ANOTHER TRU CALLING
アナザー トゥルー・コーリング

Divide and Conquer

あらすじ
ハリソンはニューオーリンズで夢の就職のチャンスを与えられた彼女と初めて口論をします。
奇しくもその日にかつての彼女であるリンジーが町に戻ってきました。
トゥルーはハリソンとリンジーのよりを戻そうとします。
しかし本当にそれでよかったのか?

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「リンジーが戻ってくる?」デイビスは今まで作業をしていたパソコンから顔を上げ尋ねました。
「ええ」とトゥルーはしかめ面をして答えます。
「彼女はちょうど今着いたばかりだって。気が動転してる声だったわ。
 だからまっすぐにこっちに来るように言っておいた。」
「死体安置所が話しやすい場所だからか?」デイビスは大まじめな顔で言います。
「そりゃ静かだけど、そうそうあなたを一人にさせるわけにはいかないでしょ。
 やり直しの日にはそうなっちゃうんだから」
「僕が気にしないのを知ってるだろ」とデイビスは言います。
「それに君が使命を果たす事と僕の作業負担は別に関係がない」
トゥルーは一人ニヤツキます。
それは確かに本当でした。
彼女はやり直しの力によってかなりの人々を救っていました。
そしてトゥルーを止めようとするジャックの邪魔にもかかわらず、トゥルーは死の直前であった人々を救っていました。
しかし彼女の笑顔はこわばります。
人を助ける事には成功しているにもかかわらず、ジャックのせいでやり直す度に難しくなっていきました。

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「ニューオーリンズ?」 ハリソンはあっ気に取られて繰り返しました。
「ええ」とキャシーは興奮して言います。
「私のWebサイトを通して私のビジネスについて聞いてきたの、そしたら一緒にやりたいって。
 私はそのままの状態で、彼らが広告の手伝いをするの。
 そしてスムーズに移行するのよ。
 そして私は彼らに利益の何パーセントかを支払うの。
 彼らが手伝った他の人達からも沢山素晴らしいって推薦を受けたわ。
 よく調べてみたけど本当に良い取引だわ。」
「弁護士に見てもらったのか?」ハリソンは目の前の書類の意味を理解しようとして尋ねました。
「ええ、彼女は合法的だって言ってくれたわ」とキャシーが答えました。
「それでどうするの?」
「親父にこれをもう一度見せてもいいかな?」ハリソンは質問をはぐらかそうとします。
「あなたのお父さんはこの分野に関しては専門外でしょ?」キャシーは言います。
「それに質問をはぐらかすのはやめて。」
「どれぐらいの期間になるんだ?」 ハリソンはしかめ面で尋ねました。
「そりゃ、彼らのフルサービスを受けるには永久じゃないといけないわ」とキャシーがしかめ面で言いました。
「私が一人で活動できるようになって、もう彼らを必要なくなれば、ここへ拡張したり、戻ってくることにはなるかもしれないけど。」
「それは何年もかかるんだろ」とハリソンが指摘しました。
「そうよ」とキャシーはため息をついて言いました。
「だからあなたにどうするか聞いてるんじゃない。 もし2週間たっても返事をくれなかったら一人で行くから。」
「そりゃいい」とハリソンは皮肉たっぷりに言いました。
「俺の意見は聞いてくれないと分かったよ。」
「そんな事言ってないじゃない」とキャシーは怒り出しながらきつく言いました。
「あなたの意見が大切だから、聞いてるんじゃない。」
「そうか、そういう風に見えるのか」とハリソンは無表情で意地悪に言いました。
「君がやりたいんならそうすればいい。」
「そういう風に言うと思ったわ」とキャシーが言いました。
「ああ、言葉通りだぜ」とハリソンがぼそぼそ言いました。
「ニューオーリンズに行って来いよ、そして帰ってくるなんて悩まなくたっていいじゃないか。
 俺はずっとは待ってられないからな。」
「分かったわよ」とキャシーはそう言うとドアを開けます。
ハリソンが立ち上がった時、ドアは激しい勢いで壁にぶつかり大きな音を立てて壁を揺らしました。
「少なくとも今はあなたと一緒に行くようには説得なんかしないからね。」

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リンジーはお昼前に死体安置所に到着しました。
そしてトゥルーはすぐに彼女の気が動転しているのを見ます。
「何があったの?」とトゥルーは尋ねながら彼女をイスに連れて行きます。
トゥルーがリンジーに背を向けてデイビスに向く前に、デイビスは気を利かせ立ち上がり部屋から出て行きます。
「あまりうまく行ってないの」とリンジーは小さな声で答えました。
「新婚旅行以来はもうだめなのよ。」
「大変なのは分かっていたでしょ?」とトゥルーは慰めるように言いました。
「ええ」とリンジーはうなずきながら答えました。
「ただこんなに大変で、こんなに早くなんて。」
「何があったの?」 トゥルーはもう一度尋ねました。
「私達、あまり考えもせずに結婚を急ぎ過ぎたのよ」とリンジーは鼻をすすりながら言います。
トゥルーは何か言葉を言いそうになり唇をかみしめました。
彼女は個人的にリンジーとランドルが何故それほど結婚を急いだ理由を考えていました。
しかしリンジーはハリソンと分かれてすぐに夢中になっていました。
トゥルーはあまり多くを語ろうとは思いませんでした。
「それでこれからどうするの?」 トゥルーは尋ねました。
「ずっとここにいるつもり?」
「分からないわ」とリンジーが答えました。
「とりあえず調停をしたわ。
 彼とは何週間も話し合った、それで私達は少し時間と距離を置く事も必要だって思ったの。」
「まあ、大西洋を越えちゃえばかなり遠くに離れた事になるわね」とトゥルーは軽く冗談を言いました。
リンジーは微笑してトゥルーに向き、少し元気に見せようとして話題を変えます。
「それであなたはまだここの死体安置所で働いてるの?」と彼女が尋ねました。
「ええ、あたしを追いださないから」とトゥルーが笑いながら言いました。
「いつでもで捕まってるわ。」
「それで本当にいいの?」リンジーは尋ねました。
「ええ、あたしは別に平気よ。」
「他の皆はどうしてる?」 リンジーは不安そうに尋ねました。
「皆、元気よ」とトゥルーはハリソンの事を持ち出すべきかどうか迷いながら答えました。
「ハリソンは、今どうしてるの?」リンジーは床に視線を移しながら尋ねました。
トゥルーはリンジーが一度もハリソンを傷つけようとは思っていない事を知っていました。
しかしハリソンにとっては二人の間にひびが入った事に変わりがありませんでした。
そしてランドル・トンプソンとリンジーの目まぐるしいロマンスと結婚について。
少なくとも今彼女はハリソンは問題なく普通の生活をしていると正直に言うことができました。
「ええ、弟も元気よ」とトゥルーが言いました。
「あの子、バーの仕事を見つけたの。
 実際、長続きしてるし、キャシーともうまくいってるわ。
 前に来た時、彼女に会ったでしょ。」
「ええ、覚えてるわ」とリンジーが言いました。
「まだ彼女と付き合ってるの?
 最後に会ったときから少し成長したみたいね。
 幸せそう?」
「あたしはそう思う」とトゥルーが答えました。
時々弟の恋愛問題を思い出す事が大変でした。
普通の日とやり直して変えてしまった記憶がごっちゃになる事がありました。
実際、父親がデイビス兄弟の中に戻って来たので少し緊張した部分もありました。
そして彼女はこの1週間、弟に会っていませんでした。
しかしハリソンとキャシーはうまくいっていると確信していました。
「ハリソンと別れた事を後悔してるの?」
リンジーは肩をすくめましたが返事はしませんでした。
トゥルーは変な事を言ってしまった事を後悔し話題を変えました。

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リチャードは彼のオフィスにいます。
そして机の向こう側で不機嫌そうな顔で窓の外を見ている息子を見ていました。
リチャードはハリソンから彼女のビジネスチャンスについてちょうど聞き終えたところでした。
そして今彼は息子によきアドバイスをしようと、息子自身に結論を出させようとします。
「お前はそれが彼女にとって良い取引だと?」 リチャードはついに口を開き尋ねました。
ハリソンは静かにうなずきました。
「だがお前は彼女を行かせたくない。」
「そんな事は言ってない」とハリソンは答えます。
「そんな事はないだろう」とリチャードは父親らしく頭を振って言います。
「私はお前たち二人を見ている。
 もちろんお前は彼女が行く事には反対だ。」
「彼女は本当に準備をし始めてる。」
「もちろん彼女ならそうだろう」とリチャードは微笑しながら言いました。
「彼女は頭がよく、意欲的で、いい取引だと言う事を知っている。」
「それで、父さんは彼女がそれをやってもいいと思うのか?」ハリソンは尋ねました。
「私がどう思うかではないだろう?」とリチャードは微笑しながら答えました。
「お前がどう思うかだ」
「分からないんだよ」ハリソンは前屈みになって頭を手で抱え込みます。
彼は朝にキャシーのアパートを出てからずっと頭を悩ませていました。
ハリソンが顔を下に向けているとリチャードの顔は父としての表情ではありませんでした。
静かに軽蔑した眼差しで見ていました。
しかしハリソンが顔をあげるとすぐに元の父親らしい顔に戻ります。
「お前は彼女が行くことを望んでいるのか?」リチャードは尋ねました。
ハリソンは頭を振ったり頷いたりを繰り返します。
「分からないよ」とは彼は立ち上がって窓に歩きながらきつく言います。
そして窓の下の道路を見下ろします。
「お前は彼女にいてほしい反面、彼女のチャンスを取り上げたくはないんだろ」とリチャードは図星をさします。
ハリソンは再びうなずきました。
「お前なら正しい選択ができるだろう」とリチャードは立ち上がってハリソンのいる場所へと歩きます。
「彼女を行かせてあげなさい、さもないと彼女はお前に恨みを持つ事になるぞ。」
「彼女はそんな子じゃない」とハリソンが言いました。
「どんな女性でもそうなんだ」とリチャードは言います。
「もしお前が彼女のチャンスを邪魔すれば、お前に恨みを持ち、そして息苦しくなり始める…」
リチャードの声が次第に小さくなるとハリソンは父親を見上げました。
ハリソンは父親がキャシーの事について話をしているのではく、自分自身と後妻との間の問題だと気づきます。
「本当に彼女を行かせるべきだと思う?」ハリソンは尋ねました。
「それが一番いい方法だと私は思うね」とリチャードは厳粛にうなずいて答えました。
「行かせて、彼女に仕事をさせなさい、そして彼女の成功を祈るんだ。
 そうすればお前が冷静で待っていられれば、いつか彼女は戻って来るだろう。」
ハリソンは父親の感傷的な言葉に眉をひそめました。
しかし彼としても二人の間の関係をそのままにしてキャシーを行かせるのは嫌でした。
正直言って彼は彼女が行ってしまう事を望んではいませんでした。
しかし、もし彼女が行くことになるのなら、多少は尊厳を持って行かせたかったのです。

