ANOTHER TRU CALLING
アナザー トゥルー・コーリング

Deception:ごまかし。

あらすじ。
助けを求めてきた死体はハリソンをだました彼女のキャシーでした。
トゥルーは弟の幸せのためにどうするか決めなければなりません。
しかし弟たちの関係は普通とは違うようようです。

第1章 浮気。
レストランの奥で誰かを見た気がしてトゥルーは眉をひそめました。
彼女がいる場所からはよく分かりません。
もし目の前にいる女性が少し脇によければ確かめる事ができるかもしれません。
「トゥルー、聞いてる?」
メレディスはテーブルの向こう側から尋ねました。
「もちろんよ」とトゥルーは気を散らして答えました。
「誰か知り合いでもいたの?」
メレディスは身をよじりトゥルーの見ている方に顔を向け聞きました。
「よく分からない」とトゥルーはもっとよく見ようと席にもたれ掛かります。
「どこよ?」メレディスは尋ねました。
「彼女だわ!」トゥルーは叫びました。
「ちょっと何よ…」
「誰?」
メレディスが尋ねるとトゥルーは席から立ち上がりテーブルの間をすり抜け行ってしまいました。
メレディスはため息と共に立ち上がって彼女の後に続きました。
トゥルーが窓の近くのテーブルに到着した時、メレディスは彼女に追いつきました。
食事中のカップルは明らかにデートをしていました。
女性は黒い髪で、元々青白い顔色をした彼女は激怒しているトゥルーを見て更に青ざめました。
「これその、誤解よ…」彼女は始めました。
「これはデートじゃないのね?」トゥルーは皮肉ぽい声で尋ねました。
「ハリソンを裏切ってないのね?」
「えーと」彼女がテーブルの向かいに座っているスマートな服装をした男を一瞥しためらいました。
もし男がデートの言い訳をするつもりであったなら、彼の次の言葉はあまりにも幼稚でした。
「ハリソンって誰?」
「あたしの弟よ」とトゥルーは冷たい目をしながら甘い声で言いました。
「彼女のボーイフレンドよ」
「君は彼氏がいないって言ったじゃないか」男がは席から立ち上がってナプキンを丸め握り締め訴えます。
テーブルの上にナプキンを投げつけ、彼はレストランから出て行きます。
「それじゃあウソをついたのはうちの弟だけじゃないんだ」とトゥルーは言いながら、
まだ手付かずのスープの皿に手を伸ばし、浮気をしていた女のひざの上に傾けました。
彼女は熱いスープがドレスに染み、慌てて席から跳び上がりました。
「ちょっと待って…」と彼女は野菜スープがそれ以上掛からないようにしながら避けます。
「一体どういたしました?」ウエーターは心配そうに聞きます。
ウエーターはちょうど勤務の交代時間で、争いに巻き込まれるのを望んでいませんでした。
「何も、帰るところよ」とトゥルーは言うとドアに向かいます。
トゥルーはテーブルから数フィート離れると立ち止まります。
「今晩、ハリソンと話し合いをしたらどう?明日あたしがハリソンに会う前に。
 あたしはあの子ほど気が長くないから」
トゥルーは混乱しているメレディスの前を歩きレストランから立ち去りました。

第2章 悪い知らせ。
「ハリソン」悪い知らせを伝えにトゥルーは翌朝の11時少し前にドアを叩きながら大声で言いました。
物音がアパートの中から聞こえると彼女はもう一度ドアをノックしました。
「何時だと思ってるの?」
ハリソンはドアを開けながら文句を言います。
「11時よ」とトゥルーは部屋の中に入って見回しながら答えました。
部屋は彼女の弟らしい有様です。
服は家具の上に放られ、
キッチン・カウンターのテーブルには冷え切ったコーヒーと汚れた皿がありました。
「11時?」
ハリソンは素早く時計を見てソファーに沈み込みます。
「どうしたの?」
彼女は椅子から空のピザの箱を拾い上げてゴミ箱に入れるとその椅子に座りました。
「遅刻だよ」ハリソンは後に頭を倒しうなります。
「10時に仕事でインタビューをしないといけなかったんだ」
「仕事って?」トゥルーは不信に思われないように尋ねました。
ハリソンは仕事についてもあまり長続きはしませんでした。
「友人の友人が俺のためにインタビューをノミ屋で設定してくれたんだ」ハリソンは説明します。
「あんたなら沢山経験してるからいいじゃない」とトゥルーは冗談を言いました。
「電話して遅れるって言えばいいじゃない?」
ハリソンは頭を振りました。
「大した仕事じゃないよ。他の仕事を探すさ」
「あんたはね…」とトゥルーは弟がどうしようもない事を分かっていました。
もう少し朝の会話を楽しく話せないものかと。
ハリソンもその事は重々承知です。
「それで、今日来たのは何?」と彼は仕事を失った事を気にもしない様子で尋ねました。
「その前に片付けない?」彼女は部屋の中を手で示して再び時間稼ぎをします。
「いいよ」ハリソンはにっこり笑いました。
「遅かれ早かれ、姉さんがきたら姉さんが掃除するだろ」
彼は自分の指摘を実証するためにゴミ箱に捨てられてピザの箱にうなずきました。
「どうしてキャシーがこんなにひどい状態をがまんしてるのかしら?」
トゥルーはもう少しましにするようにと尋ねました。
「彼女みたいなインテリアデザイナーにとっては、この部屋は悪夢ね」
「彼女は気にしてないよ」ハリソンは肩をすくめました。
「俺の部屋に呼ぶようなデートはしてないから」と彼は笑みで付け加えました。
「それじゃまだデートしてるの?」トゥルーは尋ねました。
彼女は昨夜キャシーがここへ来てケンカにならなかった事を遅ればせながら理解しました。
「ああ」とハリソンはわずかにしかめ面で答えました。
「姉さんだって知ってるだろ。
 先週会わせたじゃないか」
トゥルーは合意でうなずきました。
裏切り行為をしていた女に熱いスープをかけた事は、
トゥルーにとって弟を裏切った彼女の事を話さなければならないことに比べればたいした事ではありませんでした。
「で、昨日の夜キャシーに会った?」
トゥルーは一瞬、自分が到着する前に本当はキャシーが弟と話をして、
自分が悪い知らせを伝える事が必要ではないことを望んで尋ねました。
「いいや」とハリソンが答えました。
「どうかしたのか?
 姉さんとキャシーは馬が合ったと思ったけど」
「そうだったわね」とトゥルーは立ち上がって小さな部屋の中を行ったり来たりし始めながら言いました。
「だったって?
 どうかしたのか?」と彼は再び尋ねました。
「あたし…」トゥルーはためらいました。
「こんな話したくはないんだけど…でも…昨日の晩、町に新しくできたフレンチのレストランで…」
「で?」ハリソンは混乱して眉をひそめて尋ねました。
「で、キャシーもそこにいたのよ」トゥルーは最後まで言葉を言い切る事ができました。
「二人で食事に行って、俺はのけ者か?」ハリソンはわざと傷ついた顔をして尋ねました。
「違うわ」トゥルーは頭を振りました。
「キャシーと一緒じゃない。
 メレディス姉さんと一緒によ」
 キャシーは…その…彼女は…男の人と一緒だった」
トゥルーは椅子に深く腰掛けしばらく黙った後、弟の反応を見るために勇気を出して顔を上げました。
「彼女がデートしてたって?」ハリソンは驚いて尋ねました。
「ええ」とトゥルーはうなずきました。
「彼女はあんたを裏切ったの」
「間違いないのか?」ハリソンは尋ねました。
「間違いないわ」とトゥルーは再びうなずきました。
「ゴメン、ハリー。
 あんたが彼女の事を本当に好きだったのは分かってる。
 こんな事あんたに話したくなかった」
ハリソンは静かにうなずきました。
トゥルーは今まで彼がそんなに落ち込んでいるのを見たことがありませんでした。
トゥルーは立ち上がって弟の脇に座って彼を抱きしめました。
彼女は彼が泣いている事に何も言えませんでした。
「どうするつもり?」とついに彼女は沈黙を破り尋ねました。
「彼女に話をしに行くよ」とハリソンはささやきました。
「多分まだやり直せると思う」
「本当に?」
トゥルーは弟がこれ以上いやな思いをするのをためらいました。
しかし彼女は避けられない事を先伸ばしするのはよくないと思っていました。
もう終わった事にいつまでもグジグジしてるよりはいいと思います。
「大丈夫だよ」とハリソンは強気に言いました。
「やってみないとな」
「やり直せると思う?」トゥルーは尋ねました。
「彼女を愛してるから」とハリソンは立ち上がって目をそらします。
そして彼は寝室の入り口に歩いていくと立ち止まりトゥルーに振り向きます。
「キャシーは姉さんがそこにいたのを知ってるのか?」と彼が尋ねました。
「えーと…ええ」とトゥルーは小さい声で答えました。
「何かしたのか?」ハリソンはため息と共に尋ねました。
「彼女がスープを飲めなかったって言っておくわ」

