ANOTHER TRU CALLING
アナザー トゥルー・コーリング

Switched Again.
交代 再び

あらすじ
リチャードは嵐が近づいてくる事を知って、 ハリソンに二度目のやり直しの実験準備をしようとします。
あらゆる方法を操ってハリソンにやり直しをさせます。
しかし悲惨な結果のため、リチャードはジャックを当てにできませんでした。


第1章。
物凄い雨が降り仕切る中、ジャックは急いでリチャードとの待ち合わせ場所にやってきました。
彼は何度も腕時計を確認します。
少し早めに到着していた事を考慮に入れてもリチャードの到着は遅れていました。
彼が今晩はあきらめて帰ろうとしたその時、路肩に車が停車しました。
車のドアが開くとジャックは車の中に滑り込みます。
そして彼はリチャードの遅れたせいで雨に塗れた髪を嫌味っぽくかきあげます。
リチャードはその仕草を無視しましたがジャックは驚きませんでした。
「あいつの準備が整った」とリチャードは何の前置きもなしに話し出します。
「本当にやるのか?」ジャックはためらいがちに尋ねました。
ジャックはここ数週間、ハリソンを見ていましたが彼がリチャードの思っているような考えに変わったとは思えませんでした。
「ハリソンとトゥルーは今かろうじて話をしている状態だ。
 この嵐でハリソンがやり直しをしたなら…」
「あいつは犠牲者を救わないのか?」ジャックは質問しました。
ジャックはもうトゥルーとハリソンの間には溝ができている事は分かっていました。
しかしそれがリチャードが思っているものと同じだとは確信が持てませんでした。
「もし犠牲者が生きるに値すると思わない者だったならな」とリチャードは嫌味な微笑で言います。
「だが誰が助けを求めてくるかは俺達ではコントロールはできないぞ」とジャックは指摘します。
「前例がない」
「それどころか、エリスは助けを求めた者はやり直す前に死んだ人間だと思っている。
 トゥルーもそう思っている」とリチャードは言います。
「それは知っている」とジャックが答えました。
「だがどうやって死ぬべき人間を確認するんだ?
 ハリソンに助けを求めてくる奴はほとんど知らない連中だ」
「我々が彼らより先に死ぬのを確認すればいい」とリチャードはそっけなく肩をすくめて答えました。
「マ、マジか…?」ジャックの声はどもりました。
バランスを保つことは目的の一つです。
しかし故意にやり直すために誰かを死に追いやるのは。
それは既にリチャードが提案していました。
しかしジャックはあまりにも恐れ多くて手を引きたいと思いました。
「まさしくその事だ」とリチャードは窓の外のより激しく降る雨を見ながら言いました。
「そしてその人物に心当たりがある」
「それは誰なんだ?」ジャックはイヤだという気持ちの反面尋ねていました。

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「お姉さんから電話よ」キャシーは部屋の奥にいるハリソンに叫びました。
彼は朝食を食べながら直ぐに頭を振ります。
キャシーはため息をついてトゥルーになんと言おうかと考えます。
キャシーは先週末、トゥルーが電話をしてきた話によってトゥルーのせいじゃない事は分かっていました。
しかしキャシーは電話をハリソンに強制しようとは思いませんでした。
「お姉さんと話した方がいいわよ」とキャシーは置いた受話器を指して言います。
「そうするよ」とハリソンはつぶやきます。
「ただ今じゃない。  姉さんが俺の行き方を干渉しないって事を学んでからだ」
「私はもう学んだと思うけどな」とキャシーは答えます。
「もう一週間以上よ。  こんなに長い間、お姉さんと話さなかったことなんてなかったんでしょ?」
「そうだよ」
「後でかけてるの?」
「かけてるわけないじゃないか、絶対にない」とハリソンはきつく言いました。
キャシーは彼の言葉を聞いて再びため息をつきます。
彼女には彼の姉の問題について口を挟む権利はありませんでした。
しかし彼女は先週のケンカと同じぐらい彼と顔を合わせたくないほどイヤになっていました。
彼女はただ彼とトゥルーが仲直りをするのを望んでいました。

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「電話にでないわ」とトゥルーは受話器を置いて言いました。
「時間を与えてた方がいい」とデイビスはアドバイスします。
「もう1週間よ」とトゥルーが強調します。
「もう落ち着いた頃だと思うわ。  こんなにも意地になるなんて思ってもなかった」
「それだけ君に腹を立てているんだろう」とデイビスが指摘しました。
「あたしは結果的にはそれがかえって良かったと思ったの」とトゥルーはため息と共に答えます。
「リンジーが戻ってきて、もう一度ハリソンと付き合うって言ったんだから。
 キャシーは新しい仕事に就く…あたしはそれがいいと思ってそのままにしておこうと思ったのよ」
「でも君はハリソンがキャシーの事をどう思っているのか分かってるんだろ?」とデイビスが言いました。
「あの子以上にね」とトゥルーは言います。
彼女はハリソンが腕の中にキャシーの遺体を抱きしめていた姿と顔を忘れる事はできませんでした。
リンジーと縒りを戻らせようとする前に、その事を思い出せばよかった思いました。
「時間を与えるんだ」とデイビスはトゥルーの腕をなだめるように叩いて繰り返しました。
「彼は戻ってくる。  キャシーを悪い子だとは思ってないんだろ?」
「そうね」とトゥルーは認めました。
「でも彼女はあたしの方をそうは見てくれてないわ。
 あたし達の友情も台無しにしたのよ。  彼女はあたしとは話をしてるけど、
 ハリソンが望まなければ彼女はハリソンにあたしと話をする事を強制はしないわ」
「もっと彼に時間を与えるんだ」
トゥルーは頷いて仕事を続けます。
まもなく彼女のシフトは終わる頃になります。
彼女は弟に電話をする事しか考えずに、仕事も上の空でした。

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その日の午後遅くにハリソンは仕事も見つからないままキャシーのアパートへと帰ってきました。
キャシーは父親やトゥルーより仕事を見つける事に関してうるさいく言います。
彼女は一緒に住むのなら就職して家賃を折半しないといけないと強く主張します。
トゥルーは弟のためにと何カ月もの間も彼の家賃を支払ってくれていました。
父親も彼の付けを払ってくれていましたが、彼は父親に金を無心しようとは思いませんでした。
ハリソンはトゥルーには一度も金の無心をするのに気が引けるという事はありませんでしたが、
どういうわけか父親には言い出すことができませんでした。
一度だけ彼は父親に付けを払ってくれるように言いましたが、それは一度だけでした。
それでトゥルーに金を貸してもらうか、キャシーのところへ引っ越して来るかの選択は直ぐに決まりました。
彼は家賃を払う金を持っていなかったのですぐに荷物をまとめキャシーのアパートに引っ越しました。
今の彼は折半する家賃を稼ぐための仕事を見つけないといけませんでした。
ドアに錠がかかっているので彼は不思議に思いました。
キャシーのダイナーでの仕事は2時間前に終わっているはずでした。
彼はキーを取り出し中に入ります。
また仕事が見つからなかった事をキャシーに言われるのをなだめるため、
夕食の準備をする事にしました。

彼が料理を始めてもまなくドアが開きキャシーが帰ってきました。
「おい、どうしたんだ!」と彼は入口で彼女を見て叫びました。
彼女の顔の右側は痣で覆われていました、そして頬には長い深い切り傷がありました。
上唇も切れていて痛々しいほど腫れています。
深手の傷は縫われていたため彼女は病院に行ったようです。
後ろ手にドアを閉じた彼女の目は赤く、震えていました。
彼は持っていた食材を床に落とし慌てて部屋へと行きます。
「何があったんだ?」と彼は尋ねました。
「なんで電話をしなかったんだ?」
キャシーは立った一言、言葉にしただけで、泣き出しはじめました。
「マットが」
顔をしかめながらハリソンはソファーにキャシーを連れて行き座らせました。
『マット』とはハリソンがトゥルーにキャシーは彼女だと紹介した後、
トゥルーがレストランで見たキャシーとデートしていた相手の名前です。
残忍な男でトゥルーの後をつけキャシーを溺死させた相手でした。
やり直しの日の晩、ハリソンはキャシーと一緒にマットを見ています。
しかしハリソンはキャシーとマットの間に大問題があったと思っていませんでした。
彼が知る限りマットはごく親しいとうだけの間柄で、
トゥルーがキャシーにスープをぶちまけデートを台無しにしたのが初デートのはずでした。
彼はもっとキャシーに聞きたいと思いましたが彼女は質問に答えられる状態ではありません。

やっとキャシーがすすり泣きを止めます。
「仕事から帰ってきたら、彼がこの中にいたの」と彼女は説明しました。
「その角に立って、そこにいたのよ」
「刑務所にいるはずじゃ?」とハリソンは顔をしかめて言いました。
「釈放されたばかりだって」とキャシーは続けました。
「私を襲った事で刑務所に入った、そのせいで仕事を失ったって…」
「それを君のせいにしたのか?」とハリソンが言います。
「鍵を変えるべきだったな。警察に電話は?」
「病院に行ってる間に来たわ。
 でも見つけたかどうかは分からない。
 通りかかった人が悲鳴を上げたら逃げていった。
 今頃探してると思う」
「顔から血が出てるぞ」とハリソンは深い切り傷から血が滲んでいるのを見て言いました。
「洗面所で洗ったらどうだ?」
「いいえ」キャシーは頭を振りました。
「俺は店に行ってくる」とハリソンは立ち上がって言いました。
「外に行くの?」彼女は心配そうな顔をして尋ねました。
「俺が出て行ったらドアに鍵を掛けるんだ」とハリソンは言います。
ハリソンは出て行く前に彼女の顔で傷のない場所へキスをしました。

