第3章『素(しろ)』

(1)
ドア越しにポレポレの店内を覗き込む雄介。
そこには仕込みの真っ最中のおやっさんの姿があった。
ノブに手をかけ開くと、カランカラン!と来客を告げる音が鳴り響く。
「いらっしゃ・・・」
ふっと顔をあげたおやっさんの動きが、一瞬止まる。しかし・・・
「おう、帰ってきたな。」
さして気にする風でもなく、おやっさんは仕込みの作業に戻る。
「?驚かないんですか・・・?」
おやっさんの意外な反応に不思議がる一条。
「あー、こいつの放浪癖には慣れっこだからね。今さら別に・・・」
「ははっ、でもおやっさん涙出てますよ?」
茶化す雄介。
見れば確かにおやっさんの目には光るものが・・・
「バ、バカ!こりゃお前、今タマネギ切ってたから・・・!」
「でもそれ、ニンジンですよ?」
「ぐ・・・こ、これは一見ニンジンに見えるが実は新種のタマネギで・・・」
二人の漫才のようなやり取りを見て思わず一条の顔がほころぶ。
(これが、この二人なりの再会の挨拶なんだろうな・・・)
カウンターに座り、談笑していた雄介が、同じく隣でコーヒーを飲んでいる一条に向き直る。
「ところで一条さん、アギトに心当たりがあるって言ってましたよね?それでどうしてココに?」
「ああ、その事なんだが・・・。」
ちらりとおやっさんの方を見やる一条
「すみません、昼過ぎにココに来た時に今日からバイトしているという青年に会ったのですが・・」
そう問い掛ける一条に、おやっさんが答える。
「今日から入ったバイト?・・・ああ、津上君のことかな?」
「津上・・・それで、今彼は?」
「昼休み取るって飛び出したと思ったらヨレヨレになって帰ってきてね。
 初日だし、今日はもういいからって上がってもらったよ。
 どしたの、彼と何かあったの?」
「あ、いえ。昼に会ったときに好感の持てる青年だったものですから。そう、まるで・・・」
一条が隣に目をやる。
ホットミルクに息を吹きかけ冷ましている雄介。
「似ている、か・・・面接したときに私もそう思いましたよ。」
おやっさんも又雄介を見つめる。
やっと飲み頃になったミルクに口をつけようとしていた雄介も、
ようやくそんな二人の視線に気付く。
「な、何ですか二人して!?」
照れ隠しに一気にミルクを飲み干そうとした雄介だったが、中の方はまだ冷めておらず・・・
「!!熱っ!」
舌を火傷し悶える雄介に、顔を見合わせ苦笑する二人であった。

(2)
深い森に立つさびれた洋館・・・
イレギュラー達の巣窟に黒と白の怪人―ゲノムとバゴーの姿がある。
「先のセル復活の際の戦い・・・クウガ以外にも霊石の波動があったな。」
「最初に現れ、セルと戦っていた奴の事か?」
「そうだ。
 ・・・それともうひとつ、ジュウザからもクウガに似た戦士と戦ったとの報告があった。
 霊石の反応も感じたそうだ。時間的に見て同じ奴ではない。
 ・・・だが霊石をその身に宿し、戦士となった者はクウガ一人のはず。
 ならばそいつらは何者なのか・・・?」
「セルの吸収した人間達の記憶によると、セルが戦った奴は『アギト』と呼ばれる存在らしい。」
「アギト・・・?」
その言葉に心当たりがあるのか、ゲノムは腕を組み、記憶を呼び覚ますかのように目を閉じた。
「・・・かつて神々の戦いあり。
 命を産み育みし神、生命を愛す、されどその未知なる可能性を恐れん・・・。
 エル・・・其は命の長・・・仇なす希望を摘みし神の使い・・・
 地、水、風・・・全てが神に従いしその時、神苦悶す。
 白き光・・・希望を守らんとする神の移し身・・・残されし力を・・・闇照らす炎を希望に与えん。
 其は炎を纏い光となる龍・・・其の者の名は・・・アギト・・・」
「!?」
「古き言い伝えだ。
 その後、アギトにより神の使いは倒され、神自身も追放されたという。
 生物の中でヒトだけが火を恐れず操る事ができるのは、
 炎のエル・アギトがその祖であるからだ・・・と。」
「ふん・・・」
ゲノムの昔話にさして興味なさそうに、バゴーは壁にもたれかかる。
「・・・で?そのアギトとやらにも霊石があるってのか?」
「そうだ。
 これは私の推測だが、クウガの霊石はアギトの物を元にした、ほとんど同質の物なのではないか?
 我々の目的を果たすためにはより強力な霊石が必要だ。
 数は多いに越した事はない・・・」
「おっと、待った!何度も言うが俺の目的はあくまで奴との・・・クウガとの戦い、只それだけだ!!
 霊石の事など、その『ついで』にすぎん。」
言葉をさえぎられたゲノムは、やや呆れながらもバゴーの言い分を聞き入れた。
「・・・判った判った。クウガの件はお前に任せる。
 アギトは・・・セルにやらせよう。
 復活早々に手ひどい傷をつけられて、かなり頭にきていたようだからな・・・
 怒った子供ほど手のつけられんものはない。」
「ふん。怒りに我を忘れるようでは、遅れをとるのではないか?」
「セルもそこまで愚かではないさ。まぁ一応クギは刺しておくがな。言っておくが、お前もだぞ?」
「ち、俺としてはさっさとケリを着けちまいたいんだがな・・・」
「時が来れば、好きなだけやれるさ。約束の地・・・大いなる精霊の膝元で、な・・・。」