第3章 やり直し。
「ねえ、ハリソン」と繰り返します。
トゥルーは混雑する通りを急ぎながら携帯電話で話をしています。
「どうだった?」
「ダメだったよ」
雑踏の喧騒の中でさえトゥルーはハリソンが今朝の時より落ち込んだ声をしているのが分かりました。
「それでどうだったの?」と彼女は間髪をいれずに尋ねました。
「まあ、デートしてたのは否定してなかった」とハリソンは言いました。
「彼女は俺達の関係を清算して分かれようって言ってきたよ」
「浮気してたのがバレたから分かれるって事ね」トゥルーは思わず口走ります。
「その通りだよ」とハリソンは大きなため息をついて言いました。
「姉さんの仕事が終わったら何か食べに行かないか?」
「もちろんよ」とトゥルーが答えました。
「予定があったんじゃないのか?」ハリソンは尋ねました。
「弟をないがしろにはできないわ。
 仕事が終わったらすぐにテイクアウトを買って行くから、いいわね?」
「オーケー」とハリソンが同意しました。
「じゃあ、また後で」
彼が電話を切るとトゥルーは仕事に行く前にいくらかの使いをするため道路を急いで横断します。

2時間後、彼女は死体安置所に到着すると、すぐに彼女を待っている新しい遺体が到着しているのを見ました。
「この被害者は?」
彼女はコートを掛けて、仕事の準備をするためにオフィスの中に急いで入りデイビスに尋ねました。
「女性、コーカサス人、二十代前半、川で溺れての溺死だ」
デイビスは女性のジャケットを置いて、ハンドバッグを開けながら所見をすらすら言いました。
「キャシー・ミッチェル、あそこにあるダン・ダイナーのウエートレスだ」
「キャシー・ミッチェル?」トゥルーは出入り口で振り返ります。
「そうだ」デイビスは顔を上げました。
「彼女を知ってるの?」と彼は尋ねました。
「知ってるといえばそうだけど」とトゥルーは部屋の中に戻って来て答えました。
「あたしが知ってるキャシー・ミッチェルはウエートレスじゃなくてインテリアデザイナーだから」
トゥルーはデイビスが立っている場所に歩きました。
トゥルーが目の前に横たわる女性を見られるように彼は身を引きました。
「彼女だわ」とトゥルーが確認しました。
「向こうで座って」とデイビスはアドバイスしました。
「今回は他の誰かに代わってもらうようにするから」
彼はトゥルーをオフィスに連れて行こうとします。
トゥルーは一瞬で立ち止まりました。
長くはありませんでしたが、キャシーが痣がついた顔をトゥルーに向けて、
今ではよく聞きなれた言葉を発するまで長く感じました。
「助けて」

突然目の前がくるくる回り始め、トゥルーは最初のショックへと時間を遡り、
朝の九時に鳴る目覚まし時計で目を覚ましました。
あえいでベッドに起き上がるとトゥルーは目覚まし時計に手を伸ばしてスイッチを切ります。
非常に多くの疑問が頭の中に漲っていたので、一瞬の間彼女はベッドから出て行く気になれませんでした。
今日の午後、ハリソンと話をしたキャシーに何が起こったのか?
もし彼女が溺死だというなら彼女の顔の痣ははどこでつけられたものなのか?
そして一番の不安な問題は。
彼女はいても立ってもそれ以上考える事ができませんでした。
その日自分がハリソンに話をした事で若い女性を死に追いやってしまったのか?
トゥルーはハリソンの浮気した彼女をそのままの運命にすべきかと一瞬の考えがよぎりました。
しかしそれは一瞬でその考えにも不安を覚えました。
まるでジャックみたいな考えに身震いし、
トゥルーは今回はハリソンのためにうまくいくようにと電話をしました。
「ハリソン」
トゥルーはいつもの寝ぼけた声に尋ねます。
「起きて、仕事のインタビューに行く必要があるんでしょ」と彼女は弟に思い出させました。
「仕事?」とぼんやり彼が思い出すと、突然言葉を繰り返しながら騒々しく騒ぎ出しました。
突然のガチャンという音にトゥルーは驚いて頭を振ります。
それは彼が受話器を落としたような音でした。
「ありがと、姉さん」ハリソンは電話に戻ります。
その声は彼が部屋を動き回って受話器を持っていないように聞こえました。
「なあ、ちょっと待っててくれよ」
彼の声は今回はもっとはっきりと聞こえました、再び受話器を手にしたようです。
「今日は例の日だろ?
 インタビューの話はしてないもんな。
 で、どうなったんだ?
 俺はうまくやったのか?
 どんな事を俺は言った?
 なあ、姉さん…教えてくれよ」
「知らないわよ、ハリー」とトゥルーが答えました。
「昨日あんたは寝坊して、仕事をフイにしたの」
「えっ」
ハリソンは聞きたい事が聞けない事にがっかりしたようです。
「ごめん」とトゥルーが言いました。
「幸運を祈るわ」
「サンキュー」ハリソンは答えると電話を切ります。
「よし」トゥルーは独り言を言って服を着ます。
「じゃあ今度はインテリアデザイナーがウエートレスとして働いているのを探し出すか」
彼女はもう一度ハリソンに電話をして彼からもっと多くの情報を手に入れるべきか迷いました。
しかし彼女はもう一度彼に同じ苦痛を味合わせるのは望みませんでした。
彼女が今日死ぬ事を伝えれば、彼は間違いなく気が動転するに違いありませんでした。
トゥルーはハリソンに知らせないで何とかしようとします。
もしキャシーを救う事ができたら、彼らの恋愛はおしまいになります。
もし救うことができなかったならこの事はハリソンに教える必要はない事になります。