十分後、ハリソンは叩きつける雨の中、通りを歩いていました。
突然誰かが彼の右腕を掴み強い力で路地へと引っ張り込みます。
「おいおい、お前はヒーローにはなれないな」
よく知った声ですが不気味な薄明かりの中で更に不気味に聞こえました。
ハリソンは自由になろうともがきますが、マットは刑務所の中で訓練でもしていたのでしょう。
そしてマットの方が遥かに体が大きかったので振りほどく事はできませんでした。
マットの顔には純粋な激怒の色をあらわし、ハリソンはトラブルに巻き込まれます。
ハリソンが勝つポイントはありませんでした。
「手を離せ!」とハリソンはさっきキャシーが話した時のように誰かが来ないかと思い叫びます。
道路には誰もいませんでしたが近くに家がありました。
誰かが争っている音を聞くかもしれません。
「叫んでも無駄だぜ」とマットは頭を振って言います。
「これはお前ら3人への復讐だ、それに誰かを巻き込みたいのか?」
「3人?」
ハリソンはその人数にトゥルーが含まれていると悟りました。
トゥルーに警告しなければと思いましたが、まずは自分自身を助け出さなければなりませんでした。
彼はマットを見て直ぐに無駄だという事が分かりました。
マットはあれ以来、怒りを胸に抱いたままで、何を言っても聞くようには思われません。
そしてマットは復讐だけを誓っていたようです。
最初のハリソンへの腹への攻撃は彼を塗れた地面に膝を落とさせました。
ハリソンは息がつまり腹を押さえ呼吸をしようとしました。
まだ呼吸も整わぬうちに二度目の攻撃がハリソンの顎を捕らえ後ろの壁に吹っ飛びます。
壁を背に滑り落ちると顎に手をやり口の中を舌で確認しました。
運良く歯は折れてはいませんでしたが何本かが緩んでいました。
ハリソンは舗装面に血を吐き出すと胃が痙攣しているのを感じました。
ハリソンは再び立ち上がろうとしましたが、シャツの衿を後ろから掴まれズルズルと引きずられます。
振りほどこうとマットに肘打ちをしようとしましたが、
マットはニヤッと笑ってハリソンを路地の隅のゴミの山に投げ捨てました。
ハリソンはもう終わって欲しいと思い、じっと横たわっていました。
しかしマットはハリソンを再び引っ張り上げ顔面を殴りつけました。
朦朧とした意識の中でハリソンはキャシーに電話をしないと心配すると思っていました。
意識が飛ぼうとした瞬間、彼を現実に引き戻したのは"次の標的はトゥルー"だという思いでした。
 


第2章。
やっとハリソンが立ち上がった時、マッドの姿はもうなく、彼はアパートへと急いで戻りました。
部屋のドアを開けるとソファーに座っていたキャシーは驚いた顔でハリソンを見つめます。
「姉さんに電話をしないと」と彼は電話機に向かいながらつぶやきます。
姉の携帯電話にダイアルしましたが繋がらず留守電になっていました。
彼は混乱しながらもやっと死体安置所の番号を思い出しました。
トゥルーが死体安置所で電話に出た時にはハリソンはホッとしました。
何が起きたのか彼は手短に彼女に報告します。
それを聞いたトゥルーはハリソンに死体安置所には来ないでアパートにいるように言います。
その考えにハリソンは不安を思えましたが、トゥルーはデイビスと一緒にいる事と気をつける事を約束します。
ハリソンはやっとトゥルーの意見を受け入れました。
電話を終えるとハリソンはソファーに座り、弱々しい声で「まだ薬や包帯を買ってないや」と冗談を言いました。
しかし彼もキャシーも再び外に行く事は望みませんでした。

数時間後。
ハリソンとキャシーは体中傷ついたまま映画を見ていましたが、二人とも映画には集中できず、
ハリソンはいつか鳴るんではないかという期待を込めて、携帯電話を見つめていました。
ついに彼の念が通じたかのように携帯のベルが鳴り出しました。
そして彼は体中の痛みに耐えながらソファーから立ち上がります。
「もしもし?」彼は二度目の呼び出し音で携帯に出て答えます。
「彼は死体安置所にいる」と男の声が聞こえると直ぐに切れてしまいました。
ハリソンは掛けてきた相手の番号を確認しようと携帯を見ましたが、
非通知で掛かってきていました、しかし彼はそれほど驚きはしませんでした。
「死体安置所に行ってくる」とハリソンはジャケットを掴んでドアに向かいます。
「誰からだったの?」キャシーは尋ねます。
「言わなかった。
 ただ、彼は死体安置所にいるとだけ」
「マット?」
「そうだと思う」とハリソンは痛々しそうにジャケットに袖を通しながら答えます。
「ハリソン、行っちゃダメよ!」
キャシーは立ち上がってドアの前に立ちはだかりながら叫びました。
「ワナよ。マットが罠を仕掛けてるのよ」
「奴はもう俺をぶちのめしたんだ。死体安置所に呼んだのは違うだろう?」
「誰があなたに"彼がそこにいる"って言うために電話してきたと思ってるの?」
「俺は姉さん一人で奴と会わせたくない」とハリソンは言います。
「罠だと分かってても?」
ハリソンはうなずきました。
それが罠だというのは重々承知でした。
ただどうやって罠を防ごうかと思案しました。
「一緒に行くわ」とキャシーはドア脇の壁からコートを掴んで言いました。
「ダメだ!」ハリソンは叫びました。
「あなたを一人で行かせられない。罠なのよ」とキャシーは叫びました。
「罠だとしても、少なくても俺は前もって分かってる」とハリソンは言います。
「それに俺だけが引っかかればいい、君じゃない」
「でも…」
「ダメだ」
ハリソは穏やかにキャシーを脇にどかしてドアから外へと出て行きます。
「後をつけてくるなよ」と彼はドアを閉じながら言いました。


午後からずっと続いていた嵐はハリソンが死体安置所に着いた時には猛威を奮っていました。
彼はずっと目を見開いて辺りを見ていましたが、どこにもマットの姿は見えませんでした。
彼は死体安置所のドアを開けて中に入ると、
デイビスと話をしながら机に座っているトゥルーを見て安堵のため息をつきました。
二人とも彼が最後に会った時と変わらないように見えました。
彼は部屋の方へ歩きます。
最初にデイビスが彼を見つけました。
「ハリソン」彼はトゥルーへ不安そうな顔で迎えました。
トゥルーが振り返ると、ハリソンは雨にびしょ濡れの髪に、額から頬にかけての傷を見て息を呑みました。
彼女は席から跳び上がって、彼の傷をじっと見つめてから彼を抱きしめます。
ハリソンはトゥルーの抱擁に痛みを感じ「ウッ!」と唸りました。
「ゴメン、ハリー」とトゥルーは彼から離れ謝りました。
彼は彼女の目に涙がこみ上げているのを見て、先週彼女に生活に干渉するなと言った事などすっかり忘れていました。
彼女は依然として彼の大好きな姉であり、世の中で他の誰よりも彼女を愛していました。
しかし彼はここで許してしまえば又いつか彼女は彼の生活に干渉するのではと思いました。
「大丈夫だ」とハリソンはイスに座りながら答えました。
「見た目よりもな」と彼は冗談を言いました。
「あなたに注意しろって言ったでしょ」とトゥルーは彼のそばに座って言いました。
「ここに来なくてもよかったのよ。
 キャシーと一緒にいた方がいいわ」
「君がどんな状態でも一緒にいればナイトになれるんだ」とデイビスが付け加えました。
「それに彼はもうトゥルーを狙う事はない」
「俺は奴がここにいると電話で聞いたんだ」とハリソンが説明しました。
「実際にここに来て姉さんが無事かどうか確かめに来たんだよ」
「大丈夫よ」とトゥルーが答えました。
「デイビスが言ったように、彼はもう誰も狙う事はないわ」
「どういう意味だい?」
ハリソンは何か勘違いしているのかと思い尋ねました。
「彼はそこにいるのよ」とトゥルーはメインルームに頷きながら言いました。
「まじ言ってんのか?」ハリソンはトゥルーの向いてる方を見て言います。
「何があったんだ?」
「およそ20分前に連れて来られた」とデイビスが説明しました。
「刺し殺されてね」
「間違いなく奴なのか?」ハリソンは尋ねました。
「誰が奴を?」
「間違いないわ」とトゥルーが答えました。
「そして誰が犯人なのかは分からない。
キャシーのアパートの近くの路地で死んでいるのを発見されたのよ」
「俺が帰った後殺されたんだな」とハリソンは声を出して思いました。
「奴は姉さんを狙ってたんだ、でもできなかった」
「よしてよ、ハリー」トゥルーは震えました。
「それはあんただったのかもしれないんだよ」
「俺がそんなに簡単に死なないのは姉さんがよく知ってるだろ」とハリソンが冗談を言いました。
「君は警察に行って知っている事を話さないといけないな」とデイビスが言いました。
ハリソンは別の部屋の中をもう一度見て頷きます。
「奴に会わせてくれないか?」と彼は言います。
「本当に奴が死んだ事をキャシーに話してやらないとな」
「間違いなく彼よ」とトゥルーが言いました。
「見なくてもいいじゃない」
「見たいんだ」とハリソンは強く主張しました。
「分かった」とトゥルーは頷いてから彼を隣の部屋に連れて行きました。
マットの顔を見下ろしたハリソンはホッとした気持ちになりました。
電話が隣の部屋で鳴ると、デイビスはトゥルーに電話だと告げます。
ハリソンはトゥルーの後に続くつもりで死体から顔をそむけました。
するとその、時彼が以前一だけ経験した感覚が彼を襲いました。
辺りの音は遠くに聞こえるようになり、マットが彼に顔を向け「助けてくれ」と囁く声が聞こえました。
ハリソンは部屋の床が無くなってしまった感じを受け、自制が聞かなくなるような感じを受けました。
そして時間は巻き戻ります。