(3)
再びポレポレの店内。
「さて、と。それじゃ一条さん、そろそろその津上さんトコに行ってみましょうか。」
「ああ、そうだな・・・」
そう言いかけた時、ピリリリ・・・・!と一条の携帯が着信を告げる。
「おっと・・・はい。はい一条です。はい・・・」
話を中断させられ手持ちぶたさな雄介に、後片付けをしながらおやっさんが話かける。
「ところで・・・雄介よ。」
「はい?」
「もう、ここの他に行かなきゃいけない処は無いのか?」
「!・・・おやっさん・・・」
「お前の顔が今一番見たいのが誰か・・・言うまでもないよな。」
洗い物をしたまま顔を上げないが、おやっさんが何を言いたいのか雄介には充分わかっていた。

「・・・はい、わかりました。それじゃあ。」
丁度その時、一条の電話が終わる。
「ふぅ・・・」
困惑した顔で深いため息をつく一条。
「?どうしたんです一条さん?」
「ん・・・ああ、榎田さんからだったんだが・・・
 氷川君が我々に合流したいと言って聞かないそうなんだ。
 ここに居ると聞いて、既に飛び出してしまったらしい。
 ややこしい事にならなければいいんだが・・・。」
「あー、俺の時もかなり興奮してましたもんね。」
「ふむ・・・もし彼がアギトも君と同じように英雄視しているとすると・・・」
ふと、おやっさんがじっと見ている事に気付く。
電話をしながらも二人の会話を聞いていた一条はすぐその意味を理解した。
「・・・五代、今日の所はここで別れよう。氷川君には俺が話しておく。」
「えっ?でも一条さん・・・」
反論しようとする雄介を制し、一条は言葉を続ける。
「焦らなくても津上君はここで働いているんだから明日になれば会えるだろう?
 それに・・・帰ってきたばかりだろう・・・?」
「あっそうだ、そういえば俺明日用事が会ったんだよなぁ。
 明日は津上君と、やっと帰ってきた誰かさんに店番頼むか。」
気を利かせてくれた一条に感謝しつつ、おやっさんも相槌をうつ。
「あ・・・」
おやっさん、そして一条。二人の心遣いに、雄介は心の中で深く感謝した。
「判りました。それじゃ俺、これで失礼します。」
脇に置いていたヘルメットを掴み席を立つ雄介。
ドアを開いた所で一旦振り返り、二人に頭を下げる。
ビートチェイサーのエンジン音が響き、やがて遠くなっていく。
「すみませんね。気を遣わせちゃって・・・」
「いえ、私も同じ事を考えていましたから。」
「それにしても雄介だけじゃなく津上君までとは・・・
 これも因果ってヤツなのかなぁ。」
おやっさんの呟きに驚く一条。
「!!・・・ご存知だったんですか?」
「ははは・・・まぁ流石の私でもね。
 ・・・あいつらの事、よろしくお願いします。」
「はい!」
真剣な表情で深く頭を下げるおやっさんに、一条も力強く答えた。