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ハリソンが部屋を出ていくと、リチャードも後からオフィスを出ました。
リチャードはすでにトゥルーの事をチェックしていました。
そして彼は速く死体安置所に行きました。
トゥルーがリチャードを見つける前に、リチャードはトゥルーの声を聞いて影に隠れて立ち聞きします。
「また後でね。」
「ええ」とリンジーが答えました。
「他にも会いたい人がいるし。
 立ち寄って、ハリソンに挨拶をするわ。」
リチャードはリンジーの声を聞いて更に後に下がります。
彼は彼女が町に戻って来ているとは思いませんでした。
リチャードは笑みを浮かべます。
トゥルーがハリソンとリンジーの問題を解決するために、やり直しの時に色々としていた事をジャックから聞いていました。
そして彼女はハリソンとキャシーのためにも時間を割いていました。
リンジーの口からハリソンの名前が出た時、彼女はまだハリソンに興味を持っているかもしれないと思いました。
彼は彼女がほかの男性と結婚していたことを知っていました。
しかし人間とはそういうものに縛られない者もいる事を知っていました。
リンジーが結婚の誓いを忘れるタイプかどうかは分かりませんが、彼女に吹き込む事によって失うべきものは何もありませんでした。
彼は再びトゥルーがハリソンとリンジーの関係を修復したときの事を思い出して、リスクを冒す価値があると思います。
トゥルーが人の命を救うことに多くの時間を割けばなおよくなるだろうと。
彼は影から出てきます。
「こんにちは、リンジーだったね?」
リンジーは急に声をかけられたので驚きました。
しかし声の主が分かって微笑して安心します。
リチャードは笑顔で建物の外へと彼女を連れ出します。

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その日の午後遅く、それまでリチャードはリンジーがハリソンの働くバーに行くまでの間キャシーと会っていました。
そしてキャシーに申し出を受けるように説得します。
もし彼女がそれほど頑固でなかったら、とっくに終わっていたでしょう。
そして彼女はもう旅立っていた事でしょう。
「素晴らしいチャンスだよ」と彼は書類を確認しながら強調しました。
「私の専門分野ではないが、それでもこれは素晴らしいオファーだ。」
「私も同じように思います」とキャシーが言いました。
「ただ…」
彼女の声が次第に小さくなるとリチャードは顔を上げました。
「ハリソンの事かね?」と彼は同情的な微笑で尋ねました。
「ええ」とキャシーは頷きながら答えます。
「今朝、彼と話したときは、あまり賛成していなかったみたいで。」
「まあ、ハリソンは…」リチャードはためらいました。
「息子の事を悪く言いたくはないが、あの子は少し利己的だからな。」
キャシーは眉をひそめました、しかし彼とは議論はしませんでした。
リチャードはキャシーが息子をどう弁護するのかと、少しの間待ちました。
それと同時に今朝の彼らのケンカがどれぐらいだったのかと思いました。
「あの子は約束を守るようなタイプではない。」とリチャードが続けました。
「分かってます。」とキャシーはもう一度しかめ面をしてつぶやきます。
「彼は私に行けって言いました。」
「それは私も同感だね」とリチャードが言いました。
「もちろん、君がいなくなってしまうのは淋しいものだ、だがこんなチャンスを見逃すのは惜しい。」
「私はいつでもここに戻って来ることができます。」とキャシーが言いました。
「もちろんだ。」リチャードは同意しました。
「そしてハリソンは間違いなく度々君に会いに行くだろう。」
「それはどうでしょうか?」とキャシーはため息をついて言いました。
「もう一度彼と話をします。お別れを言うはめになるかもしれませんが」
「だがいい間柄のまま別れる事もできる」とリチャードが微笑しながら言いました。
「そうなる事を望んでいるよ。」
「ありがとうございます。」とキャシーはコートをつかんで言いました。
「ハリソンの仕事先に行ってきます。この時間ならシフトの最中ですから。」
そして彼女はコートを着てアパートからリチャードと一緒に出ます。
彼がさよならを言うと、彼女は踵を返し道を急ぎました。

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「リンジー?」
ハリソンはバーの向こう側に昔の恋人のである彼女に会って驚きます。
彼女は高いスツールに座り明るい笑顔を向けてくれました。
「いつ戻ってきたんだ?」
「今朝早くよ」そう返事をすると飲み物を注文しました。
「もう姉さんには会ったんだろ?」
ハリソンは彼女がそうしたに違いないことを知っていて尋ねました。
自分がここで働いている事を知らないで偶然バーに来る事はありえませんでした。
このバーは彼らが付き合っている時に来た事はなかったし、リンジーが前に住んでいたアパートの近くでもありません。
彼女がイギリスに行く前にここで働いていた知り合いに会いに来たというわけでもありませんでした。
「今朝ね。」とリンジーは返事をします。
「あなたがここで働いているって聞いたから、ちょっと寄って挨拶でもと思ったの。」
「来てくれてうれしいよ。」とハリソン自身、心から出た言葉に驚きました。
彼は彼女の結婚式から一度も会っていませんでした。
しかも彼女はトゥルーと一緒にいたので直接彼女と話してはいませんでした。
もし二人が別れた直後、どこかで出会って「うれしい」と言ったとしたらそれはウソそのものでしょう。
しかし今、彼女がここに来て顔を見た事に対しての言葉はウソ偽りではありませんでした。
「それで働いてからどれぐらになるの?」リンジーは最新流行のバーの店内を見回しながら尋ねました。
「まだ2週さ」ハリソンは返事しました。
「面白くやってる?」リンジーは尋ねました。
「ああ、面白いよ」
ハリソンが肩をすくめると、バーの端で彼に合図を送っているカップルに振り返りました。
彼はカップルの注文を聞いて飲み物を作っている間、何度かリンジーをちらっと見ました。
彼は自分の働いている姿を彼女に見られている視線が嬉しく思いました。
ハリソンはリンジーに自分が何を失ったのか見せようと思いましたが留まります。
お客に飲み物を出すとリンジーに戻ります。
「おかわりは?」とハリソンはリンジーの残り少なくなったグラスを指して尋ねました。
「それで私がいなくなってから、あなたは今までどうしてたの?」
リンジーはグラスを飲みほして尋ねました。
ハリソンは返事をしながらもう一杯彼女の前に出します。
「たいして変わらないよ。昔と同じさ。
 親父が町に戻ってきて、少しだけ親父と会ってた。
 俺たちを家族旅行に連れてってくれたんだ。」
「お父さんが家族旅行を?」リンジーは驚いて尋ねました。
「ああ、クルージングに行った。俺と、トゥルー姉さんとメレディス姉さんと親父で。」とハリソンは笑顔で答えました。
「いい旅行だったよ。」
「家族だけだったの?」リンジーは何気なく尋ねました。
「他には誰も?」
ハリソンは一瞬眉をひそめました。
トゥルーがリンジーに自分の事を話したのだと悟って彼は耳を赤くします。
「家族だけさ。」と彼は言います。
彼は昔の彼女にキャシーとの事を話したかったのですが。
リンジーが空のグラスを意味ありげに降ると、ハリソンは彼女のためにもう一杯注ごうとします。
彼は彼女にこんな短時間で沢山飲ませるのはどうかと思いました。
彼の仕事の一部としてお客が酒を飲み過ぎるのを見張る事も含まれていました。
しかし彼女にダメだとも言えませんでした。
「で、君はどうなんだ?」と彼はもう1杯注ぐと尋ねました。
「ヨーロッパと結婚生活は?」
「ヨーロッパはいいわよ。」とリンジーは明るい笑顔で答えました。
「結婚生活はあんまりよくないけど。」
「ごめん」とハリソンはそれが本当の事だと気付いて驚きました。
彼は彼女の結婚式の日までは、自分達が幸せな結婚生活をおくるものだと思っていました。
一方、今ではリンジーとランドルがそうなる事を望んでもいました。
さっき聞くまではそう思っていたのですが、リンジーの本音を聞いてしまいました。
彼は彼女と友達のままでいたいと思い、そして彼女の問題に手を貸そうと思いました。
ただそれには彼自身の問題を解決するまでしばらく待たなければならないでしょう。
ハリソンは父親からキャシーに対してのアドバイスを思い出しますが無視する決心をしました。
『親父のアドバイスなんか』と彼は思いました。
それは父親は商取引に関しての専門家ではなかったからです。
最近トゥルーはハリソンと父親を比較していました、それはあまり好意的ではなく。
その時はイライラしましたが、今ではある意味で彼女は手の届く相手だと悟りました。
人間関係の話になると彼は自分自身父親とそっくりだと思いました。
彼としても悪くアドバイスをとってリンジーを失った後、彼は同じようにキャシーも失うことはしないと思います。
彼は自分の考えににっこり笑ってリンジーに振り返ります。
「それでヨーロッパは…?」と彼は尋ねました。
リンジーは笑顔になり、生き生きと大好きなヨーロッパの町を語り始めました。