第3章。
ハリソンはポカンとしてベッドに座って、顔や体に傷が無くなっているのに驚きを感じました。
傷も痣も無く舌で歯を触ってみましたが緩んでいる歯もありませんでした。
彼は横で眠っているキャシーを見ました。
彼女は顔を向こうに向けていましたが、彼は彼女をひっくり返して彼女の顔を見ました。
彼女はそのせいで目を覚ましましたが彼はお構いなしに彼女の顔に傷が無いのを確かめるため手を伸ばします。
突然起こされた彼女は寝ぼけ眼で何かうわごとを言っていました。
ハリソンは今回は不快に思いませんでした。
二度目のやり直しのチャンスを得られた事で彼の喜びはキャシーの文句も聞こえませんでした。
「一体何なの?」と彼女は混乱して尋ねます。
「やり直しの日だ」とハリソンが叫びました。
「どうして分かるの?」キャシーは質問しました。
「まだトゥルーとは話もしてないでしょ?」
「姉さんじゃなく、俺がだよ」ハリソンはにっこり笑いました。
「俺達は救われたんだ」
「いつ?」キャシーは尋ねました。
「昨日だ」ハリソンは答えました。
「どちらかって言うと今日だけど」
「ふーん」有頂天になっているハリソンから徐々に離れながらキャシーは言います。
「いつからお姉さんとそのやり直しの力を共有するようになったの?」
「いつもはそうじゃない」とハリソンは以前のやり直しを思い出しながら眉をひそめて答えました。
彼らは一度も突然の取り替え減少についての説明を思いついた事はありませんでした。
そして二度目が起きなかったので、彼らは一度限りのまぐれだと想定していました。
「前に一度起きただけだ」
「その話聞いてないわよ」とキャシーが言いました。
「あの時はちょっと失敗したんだ」とハリソンはつぶやきます。
「犠牲者について何も知らなかったし、姉さんがほとんどやってくれたから。
二度目が起きなくてホッとしてたんだ」
「なら何で今日は嬉しそうなの?」
「昨日は大惨事だったんだよ」ハリソンはブスッとした怒り顔で答えました。
「昨日はマットが仕返しに現われたんだ」
「マットが?」キャシーは青ざめました。
「刑務所から出てきたの?」
「ああ」とハリソンがうなずきました。
「奴は俺達二人の後に続いて姉さんを狙ってたんだ」
「彼は何をしたの?」キャシーは何か変な感じがしましたが、既に起きてしまった事だと思って尋ねました。
「ここに医療品を用意した方がよかったとだけ言っておくよ」とハリソンが言いました。
「でも今回はあらかじめ分かってる、だから違ってくるんだ」
「何を考えてるの?」
「仕事が終わったら俺が車で迎えに行く」とハリソンが言いました。
「奴は昨日君の仕事が終わるのを待っていたんだ」
「ほかには?」
「姉さんに警告しておかないと。
姉さんも狙われてる」とハリソンは電話に手を伸ばして答えました。
しかし彼はダイヤルしていた手を止め受話器を戻しました。
「どうしたの?」キャシーは電話をしない彼を見て尋ねました。
「電話しなくていいの?トゥルーに」
「姉さんは昨日を覚えてない」とハリソンはうわの空で言いました。
「でもそれで止めたわけじゃない。
 別な理由があるんだ」
「えっ?」
「マットが昨日助けを求めてきたんだ」
「彼は昨日殺されたの?誰に?」
「分からない。
俺は奴が死体安置所にいると云う匿名の電話を受けたんだ。
俺が行った時には奴は間違いなくいたよ、死んでた。
そしたら奴は俺に助けを求めてやり直したってわけさ」
「どうして彼があなたに助けを求めたのか分からないわ」とキャシーは悔やんだ笑顔で言います。
「姉さんは奴を助けると言い出すに決まってる」とハリソンはつぶやきます。
「奴が姉さんに助けを求めたように」
「お姉さんに警告しないと」とキャシーは電話に手を伸ばしながら言います。
「もし俺が姉さんにまたやり直しが起きたなんて言ったら、誰が助けを求めたんだって聞いてくるだろ」
「お姉さんに話すべきよ」
「奴が戻って来たとだけ言っておくよ」ハリソンは妥協しました。
「警察から奴が釈放されたと聞いた事にして、奴から目の届かないようにと言っておく。
奴は復讐を企んでるかもしれないとな」
彼はキャシーから電話を取ってトゥルーの番号をダイアルしました。

トゥルーが受話器を耳にあてハリソンの声を聞いた時、彼女はとても嬉しそうな声を上げました。
「それでこれはあたしが干渉した事を許してくれるって事?」と彼女はハリソンがマットの釈放について警告し終えた後に尋ねました。
「俺がそんなに根に思わないのは知ってるだろとハリソンが言いました。
少なくとも"姉に対してだけ"とは声に出して言いませんでした。
同じようにマットの事も言う事はしませんでした。
「で、あんたは後でこっちに来るの?」トゥルーは尋ねました。
「もちろんだ、俺達は今晩そっちに行くよ」とハリソンは彼女がキャシーを招待に含めなかった事に嫌味を言います。
「それじゃ、また後で」とトゥルーは安心した声で答えました。

ハリソンは電話を切ると再びキャシーに向きます。
「それであなたはマットを助けないの?」と彼女は尋ねました。
「ああ」とハリソンが答えました。
彼の目には昨日の出来事がありありと記憶に焼きつき怒りを忘れませんでした。
「もし奴が今日助かる事になったら、また俺達を狙うだけだ。
奴は自業自得だったんだよ」
「それってあなたのお父さんが話してるみたい」とキャシーが答えました。
「時々だけど父さんが正しいと思うこともあるさ」
「お父さんはやり直しの事は知ってるの?」キャシーは好奇心で尋ねました。
それは今まで会話に上った事も無い話題でした。
「俺はそうは思わない」とハリソンは一瞬考えて答えました。
「姉さんは他の人に話したりしないし。
父さんに話してれば、真っ先に俺に話すはずだ」
「お姉さんはあなたとデイビスには話したじゃない」
「デイビスは自力で見つけ出したんだ」とハリソンは笑いながら答えました。
「俺はいくつかの証拠を突きつけられたけど」
「お父さんが知ってたら何か言ってくれんじゃないかと思って」とキャシーはリチャードの事が引っかかりながら言います。
「多分親父は信じないよ」とハリソンは肩すくめて答えました。
「それに親父に話す気は無い。
ちょうど家族の絆が戻り始めてるところだから。
こんな事言ったら俺がおかしくなったのかと思われる」
「本当にマットに助けないのね?」
キャシーは下唇を噛んで尋ねます。
それは彼女が不安な懸念を表すときの癖でした。
「自業自得だ」とハリソンが答えました。


「うまくいった」ジャックは彼のアパートに到着するとすぐにリチャードに知らせました。
「間違いないか?」
「トゥルーはハリソンからの電話を受けた。マットが町に戻っていることを警告する」
ジャックは電話の盗聴受信機を見ながら答えました。
それはリチャードがトゥルーの監視のため彼に渡しておいた装置です。
それは最初から出足が悪くリチャードは幾分イラついていました。
「くそっ」とリチャードはつぶやきます。
「私は倅がやり直しの事を娘に話さないと期待していた」
「ハリソンはそのことは話していない」とジャックはニヤニヤして答えました。
「ただ警察からその情報を聞いたと彼女に警告しただけだ」
「信じたのか?」
「ああ」とジャックは答えました。
「あいつから連絡がなかったら、心配したかもしれない。
だが彼女は気にしないようだった」
「それではハリソンはトゥルーに話さないでやり直しをしているのか」
リチャードの笑みは大きくなりました。
「それは倅がマットを救わないということだ」
「それとあいつはトゥルーを守れるか?」注意深くジャックは言います。
「倅の事は私がよく知っている。
あいつはマットの運命を変えようとはしないはずだ」とリチャードは言います。
「そして同じく、倅が犠牲者を一人片づければ、ほかの者たちも同様に行わせるのは簡単なことだ」
「だが他の者たちはあいつの彼女に暴行をした凶悪犯ではない」とジャックは指摘します。
「俺としてはそれがあいつにとって態度を決めるきっかけになるかもしれないと思う」
「それは重要ではない」とリチャードは頭を振って答えます。
「一人でも犠牲者を運命のままにすれば、残りは簡単だ。
それに誰もが罪を背負っているのだからな。
そのうえ、誰も完全に罪があります。ハリソンは近ごろ私からそういうことを学んでいる」
「まあしばらくはあいつが何をするのか見守った方が良い。
もしあいつがマットを救おうとしたらどうする?」
「そうなったらもう一度行うまでだ。私にはクライアントが腐るほどいるからな」とリチャードはそっけなく答えます。
「勝利か、勝利の状況」
「まさに」とリチャードは言うと、アパートから出てハリソンが2度目のこの日に何をするのか探るために町の中へと消えていきました。


ハリソンはキャシーの就業時間中はダイナーに居る事にしました。
マットの姿は見かけませんでしたが、そんなチャンスを与えたくはありませんでした。
「何か注文しないの?」
ウエートレスでキャシーの友人のベスが尋ねました。
「もう一杯コーヒーを」とハリソンはカウンターの方に空のカップを差し出して言いました。
「コーヒーのお代わりね」とベスは目をキョロキョロさせて繰り返しました。
「今日はボスがいなくて運がいいわ。
何にも食べないで午後の間中ずっとここにいるなんて」
ハリソンは肩をすくめてにっこり笑いました。
「今日は本当にラッキーかもしれないな」
キャシーは笑みを浮かべレジのところで聞いていました。
ベスが聞こえない場所に行ってしまうまで彼女は待って、カウンターに身をかがめました。
「仕事を探すのを休むために、やり直しの日だなんてウソをついたんじゃないでしょうね?」と彼女は尋ねました。
「俺がそんな事するか?」ハリソンは笑いました。
「ええ」とキャシーは数秒考えてから答えました。
「そうだよ、君が正しいよ。俺ならそうするかもな」とハリソンは再び笑いながら言いました。
「でも本当の事を言ってるのは誓える」
「あなたが言うほどマットの気配すらないじゃない」とキャシーは目を上下させ言います。
そして実はハリソンは自分に誰かが言い寄らないように見張ってるのではと思いました。
「その代わりに奴が姉さんを狙いに行かない限りは」
ハリソンはドアが開くたびにそちらを見てマットが来るのを心配していました。
「私がここを出た時に、彼が私を追いかけたと言わなかった?」とキャシーが言いました。
「彼はチャンスを窺って外で待ってるだけかもしれない。
彼としても同時に二人を襲うのは得策じゃないと思うはずよ」
「奴ならやるさ」とハリソンは昨日の争いを思い起こしながら呻くような声で言いました。

