第6話:神、動く

 あれは今から何千年もの昔。サルと分かれたヒトがようやく文明を築きはじめた頃。
 バミューダ海域、海中にてこの戦いは行われた。
 一人は海洋神ポセイドン。そしてもう一人は、『神威の戦士』。大きな2本の角に青いボディと瞳、そして手には長く青いロッドが握られていた。
「ぐぅぅ、お、おのれぇ!!」
「・・・・・・。」
 すでに神威の戦士からのダメージでポセイドンはボロボロで、もはやまともに動けるはずのないほどの重傷だった。だが、神として人間には負けられない、という神としての誇りだけが彼を支え動かしていた。
「我は負けん! ヒトになぞ、負けるわけにはいかんのだ!!」
 ポセイドンは服の装飾をすべて外してモリに変え、神威の戦士目掛けて投げつけた。逃げ場がないほど無数にモリが襲いかかる。だが、神威の戦士はそれらをロッドで全てなぎ払った。
「な・・・、くぅ・・・。」
「・・・ポセイドン、お前の負けだ。」
「だまれ! 我はこの海を司る神だ! 貴様のようなヒトに負けるわけにはいかんのだ!!」
 ポセイドンは右手を後ろに引き、神威の戦士へと向かっていった。
「くらえ! 龍の波動!!」
 繰り出されたのは奥義、『龍の波動』だった。手を後ろに引きエネルギーを溜め、それを相手の腹部目掛けて掌底を突き出し、強力な衝撃波をおみまいする、ポセイドン最大にして、最後の奥義だった。
 神威の戦士目掛けて繰り出される掌底。強力なエネルギーが衝撃波に変わり神威の戦士に襲いかかった。だが、それよりも早く、神威の戦士のロッドがポセイドンの腹部を捉えていた。
「ぐはぁ!!!」
 見事なまでのカウンターとなり、今までのエネルギーが鏡に反射した光のごとくポセイドンに返ってきた。そして衝撃波はそれ、そのエネルギーは海面を突き破り、大きな水柱となった。
 また、その水柱は残り3人の戦士への合図となった。
「・・・勝負あったようですね。」
「準備はいいですか?」
「はい。大丈夫です。」
 3人の戦士はそれぞれフロリダ半島、バミューダ諸島、プエルトリコの三つの島で水柱を見ていた。フロリダ半島ではロングヘアーの黒い服を着た青年、バミューダ諸島では同じ姿形で、白い服を着た青年、そしてプエルトリコでは神威の戦士とよく似た、3本の角、赤いボディと瞳の戦士が待機していた。
「いいですか、我々が同時にやらなければ、『結界』を張ることはできません。失敗は許されません。」
「わかっています。」
「はい、何とかやってみます。」
「わかりました。・・・いきますよ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 3人は力を込め、同時に両手を静かに開いた。すると、掌から野球のボール大の白く輝く玉がゆっくりと浮かび上がり、そして空高く舞いあがった。三つの玉は同じスピードでぐんぐんと上昇し、雲を突き抜け、三つの玉が成層圏へと達しようとしたその時、
『神、威、封、印!!』
 3人が同時に叫ぶと、三つの玉は瞬時に結びつき白い三角形を作り、そこから透明な壁がシャッターのように落ちてきた。
 透明な壁は海深くまで落ち、三つの島を結んだこの海域が透明な壁で遮られた。こうして結界は完成した。
 その頃、結界が完成したと同時に、海中のポセイドンと神威の戦士にも動きがあった。
「印!!」
 神威の戦士が印を切ると、命中した腹部の付近に金色の印が現れた。その直後、苦しみだすポセイドンの両手両足首が光り輝くと同時に、真っ黒い枷(かせ)が装着された。
「こ、これは!?」
「そうだ、これは『拘束の呪』。お前もよく知ってるはずだ。」
「馬鹿な。これはヒトが使えるものでは、・・・そうか、きゃつらか。『進化の神』、『輪廻の神』!! あの愚か者どもめが!!」