(4)
みのりの部屋の中で、涼は「変身」するというみのりの兄の話に聞き入っていた。
「・・・兄は人と争うのが本当に嫌いな人なんです。
 でも、人が傷つくのを見るのはもっと嫌で・・・
 だからこそ、未確認達が人間を襲い始めたとき、自ら戦う事を選んだんです。
 誰かの・・・笑顔のために。」
「笑顔・・・」
「私、戦士になって戦うようになった兄に尋ねた事があるんです。
 『もう戦うの平気になっちゃったのか』、って・・・
 今思えばバカだったなぁ。
 戦士になっても兄は兄のまま・・・
 ただ自分に今できる事を精一杯やるんだ、って。」
「自分が・・・今できること・・・」
自ら異形の姿に変わる力を取り込み、それを他人のために使ったというみのりの兄。
それに引き換え、今の自分はどうなのか・・・
自問してみた涼だったが、すぐに打ち消した。
(そうだ。俺はこんな力なんて欲しくはなかったんだ!)
「だが、こんな力を持っていたら・・・気味悪がったり、妬む連中もいる。
 頭に来たりイヤになる事もあっただろう。」
言ってから、涼は自嘲気味に苦笑した。
「そうですね・・・」
その言葉に涼は驚いた。
兄思いそうなみのりのこと、てっきりムキになって反論してくると思っていたのだ。
「兄も、憎しみに心を囚われそうになった時があったと思います。
 でも、兄はそんな気持ちに負けませんでした。
 だって・・・兄は誰よりも悲しみと、その辛さを知ってる人だから。
 だから誰よりも優しくなれる人なんです。」
「悲しみを知っている・・・だから・・・優しくなれる・・・?」
「あはは、湿っぽくなっちゃいましたね。
 あ、そうだ!夕飯の支度しなきゃ。芦原さん何か食べたいものあります?」
「いや・・・俺はもう帰るから・・・」
「何言ってるんですか。それじゃ私の気が収まりませんよ。遠慮しないで食べていってください。」
「いや、本当に・・・グッ・・・!!」
慌てて起き上がろうとした涼であったが、まだ体の痛みは抜けきっておらず、崩れ落ちた。
「ほらほら、まだ無理するなって事ですよ。ゆっくり寝ててください。」
子どもをあやすように涼をベッドに寝かしつけ、その額に手を置くみのり。
「あ・・・」
手のひらを通して、みのりの体温が伝わる。心地よい、なにか懐かしい感覚・・・。
「・・・それじゃ、大人しくしててくださいね。」
そう言って軽く頭をなでると、手早く身の回りを整理してみのりは買い物に出て行った。
「不思議な・・・女だ・・・」
まだ少し温もりの残る額に触れながら目を閉じると、涼は程なく眠りに落ちていった・・・

涼は夢を見ていた。
深い闇の中を彷徨い、もがいている涼。
だがその時、一筋の光が射し涼を照らし出す。
その光の先に立つ一人の女性、微笑むその女性の顔は・・・

(5)
風谷邸、翔一は居間のソファーに突っ伏していた。
闘いのダメージが残っている事もあったが、それ以上に
翔一の関心はクウガ=五代雄介に向けられていた。
自分以外にも「変身」して戦っている者が居る―――
それは驚くべき事であるが、同時に嬉しい事でもあった。
もちろん、氷川誠=G3も共に戦う『同志』であるが、
「変身」して戦う、本当の意味での『同士』に、初めて出会えたのだ。
もぞもぞとポケットをまさぐり、手渡された名刺を見る。
「五代・・・雄介さん、か・・・。」
雄介の人懐っこい笑顔が思い出される。
見ているだけで元気になれるような、とびきりの笑顔。
「どしたの翔一くん?さっきから唸ったりボ〜っとしたり。」
横からひょっこりと真魚が顔を覗かせる。
「え?ああ、うん・・・ちょっと考え事してたから。すぐ夕飯作るね。」
名刺をポケットに戻し、まだ傷みの残る腹をさすりながら立ち上がると、翔一は台所へ歩き出した。
「翔一くん・・・なにか良いコトあった?」
すれ違い様、不意に真魚が問い掛けた。
「ええ?真魚ちゃん、急に何よ!?」
「ん・・・なんか翔一くん嬉しそうかな、って思ったから。」
「そお?う〜ん、そうだな・・・良い出会いになってくれるといいんだけどね。」
真魚は台所の椅子に腰掛け、鼻歌まじりに慣れた手つきで料理する翔一を眺めていた。
「ねえね、そう言えば翔一くんのバイトって何やってるの?」
「あっ、そう言えば朝はバタバタしてて言い忘れてたね。
 『ポレポレ』っていう喫茶店だよ。」
料理の手を止めることなく、返答する翔一。
「ふ〜ん、喫茶店かぁ。あ、ねえねえ翔一くん。明日私も行っていいかな?」
「え?行くって・・・真魚ちゃんもバイトするの?」
「もぉ、違うよ。お客さんとして行っていいか、って言ってるの!」
「あ、そっかそっか。・・・うん、明日は俺も昼からだから、ランチに丁度いいね。」
「じゃ決まりだね。ねね、その御店のオススメメニューとかって何があるの?」
その真魚の言葉を待っていたかのように、翔一がクルリと向き直る。そして・・・
「オ〜リエンタルな味と、香り・・・カレー(辛え)カレーかな?」
一瞬にして周囲の気温が下がり、固まる真魚。
翔一だけが一人得意そうに再び料理に取り掛かっていた・・・

(6)
城南大学の研究棟、蔦の絡まる古いレンガ造りの壁を一つの影がよじ登っている。
影は目的の部屋の窓が開いているのを確認し、
ゆっくりと音を立てないように近づき、中を覗き込む。
部屋を見回すと、中では一人の女性がパソコンに向かって作業中のようであった。
窓を背にしているため、影の存在にはまだ気付いていない。
そっと部屋に忍び込んだ影は部屋の一角に飾られた不気味な面の一つを手に取ると、
それを被り女性を振り向いた。
まだ気付いていない、そう判断した影は忍び足で女性の背後にまわる。
今まさに襲い掛からんとした、その時・・・!