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「リンジーなの?」トゥルーは電話に出て尋ねました。
その声はリンジーのように思えました。
しかし彼女の声は呂律が回らず明らかに酒を飲んでいる事が分かりました。
「そうよ」とリンジーが答えました。
「私、今、ハリーのバーにいるの。」
「ウソッ」とトゥルーはつぶやきます。
彼女はこの事を後で弟と話す必要があると思いました。
「言っておこうと思って、今晩彼の所に泊まるんだ」とリンジーが言いました。
「私を落とすんだってさ。
 いっぱい話したい事もあるし。」
「リンジー、それはいい考えとは思えない」とトゥルーが言いました。
「ハリソンは今別の人と付き合ってるって言ったでしょ。」
「彼、ずっと彼女の事は何も言わなかった」とリンジーが答えました。
「そしてね、いろんな事を長い、長〜い間、話してたの。
 分からなくなったのよ、ランドルと結婚してるなんて、あんな奴が突然。
 でももうおしまいなの、だからもう一度ハリーとやり直すの。」
「リンジー。」とトゥルーが注意しました。
「どのぐらい飲んだの?」
「うーん、少し」とリンジーはくすくす笑いながら答えました。
「2、3杯ぐらいでしょ?ハリソンが飲ませたのね?」
トゥルーは尋ねましたがリンジーの笑い声にかき消されました。
ハリソンは一体何を考えてるのか?
「おい、リンジー、来いよ。」とハリソンの声が電話口に聞こえてきました。
ハリソンが電話に近づくに従って彼の声はいっそう明瞭になりました。
「さあ、俺んちに行くぞ。」
電話は途切れました、そしてトゥルーは電話を切りました。
「問題かい?」とデイビスは机から尋ねました。
「いつものね」トゥルーは返事しました。

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キャシーは午後遅くにバーに到着しました。
彼女はまっすぐにそこに行くつもりでした、しかしどういうわけか彼女の足は別の方向に向かってしまいました。
彼女は誰にも邪魔されずに考えたいと思い、誰も探しに来ないであろう場所、河岸に行っていました。
彼女はまだ水が嫌いで、溺死しかけた夜を思い出し震えました。
ハリソンが彼女を水から引っぱり出し命を救ってくれました。
彼女はそれが偶然ではなかった事を知っていました。
彼女は後で彼の姉のトゥルーが一日をやり直しをする前に実は死んでいた事を知りました。
彼女はまだ実は死んでいたという事実を考える事が難しいと思いました。
そして彼女はあまりそれについては考えないようにしようとしました。
ハリソンはその日の夜に彼女に泳ぎ方を教えようと言ってくれましたが、時間がなく実現してませんでした。
もしニューオーリンズに行ってしまったら、彼は決して教えてくれなくなるだろうという事と、
ビジネスチャンスを棒に振ってまでハリソンと付き合っていく価値があるのかと迷いました。
彼女はバーに入る事を躊躇って外でうろつきました。
彼女は旅支度をしようと思いましたが、本当にそれでいいのか確信できませんでした。
彼女はハリソンがどんな性格なのか、欠点は何なのかも知っていました。
彼は約束を必ず守るタイプではありませんでした。
もしオファーがなかったら決して二人の関係がこんなに早く問題を抱えるとは思わなかったでしょう。
「しっかりするのよ、私」そう言いながら彼女はバーのドアを押し開いて中に入りました。
ハリソンはバーにはいませんでした。
彼女は一瞬今日は彼が休みなのかと思いました。
彼女が帰ろうかと踵を返した時、公衆電話の近くの方からハリソンの声を聞きました。
「おい、リンジー、来いよ、俺の家に行くぞ。」
キャシーはハリソンを見つけ行こうとしましたが、
彼が公衆電話から引き離そうと昔の恋人をなだめているのを見たとき歩みが止まりました。
彼女はリンジーが町に戻ってきていたことを知りませんでした。
そしてハリソンがいつリンジーが戻って来た事を知ったのかと思いました。
見たところではリンジーは彼がどこで働いているのか知って、午後の間中ずっと一緒にいたのではと思いました。
「昔に戻っらみらい。」とリンジーはハリソンの肩に手を回しながら呂律の回らない言葉を使っていました。
「ああ、昔みたいだな。」とハリソンは彼女がバーに戻ろうとするのを止めながらうなずきます。
キャシーはブツブツと悪態をつきながら、自分自身の愚かさを罵ります。
彼女は彼の全ての欠点を知っていると思っていました。
しかしそれは間違っていました。
キャシーはバーから急いで離れ、新しくニューオーリンズで仕事をしようと決心しました。
ただダイナーに寄って友達にお別れを言い、トゥルーとデイビスに町から離れる事を伝えようと思いました。

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トゥルーは起きた出来事を話し終えて、デイビスにアドバイスをしてもらおうとしました。
「まあ、僕はその筋の専門家じゃないからね、でも僕は彼ら自身に委ねるべきだと思うよ。」と彼は言います。
「二人が付き合ってる時はうまくいってた。」とトゥルーが答えました。
「僕は二人の中がどうして悪くなったのか知らないからね。」とデイビスはしかめ面で言いました。
「あたしは知ってる。」とトゥルーが言いました。
「あたしはあなたが覚えてない日々を覚えてるの。」
「ああ」とデイビスは知っているというようにうなずきました。
「あたしは二人とも大事なの、でも…」トゥルーはためらいました。
「でも、二人はお互いそう思ってはいない?」デイビスは推測しました。
「その通りよ。」とトゥルーが答えました。
「二人が付き合ってるとき、ハリソンが何かやらかす度に、
 あたしはやり直しの時にハリソンがうまくいくようにって時間を割いて仕向けてきた。」
「そして君はもうそんな事はしたくない。」と彼が述べました。
「したくないわけじゃない。
 やり直しの時、ジャックが干渉してくる状態では続けることができないの。
 かなり厳しくなってるわ、ジャックは巧妙になってきてる。
 ジャックを阻止しながらハリソンとリンジーの抱えてる問題を解決してあげられる時間がないのよ。」
「それなら」とデイビスは言葉を遮りました。
「彼ら自身に任せるんだ。
 彼らのために君はやり直しているわけじゃない。」
「分かってる。
 でも自分でも二人を手助けしたいと思う事を止められないの。
 どちらでも傷つくのは見ていらてない、それに助けることができるって分かってて何もせずにはいられない。」
デイビスはうなずいて二杯のにコーヒーを注ぎました。
「それにもう二人いるだろ、考えてあげなきゃいけない者が」と彼はコーヒーを飲みながら言いました。
「ランドルとキャシー」とトゥルーは頷きます。
「ランドルの事についてはあたしはよく知らない、でもキャシーが知ったら確かに傷つくわ。」
「咳払いをした方が良かったかしら。」と入り口で声がしました。
トゥルーは振り返ってキャシーを見ると驚きました。
「いつから聞いてたの?」トゥルーは尋ねました。
「最後のくだり。」とキャシーが答えました。
「でも、もういいの。もう知ってるから。」
「知ってるって?」 トゥルーは驚いて尋ねました。
「ええ、さっきバーに行ったの、そして…」彼女の声は小さくなります。
「ごめんね」とトゥルーは部屋の中にキャシーを迎えながら驚いて言いました。
「もういいわ。」とキャシーは座りながら答えました。
「今晩、町をでるから。」
「えっ?」トゥルーは驚いて尋ねました。
「ニューオーリンズへ行くの」とキャシーはデイビスからコーヒーのマグを受け取って言いました。
「いいビジネスチャンスに巡り合えたの。
 一週間考えて、弁護士に書類を見せて相談したわ。
 それにあなたのお父さんにもね、そしたら皆が一生に一度のチャンスだって。」。
「ハリソンは?」トゥルーは弟がどうこの話を受け止めたのかと思い尋ねました。
「彼もいいって言ってくれたわ。」
「そして?」
「行くべきだって言ってくれた。」
トゥルーは少し眉をひそめました。
弟がそんな事を言うはずがない事はトゥルーが一番よく知っていました。
姉として弟を心から愛していましたが、彼には自己中心的な傾向がありました。
その彼が彼女を新天地に行かせたいと思うはずがありません、それとも違うのか、トゥルーは考えました。
リンジーが街に戻って来た事によってキャシーと別れる気になったのかもしれないと。
「あなたは本当にこの申し出を受けるの?」トゥルーは尋ねました。
「本当に大チャンスだから」キャシーは興奮して繰り返し、トゥルーとデイビスに事細かに説明し始めました。
トゥルーは慎重に聞きました。
そしてそれが確かにとても素晴らしいオファーだと分かりました。
キャシーはその事について明らかに興奮し、そしてきるだけ早く行きたいと思っているように思われました。
「それであなたはそのオファーを受けるの?」トゥルーはキャシーが話し終わると尋ねました。
「そうしなきゃバカを見るわ」とキャシーは肩をすくめて答えました。
「それでいいんなら」とトゥルーは言いました。
「もし町に立ち寄った時には、必ずここに来てね。」
「分かったわ」とキャシーは立ち上がりながら言いました。
「すぐに書類を書きに戻らないと、終わったら戻ってきて知らせるわ。」
キャシーは腕時計を見ました。
「急がないと。飛行機の時間がなくなっちゃう。」
「気をつけてね」とトゥルーは彼女を抱きしめ言いました。
「あなたも」とキャシーは答え、死体安置所を去る前に少し恥ずかしそうにデイビスを抱きしめました。
「彼女がうまくいくといいわね」
キャシーが出て行くとトゥルーがデイビスに言いました。
「ハリソンの事で気が動転しているわりには忙しそうね。」
「そう思うのかい?」デイビスは尋ねました。
「思わないの?」トゥルーは返事しました。
「分からなよ」とデイビスはしかめ面で答えました。
「だが僕がしたアドバイス通り、彼ら自身に任せるべきだと思うよ。」
「そうね」とトゥルーは同意しました。
「死んだ人だけでも十分忙しいから。」
「その話は後だ…」デイビスはその日最初の遺体が運ばれてくるドアに向かって示しました。
「誰を連れてきたの?」トゥルーは遺体を運んできた男に聞きます。
「ダイアン・ミラーだ」と男は振り返って答えました。
「コンビニ強盗に撃たれたんだ。」
「なんてこと。」とトゥルーは遺体についてのメモを読み、そして遺体の女性を見て言いました。
遺体の頭がトゥルーに向いたとき、よく知っている言葉『私を救って』をささやきました。
時間は速度を落とし、一日が巻き戻されるとトゥルーは強くほうり出される感覚を感じました。