 ポセイドンは悔しそうに唸った。そして両手両足に取り付けられた枷の錘(おもり)で静かに海底のクレバスの中へと沈んでいった。
「おのれぇ、おのれぇ!!」
「・・・進化の神、輪廻の神からの伝言だ。」
「・・・なにぃ?!」
「この封印が解けるころ、あなたが昔のようにヒトを愛していることを願います。」
「・・・・・・。」
「それまで、さよなら、と。」
「・・・我は、我は。」
 闇に吸い込まれるように沈んでいくポセイドン。その姿が確認できなくなるほど小さくなると、神威の戦士は静かにその場を立ち去った。
「我は、我は・・・、我は、もう二度とヒトなど愛さん! もう二度とだ!! 何万年、何億年経とうとも、ヒトを嫌い、呪い続けてやるわ!!!」
 ポセイドンの最後の叫びも、誰に聞かれるともなく空しく海に響いた。
 今から何千年もの昔、ヒトがようやくサルと別れて、文明を築き始めたころの話である。




 そして時は流れ現代。
 バミューダトライアングルのほぼ中心、海面に一人佇む男がいた。海洋神、ポセイドンだった。
 ポセイドンは悲壮な表情で広く蒼い海を見つめていた。
「我にはわかる。この海はもう、かつての海ではないことが。」
「ヒトが己の欲望のままに汚泥や毒水を流し込んだせいだ。」
「我の愛した海はこれほどまでに汚れてしまった・・・。進化の神、輪廻の神よ。お前達は何故我々を裏切ってまで、そんな人間達の味方をしたんだ・・・?」
 ポセイドンはそう呟くと、左手の枷の鎖を掴み引きちぎった。
「我は、我は・・・、もう二度とヒトを愛することは、ない。」
 そしてもう片方の、右手の鎖も引きちぎった。
 今まで封じられてきたポセイドンの力が解き放たれ、海が称えるように震えた。
 封印は解かれた。








   仮面ライダーLEGEND                「神、動く」








 敬介が乗った海底調査船が消息を絶ったニュースはすぐさま全米に流された。また一つ、バミューダトライアングルの足跡に足されたと、全米中、いや、全世界のミステリーファンが騒然となった。
 もちろん、このニュースはアメリカに来ていた本郷と滝にも知らされた。本郷は愕然とし崩れ落ちた。
「本郷・・・。」
「俺のせいだ・・・。俺があいつに言っていれば・・・。」
「おい、本郷。」
「俺は知っていたんだ。あいつは必ずあの場所に行くと・・・。」
「本郷!」
「俺が敬介を殺したんだ・・・。俺が、俺が・・・。」
「おい、本郷! しっかりしろ! どうしたんだよ!!」
「・・・すまん。」
 ようやく本郷は我に返った。
 しかし、ライダー達のリーダーとしてどんなときでも取り乱したことのない本郷のこの様子はめずらしい、いや、異常だった。
「すまん、つい取り乱してしまった。もう大丈夫だ。」
「・・・本郷、もういいだろ?」
「・・・・・・。」
「いい加減、話してくれよ。お前、あのバミューダ海域で何があったんだ?」
「・・・・・・わかった。全部話す。」
 しばらく黙っていた本郷の口がようやく開いた。なぜ自分がこれほどまでにバミューダ海域にこだわるのか。本当は自分の中だけに閉まっておくべきことかもしれないが、敬介がこうなった以上、もはや隠しておくこともないだろうと本郷は思った。
 本郷は長いソファーに腰掛けると滝もその横に腰掛けた。そして本郷は話し始めた。
「あれはもう何年前になるのか・・・。そうだ、まだ日本で『デルザー軍団』が暴れ回っていた頃だ。その時俺はアメリカにいた。」
「アメリカに?」
「ああ。デルザー軍団の前にいた『ブラックサタン』の残党を一掃するためにな。俺もその頃、敬介のようにバミューダ海域の謎が気になってな。日本に帰る前に行ったんだ。」
「それで・・・、それで、どうしたんだ?」
「滝、神を信じてるか?」
「は?」
