートを改装しているかどうか聞いてくれ」とハリソンは繰り返しました。
「オーケー」とデイビスが答えました。
デイビスは電話口を押さえダニエルに質問すると、再び電話口に出て肯定しました。
「彼はキャシーのクライアントだ」とハリソンが言いました。
「ちょっと待ってくれ、ハリソン」そう言うと再び電話口を押さえました。
「オーケー、これで話ができる」とデイビスが言いました。
「それは偶然の一致じゃないのか」
「からかうなよ」とハリソンは皮肉に答えました。
「それじゃ、それは何を意味するんだ?」
「分からないな」とデイビスが認めました。
「とにかくもうヴェロニカの死の時間は過ぎたんだ。
 ダニエルの時間がまもなくやって来ることになっている。
 僕はその時まで彼を見張り続けるよ」
「それじゃその後死体安置所で姉さんと一緒にに会いに行くよ」
「オーケー」とデイビスが答えました。
ハリソンは電話を終わらせてテーブルに引き返しました。
しかしキャシーは彼のすぐ後ろにいて、明らかに今の会話を全て聞いていました。
「面白い場所に集まるのね」と彼女が言いました。
「死体安置所って、あなたはいつも出入りしてるの?」
「ああ」とハリソンは肩すくめて答えました。
「教えてよ、本当の事を?」キャシーは今朝彼が逸らした話をこれ以上を逸させまいと厳しい目で見つめました。
「できないんだ」とハリソンは電話をポケットにしまいながら彼女の冷たい視線を避言いました。
「それじゃ前に言った”これ以上ウソはつかない”って言葉はウソなのね?」キャシーは欺瞞的に何気ない声で尋ねました。
ハリソンは初めてトゥルーがルークに秘密を打ち明けた事がこんなにも大変だったのかと悟りました。
「簡単な話じゃないんだ」とハリソンが論じました。
「お姉さんに奇妙な事があるのは知ってるわ」とキャシーが続けました。
「最初にあなたを信じなかったことはあやまるわ、でもあの時は話そうとしたじゃない。
 それなら話してくれたっていいでしょ?」
「これは俺の秘密じゃないんだ」とハリソンが返答しました。
「お姉さんの秘密について私に嘘をつくんなら、私とは意見があわないわ」とキャシーはきつく言い踵を返し歩き去ります。
「キャシー、待ってくれ」とハリソンは彼女の後姿に叫びました。
彼女は振り返らずに道路を歩き続けていました。

第5章 不運な3回目の時間。
顔をしかめながらハリソンは腕時計を見ました。
トゥルーは今ごろ死体安置所についている頃です。
彼女なら彼に降りかかった災難を知っているかもしれません。
「ハイ、ハリソン」彼が死体安置所のオフィスの中に入ったとき、トゥルーは彼を迎えました。
ハリソンは口ごもりながら椅子に沈みこみます。
「どうかした?」トゥルーは気になって尋ねました。
「キャシーだよ」とハリソンはぼそぼそ言いました。
「さっきケンカしちまってさ」
「どうして?」トゥルーは尋ねました。
「昨日はそんな事なかったのに」
「それは昨日の話だろ」ハリソンは姉に不必要な敵対視をしてぶつぶつ言いました。
「けんかの原因はあたしに関係してない?」トゥルーは推測しました。
「キャシーは俺達が何かを隠している事に気づいてるよ…」とハリソンは口ごもります。
「もう彼女に話してたと思ってたわ?」トゥルーは尋ねました。
「全部じゃない」とハリソンはため息をついて言いました。
「彼女は姉さんが彼女の危険を知っている事は信じたと言ってた。
 俺は姉さんの秘密を打ち明けなかったんだ」
「どうして?」トゥルーは尋ねました。
「そうしてって、俺達の頭がおかしいと思われるからだろ!」
ハリソンは当たり前だろうというように言いました。
「あんたが怖がっているのは、彼女がまたあんたを追い出すからじゃない?」トゥルーは尋ねました。
ハリソンは目を逸らし窓から死体安置所のスタンダードルームに目を向けました。
トゥルーは彼の事なら様子で分かります。
「ハリソン」トゥルーが彼の後ろに立って静かに言いました。
「もし彼女に話さないなら、分かれる事になるわよ。
 あたしとルークの時みたいにね」
「ルークは姉さんを信じなかったじゃないか」とハリソンが指摘しました。
「もし彼が関わっていたら、信じたかもしれない」とトゥルーが論じました。
「でも今回はあたしとルークの事じゃない、あんたの事だよ。
 あんたがあたしを助け続けるつもりなら、遅かれ早かれ彼女に話さなければならないわ」
「もし話さなかったら?」ハリソンは答えは分かっていましたが尋ねました。
「彼女を失うことになる」とトゥルーはそっけなく言いました。
トゥルーに背を向けていたハリソンは自分が何をしていたか悟りトゥルーに振り向き抱きしめました。
彼は彼女が正しかったことが分かっていました。
もし彼が彼女に話したら、彼は彼女を失うかもしれません。
しかしそうしなかったら、確実に彼女を失うでしょう。
「デイビス」トゥルーは出入口で彼を見つけたとき笑みで言いました。
「お帰り、トゥルー」デイビスは彼女を歓迎しました。
「それでヨーロッパはどうだった?」
「よかったわ」とトゥルーは微笑しながら言いました。
「やり直しがなければね。でも二回も同じ話をすることになるわ。
 だから今回は犠牲者に集中しましょう。
 もしやり直しが起きなかったら、その後また話すわ」
「分かったよ」とデイビスはコンピュータに座って同意しました。
「ダニエル・ウィンターは生きている。
 問題もなく、健康そのものだ、現時点ではね」彼は腕時計をチラッと見て「30分前までは」と付け加えます。
「ヴェロニカはあんたが最後に会ったとき生きていたでしょ?」トゥルーはハリソンに尋ねました。
「ああ、彼女は仕事に戻っていったよ」とハリソンがうなずきました。
「それじゃ今は二度の犠牲者は二人とも死なないで済んだわけね。
 両方とも生きていて、問題ないわけだ。
 二人を結ぶ線は見当たらない?」トゥルーは眉をひそめました。
彼らは何かを見落としていました、しかし彼女には何か分かりませんでした。
「実はハリソンが二人の接点を見つけたんだ」とデイビスが指摘しました。
「俺が見つけたわけじゃない」ハリソンは肩をすくめました。
「だが唯一の手がかりだ」とデイビスが強く主張しました。
「それは何?」トゥルーは尋ねました。
「ウィンターはキャシーのクライアントなんだ」とハリソンが言いました。
「彼女は今日そいつのためにオークションで花びんを買ったんだ」
「昨日もそうだったのかしら」とトゥルーが驚きました。
「あんたからはキャシーを連れて行ったけど、買ったなんて聞いてないわ」ハリソンは肩をすくめました。
彼が昨日を思い出すことができないため、彼女が昨日何を買ったかどうかも分かりませんでした。
「それで最初と二回目のやり直しでは何が違っていると?」デイビスは尋ねました。
「あなたよ」とトゥルーは言いました。
「最初のやり直しの時にはハリソンに連絡してヴェロニカを見張るようにしただけ。
 今回はハリソンは同じで、あなたにはダニエルを見つけだしてもらった。
 今日は何をした?」
「僕は彼のオフィスに行った、彼とアポイントメントをとって僕と会うことになった」デイビスはひと呼吸おきました。
「それから目を離さないように一緒にいたんだ。それはいい話し合いだったよ。
 彼は午後はダメだと言ったんだが、彼に話をさせておくために金融の質問で彼を攻めたてた。
 昼食も一緒にして話続けていたから、危険が何であったとしても時間が過ぎるまで彼を家に帰らないようにした」
「それは俺が電話をしたときか?」ハリソンは尋ねました。
「ああ」とデイビスがうなずきました。
「その時死の時間は過ぎた、だから僕は彼を解放してここに来たんだ」
「でも危険な兆候は何もなかった?」トゥルーはハリソンとデイビス両方に尋ねました。
二人とも頭を振って答えました。
「解せないわ」とトゥルーが言いました。
「何かを見落としてる、でも分からないわ。これはまだ終わってないって感じがしてるのよ」
「もう一つある」とデイビスが言いました。
「君はウィンターの髪が白かったと言っていた」
「ええ、そうよ」とトゥルーが言いました。
「今日の午後見たところではそうじゃなかった」デイビスは頭を振りました。
「今日の午後は黒かった」
「昨日、あんたもヴェロニカの髪は白じゃなくて赤かったと言ってたわ」とトゥルーがハリソンに言いました。
「そうなんだろ」ハリソンは肩をすくめました。
「今日も赤かったぜ」
「変だわ」とトゥルーが言いました。
「まだ終わってない」
「またやり直しが起きるとでも?」デイビスは尋ねました。
「ええ」とトゥルーはため息をついて言いました。
「多分ね。本当に飛行機が憎いね」ハリソンは笑って立ち上がりました。
「キャシーに話に行くの?」トゥルーは尋ねました。
「ああ」とハリソンがうなずきました。
「もしそれでダメだったら、もう一回やり直せるかもしれないだろ、
 そしたら明日はもっと良くなるかもしれないしな」トゥルーは目を泳がせて頭を振りました。
ハリソンがキャシーのアパートに着いたときには日が暮れていました。
彼はここに来るまでの間、頭の中でトゥルーの事をどう説明しようかと考えながらゆっくりと階段を歩いてのぼりました。
彼はトゥルーに電話をして彼女に来てもらい助け舟を出してもらおうかと思いました。
そうすれば次のやり直しのときに証明することもできるし、トゥルーならそれができるかもしれない、あるいは今回はダメでも。
彼は携帯を取り出してトゥルーの番号をダイアルし始めました。
トゥルーが来るまでここで待ち、それから一緒にキャシーと話をすればいいと思いました。
ハリソンは呼び出し音を一回鳴らすと携帯をきりました。
『ダメだ』彼は考えました。
彼はキャシーに証明することを望みませんでした。
彼は彼女が信頼してくれる事を望み、トゥルーの力を借りずに真実を打ち明けたいと思いました。
彼はドアをノックしてキャシーが入れてくれるのを待ちました。
答えはありませんでした。
彼は彼女がダイナーで夕べ遅いシフトで働いていたのかと思いました。
それともウィンターに花びんを届けるために出かけてしまったのかと。