「!うわっ!!!」

くるっと椅子を回して振り返った女性に、影の方が驚きの声を上げ、そのまま後にひっくり返る。
女性もまた影と同じような仮面をしていたのだ。
「あははは、そう何度も同じパターンだと誰もひっかかんないよー。」
仮面を外しながら女性=沢渡桜子は可笑しそうに笑う。
「参ったな・・・」
影=雄介もバツが悪そうに仮面を外す。
「でも、なんで判ったの桜子さん?」
仮面を元の場所に戻しながら、雄介は当然の疑問を桜子に尋ねた。
「これだよこれ」
そう言いながら桜子は手にした携帯電話を見せる。
「五代君が来る前に、一条さんから電話もらったの。
 五代君がこっちに向かってる、いつもの登場するだろうから
 『丁重に』お迎えしてやってくれ、ってね。」
「一条さぁん・・・」
雄介は苦笑いすると仮面を元の場所に戻すべく立ち上がった。

「これで良し、っと・・・ん?」
壁に仮面を戻していた雄介は突然背中に何かが当たる感覚を覚える。
「本当に・・・本当に五代君なんだよね・・・?帰って来て・・・くれたんだよね・・・?」
それは桜子だった。
今にも零れ落ちそうな涙を必死にこらえ、雄介の存在を確認するようにしがみ付いていた。
「・・・うん。ただいま・・・桜子さん。」
「ゴメン・・・しばらく・・・こうしてても良いかな・・・?」
「ん・・・」
静かに、緩やかに、止まっていた二人の時間が動き出していた・・・

(7)
夜の帳が降りた街に暗躍する影が3つ・・・
一つは蒼く、一つは紅く、そしてもう一つは白い影。
「感じる・・・感じるぞ!波動を、霊石の波動を!!ボクに傷を付けたアイツの波動を!!!」
「フフ、アタシは一度狙った獲物は逃がさない・・・待ってなさい!」
「今度こそ・・・今度こそケリをつける・・・クウガァ!!!」

そして運命の夜は明ける―

(8)
窓から朝日が研究室に差し込む。
「ん・・・?ふぁぁ、もう朝かぁ。」
ひとつ大きく背伸びをすると、雄介はまだ寝足りなそうにしながらもノロノロと起きだした。と、
「う〜ん・・・」
隣で眠っていた桜子も目を覚ました。
「あ、ゴメン。起こしちゃった?」
「おはよー・・・ん〜、いいよいいよ。んむ〜、今何時・・・?」
「え〜っと、8時、だね。」
「もうそんな時間なんだぁ。朝ご飯どうする?」
「う〜ん・・・そうだ、どうせならポレポレで食べない?オレ何か作るから。」
「あっいいねソレ!私も久しぶりに五代君の手料理食べたいし。」
雄介の提案に桜子も同意する。
「じゃ決まり。あ、そうそう、それに今日ポレポレで一条さん達と人に合う予定だったんだ。」
「あ、例の事件がらみ?
 それなら私もノートPCもってかなきゃ。五代君にも色々伝えることあるし。」
「俺に?何々?」
「まあまあ、まずはポレポレで腹ごしらえしてからにしましょ。」
「あ、ちょっ、桜子さん待って!」
こうして雄介と桜子はそれぞれのバイクでポレポレへと向かった。

風谷邸。真魚はリビングのソファで腕組みし、何か憮然とした表情をしている。
と、そこへ駆け込んでくる翔一。
「うっわぁ!寝坊だよ!!真魚ちゃんなんで起こしてくんないの!?」
慌てて身支度しながら真魚を非難する翔一だが、真魚は一向に動じない。それどころか
「何言ってるの。私せっかくの休みなんだよ?
 それより翔一君こそ、朝ご飯できてないじゃない!」
謝るどころか、逆に怒られてしまう翔一。
「あのね、俺今起きたんだよ!?昨日疲れてたんだから!」
「そんなの関係ない!どうするの!?」
「ど、どうするったって・・・あ、そうだ。
 俺これからバイトの仕込みに行くから、真魚ちゃんも一緒に来る?
 そこで何か作るからさ。」
真魚の剣幕にあっさり降伏した翔一が譲歩案を提示する。
「う〜ん、よし。じゃあそうと決まったら早く行こう!ホラ、翔一君グズグズしない!!」
「あっ、ちょ、ちょっと真魚ちゃん!俺まだズボン履いてない・・・」
「はーやーくー!」
「はいっ!!」
翔一のバイクにタンデムすると、二人はポレポレへと走り出した。