 滝は唐突もないことを言われ目が点になった。
「何を言ってんだ、いきなり。」
「真面目に聞いてる。お前は神を信じてるか?」
「・・・いや、俺は信じてねえ。俺は目に見えるものしか信じない質なんでな。」
「俺はそいつを見た。」
「・・・ホントか?」
 本来の滝なら、笑いながら本郷の肩をバンバン叩くのだが、この場面で冗談を言うような男でないことを滝が一番よく知っている。半信半疑ながらも滝は本郷の話に聞き入っていた。
「海洋神、ポセイドン。奴が全ての元凶だった。奴は己の力を取り戻したいがために船や飛行機を沈め、その生命のエネルギーを吸いとった。」
「生命のエネルギー? 何だそりゃ。」
「生き物全てに備わっている生きるためのエネルギーらしい。神はそのエネルギーを取り込むことで力を得るらしい。」
「それからどうしたんだ?」
「闘った。奴はこちらの話に聞く耳持たずに襲いかかってきた。」
「それでお前、どうなった?」
「やられたよ。完膚無きまでにな。」
「・・・嘘だろ? お前が・・・?」
「俺は敬介のような水中用改造人間じゃないからな。・・・まあ、負け犬の遠吠えにしか聞こえんだろうがな。だが、そうじゃなくても奴は強すぎた。ただでさえ動きが鈍くなる水中で、まるで人喰い鮫のように俺に襲いかかってきた。俺は全く歯が立たず、命からがら逃げ延びることがやっとだった。」
「・・・信じられねえ。お前が負けるなんて・・・。」
「あれから18年たったが、相変わらずあの海域での事故は続いている。奴はあの時よりも強くなっている。いかに敬介といえど・・・。」
「なに、心配ないさ。」
 苦渋の表情を浮かべ唇をかみしめる本郷の肩を、滝はいつもの調子でバンバン叩いた。
「その敬介ってやつは水中戦が得意なんだろ? だったら大丈夫。心配すんな。」
「・・・・・・。」
「それに、俺の知ってる仮面ライダーって奴は、絶対に死なない強い奴だ。そいつも同じだろ?」
「・・・ああ、そうだな、そうだよな。」
 ずっと苦い顔をしていた本郷の表情が初めて和らいだ。その様子をみて滝も安心したのか深くため息をついた。
 だが、それでも本郷の胸中にはモヤモヤとした重苦しい不安が漂っていた。
(すまん、滝。お前が俺を元気づけようとしてるのはわかる。けど、それでもダメなんだ。どんなにいいように考えようとしても、あいつがやられてる姿しか思い浮かばないんだ。)
―――――たのむ、敬介。無事でいてくれ。








 所変わってここはバハマ諸島のエリューセラ島の海岸。そこの岩場にポッカリと開いた洞窟の中に瀕死の神敬介がいた。
 あの後海岸に流れ着いた敬介は、傷だらけの体にむち打って、クルーザーと共にこの洞窟に身を隠した。すぐさまあらかじめ持っていた包帯をポセイドンに突き刺された腹部に巻き付けた。しかし出血は止まらず、包帯全てを巻き付けても、しばらくするとじんわりと血が滲んできた。敬介は腹部を隠すように両腕で抑えると、そのまま横になりそして再び意識を失った。
 それから時は流れ今、敬介は再び目覚めた。ぼやけた視界の先には、ゴツゴツとした岩肌があった。
「・・・お、俺は一体・・・。」
 敬介は傷の痛みとショックで記憶が混乱していた。混沌とした意識の中、体を起こそうとしたとき、腹部の傷に激痛が走った。皮肉にもそれが気付けになった。
「・・・そうか、俺は、負けたのか・・・。」
 力無く横たわる敬介の脳裏に昨日のことが鮮明に蘇ってきた。立ち向かい、傷一つ与えることが出来なかった「神」と名乗る敵、ポセイドン。そしてなす統べなく仲間達が殺されるのを見ていることしかできなかったあの時。
「俺は・・・、俺は・・・、くそっ!」
 悔しさに唇を噛み締め、拳を砂に叩きつけた。だが、腕は上がらなかった。すでに体中の感覚が無くなり、腕を振り上げることすら出来なくなっていた。もう笑うしかなかった。