今度はもう少し大きくノックをしたら、ドアは少し開いてしまいまいした。
「キャシー、キャシー」と彼は小さな声で呼びかけました。
「ドアを開けっ放しにしておくはずがないよな」彼は頭を振って中に入って見回しました。
『彼女が戻ってくるまで自分が中で待ってても気にしないだろう』
そう思いながらハリソンはソファーに座ると背中に当たる物を取り出しました。
それはキャシーのハンドバッグで彼女が今日使っていたものでした。
『ハンドバッグも持たずに出かけたのか?』
「キャシー?」と彼は叫びました。
彼は広い何もない部屋を見回しました。
彼女がアパートにいれば彼の声が聞こえないはずがありません。
彼は立ち上がって用心深く寝室に行きました。
彼はドアの前で立ち止まりためらいました。
彼が部屋を見回したときから感じていた恐怖が彼を覆い尽くしました。
彼女はそこにいませんでした。
一旦安心すると今度はバスルームのドアが開いているのを見つけました。
彼はすぐに彼女を見つけました。
バスルームの床の上に仰向けで倒れ、彼女の長い黒い髪は真っ白になって床に広がっていました。
彼女の目は天井を見つめたまま開いていました。
彼はすぐに彼女が天井を見ていないと分かりました。
彼を見ているわけでもなく、何も見ていないことに。
一瞬彼は出入口でショックを受け立っていました。
それから彼は彼女に急いで寄って床の冷たい硬いタイルに座ります。
彼女を抱き寄せると、もう彼女が息を吹き返さない事が判りました。
彼は彼女の手を掴みましたが既に冷たくなっていました。
「そんな」と彼は否定するような声でささやきました。
彼はぐったりした彼女を腕の中に抱きしめ、涙を流し、浴槽に深く座りました。
「悪かった、俺が話してれば」と彼がささやきました。
「本当にゴメン、俺のほうが君を信頼してなかった」彼のポケットの中の電話が鳴りました。
彼はそれを無視しました。
しばらく鳴った後呼び出し音は止まりました。

第6章 魅力的な商品。
「まだでないのか?」トゥルーが三度目の電話をかけて眉をひそめたあとデイビスは尋ねました。
「何かの間違いかな」と彼女が着信履歴を調べながら言いました。
「一度かかってきたのに、今はでないなんて」
「多分間違って電話したんじゃないか?」デイビスは言います。
「それならどうして今は出ないの?」トゥルーは頭を振りました。
「何か悪いことが起きたのよ。そんな気がする」
「気のせいだろ」とデイビスが指摘しました。
「多分今は出られる状態じゃないんじゃないか。直接キャシーに電話してみたかい?」
「番号を知らないの」とトゥルーは認めます。
彼女とキャシーはまだ本当の友達にはなっていませんでした。
ハリソンがいない時に彼女に会ったのは数回で、その内の一回はスープをかけた時、残りは彼女を内緒で調べていた時です。
彼女は今後もっとキャシーの事を知るべきか迷っていました。
ハリソンは確かに彼女が好きなようです。
そして彼女はまたキャシーにハリソンにはふさわしくないと言いたくはありませんでした。
「じゃあここにいないで、彼女のところに行ってハリソンが無事な事を確かめればいいじゃないか」とデイビスが提案しました。
「いいの?」トゥルーは尋ねました。
これから新たな犠牲者が到着するかも知れない時にデイビスだけを残すことはできませんでした。
彼女はここにいるべきだと思いました。
やり直しの事で度々デイビスを残し行ってしまう彼女は引け目を感じていました。
今彼を置いていく事は正しい事だとは思われませんでした。
彼女はここにいたいのと、ハラハラする感覚が入り混じった状態でした。
「もし君が必要になったら電話をするよ」とデイビスはトゥルーのジャケットを拾い上げて彼女にそれを手渡しながら強く主張しました。
「今日は君のシフトはないんだからね」
「オーケー」とトゥルーは頷いてドアに行きました。
「キャシーのところに行って確認してくる」
「大丈夫だと思うよ」とデイビスは彼女を安心させました。
トゥルーは何かがおかしい感じを振り払うことができずにうなずきました。

この後すぐトゥルーはキャシーのアパートに階段を急いでいました。
ドアは完全には閉じていませんでした。
彼女はノックして待ちましたが中からの応答はありません。
彼女がより激しくノックするとドアは開いてしまいました。
彼女はいつもハリソンにドアの鍵は閉めておくように言っていましたが、彼の彼女も同じ悪癖を持っているように思えました。
トゥルーは部屋の中に足を踏み入れて見回しました。
誰もいないように見えました。
「キャシー?」と彼女は後ろ手にドアを閉じて叫びました。
「ハリソン?」と彼女は再び試しに言いました。
まだ答えがありませんでした。
トゥルーは開いていた寝室のドアを見ました。
部屋はからでした。
トゥルーはタイミングが悪くはなかったことに安堵のため息をつきました。
彼女は部屋の中でさらに注意を引きつけた物が何なのかはわかりませんでした。
多分それは内側から聞こえる小さな音と漏れている光でした。
それが何であったとしてもトゥルーは寝室の中に入ってバスルームのまぶしい光を見つけだしました。
彼女はすぐにハリソンを見て固まってしまいました。
トゥルーは弟が彼女を抱きしめながら何かをつぶやいている姿を見ながら自分はここにいてはいけないのではと感じました。
彼女は進み出て彼が大丈夫だと言うことを望みました。
そして可能な限り速くやり直しを起こして、彼の目から深い悲しみを消したいと思いました。
明日は今日と違った運命になると言って彼を安心させたかった。
しかし彼女は立った位置から動くことができませんでした。
それはトゥルーが彼女をジャックから助けたためでした。
トゥルーはかつてハリソンの助けを借りて一度キャシーを救っていました。
そして今、たった数週間後に彼女は再び死んでしまいました。
ジャックが言った”運命は永遠に逃れることができない”という言葉を思い出しました。
しかし彼女は能力を完全否定する事もできない上に、それの言葉も受け入れることはできませんでした。
「ハリソン」トゥルーはついに声をかけました。
彼女の声は静寂を破って、彼女自身の耳にも奇妙に聞こえました。
「姉さん?」ハリソンはびっくりして見上げます。
彼の目は赤く、そして悲しみと、トゥルーがまったく予測できなかった恐怖に満たされました。
今までの楽天主義の彼からは想像もつかない顔をしていました。
それは彼女が決して二度とそんな彼の顔を見たくないという顔つきでした。
彼女は本能的にやり直しが起きる事が分かりました。
そうなればハリソンがこの日起きた事を何も覚えていないことをありがたく思いました。
ただ彼女も同じように彼の顔を忘れることができたならいいのにと思いました。
「何があったの?」トゥルーは床から動かずにいるハリソンの元に行き座って尋ねました。
「分かんねえよ」と彼はキャシーの目にかかっていた髪を元に戻しながら答えました。
「彼女は…こうだったんだ…俺がついたときにはもう」
「どうしてあたしを呼ばなかったの、ハリー?」トゥルーは尋ねました。
「分かんねえよ」とハリソンは頭を振ってささやきました。
「あんたがここに着いたとき、他に誰かに会った?」
トゥルーは尋ねながら、やり直しに必要な情報をできるだけ集めようとしました。
「いや」とハリソンは答えました。
「俺がここに着いたとき、彼女はここにいた。謝るチャンスさえなかった」
「彼女がは分かってくれるわ」トゥルーは彼を抱き寄せました。
「もう一度こんな事がないように止めてくれよ」とハリソンは声を大きくして言います。
「私たちでやるのよ」とトゥルーは強く主張しました。
「私たちじゃなく、姉さんがだろ」とハリソンは言います。
「私だけじゃできないわ、ハリソン、分かってるでしょ」
「姉さんならできる。デイビスだって、助けてくれる。
 彼ならまた手伝ってくれる。俺を外してくれ」
「そんな事は」
「そんな事じゃない!」ハリソンは怒り声を沈めました。
「これは俺のせいだ、だからこんな事が起きないように、やり直したときには俺を外してくれ」
「あんたのせいじゃない」とトゥルーはハリソンがその結論に達していたことにびっくりしました。
「何度もやり直すたびに、俺が手伝うたびに犠牲者が増える、そして今回はキャシーだ。
 だから他の誰かに手伝ってもらう事を考えたほうがいい」
「これはあんたのせいなんかじゃない」とトゥルーが論じました。
「誰のせいでも。あたしたちは何が起きているのか究明して、誰も死なないようにしなきゃいけないの」
「姉さんがやってくれ」とハリソンは腕の中にキャシーを抱き寄せ、そして寝室まで彼女を運びながら言いました。
トゥルーは彼の後ろに続いて、彼が彼女を慎重にベッドの上に置くのを見守りました。
「ハリソン?」トゥルーは彼がキャシーの目をそっと閉じさせるのを見ながら尋ねました。
「俺の出番はこれでおしまいだ」ハリソンはベッドから出入り口に向かって去りながら静かに言いました。
「ちょっと待って」とトゥルーが言いました。
「何だよ?」ハリソンは憂うつな調子で尋ねました。
「俺の今日はもう終わったんだ。
 俺がいたって一緒にはやり直せないのは分かってる。
 もしそれができるんならとっくにやり直してる」
「まず周りを見なおす」とトゥルーが説明しました。
「あたしがやり直しをする前に何を覚えておけばいいのか調べるの。
 あんたはキャシーと一緒にいて、彼女が助けを求める前にあたしが調べ終わるのを待って」
「オーケー」とハリソンはベッドの縁に座ってうなずきました。
トゥルーはバスルームに向かって引き返して再びドアを通り抜けました。
彼女はすぐに花びんを見つけました。
それはシンクの隣りのカウンターの上に置かれていました。
床の上に湿った布がありました、しかしそれ以外に場違いな物は何もありませんでした。
「この花びんはオークションで買ったの?」トゥルーはハリソンへ尋ねます。
「変な形をしたベージュで茶色のやつか?」ハリソンは尋ねました。
「ええ」
「それならそうだ、彼女がオークションで買ったんだ。それがどうかしたのか?」