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「ハイ、デイビス」とトゥルーは死体安置所の中に急いで入りながら言いました。
「やり直しの日かい?」デイビスは尋ねました。
「最近あいさつはそれしか言わないわね」とトゥルーが答えました。
そしてデイビスに強盗について説明します。
「簡単そうだな」とデイビスが言いました。
「ジャックが邪魔をする事はなさそうだ。」
「そう願いたいわ」とトゥルーが言いました。
「あいつの動きを予想する他に、今日やる事があるのよ。」
「問題でも?」 デイビスは尋ねました。
「リンジーが町に戻ってきて、キャシーが街を出て行って、ハリソンは…」
トゥルーの声は次第に弱まりました、そして目をきょろきょろさせました。
「忙しい一日だったようだな。」
「それはこれから始まるの」とトゥルーが言うと電話が鳴りました。
「リンジーか?」彼女が受話器に手を伸ばしたときデイビスは尋ねました。
トゥルーは頷いて電話に出ました。
10分後、彼女は前日と同じようにリンジーと死体安置所で会う手筈をしました。
「次はハリソンね」とトゥルーは受話器を上げて彼の番号をダイアルしながら言いました。
彼は最初の呼び出し音で出ました。
「大丈夫、ハリー?」トゥルーは彼の声の調子から判断できましたがあえて尋ねました。
「ああ、平気さ」と彼は皮肉ぽく答えました。
「俺がビジネスチャンスのために捨てられたのに、平気なはずないだろ。」
「大丈夫よ、ハリー。」トゥルーは慰めます。
「今日はうまくいくから。」
「ああ、そりゃいい、でもどうしてもっと早く電話をしてくれなかったんだ?」
「ごめんね。」とトゥルーは謝りました。
「まだ大丈夫だと思ったのよ。
 昨日キャシーと町を出て行く事について話したんだけど、いつあんたと話したのか聞かなかったから。
 それを知ってれば、警告したわ。」
「いつ行く事になったんだ?」ハリソンは尋ねました。
「今晩」とトゥルーが確認しました。
「くそっ」とハリソンが答えました。
「親父に話をして何かアドバイスをもらおうと思ったけど、
 もう知ってるんなら、彼女を行かせた方がいいのか?
 そうなんだろ?」
「その通りよ」とトゥルーは一瞬ためらってから答えました。
「心配しないで、ハリー、うまくいくから。」
「そう願うよ」彼はぶつぶつ言いました。
「もう一つ言い忘れた」とトゥルーが言いました。
「リンジーが戻ってきてるの、そして後であんたに会いに行くわ。
 彼女はランドルとうまくいってないようなの、だから彼女に優しくして。」
ハリソンは何も言いませんでした。
トゥルーはリンジーの帰りについて話した事は失敗だったと思いました。
「後で話すわ、ハリー」と彼女は促しました。
「わかった。」と彼は言って電話を切りました。

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「何ですって?」リンジーは驚いて尋ねました。
「私とハリソンが?よりを戻すって?」
トゥルーは一瞬、前日と違うのかと疑いました。
いえ、そうではありません。
リンジーは確かにハリソンとよりを戻し、そしてハリソンからも同じ事を聞いていたことから間違いはありません。
そしてキャシーの事も、それはただ時間の経過に過ぎませんでした。
ただリンジーがこの話をジョークとして受け止めてほしくはないと思いました。
「いつから私達がよりを戻すなんて思ってたの?」リンジーは笑いながら涙をぬぐって言いました。
「初めからうまくいかなかったじゃない。」
「ハリソンは最近すごく変わったのよ。」とトゥルーは言いました。
「バーで仕事をしてるし、責任を持った行動をしてるわ、自分の力で賭けごともしてない。」
「本当に?」リンジーは質問しました。
「ほとんどね」とトゥルーは最近のハリソンの行動を思い起こし誇張しすぎた事を訂正しました。
「あの子に会うまで決断しないで、どれだけ変わったか分かるから。」
「あなたは私によりを戻せって言いたいの?」とリンジーが尋ねました。
「ランドルと私が別居してるからって、昔の彼氏とよりを戻したいというのとは別よ。」
トゥルーはどうやって友人の質問に答えるべきか迷い間を置きました。
二人は親友でしたがトゥルーはやり直しの力の事は一切打ち明けたことがありませんでした。
そしてリンジーが信じてくれるとは思えませんでした。
トゥルーはその事を頭からはずします。
ハリソンですら変な目で彼女を見たのに、もしそんな事をどんなヒステリーを起こすのか目に見えていました。
「あの子に会いに行かないの?」とトゥルーは促します。
「だた会いに行くだけもいいじゃない」
「そんなに会わせたいの?」リンジーは不思議そうに尋ねました。
「あの子は変わったから」とトゥルーは繰り返しました。
口には出しませんでしたがリンジーならキャシーがいなくなってしまう事に悩んでいるハリソンを慰められると思いました。
キャシーが行ってしまう事についてハリソンはそれほど不快な態度は示しませんでしたが、
彼女が行ってしまった途端にハリソンは彼女の損失を感じるだろうと思いました。
とにかくキャシーがいなくなってしまうので、リンジーにハリソンをもう1度のチャンスを与えてくれるように願いました。
彼女はリンジーにハリソンがキャシーと別れて、キャシーがまもなく町を去っていくのを告げようかと迷いました。
トゥルーはもう一度自分の考えが正しいのかと考え直します。
前の日のキャシーとの話を思い出し彼女はわずかな不安を感じました。
そしてデイビスが前の日の出来事を覚えていて欲しいと願ったのは初めてではありませんでした。
彼女は本当に正しい事をしているのかどうか心配していました。
そして彼女はただ先へ進むことしか頭にありませんでした。
「本当に私達が戻れると思ってるの?」リンジーは穏やかな顔で尋ねました。
「もちろんよ」とトゥルーは答えました。
「あの子に会ったらどれぐらい変わったか分かるだろうし、好印象を持つわ。
 まだ分からないかもしれないけどね。」
リンジーは微笑しました。
「時々彼がいなくて淋しい思いをしてたの」と彼女は認めました。
「仕事場の方がいいかも、もし今から会いに行くんなら」とトゥルーが提案しました。
「そうしてみるわ」リンジーは同意して立ちあがります。
「ありがとう、トゥルー」
「あたしははただ親友と大事な弟が幸せなのを望んでるだけ」
トゥルーは死体安置所からリンジーを送り出しながら言います。
リンジーが行ってしまうとトゥルーはデイビスが非難するような目で見ている中へ戻ります。
「何よ?」と彼女は良心の呵責を抱き尋ねました。
「ハリソンがどれだけキャシーの事を考えてるか分かってるだろう?」とデイビスはしかめ面で言いました。
「君がしている事は本当に正しいのかい?」
「キャシーは今、大きなビジネスチャンスを持ってるの。
 そのためニューオーリンズに引っ越しするし」
「何も考えずにハリソンを置いて行くと思うのかい?」デイビスは質問しました。
「昨日はそうしたのよ」とトゥルーが指摘しました。
「彼女は本当に興奮していたわ。
 それにハリソンとリンジーがよりを戻した事も知ってた」
「少し唐突過ぎないか?」デイビスは尋ねました。
「多分ね」とトゥルーは同意しました。
「でもリンジーもよりを戻したって言ってたわ」。
「彼女かい?」デイビスは尋ねました。
「さっきの会話ではそうは聞こえなかったけど」
「まあ、彼女から直接聞いたわけじゃないけど、
 彼女はバーから電話してきたとき一緒にいたし、
 キャシーもバーで二人が会っていたって言ってたわ」
「だから手助けしてやろうと?」
「そうしちゃいけないの?」トゥルーは尋ねました。
デイビスの言葉は彼女にとって非難に聞こえ、
もし彼女がミスを犯していたらという言葉に聞こえてきました。
「僕は彼ら自分達の人生を委ねるべきだと思うけどね」とデイビスが言いました。
「昨日も同じ事を言ったわ」とトゥルーが言いました。
「聞いてはくれなかったようだね」デイビスは返事しました。
「君は本当に正しい事をしていると確信を持ってるかい?」
「あたしにも自信はないのよ」とトゥルーは認めました。
「でもまずは犠牲者を助ける事が先決、次にハリソンの事を心配するわ」
「分かった」とデイビスは頷きます。
「犠牲者については?」
トゥルーはテキパキと犠牲者の細部を伝え、心から弟の事を後回しにします。
それは遅くまで待つ事になるでしょう。
少なくとも強盗に撃たれた犠牲者を確認するまでは。