第4章 ウエートレス。
トゥルーがダンのダイナーに到着した時には店内は込み合い、
ウエートレスは店内を忙しく動き回っていました。
彼女は朝食を注文して、店内の一番奥のさっきまで客がいたブースに座りました。
彼女の座った位置は店内を見渡せる事と、少し動けば隠れる事ができる場所でした。
彼女はコーヒーをすすって慎重に店内を見回しました。
しかしキャシーは近くにはいないようです。
「遅刻だぞ!」男の大きな声が聞こえました。
トゥルーが後ろのドアの方を見るとキャシーがドライクリーニングの袋を持って奥に急いで入っていくところでした

すぐに彼女はユニフォームを着てメモと鉛筆を持ってカウンターに戻りました。
トゥルーはもしキャシーが突然カウンターに来たらどうしようかと思いました。
前の晩にここに来て、彼女に食物でも投げ返された方が良かったかもしれないと思いました。
しかしハリソンにキャシーがどこに住んでいるのか、どこで働いているのか聞いた事がないので無理でした。
それにハリソンは彼女がインテリアデザイナーだと思っていたはずですから。
そんな事はどうでもいい、今朝はダイナーに来る他に選択肢はありませんでした。
トゥルーがコーヒーを飲み終えるとよく知った声が入口から聞こえてきたので立ち上がって見ました。
ハリソンであったためもう一度沈むように座り、彼がキャシーの立っている正面に座ったのを見つめていました。
自分が来ているのを知らせるべきかどうか分からずトゥルーは深く座ったまま様子を窺う事に決めました。
「いつもの?」キャシーは明るく尋ねました。
トゥルーは席から眉をひそめました。
ハリソンはここの常連客でした。
キャシーは彼に会えて嬉しそうに、そしてトゥルーから前の晩に彼女がデートしたのを見つかった事を、
言いつけられてないか心配だという様子もありません。
トゥルーは明らかに何かを勘違いしていたのかもと、二人の様子を見続けました。
トゥルーには全く理解できませんでした。
キャシーはハリソンの前にコーヒーを置くと、彼の前に一枚の紙を置きます。
「彼氏に朝飯代を払わせるのか?」ハリソンは笑って尋ねました。
「それは食事代じゃないわよ」とキャシーが答えました。
「ドライクリーニングの代金よ」
「何だって?」ハリソンは当惑した顔つきで尋ねました。
トゥルーもハリソンと同じ気持ちでした。
「私のドライクリーニングの請求書」とキャシーは根気よく繰り返しました。
「黒いドレスのね。
 あなたのお姉さんのトゥルーが私の膝にスープをわざとこぼしたの、昨日の夜ね」
「姉さんがか?」ハリソンは笑いました。
「私の野菜スープをこぼしたの」と彼女はカウンターから覗き込むように言いました。
「あなたの名誉を守るためにやった事だから、あなたが払うべきでしょ」
「ちょっと待ってくれよ」ハリソンはわけが分からないというように頭を振ります。
トゥルーはキャシーが昨夜の事を詳細にハリソンに語って聞かせた事に驚きました。
彼女の言葉には後悔している様子はありません。
スープの事についてはイライラしているようですが、どちらかと言うと全体的には面白がっているようです。
トゥルーは鼻息を荒くしてハリソンの反応を待ちました。
しかし彼は嬉しそうに大笑いしていました。
「仕事がうまくいったらクリーニング代を払うよ」とハリソンは笑い終わると言いました。
「いいだろ?」
「もし仕事がうまくいかなかったら?」キャシーは眉を上げ尋ねました。
「そしたら君を昼飯にをおごるよ」ハリソンはにっこり笑いました。
「野菜スープぐらいの予算ならなんとかなるからさ」
「オーケー」キャシーは笑顔で同意しました。
「1つの条件があるわ。
 お姉さんに本当の事を話して…今日」
ハリソンは立ち上がってうなずきました。
「はっきり言っておくよ」と彼は同意しました。
「本当よ、ハリソン」とキャシーは強く主張しました。
「オーケー、オーケー。
 俺の運でも祈っててくれよ」とハリソンはドアに歩きながら言いました。
「幸運を」とキャシーは頭を振りながら微笑して叫びました。
トゥルーはやっと理解しました。
今の二人のやり取りがおかしいと感じたことに。
トゥルーは二人がいつもお互いに距離を置いている事を知っていました。
今朝のハリソンは彼女の頬すら触ってはいません。
トゥルーはハリソンの後を追うとしたときキャシーがこっちに来る事に気がつきました。
キャシーはコーヒーとドーナツを持って通り過ぎると同僚のウエートレスの1人が座っているブースに座りました。
トゥルーはキャシーに見つかって弟と彼女を見張ってたなどと知られたくなく、窮地に陥ってしまいました。

