- 第7話 -

G7の視点カメラからの映像にGトレーラーは凍りついた。
古東の言葉通りゼロシステムが4体。
「古東、誰かにゼロシステムが!」
氷川の声と同時にG7はゼロシステムの1体に飛びつく。
「くっ! 離れろ!」
ゼロシステムの攻撃をおさえるG7にアギトとギルスも加勢する
3対4の闘い、ゼロシステムの戦闘能力が未知数なためアギト、ギルスも戸惑いを隠せない。
人に襲いかかったゼロシステムをアギトが払いのけ、G7がGM-01Rを発砲する。
軽い金属音にゼロシステムは微動だにしない、まったく通用しないのだ。
「くそっ、また効かない!」
GM-01Rの残弾数だけが虚しくその数値を減らしていく。
アギトがゼロシステムに怒濤の攻撃、パンチを繰り出す。
腹、腕、胸、肩、顔、無数のパンチにもゼロシステムには効いていない。
「なに!?」
ゼロシステムはアギトの攻撃をもろともせず、ただG7の元へと歩みをとめようとしない。
「津上! 首を狙え!」
大きく振り上げたギルスクロウをゼロシステムの喉もとに一突きするギルス。
G7と同様の装甲服であるゼロシステムのプロテクターによる防御のない
生身の部分を狙って攻撃すればエネルギー源である肉体は命を絶たれ、ゼロシステムの動きがとまる。
ギルスは同様にもう一体のゼロシステムもギルスクロウの一突きで活動を停止させた。
キックでゼロシステムの膝裏を狙い姿勢を崩させ、
アギトは拳で、G7は手刀でゼロシステムの喉もとにとどめを差した。

 ブシューーーン

ゼロシステムの活動は停止、まさに糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?!」
翔一がゼロシステムに襲われていた被害者の元へ駆けつける。
Gトレーラーから駆けつけた氷川も被害者の元へ。
「天本教授!」
「え?氷川さん知ってるんですか!」
「ええ、この大学の教授の天本教授です。
 教授、大丈夫ですか?!」
「ぅ、うぅぅ」
ゼロシステムに襲われ意識が朦朧としているようだ。
「古東君、けが人を搬送するわよ、天本教授もGトレーラーへ運んでちょうだい。」
脱いだマスクの無線に小沢からの指示が入る。
「了解、被害者13名、ケガ人十・・・三名、死者なし、Gトレーラーへ移動します。」
古東はケガ人を数えながら報告したが、被害者13名全員がケガにとどまり死者がいなかった。
「古東さん、良かったですね、死者がいなくて。」
翔一が古東に近づき笑顔で話しかけた。
「そうですね、不幸中の幸いです。
 あれだけの強さのゼロシステムに襲われて死者がでなかったのは奇跡的です。」
「じゃあ、俺は行くぞ、またな」
涼は足早にバイクに跨がり走り去った。
「ちょっと、古東君、先に行くわよ、また追いかけていらっしゃい。」
「では、僕もこれで失礼しいます。
 津上さん、ありがとうございました。
 またよろしくお願いいたしますって、もうこんなことはなければいいんですけどね。」
古東はマスクを再び装着しグライドチェイサーで警視庁に戻った。

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-Gトレーラー

「それにしても今回は死者がでなくて良かったわね。」
「そうですね、短時間で500人以上も殺傷できるゼロシステムが今回は死者なし。
 でも少しひっかかることがあるんです。」
「どうしたの?そんな眉間にしわをよせちゃって、全部言ってすっきりしなさい。」
「小沢さんは今回の4体のゼロシステムの動きに違和感を感じませんでしたか?
 古東が制止に入ったゼロシステムは天本教授を襲っていましたが、
 アギトが攻撃したゼロシステムもギルスの攻撃したゼロシステムも、
 どれも攻撃を意に介せず天本教授の方へと向かっていたんです。」
「4体全てのゼロシステムが天本教授を狙っていたということですか?
 確かにアギト・ギルスの攻撃は受けても古東の方ばかりを見てましたけど。」
おもむろに尾室が話しだす。
「ということは何?ゼロシステムは天本教授だけを狙ってるっていうの?」
「いや、これまでの無差別殺人を考えると説明ができないのですが、
 今回の件だけで言えばその可能性も十分に考えられると思います。」
考えながら氷川はいう。
「やっぱり天本教授はゼロシステムになんらかの関係がありそうね。
 意識が戻ったら事情聴取したほうがよさそうね。」

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-1時間後

「どう?尾室君、天本教授、意識を取り戻した?」
「はい、軽傷のようですでに意識は回復しています。
 現在全員念のため精密検査を受けていますが17時くらいから事情聴取できそうです。」
「あら、あなたにしたらよく分かってるじゃない。」
「なにいってるんですか、僕だってそれくらいGトレーラーの一員なんですから!
 って氷川さんにさっき聞いたんですけど・・・。」
「やっぱりね、まぁあなたはそんなものよね。
 ところで氷川君はどこヘ行ったの?」
「そ、そんなものって・・・!
 氷川さんなら検査の立ちあいにいきましたけど?
 なんでも二言目には氷川君氷川君って、そんなに氷川さんが可愛いんですか?」
ボソボソと愚痴りだした古東に小沢が一喝。
「あたり前じゃない、素直だし真面目だし、仕事もできるし、あなたとは大違いよ!」
満面の笑みの小沢に尾室の反論の余地はない。
「分かってはいるんですけど、実際に言われると辛いんだよなぁ・・・」 