半時間後、キャシーは仕事を終え、二人連れ立ってダイナーを後にします。
「彼が見える?」
キャシーはハリソンがダイナーを出てから三度も後ろを振り返るので尋ねました。
「いや」と彼は答えました。
「誰かの視線を感じるだけだ」
「それは彼じゃないんじゃないの」とキャシーが言います。
ハリソンはしきりに後を気にします。
しかし彼らの後ろには誰の姿もありませんでした。
それでも彼は誰かに見られている感じを振り払うことができませんでした。
それは彼と姉が以前ジャックに付け回されていた感じとよく似ていましたが、
あの時はトゥルーであって彼ではありませんでした。
今は彼もトゥルーがこれまでの数ヶ月間、毎日こんな感じを受けていたのかと分かりました。
身震いをした彼はアパートに向かってキャシーを急がせました。


数分後、ジャックは辺りに邪魔するものがいない事を確かめてドアを出ました。
ハリソンとキャシーはブロックの終わりをすでに曲がっていたので、
隠れている場所から出てきても安全だと確認したのです。
ジャックはハリソンがトゥルーと同じぐらい自分の存在を感じる事ができるとは思っていませんでした。
彼は再び姉弟はよく似ていると思いました。
そしてハリソンにもう一度やり直しをさせて、
使命を無視させる事を望んだリチャードのやり方に頭が下がりました。
彼は敗北を認めたものの、今まで見てきてハリソンがマットを追いつめる努力はしていなかった。
それで死の時が刻々と近づいてきたなら、今日はリチャードが正しと思われました。
彼はスパイ行為をしながら、既にダイナーを見つめているマットを見つけていました。
彼は直ぐにマットの視線が道路の向こう側から自分に向いた瞬間を感じていました。
道路の向こう側を見てほんの僅か頷いて、ブロックの向こう側にある近くのバーに目をやりました。
彼はビールを注文して待っていると、二分ほどでマットが入ってきたのに驚く事はありませんでした。
「君は彼らを捕まえたいんだろ、それは間違ってると思うがな」
ジャックはマットが座ってビールを注文するとすぐに言いました。
「何を知ってる?」
マットは彼の前に置かれたビンを手にとって返事しました。
「君より多くの事を知ってるさ」とジャックは静かで訳知り顔で言いました。
「聞いてくれるといいんだが」
「聞いてやるよ」とマットは目をかすかに光らせ答えました。


死体安置所のドアがゆっくりと開きました。
「トゥルーかい?」
デイビスは座っていた机から大声で呼びとめました。
返事がないので彼はドアの向こうを見るために立ち上がりました。
「君は誰だ?」
デイビスは入り口に立っている背の高い男に尋ねました。
「ここに用はないと思うが」
「俺はトゥルーの友達さ」とマットは答えました。
「今日は仕事だと思ったんだが」
「彼女はちょうど外出したところだ」とデイビスは用心深く答えました。
彼は目の前の怪しげな男に不安を覚えました。
そして気軽に死体安置所を見回っている男が出て行って欲しいという反面、
トゥルーに早く戻ってきて欲しいとも思いました。
「外で彼女を待つ事にするよ」とマットは肩をすくめて言いドアに向かいます。
デイビスは男が出て行くのを待って、トゥルーの携帯に電話しました。
「トゥルー?」と彼は彼女が電話に出るとすぐに言います。
「君の言っていたマットっていう男が来たと思うんだが」
「本当に間違いない?」トゥルーは尋ねました。
「君の言っていた容姿と似ていた。
名前は言ってはいなかったが、怪しい雰囲気だった」
「今どこにいるか分かる?」
「外で君を待つと言っていたよ」とデイビスが答えました。
「もうじきそこに着くけど、いないわよ」とトゥルーは間を置いてから答えました。
「そこまで君を迎えに行くよ」とデイビスは彼女の答えを聞かずに受話器を置きました。
彼は外へと廊下を急ぎなら恐怖を感じました。
息も凍るような寒い夜の雨の中デイビスは外を見ました。
一番最初に目に入ったのはトゥルーではありませんでした。
彼女のいた場所から離れたところで稲光が光っていました。
トゥルーの携帯電話が水溜りの近くに転がっていました。
そして彼女はその水溜りに倒れていました。
デイビスは本能的にその水溜りは血だと悟りました。
彼は彼女の側に急いぎます。
しかし彼女はもう動いていませんでした。
そして彼女の目は空ろになり見開いた状態のままでした。
マットを死体安置所に引き止めておかなかった事をデイビスは自分の呪いました。
それが遅すぎだった事を彼は罵りました。
そして彼の無言の涙が落ち始め、
彼は更にトゥルーが助けを求めるべき者が誰もいない事を罵りました。


第4章。
「お前は大ばか者だ」リチャードはジャックに激怒しました。
「自分が何をしたか分かってるのか?」
「奴は彼女を殺すはずじゃなかった」
ジャックは既にコントロールができなくなっている連鎖にショックを受けて言いました。
「その通りだ、奴じゃない」とリチャードが叫びました。
「お前は二度とやり直しが起きない事を分かっているのか?」
「あんたの奥さんの時は、そんなにイヤじゃなかったんだろ?」
ジャックは立ち上がって逆切れして言い返します。
「あの時とは事情が違う」とリチャードは大声で言いました。
「あの時は他に選択肢はなかった、そしてやり直しが終わると思っていなかった。
今回はもっといい選択肢があったのにだ、お前はそれを台無しにしたんだ」
「多分、取り戻せると思うぜ」ジャックが提案しました。
「ハリソンなら…」
「もう一度倅がやり直せるという保証はない」とリチャードは非難しました。
「これは全てが試行錯誤だ、そしてお前はその中でもっとも大きなミスを犯したんだ」
「俺は奴に彼女を殺さないように言った」とジャックは言います。
「そいつに話す必要もなかったんだ」とリチャードは大声で言いました。
「一体何を考えていたんだ?」
「俺はただ…」
「お前は少し物事を引っ掻き回す癖がある。もう少し面白く、エキサトしたいとな」
リチャードは部屋を行ったり来たりしながらわめきちらしました。
「奴は彼女を殺そうとは思ってなかった」とジャックは繰り返しました。
「少し彼女を怖がらせようとしていただけだ。
そこへ俺が介入して奴を遠ざけるつもりだった。
彼女から信頼を少しでも取り戻したくてな」
「お前はバカか」とリチャードは少し静かな声で言いました。
「お前は私が話した事以外何もする必要はないんだ」
「俺が彼女に助けを求められに死体安置所に行ったら?」ジャックは提案します。
「さあな」とリチャードは言います。
「あの子はそうするかも知れない、あるいはハリソンに助けを求めるかもしれん。
あるいは死を受け入れるかも。
知るべき方法はない」
「彼女が助けを求めるかどうかたった1つ方法がある」とジャックが答えました。
彼は立ち上がってドアに向かいました。
「もし彼女が求めてくれば、俺達の有利な点を使いこなせる」
リチャードは彼の言葉に返事をせず、彼を止めようとしませんでした。
今回はジャックが出て行きました。