第5章 キャシーの秘密。
「そんなこと言ったなんて信じらんない」
聞いた事のない声が他のブースから聞こえてきました。
「あの人はお姉さんに何がどうなってるのか説明する必要があるのよ」とキャシーが言いました。
「分かってるけど」ともう一人が答えました。
「でもさ先月私があなたの秘密を彼に打ち明けたらって言ったけど、
 本当の事を話して彼が傷つくのもどちらかって言うと不公平よ」
「止めて、ベス」とキャシーが不平を言いました。
「コーヒーを飲む前にそんな話はしないで」
「でも彼には話したらどう?」ベスは好奇心を持って尋ねました。
「ポイントがないわ」とキャシーは答えました。
「それじゃ彼を好きなのを認めるのね?」ベスは言いました。
「もしそうなら何なの?」キャシーはため息をつきました。
「彼に話してもポイントがないわ。
 私のタイプじゃないし」
「そんな事ないわよ」とベスが指摘しました。
「あなただって前向きになってるし、彼だってあなたに会うためにいつも来るじゃない」
「実際そうだけど」とキャシーはため息をついて言いました。
彼女は彼がなぜダイナーに来るのか知っていました。
「その話はよして」
「それじゃ彼の好みのタイプは?」ベスは友人の口調が尖ってきたにも関わらず続けます。
トゥルーは少し席を移りました。
彼女は盗み聞きしていると罪悪感を感じましたが聞かずに立ち去る事も不可能でした。
その上彼女も今何が起こっているのか非常に知りたかったこともあります。
ハリソンは2カ月以上キャシーとデートしていました。
しかし今の会話では彼女は他の人が好きで、彼に教えてないことを示していました。
一体何があったのか?
「ねえ?」ベスは再び尋ねました。
「もし知っていれば、可愛い小さな金髪の」とキャシーは答えました。
「前の彼女とは終わったんじゃなかったの、えーと…レ…レズリーだっけ?」ベスは尋ねました。
「リンジーよ」キャシーは言います。
「それにまだ彼は彼女が好きみたい」
「それで彼が昔の金髪の彼女の事を引きずってるから、あなたとデートすることに興味がないのね?」
ベスは鼻を鳴らして静かにキャシーが答えるのを待ちました。
「昔の彼女に似てないからだけじゃないの」とキャシーは説明します。
「この間も彼と一緒に外を歩いてたら、金髪の娘がいるとすぐにそっちの方に目が行くのよ」
彼女は可笑しそうに笑い声を上げました。
「それで彼がまだリンジーの事をあきらめてないって分かったの。
 最初の頃なんか失恋の痛手で、他の女の子なんか目もくれなかったけどね。
 今度デートしたら彼の好みのタイプをもっと詳しく調べてみるわ。
 彼が私とのデートを止めないのはウソだらけだからよ」
「だからお姉さんに本当の事を話すように言ったの?」ベスは尋ねました。
「それが終わりにできる唯一の方法だからよ」。
「もし彼がお姉さんに本当の事を話したら、あなたが彼に興味を持っていないことが分かったら、
 彼はもうここに来る理由がなくなるのよ。
 二度と会えなくなるかも」
「彼は興味を持ってないわ」とキャシーが答えました。
「もし彼が…」
「何?」ベスは尋ねました。
「まあ、彼が…そうじゃないとしたら…」とキャシーは口ごもりながら言いました。
「じゃないとしたら…?」ベスは続けました。
「彼が興味を持つのは他の人よ。
 私たちが一緒になるなんて…」
「ありえない?」ベスは推測しました。
「ありえないわ」とキャシーは大声で言わなくてよかったという安堵のため息をつきました。
「それに彼はそんな玉じゃないし」
「オーケー…」ベスはためらいました。
「でも彼ってあなたが言うほどの人じゃないわ、彼って紳士よ」
キャシーは鼻で笑います。
「ハリソンの事を紳士だって言ったの、今まで彼を知ってる人であなたが初めてよ」
「でももしあなたが彼に好きだって言わないなら、そしたらどう…?」ベスはため息をつきました。
「何か同じ話を繰り返してない?」
「おい、君たち」マネージャーがカウンターの後ろから叫びました。
「仕事に戻れ」
キャシーとベスは立ち上がってカップと皿を片付けます。
「もう一つだけいい?」とベスが言いました。
「私のたわいもない提案がどうしてこんな風になっちゃったの?」
トゥルーはキャシーが頭を振り目を泳がせながらキッチンの方に行くのを見ていました。
ベスの質問は正当でした。
トゥルーは同じように不思議に思いました。
しかし前の晩の後ではキャシーに聞くわけにも行きませんでした。
彼女が弟を探しに行こうと立ち上がると店内には自分の他には一人だけしかいませんでした。
彼女が死体安置所に来るまでには、まだ時間が残っていました。