「これが唯一の手がかりよ」
「それじゃ花びんが人を殺してるって言うのか?」ハリソンは明らかに懐疑的で少しいらいらしながら尋ねました。
「そうよ」
「それは変に聞こえるぜ?」
「あたしが死んだ人達から助けを求められて、やり直すのより変に聞こえる?」トゥルーは指摘しました。
トゥルーは底を調べようと花びんを手に取りました。
底にはメーマー名もどこで作られたのかもマーキングがありませんでした。
そして大きさに比べて重く感じました。
花びんにはエジプトの象形文字のように見える模様が描かれていましたが、
トゥルーにはそんな古代の文字を解読できるような知識はなかったので、なんと書かれているのか分かりませんでした。
「姉さんの言っている事は少し変じゃないか?」ハリソンはほんの少しユーモアを言う気力が戻ってきました。
「次のやり直しのときに、この花びんを手に入れてできる限り早く死体安置所に持って来る必要があるわ。
 あたしがこの事を言ったらもう一度選び出せる自信はある?」
「俺は言ったはずだぜ、明日は俺を外してくれ」ハリソンは彼女が花びんを持って寝室にきた時睨みつけて強く主張しました。
「分かったわ」とハリソンはどうせこの会話の全てを忘れることが分かっていたのでトゥルーは穏やかに答えました。
彼女は彼に嘘をつくことで落ち着かなく感じました。
しかしもし彼のガールフレンドの命を救うためには他に方法はありませんでした。
彼女はデイビスにハリソンの代わりにオークションに行ってもらう事は考えました。
しかしどうにかして弟を騙してでも手助けしてもらいたいと思いました。
トゥルーは前にハリソンよりもデイビスに手助けしてもらっている事にハリソンが失望しているという印象を持っていました。
今回は最初にデイビスに電話をしたがデイビスと連絡を取ることができなかったためハリソンに助けを求めただけでした。
彼女はハリソンが安易な人生を送る方を選ぶ人間だという事を知っていました。
しかし最近の彼は違っていました。
以前彼がリンジーと別れた時から、彼は過去を引きずっているように思われました。
彼はまだ仕事を見つけてはいませんでした。
しかしやり直しの日にトゥルーを助ける事に彼は生きがいを見い出し始めていました。
トゥルーは直感でもしハリソンの言ったようにこの計画から彼を除外してデイビスに頼ったら、
彼はすぐに元の無責任な彼に戻ってしまうのではと思いました。
もっと悪くすれば、今日起きたキャシーの運命について話さなかったら、彼はどうして自分が外されたかのも分からないでしょう。
彼はがっかりし、あるいは彼女に失望し、見放されたと思うかもしれません。
彼が期待はずれであったというわけではありません。
彼は努力をすれば何でもできるのに彼は人生を無駄に浪費していたことが残念でなりませんでした。
時々彼を正しい方向へと導いてやる必要がありました。
たとえやり直しが起きていなくても彼を正しい方向へ向けようとしていました。
「デイビスに言って、買ってもらうようにするわ」とトゥルーはウソをつく決心をしました。
「いくらだったの?」
「2百ドル」とハリソンは答えました。
「聞いたら、お買い得だってさ」
「こんな物が?」トゥルーはにっこり笑いました。
「そんなに変な物でもだって」と彼は答えました。
「これで今日の出来事は終わりだ、もういいだろ?」
トゥルーは枕許のテーブルに花びんを置いてうなずきました。
ハリソンは立ち上がると彼女に近づいて腕をトゥルーの周りにまわしました。
「姉さん、彼女を救ってくれ」と彼は声の調子を急に変えささやきました。
トゥルーは彼を抱きしめて頷くと、部屋を出て行く彼を見守りました。
彼はドアに着くまでの間、ベッドの方をちらっと見ました。
彼は他に何も言いませんでした。
トゥルーはキャシーの横たわる脇で辛抱強くて、そして静かに見つめました。
彼女はいやな感じがして出入口の方を見ました。
彼女がこんな風に感じたのはハリソンが彼女に助けを求めるのを待っている時でした。
彼が彼女に助けを求めるまでの間、彼女は一瞬一瞬が永遠の長さに感じていました。
「言って、キャシー」とトゥルーは不安そうな顔でドアを見ながらささやきました。
彼女にはドアの向こうにいるハリソンにやり直しが起きない事を伝える事はできませんでした。
彼女にはただこうする事しかできませんでした。
「言ってよ。前にも言ったでしょ。もう一度助けって言って」死んだキャシーは動きませんでした。
「お願い、キャシー」とトゥルーがささやきました。
「あたしにあなたを救うチャンスをちょうだい。
 ハリソンがあなたに話すチャンスを。お願い」ついに空気が変わり、一瞬後キャシーは頭をトゥルーに向けました。
「助けて」キャシーが助けを求めると、突然トゥルーはやり直しを起こします。

第7章 ループの終わり。
トゥルーは飛行機で目を覚ましました。
「大丈夫ですか、お嬢さん?」とスチュワーデスはトゥルーの席を通り過ぎようとした時尋ねました。
「電話をしないと」とトゥルーは席から跳び上がって言います。
「緊急事態なの」
「確かに」とスチュワーデスが電話の方をさす前に答えました。
トゥルーはその方向を確認する必要はありませんでした。
最初のやり直しの時だけ案内を必要としましたが、今では飛行機の中は死体安置所や自分の部屋と同じぐらいよく知っていました。
通路を急いで歩き電話に着くとデイビスの番号をダイアルしました。
「デイビス、トゥルーよ」と彼女はジャックが仕組んでいた日の情報を説明した後続けました。
「古代のエジプト文字を調べてもらいたいの」
「僕は何をすればいいんだ?」デイビスは雑音の多い電話に尋ねました。
「ハリソンが持っていく花びんに書いてある文字を翻訳してもらいたいの」
「僕が彼に電話をして、この事を知らせなくていいのか?」
「いいえ、あたしがやるわ」とトゥルーは答えました。
「そっちに着いたらすぐに電話するから」トゥルーは電話を戻すとそれを見つめした。
彼女は前のやり直しの事をデイビスには全て話しませんでした。
そして最後の犠牲者が誰であったのかも言わずに、ただ花びんが犠牲者を結ぶ線である事だけを伝えました。
彼は彼女の秘密に熟知していたので彼に話しても何も問題はないのですが、今回は別です。
彼女はハリソンが最後の犠牲者を知るのを望みませんでした。
そしてそれを確かにするためには絶対に誰にも話さないことでした。
ハリソンに電話をするのは気が重かった。
それはやり直す前に起きたことの記憶でした。
ハリソンが理性を失わずに、起きた出来事を冷静に受け止めるとは思われませんでした。
彼女は手短かにハリソンの事をデイビスに電話をして彼に説明をしてもらうかどうかと迷いましたが、
それは彼女自身でしなければならないといけないことでした。
トゥルーはハリソンにキャシーに真実を話すように言わなければなりませんでした。
そしてハリソンから大丈夫だと聞きたかったのです。
彼女は彼が前日の事は何も覚えていない事は分かっていました。
しかしそれでも彼女は彼のいつもの朗らかな声を聞くまでは安心する事ができませんでした。
今回の場合は、朝早いためイライラして寝ぼけた声で文句を言うかも知れませんが。
彼女はしばらくの間もっと何か簡単に言えないかと時間をかけていましたが、
無理だと分かり受話器を取り上げてハリソンの番号をダイアルしました。
「緊急事態か」とハリソンの眠そうな声が聞こえてきました。
「ハリソン。 あんたの助けが必要なの。
 やり直しの日よ、あんたとデイビスの助けが必要なの」
「今は午前4時だぜ」とハリソンは文句を言いました。
「こんな朝っぱらからどんな助けが必要なんだ?」
「ごめん、今は空の上にいるから、あたしがそっちに着いてから電話をしたんじゃ間に合わないの。
 今嵐の中に入っているから聞こえにくいかもしれないけど」
「飛行機の中でやり直しが起きたのか?」ハリソンは尋ねました。
「どんな事があったんだ?」
「今は説明してる時間がないわ」トゥルーは急ぎました。
外の天候が悪化し始めると音声にも雑音が混じり始めます。
「あんたには骨董品のオークションに行って、花びんを買って欲しいのよ。
 そしたら死体安置所のデイビスのところに持っていって」
「姉さんの緊急事態は買い物なのか?」ハリソンは笑って尋ねました。
「姉さんらしくないな」
「それはアンティークな花びんよ」とトゥルーが説明しました。
「見た目に変な形をしてて、エジプト製にみえるかもしれない。
 デイビスにはその絵文字を翻訳するように頼んである。
 キャシーを連れて行って、彼女にウィンターって人が好みそうな物を探すように言ってみて。
 そうすればそれを見つけだすはずよ。
 昨日、彼女は彼のためにそれを買ったから」
「犠牲者はそのウィンターって人かい?」ハリソンは尋ねました。
「犠牲者の一人よ」とトゥルーが答えました。
「今回は何回もやり直しをしてるの、そして花びんが犠牲者を繋ぐ唯一の線なの」
トゥルーは口に出さずに考えて嘘は言ってないと思いました。
彼女は彼が他の犠牲者について尋ねる前に必要とした詳細を与えるために急いで話し出しました。
「他には?」ハリソンはオークションの詳細を書き留めたことを伝えると尋ねました。
「キャシーに本当の事を話す必要があるわ」とトゥルーは指を絡めて言いました。
「もしあんたが言わないと彼女を失うわ」
「姉さんの秘密を彼女に話せって言うのか?」ハリソンは疑わしげに尋ねました。
「ええ」とトゥルーは心配そうに唇をかんで答えました。
彼女は彼に誰かに彼女の秘密を話す事は正しいことをしているのだと望みました。
そして彼女はこれまでの数カ月の内にもっと良くキャシーを知っておかなかったことを残念に思いました。
キャシーが報道関係や彼女の生活を困難なものにする人物に関係していないことを望みました。
トゥルーはハリソンに彼女の運命を託しました、しかし女性の話になると彼は長続きした試がありません。
今回は彼が最後の人を選んだことを望みました。
「俺が狂ってるって思われるんじゃないか?」ハリソンは指摘しました。