「何が『仮面ライダー』だ。人一人救うこともできないで!」
 その時、ふと視線を感じ、目を向けた。そこにはボロボロのクルーザーが敬介を見つめていた。ところどころカウルが剥がれ落ち、ポセイドンが放ったモリが無数に刺さっていた。
「おまえ・・・。・・・そうか。お前は俺を助けてくれたんだな。こんな姿になってまで・・・。」
 手を伸ばし、クルーザーを撫でようとしたが、前に述べたとおり感覚が無くなった敬介の腕が上がることはなかった。
「・・・助けてくれたお前に言うのも忍びないが、俺はあの場所でみんなと一緒に死ぬべきだったのかもしれない・・・。」
「・・・・・・。」
「俺はおめおめと生き残ってしまった・・・。」
「・・・・・・。」
「俺は・・・、俺は・・・。」
 敬介は三度、意識を失った。
 危険だった。
 敬介の顔からは生気が消え、呼吸も徐々にか細くなっていった。
 確実に敬介には死の影が近付いていた。




 そんな敬介の姿を洞窟の影からただジッと見つめている謎の青年がいることを瀕死の敬介は知る由もない。








 それから数時間後。
 再び場所は変わり大西洋上。
 ここは、とある豪華客船。その船である異変が起きていた。
 ネズミの大群が船の廊下などを走り回っていたのだ。衛生面から対策をとっていたがその僅かな隙間から進入したネズミが繁殖したものだろう。だが、極力、人目に隠れて過ごしてきたネズミが、人が歩き回る廊下を、しかも白昼堂々と走り回るものだろうか? 明らかに異常だった。
 奇声を上げ、船員に次々と苦情を言う乗客達を横目に、ネズミ達はしばらく船内を走り回った後、船外へ出て、そのまま姿を消した。
「・・・何だったんだ?」
 甲板に出た船員が唖然と呟くと、もう一人いた船員が再び奇声を上げた。
「お、おい、どうした!?」
「ひ、人が、う、浮いてる・・・。」
「う、うわぁ!!」
 怯える船員が震える指で指す方を見てみると、確かに船の先端で腕組みをした人間が宙に浮いていた。エメラルドグリーンのウェーブのかかった長い髪。もちろんそれは海洋神ポセイドンだった。
「愚かな・・・、貴様等人間は、『神の声』を聞くことすら出来なくなったのか・・・。」
「バ、バ、バババ、バケモノ・・・!」
 逃げようにも腰を抜かした二人は後ずさりしかできなかった。ちょうどそこに、誰の口から耳に入ったかわからないが、次々と船長や他の船員が甲板にやってきた。
「な、なんだ、あれは!?」
「ひ、人が・・・、うわぁ!?」
「嘘だろ・・・?」
「ひえええええ・・・!」
 全員逃げようとするが、ポセイドンに睨まれ、全員石のように動けなくなった。
「愚かだ。実に愚かだ。貴様等は我々に匹敵する頭脳を手に入れることが出来たが、かわりに『神の声』を聞くということを忘れてしまった。貴様等は見ただろう。貴様等が忌み嫌っているネズミは、我の声を聞き、そこから逃げ出した。だが貴様等は何だ? 我の警告にも耳にも貸さず、己の欲望を満たすばかり。やはり、ヒトは滅ぶべき存在なのだ。」
 その時、急に黒い雲が太陽を遮り、雷が轟いた。神の力を取り戻したポセイドンは天候をも操ることができる。雷雲を作りだし、大気を動かし、あっという間に嵐を作り出してしまった。静かだった海は変わった天候に同調するかのように荒れ狂い、船を揺らした。約3万トンもの船も、激流に呑まれた笹舟のように大きく揺れた。荒れる海に人々の絶叫や悲鳴がこだまする中、その様子をポセイドンは高らかに笑い見下ろしていた。そして、右手の甲を船の方へ向けた。
「ニンゲン共よ、死んで我の糧となれ!!」
 ポセイドンの手の甲に『Ω』のような紋章が浮かび上がった瞬間、巨大な波が豪華客船を飲み込んだ。船はもう二度と浮かび上がることはなかった。
「・・・さて。」