第6章 ハリソンの告白。
「それで仕事のインタビューはどうだったの?」トゥルーはハリソンに公園で追いつき聞きました。
これは彼女の思いつきで、彼女は再び時間をかせいでいました。
「悪くもなかったよ」彼は答えました。
「それでさ、あんたとキャシーの事は?」トゥルーは立ち止まって事の成り行きを尋ねました。
「いいさ、いい関係だよ」とハリソンは満面の笑みで答えました。
「それで二人の間に問題はないのね?」トゥルーは遠まわしに質問しました。
「いいや、ないよ」と彼は答えます。
トゥルーはわずかにしかめっ面をして考え込み返事をしません。
なんと切り出せばいいのか時間が過ぎていきます。
「それでいつあたしに本当はデートなんかしていないって言おうとしたの?」
彼女はあまりにもストレートすぎたかなと思いました。
「はぁ?」
ハリソンは歩くのを止めてトゥルーに口を開けたまま振り向きました。
「姉さんこそ俺に彼女が浮気してた話をいつする気だったんだ?」と彼は出し抜けに言いました。
「昨日言ったわ」とトゥルーは目を泳がせて答えました。
「あんたは傷ついていたわ、それとも演技だったのかしら。
 あの時演技だって分かってれば、でも騙されたわ、あんたのウソがうまくなってきたのかも」
「へえ」ハリソンは途方にくれ言いました。
「俺は姉さんの方が少し気が動転してたと思ったけど?」と彼は試しに尋ねました。
「少し?」トゥルーは叫びました。
「あたしは彼女にスープをかけたのよ!」
「ああ、それは聞いたよ」とハリソンは笑いながら言いました。
「彼女は怒ってないよ」
「知ってるわ」とトゥルーはため息をついて言いました。
「でも本当に、どうしてデートしてるふりなんかしたの?」
「それが何か?」ハリソンはもぐもぐ言いました。
「ええ、そうよ」とトゥルーが返答しました。
「どうしてあたしに嘘をつかなければならなかのかって。
 あんたが彼女をでっち上げた理由よ」
ハリソンは黙ったままでいました。
トゥルーは彼の前に行って待ちます。
「ねえ、ハリー、あたしには何でも話してよ。
 どうしてこんな事を?」
ハリソンは道の側のベンチに歩いて、それに体を深く沈めました。
トゥルーは彼の横に座って彼の肩を抱きます。
彼は深呼吸してどうして彼女をでっち上げたのか説明を始めました。
「リンジーと旦那が戻ってきた時のパーティーを覚えてるか?」
「もちろんよ」とトゥルーが答えました。
「あの時があたしにキャシーを始めて紹介されたのよね」
「そして初デートでもあった」ハリソンはひと呼吸おきます。
「でもその前からデートしていたって言ってたじゃない?」トゥルーは質問しました。
ハリソンは肩をすくめ答えます。
「まだリンジーが俺に気があったんだ。
 彼女の気が変わらないかと思ったんだ。
 よくわかんないけど…」と彼は口ごもりながら言いました。
「彼女が嫉妬するのを望んだんだ」
「それであんたはキャシーをパーティーに誘って、リンジーの気を引くためにでっち上げたのね?」
事実がはっきりしてきました。
「実はそのアイディアは俺の考えたものじゃないんだ」とハリソンは強く主張しました。
「ダイナーのベスが計画を思いついたんだ」
「キャシーの友達ね」トゥルーはうなずきました。
「彼女を知ってるのか?」ハリソンは驚いて尋ねました。
「詳しくはないけど」トゥルーは手を振り回しました。
「続けて」
「まあそれで、ベスにはその事を話してあったんだ。
 そしたら彼女がパーティーでデートしたらどうだって提案してきたんだ。
 俺はその時他の女とは付き合ってないって言ったら、彼女がキャシーを紹介したんだ。
 キャシーは他の州でデザイン学校を卒業してこの町来たから誰にも分からないだろうって。
 彼女はちょうど分かれたばかりだから友達として付き合うことになったんだ」
「そういう事ならどうしてあたし達に嘘をついたの?」
トゥルーは話を聞きながらイライラして尋ねました。
「姉さんがパーティーの前に言ったことが引っかかってさ。
 俺の事が心配だって」ハリソンはトゥルーを見て彼女の反応を待ちました。
「そんな事言ったかしら」とトゥルーが言いました。
「行く準備してた時、あたしがリンジーに言うって…聞いただけよ?」
ハリソンはうなずきました。
「俺は弟だぜ、姉さんの言いたい事はわかるよ。
 姉さんだって俺の事が心配で、俺だって姉さんにこれ以上心配かけるわけには行かないと思ってさ。
 姉さんだって自分の事で手一杯じゃないか。
 もし俺に新しい彼女ができたら、俺の事を心配しなくてもいいと思ったし、
 そんな話を聞かなくてもすむじゃないか。
 それであの日の晩だけキャシーにデートしてるふりをしてくれって頼んだんだ。
 そしたら姉さんは病院に俺たちを呼んだり、次にはメレディス姉さんの誕生日だろ。
 もう手に負えなくなってきたんだよ」
彼は慌てて立ち上がって少しゆっくり歩き始めました。
「そうだったんだ、ハリー」とトゥルーはため息をついて言いました。
「どうしてあんたのウソに気づかなかったのかしら?
 まだあたしが誤解してるように感じるわ」彼女は小さい笑い声を上げました。
「俺だってこんな風になるとは思ってなかったよ」
トゥルーが今までに見たこともないようにハリソンはまじめに答えました。
「まあ少なくても今は分かったから、
 次にキャシーがデートしてるのを見ても、もう何もしないわ」トゥルーは笑って立ち上がりました。
ハリソンの腕に自分の腕を絡めて道に沿って歩き続けました。
「彼女ならそれで納得すると思うよ」とハリソンは笑いながら言いました。
「彼女は何週間も姉さんに本当の事を話せって俺に言ってたんだ。
 俺は昨日…彼女がデートしてたって事を俺に言ったって言っただろ。
 多分、彼女との事は終わりにしろって事なんだと思うよ」
「彼女がそうしたのかもしれないわ」とトゥルーはハリソンとの電話のやり取りを思い出し同意しました。
トゥルーは彼がキャシーと話をした後、もっと元気がなくなっているのを思い出しました。
でも彼女はキャシーは間違っていると思いました。
ハリソンはまたダイナーに行くだろう事。
「姉さん?」ハリソンはとてもカジュアルな声で尋ねました。
トゥルーは一瞬眉をひそめました。
彼があまりにもカジュアルにしようとしたのか?
「キャシーは昨日幸せそうだったか?」
「彼女にスープをかけたからね」とトゥルーは彼に思い出させました。
「いい気分じゃなかったでしょうね」
「その前だよ?」ハリソンは尋ねました。
「デート中?」面白いとトゥルーは思いました。
「幸せそうに見えたわ」と彼女は用心深く答えました。
「男はどんな奴だった?」ハリソンは何気ない調子で再び質問しました。
返事する前にトゥルーは笑みを隠すために目をそらしました。
「男の人は見た目感じが良くて、実業家に見えたわ。
 あたしが行ってからは幸せそうじゃなくなったけどね」
「彼女がもう一度その時の男に会うと思うか?」と希望を抱いてハリソンが尋ねました。
「どうかしら」トゥルーは頭を振りました。
本当はデートしていなかったハリソンは前の晩に彼女がデートしていた事に嫉妬心を示していました。
「その人は彼女のタイプじゃないわ」とトゥルーはもう一言笑顔で付け加えました。
「どうしてさっき彼女から聞かなかったの?」と彼女は好奇心で尋ねました。
彼女の好きなタイプを聞かれる前に語る前に話題を変えます。
「分かんねえよ」とハリソンは言います。
「そうしたかったけど…」
「ヤキモチを焼いている風に見られたくなかったから?」トゥルーは推測しました。
ハリソンはうなずきました。
「俺たち本当に付き合ってたわけじゃないから」と彼は指摘しました。
「なあ、ちょっと待ってくれ!」彼は突然歩くのをやめました。
「どうして今朝俺が彼女に会ってた事を知ってるんだ?」
「そこにいたから」とトゥルーは弟の恋愛のもつれた話を聞き出すためにそこにいた事をつい話してしまいました。
「ダイナーにいたのか?
 どうして彼女があそこで働いているのが分かったんだ?
 俺が帰った後、彼女はデートのことを何か言ってた?
 俺の事を話したか?」
「ええ、ダイナーにいたわ」とトゥルーが答えました。
「デートの事は言ってなかったけど、あんたの事は話してたわ」
彼女はどうやってダイナーに行く事になったのかをどのように話していいか迷いました。
「俺の事は何て?」ハリソンは尋ねました。
「彼女から直接聞いた方がいいわ」とトゥルーは頭を振り答えました。
「あたしがどうして彼女があそこで働いているのを知ったか知りたい?」
彼女は小さな声で、彼なら”イエス”と答えるだろうけど”ノー”と言ってもらいたいと尋ねました。
「ああ」ハリソンはにっこり笑いました。
「どうやって俺たちのことを知ったんだ?」
「そうじゃないの」とトゥルーは別のベンチにハリソンを連れて行き座って言いました。
「今日が何の日か分かるでしょ?」
「ああ、やり直しの日だろ」ハリソンは肩をすくめました。
「だから今日の事が分かったのか?」
「そうじゃないけど」トゥルーはためらいました。
「キャシーが助けを求めたのよ」
「どんな?」ハリソンは尋ねましたが、始めはよく飲み込めず段々と青ざめました。
「キャシーがやり直す原因だっていうのか?」
トゥルーはうなずきました。
ハリソンは彼女より先に口を開きます。
「なあ、姉さん、どうしてこんなところに座ってのんびりしてるんだ?
 彼女を探し出さないと。
 俺達は目から彼女を離さないようにしないと」
トゥルーは弟が急いで道を走るのを見て、弟の後を追いかけました。
ハリソンは今日彼女が死ぬ運命だと分かった時、
彼は偽りの彼女に感じていた気持ちは吹っ飛び恐怖の色を浮かべました。

第7章 キャシーへの説得。
トゥルーは先を急ぐハリソンを追いかけます。
「ハリソン、待って」と彼女は叫びました。
彼は少し速度を落としましたが立ち止まりはしませんでした。
彼女は彼に追いつくと彼の腕をぎゅっとつかみました。
「もう少し考えてからの方がいいわ。
 彼女に何て話をするか」
「真実だよ」とハリソンは道を急ぎながら答えました。
「ハリソン、ばかな事は言わないで」とトゥルーは彼を止めるための腕を引っ張り叫びました。
「彼女を死なせるわけにはいかない」ハリソンは誰かが聞いていないかどうか確かめながら言います。
「もちろんよ」とトゥルーが答えました。
「そうは聞こえないよ。
 彼女のところに行くのがダメだって言うんなら、また死ぬ事になるじゃないか。
「正気だと思われないわ。彼女は信じない」
「分からないじゃないか」とハリソンが論じました。
「いいえ、分かってるわ」
トゥルーは歩くのをやめて、ハリソンに打ち明けた時の事を思い出すのを待ちました。
彼は振り向いて腕を彼女の肩に置きました。
「なあ、ルークが姉さんを信じなかったからって…
 他の人も同じだとは限らないぜ」
ハリソンの言う事は説得力がありました。
「それに」彼は続けました。
「俺は姉さんを信じてるんだ」
「最初は信じなかったじゃない」とトゥルーが指摘しました。
「あたしはそれを証明しなければならなかった。
 それだってあんまり信じようとはしなかった」
「もし姉さんが競馬の結果を俺に言ってたら、もっと早く信じてたかも」とハリソンは冗談を言いました。
「今日のレースの結果を覚えてるか?」
「いいえ」
「キャシーを納得させられる事で知っている事はないか?」と彼は尋ねました。
「なにも」とトゥルーはため息をついて言いました。
「あたしの事を彼女に話すことなんてしようと思わなかったから」
「じゃあ、他の方法で彼女に信じてもらうようにしないとな」とハリソンが言いました。
「さあ、あと十分でシフトの交代になる」