みのりのアパート。
テーブルを挟み朝食をとるみのりと涼。
朝目を覚ました涼は出て行こうとしたのだが、
みのりに引き留められ、最後には泣き出しそうなみのりに根負けしたのである。
「あ、芦原さん、今日何か約束とか予定あります?」
「いや、特には・・・」
涼はすぐにしまった!と思ったが時既に遅し・・・
「そうですか!良かった〜。
 実は芦原さんに良いバイト先を紹介しようと思って。
 私も時々お手伝いしてる喫茶店なんですけどね。
 昔からお世話になってる人がマスターやってて・・・
 ちょっと変わってますけど良い人なんですよ。
 ちょうどそのお店がバイト募集してるんです。
 芦原さんなら真面目そうだし、上手くやっていけると思いますよ!」
「い、いや、俺は・・・だいいち喫茶店なんて客商売、俺のガラじゃ・・・」
勝手に話を進めるみのりに、涼も無駄とは承知しつつ反抗してみる。
だが、結局また泣き出しそうになったみのりに涼が折れ、
行くだけ行ってみると承諾させられてしまうのだった。

こうして廻り始めた運命の歯車は、ポレポレへと収束していく・・・

(9)
ポレポレへと到着した雄介と桜子、だがそこには先客の姿があった。
「遅かったな、ごだ・・・」
「五代さん、おはようございます!今日はよろしくお願いします!!」
・・・一条と、いまだ興奮冷めやらず雄介に握手を求めてくる誠であった。
「お、おはようございます」
思わず身じろぎしてしまう雄介。
「おはようございます・・・
 氷川さん、でしたよね?
 なんだか昨日お会いした時と印象違いますね・・・」
「えっ?」
そう言われ誠は雄介の隣に居る桜子を見やる。
まるでその存在に今気付いたように、いや実際今気付いたのだ。
「あ、あれ?沢渡・・・さん?どうしてココに??」
「氷川君、昨日話したろう?未確認との戦いの時、
 古代文字を解読して我々をバックアップしてくれた女性が居たと。」
混乱している誠を見かね、一条が助け舟を出す。
「それが沢渡さん・・・そうでしたか!
 改めてよろしくお願いします!氷川誠です!!」
「あ、痛たたたた!!」
納得いった誠は桜子の手をにぎると思いっきり振る。
「ハハハ・・・」
ただ苦笑するしかない雄介と一条であった・・・

合鍵を使い、雄介たちはポレポレの店内に入った。
「さて、と。彼が来るまではもう少し時間あるかな?
 一条さん、俺と桜子さん朝飯食べてないんで何か作って食べようと思うんですけど、
 一条さん達も何か食べますか?」
壁にかかったエプロンを取って身につけながら、雄介が尋ねる。
「いや、もう済ませてきたんだ。」
「そうですか。じゃあコーヒーでもいれますね。」
「あ、いいよ五代君。コーヒーはあたしがやるから料理の方お願い。」
雄介に続いてカウンターに入った桜子が、棚からサイフォンを取り出しコーヒーの準備を始める。
「OK!俺ももう腹ペコペコだしね。桜子さん、何かリクエストあるー?」
フライパンに油をひきながら、肩越しに雄介が尋ねる。
「んー?シェフにお任せするよー。」
「かしこまりました〜。」
二人のやり取りを微笑ましく眺めていた一条は、ふと隣で呆けたような顔をしている誠に気付く。
「?どうした、氷川君・・・?」
不意に一声をかけられ、誠がビックリして一条に向き直る。
「ハ、ハイ!?何でしょう一条さん???」
「なんだかボーッとしているみたいだったものでね・・・どうかしたのか?」
誠は困ったような顔で下を向くと、モゴモゴと口ごもりながら答える。
「いや、やっぱりその・・・
 とてもあの未確認相手に死闘を繰り広げてきたようには見えないなぁ、と・・・」
一条はフゥとひとつ溜息をつくと、諭すような口調で誠に語りかけた。
「氷川君、昨日も言ったが『戦い続ける』という事の精神に与える負担は並大抵のものではない。
 いつもピンと張り詰めていたら、いつかそれは切れてしまうだろう。
 心にゆとりを持つというのは大切な事だ。
 そのゆとりが周囲を和らげ、そしてその周りからまた自分も安らぎをもらえる。」
「ゆとり、ですか・・・」
感心しながら聞き入っている誠。
一条はそんな誠にかつての自分の姿を重ね、自嘲気味に笑う。
「もっとも・・・俺自身も以前はそうだったんだがな。教えられたんだ。彼に・・・」