「今はうまくいってるんだ。彼女に姉さんがやり直しをしているって言ったら、おしまいになるかもしれないんだぜ?」
「もしあんたが彼女に話さなけりゃ、それはそれで分かれる事になるわ。
 あんただって内緒であたしを助け続けていたのが、今の関係を終わりにすることになるの。
 その事は誰よりもあたしが一番良く知ってる」
「彼女に姉さんの秘密を託すのか?」ハリソンは尋ねました。
「彼女の事はよく知らない」とトゥルーが認めました。
「でもあんたは信頼してるわ」
「オーケー」とハリソンが答えると回線は雑音がひどくなり途切れ途切れになり始めます。
「彼女を仲間に引き込んでみるよ、姉さんの事をどう話すか考えてみる」
「お願いね」とトゥルーは言うと電話を切りました。
彼女は席の方に振り返りました。
機内の映画はもう始まっていました。
彼女は毎回映画が始まった事に気付かずに眠り続けていました。
彼女の隣りの席の女性は素晴らしい女性でした。
しかしトゥルーは分かっていたのでスチュワーデスの仕切り部屋の中に入りティッシュを手に入れました。
この映画は感動物のロマン派で、彼女の隣りの女性は始終泣きっぱなしになります。
彼女は15分ぐらい映画を見ていましたが、すぐにシートにもたれ前日の出来事をじっくり考えました。
いつものやり直しでは彼女は休みなしにはじめから最後まで調べたり走り回っていました。
今回は飛行機の中で目覚め何もできずにデイビスとハリソンに任せておくことに当惑しました。
今回はハリソンがキャシーとうまくいく事を望みます。
ハリソンが彼女の友人のリンジーと付き合っていたのはそれほど前ではありません。
もしハリソンがトゥルーの助けをしなければリンジーと分かれなくてもすんだかも知れません。
リンジーがが悪いわけではありませんが最終的にはハリソンとの関係を終わらせました。
ハリソンが昨日、大変な目にあった事によって、
トゥルーは今まで犠牲者を救うことと同じぐらい彼らの関係を元に戻そうと必死でした。
今回の問題はトゥルーはリンジーの時とは違ってキャシーの事をよく知らなかったということでした。
もしハリソンがキャシーに変なプレゼントを買ったとしても、
トゥルーにはキャシーがどんなものを好むのか知らないため、やり直しが起きたとしても彼に忠告ができませんでした。
ハリソンたちがダメになりかけた場合、トゥルーにはキャシーのことが分からずに何もできないと思いました。
もし彼女がキャシーの事をもっと知っていたなら、
ハリソンが彼女に秘密を打ち明けるかどうかに関わらずハリソンを信じることができると思います。
彼女はどうしてもっと前にキャシーが秘密を知ることについての心配をしなかったのかと思いました。
昨日まではキャシーはすでに知っていると思っていました。
彼女はこれまでにもハリソンに彼女に真実を話すように言ってきました。
こんな風に自分の力の事を誰かが知った場合の事をじっくりと座って考えて事はいままでありませんでした。
トゥルーは一度もリンジーにこの力の事は話したことがありませんでした。
そしてどうして一番の親友に打ち明けなかったのかとも思います。
そして同様にマークにも打ち明けなかったことを思い出しました。
『この力はあたしの何かに関係している人にしか打ち明けられないの?』彼女は集中して眉をひそめました。
彼女はこの飛行機が着陸するまでの間座ったまま我慢し続け、こんな考えたくもない事を考える事のはいやになってきました。
トゥルーが隣の席を見ると、映画を見ていた女性はすすり泣き始めました。
トゥルーが彼女にティッシュを手渡すと彼女は小さな笑みを浮かべて受け取りました。
「私はこの映画が好きなの」と女性は目をぬぐいながらささやきました。
トゥルーは気を紛らわせるために笑顔で頷きました。
しかし気を紛らわせたのもつかの間、彼女はすぐにデイビスとハリソンがうまく事を運んでいるかと頭がいっぱいになりました。
ハリソンがキャシーに真実を話すことについてトゥルーが再び考え始めた時には飛行機は嵐の真っ只中にいました。
しかし彼女は気を変えたという電話はしようとは思いませんでした。
その言葉を言うにはもう遅すぎました。
そして彼女は全て事がうまくいくようにと祈りました。
もしそうならないならもう一度やり直しが起きて欲しいと。
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電話を切った後でハリソンは時計を見ました。
彼は再び眠ろうかと思いましたがすっかり目を覚ましてしまったので、二度寝できる状態ではありませんでした。
彼はトゥルーがどうしてキャシーに秘密を話すように言ったのか、やり直す前の日に何が起きたのかと思いました。
彼女は誰もその事を話そうとはしていなかったはずなのに。
ましてや親友のリンジーにさえ話していませんでした。
トゥルーがキャシーを気に入ったからという理由でこんな事をするはずがありません、彼女達はほとんどお互いを知らないはずです。
彼はもう一度やり直す前の日の事を考え、トゥルーの秘密が彼とキャシーの間で争いの元になったという結論に到達しました。
それが彼が考えることができた唯一の説明でした。
前の日に彼がトゥルーを手伝ってキャシーが彼を手伝っていたとしたら、キャシーに何か起こったかもしれません。
『でも彼女に真実を話すって?』
ハリソンはトゥルーにキャシーに真実を話すことを話し合った時の事を思い出しました。
キャシーが2人をアパートから放り出したときには、まだ今度やり直しした時に話すという会話さえしていませんでした。
キャシーはあの夜の後、トゥルーの「予感」に対して心を広げていたとハリソンは思い出しました。
しかしそれは彼女がその話の真実を信じる事は意味しませんでした。
トゥルーの弟である彼でさえ最初は信じませんでした。
『止めておこう』と彼は思います。
キャシーが真実を知ったからといってデイビスのようになるとは限りませんでした。
しかし彼女に話さずに分かれるなんていう危険を冒すことも望みませんでした。
彼は今までに一度も自分が臆病者だと思ったことはなく、誰にもそう思われたくありませんでした。
しかしもし姉の秘密の事で昨日二人の間で問題を起こしていたとしたら、
彼は今日、彼女に姉の秘密を漏らさなくてもいいようにしたいと思いました。
そうなると今日は彼女に近づかない方がいいのかと思いましたが、
ウィンターのために買うはずの変な花びんを選べるのは彼女だけなので、それは無理だと思いました。
彼としては彼女を放っておくこともできず、かといって彼女を仲間に引き入れる事もできませんでした。
しばらくの間、彼はまだ心を決められずにいました。
彼女に話すことについての考えは最初は間違いなく失敗すると思っていました。
しかし朝日が地平線を明るく染めはじめた頃、もし彼女に話し、そして彼女が信じたとしらと考え出しました。
もし姉の真実について彼女に話したら、彼女が受け入れてくれると思い始めます。
そして本能的に彼女が受け入れれば、デイビスと話をするより彼女と話した方が面白いかもしれません。
デイビスは事務的な口調で淡々と話しし続けるだけで面白みにかけます。
ハリソンはキャシーのアパートの外に立ってドアをノックしても、まだ彼女に話すべきかどうか迷っていました。

第8章 秘密と真実。
「おはよう」彼女がドアを開けるとハリソンは不安そうな微笑でキャシーに挨拶します。
「今日は何か予定があった?」と彼女は彼を入れるために身を引きながら答えました。
「特には」とハリソンはどうやって彼女に今日一緒に行動を共にしてもらいたい事を言おうかと思いながら答えました。
「大丈夫?」
ハリソンは喜んでカウンターの向こうから彼女の差し出したマグを受けとりコーヒーを飲みながら再びなんと言おうかと考えました。
キャシーは一言も言わないでコーヒーを少しずつ飲みました。
ハリソンはコーヒーを飲み終えもう一杯飲もうとカウンターの方を向きました。
ハリソンがカウンターの上からコーヒーサーバーを取ろうとするとキャシーが彼のマグを脇にどけます。
「何をしに来たの?」と彼女はぶっきらぼうに言いました。
「まあ、その…」とハリソンは話し出しましたが声は次第に小さくなり消えていってしまいました。
これは彼が思ったよりずっと難しい事でした。
トゥルーが彼女に真実を話せと言っていましたが、その気にはなかなかなれませんでした。
キャシーを信頼できないわけではありません。
彼は彼女なら秘密を守ることができると思っていました。
キャシーは二人の偽りの付き合いをトゥルーに秘密にしておいてくれました。
ましてや彼女が浮気をしていると思って、姉にスープをかけられてもです。
ハリソンは姉が危険であるとキャシーに警告したあの日に晩にどうして真実を話さなかったのかと思いました。
彼の心のどこかに二人を追い出したキャシーの怒った顔が焼きついていたからかと思いました。
しかしそれは二、三週間前の事で、
キャシーが姉の警告した意味をハリソンが説明してくれるのを待っているとは分かっていましたが、
ハリソンは今までずっとはぐらかせてきていました。
少なくとも彼は今までそうしていました。
キャシーに何と言おうかと考えているとカウンター越しに彼女はじっと彼を見つめていました。
彼女は彼を見るのをやめ、あきらめた悲しそうな顔をして洗物をしだします。
「あそこのステレオの脇にあなたのCDが二枚あるわ」とキャシーは不自然に明るく言いました。
「それ以外にあなたの物はないはずよ、もし見つかったら知らせるわ」
「えっ?」ハリソンは尋ねました。
「俺が分かれたいと思ってここに来たと思ってるのか?」
「違うの?」キャシーは自分の思っていたことと違うと分かったように声を変えました。
「どうしてそんな考えをしたんだ?」
「バカ、ふん」キャシーは彼の胸の中で口ごもります。
「あなたと付き合うふりをしなくなった今、あなたが退屈になったと思って」
「退屈?」ハリソンは彼女をソファーに笑いながら連れて行きます。
「全然」
「それじゃそのために来たんじゃないとしたら、どうしてここに来たの?