キャシーが帰ろうとした時、彼らはダイナーに到着しました。
彼女は肩にハンドバッグを揺らし、反対方向へと歩き始めました。
ハリソンが彼女を追うとトゥルーも後に続きます。
「キャシー!」彼は雑踏の音にかき消されまいと叫びました。
彼らは交差点の反対の側にいました。
ハリソンはブルネットの彼女に待つよう叫び続けたましかが堪えきれず車の合間を縫って行ってしまいます。
トゥルーは信号が変わるのを間ちます。
信号が変わり車の波が途切れるとキャシーとハリソンの姿は見当たりませんでした。
トゥルーが道路を渡っているとき、ハリソンはキャシーに追いついて店の脇で彼女を待っていました。
「どうするの?」とトゥルーが尋ねました。
彼女はキャシーに一日をやり直している事を話すのにはまだ納得しませんでした。
「キャシーのところは?」ハリソンは言います。
「ここからすぐそこだ」
「オーケー」とトゥルーは同意しました。
キャシーは眉をひそめました。
「一体何なの?」
「中に入ってから説明するわ」とトゥルーは言います。
ハリソンは2ブロック離れた彼女のアパートへと連れて行きます。
トゥルーは目を大きくしてアパートを見まわしました。

大抵のアパートはみな同じ感じでしたが、ハリソンの部屋よりはきちんとしていました。
家具はいくつもなく、壁にはデザインボードがかかっていました。
「コーヒーは?」キャシーはカウンターから尋ねました。
彼女はソファーと椅子を手で示します。
「お願い」とトゥルーは椅子に座りながら言いました。
ハリソンはすでにソファーの上に落ち着いて頷いています。
キャシーはコーヒーを持ってハリソンの横のソファーの上に座りました。
トゥルーは二人が今までとは違って、今回はキャシーがハリソンから距離を置いている事に気付きました。
「それで何事なの?」
キャシーはコーヒーを一口飲んでマグをテーブルに置くと尋ねました。
「えーと」トゥルーはすぐにためらいました。
どうやって人に一日をやり直している事を言ったらいいのかと。
「キャシー」とハリソンは姉に助け舟を出します。
「誰かが君の事に腹を立てたり、危害を加えるような人物に心当たりは?」
「あなたのお姉さんの事を言ってるの?」キャシーはトゥルーをチラッと見て返事しました。
「そうじゃないわ」とトゥルーはハリソンを睨みつけて言いました。
「今までの事は聞いたわ」
「彼が話したの?」キャシーはハリソンをぼう然と見て驚いて尋ねました。
「全部じゃないけど」とトゥルーが言いました。
「最近あなたに何か仕返ししようとかした人はいない?あたしのほかに?」
「いつも上司とはうまくいってないわ、でもいつもの事だから」とキャシーは考えました。
「昔の彼氏は?」トゥルーは尋ねました。
「そうは思わない」とキャシーは肩をすくめました。
「昔の彼氏とは疎遠になってるし、私は町を出ちゃったから。
 一体何の話なの?
 どうして突然私のことに興味がでたの?」
「その」トゥルーは再びためらいました。
彼女は助け舟を出せとばかりにハリソンを見ました。
彼女はまだ他の誰かに秘密を話す気になることができませんでした。
「姉さんは時々変な事を知ってるんだ」ハリソンは始めました。
「異常な事を」
「異常な事って?」キャシーは中断しました。
「これから起きる事さ」
キャシーは眉を上げました。
そして笑顔が顔に現われました。
「これは冗談なの?」と彼女が尋ねました。
「いや」とすぐにハリソンは答えました。
今手を引くにはあまりにもリスクが大きすぎます。
「姉さんは、今晩誰かが君を…襲いに来るのを知ってるんだ。
 だからそれが誰なのか知る必要があるんだ」
「お姉さんがこれから起きる事が分かるんなら、どうしてそれが誰なのか分からないの?」キャシーは尋ねました。
「姉さんは全ての情報を手に入れらるわけじゃないんだ」とハリソンは弱く答えました。
これはキャシーに真実を話す良い考えに思われていました。
しかし今彼はそれがどれほど難しい音なのか理解しました。
「どうして?」
キャシーは少しイライラしながら疑問を口に出します。
「それは…」とハリソンは助けを求めてトゥルーの方を見ます。
「そんな事はどうでもいいの」とトゥルーは事務的な口調で言いました。
「重要な事は誰があなたを殺すって事よ」
「私を殺す?」
キャシーはトゥルーとハリソンに目を配り席から飛び上がりました。
彼女はアパートのドアに向かって二人から後ずさりし始めました。
「キャシー」ハリソンは席から跳び出して彼女の肩をつかみました。
「俺達の話を聞いてくれ」
「あなたが変なのは知ってたけど」とキャシーは非難しました。
「本当におかしくなってるとは思わなかったわ。
 そんな事は一人でやって、出てって。
「キャシー」トゥルーは始まりました。
「あなたもよ」とキャシーは決してハリソンから目を外さないで言いました。
「お願いだ、キャシー」とハリソンは懇願しました。
「俺たちを信じてくれ。俺たちに手をかすんだ」
「何もしないわ」とキャシーはハリソンの掴む腕から逃げ出して答えました。
「お願いだ」とハリソンは再び懇願します。
「だったら。今日はアパートから出ないって約束してくれ」
「あなたっておかしいじゃないの!」
キャシーは二人を出て行かせようと叫びながらドアを開けます。
そしてトゥルーは廊下に出ました。
ハリソンはドアで一瞬止まります。
「お願いだ、約束してくれ」彼は再び尋ねました。
「もう二度と君に付きまとわない、約束するから。どうか」
「出てって、ハリソン」とキャシーは疲れた声で言いました。
彼がトゥルーの後に続いて出て行くとドアが後ろでカチッと音をたてて閉まったとき向きを変えました。
「これからどうする?」と彼は階段を降りながらトゥルーに尋ねました。
「待つのよ」と彼女は答えました。
「俺たちのことを信じなかった」とハリソンは歩道に出ながらぼそぼそ言いました。
「そうね」とトゥルーが答えました。
「ごめん、俺があんまりにも突っ走りすぎた」
「あたしだって他にいい考えが浮かばなかったんだから」とトゥルーは慰めらるように言います。
二人はこれからの数時間待つために道路の反対側の低い壁の前に落ち着きました。
二人ともどうすれば助けられるか声に出さず同じことを考えていました。