ハリソンはジャックとほぼ同時に死体安置所に到着しました。
彼はデイビスから電話を受けて直ぐに急いでやってきました。
彼はこの事が起きて罪の意識を感じましたが、ジャックの顔にも同じ表情を見て驚きました。
「笑いに来たのか?」
ジャックが角を曲がっているのを見るとすぐにハリソンはつばを吐きました。
「いや」とジャックは静かに答えました。
「彼女が俺に助けを求めるかどうか確認に来た」
「お前が?」ハリソンは驚いて立ち止まってしまいました。
「何で姉さんを殺したがっている奴が、救うなんて事が想像できるかよ?」
「それはやってみないと分からない」とジャックが言いました。
「あるいはお前に助けを求めるかもしれないしな」
「姉さんはお前なんかより俺に助けを求めるに決まってるだろ」
ハリソンは入口から建物の中に入りながら言いました。
「ちょっと待ってくれ」とハリソンは言って入って直ぐの場所でまた立ち止まりました。
「何で知ってるんだ、姉さんじゃなく俺がやり直してることを?
今日は一日中何をしてたんだ?」
「俺は埠頭のそばの小さなカフェで昼食を食べていた。
午後から映画を見て、本当にいい休暇をとったよ」ジャックはにっこり笑いました。
「お前がマットを救うおうとはしなかったから、俺は何もしなくてすんだ。
トゥルーの代わりにお前がやり直すと俺は助かるんだがな」
「休んでながらも、あの人間のくずの名前を見つけだす時間を持ってたのか?」
疑いが次第に膨れ上がりながらハリソンは尋ねました。
「時間の無駄だ」とジャックはハリソンを超えて死体安置所の中に入りながら言います。
ハリソンは彼の後ろに続いて死体安置所に入ると、
デイビスはジャックを見て激怒の叫び声を上げました。
デイビスは深い悲しみを抑えているところジャックが来て憤慨して飛び掛ろうとしました。
「デイビス、待ってくれ」とハリソンは叫びます。
ハリソンはジャックに運命に任せたくなったが、デイビスがジャックを殴るのを停めました。
するともう一度殴りかかろうとしたのでハリソンはジャックからデイビスを力ずくで引き離しました。
「彼女は死んだ」とデイビスは静かに言いました。
「姉さんは俺に助けを求めようとしてるんだ」とハリソンが決意で言いました。
「そうでなきゃならないんだ」
「前に一度やり直したのは知ってるが、あれはまぐれだったんだろ。
その意見に皆で納得したはずだ」
デイビス頭を振って希望はないと諭しました。
「また起きたんだ」とハリソンが答えました。
「今日はもうやり直してるんだ。
姉さんは俺に助けを求めるべきだ」
「君が前に起きたと言うんなら、彼女を救えなかったという事か?」
デイビスは非難がましく尋ねました。
「昨日俺に助けを求めたのはマットだった」とハリソンは言います。
「姉さんには言わなかったけど…俺のせいだ」
「どうして僕達のところに来なかったんだ?」デイビスは尋ねました。
「姉さんはマットが昨日した事にもかかわらず奴を救おうとすると思ったんだ」ハリソンは返事しました。
「奴は仕事帰りのキャシーを襲って、次は俺。
 次に姉さんを狙いに行く途中で奴は刺されたんだ。
 今日はキャシーを安全に過ごさせ、姉さんに警告すれば安全だと思っていた」
「彼を救おうとはしなかったのか?」デイビスはしかめ面で尋ねました。
「ああ」とハリソンは頭を振って認めました。
「それで、奴が死ぬ代わりに、姉さんがここに。
だから姉さんは俺に助けを求めなきゃならないんだ。
そしたら俺がこの状態を何とかする事ができる」
「僕はオフィスで待ってるよ」とデイビスはトゥルーが静かに横たわっている場所に頷いて言いました。
ハリソンはデイビスが出て行くとトゥルーに向かって近づきました。
ジャックは彼の後に続いてトゥルーの遺体の反対に立ちました。
二人は一緒にトゥルーが助けを求めるのを待ちました。
「お前がここにいたら、うまくいかない」とハリソンはしばらくして言いました。
「姉さんはお前に助けを求める事は望んでない」
「その通りだな、どちらかが残るべきだ」ジャックは故意に彼を挑発しました。
「お前がデイビスと一緒に待ってろよ」
「俺が?」ハリソンは叫びました。
「お前が待てよ、俺の姉さんなんだから!」
「俺ならお前よりもやり直しのチャンスはあると思うが」ジャックは厳しく言います。
「飛行機のマイル集めみたいに言うな」とハリソンは非難しました。
「俺は家族だ。最初は俺が試す」
ハリソンはジャックが再び口を開こうとしたのが分かりました。
しかし辺りの様子が静まり返り、トゥルーは助けを求めるのを待ちかね目を開きました。
いつもの遺体とは異なり、彼女は頭を動かさず「助けて」と上を向いたまま助けを求めました。
そして一日が巻き戻ります。


ジャックはあえいでベッドに身を起こしました。
電話に手を伸ばしてハリソンの番号をダイアルしました。
「ハリソン?」と彼は電話が通じるとすぐに尋ねました。
「ジャックか?」ハリソンは返事しました。
「どうやってこの番号が分かった?」
「ジャックが何のためにあなたに電話をしてきたの?」
ハリソンの背後でキャシーが尋ねるのが聞こえます。
「後で説明するよ」とハリソンは言って、電話に戻ります。
「今日はこれで三回目だな」とジャックはハリソンの質問を無視して言いました。
「今日はトゥルーを救うために停戦を求めるよ。いいだろ?」
「何を企んでるんだ?」ハリソンは疑い深く尋ねました。
「もしトゥルーが永遠に死んだままなら、俺は二度とやり直しができなくなる」とジャックは認めました。
「俺はやり直しの利点をよく知ってる、だから俺としては全くその力を失う事は望んでない」
「分かったよ」とハリソンが答えました。
「俺達はどちらが欠けてもやり直す事ができない事がな」
「それで停戦をするのか?」
「ああ、停戦する」
「昼食時にキャシーのダイナーで会おうでしょう。
そして計画を立てようじゃないか?」
「ああ、分かった」とハリソンは同意して受話器を下に置きました。
ジャックは再び受話器を上げリチャードに電話をしました。
彼は手早く前日にマットの事で、自分のミスを含めて起きた事を説明しました。
「それで今度はどうするつもりだ?」
リチャードは自分の制御から事態が外れた事を知って尋ねました。
「ハリソンは俺のせいでトゥルーが死んだとは思ってない」とジャックが言いました。
「それで、今日はトゥルーを生かすために、あいつと停戦をする」
「だがあの子は今、実際に危険には面してない」とリチャードは落ち着き始め言いました。
「少なくとも前の日はマットがあの子にたどり着くまでは」
「だがハリソンはその事を知らない」ジャックはにっこり笑いました。


第5章。
「病気で休むと電話してくれ」
ハリソンは彼女にこれまでの2日間の出来事を説明し終えるとすぐにキャシーに言いました。
「そんなにあの人を信頼して大丈夫なの?」彼女はハリソンのいう事を無視して尋ねます。
「他に選択の余地はないんだ」とハリソンが答えました。
「お姉さんはそういう意見じゃないと思うけど」とキャシーが指摘しました。
「お姉さんに電話をして、会ってみれば?」
「君が病欠だって電話をしたら直ぐにするよ」とハリソンは彼女に電話を手渡して言いました。
「それで変わると思ってるの?」と彼女は番号をダイアルしながら尋ねました。
「君はダイナーから家に帰る途中で襲われたんだ。
もし君が行かなかったら…」彼の声は次第に弱まりました。

キャシーはマネージャーに病気だと言って、次の日の出勤日を確認して頷きます。
「アパートを出て行かないと約束してくれ」とハリソンは彼女が電話を切ると強く言います。
「自分の家にずっといるなんてイヤよ」
「俺もそうだけど、奴を見つけ出すまでの間だ」
「あなたとお姉さんは?」
キャシーは電話に一瞥してハリソンがまだ姉に電話しようとしていない事を諭します。
「ああ、俺は死体安置所に姉さんに会いに行く」と彼は決然とした瞳で答えました。
「そしてもし姉さんが俺達を差し置いて奴を救おうとしたら…」
「気をつけて」とキャシーはハリソンがベッドから降りると言いました。
「いつも以上にな」と彼は言うと彼女にキスをしてから微笑んで背を彼女に向けました。
彼女は彼の首に腕を絡ませて彼が立ち上がると一緒に体を上げます。
「それってキスなの?」と彼女はベッドの縁にひざまずいて彼を引き寄せからかいます。
「まあ、もっといいさ」とハリソンは雰囲気を壊さないように言いました。
「お姉さんの仕事はいつまでなの?」
「少しの間だよ」ハリソンは返事しました。
「私、仕事がないから、しばらくの間、一緒に朝寝してもいいでしょ?」
キャシーは微笑みながら再び彼にキスします。
「姉さんは仕事中でしばらくは安全だな」とハリソンはニヤッとしてキャシーをベッドに押し倒し彼女の背中にキスをしました。
ハリソンは死体安置所に急ぐ必要はないと思いました。
仕事に行く前までにトゥルーのアパートに行けばいい事ですから。


「姉さん?」
ハリソンは姉のアパートのドアを叩きながら大声で呼びました。
「いるのかい?」
「どうぞ」と聞こえる前にドアを突然開け彼はトゥルーを抱きしめます。
トゥルーは驚いて彼を見ました。
「無視されるよりはずっとましだけど、何があったの?」と彼女は尋ねました。
「長い話さ」とハリソンは彼女を放してソファーに向かいながら答えました。
ハリソンがこれまでの2日間の出来事を告白しだすとトゥルーは眉を上げました。
話が先に進めば進むほど彼は罪の意識を感じました。
ハリソンはトゥルーの表情が好奇心から驚き、怒り、ショックへと全く予想してなかった表情に変わっていくのを見ました。
「あたしが死んだの?」彼が話し終わるとトゥルーは尋ねました。
「そう、でも今日はそうじゃない」とハリソンは彼女に答えます。
「そしてあんたはジャックと停戦してるって?」トゥルーは目を上下させ尋ねました。
「前に姉さんがあいつと手を結んだという事じゃない」とハリソンが指摘しました。
「あいつはやり直しを続けられるように、姉さんを救おうとしてるんだ」
「それじゃあいつの都合がいいように運命を変えようっていうの」
トゥルーは意外な事実に驚いているように見えなかったけれどもつぶやきました。
「昼飯時にあいつに会う約束をしてる」とハリソンは肩をすくめて言いました。
「俺達の言う事を聞いてくれ。
 俺達は姉さんを死なせないようにするんだ。
 停戦の事は心配しないで。
 ただ姉さんを安全にしようとしてるだけだ」
「あたしが心配してるのはそんな事じゃない」とトゥルーは立ち上がってコーヒーを作るために移動しながら言いました。
「心配してるのはあいつが私じゃなくてあんたがやり直しをした事を知ったって事よ」
「あいつが関係してると思うのか?」ハリソンはしかめ面で尋ねました。
「さあ」とトゥルーはため息をついて言いました。
「この前の時はあいつはあんたがやり直しをしたのを知らなかった。
 それは間違いないわ。
 でもあんたの話だと今回は…」
「…今回はあいつが知ってる」
「それは後で調べましょ」とトゥルーはキッチンの周りをいじりながら言いました。
「一つ目の問題は、キャシーは安全なの?」
「彼女は病気で休むと電話をさせた。そしてアパートから出ないように言っておいた」
ハリソンはうなずいて、姉の後についてキッチンに入りいつものように冷蔵庫を物色します。
彼は好物のデザートが1つ奥に入っているのを見つけて手を伸ばしましたが、
トゥルーは笑いながらハリソンの手を掴みました。
「それであたし達はいいの?」と彼女は尋ねました。
「ああ」
ハリソンはトゥルーにそう言った後、彼女がよそ見をした瞬間に掴まれていない方の手でデザートを取りました。