 それに私に何か話しづらそうな感じがするのはどうして?」キャシーは不安そうに唇を噛んで尋ねました。
ハリソンはソファーにもたれて目を閉じました。
彼はまだ彼女に真実を話すことには抵抗がありました。
「ねえ?」彼女は彼が黙ったままでいるので声をかけました。
「くそっ、こりゃ難しいな」とハリソンは前へ頭を落とし手で頭を抱えてぼそぼそと言いました。
「私に話すことがそんなに難しいの?」キャシーは静かに尋ねました。
「この事は、誰に話しても難しい事なんだよ」ハリソンは彼女を慰めました。
「問題は君に話しても信じてもらえない事と、どう話していいか分からない事だ、
 君が俺の事を頭がおかしいんじゃないかって思わせないように…」
「もう私があなたはおかしいって言ったらどう?」
キャシーは心配そうな顔をしたハリソンに意地悪な微笑を浮かべて尋ねました。
「そう思ってないだろ?」ハリソンはにっこり笑いました。
「俺が君に話すはずだったのにな」
「何がいけないの?」
「異常で奇妙な事って言うだけだ」
「異常って?」キャシーは何かを感じハリソンを尋ねてじっと見つめます。
「それってあなたのお姉さんの事。あなたはお姉さんが普通じゃないって言ってたわ」
ハリソンはあの日を思い出し彼女が言っている事が正しい事を悟りました。
まさに彼があの日に言った台詞です。
彼は自然にドアを見て、あの日彼女が彼の事を正気ではないと言いながら追い出したときのキャシーの顔を思い出しました。
「これってあなたのお姉さんに関係する話なの?」キャシーは静かに尋ねました。
ハリソンはうなずきました。
「お姉さんがまた私の事で予感があったのね?何なの?」
「いや、そういうわけじゃないんだ」とハリソンが言うと、
彼はトゥルーがキャシーに真実を話せという変な事を言った声を思い出しました。
今、彼はその事について姉らしくないと思っていました。
トゥルーはすでに何回ものやり直しをしていると言っていました。
そして花びんが犠牲者を繋ぐ唯一の線だと。
キャシーのクライアントは犠牲者の1人でした。
そしてキャシーはクライアントのために花びんを買うはずです。
『そんなバカな』と彼は思いました。
『姉さんなら俺に何も隠さないで話しただずだ。それとも隠したのか?
 姉さんは他の犠牲者が誰なのか言ってなかったな。
 もし犠牲者の1人がキャシーだったら、故意に隠したのか?』
「どうしたの?」とキャシーが声をかけたのをハリソンは上の空で聞いていました。
「行かないと」とハリソンはソファーから立ち上がって出し抜けに言いました。
彼はトゥルーが嘘をついたかもしれないことを悟り不安がよぎりました。
トゥルーがウソをつく場合の事は、なぜ彼女がそうするのか知っていました。
トゥルーはハリソンを助ける時にも同じようにウソをつきました。
彼女は彼を助けるために、そして彼を守るためにウソをつきました。
彼は心の中で一部は理解することができました。
しかしもう一部分、彼を守ろうとする姉の努力でキャシーが命の危険に晒されることに激怒しました。
「ハリソン?」ハリソンがドアに駆け出したとき、キャシーは彼を呼び止めました。
「後で電話をするから」とハリソンは言いながら階段を駆け降り、
キャシーがドアのところに行った時にはハリソンは一人でオークションへと向かいました。
彼はオークション会場に入るとすぐにトゥルーが言っていた花びんを捜しました。
半時間後には、彼はキャシーに電話をしてこっちに来て手伝ってもらいたい衝動に駆られました。
しかし彼女が死体安置所に運ばれる事を考えると電話に手を伸ばすのをためらいました。
ついに彼は花びんを見つけ出しました。
それはトゥルーが言っていたとように変な形をしていて、2百ドルと書かれた札が付いている2つの花びんのうちの1つでした。
片方は青と白に塗られていて、彼が探していたものではありませんでした。
彼が喜んだのもつかの間です、お金を持っていなかったのです。
2百ドルという価格はお買い得かも知れませんが彼はその半分のお金さえ持っていませんでした。
彼は電話を取り出しキャシーの番号を探しましたが電話するのをためらいました。
他の方法としては死体安置所に電話をしてデイビスに頼む事でした。
ハリソンはデイビスに電話をかけようかと迷いながら花びんの前に立っていました。
競売人の1人が来たので脇によけると競売人は花びんを手に取り持って行ってしまいました。
花びんを手に入れるにはもう時間はありませんでした。
「畜生」とハリソンはつぶやきながらダイアルして、呼び出し音が鳴るのを待ちました。

第9章 崩壊した関係。
デイビスは二回目の呼び出し音で電話に出ました。
「デイビスか、2百ドル貸してくれ」とハリソンは慌てて尋ねました。
「トゥルーが君には決して金を貸さないように言っていたぞ」とデイビスは笑いながら言いました。
「花びんを買うんだよ」とハリソンはトゥルーがデイビスに詳細を説明している事に期待して言いました。
「トゥルーは君が金を持っていないのを確認しなかったのか?」
「いや、姉さんは多分、前にと同じようにキャシーが花びんを買うと思ってる」とハリソンがため息と共に答えました。
キャシーを連れて行かなかった事を言うのはいい考えではありませんでした。
ハリソンはキャシーが犠牲者の一人だという事は知らないばすでした。
『もしかしたら間違いかもしれない。いや』ハリソンは否定しました。
慎重に行動してキャシーを巻き込まないほうがいいと思いました。
「金を持ってるか?」
「ああ、だが君に渡すにしても時間がかかるぞ」
「途中まで取りに行くよ」
ハリソンはオークションの会場で花びんを皆に見せるため高く掲げられているのを見ました。
「後で返してくれるんだろうな?」デイビスは尋ねました。
「分かんねえ」とハリソンが答えました。
「今まで一度も返した事がないからな」
「そうか」デイビスは今言われた事を考えて間を置きました。
「他の誰かに花瓶を買わせて、君がその人から個人的に買い上げるというのはどうだ」
「いいよ」とハリソンは答えると電話を切りました。
そういうことは彼は得意でした。

5分後、ヴェロニカがその花びんを落札し建物から出ようとした時ハリソンは近づきます。
「あなたが買った花瓶を欲しいんですが?」
「どうして中で入札しなかったの?」ヴェロニカは驚いて尋ねました。
「人を待っていて」とハリソンが説明しました。
『それとも奇跡を待っていて』と彼は考えました。
「まあ、私しとしてはこれを私の店で売るつもりだったから。
もしあなたが本当に欲しいんなら、私はかまわないわ。
今まで色々オークションで買ったけど、こんな事は初めてよ」
「よかった」ハリソンは安堵のため息をつきました。
「金を持ってきます。売らないでくださいよ?」
「いいですとも」とヴェロニカはハンドバッグから名刺を取り出しました。
「ここが私の店よ」と彼女は彼に名刺を手渡して説明しました。
ハリソンは名刺を受け取って頷くと、死体安置所に急ぎました。

ハリソンがデイビスから300ドルのお金を借りてヴェロニカの店の中に入ったのは昼食時でした。
ヴェロニカは花びんを売ると言っていました。
ハリソンは彼女に値段交渉をしなかった事を忘れていて、
デイビスはハリソンがそう言うだろうと少し大目のお金を用意してくれていました。
そして必ず領収書をもらってくるという条件をつけて。
姉の上司さえ彼を信頼してくれない最悪の日でした。
「いらっしゃい」とカウンターの後ろから若者がハリソンをしいたげたるように尋ねました。
若者は完全に仕事に飽きてしまい、客の相手をするようには見えませんでした。
「ヴェロニカさんはいますか?」ハリソンはかび臭い店を見回しながら尋ねました。
若者はうなずくと耳を劈くような大声で叫びました。
「ロニー叔母さん、お客さんだよ!」
すぐにヴェロニカがカウンター後のドアから店内に入ってきました。
「ああ、花びんの方ね」彼女は微笑しながら彼を歓迎しました。
「今持ってくるわ」
しばらくすると彼女は花びんを持って戻りました。
そしてハリソンは彼女が花びんを包んで箱に入れるのを見ていました。
その花びんはハリソンが今まで見た中で最悪の形をしていました。
それからハリソンはお金を支払うと店から急いで死体安置所へと向かいました。
彼はデイビスが花びんの文字を翻訳サイトを見つけだしていることを期待しました。
「手に入れたぜ!」ハリソンは死体安置所に入りながら叫びました。
「こっちだ」デイビスはオフィスから呼びました。
ハリソンはドアを抜けながら箱から花びんを取り出そうとしました。
「他の誰かが死ぬ前にこれを翻訳するのを願うよ」
「賭け事?」とよく知った声が尋ねました。
ハリソンは驚いて見上げました。
「キャシー、ここで何をしてるんだ?」と彼は出し抜けに言いました。
「今朝のあなたの態度がおかしかったから様子を見に来たの」と彼女はそっけない調子で答えました。
「あなたはいつもここに来るから、それで来てみたのよ。
 そしたらデイビスがあなたが来るって言ったから待つ事にしたの。
 どうして悩んでたのか私って変だったわ」
キャシーが立ち上がってハンドバッグを掴むとハリソンを超えて歩き始めました。
ハリソンは出入口で口がきけない状態で立っていました。
「違うんだ、待ってくれ」ハリソンは机の上に花びん置いて言います。