第8章 河岸で。
「他の出入口はどこにもないのね?」トゥルーは3回目の確認をしました。
「ああ」とハリソンはドアから目を外さずに答えました。
彼らはあれから何時間もそこにいました。
しかし不信な人物は誰も見当たりませんでした。
「あんたが知らないだけで、他の出入口があるんじゃない?」トゥルーは尋ねました。
「他には出入口はないよ」とハリソンは断言します。
「彼女が引っ越して来たときから、火事の時の安全問題で大家に文句を言ってたんだから」
「そしたら大家が…」とトゥルーはわらをも掴む思いで聞きました。
「そんな事はないね」ハリソンはまだ出入口を見つめたまま頭を振ります。
「本当に?」トゥルーは尋ねました。
ハリソンは肩をすくめました。
「うまくいくと思う?」とトゥルーは今晩起こる事に勇気を出してもらおうと言いました。
「ルークみたいにか?」ハリソンは悲痛な声で尋ねました。
「キャシーはルークとは違うわ」とトゥルーが指摘しました。
「でも二人とも俺達の事を信じなかったじゃないか。
 それにキャシーには全ては話してないし」
「今日はその話は止めましょ」とトゥルーはため息をついて言いました、そして建物に目を戻します。
彼女の心がハリソンに向いていたため、
すぐ傍を通ったスマートな服装をした男が建物に入っていくのを素通しさせてしまいました。
彼女がその男がレストランで見たキャシーとデートしていた人物だと思い出して息が止まりました。
「どうしたんだ?」トゥルーが跳び上がるとハリソンは尋ねました。
「昨日の晩にキャシーとデートしてた相手だわ」と彼女は道路を渡るべきかどうかと迷いながら説明しました。
彼らは今、道路に沿っている川の向こう側の道路にいました。
もし昨日と同じなら、遅かれ早かれキャシーはこっちへ来る事になるでしょう。
ハリソンは何のためらいも持っていませんでした。
そしてトゥルーは彼が道路を渡って建物に走るのを止めるために彼の腕をつかみました。
「偶然の一致かもしれないわ」とトゥルーが注意しました。
「彼も同じアパートに住んでるのかも」
「あそこに住んでるわりには、身なりが良すぎる」とハリソンが指摘しました。
「でもあんた自身が言ったじゃない。
 キャシーは町に来て間もないって、彼女はどこかで彼と知り合ったのよ。
 多分あそこに彼が住んでいるか、友達の紹介だとか」
彼女の言葉は止まります。
男はキャシーと一緒に建物からから出てきました。
彼らは道路を渡ってまっすぐにトゥルーとハリソンを目指して進んでいました。
トゥルーはハリソンの腕をつかんで近くの路地に引っ張りました。
「ねえ、早とちりしてない?」とトゥルー達は二人が通り過ぎたときキャシーが尋ねるのを聞きました。
「今晩はどう?昨日のデートの埋め合わせに…」
「夕べ君は俺を笑いものにした」と男は非難しました。
「あのレストランに知り合いがいた。大切な人のな」
「ねえ、ちょっと間って、マット」キャシーはちょうど路地の終わりで止まりました。
トゥルーとハリソンは静かに待ちました。
「いや、待つのは君だ」マットは不快そうに彼女の腕をつかみ邪悪な声で続けました。
トゥルーはハリソンが飛び出そうとするのをぎゅっとつかみました。
マットはハリソンより二周りも体が大きく、彼がまた病院に入院するのを望みませんでした。
トゥルーはポケットの携帯電話を取り出し、ハリソンにキャシーの監視し続けるよう合図して、
彼女は聞こえないように警察に電話をしようとしました。
もうじきキャシーたちはやり直す前の日に彼女が浮かんでいた川の近くに行く事になります。
電話を終えたトゥルーはハリソンが半狂乱になって彼女にこっちに来るように合図しているのを見ました。
トゥルーは彼がいかに動揺しているかを見ました。
キャシーとマットは歩き出し川を目指して進んでいました。
可能な限り慎重に二人の後を追いかけましたが、トゥルーとハリソンは話し声を聞く事ができませんでした。
しかしキャシーの表情から、彼女は少しも会話を楽しんでいるようには見えません。
トゥルーはハリソンが介入するのを阻止するためにハリソンの前を歩き一定の間を保たなければなりませんでした。
「気をつけて」と彼女は注意しました。
「警察に任せておくのよ」
「もし間に合わなかったら?」ハリソンはささやきました。
「昨日の事は」
「昨日はあたしは電話なんかしなかったから」とトゥルーが指摘しました。
「もういてもたってもいられないよ」とハリソンは姉の掴む腕を振り解きながら言いました。
「姉さんが俺を失いたくない気持ちは分かってる…でも俺をずっと助け続ける事はできないよ」
「ハリソン」とトゥルーが主張しました。
「お願い、警察に任せて、もうすぐ来るはずよ」
「分かってないな」とハリソンが論じました。
「奴は彼女を川に連れて行く、彼女は水が怖いんだ、俺が止めないと」
「彼女は泳げないの?」トゥルーは尋ねました。
「ああ」とハリソンは川に行くキャシーとマットの後を追うためにペースを速めて答えました。
「そんな」キャシーとマットが角を曲がって河岸道を下って見えなくなった時に、彼女はハリソンの後を追いました 。
キャシーとマットはメイン道路からはずれていました。
木が一瞬トゥルーの視界をふさぎます。
パシーンと人を叩くような音が響きわたったとき、彼女より先に行っていたハリソンはすぐに向かいました。
「おい」と彼はできる限りの声で叫びました。
「これはお前の出る幕じゃない」とマットが言いました。
「向こうに行ってろ」
「彼女を置いていって」とトゥルーはハリソンに追いついて言いました。
キャシーは頬に痣をつけて地面に倒れていました。
ハリソンが立ち去らないとマットは彼に近付きます。
「お前たちには関係ないだろ」とマットは再び言いました。
「これは俺とこのクソ女の問題だ」マットはハリソンの腹を拳で殴りつけます。
ハリソンはひざを落し、トゥルーは彼の横にひざまづきます。
警察はまだなのか?
「そこで持ってろ?」マットは叫びました。
トゥルーが見上げるとキャシーはマットから後ずさりして、
トゥルーとハリソンがいる場所へとにじり寄ります。
「逃げろ、キャシー!」ハリソンは呼吸が戻るとすぐに叫びます。
「川から逃げるんだ」
トゥルーはマットがこっちを離れてキャシーの方に走るのを見ました。
しかしキャシーは道路へと走らずに川に向かって走り出しました。
「ダメよ」とトゥルーは立ち上がって言いました。
「彼女はこちらに来れないなんだ」とハリソンは突然思い出して言いました。
「彼女は川が怖いんだ、木のせいでこっちにこれない」
トゥルーたちは彼らを追いかけて走りました。
水に飛び込む音がしました。
ハリソンは小さな防波堤から川の中に飛び込んで泳ぎだします。