ジャックは既にダイナーで待っていて、彼らがやってくるとまるで旧友を歓迎するように迎えました。
トゥルーとハリソンは二人ともこんな日に彼の異常なユーモアは感心しませんでした。
「皆、無事だったか?」ジャックは尋ねました。
「皆、生きているようだな?
 ハリソンがアパートからここに来ても、誰もまだ死んでないようだ」
「そうかい、よく分かったな」とハリソンは答えメニューに目を通します。
「それで、マットの事はどうするの?」トゥルーは尋ねました。
「彼はどこに?」
「あいつを見つけだすのに少し手間取った」とジャックは肩をすくめて答えました。
「ノミ屋に行って、大穴の馬券を買わないといけなかったからな」
「それはどの馬だ?」ハリソンはメニューから目を離し尋ねます。
「ハリー」とトゥルーはしかめ面で警告しました。
「よせよ、トゥルー、君はずっとハリソンのお守りをするわけにはいかないんだぞ」とジャックは言います。
「遅かれ早かれハリソン自身に失敗を経験させなければならないんだ」
「おい」とハリソンは睨みつけ叫びました。
「話を元に戻してくれない?」トゥルーは強く言います。
「あいつがどこにいるのかは分からない」ジャックはまじめな様子で答えます。
「だがどこに現れるかは分かる」
「そして?」トゥルーは性急に尋ねました。
「ここの外さ、キャシーの仕事が終わった時分だ」とジャックが指摘しました。
「最初の日にあいつが彼女を襲った場所だ」
「でもキャシーは今日は仕事に来ていない」とハリソンが言います。
「で俺は気づいたんだ」とジャックが答えました。
「お前が彼女を守ろうとする前に、俺にあいつを任せたのはいい考えだったかもしれないな」
「あんたはマットがもう彼女が仕事に来てないことを知ってるって事?」とトゥルーが尋ねます。
「それって彼が別の方法を使うってことなのね」
「だから俺達には全く手掛りがない」とジャックが同意しました。
「だがそれは俺のせじゃない。
 俺は彼女の行動を変えろとは言わなかったはずだ。
 俺の計画では最初の日と同じように行動するという計画だった」
「それで今は?」トゥルーは尋ねました。
「あいつがどこにいるのか可能性の高い場所を探すしかない」とジャックはニヤニヤしながら言いました。
「そんな!」とハリソンはキャシーが働いていないと知ったマットがどこに行くのか悟ります。
「キャシー!」
ハリソンは席から立ち上がってダイナーから走りでました。
彼女が病欠の電話をして、もしマットが彼女の勤務開始時から待っていたとしたら。
彼女の勤務時間はもう1時間も前に始まってました。
マットがまっすぐに彼女のアパートに行っていたとしたら。
ハリソンは間に合って欲しいと思いました。
トゥルーはただニヤニヤしているジャックを見ました。
「キャシーは今日死ぬ運命じゃないわ」と彼女は彼に怒って言いました。
「そうだ、君が正しい」とジャックがうなずきました。
「オレの記憶が確かなら、彼女はだいぶ前に死ぬ運命だったはずだ。
 悲劇的な溺死だったんじゃないか?
 運命はそれを呪われた花瓶で修正しようとした。
 そして今回はその3回目かもしれない」
トゥルーが非難されるという状態で、
「あんた、ハリソンが彼女を家から出ないようにするのを知っていたのね」トゥルーは非難します。
「こうなることが分かっていたんでしょう。
 ハリソンはあたしを救うためにあんたとここで落ち合って、
 アパートに残したキャシーを襲わせるために」
「君の弟は何とも予想がしやすい」とジャックはほくそえみました。
「それが特に彼女の話になると操るのはたやすい」
トゥルーは最後にジャックを睨み付けると外に出てハリソンの後を急いで追いかけました。

トゥルーが到着したとき、ハリソンはキャシーを掴んでアパートにいました。
現場はひどく荒れ以前キャシーが助けを求めた時とよく似た状況でした。
唯一の相違は今回はキャシーがまだ生きていたということでした。
彼女は酷く打ちのめされ気を失っていましたが呼吸はしていました。
トゥルーは彼女の脈を確認しながら救急車が到着するのを待っていました。
「大丈夫よ」トゥルーは床に黙って座っている弟に繰り返し言います。
トゥルーは自分が正しい事を祈りました。


第6章。
トゥルーは呆然としながら車を病院に走らせていました。
ハリソンは救急車でキャシーと一緒に行っていました。
彼女は病院に着くと急いで中に入り、混雑する緊急治療室待機場所で弟を探します。
やとハリソンに会えた場所は治療室前で、
看護婦が治療室へ入ろうとしているハリソンを押し留めている最中でした。
「私達は彼女のためにできる限りのことはするから」と看護婦は言います。
「だからあなたはここで待っててください」
「ただ待つなんてできねえよ」
ハリソンは部屋の中を見ようと必死で涙声で言います。
看護婦は入口から彼を追い出そうとします。
「ハリソン」とトゥルーは部屋の前に急ぎながら叫びました。
彼は彼女の声も聞こえないようで振り向きもしません。
彼女は彼の腕を掴んで廊下の長イスに腰掛けさせます。
「ご家族ですか?」と看護婦は同情的な口調で尋ねました。
「ああ、彼女は俺の妻だ」とハリソンはウソをつきます。
もし勘違いしてくれれば中に入れてもらえると思いました。
彼は再び立ち上がりドアに近づこうとしましたが看護婦は頭を振ります。
彼はがっかりしてイスに深く座わりました。
「手術が終わったらすぐに知らせるわ」と看護婦は彼に言います。
「先生が彼女のためにできるだけの手を尽くしてくれるわ」
トゥルーは頷いてハリソンの脇に座りました。
「彼女に連絡する家族はいないの?」
看護婦が仕事に戻るとすぐにトゥルーは尋ねました。
「彼女の両親は?」
「彼女は天涯孤独さ」とハリソンは頭を振って言いました。
「それのために彼女はこの町にきたんだ、やり直すために」
「彼女は天涯孤独じゃないわ」とトゥルーが答えました。
「あなたがいるじゃない。彼女にはあたし達がついてる」
「これは全部、俺のせいだ」とハリソンが言いました。
「彼女がアパートにいて、こんな事が起きるなんて予想なんかできなかったでしょ」とトゥルーが指摘しました。
「彼女は俺に最初の日に襲われた時、誰かに見られてるって言ってたんだ。
 もし彼女が家にいたら一人で立ち向かう事なんてできない事を忘れてた。
 最初のやり直しの時にマットを救ってればこんな事は起きなかった」
「そんな事分からなかったんだから」
「そうじゃないんだ」とハリソンはため息をついて言いました。
「最初のやり直しで姉さんが死んだ時。俺はマットをそのまま死なせようと決めたんだ。
 もしそうしなければジャックと停戦なんかしなかった。
 そしてキャシーがあそこにいる事はなかったんだ」
「先生達は彼女のためにできる限りの事はしてくれてる」とトゥルーは言いました。
「そんなのただの方便だ、彼女の容態が悪い事を隠すための」とハリソンはつぶやきます。
トゥルーには言葉がありませんでした。
彼女は今ここで何を言っても何も代わらない事が分かっていました。
彼らは知らせを待っていました。
時計の針を見ても針はゆっくりと進むような感じで彼らは長い間黙って座っていました。

しばらくしてトゥルーはハリソンを一人で残し、カフェテリアに食事に向かいました。
彼女は朝からまだ何も食べていませんでした。
そして今はもうかなり夜も更けていました。
彼女はハリソンに一緒に食事をしようと誘いましたが、彼は静かに頭を振って断りました。
彼女は少しあくびをしました。
今日は長い一日で待つ以外する事がないため尚一層眠くて仕方がありませんでした。
彼女がカフェテリアのドアを開くとそこにジャックがテーブルに座っているのを見て驚きました。
一瞬の彼を無視するのが一番いい方法だと思いましたが、
弟から距離を置くように警告するだけでもと思いました。
”友人を親密にそして敵ならば尚親密に”という諺を思い出しました。
今日、この後の結果次第では彼に特定の注意をする方がいいと思いました。
「彼女の手術は終わったのか?」トゥルーが彼の真向かいに座るとジャックは尋ねました。
「まだよ」と彼女は答えました。
「随分時間がかかってるな」とジャックが言います。
「まずいんじゃないか?」
「あんたはどうしてここにいるの?」トゥルーはぶっきらぼうに尋ねました。
「友達を心配してるからさ」とジャックは言います。
トゥルーは痛烈な皮肉な笑いを放ちました。
「コーヒーを飲むか?」ジャックはドリンクマシーンにうなずき尋ねました。
「俺がおごるよ」
「自分でやるわ」とトゥルーはコーヒーマシンに行きます。
「お好きなように」とジャックは彼女が何か探しているような雰囲気を感じました。
熱い飲み物は知らせを長時間持つ人達にとって病院で頻繁に飲まれる飲物でした。
彼はすでに自分で医者に問い合わせをして十分に説明を聞いていたので、
容態が悪い事を知っていました。
そして彼らが知らせを持っているのも、もうしばらくの間だと思っていました。
ジャックは病院に来る途中で手に入れておいた、ポケットに入れておいた睡眠薬に手を伸ばします。
彼はトゥルーのコーヒーカップに粉薬を入れるチャンスを待ちました。
ありがたい事にトゥルーはコーヒーに砂糖を沢山入れることを知っていました。
彼女がコーヒーの味がおかしいと気付かない事を期待します。
数分後、待っていたチャンスがやってきました。
トゥルーがコーヒーを啜っているとドアが開き看護婦が入ってきました。
トゥルーは何か新たな変化が起きたのかとコーヒーをテーブルに置いて看護婦の下に行きます。
ジャックは彼女が看護婦に質問をしている間に1包み目の粉薬をカップに入れ、
看護婦が彼女の質問に答えている最中にもう1包みを入れました。
「まだだったわ」とトゥルーは席に帰ってきて座りながら言いました。
「しばらくかかるさ」とジャックは言います。
「夜は長いんだからな」
ジャックがコーヒーを飲むように目で促すと、
彼女はジャックの"コーヒーでも飲んで"という合図を受け入れました。
彼女は何も言わずに一気にコーヒーを飲み干します。
「ハリソンのところに戻らないと」とトゥルーはカップを置いて立ち上がって言いました。
「少しここにいればいい」とジャックが言いました。
「あいつに付き添ってたってどうにもならないだろう」
「そういうことじゃない」とトゥルーは悲しげに言いました。
「一緒にいてあげないと」
「どうなるかは分からないが、彼女は大丈夫さ」とジャックが言います。
ジャックはアクビは伝染するという迷信を信じて大きなアクビをしました。
「どうして?」
トゥルーは口を押さえアクビを隠して驚いて尋ねます。
「彼女と君の弟は大いに共通点がある」とジャックは笑って言いました。
「二人とも本当は死んでるはずなのが、未だに生きている。
 それに二人が一緒にいる間は他の人間の運命を変えることはない」
「あんたが手出ししなければね」トゥルーは言いました。
「それに、彼女はあいつのたわごとを聞きゃしない」とジャックが言いました。
「この頃、面白いよ、あいつは尻に敷かれてる」
「ええ、そうかもね」トゥルーはニコリと笑ってから再びアクビをします。
「疲れてるんじゃないか」とジャックが尋ねます。
「少し目を閉じていればいいじゃないか?」
「それはできない」とトゥルーは答えました。
「もしやり直しが起きたらどうするの?」
「君はやり直してないんだろ?」ジャックは外を指さしました。
「今回起きていなきゃいけないのはハリソンだ。
 それにあいつは今晩一睡もしないのは分かってるはずだ」
「そうね」とトゥルーはもう一度大きなアクビをします。
彼女の目はより重くなっていました。
そして彼女は望まなかったけれども頭が段々とうなだれ始めるのを感じました。
彼女は起きているようにと自分に言い聞かせていましたが、
1、2分後には目を閉じてしまいました。
ジャックは窓から見える最高潮に達した嵐を見ました。
彼はトゥルーが安全に眠ってしまった事を確認するとそっと立ち上がって部屋を出て行きました。