ハリソンはデイビスが花びんを取り上げコンピュータの方に向いているのに気付きました。
デイビスは翻訳を始めることに集中したいわけではありませんでした。
彼らに少し話し合う機会を与えようと思ったのです。
ハリソンはスタンダードルームへのドアを開けキャシーを中に入れると後ろ手にドアを閉じました。
「悪かった」彼は再び話し出しました。
「君とここであったんで驚いただけさ」
「でもどう見ても嬉しそうな驚きじゃなかったわ」キャシーは我慢してるように刺々しい口調で答えました。
「買い物するのに忙しかったみたいね。邪魔なんじゃない?」
「こんなところで君が会いたくなかったんだ」とハリソンが答えました。
実際にそれは彼が本当にそう思ったことでした。
それが本当の理由ではないとキャシーは考えていました。
「それじゃあなたは私と一緒にこんな場所にいるのが好きなわけ?」キャシーは懐疑的に尋ねました。
「それは…」とハリソンは口ごもりながら言いました。
彼女が命の危険に晒されるかもしれないのが本当の理由です。
しかし彼女の気持ちを傷つけずに彼女を追い返すのは簡単ではありません。
「それでおしまい?」キャシーはため息をついてドアに向かって歩きました。
ハリソンはあまりにも長い間ためらっていたことを悟りました。
「くそっ」と彼はつぶやきます。
「キャシー、戻って来てくれ。説明する」
彼女はすでにドアの取っ手に手をかけていましたがひと呼吸おきました。
「お願いだ」と彼女が引き返そうとしないと分かると彼は付け加えました。
しばらく動かずにいたキャシーは手を下げて再びハリソンの方を向きました。
「こっちにきてくれないか」とハリソンはデイビスがコンピュータで花びんの文字を調べているオフィスへと彼女を導きます。
彼はデイビスの横に座りました。
キャシーはドアに近い部屋の反対の壁に座りました。
彼女は期待するように彼を見ます。
ハリソンはデイビスに助けを求めましたが手助けしてくれませんでした。
この調子ではトゥルーが戻って来る時まで何も解決されないでしょう。
彼はトゥルーが戻るまでどれぐらいあるだろうと思いました。
「姉さんから連絡は?」とハリソンは時間稼ぎだと分かっていても止められずにデイビスに尋ねました。
「まだだ」とデイビスは言います。
「だが彼女はあと数時間は戻ってこないぞ」
「ここで何を私に説明するつもりだったの?」キャシーは尋ねました。
ハリソンは彼女の顔をじっと見て、トゥルーが戻って援助の手を差し伸べるまで時間稼ぎはしていられないと思いました。
いつもなら彼のやり方であきらめさせる事もできるのですが、
それほど長い付き合いでもないキャシーは彼のウソを見破るのに長けていました。
「それは姉さんのことなんだ」彼は始めました。
これは今までよりいい滑り出しでした。
「それはもう分かってるわ」とキャシーが言いました。
「彼女が何なの?」
「複雑なんだけど」ハリソンが再びデイビスの方を見るとデイビスはもう文字の解読をしておらず眉をひそめて見ていました。
デイビスはハリソンがあまり変な事を言わないようにと無言で警告を発していました。
ハリソンはデイビスがトゥルーから彼女の能力の事をキャシーに話すように言ったことを知らないと悟りました。
デイビスの次の言葉でそれは決定しました。
「ハリソン、トゥルーの事を他人に話すべきじゃないと思うが?」
「姉さんが彼女に話すように言ったんだよ」とハリソンは熱心にこっちを見ているキャシーに顔を戻して答えました。
「それは本当か?」デイビスは尋ねました。
「ああ」とハリソンはつぶやきます。
「姉さんの秘密のために俺は彼女を失おうとしてるんだ。
 あんたも知らないかもしれないけどな」
「私があなたを捨てるってこと?」キャシーはしかめ面で尋ねました。
「ああ…いや…そうじゃない」とハリソンはドモリます。
「俺はギャンブラーだからリスクは承知の上だ、でも今回はこのままでいいのかと迷ってる」
「あなたの話を最後まで聞くわ」とキャシーが言います。
「だから何が起こっているの教えて」
「トゥルーは人々の命を救うために一日をやり直してるんだ」とデイビスがぶっきらぼうに言いました。
ハリソンは驚いて彼に振り返ります。
「まあ、我々は一週間ずっとここにいる、もし君が彼女と話したいんなら来てみればいい」と彼は肩をすくめて言いました。
「一日をやり直してるですって?」キャシーは尋ねました。
「ああ」とハリソンはうなずきました。
「死んだ人間が姉さんに助けを求めるんだ。
 すると姉さんはもう一度同じ日をやり直して、その人達を助けるんだ」
「マジに言ってるの?」
「ああ」
「それはどうなってそういう風になるの?」キャシーは席から乗り出して尋ねました。
ハリソンは彼女がドアから出て行かなかったという安堵のため息をついて、
そして実際に本当に彼女が今の話に興味を持っているように思われました。
「僕は全体的な理論を持っている…」デイビスが言い出すとハリソンは割り込みます。
「デイビス、解読」と彼は思い出させました。
デイビスはうなずいて花びんを調べ続けました。
「俺たちはそれがどうやって機能するのか分からないんだ」とハリソンは説明します。
「姉さんすら知らないんだ。
 これが起きてから一年を過ぎた。
 死体が姉さんに助けを求める、そしてやり直しが起きて姉さんが彼らを救うんだ」ハリソンは言葉を止めました。
少なくともトゥルーは彼らを救おうとしました。
ジャックが邪魔をするため全てのやり直しに成功したわけではありませんでした。
「私は死んだのね?」キャシーはささやきました。
「あの夜にあの川で?」
ハリソンはうなずきました。
「ごめんなさい、あの日あなたを追い出して」と彼女は弱々しい微笑で言いました。
「私は…」
「分かってるよ」とハリソンは話を遮りました。
「俺達が正気じゃないって思ったんだろ」
「ええ」とキャシーはもう少し晴れやかな笑みで同意しました。
「どうしてあなたが話すのにてこずったのか分かったわ」
「俺も最初は信じられなかったよ、君みたいにはね」ハリソンはにっこり笑いました。
「私だってまだ完全には理解できてないわ」とキャシーが認めました。
「でも今回は聞く耳を持つわ。いいでしょ?」
「ああ」
「それで今日の犠牲者は誰なの?
 まさかまた私なの?」彼女はにっこり笑うとデイビスが何をしているのか見るために立ち上がりました。
「君のクライアントのウィンターが犠牲者の一人だよ」とハリソンが言いました。
ハリソンは言葉を止めて眉をひそめました。
朝のトゥルーの声が何かまだ引っかかっていました。
彼は多分キャシーが犠牲者の一人だろうと、詳細は確かめてはいないが、彼女にそれを話す気にはなれませんでした。
キャシーはモニタを指して何かに頷きます。
「そこの足を持ったそのシンボル。この花びんにもあるわ」
デイビスは花びんを見て同じ形のシンボルを見つけます。
それに近い他のシンボルもモニタ上にありました。
「それでそれは何を意味してるんだ?」ハリソンも近くで見ようとして尋ねました。
「死だ」とデイビスが気味悪く答えました。
「それは素晴らしいな」とハリソンはつぶやきます。
「どうして驚けないんだ。この花びんは姉さんによると犠牲者を繋ぐ唯一の線で、書かれていたのが死だなんてな?」
「残りのも調べた方がいいな」とデイビスが言いました。
「少なくとも何の言語か分かったんだから」
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それから数時間、彼ら三人は交代でモニタ上の類似したシンボルを一つづつ花びんのシンボルを比較しました。
途中でトゥルーからデイビスに戻っていたという電話がありました。
そして彼らは別々に昼食休憩をとった以外に止める事はありませんでした。
やっとトゥルーがスーツケースを持ったままドアを入ってきた時には、まだ全部翻訳を終えてはいませんでした。
「翻訳は進んでる?」と彼女はスーツケースを置いてハリソンにハグをした後、
皆が走り書きしていたメモを見るために机にかがみ込んで尋ねました。
「花びんが人を殺しているという可能性が濃厚だな」とデイビスが言いました。
「この文字には死と呪いについての何かのようだ」
「姉さんはこの呪いを止めるつもりか?」ハリソンは尋ねました。
「そうしなきゃならないでしょ」とトゥルーはキャシーを不思議そうに見て答えました。
トゥルーはハリソンに眉を上げると彼はうなずいて答えました。
「そうなの、今日はこれ以上秘密の事について心配しなくてもいいのね」
「本当にそう思ってるのか?」ハリソンの口調は彼自身にさえ厳しく尋ねました。
「どういう意味?」トゥルーは彼とは相反して気軽な口調で尋ねました。
「その意味は姉さんが知っていると思うけど」
ハリソンは彼女の腕をぎゅっとつかんでドアかれ他の部屋へ彼女を引っ張りながら答えました。
彼はデイビスとキャシーを尻目にドアを閉じると、部屋の奥へと彼女を連れて行き睨みつけるために振り返りました。
「彼女は昨日、死んだのか?」と彼は激怒して尋ねました。
答えを聞くまでもありませんでした。
トゥルーの視線が窓の向こうのキャシーを見たのが彼の質問の答えに十分でした。
「ウソをついたのか」彼は訴えます。
「嘘はついてない」とトゥルーが論じました。
「ただあんたに話さなかっただけ」
「同じ事だ」とハリソンは大声で言いました。
「どうしてそんなことしたんだ?