 ポセイドンは舌で唇をなぞり呟くと、そのまま足から海へ入っていった。
 それを皮切りに、この1日で大西洋に浮かぶ客船、漁船、タンカー、戦艦などほどんどの船が消息を絶った。








 大西洋が大荒れの頃、敬介は闇の中にいた。
 前も後ろもわからない暗黒の世界で敬介は、何かに引かれるようにただ黙々と歩いていた。
 ここは敬介の意識の中。敬介は確実に死へと向かっていた。その証拠に、遙か遠く、微かに光が見えてきた。
(なんだ? あれは。)
 敬介が近付いていくと、それは水面(みなも)の乱反射、そよそよと流れる小川だった。
(綺麗だな・・・。)
 さらに近付いていくと、その光に照らされ、微かに向こう岸には花畑があるのがわかった。敬介には微かな予感はあった。だがこれではっきりした。これは現世と霊界を分ける川、三途の川だった。
(ああ、そうか。俺は死ぬのか・・・。)
 川の畔についた敬介は、向こう岸を遠く見つめた。よくは見えないが、ずっと先まで花畑が続いていることを何となく感じた。
(あの向こうに、死の世界がある。)
 決して未練が無いわけでは無い。だが自分のわがままで死んだ仲間を思うと、後戻りすることが出来なかった。
 敬介は静かに川へ入ろうと足を踏み出したその時だった。
(お待ちなさい!)
「!?」
 頭に何者かの声が響いた。
「誰だ?!」
 敬介が振り返ると、そこには白い服を着たロングヘアーの青年が立っていた。
「・・・誰だ?」
「私は、あなたの中にいるもう一人のあなたです。」
「もう一人の・・・、俺?」
「そうです。」
「その、もう一人の俺が、何の用だ?」
「あなたはここで死ぬ運命ではありません。」
「・・・どういう、ことだ?」
「あなたはポセイドンと戦い、勝たなければならない運命なのです。」
「・・・それは無理だ。俺は奴に負けた。仲間も殺された。今、戻っても、奴に勝つ自信はない・・・。」
「だから逃げるのですか?」
 青年は敬介を蔑むように見つめた。敬介は目をそらし、唇を噛んだ。
 敬介は過去に恋人、その妹、そして父親をGODに殺されている。大事な人を殺される苦しみは誰よりも解っている。だが今回、またもその過ちを犯してしまった。敬介は戦う自信を無くしていた。
「そんな俺にどうしろというんだ?」
 敬介が青年のほうへ目をやった時、そこに青年の姿は無かった。そのかわりに、敬介の眼下には広い海原が広がっていた。突然のことに困惑する敬介。そんな敬介の目の前に一隻の豪華客船とその前に仁王立ちしているポセイドンが現れた。
「ポセイドン! きさま・・・!」
 それを見るなり、掴みかかろうとしたが、まるで空気のように手はすり抜けた。
「???」
「・・・これはあなたの意識の中にあるポセイドン。実体ではありません。」
 困惑する敬介の耳に再びあの青年の声が聞こえてきた。だが、どれだけ見回しても青年の姿はなかった。
「これは一体、どういうことだ?」
「今、あなたの目の前に写っている光景。それはあなたの死後の未来です。」
「俺が、死んだ後の・・・?」
 敬介が半信半疑ながらもポセイドンに目をやると、ポセイドンは「Ω」のマークが浮かび上がった手の甲を船に向け、波を呼んでいた。
「や・・・!」
 全てを言う前に、高波が船を襲い、船は海中深く引き込まれていった。
 そんな光景が延々と続いた。幻想のポセイドンを止める術はなく、敬介は呆然とその光景を見つめているだけだった。そしてポセイドンは、右手首を掴むと力を込め始めた。右手の甲の「Ω」のマークはより輝き、掌からビー玉大の小さな弾が浮かんだ。これはポセイドンの神の力を練り固めたもの。ポセイドンはそれを自分の真下へと投げ込んだ。海は抉れ、そこを中心に巨大な波が起こった。その巨大な波は白い巨大な壁となり、人々を襲った。男女、老人子ども関係なく、波は人々を浚い、海へと引きずり込んでいった。ポセイドンはもがき苦しむ人々を空から見下ろし、高らかに笑った。