トゥルーは看護婦に肩を揺すられて目を覚ましました。
「デイビーズさん?」
トゥルーは頷きながら、寝ていた事に驚きました。
「弟さんがあなたを呼んできて欲しいって。
 彼の奥さんの手術が終わって、先生が話をしたいそうなんだけど、
 彼はあなたに一緒に聞いて欲しいそうよ」
トゥルーは一瞬何の事だか分かりませんでしたが、
ハリソンが看護婦についたウソの関係を思い出しました。
彼女は目をこすって目をこすりながら立ち上がり看護婦の後についていきました。
壁の時計をちらっと見るともう2時間も眠っていた事を知り、
窓の外を見ると一晩じゅう猛威を奮った嵐は既に終わっていました。
彼女はキャシーが無事に助かる事を祈りました。

ハリソンは待合室で行ったり来たりしていました。
「姉さん」彼は彼女を見るとすぐに叫びました。
「医者が俺達に話があるって。
 彼女に会いに部屋に入れてくれないんだ」
近くで待っていた医者は彼ら二人を病室へと導きます。
トゥルーは医者の表情を見て彼女の容態が芳しくないことを悟りました。
そしてこれは弟がより辛くなり、彼の苦しみを和らげてあげるにはどうしたらいいのか分かりませんでした。
医者は彼らの後から病室に入って来てイスに座るよう示しました。
トゥルーは座りました、そして彼女は弟のためにもまずは自分自身を立ち直らせようと努力しました。
医者は話をし始めました。
そして彼女は医者の言葉を聞き逃さないようにしようと思いましたが、
十分に理解でませんでした。
唯一はっきりと分かったことはキャシーの容態は非常に悪いということだけでした。
トゥルーはうわの空でうなずきながら医者に適切な回答をしました。

キャシーの手をしっかりと握り締めているハリソンの脇に座りました。
「俺は彼女を見ている」とハリソンは言いました。
医者は一瞬躊躇った後頷きました。
トゥルーはさほど時も経っていない頃の事を思い出しました。
あの時は弟の遺体を確認するためにこの病院の廊下を歩いていました。
彼女は彼の手をぎゅっと掴みました。
「もう一度やり直して、これを止めないと」とハリソンは医者が離れて聞こえない場所に行くといいました。
「結局、三回目はラッキーだったようだな」とジャックが突然ドアに現れ言いました。
「出て行け」とハリソンは疲れた声で言いました。
トゥルーは弟を見ました。
彼女は弟が怒りを通り越し激怒している顔を見ました。
しかし彼女にはどうすることもできませんでした。
「多分彼女はお前に助けを求めるだろう。
 それとも彼女を守りきれなかったから助けを求められないと怯えてるのか?
 それとも彼女をこのまま殺すか、お前がやったみたいに?」
トゥルーはジャックが一言発する度に弟が握っている手の力が強まるのを感じました。
「出てって」と彼女は小さな声で冷静に言いました。
するとジャックは肩をすくめて出て行きました。
「あいつにも一理あるわ」とトゥルーはジャックが行くと言いました。
「姉さんは俺のせいじゃないって思ってるのか?」
ハリソンはついにトゥルーに振り返って叫びました。
彼女は彼の目がうつろな状態を見て自分の目に涙があふれるのを感じました。
「あたしが言いたいのは彼女が助けを求めるって事よ」とトゥルーが説明しました。
「今日はもう何度もやり直してる、彼女は十分にチャンスがあるわ」
「それならなんで彼女は助けを求めないんだ?」とハリソンはすすり泣きながら言いました。
「あんただって直ぐには助けを求めなかった」とトゥルーが答えました。
「それはまだ彼女が死んでないから。
 彼女は助けを求めるわ。
 最初の日も二回目も彼女は死ななかった、だから今度は彼女を死なせない」
ハリソンは姉の決意に少し微笑みます。
「言ってくれよ、俺に言ってくれ」とハリソンは繰り返しつぶやきます。
トゥルーは涙が頬を伝うのを感じましたが拭おうという気になりませんでした。
「何で言ってこないんだ、姉さん?」ハリソンはすすり泣きました。
「何で助けを求めないんだ?」
「ごめん、ハリー」とトゥルーは頭の振りながら言いました。
彼女は弟の座っている方側にベッドを回り込もうとしました。
突然周りの音が静まりました、そしてトゥルーは心が浮き立つ感じを受けました。
それは遅すぎではありませんでした。
彼女はキャシーに向きます。
すると彼女は目を開きました。
「助けて」キャシーが囁くとトゥルーは時間が巻き戻る感覚に陥ります。

トゥルーは目を開けました。
もう一度やり直すチャンスを得られた安堵感を得て。
しかし彼女の安堵感は直ぐに終わります。
彼女の目を覚ました場所は家のベッドではありませんでした。
それに彼女はやり直しをしていませんでした。
正確に言えば一日の始まりではありませんでした。
目が覚めた時刻は看護婦が彼女を揺さ振って起こした時点でした。
彼女は恐怖に飛び起きて病室へと走りました。


第7章。
彼女は病院の外の壁にもたれているジャックを見つけました。
「知ってたのね!」と彼女はジャックが彼女に振り返ると叫びました。
「ハリソンじゃなくあたしがやり直すのを知ってたのね。
 あたしが眠ったら、彼女を救う事ができなくなるって!」
「よく分かったな、トゥルー」とジャックが微笑しながら言いました。
「一体何なの?」トゥルーは叫びます。
「一体何をしたのか言いなさいよ」
ジャックはにっこり笑いました。
「今晩はいい夜じゃないか?」と彼は普通に話す口調で尋ねました。
「あんたに警告してるのよ」とトゥルーが脅しました。
「ハリソンがやり直すきっかけは何?」
「俺はそんな専門的な事はよく知らないんだ」とジャックが言いました。
「少し複雑でね。
 色んな要因が重なってるんじゃないかな」
「でたらめを言わないで」とトゥルーは言います。
「弟をあたしの代わりにやり直しさせて」
「悪いが、トゥルー、それはできない」
「尋ねてるんじゃなくて、やれって言ってのよ」とトゥルーは言います。
もし必要であれば地面にジャックを叩きつける気で前に進み出ます。
「たとえ俺がそう望んでも、できないものはできない」とジャックは答えました。
「今晩は本当にいい夜だということだけ分かってる。
 こんな晩からよく学ぶべきだ、トゥルー。
 人生は短いんだとな」
ジャックのほくそえみながら彼女に何を告げているのかとトゥルーはジャックを睨み付けました。
「嵐ね」と彼女はつぶやきます。
「トゥルーに2ポイント」ジャックはにっこり笑いました。
「残念ながらこのラウンドは既に終わっているがな」
「遅すぎたわ」とトゥルーは嵐の去った空を見上げて言いました。
嵐はとっくに過ぎ去っていました。
もしジャックが真実を話していたなら、ハリソンがやり直すチャンスは既に失ったという事です。
彼女は彼が嘘をついているかも知れないと思いました。
しかし彼女の心の中では彼は真実を話していると分かっていました。
ハリソンが以前やり直した時も嵐がありました。
それは偶然の一致にしてはあまりにも偶然過ぎます。
もはや手遅れでした。
「誰も永久に運命を逃れる事はできないんだ、トゥルー。
 キャシーはつかの間の借りた時を過ごしていたんだ」
トゥルーは自分の不甲斐なさに嫌悪感を抱き顔をそむけました。
彼女は弟に会うために行かなければならないドアを見ました。
彼女は弟が絶望する事に耐えられるか分かりませんでした。
彼女は向きを変えましたが、足は速く建物から逃げ出そうとしている感じでした。
彼女は今日のこの日は、もう過ぎ去って忘れたいと思いました。
そして彼女は以前キャシーの遺体を抱きしめていた弟の姿を思い出しました。
あの時はやり直しをして彼女を救う事ができたので、
彼は彼女を失なった深い悲しみの事は知りません。
トゥルーがやり直しをしたために彼女だけがその記憶を持っていました。しかし今回はそうではありません。
今回は、彼は記憶を残すでしょう。
今回は一日を始めからやり直す事はどうしてもできませんでした。
ジャックが何を言っても信用できないと分かっていたはずなのに。
ジャックの言葉には必ず隠された裏がある事は分かっていました。
彼女は怒りをジャックにぶちまけようと思いましたが、それは後ですればいいこと。
彼女はハリソンが待つ待合室へと歩きながら彼の希望を壊す事を、
そして自分がカフェテリアで眠ってしまった事を後悔しました。
ハリソンになんと言っていいのか分かりませんでした。
彼女の頭の中で聞こえる声はジャックが最後に言った
"誰も永遠に運命を逃れる事はできないんだ"という言葉だけでした。