 俺に彼女が死ぬ運命だってどうして教えなかったんだ?
 もっと悪くしてたら、昨日と同じように彼女をまた危険な目に会わせる事になったかもしれないんだぞ?」
彼はトゥルーを見て返答を待ちました。
彼女は彼がキャシーに秘密を話すのを安心して任せましたが、彼に全ての事実を話すことについては彼を信頼していませんでした。
ハリソンはトゥルーがこれまでのやり直しの時、彼女は彼に嘘をついて遠ざけられていたのかもと思いました。
もしそうだとしたら彼は彼女のことをもう一度信頼できるかどうか分かりませんでした。

第10章 呪い。
「そういうつもりじゃなかった」とトゥルーが答えました。
「あたしたちは今日を変えようとしてる。
 あんた以上に彼女を危険な目に合わせたくなかった」
「それは本当か?」ハリソンはきつくいいます。
「まだ俺に話さなかった理由が分んねえよ。
 姉さんは気にならなかったのか?」
「そういうわけじゃない」とトゥルーは涙を流しながら言いました。
ハリソンは姉のそんな反応を見て一瞬中断しました。
ハリソンは姉が泣くところを見るのはいやで、その原因が自分であることを心痛く感じました。
しかし今は事の真偽を確かめようと腹を立てていました。
「それだったら俺に話さなかったのか理由を言ってくれよ」と彼は声を大きくして要求しました。
「またあんたの悲しむ顔を見たくなかったから」トゥルーは涙を拭いながらいいます。
「あんたが彼女の死体を見つけてその前で見せたあの顔をまた見たくなかったらからよ」
「俺が彼女を見つけた?」ハリソンの声はショックで次第に小さくなりました。
それは彼が期待していた答えではありませんでした。
しかしハリソンの声が小さくなると、トゥルーはその言葉を引き継いで答えます。
「ええ、あんたが見つけたのよ」と彼女はすすり泣きながら言いました。
「そしてあたしがあんたを見つけた。
あんなに悲しい顔をしたあんたの顔をもう二度と見たくなかったの。
あたしをあの顔を忘れない、でもあんたが知らなければまたあの顔を見なくてすむと思った。
あんたには決して知られたくなかった」
「姉さんは俺をずっと守り続ける事はできないんだ」ハリソンはトゥルーが本格的に泣き出すと静かに言いました。
彼はトゥルーに近づき腕を彼女に周しました。
「あたしならできる」と彼女は彼のシャツに顔を埋め叫びました。
「あんたは忘れられない事を知らないのよ。
 何度もやり直して色んな事を切り抜け変えても、全部覚えてるのよ。
 あんたは全部忘れてて、一日をやり直してる。
 あたしはそれを全部覚えてるの。
 あたしの愛する者が死んでいるのを見たことを覚えてる。
 そしてどんなに変えても、それは忘れられないの。
 あたしはまだあんたの死体を、ルークの死体を鮮明に思い出すことができるの。
 あんたが生きていてもそれとこれは別物なのよ。
 あんたがそこに横たわっているのを見た時の感情は忘れられないのよ」
「分かったよ、姉さん」
ハリソンは姉が能力についてのその種の限界に達しているように思われたとき言うべき言葉が見つかりませんでした。
「もういいよ」
「あたしはあんたに嘘をつかなければならなかった」と彼女は彼の言葉を聞いていなかったのように続けました。
「私のせいでまたあんたに辛い目を合わせたくなかった、また悪い記憶を持つ事に耐えられなかった。
 もうそんなのはいやなの」
トゥルーは段々と泣くのをやめていき、彼女がハリソンから離れると、ハリソンはトゥルーが落ち着いたと思いました。
彼女は後悔しながら彼女の涙で湿った彼のシャツを見ました。
「もう大丈夫か?」ハリソンは彼女へティッシュを渡しながら尋ねました。
トゥルーはうなずきました。
「ちょっと化粧を直してくる」と彼女はドアに歩いて言いました。
「ここで待ってるよ」とハリソンが答えました。
「姉さんがどうしてそうしたのか考えてみる」
「またあたしが同じ事をすると思ってる?」トゥルーは静かに尋ねました。
ハリソンは再び口論することを避けるために唇をかみ締めうなずきました。
彼はトゥルーがまたウソをつくかもしれないのはいやでした。
しかしトゥルーのプレッシャーを知って少し考えが変わりました。
トゥルーは彼の回答を受け入れてドアから外に姿を消しました。
ハリソンは一瞬立ち止まってからオフィスの中に戻ります。
彼がドアを通り抜けるとすぐに、デイビスとキャシーが今の会話を聞いていたことを悟りました。
デイビスは翻訳を続けるふりをしさえしていませんでした。
そしてキャシーの顔色は青白くなっていました。
「トゥルーは大丈夫か?」デイビスは尋ねました。
デイビスは彼女の様子を見に行くかのように席から立ち上がり始めました。
「化粧を直しに行ったよ」とハリソンは彼女の後を追おうとしたデイビスに頭を振って言いました。
「姉さんは本当にすごいよな」
「しばらくの間はな」とデイビスが同意しました。
「彼女は現状において彼女自身にあまりに多くのしかかっている。
 だが記憶を取り消すことはできない。それが能力の副作用だ」
「もし姉さんが人を助ける事ができなかった事を覚えてなかったら」ハリソンはコメントしました。
「でも姉さんはそれを呪いだって思ってるんだろうな」
「僕らで彼女のストレスを少しでも和らげてやらないとな」とデイビスが提案しました。
「ああ」とハリソンが同意しました。
その時トゥルーが入ってきてハリソンは話をするのをやめました。
「耳が日焼けしてたわ」とトゥルーはまだ落ち込んでいるようでしたがいつもの明るさと微笑で言いました。
「かなり解読できたの?」
「そう思いたいんだが、あちこちに奇妙な言葉を見つける事はできたんだ」とデイビスはため息をついて言いました。
「全く知らない言葉を翻訳するのは骨の折れる仕事だ。
 今はシンボルと照合をしていたところだ。
 だが全部探し出すのは何週間もかかるぞ、読めたとしても答えが出ないかもしれない」
「考えがあるんだ」とハリソンが言いました。
「こんなものぶち壊そう」
「これが人を殺しているのかもしれないだろ」とデイビスは頭の振って言いました。
「他の人の事はわからない、でも最後のやり直しからは変わってないわ」とトゥルーが言いました。
「じゃあ最後の手段としてって事で」ハリソンは肩をすくめました。
「二手に分かれてコンピュータで調べよう」とデイビスが提案しました。
「僕とトゥルー、ハリソンとキャシーがそっちで。花びんを間に置いて」
ハリソンはうなずいてコンピュータの前に深く座りました。
彼はトゥルーをちらっと見ました。しかし彼女は彼に調べろと合図をして花びんをくまなく見ていました。
彼女のことで心配する時間はありませんでした。
それから数時間、彼ら4人は翻訳に取り組み続けましたが、調べれば調べるほど理解できませんでした。
彼らはシンボルの闇という言葉を見つけ出して、
何かを引き起こすかもしれないのは夜か日の光がないところではないかと推測していました。
「もう今までの犠牲者が死んだ時間を過ぎた事に気づいたかい?」デイビスは背もたれに寄りかかり伸びをしながら尋ねました。
トゥルーは壁の時計をちらっと見ました。
彼の言葉は正しかったです。
死の時間はとっくに過ぎていたのに誰も気がついていませんでした。
「もう終わったの?」キャシーは長時間花びんとモニタをにらめっこして疲れた目をこすりながら言いました。
「どうして急にストップしたのか?」
「何の意味もないんじゃないのか」とハリソンが指摘しました。
「多分俺たちは運があったんじゃないか?」
「僕はそうは思わない」とデイビスは頭の振って答えました。
「あたしもよ」トゥルーも承認しました.。
「何かを見逃してるのよ」
「やあ、諸君?」と声が出入口から聞こえてきました。
トゥルーは振り返り侵入者をにらみつけます。
ジャックがドアの近くの壁に寄りかかって立っていました。
それは彼の習癖になっていました。
いつも出てきて欲しくない時にひょっこりと現れるのがジャックのスタンスでした。
「出てって」とトゥルーは立ち上がりながら言いました。
「いい花びんだな」とジャックはさらに部屋の中に入ってきながら言います。
「見てもいいか?」ジャックは花びんを調べるために前へ進みます。
「何しに来たの、ジャック?」トゥルーはニヤつくジャックから一歩下がって尋ねました。
「俺としちゃ今日を終わらせたいんだが」とジャックは花びんを置いて部屋の壁へと移動しながら言いました。
「何度も何度もやり直して、もううんざりしてきた。
 デイビスが協力する前からな。
 町の外に行ってきたんだろ?親戚はどうだった?
 ああ、それは今日じゃなかったっけか?