雄介が作った朝食と、桜子が入れたコーヒーを楽しみむ4人。ふと雄介の手が止まる。
「あ、そういえば桜子さん。さっき俺に話したい事あるって言ってなかった?」
「ああ、そうそう!えっと、ちょっと待ってね。」
言いながら桜子は荷物の中からノートPCを取り出し、起動させた。
「昨日氷川さんにも言ってたんだけど、五代君が0号を倒した後、
 私もう一度長野に行って九郎ヶ岳の遺跡を調査してみたの。
 それで石棺の瓦礫の下に更に奥へと続く通路と奥にある部屋を発見したのよ。
 それがこの写真。」
桜子がPCを操作して画像ファイルを開く。
見覚えのある九郎ヶ岳の遺跡である。
画像は更に奥へと変わり、
何か仕掛けでもあるのか壁自体がぼんやり発光している石室が映し出されている。
「五代君の前にも古代にグロンギと戦った戦士クウガが居たのは判っていたよね。
 でも、その人が『最初のクウガ』っていう訳じゃないみたいなの。
 霊石は当初この最深部の石室に納められていたらしいわ。
 誰が造ったのかは不明、
 でも災いをもたらす者から人々を護った英雄の力をもたらす物として大切にされていたの。
 だけど時が流れ、グロンギとの戦いが始まったとき
 封印を解かれた霊石の力はリントにとって大きすぎた・・・。
 だからリントは大きすぎるその力を恐れ、一種のリミッターを取り付けたのね。
 霊石を身に付けた者の心の強さに応じて、制御できる限りの強さを引き出せるように。
 だから五代君の決意が強くなる度に、クウガは新たな姿に変われるようになったのかもね。」
桜子の話を聞きながら、雄介は自分が昨日椿に語った仮説の正しかったことを確信していた。
「そして、その『最初のクウガ』が戦った災いをもたらす者って言うのが・・・」
桜子が更にPCを操作すると、石室の周りに描かれた4枚の壁画が映し出される。
「!?こいつらは昨日の・・・!!」
その壁画に描かれていたのは、まぎれもなくイレギュラー達であった。
黒、白、青、そして見知らぬ赤い怪人。
「壁画の周りの記述によると、この4体は『選ばれざるもの』と呼ばれていたみたい。
 一体に何に選ばれなかったのか、そこまでは良く判らないんだけど・・・」
桜子の操作で、画面が部屋の中央に立つ石碑に変わる。
中段に何かが安置されていたらしき溝があり、その上には・・・
「!これって・・・4号じゃないですか!?」
驚きの声を上げる誠に対し一条と、そして雄介は何故か冷静だった。
「あれ?一条さんは私がこの写真撮りに遺跡に入った時に同行してくれてたから判るけど、
 五代君までえらく冷静だね?」
「・・・うん、一回見てるからね。別の国の遺跡でだけど、ね・・・」
桜子の素朴な疑問に、だが雄介は意外な答を返した。
「俺が帰ってきたのも、その遺跡の護り人から今度の異変を予期した記述を見せられたからなんだ。」
雄介は椅子に腰掛けなおすと、深く息を吐いた。
そして目を閉じると、護り人の言葉を一言一句間違えぬよう正確に思い出しながら語り始めた。

『・・・はるか古の時代。神々の戦いありき。
 人を滅ぼさんとする闇の神と、それに従いし風、地、水の長・・・
 人を護らんとする光の神と、それに組す火と、木の長。
 永き戦いの果て、光の神と火の長は遂に闇とその眷属を封ず。
 その命と引き換えとして・・・。
 永遠を生きるが故一人残されし木の長はその孤独を嘆き、
 愛せる火の長の姿、力模せし者を創らんとす。
 生命司りし木の長は、その力もて神秘の力を秘めし「珠」を生む。
 「珠」を宿し命、様々なる姿となりて地を満たす。
 なれど、未熟なる者が力を持つ時、再び動乱を呼ぶ・・・
 力に溺れし者が母なる木の長に迫る時、荒ぶる力に屈せぬ心強き者現れリ。
 木の長、この者をして呼ぶは火の長の名。彼の者の名は・・・」

カラン、カラン!その時、店の扉が勢い良く開かれた。
雄介はゆっくりそちらを振り向くと、言いかけていた言葉を続ける。
「彼の者の名は・・・アギト。」
雄介と翔一、素顔での邂逅の瞬間であった。

(10)
ポレポレの店内に3人のライダーが集った、だが、その表情は三者三様・悲喜こもごもであった。
困惑の表情でそわそわと落ち着きの無い翔一、
その翔一を穏やかな微笑を浮かべて見つめる雄介、そして…
「そ、そんな!?
 つっ、津上さんが、津上さんがア、アギッ、アギトォーっ!?!?!?!?」
驚きのあまりパニックに陥る誠。
一条と桜子はそれを必死になだめていた。
「えっと、あの、いや…それはその…」
答に窮する翔一の横で、真魚はじっと初対面の三人を見つめその真意を見定めようとしていた。
人間にはいわゆる「第六感」と呼ばれる超感覚が存在する。
超能力者である真魚はそれが並外れて鋭い。
以前、翔一がアギトに変身する事実を目の当たりにした時、
彼女は意外な程すんなりとそれを受け入れた。
風谷家で共に過ごした時間の成せる業であるという向きもあるだろうが、
彼女の直感が彼の本質を見抜き邪なる者ではないと判断させたのである。
今また真魚は目の前の三人の本質を見極めようとしていた。
(長身の男の人…さっき聞いた話だと氷川さんと同じ刑事さんは…炎…でも、暴力的な炎じゃない。
 闇を照らし出し、獣を退ける…強い信念に支えられ、揺るぎなく、見ていると勇気付けられる炎。
 隣の女の人は…風、かな?春のそよ風みたいな暖かさを感じる人。そして…)
雄介に向き直った真魚は、そこに見たビジョンに言葉を失った。
抜けるようにどこまでも青く澄み渡り、見ているだけで吸い込まれそうな空。
それが雄介の心だった。
「…翔一君…この人たちは信用できるよ。大丈夫。」
確信を持ってそう助言する真魚に、翔一も意を決する。
「真魚ちゃん…わかったよ。えっと五代、雄介さん…でしたよね…そうです。俺が…」