トゥルーは再び医者の話に耳を傾けるふりをしました。
彼女は弟と二人っきりになれるまで待ちました。
医者が出て行くと彼女はハリソンに振り向きます。
「ごめんなさい、ハリー」と彼女はつぶやきます。
「彼女は助けを求めるさ」とハリソンは答えました。
「彼女はもうしたの」とトゥルーは近づきながら言います。
「彼女はあたしにもう助けを求めたのよ。
 でも何も変える事ができなかった」
「もう一度やってみればいいんだ」とハリソンは彼女の言葉に驚いた顔で言いました。
彼女が生き返すためなら何度でも繰り返せばいいと彼は思いました。
「ごめんなさい」とトゥルーは涙を流しながら言いました。
「彼女があたしに助けを求めるとは思わなかった。
 あんたに助けを求めるものだと思ってた。
 知らなかった。
 もし知ってたら、あたしは…」
「何なんだよ?」
ハリソンは強張った表情になり尋ねました。
「あたし、カフェテリアで眠てしまったの」とトゥルーはすすり泣きながら言いました。
「ごめんなさい。
 本当にごめんなさい」
「一日をやり直したんじゃないのか?」
「やり直したわ、最後に目が覚めた時間に。
 看護婦があんたのところへ連れて来るために起こしに来た時間に」
ハリソンは何度も頭を振るながら椅子に深く座りました。
弟の涙が流れ落ちるのをトゥルーは見守りました。
彼女はめったに彼が泣くのを見たことはありませんでした。
そのため彼女はこんな事になった罪の意識に胃が痛くなりました。
彼女は後悔しました。
自分がジャックに操られ、そして今全員がその代償を支払ってしまった事に。


「随分とご満悦のようだな」
リチャードは病院の外にまだ立っていたジャックのところへ歩み寄り言いました。
「1人だけだが取り戻した」ジャックはニヤリと笑いました。
ジャックはリチャードに説明します。
「遅れても無いよりはましだな」リチャードはジャックに答えました。
「そうだろ」とジャックが言いました。
「俺は単に二度目の日の損害を修復するだけじゃなく、
 一人を取り戻す事に成功したんだからな」
「三度もやり直しをしてたった一人か。
 まだやり直すかもしれないぞ」とリチャードが指摘しました。
「それならトゥルーは2時間だけ戻るだけだ、それにはもう遅すぎる。
 彼女だって諦めざるおえないさ」
「私の娘は決して諦めないぞ」
「あいつの彼女が永遠に繰り返し死んで、
 トゥルーがハリソンのあの苦しみを見続けると思うのか?
 彼女が絶対に出来事を変えるほど時間を巻き戻る事はないのに?」
リチャードは黙って立っていました。
そして頷くと踵を返して病院内へと入っていきました。
ジャックはニヤリと笑います。
たとえリチャードが認めなくとも、彼はこの戦いに勝った事が分かっていました。


ハリソンがキャシーと共に病室にいる間、トゥルーは待合室で座っていました。
医者は既にここにはいませんでした。
そしてトゥルーはやり直す前の記憶でキャシーが1時間以上前に死んでいる事を知っていました。
彼女はハリソンが寝ずの看病を続けキャシーが死んでしまった事実をいつ受け入れるのか待ちました。
彼女は自分の経験から最愛の人が助けを求めるのを待っていた時、
時間は存在しないように感じる事を知っていました。
彼女はデイビスに連絡を入れました。
何が起きたのかの報告と、しばらくの間仕事に出られないことを告げるために。
デイビスはお悔やみを言ってくれて、そして自分が何もしてやれなかった事を謝っていました。
彼は他に何も言うことができませんでした。
彼女は同じく父親に電話をしました。
何があったのかを教えるために。

リチャードが彼女に近づくと彼女は顔を上げました。
「あの子は?」
リチャードはトゥルーの脇に座って言いました。
「今はまだ」トゥルーは頭を振りつぶやきます。
「彼女と一緒にまだ中にいる」
「私が話そう」とリチャードはトゥルーの腕を軽くたたき言いました。
「お前はここで待ってなさい」
トゥルーは頷いて父親に場所を教えると、
彼は廊下を歩き出し、彼女はその後姿を見つめました。


医者が出て行ってからずっとハリソンはキャシーの枕許に座っていました。
トゥルーは彼の希望で外に出ていました。
彼はトゥルーが一緒ではキャシーが彼に助けを求めないだろうと思っていました。
彼女は彼に嵐のせいで彼がやり直すのだと説明してはありましたが、彼はそれが真実だとは思いたくはありませんでした。
彼は以前の時も嵐があった事を覚えていました。
その時はまだ意味は分かりませんでしたが、今はその意味が分かっています。
残念にも嵐は既に何時間も前に過ぎ去っており、
そしてキャシーの沈黙はやり直しができない事を十分に理解させました。
彼はトゥルーが外で待っている事を知っていました。
しかし彼は病室を出て行く気になれませんでした。
そのため彼はこれから彼らがやろうとしていた事や、
今まで一緒に過ごした楽しかった出来事をキャシーにそっと話をしました。
彼は来月彼女の誕生日に備えて計画を立てていたというサプライズを話したり、
もし彼女がチャンスをくれるんなら仕事を見つけると約束しました。
彼は父親が病室に入って来るのに気付きませんでした。
脇のイスに父親が座った時、父親が来ていた事に気付いただけです。
二人とも長い間何も言いませんでした。
「いつか悲しみは和らぐ」とリチャードが言いました。
「お前の母親が殺されたとき、私はいつそれを乗り越えられるのか分からなかった」
ハリソンは眉をひそめて父親を見ました。
彼は父親の言葉に返事をする必要はないと思いました。
リチャードはエリスが死ぬ前に別の女性と不倫していた事はハリソンも知っていました。
父親は後にその不倫相手と結婚し、三人の子供たちを捨てていました。
ただ最近彼は過去の過ちを償おうとしているのは分かっていましたが。
「それとは違う」とハリソンはついに言葉を発しました。
「これは俺のせいなんだ」
「お前が彼女をこんな風にしたのか?」リチャードは尋ねました。
「もちろんそうではないだろう。
 お前が彼女にこんな事をするはずがないのは、私もトゥルーも分かっている。
 お前のせいではない」
「俺はそれを止める事ができたんだ」とハリソンはすすり泣きながら言いました。
「お前に何かできる事はなかったはずだ」リチャードは息子の肩に腕を回して言います。
「さあ、家に帰ろう」
ハリソンはイスから立ち上がる事を拒否して父親の腕を振り解きました。
「分かった」とリチャードは立ち上がってドアに歩いて行きます。
「気の済むまでいなさい。
 私はトゥルーと一緒に外にいる。
 なに、時間はあるさ」
ハリソンは黙って頷きました。
そしてリチャードは病室を出て行きます。


ハリソンが病室を出てトゥルーが待合室で座っているのを見たのは、それから一時間後でした。
「パパは外で待ってる」とトゥルーは脇に座った弟に言いました。
「何でだよ、姉さん」とハリソンはすすり泣きながら言いました。
「俺が何をしたっていうんだ?」
トゥルーは彼には何の責任もないと言うために口を開きかけましたが、何も言わず口を閉じます。
生気の無い弟の顔を見ると何も言えなくなってしまいました。
それは彼女がジャックを信じたばかりにミスをした事を償う事ができないのと同じでした。
彼女は傷心した弟を見るたびに、罪悪感が膨れ上がります。
「あんたのせいじゃない」と彼女はやっと口を開きます。
「自分のアパートに帰れる?」
ハリソンの顔は青ざめました。
そしてトゥルーは自分の配慮のなさを嘆きました。
「あたしのアパートに来ていいよ」と彼女は訂正しました。
「あんたが必要なだけ居ていいから」
「ありがとう、姉さん」とハリソンは彼女をぎゅっと抱きしめつぶやきました。
彼女は弟の胸の鼓動が聞こえないほどすすり泣いて震えているのを感じました。
二人は支えあって立ち上がります。
別の病室から看護婦や見舞い客がトゥルー達を同情的な目で見ているのを無視しようとしました。
彼女が自分に言い聞かせます。
"ここを出て家に帰るのよ"
もし病院の外に出る事ができれば、今日のこの日はまもなく終わるでしょう。
今日は終わるかも知れませんが、彼女は心の中で朝になればもっと傷心する事は分かっていました。
もう一度、彼女は自分に与えられた能力にがっかりしました。
その力は彼女の心の中では呪いになっていました。
ただ今回は何度もやり直し苦しんでいたのは彼女の弟でした。
ルークが死んだ後、弟は彼女についていてくれました。
彼女はそれが鬱陶しかったのですが、弟のために一緒についていてやろうと思いました。

おしまい。