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ハリソンが仕事をしているとリンジーがドアを通って入ってきたのを見ます。
彼女は機嫌よさそうにバーに向かって歩いてくると彼は明るく微笑みました。
何の連絡もなしに彼女が突然現れたなら彼もかなり驚いたことでしょうが、
トゥルーから彼女が町に戻っている事を聞いていたのでありがたく思いました。
特に昔の彼女が突然現れたとなれば彼はどうしていいか分からなかったでしょう。
「やあ、リンジー」ハリソンは彼女を歓迎しました。
「姉さんから町に戻っているって聞いたよ」
「私がここに来るのを聞いたの?」
ハリソンが彼女のために飲み物を注ぐとリンジーは尋ねました。
彼は彼女の好きだった飲み物はなんだったかと仕事の間中考えていて、
彼女がここに着く少し前に思い出しました。
彼女に飲み物を出すと彼女は少し眉をひそめました。
彼女がいつもは氷を入れているのを思い出しました。
すぐに思い出すべきだと思いましたが直ぐに氷を入れました。
「ああ、姉さんから電話をもらったから」とハリソンは飲み物を出しなおしながら言います。
「それでどうなんだい?」
「まあまあね」とリンジーはトゥルーが教えてくれたにも関わらず緊張して答えました。
「それでヨーロッパは?」ハリソンは尋ねました。
彼は、はっきりと彼女を最後に訪ねた事を覚えていました。
そして彼女がどのぐらい夫と一緒にヨーロッパへ旅立つ事を楽しみにしているのかを。
「いいわよ」リンジーは再び返事しますがためらいました。
彼女はもう別れた友人の弟の前だというのにあまり変な気持ちにはなりませんでした。
「あなたはどうなの?」
「見ての通り就職をしたよ」彼は肩をすくめました。
「彼女は?」リンジーは尋ねました。
トゥルーは今朝その事を言いませんでした。
しかしバカな目を見る前に確かめるようと思いました。
ハリソンはためらいました。
「ああ」とリンジーが理解で言いました。
「ケンカでもしたの?」
「今朝、大ゲンカしちまって」
ハリソンはキャシーのニューオーリンズへの引っ越しを説明しました。
彼自身は簡単に彼女に打ち明けた事に驚いています。
「彼女が行ってしまうのを望んでないんでしょ?」リンジーは尋ねました。
ハリソンは返事しようとはしませんでした。
「多分そんな事、思いもしなかったんでしょうね」とリンジーが言います。
「でも彼女との話し合いを考えた?」
「縛り付けたくはないから」とハリソンはぼそぼそ言いました。
「姉さんは俺がそう思ってると思ってる。 でも本当はそうじゃない」
「ハリソン」とリンジーが声をかけます。
「それこそ利己的で、愚かだわ。
 本当にあなたは『君が必要だ』って言ったの?」
「姉さんは彼女を行かせるべきだって」とハリソンが答えます。
「トゥルーは余計な事を言うのね」リンジーは憤慨しました。
「それはどういう意味だい?」ハリソンは尋ねました。
「あなたのお姉さんはいつも私に気を使ってるの。
 私の事を思って…」リンジーはグラスを見下ろしました。
「何をだい?」 ハリソンは再び尋ねました。
「何か言ったのか?」
「彼女が私たちが元の鞘に納めたいのよ」とリンジーはギゴコチなく笑います。
「何だって?」ハリソンは耳を疑いました。
それから今朝の電話の事を思い出します。
「彼女はキューピッドになるつもりなのよ」とリンジーは肩すくめて言いました。
「時間の無駄だって言ったんだけどね」
「くそっ」とハリソンはバーの後ろからジャケットを掴みます。
「おい、デイビーズ、お前の勤務時間はまだ終わりじゃないぞ」とバーの端からオーナーが叫びました。
「緊急事態なんだ」とハリソンが叫び返しました。
「仕事が終わってからにしろ、さもなきゃもう帰ってくるな」
ハリソンは一瞬ためらいましたがジャケットを掴んでリンジーを連れて表に出ます。
彼女は彼に何があったのか尋ねます。
しかし彼はどうやって姉の一日をやり直す力のことを説明すべきか分からずあいまいにぼかします。
リンジーに話すことはできないかもしれませんが、
姉には何がどうなっているのか聞く事はできるでしょう。

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ジャックはやり直しの起きる前リチャードと話しをして、ハリソンが心配してる事をを知っていました。
直ぐにジャックはリチャードのところへ行き来るはずのハリソンが来なかったという事態が変わった事を聞きました。
ジャックはハリソンにちょっかいを出し元に戻す事に決めます。
リチャードは一家の問題に口を出されるのは事のほか嫌がっていましたが、
今日の強盗が起きるまでの時間つぶしにはもってこいだと思ったのでしょう。
「キャシーだね?」ジャックは彼女のアパートの近くの道端から川を見渡している黒髪の若い女性に近づき尋ねました。
「あなたは何なの?」キャシーはしかめ面で尋ねました。
彼女は一度だけジャックに会ったことがあります。
しかしハリソンとトゥルーからジャックには用心しろと聞かされていました。
「おいおい」とジャックは微笑しながら言いました。
「そんなに警戒する事はない。話し相手が欲しそうだったからね。」
「そうよ、だからそうするわ」とキャシーは立ち上がります。
「その相手を探しに」
彼女はそう言うと道路へと歩いて行きました。
「痛いな」とジャックがあざけるように彼女の後を追いながら言います。
ジャックが子犬のように後を追ってくるのに気づいて彼女は振り返って睨み付けます。
「で、ハリソンは何時に仕事が終わるんだ?」ジャックは何気なくで尋ねます。
「まだ働いてるんだろ? こんなに長く続くとわね?」
キャシーは無視して道路を渡ります。
「あいつのいるバーに行かないなら反対方向だろ?」
挑発に乗らないと分かっていてもジャックは続けます。
彼女は腕時計を確認しながら歩き続け、ジャックを巻けないかと思いました。
「あいつがタダで飲み物でも出してくれないかな、友達としてさ?」ジャックは再び試みます。
「うまくいけばさ」
キャシーは心の中でため息をついて、ハリソンのバーが視界に入って来るのを見たとき安堵感を覚えました。
残念なことにその安堵感は僅かの間だけで、バーの入口からハリソンとリンジーが出てくる見てしまいます。
そして自分とは反対方向に歩いて行くのを見て立ち止まります。
彼女はリンジーがいつ町に戻って来たのかと思いました。
そしてもっと腹が立つのはハリソンがいつから彼女が戻って来ていた事を知ったのか、
そしてなぜ自分に話してはくれなかったのかと思いました。
「残念だったな、見ちまったか」とジャックはキャシーの肩を軽くたたき慰めるように言いました。
彼女は彼が触った事に尻ごみしました、しかし彼の言葉には返答しませんでした。
「君に川の傍で会った時、俺はちょうどバーの方から来たんだ。
 俺としてはこれを見せたくなかったんだが…」
ジャックが話を続けているあいだキャシーはハリソンとリンジーを見つめて立っていました。
どういう理由かは分かりませんが、ハリソンはリンジーを車に乗せて走り去っていきます。
「…あいつは君と一緒に行くようなタイプじゃない」
ジャックは彼女が聞いているのかどうか関係なく話しています。
「あいつは約束できるようなタイプじゃないんだ」
「ええ、知ってるわ」とキャシーは答えます。
「言いたい事はそれだけ?」
彼女は堪忍袋の尾が切れたように振り返ってジャックを睨み付けるます。
「俺に当たるなよ」とジャックはなだめようと手を上げて言いました。
「俺はここに君を連れてくるつもりはなかった。
 川のところで引きとめただろ?」
キャシーは眉をひそめました。
声に出して何も言いませんでしたがジャックに軍配が上がったことを認めなければなりませんでした。
「結果的にはかえって良かった」とジャックが言います。
「二人とも新しくやり直してみたらどうだい?」
「新しく?」キャシーは繰り返しました。
彼女はハリソンとトゥルーがジャックに対して問題を抱えている事は知っていました。
しかし彼は直接彼女に一度も何もしたことはありませんでした。
その点から見て彼女は彼の言い分も正しいと思いました。
もしそれを受け入れたなら、これからの時間とエネルギーを全て就職へのチャンスにする事ができます。
そしてそのように動けばハリソン・デイビーズのことを忘れる事ができると思います。
ハリソンが自分がまだ町を去っていないにもかかわらず自分のことを忘れてくれた事に、
それは結果的にはかえって良かったと思いました。
「今がいい機会だ」ジャックはつつきました。
「デイビーズ姉弟は君がいなくなっている事さえ知らないだろう」
「トゥルーにはお別れを言いたいわ」キャシーはためらいました。
「それほど親しいとは知らなかったな」とジャックが尋ねました。
「それほどでもないけど、彼女は今まで良い友達だったから」
「トゥルーには沢山の友達がいる」とジャックは静かにハリソンとリンジーがいる車の方に頷きながら言いました。
「何も言わずにいなくなった方がよさそうね」とキャシーは頷きました。
「これ以上問題を大きくしたくないし」
「その方がいいさ」とジャックは再びキャシーの肩を軽く叩きます。
今回、彼女はたじろぎも振り向きもしません。
ジャックが強盗の起きる現場に向かって歩き去った事にも彼女はまったく気付きませんでした。