朝食を済ませアパートを出た涼とみのりも、
涼のバイクで昨日約束した店・ポレポレへと向かっていた。
途中何度か涼は説得を試みたのだが、ことごとく却下されていた。
(俺には客商売なんて無理だってのに…まぁ行くだけ行ってそのマスターに言えば良いか…)
「あっ、芦原さん!そこの交差点を右へ!そしたらもうお店が見えますから!!」
みのりの的確なナビのおかげで、迷うこともなく二人は目的地へ到着した。
「はい着きました。このお店なんですけど…って、あれ…?あのバイク…」
みのりの視線は駐車場の端に留められた1台のバイクに釘付けになった。
見間違えるはずも無い、忘れる筈も無い銀地にブルーラインのそのマシンの持ち主は…
反射的に店内を見渡す。
奥の席に座る「その人」を見つけると、みのりの目から涙が零れ落ちた。
「帰って…来たんだ…お兄ちゃん…」
みのりの言葉に、涼も店内・奥の席を覗き込む。
「ん?あいつは…」
みのりの兄らしい男の前の席。
そこには涼の見知った男が腰掛けていた。
色々あって、涼はその男が苦手だった。
まずいな…と後ずさる涼の背中をみのりが留める。
振り返ると、さっきまで泣いていた筈の顔は悪戯っぽい笑顔に変わっていた。
一瞬、涼の頭に嫌な予感が走り、それは的中する。
「芦原さん、私良い事考え付いちゃいました。
 今お店の中にしばらく会ってなかった私の知人がいるんですよ。」
「ああ、なぜか俺の知ってる奴も居る…はっ!?」
そこまで言って「しまった!」と思った涼だが時既に遅し。
更に瞳を輝かせてみのりは言う。
「そうなんですか!?じゃあ好都合ですね。
 こっそり入って行って脅かしちゃいましょうよ!」
言うが早いか、みのりは涼の手を取り音を立てないように入り口へと向かう。
ドアの鈴を鳴らさないようにそっと開き、中に入る。
死角となる奥の席に居るのが幸いし気付かれてはいない。
膝を付き、そろそろとみのりは進んでいく。
その後に渋々続いた涼はその時、思いがけない言葉を耳にする―

「…そうです。俺が…俺が『アギト』です」

ドクン!!その瞬間、涼は心臓の鼓動が早鐘のように高鳴るのを感じた。

(11)
無我夢中だった。
気がつくと飛び出し、翔一の胸倉を掴み引きづるように立ち上がらせていた。
「っぐ・・・あ、貴方は!?」
翔一は当然物陰から現れ、今自分を締め上げている男に見覚えがあった。
「お前が・・・お前がアギト!?なら・・・お前が亜紀をッ・・・!!!」
明らかに殺意の込められた力で涼が翔一を締め上げる。
ここに到って、急展開に呆けていた雄介達も慌てて制止に入ろうとするが、
涼は近付く事を許さない。
更に翔一の首を絞める腕に力を込めようとした、その時・・・!
「芦原さんっ!!!!」
飛び出したみのりが精一杯に声を荒げながら涼にしがみ付いた。
涼はハッとして一瞬みのりを見たが、すぐに目を逸し・・・
「・・・来いっ!!」
みのりを軽く振りほどき、翔一の服を引っつかむようにしてポレポレから飛び出していく涼。
「みのり!」
「みのりちゃん大丈夫?」
雄介と桜子が駆け寄り、みのりを抱き起こす。
「今の彼は一体・・・?」
「あ、私あの人見たことあります!」
「私も、何度か見かけたことが。殴られたことも・・・」
「それよりっ!早く後追いかけないと!!」
誠の言葉を遮ってみのりが一早く駆け出す。
それに雄介、一条、桜子、真魚も続く。
「あ・・・」
「氷川さん!早く!!」
話の腰を折られ硬直していた誠を真魚がせかす。
「え?あ?は、はい!!」