「これがあなたの死後の世界です。」
 呆然と見つめる敬介の背後に青年が現れた。
「神の力を取り戻したポセイドンは、あらゆる手を使って、人間を滅ぼそうとしています。」
「・・・・・・。」
「あなたはこの光景を見ても、まだ逃げますか?」
「・・・どうすればいい?」
「?」
「どうすれば俺は、奴に勝てる?」
 敬介は振り返り、青年を見つめた。その目は先ほどまでの生気を無くした目ではなかった。その凛とした目を見た青年は初めて微笑んだ。
「だいじょうぶです。あなたはあなたが思っているほど弱くはありません。あなたにはヒトを守る力と、ヒトを守りたいという心があります。それがある限り、もうあなたは負けませんよ。」
「だが、俺は闘ってみてわかった。俺はもっと、力が欲しい。」
「しかし、強さとは力ではありません。心です。人を守りたいという心が人を強くするのです。」
「守りたいという、心・・・。」
「遙か昔、あなた達ニンゲンが、神と戦い、勝ったのもその心が強かったからです。」
「俺達が神に勝った!? どういうことだ!?」
「・・・近い将来、あなた方に話すときが来ますよ。」
 青年の言ったことに驚き、訪ねたが、青年はただそれだけを答え、ただ微笑むだけだった。
「・・・さあ、そろそろ戻る時間ですよ。」
「・・・君は一体、何者なんだ? もう一人の俺とは一体・・・。」
「それもいずれ・・・。」
 青年はまた答えなかった。そしてさらに続けた。
「もし、どうしても力が欲しいとき、そのときは私を呼んで下さい。」
「君を・・・?」
「ええ。私の名前は・・・。」




 その瞬間、目が覚めた。静かに起きあがる敬介の目にはゴツゴツとした岩肌が写った。
「夢・・・、か・・・?」
 あまりにも現実味を帯びた夢を見て、その余韻に浸っている敬介。その時、敬介はある異変に気がつき、いそいで服をめくり、腹の真っ赤に染まった包帯を取った。
「こ、これは!?」
 驚くのも無理はない。ポセイドンのモリで抉られた腹の傷は、跡形もなく消えていた。まるで最初からなかったかのように。
「これは一体・・・? ・・・いや、まさかな。」
 一瞬、夢の中に出てきたあの青年が脳裏によぎった。あの青年は一体何者だったのか。「もう一人の俺」とは一体。結局、何も解らず仕舞いだった。
 その時、敬介は何かを感じ取った。共鳴するかのように響く頭。だが、それが何かは敬介にはわかっていた。
「・・・ポセイドン。」
 この先にポセイドンがいるということを知らせる共鳴。なぜそう感じるかはわからない。だがそれはどうでもいいことだった。この先に、仲間や他の人間を殺してきた宿敵がいる。敬介の怒りと闘志は強く握りしめられた拳に現れていた。
「もう、貴様の好き勝手にはさせない。もう、過ちは繰り返さない。絶対に!」




 洞窟から飛び出したクルーザーはそのまま海面を滑空するかのように走っていった。
 その様子をあの青年が見つめていた。
「あとはあなた次第ですよ。」
 青年はそう呟くと、光の粒子となり消えていった。








 敬介がポセイドンの元へ向かった頃、本郷と滝はFBI本部があるニューヨークの国連ビルの地下駐車場にいた。
 あれから二人はニューヨークに戻り、情報を集めることにした。二人が国連ビルに着いたとき、船の失踪事件のことを知った。ポセイドンの仕業だと直感的に感じた本郷はすぐさま大西洋上の船をすべて最寄りの港へ避難させるように指示させた。