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「姉さん!」ハリソンは死体安置所に飛び込みながら叫びました。
デイビスはコンピュータの前に座っていましたが、出入口にいるハリソンを見るとすぐにイスから立ち上がって部屋から出て行きます。
「ハリソン、何の用?」トゥルーはイスから立ち上がって聞きます。
「何の用だって?」とハリソンは皮肉たっぷりに聞き返します。
「俺にまた干渉した事についての小さな問題さ」
「ハリソン、全てがうまくいくから…」トゥルーは話し出します。
「全てうまくいかないよ、俺には」とハリソンはきつく言います。
「リンジーに俺のところへ来させただろう!?」
「あんたのところに行ってみればって言っただけよ」とトゥルーは前々から感じていた罪悪感が芽生えました。
「そして俺が彼女に似合いだって言ったよな」とハリソンが言います。
「姉さんは俺達が何も分からないとでも思ってるのか?」
「昨日、あんたはリンジーと寄りが戻って嬉しがってた」とトゥルーは答えます。
「そりゃ本当なのか?」ハリソンは尋ねました。
「俺は今日すっとキャシーの事を考えてた。だから昨日の俺も恐らく同じだと思う。
 なのにどうして突然、元カノと寄りを戻すって思うことになるんだよ!」
「リンジーが言ったわけじゃないけど」とトゥルーはリンジーの言葉を聞いたわけではない事を言います。
「とにかくリンジーはどこ?」
「姉さんの家に連れて行った」とハリソンは答えます。
「それより姉さんはどうしてそんなに確信的にそんな事がいえるんだ?」
「昨日…」
「昨日の事は知りたくない!」とハリソンは叫びます。
「俺は昨日を知らないし、何が起きたのか気にしてない。
 それより姉さんが俺の生活にちょっかい出すのを止めてくれ!」
「あたしはあんたの生活にちょっかいなんか出してない」とトゥルーが反論します。
「いいや、してるね!」ハリソンは建物のどこかに行ってしまったデイビスが聞こえるかと思うほどの大声で叫びだします。
「秘密主義に徹するのもいい加減にしろよ。
 俺が競馬の勝ち馬を聞いてるわけじゃないんだぜ。
 俺の生活の話になると姉さんは自分に都合のいいように干渉して来るんだ!」。
「そうじゃない」とトゥルーはハリソンの叫び声に負けじとばかり声を張り上げます。
「俺が誰と付き合おうと姉さんが決める事じゃないだろ?」
トゥルーの言葉を無視してハリソンは続けます。
「俺が決めることができないとでも思ってるのか?」
ハリソンが怒鳴りたてるのをやめ長い沈黙の後トゥルーは口を開きます。、
「あたしが悪かったわ」
「やっと認めたな」とハリソンはきつく言います。
「それならどうすれば元に戻せるのか教えてくれよ」
「あたしの意見を聞きたいの?」トゥルーは皮肉っぽく尋ねました。
「くそっ、トゥルー」とハリソンは死体安置所に入ってから初めて静かな声で言いました。
「姉さんはキャシーが行ってしまうって言った。
 だから俺は姉さんが引き起こした問題を元に戻すにはどうしたらいいのかって聞いてるんだ」
「その件に関しては、あたしには責任はないわ」とトゥルーは昨日キャシーが言っていか言葉を思い起こして答えました。
トゥルーは腕時計を見て時間を確認します。
昨日のこの時間には既にキャシーは死体安置所にいて、別れを告げに来ていましたが、
今回はそれがないのを知って事態は変わったのだと思いました。
「責任云々は後で話せばいい」ハリソンは言いました。
「キャシーがどこにいるのか教えてくれ」
「彼女のアパートとかあんたのとことか行ってみた?」
トゥルーは当たり前だとは思いましたがハリソンが忘れているかもしれないと思って尋ねました。
それとも怒りに我を忘れ死体安置所に急いで来たのかもしれません。
「俺のアパートには鍵が掛かってるし彼女はキーを持ってない。
 ここに来る途中彼女のアパートにも寄ってみたけどもういなかった。
 姉さんに言われるまでもなく携帯にもかけてみたけど出なかった」
「今晩発つ飛行機の前に書類にサインするため彼女は戻って来たわ」とトゥルーが思い出しました。
「すぐには引越しできないけど、ニューオーリンズで契約書にサインした後、
 準備のために戻って来るって言ってたわ」
「そりゃいい情報だ」とハリソンがきつく言いました。
「間に合わなきゃ彼女が戻って来るのを待つだけだ」
「彼女は今晩の飛行機で発つのよ」とトゥルーは繰り返しました。
「空港か」とハリソンはきびすを返し姉を振り返らずに部屋から走り去っていきます。
「ありがと、トゥルー」と彼女が独り言をつぶやいていると、
デイビスがドアを開けて入ってきます。
「今回は本当にヘマをしたわね?」
トゥルーは机に深く座って尋ねました。
「全ての問題を解決したら、彼は落ち着くよ」とデイビスは彼女に言います。
「もっと重要な事があるだろ?
 強盗が起きる前に店に到着しないとな」
トゥルーは死体安置所から強盗が起きようとしていた店に向かってうなずいて、
もう一度ハリソンの問題を心の奥へとしまいこみました。
彼女はまた自分の家族の問題を優先させ、助けを求めて来た人を救うことを後回しにした事に罪悪感を感じました。
彼女は間に合う事を祈ります。

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ハリソンは人でごった返している空港を見回してどの方向かと探します。
ターミナルで聞いた時には、ニューオーリンズへの次のフライトまでにはまだ大分時間があるといいましたが、チャンスを失う事は望みませんでした。
そしてキャシーがすでに到着していたかどうかも分かりません。

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トゥルーはコンビニに入って物色していると食料品のコーナーでダイアン・ミラーを見つけました。
トゥルーはダイアンを見つめ彼女の事を思い出しながら注意深く行動することにします。

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「ありませんね」とターミナルのデスクにいる女性がハリソンの質問に応えます。
「そのフライトのチェックインは1時間後ですから」
「それじゃ、乗客はまだここにはいないんだね?」ハリソンはホッとします。
「おそらく数名はこの辺りで待っていらっしゃるのでは?」と女性が答えました。
「早く着いても誰もまだチェックインしてませんね」
「人を探してるんです」とハリソンが言いました。
「背の高さはこれぐらいで」彼は手で背の高さを示します。
「長い黒髪で…」
女性が頭を振ると彼は言葉を止めます。
「申し訳ありません、ここには大勢の方が通りますので、一人一人は覚えてはおりません」
ハリソンは女性からきびすを返します。
そして財布に彼女の写真でも入れておけばよかったと思いました。
ハリソンが振り返った時には女性は別の客を接客していたので、
彼はその場を離れ近くに座わりました。

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「誰かを探してるのか?」ジャックはトゥルーにそっと近づき彼女の耳元で囁きます。
彼女は驚いて振り返るとジャックはニヤニヤと笑っていました。
「他に行くところはないの?」トゥルーはシッとしかりました。
「今頃顔を見せるなんて、あんたにしては遅かったみたいね?」
「君はもうミラーさんの事は忘れていると思ったよ」とジャックは答えました。
「他の問題で忙しすぎて。 強盗が誰なのかもう知っているのか?」
トゥルーは眉をひそめもう一度店内を見回しました。
彼女はジャックの顔つきで犯人が誰なのか見分ける術を見つけていました。
「彼なんかどうだい?」
ジャックはうす汚いジーンズとトレーニングシューズ、目深に被った帽子の若い十代の少年に顎をしゃくって言いました。
「彼が怪しく見えるがな」
「あんたがそう言うんなら、他の誰かね」トゥルーは反対方向を見て言います。
「レジの金をよこせ」と少年の声がカウンターの方から聞こえてきました。
彼女はジャックの言った少年をチラッと見てからジャックに振り返ります。
「俺の言葉を信じてくれないなんて傷つくな」とジャックは囁きました。
「だから信用してない、嘘をついている、だから…予想できないんだ」
トゥルーはジャックを睨み付けてから、カウンターに注意を払いミラーが立っている場所へと移動します。
「動くな、トゥルー、気がつれるぞ」とジャックは強盗に聞こえるようにわざと大きな声で言います。

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ハリソンは来てからずっと通行人を見続け立ち上がっては座りを繰り返し落ち着きませんでした。
彼はもう一度彼女の携帯電話に電話しましたが電源が切られていて通じません。
さっきかけた時にメッセージを入れておきましたが電話はまだ掛かってきていません。
そして壁の時計と腕時計を見比べ、待合場へ行ったり来たりを繰り返していました。
そう行った状態だったので彼はキャシーが空港に到着した時には待ったく別の方向を見ていました。

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「動くな!」と少年の強盗はトゥルーとミラーの方に銃を向けて大声で怒鳴ります。
トゥルーは立ち止まって少年に武装していないのを見せるように手を上げました。
少年は銃を振り回し用心深くレジ係りに戻って金を出すように促します。
トゥルーはミラーに近づく必要はないと思いました。
今のままならミラーは強盗に襲われる事はないと思えますし、
トゥルーがまた何か行動を起こせばジャックが邪魔に入る事は確実です。
トゥルーはミラーの方を見て注意を引こうとしました。
トゥルーはミラーに床に伏せて飛んで来るはずの銃弾を受けないように目で合図すると
ミラーは何事かと思いトゥルーを見ました。
残念なことに彼女はトゥルーからのメッセージを受けとりはしましたが、
同じくジャックからも別のメッセージを受け取ったようです。
トゥルーは彼女の目が自分の後ろにいたジャックをチラッと見たのに気づきました。
ミラーはジャックの『そのまま立っていた方がいい』という無言のメッセージを受けとりその場を動きません。

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「ハリソン?」キャシーはハリソンが出発ボードを見上げている彼に近づき尋ねました。
「キャシー?」ハリソンは驚いて返事をしました。
ハリソンはキャシーを見つけるために来たにもかかわらず、
目の前を通らず背後から声をかけてきた彼女に驚きました。
「見送りに来てくれたの?」キャシーは僅かに微笑んで尋ねました。
「ごめんね、今朝ケンカして」
「俺の方こそ」とハリソンは乗客達の群衆の彼女を引っ張って答えました。
「あんな風に飛び出すべきじゃなかった」
「それはいいのよ」とキャシーは言います。
「急にあんな事あなたに持ちかけたから。
 でも来てくれてうれしいわ。
 お別れも言わないで行きたくはなかったから」
「まだ行ってないじゃないか」とハリソンは時間稼ぎをしながら言います。
「あなたとリンジーの邪魔をしたくないから」とキャシーはハリソンから目を逸らします。
「リンジーだって?」ハリソンは繰り返しました。
「関係ないだろ、俺とリンジーはもう関係ないんだから?」
「あなた達が一緒にいるところを見たの」キャシーは少し非難がましく言います。
「それは姉さんが早とちりしたからだ」とハリソンはしかめっ面で答えました。
「俺とリンジーは縒りなんか戻しちゃいない、お互いにそんなのは望んでないんだ」
「本当に?」キャシーはまだ少し自信なさそうに尋ねました。
「ジャックが言ってたわ…」
「ジャック?」ハリソンは間をあけます。
「あのバカがいつから本当の事を話すと思ってるんだ?」
「うーん…」
「君が言いたい言葉は『絶対にない』だ」とハリソンは目を上に上げ言います。
「これから君のアパートに戻って落ち着いて話し合いができないかな?」。
「でも飛行機が…」
「…待てるだろ?
 もし彼らが君と本当に仕事がしたいんなら二、三日ぐらい」
「そうね」
「それじゃ、行こうか?」
ハリソンはキャシーにキスをして腕を彼女の肩に置いて空港から出て行こうとします。
ハリソンはチラッとデスクにいた女性が振り向きウインクをすると、女性はニコッと微笑みます。