「うわっ!」
抵抗しながらもずるずる涼に引きずられた翔一は、
近くにあった公園の芝生に投げ出された。
「ゲホッゲホッ・・・なんでこんな事を・・・?」
「なんで・・・だと!?お前の胸に聞いてみろ!!」
「えぇっ!?え〜っと・・・?」
胸に手を当てて真剣に心当たりがないか考え始める翔一を無視して、
涼はゆっくりと体制を整える。
「お前の殺した榊亜紀の仇・・・!今ここで晴らしてやるッ!!」
「えっ!亜紀さん!?亜紀さんを・・・俺が殺した!?!?」
突然かけられた冤罪の言葉に驚く翔一。
だが、真に驚くのはこの後だった。
「変身!!」
翔一にとっては聞き慣れた、だが本来ありえない筈のキーワードを涼が放ったのだ。
そして、遅れて駆けつけた雄介達も目撃した。
涼の体がギルスへと変わるその光景を。
「行くぞ!!」
「くっ・・・!」
ギルスの突進をかろうじてかわした翔一の腰に変身ベルト・オルタリングが出現する。
「変身!!」
変身ポーズをとり、翔一がアギトへと変身すると、
2人のライダーは真っ向から組み合った。
「氷川君あれは・・・!
 確か報告書にあったアギトとは別のアンノウンと戦う謎の生命体じゃあ・・・?」
「は、はい!
 ですがアギトと違い我々警察に対しても危害を加えた事があるため、
 味方とは認識されていません!」
情報を整理しようとする一条と誠を他所に、桜子は別の部位に着目していた。
「桜子さん?どうしたの?」
「・・・五代君、あの緑色の戦士・・・かな? のベルトのところ。
 五代君のと似てない?」
「そう言われてみれば・・・でもそれがどうしたの・・・?」
「ほらさっきの五代君の話にあった『火の長の姿、力模せし者』の力を秘めた『珠』!
 その完成形が五代君の霊石だけど、その過程にはいくつもの試作品があったはずでしょ?
 中には未確認とか今度のイレギュラー達の元になったのもあって、
 彼らはその性質ゆえに封印されたけど、
 もし遺伝子的にそれを引き継いだ人がいて、何らかの形でそれが発現したとしたら…」
「先祖還り…という奴ですか?」
一条の指摘に桜子も同意を示すようにうなづく。
「でもその力は五代君のそれとは違って制御しきれていない不安定なもののはずです。
 使い続けていたら体が…」
桜子の言葉に聞き入っていたみのるの顔からさっと血の気が引く。
(そんな…芦原さん!)
ぎゅっと雄介の腕にすがり付くみのり。その手が小刻みに震えている。
「みのり…?」
ゆっくりと上げられたその瞳には、大粒の涙が浮かんでいる。
「お兄ちゃん…お兄ちゃんお願い…あのニ人を止めて…芦原さんを助けてあげて…!」
みのりの手にそっと雄介の手が重ねられる。
大きくて暖かく、優しい手。小さい頃から、みのりの大好きな兄の手だ。
「…大丈夫!」
安心させるように固くみのりの手を握りながら、
もう一方の手でみのりにサムズアップする雄介。
そして戦う二人の元へ駆け出しながらポーズをとる。アークル出現!
「変身!!」

(12)
戦いの匂いを嗅ぎ付け、異形の獣たちもまた、その場所を目指していた。
一体は極上のご馳走を目の前にしたにも関らず、
ギルスに邪魔をされた紅い怪人・ジュウザ。
「フフ…感じるわ。アイツがいるわね。そして…あの可愛い子猫ちゃんも…」
一体は復活の悦びに浸っていた処をアギトに水を注され、
手傷まで負わされた怒りに燃える蒼い怪人・セル。
「見つけた…!不完全だったとはいえ、この僕に傷をつけたヤツ!絶対に許すもんか…!!」
そしてもう一体は、クウガ打倒に異常な執着を見せる白い怪人・バゴー。
「………」
と突然、3体の頭に直接声が響き、全員立ち止まる。
それはこの場にいない黒い怪人・ゲノムのものだった。
(三人とも、ちょっと待ってくれないか…?)
「なんだいゲノム、野暮用なら後にしてくれないかい?」
毒づくジュウウザを無視してゲノムは言葉を続ける。
(今君達が向かっている先…霊石の波動のある場所に何か別の力を感じる。
 もしや『巫女』の器たる者やもしれん。
 捕らえてきて欲しいのだ。丁重に、な…)
それだけ言うとゲノムの声は聞こえなくなった。
「巫女…?儀式をより上質のものにする事ができるっていうあれかい?」
「たしか…『力』と『叡智』、それと…」
「『慈愛』だ」
「そう、それそれ。で?お目当ての霊石の他にその巫女がおあつらえ向きに居るって訳?」
「らしいな…」
「いいじゃないか。憎たらしい連中を痛めつけるついでに、かっさらっちまおうよ!」
「よぉ〜っし!待ってやがれ!!」
意気あがるジュウザとセルを尻目に、バゴーはちっと舌打ちをする。
(ふん、くだらん…俺が望むのはあくまでクウガ唯一人!
 奴と最高の戦いができればそれで良いのだ!!)

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