 余談だが、この国連ビルの地下14階には世界中のありとあらゆる情報が、ありとあらゆる方法で集約される大規模情報集約所、通称「エクセリオン」と呼ばれるものが存在する。ここはごく限られた人間しか入ることは出来ず、一般人や平刑事はその扉の前に立つこと、いや、この場所があることすら知らない。また余談だが、近年あのテロ事件を大統領が前もって知っていたという噂が流れたが、一国の首領である大統領がこの場所を知らないはずはないという噂が関係者の中で流れ、それが大きく広まったという説もある。あくまで一説だが。ちなみに本郷と滝も本来ならここに入ることは出来ないが、「仮面ライダー」とその関係者ということで特別に通された。
 すぐさま国籍、船のランク関係なく、本郷の支持が伝えられた。その中、ただ一隻だけ大西洋のど真ん中を航行中のため、どうにもならない船があった。皮肉にも船の名は「ポセイドン号」。世界一周の航海をする豪華客船で、アメリカを目指し航行していた。次に標的にされるのは、この船。本郷はエクセリオンを飛び出た。
「本郷・・・。」
 滝が追いついたとき、本郷はすでにバイクに跨り、発進しようとしていた。
「どこに行くつもりだ?」
「・・・ポセイドンを倒しに行く。」
「お、おい。何言ってんだ! 『ポセイドン号』は大西洋のど真ん中にいるんだぞ!? どうやって行くんだ!?」
「・・・サイクロンのパワーを限界以上に上げて、船まで飛ぶ! こいつが壊れるかもしれんが、理論上はうまくいくはずだ。・・・背に腹はかえられん!」
「無茶だ・・・。」
「無茶でもやらねばならん!! 敬介がいない今、奴を倒すのは俺しかいない!! ・・・命に代えても。」
 振り返った本郷の鬼気迫る表情に滝は身震いした。そして感じた。
 本郷猛という男は―――――。
「・・・本郷、何考えてやがる。」
「・・・滝、一文字に伝えてくれ。後はたのむ、と。」
 滝の考えるとおりだった。本郷猛という男は、死の覚悟をしている。ポセイドンと刺し違える覚悟をしていると。
「滝、さらばだ。」
 滝は止めることができなかった。目の前にいる親友は今、死ぬ覚悟で戦場に向かおうとしている。そんな男に誰が「行くな」と言えようか。
 そして本郷はギヤを踏み、アクセルを絞った。その時、滝の携帯が鳴った。相手はエクセリオンの局員だった。
「もしもし、どうした? ・・・ああ? 変な電文が入った? ・・・なんだと? 『ポセイドン ハ オレ ガ タオス テ ヲ ダスナ   ジン ケイスケ』?」
「!!?」
「お、おい、本郷・・・。こいつは・・・。」
「敬介が生きてる・・・。敬介が・・・。よかった・・・。」
 今まで張りつめていた本郷の表情が和らいだ。深くため息をつき、天を仰ぎ、「よかった・・・」と何度も呟いた。その目の筋には涙が浮かんでいた。
「本郷、だから言っただろう。仮面ライダーは死なねえって。」
「ああ、そうだな。」
「これからどうするんだ?」
「・・・ポセイドン号へ行く。だが、死にに行くんじゃない。敬介(あいつ)を助けに行く!」
「そうか・・・、わかった! 行って来い!!」
「おお!!」
 滝が本郷の背中を叩いたのと同時に本郷はバイクを発進させた。轟音をあげ明るい光が射し込む出口へと消えていった。そんな本郷を見送る滝は、
「死ぬなよ。」
 と呟いた。すると聞こえたのか、それともただの偶然か、本郷はサムズアップで答えた。



 ニューヨークの大通りを疾走する一台のバイク。本郷が駆るそのバイクは今、風に近付こうとしていた。
「ライダァァァ、変身!!!」
 その瞬間、バイクは風に包まれ、それを突き破ると本郷はライダー1号に、バイクは新サイクロンへと姿を変えていた。突然の異形なるモノの出現に人々が騒然とするのを後目に、1号はさらにスピードを上げた。そして波止場にたどり着くと身を屈め目一杯アクセルを絞った。エンジンは限界を超え、異常に上がった熱が1号の足を焦がした。
(たのむ、もってくれよ。)