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トゥルーは強盗に気づかれずにミラーに床に伏せるように何度も説得しますが、
ジャックの説得力の方が勝った上、ミラー自身も強盗を刺激しないようにしたいと思うのは自然でした。
残念な事にトゥルーのメッセージはミラーには届かず、トゥルーはそこままだともうじきミラーが死んでしまうとあせります。
レジ係りは金を袋に入れ終え強盗に渡すと、強盗はジャケットに袋を押し込み、
銃をカウンターにむけたままドアへとじりじり向かい始めます。
トゥルーが出入口を見ると警官がまっすぐに店に向かって来るのを見ました。
パトカーは道路の反対側に停められ、警官の拳銃はまだホルスターに納められたままです。
警官はただこの店に買い物に来ただけのようでした。
しかし強盗はトゥルーほど観察力が鋭くなく、近づいてくる警官を見て彼はドアから離れ店内の奥へと走って行きます。
トゥルーは強盗が店内を見回しているのを見て人質を探しているのに気づきます。
彼女は強盗とミラーの間に進み出ました。
強盗は警官が店内に入る直前にトゥルーを引き寄せ拳銃を彼女の喉に突きつけます。
彼女はのどに冷たい金属の感触を感じました。
彼女はジャックが用心深く自分を見ているのを知って、
そんな動きを予想していなかったことを悟りました。
トゥルーはジャックが自分をミラーの代わりに殺すか、それとも運命のまま阻止するのかと思います。
ジャックは以前、運命はやり直す前の日と同じようにしなければならず死ぬ運命でない者は生きるべきだと言っていました。
しかしジャックのその哲学もルークを殺す事は阻止しませんでした。
それならば彼は彼女の死を阻止するでしょうか?
「銃を下ろせ」と警官は手を伸ばし銃や警棒から手を離し穏やかに言いました。
「出て行け」と強盗の少年は迷った声で言いました。
少年はトゥルーを引っ張って更に店の奥へと下がります。
「こんな事は望んでないでしょ?」とトゥルーは静かな声で言いました。
「あたしや他の人を殺す事なんて。そうよね?」
「黙ってろ」と青年は後ろに下がりながら言います。
「銃を下ろすんだ」とジャックが言って話を遮ります。
トゥルーが振り向くとジャックは銃を持って強盗に向けていました。
「撃ってみろよ、この女も撃ってやる」と強盗は銃をグイッとトゥルーの首に押しつけます。
「そいつは危険だな、俺は準備ができてるんだが」とジャックが言いました。
『ジャックならやる』とトゥルーは思います。
彼女は穏やかに真っ直ぐに彼女に銃を向けているジャックを睨み付けます。
警官はジャックの前に立とうと進み出ました。
「君も銃を下ろしなさい」と警官はジャックに言います。
「ここは専門家に任せて」
トゥルーはジャックの顔つきが変わるのを見ました。
それは常に彼がウソをつく時の顔になっていました。
「奴は彼女を殺す」とジャックは癇癪を起こしたようなウソのすすり泣きで言いました。
「俺が何もせずに彼女を殺させるわけにはいかない」
「銃を下して」と警官は繰り返しました。
「君自身の手で裁いたところで、それはいい行いとはいえない」
トゥルーはジャックの手が震えながら銃を下げ始めたのを見ました。
ジャックは突然「ダメだ!」と大声で言うと一瞬ニヤッとして発砲音が店内に響きわたりました。

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「私のアパートに行くんじゃなかったの?」。
キャシーはハリソンが死体安置所の近くに車を停めたので尋ねました。
「姉さんと少し話があるんだ」とハリソンが答えました。
「すぐに済むから」
「彼女は善意でやった事なのよ」とキャシーは車から降りながら言います。
彼女が今までハリソンが仲のいい姉に何か文句を言うのは聞いた事がなく、
彼の態度が心配でした。
「俺はただ姉さんにこれ以上、干渉しないでくれって言うだけだよ」とハリソンが言いました。
「こんなに俺の事に干渉するのはこれが最初じゃないんだ。
 でも、もうちょっかいは出させない」
「少し落ち着いて、明日にしたらどう?」
「大丈夫さ」とハリソンはきつく言いました。
「今日でこの話は終わりにしたいんだ。
 もし姉さんがまたやり直しをしちまったら、俺達はこの話を忘れちまうだろ」
「彼女はもうこんな事しないわよ」
「姉さんはいつでも俺が知りたくない事でも俺に話す癖があるんだ。
 今日の元彼女の事で、君だって悩んだだろ?」
ハリソンは死体安置所のドアを押し開けた時、キャシーは唇をかみました。
「それはイエスと受けとるよ」とハリソンが続けました。
「だから今日この事を姉さんと話すんだ」

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トゥルーは強盗がジャックの拳銃に気を取られている隙に強盗にタックルし、
床に倒すと銃を掴んでいる腕を捻り上げ拳銃を払いのけます。
外にいたもう一人の警官が店内に走りこんできて、彼女が組み伏せた強盗に手錠をかけます。
トゥルーがジャックの方を見ると最初に入ってきていた警官がジャックに手錠を掛けていました。
彼は銃を手放していました。
トゥルーはそれを見て顔に笑みが浮かぶのを止めることができませんでした。
「そんなに心配しなくてもいいぞ、トゥルー」とジャックは警官に店から連れて行かれながら言います。
「俺には凄腕の弁護士が付いてるんだ」
トゥルーはジャックを無視して床にへたり込んでいるミラーの方を見ます。
トゥルーは彼女に急ぎます。
ジャックの撃った銃弾は彼女には当たらず彼女の上の壁にめり込んでいました。
ジャックはミラーがまだ人質にされたトゥルーの後ろにいると思っていたのでしょうが、
彼女は床に伏せていたようです。
ジャックは警官に演技をしていたため犠牲者が動いた事に気づくができなかったようで、
トゥルーはほっとため息をつきました。
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リチャードとジャックは警察署を出て行きます。
リチャードはジャックをにらみつけました。
「お前のためにこんな事をするのはこれで最後だぞ」とリチャードは文句を言います。
ジャックはにっこり笑いながら夜の空気を吸い込み警察署から出て行きます。
「成功しなかった」とジャックは言いました。
「トゥルーが人質になったおかげで、俺は正しい犠牲者を死なせるために俺自身の手を汚す羽目になっちまった」
「お前が無能だからだ」リチャードは返事しました。
「犠牲者は生きていて元気だ。
 間違いなく彼女は家族のために今晩の夕食を作っているだろう。
 それに比べて私はお前の告訴を取り下げるのに大変な思いをしたんだぞ」
「ああ、それはどうも」とジャックが言います。
「いい仕事でした」
「私には多くのコネがあるが、率直に言ってそれを使うのは好きではないんだ。
 彼ら自身が捕まってしまっても困るんでな」
「もうそんな事はないさ」とジャックは言います。
「そうして欲しいね」とリチャードは言いながら車に乗って運転手に出発するように指示します。
ジャックは車が見えなくなるまで歩道に立っていました。
『もう一度別の機会に』と彼は次のゲームは勝つと誓います。

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「トゥルー」
彼女が死体安置所の廊下を歩いていくとデイビスが出迎えました。
「今日がやっと終わってうれしいわ」とトゥルーは疲れた微笑で言いました。
「ダイアン・ミラーは大丈夫よ。
 おまけにジャックが刑務所に入ったし」
「ハリソンが戻ってきた」デイビスは彼女を遮りました。
「オフィスに来ている、君と話がしたいと待っていたんだ」
「キャシーに追いついたの?」トゥルーは尋ねました。
「彼女と一緒だ」とデイビスがうなずきました。
「ハリソンに話をしている間、僕はここに待ってるから」
「そんな?」
「彼をこれ以上長く待たせておかない方が良いぞ」とデイビスはアドバイスしました。

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トゥルーが戻るのを待ちながらハリソンは狭いオフィスを行ったり来たりしていました。
「今日はここに戻って来ないんじゃない?」とキャシーが言います。
「来るさ」とハリソンが答えました。
「姉さんはデイビスに今日起きた事を報告するために戻って来る。
 そうでなきゃ、電話をしてくるはずだから、デイビスは俺達に言ってくるさ」
「でもそうじゃなかったら?」
「それなら姉さんのアパートへ行くだけだ」
「その必要はないわ」とトゥルーが出入口から言いました。
「トゥルー」とキャシーはうなずきながら言いました。
トゥルーはキャシーの冷淡な顔を読もうとして少し赤らみました。
「今日は勝ったのか?」ハリソンは尋ねました。
「ええ」とトゥルーはハリソンの質問に戸惑いながらも答えました。
「それは良かった」と彼は言います。
「それならもう今日をやり直すことはないわけだ。
 これまでの話は覚えてるよな?」
「ハリソン…」トゥルーは彼を止めようとするために手を上げ始めました。
「言うな」ハリソンは彼女を断絶しました。
「言うなよ」
「ハリソン」とキャシーは立ち上がって落ち着かせようと手を彼の腕に置いて言いました。
「大丈夫だ」とハリソンは笑みを浮かべキャシーに言いました。
「俺は何も怒鳴るつもりはない。
 ただ姉さんに言いたい事を言うだけさ」
キャシーはうなずきました。
そして彼がトゥルーに視線を向けるとトゥルーも視線を合わせます。
「どうして姉さんが俺とリンジーが縒りを戻すなんて思ったのか分からないんだ」
トゥルーがやり直しの事を説明しようと口を開いたときハリソンはトゥルーを止めるために手を上げてさえぎります。
「その事は気にしてない。
 でももう二度と俺の生活にちょっかいを出すのは辞めて欲しいんだ、いいか?」
「結果的にはかえってその方が良かったみたいね」とトゥルーは自分のミスを認め静かな声で言います。
ハリソンは深呼吸をし、キャシーの目は少し細くなりました。
キャシーは自分の言い分も聞いて欲しいと思いました。
「姉さんは自分の好みに皆の生き方をあわせる事はしちゃいけないんだ」とハリソンが言いました。
「それに俺みたいな人間は姉さんの言いなりにはできない。
 俺がギャンブルに嵌ってるのは分かってる。
 でもこれは俺の人生の一部になってるんだ」
 時には誤る事もあるだろうけど、そういうことも必要なんだ。
 俺みたいな人間はそういう事から学ばないとダメなんだ、そうだろ?」
トゥルーは自分が思っていたよりも成長しているハリソンに納得して頷きます。
「俺の事は」トゥルーが何か聞こうとしたときハリソンは続けます。
「俺が誰かと付き合うとしても、姉さんが納得しないのはわかる。
 でもこれは俺の生き方だ、姉さんが干渉すべき事じゃない。
 ジャックが姉さんに付きまとうのと同じくらい干渉する事が邪魔になってるんだ。
 姉さんが俺に干渉すればするほど、ジャックの手助けをしてるように思えるんだ」
「そうじゃないわ」とトゥルーは話を遮りました。
彼女の行動は今までいい状態でした。
ジャックのためと言われて黙る事ができませんでした。
「多分そうじゃないだろう」とハリソンは認めました。
「でも俺から見たら姉さんの行動は奴を助けてるようにしか見えないんだ。
 俺の命を狙ってくる時は別だけどな」
「あんたの失敗を修正してあげるのはどうなの?」トゥルーは皮肉っぽく尋ねました。
「あなたがまた失敗してプレゼントなんかのアドバイスが欲しい時なんか?」
「それは別のことだ」とハリソンが答えました。
「違わないわ」とトゥルーが言いました。
「あんたが失敗した後、あたしがあんたにアドバイスをしなければ変わる事はなかった。
あたしがあんたを正しい方向へ導かなかったら、二、三日でだめになる事なんて度々あったじゃない」
「まあ、そういう迷惑をかけた事もあったけど。
 問題を解決する事と俺の生き方に干渉するのとは違うだろ?
 俺に干渉はしないでくれ」
ハリソンはトゥルーを睨み付けてから、彼女を超えてオフィスから出て行こうとします。
「さあ、キャシー、行くぞ」と彼は肩越しに叫びました。
彼が行こうとするのをトゥルーは見ています。
キャシーはトゥルーにチラッと振り返りました。
彼女は何か言おうと口を開きかけましたが、再び閉じて頭を振りながらハリソンの後に続きました。