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-警視庁警察病院病室 前

「どうしたんだ古東、そんな浮かない顔して。」
「え?氷川部長、そんなことないですよ、元気ないように見えますか?ははは・・・」
超単純男・古東。
古東の沈みようは誰が見てもわかるほどのものだった。
ことさら部下思いの氷川のことだ、古東の異変に気付かないはずがない。
「何だ?いってみろ、悩みや不安はひとりでため込まないほうがいいぞ。」
「そ、そうですか?」
「ああ、話すだけでも少しは楽になる。」
「あの・・・今も残ってるんですよ、感触が。
 さっき、ゼロシステムにとどめを刺した時のあの感覚が・・・」
「感覚か、手刀の感覚・・・」
氷川が古東に目をやる。
「クローンとはいっても人間は人間ですよね。」
古東は話しながら尖らせた手のひらをじっと見つめる。
「しかしゼロシステムは多くの一般市民を殺害している、今回の闘いもああするしかなかっただろう。」
「いや、頭では分かってはいるんですがどうしても身体が・・・
 たとえクローンとはいえ、人間ですし、人の命を奪うことはあってはならないじゃないですか。
 クローンにはクローンの命がある、命に重いも軽いもない、そう思うんです。
 人の命を人が奪うことは絶対に許されない、なのに俺が、この手で・・・」
「古東、ゼロシステムは装着したクローン人間の命をエネルギーにしている。
 この場合は古東が命を奪ったとは言い切れない。」
「俺・・・」
「どうした?」
古東の視線の先には検査を終えた天本教授が。

氷川がGトレーラーに連絡を入れる。
「ピ---! 小沢さん、検査が終了しました。
 すぐに天本教授の事情聴取に入ります。」
「あら、早かったわね、事件のあとだからあまり長時間の聴取はしないようにね。」
「はい、古東も一緒ですので終わり次第連絡します。」
精密検査を終えた被害者たちが続々と病室に運び込まれた。
「天本教授、お身体大丈夫ですか?」
ふたりは天本のもとへ駆け寄った。
「ああ、先程は本当にありがとう、助かったよ。」
天本は生気のない表情でゆっくりと礼を言った。
「教授、すべてを話してくださいますね。」
病室のベットに移動した天本、沈黙を破るように氷川が訊いた。
「もう私はすべてを失った。」
「この事件に関して、クローン人間について、ゼロシステムについて、
 ご存知のことをお伺いしたいのですが。」
氷川の声に天本は話しだした。
「ゼロシステムは私が作ったシステムだ。
 ・・・息子がね、死んだんだよ5歳で。
 交通事故だった。無残だよ、病弱な息子がようやく退院したその日だ。
 ついさっきまで笑顔だった命が一瞬にして消えてなくなった。
 私はどうしても信じられなかった。博が死んだなんて信じたくもなかった。
 若い命、入退院の繰り返しで楽しいこともなかった息子がなぜ死んでしまうのか、
 私は仕事の何も手につかなくなった。
 大学での研究も博がいてくれることが私の大きな支え・生きがいだった。
 博がいなくなった時、私の進むべき道が閉ざされた思いだったよ。
 博がいないと私は何もできない、そのとき私は決意したんだよ、博のクローンをつくることを。」
「ということは教授がゼロシステムだけでなくクローン人間も・・・」
「そのとおりだ。それまでも中近東ではクローン人間の密製造はされていた、
 しかしそのクローン人間は検体の記憶を持たないものだった。
 私は完全な博を復活させたかったんだ。
 記憶さえもコピーするクローン製造技術を必死で研究したよ。
 許されないことは分かっている、学会からの抹殺も覚悟した、
 しかし私にはそうすることしかできなかったんだ。」
天本は自らを振返って言葉を選んで話す。
「それで博くんは?」
「成功したよ、見事にね。私をお父さんと呼んでくれてね、あの時は嬉しかったよ。
 でもそんな幸せもすぐに奪われた。死んだんだ、5歳4ヶ月でね。
 同じだよ、博が事故で亡くなったのと。
 博が死んでしまった原因は分からない、急成長技術で育成させたのが原因かもしれない。
 しかし博の寿命は神が司っていたのかもしれない。
 そんなことを考えた時に私は思ったんだよ、
 私は神を越えてやる、生も死もすべて私が司ってやるとね。」
「なんてことを、教授の造ったクローン人間が、ゼロシステムが多くの命を奪っているんですよ。」
氷川は感情をグッとおさえて静かに言った。
「でも教授ならゼロシステムの暴走をとめる手だてがあるのではないのですか?」
「無理なんだよ、もうすでにクローンは私の手の中にはない。
 博を復活させるための記憶再生技術を施されたクローンが誕生しているんだ。
 もうどうしようもないのだ。
 記憶をもったクローン生成の記憶再生にはリスクも伴う、
 しかし、人間としての記憶を再生し、
 その一部を修正することでより効率的で完全なゼロシステムのエネルギー源が完成するのだ。」 

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