第9章 新しい始まり。
マットはキャシーがすぐに浮上して来ないと当惑して川岸に立って見ていました。
トゥルーがハリソンとキャシーを探し水面を見ていると、サイレンの音が聞こえてきました。
トゥルーは二人を見つけようと叫んでいると、水面に防波堤に向かう影を見つけました。
ハリソンの金髪の髪を見つけると、彼はキャシーを抱え岸へと泳いでいました。
トゥルーはハリソンが抱えている息が止まったキャシーを助け出すのを手伝いました。
二人が岸に上がるとすぐにトゥルーはマットがどこにいるのかと振り返りました。
マットは警察が来る足音を聞き、踵を返し反対方向に走り出します。
しかし反対方向からはやってきた救急車によってふさがれました。
トゥルーはもう死の運命の流れを変えたという安堵の感覚を感じました。
彼女は救急隊員に合図を送ります。
そしてキャシーを救急車のところに連れて行った後、トゥルーたちは彼女が息を吹き返すのを待ちました。
ハリソンは事情聴取を終え近くにゆっくり歩いてきました。
パトカーで事情を聞かれている間、彼はマットに激怒した顔を頻繁に向けていました。
こちらにやって来た時にはハリソンの怒りが収まりトゥルーは安心しました。
「あの、家に帰ってもいいですか?」
トゥルーはキャシーが救急隊員に尋ねるのを聞きました。
「後一、二分遅かったから危なかったんですよ」
「そうですか」とキャシーは答えました。
「あそこにいる人達が間に合ってあなたは運がよかった」
「はい」とキャシーは立ち上がって、彼女を助けてくれた女性に感謝して言いました。
「キャシー?」トゥルーはキャシーが近づいてきたので声をかけました。
トゥルーは彼女がまだ少し震えているのは、恐怖からではなく川の冷たい水のせいだと気付きました。
「トゥルー」とキャシーは河川の小道に集まっている人たちの中から彼女を見つけ答えました。
「あたし達の事を信じられなのは分かるわ」トゥルーは始まりました。
「だからもう二度とこういう話はしない、
 でも今日の午後の事は忘れて、ハリソンにもう一度チャンスを与えてやってくれない?」
「もう一度チャンスを?」キャシーは片眉を上げて尋ねました。
「彼はそう望んでるの?」
「もちろんよ」とトゥルーは答えました。
「本当に?」キャシーは疑い深く尋ねました。
「あなたは私たちが本当は付き合ってないことを知ったんでしょ?」
「ええ、知ってるわ」とトゥルーが言いました。
「でも、あの子が本当にあなたの事を大事に思っていることも知ってる。
 だからどちらかが素直になって話さないとね」トゥルーは去ろうと踵を返します。
二人の事でこれ以上何かをする事は彼女にはできませんでした。
彼女はただやり直す前の日よりも今の方が良くなる事だけを望みました。
トゥルーがキャシーと話を終えるまでハリソンは待って立っていました。
彼は姉が彼女に何を言っていたのか知りたいと思いましたが、
どういうわけか動く事ができず、まるで地面に足が凍りついたように感じました。トゥルーがこっちの方に歩いて来
ながら手を振る姉をハリソンは見ていました。
ハリソンは姉が仕事に行くのを知っていました。
そして彼は今晩は死体安置所に遺体が届かないだろうという安堵のため息をつきました。
キャシーは何かを望むような顔で彼を見つめて立ったままでいました。
彼は彼女がそんな顔をどうしてしているのか分かりませんでした。
しかし彼女の顔は彼女がアパートから追い出すときよりもずっといい顔でした。
「ハリソン、ここは凍えるほど寒いわ」と彼女はついに叫びました。
「一晩中ここに立たせておくつもりなの?」
ハリソンは少し笑顔になり彼女に近付きました。
そして二人は彼女のアパートに向かい戻ります。
「今からあのコーヒーを飲んでみるかい?」と彼はからかいます。
「もう冷たくなってるわよ」と彼女が皮肉を言いました「コーヒーぐらいおごってあげるわ、特に私を助けたヒーロ
ーにはね」
ハリソンは笑いました。
「それで今晩はこれからどうするんだ?」と彼が尋ねました。
「お風呂に入って髪を洗うわ」彼女はにっこり笑いました。
「そうか」とハリソンは期待していた答えと違いがっかりしました。
「川ってとても汚いのよ」とキャシーは続けました。
「それを先に言ってくれよ」ハリソンは自分の汚れた頭に手を置きほっとして冗談を言いました。
「それで、あなたはもう私に会う口実がなくなったの?」キャシーは微妙に言葉を濁しながら聞きます。
「それは」とハリソンは言葉を続けるかのように答えました。
彼はしばらくの間デートしているふりをしていたので、言葉が見つかりませんでした。
彼女はどういう考えで聞いてきたのだろう?
「だからあなたと私はもう会えなくなっちゃうの?」キャシーは再び質問しました。
キャシーはトゥルーが言った言葉が本当かどうか疑い始めていました。
彼にそれを説明しなければならないのかと?
二人は彼女のアパートに着いて、そして彼女の2階への階段に立ちます。

「俺もここで風呂を借りてもいいかな?」ハリソンは尋ねました。
「もちろん構わないわ」とキャシーは棚からタオルを取り出し、
二人が歩いてきた床が泥だらけなのを見て眉をひそめました。
「キャシー?」ハリソンはコーヒーを作りながら叫びました。
「何?」と彼女は今日の午後に飲んでいてたマグを片付けながら尋ねました。
彼女はハリソンが半分酔ったような感じでカウンターを出てきて彼女からマグを受け取りに出てきた事に気づかず、
彼は彼女の手からマグを受け取るとそれをカウンターの上に置きます。
「な…」彼女が声を出そうとしたその時ハリソンはキスで彼女の唇をふさぎました。
「俺たち本当に付き合わないか」彼はキスから離れると微笑んで言いました。
「きれいにしてからね」とキャシーは微笑んでハリソンの髪から水雑草を摘み上げます。
「後でいいよ」とハリソンは再び彼女に近づき言いました。
キャシーは離れてかがみました。
彼女には気持ちが変わる前に聞きたい事がありました。
「お姉さんは本当にあんな事が起きるのが分かったの?」
「ああ、そうだよ」とハリソンが答えました。
「ごめんなさい、あなたの事をおかしいんじゃないかって言って」とキャシーは少し肩すくめて言いました。
「それはいいよ」ハリソンはにっこり笑いました。
「俺だって姉さんの話を信じるまで、かなり説得されたんだから。
 それで君は俺たちの事をもう信じるかい?」
「ええ」と彼女は答えました。
彼女はトゥルーがどのようにこれから起きる事が分かったのかは分かりませんでした。
しかし今日一日の出来事について他にどのような説明もつきませんでした。
「それでもう秘密や嘘はないの?」
「ないよ」とハリソンは頷きます。
「それじゃ、これで俺たちは正式に付き合う事になるのか?」
「あなたが私に言ったのよ」彼女は腕を彼の首にまわしてにっこり笑いました。
「それもそうだな」とハリソンは笑いながら言いました。
「他にどうすればただで朝食を用意できるの?」

おしまい。