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デイビスに全ての報告を終えた後で、トゥルーはその夜遅くアパートに到着しました。
ハリソンを落ち着かせてから次の行動をとるべきだとデイビスは彼女にアドバイスしていました。
トゥルーはその通りだと思い、まもなく全てが正常に戻るだろうと望みました。
彼女が後ろ手にドアを閉じるとリンジーがアパートの中でくつろいでいるのを見ました。
トゥルーは長い間彼女をたった一人だけで放っておいた事に罪悪感を感じました。
そして自分のしてしまった行動に対してハリソンに腹を立てているのではと思いました。
「大丈夫?」トゥルーがジャケットを掛けてソファーに近づくとリンジーは尋ねました。
「長い一日だった」とトゥルーは目を閉じて答えました。
「わたしに怒鳴りたいんだったら明日まで待ってくれない?」
「あなたを怒鳴るって?」リンジーは不思議そうに尋ねます。
「あなたが私とハリソンの事を思ってた事ね。
 この数週間で一番面白かったわ。
 でも彼が変わったって言ったのは正しかったわ。
 彼は変わった…いえ、成長したって感じ。
 まだまだいい男じゃないけど、でも私がずっとここにいられれば、いい友達になれそう」
「ここに住まないの?」トゥルーは目を開いてリンジーを見て尋ねました。
「ええ、イギリスに戻ってランドルともう一度やり直してみるつもりよ。
 二、三日はここに厄介になるけど。
 ランドルと話をしたの、勝手にあなたの電話を使っちゃったけどゴメンネ。
 彼は許してくれたわ。
 来週中は会議で忙しいって言ってたけど、話し合うためにスケジュールを調整してくれるって」
「それじゃ、あたし達の仲は?」トゥルーは尋ねました。
「もちろんよ」リンジーは返事しました。
「もし冷蔵庫に入ってるワインを出してくれたら、もっといいんだけどね」
トゥルーは自分の判断ミスで大の親友を失っていなかったことに感謝して、
ニッコリ笑ってワインとコップを持ってくるために飛び起きました。

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「それでニューオーリンズは?」
ハリソン達はその話題は避けて歩いていましたが、アパートに到着するとハリソンは尋ねました。
「さあ」とキャシーは肩をすくめて言いました。
彼女はカウンターの上に広げた書類を見ながらスツールに座っています。
「本当に行くのかい?」ハリソンはカウンターの脇に立って尋ねました。
「もし私が本当に行きたかったら、もう飛行機のなかよ」とキャシーが答えました。
「それじゃ行かないのか?」ハリソンは再び尋ねました。
「ここにずっと?」
「そうして欲しい?」
「当たり前だろ、キャシー。
 君が行ってしまうっていうから、俺は空港まで行って、姉さんとケンカまでしたんだぜ」
「バカな質問ね?」
「ああ」とハリソンは答えます。
「本当にバカな質問だ。俺から離れないでくれ」
「私と一緒に来てもいいのよ」とキャシーは提案しました。
「それはできないよ」とハリソンは頭を振りながら言いました。
「ここが俺の家だ、俺の家族はここにいるんだから。
 親父とまたやり直せるんじゃないかって…」
「…私たちだって知り合ってまだ日が浅いのよ」とキャシーは彼のために結論しました。
「大丈夫よ、私は行かないわ」
「本当か?」ハリソンは尋ねました。
「でもビッグチャンスだろ?」
「ええ、それはそうね」とキャシーが答えました。
「でもここでも他にチャンスはあるわ。
 それに私がここを出て行くことはジャックにとって好都合のように見えたし、
 それは何よりも最優先事項のようだから」
「ジャックが知っていたのか?」ハリソンは心配そうなしかめ面で尋ねました。
「ええ」とキャシーはバーの近くでしたジャックとの会話を思い起こして答えました。
「彼は知っていたわ。
 仕事の事については何も言ってなかったけど、私がここを出て行くことについては知ってたわ」
「どうしてだろう?」
ハリソンはトゥルーに電話をして尋ねようかと自然に電話に手を伸ばします。
しかし番号をダイアルし始める前に電話を下に置きました。
「重要な事?」キャシーは尋ねました。
「まあ、いいか」とハリソンが答えるとキャシーはフォルダーに書類をしまいこみます。
「ねえ、ハリソン」キャシーが何か引っかかったように言います。
「どうして今日は早く仕事が終わったの?
 あなたのマネージャーってその類の事にかなり厳しいって言ってなかったっけ?」
「ああ、クビになった」とハリソンが答えました。
「本当に厳しくてさ、でも俺には姉さんを見つけだして、次に空港に行かないと行けなかったから」
「私のためにクビになったの?」キャシーは驚いて尋ねました。
「姉さんに干渉させないためさ」とハリソンは訂正しました。
「もうその事は忘れようぜ、姉さんも分かってくれるはずだ」
「でもアパートの家賃支払いの期限は?」
キャシーは話題を変えるために尋ねました。
「畜生」とハリソンは彼女の言葉で思い出し、頭を両手でつかんで答えました。
「あんな事言っちまった後だ、姉さんが貸してくれるわけないよな」
「貯金はないの?」
キャシーが尋ねましたがハリソンは頭を振る事で答えました。
「お父さんは?」
「親父に金の無心をするのはイヤなんだ」とハリソンは言います。
「親父はそういう事を覚えていて、後で嫌味を言うんだ」
「それじゃホームレスになる気?」
「貸してくれないか…」とハリソンは尋ね始めましたがキャシーが笑うので直ぐに口をつぐみます。
「イヤよ、無理」と彼女は笑いながら言いました。
「あなたの為に支払いを肩代わりするのは変じゃない」
「それじゃどうしたらいいと思う?」ハリソンはイライラしてため息をついて尋ねました。
キャシーは肩をすくめて微笑します。
彼女はハリソンがどんな考えをし、どんな行動に出るのかとしばらく待ちます。
彼はいずれにしろ彼女のアパートにほとんど居ついていました。
食べ物も冷蔵庫の中に入れていますし、暖房も完備しています。
もし彼が引っ越してくるならば彼女の心配事は何か変わるでしょう。
そして彼の前の仕事場と彼の姉の仕事場の近くでもあります。
ハリソンが思案げにアパートの中を見回し彼女のそばに立った時、
彼女は彼が答えを出したのだと思いました。
「ここには空き部屋があるよな」とハリソンは微笑んで言います。
「ここに引っ越して一緒に住むっていうの?」キャシーは何気なく尋ねました。
「イヤなのか?」ハリソンはがっかりした顔になりためらいました。
「バカね、そんなわけないでしょ」キャシーはにっこり笑いました。
「でも、新しい仕事を見つけて、家賃の半分を持ってくれるんならいいわよ。
 どうする?」
「分かった」とハリソンは笑顔になりスツールに座っているキャシーを抱きしめます。。
「後悔はさせない」
「あなたのアパートを見て思うんだけど」とキャシーが言います。
「もしここをあんな風にしたら…」
「それはしない」とハリソンは素早く答えます。
「このアパートは絶対に汚したりしない、約束する」
「分かった」キャシーは返事して、彼の唇にキスをしました。
「今朝出て行く前に洗おうと思っていた皿洗いをしてね」
「えっ?」
キャシーが部屋のソファーに移動し座ってシンクを見たとき、ハリソンは驚いて尋ねました。
「自動食器洗い機を買うつもりは?」ハリソンはシンクの食器を見て尋ねました。
「もう1つ持ってるから」とキャシーは冗談を言いました。
「それはハリソン・デイビーズよ」
ハリソンは笑いながらシンクに行きます。
「俺が洗うから、君が拭いてくれないか?」と彼は提案しました。
「いいわよ」とキャシーはソファーから立ち上がってシンクに行きます。
彼女はもし彼が最初から一緒に住もうとしたのなら、
一人前の働きはしないといけない事を知っていたので満足して答えました。
さもなければハリソンは間違いなくホームレスになって、
最終的には路上で彼を見つけだしたかもしれません。

終わり。