 今日は、親戚の入院している病院に行かない事にしたんだっけな。
 失礼」
トゥルーはキャシーがハリソンに目を向けるとハリソンは声に出さずに”後で”と口だけ動かして答えているのを見ました。
キャシーはまだジャックについて聞いてなかったようです。
トゥルーは彼女の行動を見ていたのでデイビスが彼女の後ろに立ち上がっていたことを知りませんでした。
しかしハリソンはすでに気付いていました。
そして彼女はデイビスが頭を速く振るのを見て、同僚であり腹心の友の彼が今まで見たこともないほど激怒しているのを見ました。
「お前は病気か?」デイビスがトゥルーの前に出ながらジャックにつばを吐きました。
「トゥルーの言った事が聞こえなかったのか、出て行け」
「そうかい」とジャックは舌打ちをしながらドアに向かって行きました。
トゥルーとデイビスはジャックが部屋の中に戻って来れないようにジャックの前にならびます。
「俺はもうかつての同僚や友人に会うことはいけないのか?」
「お前は始めから友人なんかじゃない」とデイビスはにらみつけて答えました。
「まあ、あんたにとってはな」ジャックはにやにや笑いました。
「だがハリソンは友人だ、そうだろ?」
「俺もそんな言葉は知らないね」とハリソンが言いました。
ジャックはキャシーに向かって肩をすくめて微笑しました。
「新しい仲間ができたようだな。
まだ紹介されてないが」
ハリソンは立ち上がって今までよりももっと困惑しているキャシーの前に進み出ました。
「俺達の前に姿を現すなよ」とハリソンは言います。
「まだリンジーに気が合ったんじゃなかったのか」ジャックは微笑しました。
「お前には過ぎたお嬢さんじゃないか。
確かダイナーで働いてなかったか?」ジャックは親しげな微笑をキャシーに向けました。
トゥルーはもう一度ジャックを出て行かせようと口を開きます。
ジャックが街中で彼女の後をつけてきたのはいつものことですが、
ジャックがハリソンの後をつけていたのは知りませんでした。
ジャックはトゥルーが考えているよりずっとずる賢い存在でした。
デイビスの親族の事まで調べてこの街から追い出すような真似をしたり、
ハリソンが誰と付き合っているのか、どこで働いているのかまで知っていました。
トゥルーはジャックがどこそれらの情報を手に入れているのか知りませんでした。
しかしそれは止めさせなければなりませんでした、今すぐに。
しかし彼女には話をする時間はありませんでした。
彼女がこの先どうしようかと思案しているちょっとの隙に、
それまでデイビスが抑えていたハリソンは突然ジャックに殴りかかりました。
「ハリソン」トゥルーは悲鳴を上げました。
ハリソンがジャックに掴みかかりもう一度殴ろうとした時、トゥルーはキャシーの声とダブったのを聞きます。
ジャックはハリソンよりも少し体重があるにもかかわらず、ハリソンの怒りの拳はジャックをふっ飛ばしました。
ジャックはハリソンが手を止めた時すぐに起き上がりハリソンを押し返しました。
するとハリソンは後ろの机の上にあった花びんにぶつかってしまいました。
トゥルー、デイビス、キャシーの三人はまるで時間がスローモーションになったように
花びんが床に落ち粉々になるのを見ていました。
床に落ちた花瓶の破片から黒いモヤのような物が出てきて、部屋の空中に浮いていました。
花びんの破片に描かれている文字が金色に輝きました。
トゥルーは不可解な現象を目の当たりにし背筋に寒気を覚えます。
「一体何なんだ?」ハリソンは床の上に倒れたまま尋ねました。
「分からないわよ」とトゥルーは答えました。
デイビスは混乱して頭を振りました。
ジャックでさえ驚いているように見えました。
モヤは生きているかのごとくゆっくりと彼らに近づいていきます。
モヤがキャシーの方に動くと、キャシーは椅子の方に急いで戻って行きました。
ハリソンは彼女を守るためにっ立ち上がり彼女の前に立ちはだかります。
部屋にいる人間の中で唯一の犠牲者はキャシー一人でした。
モヤは再び後退して今度はジャックに近付いて行くのをトゥルーは見ました。
トゥルーは次の犠牲者はジャックになるのを望みましたが、あまりにもひどい考えに自分をたしなめます。
「混乱してるんじゃないか」とデイビスが言いました。
「誰のところに行くのか分からないのかもしれない」
「俺はジャックの方に行けばいいと思う」とハリソンはジャックの方を睨んで言いました。
「多分、一人っきりじゃないとダメなんじゃない」とトゥルーが推測しました。
「どうして今まであたしたちがここにいるのに何も起きなかったのかそれなら説明できる」
「でも俺がここに花びんを持って来たときは俺一人だったぜ」とハリソンが指摘しました。
「あんたは人の沢山いるところにいた」とトゥルーが論じました。
「一人でいたかもしれないけど、周りには人がいたわ」
「それじゃどうして今?」モヤがキャシーの方に戻って来るのを見たキャシーは尋ねました。
「あたしたちがずっとここにいて、そのモヤが消えるのを待ってられないわ。
もしこの部屋に誰か一人が残ったらその人に向かっていくんじゃないの?」
「ジャックを残して、その理論をテストしてみれば?」ハリソンは再び緊張しているジャックににっこり笑って提案しました。
トゥルーは目をおよがせます。
ジャックをモルモットとして使うことは魅力的でしたが本当にやるわけにはいきません。
トゥルーはジャックをもう一度見ると、今まで見たこともないほど緊張しているのを見ました。
「奴でも死神は怖いのか?」ハリソンはにやにや笑いました。
「死神は皆のところに来るんじゃないのか?」ジャックは自分自身に言い聞かせるように睨み付けました。
トゥルーは少しうなって、モヤを見上げて痛くなった首筋をさすりました。
彼らはどうするかまだ決まっていないうちに、数分後にモヤは小さな5つのモヤに分離しました。
五つのモヤはそれぞれがゆっくりと5人に近付きました。
トゥルーはデイビスの腕を掴み、部屋の向こう側ではキャシーがハリソンの腕を掴んでいました。
ジャックだけが一人立っていました。
彼の顔は再び恐怖の色を浮かべていました。
モヤはますます近づくと、トゥルーは冷たい冷や汗が背中を流れるのを感じました。
するとモヤは突然彼女の周りをグルグルと回りだしました。
トゥルーは目の前が暗くなり始め床に倒れる寸前、他の人達も同じようになっているのに気づきました。
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トゥルーが目を覚ますと、体のあちこちが痛い事に気づきました。
頭は頭痛にズキズキし吐き気を感じました。
彼女は身を起こそうとしましたが、部屋の中が回っているように眩暈を感じます。
そしてその後、彼女の焦点が合うようになると部屋の中には他の人たちも床の上でうつ伏せに倒れているのを見ました。
彼女は最も近くにいたデイビスを見て心配そうに近付きました。
彼女はデイビスの脈を確認するとはっきりと力強く討っていることに安心しました。
デイビスは目を覚まし少しうなりました。
「何が起きたんだ?」と彼はトゥルーに助けられながら身を起こして聞きます。
「分からない」と彼女は電磁をするとハリソンとキャシーの方に向かいました。
「最悪な気分だぜ」とハリソンはうめくような声で言いました。
「それに夜じゃないよな、何があったんだ」
「あんたが無事でなによりよ」トゥルーは微笑しました。
「姉さん、白髪になってるぜ」とハリソンは起き上がりながら言いました。
「あんたが何年もあたしを悩ませたからでしょ」とトゥルーはジャックの方に目をやりながら冗談を言いました。
そこにはジャックはいませんでした。
トゥルーは自分が目覚める前にジャックの方が先に目を覚まし出て行ったと思いました。
もちろんジャックは直接人の命に干渉しないことを信条としてるため彼自身の典型的な行動でした。
「言葉どおりの意味だよ」とハリソンが言いました。
「見てみろよ」彼は手を伸ばして軽く彼女の長い髪の束を掴みました。
トゥルーは眉をひそめ見下ろすと、茶色の髪が本当に白髪になってるのを見ました。
トゥルーはキャシーの方を見るとキャシーも黒髪の中に一房の白髪がありました。
彼女はハリソンを見ました。
彼の髪は明るい色に染めていたのではっきりとは分かりませんが、同じく彼も白髪になっていました。
一方デイビスはすでに鏡の前に移動して白髪になっていろのを確認していました。
「犠牲者は皆、白髪だったわ」とトゥルーは混乱したように言いました。
「あのモヤみたいのが皆を襲おうとしたんだわ。
でも完全な白髪と死の代わりに、あたしたちは少し白髪になって気を失ったのよ」
「これで終わったの?」キャシーは花瓶の壊れた破片を見て尋ねました。
「そう願うわ」とトゥルーが答えました。
「でも二度と元に戻らないようにしておかないと」
彼女は破片の場所へと歩いて行くと、踵で破片を踏みつけました。
デイビス、ハリソン、キャシーも彼女に従い、一分後には花びんと呼れていた物は粉々になっていました。
黒いモヤの兆候もなく、不自然に光る印ももう現れませんでした。
トゥルーは廊下の掃除用具入れから箒を取って来てほこりをくずいれの中に捨てました。
それが終わると彼らは全員座り、デイビスはトゥルーに振り向きました。
「それでヨーロッパはどうだったんだい?」と彼は尋ねました。
「何か出前を取らない、そしたらもう一回話すから」と彼女は疲れた微笑で答えました。
デイビスは電話の方に向いて出前を頼みました。
デイビスはトゥルーが話をしようと口を開きかけるとデイビスは止めました。
「自分のせいにする必要はないよ」と彼はじっと彼女を見て静かに言いました。
「デイビスの言うとおりだ」とハリソンが同意しました。
「姉さんは俺たちに手伝うように言った。
 もし今日姉さんが一人で解決しようとしたらどうなっていたのかわかるか?」
トゥルーは、他の者たち、ジャックさえ花びんの呪いで死んでしまったであろう事を思い再び震えました。
「分かってる」とトゥルーが静かに言いました。
「でも皆を危険に晒すなんてもうできないわ」
「まあ、いつも通り助けるけどね」とハリソンは笑いながら言いました。
「だから姉さんは気にすんなよ」
「私も手伝うわ」とキャシーが言いました。
「あなたには2度も私の命を救ってくれたんだもの。
 あなたに対する感謝の印として」
「ありがとう」トゥルーは黒髪の少女にほほ笑みました。
「僕たちはそれが君の重荷だという事は分かっている」とデイビスが言いました。
「だが僕たちは君のために力になる事を忘れないでくれ」
「分かったわ」とトゥルーは感謝の微笑で答えました。
「それでヨーロッパの事を聞きたい?
「もう何回もやり直してるから、忘れかけてるけど」
皆はトゥルーと一緒に笑いました。
そして彼女は自分にかけられた呪いのプレッシャーが今のこの幸せなひと時の間だけ記憶から消えていくのを感じました。

おしまい。