 カウルのウィングが開き、さらにスピードが上がった。そして、
「サイクロン、ジャンプ!!!」
 軽く坂になっていた波止場の終点を踏み台にし、新サイクロンは飛んだ。エンジンが焼け焦げ、多少の煙は出ているものの、勢いは落ちることなく西の空へと消えていった。








 ポセイドン号では、乗客乗員全員が凍りついていた。船の前には、ポセイドンが仁王立ちをし見下ろしていた。
「『ポセイドン号』? 我の名を使えば、あらゆる災害から身を守ってくれるとでも思うてか? 愚かな・・・。我の名を勝手に名乗った罪は重いぞ。」
 船員は、汽笛を鳴らし威嚇するが、全くの無意味だった。これまで通り、大気が動き出し、波が荒れ狂い始めた。
「貴様等も、死んで我の糧となれ!!」
 「Ω」と浮かんだ手の甲を向け、この巨大な豪華客船も海の底に引き吊りこもうとしたその時だった。
(おやめなさい。)
「!!?」
 突然、ポセイドンの頭に謎の声が響いた。ポセイドンが振り向くと、そこには敬介の夢の中に現れたあの青年が立っていた。
「お久しぶりです。海洋神ポセイドン。」
「貴様はっ!」
「何年ぶりでしょうか。こうしてあなたと話をするのは。」
「ふん、ご託はいい。何しに現れた! また我の邪魔をしに来たのか!」
「いえ。今の私にはあなたを止めることはできません。私の肉体はもうすでに滅びました。今ここにいるのは、魂だけです。」
「ならば何故我の前に現れた。」
「あなたに忠告しに来たのです。」
「忠告?」
「ええ。私はあなたが再びヒトを愛する万に一つの可能性に賭け、あえて封印だけにとどめておきました。しかし、それは見事に裏切られました。あなたに待っているのは、封印ではありません。完全なる『死』です。」
「・・・ふん、何を言っている。我は二度とヒトを愛さないと言った。それに貴様も見えるだろう。この汚れきった海を。ヒトが己の欲望のままに汚した海を。これが貴様の愛したモノがしてきたことだ!!」
「・・・たしかにあなたの言うとおりです。しかし、まだニンゲンは未熟なのです。」
「・・・貴様はいつまでヒトを肯定するつもりだ? 貴様は何もわかっていない! ヒトに革新は無い!! 永久にな。」
「何もわかっていないのはあなたの方です。ヒトには、我々にない可能性を秘めているのです。」
「だまれ!!」
 ポセイドンは青年に向けて龍の波動を撃った。青年の体は波動により光の粒子となって消えていった。
「たとえそうだとしても、我の心は変わらん! ヒトを残らず抹殺してやる!! 我を止めるモノなどこの世に一人もいないのだ!!」
(いえ、います。)
「!?」
 再び消えたはずの青年の声が聞こえた。辺りを見回すが、青年の姿はどこにもなかった。
(この世界には、ヒトによって生み出された、ヒトのために命を懸けて闘う戦士、「仮面ライダー」がいます。)
「仮面・・・、ライダー・・・、だと?」
(彼らがきっと、あなたの野望を止めてくれるはずです。ほら。)
「!!?」
 気配を感じ振り返ると、ポセイドン目掛けて跳躍したバイクが突っ込んできた。もちろん、神敬介だった。
「ぬぅ、うおおおおおおおおおお!!?」
「大・変・身!!!」
 敬介の顔に右、左と仮面、そしてパーフェクターが装着されXへの変身が完了した瞬間、クルーザーの前輪がポセイドンの胴体に食い込んだ。そして二人はそのまま海へ落ちていった。高く上がる水柱を見つめながら、青年は呟いた。
「頼みましたよ。神威・・・、いえ、仮面ライダーX。そして、仮面ライダー1号。」
 その時、ポセイドン号の甲板に一台のバイクが降り立った。




 クルーザー共々海面に叩きつけられたポセイドンは海中深く沈んだ。
「くううう、おのれぇ!!」
 ポセイドンは自分の腹部に食い込んだクルーザーを引き抜き放り投げた。もちろんXの姿はそこにはいない。
(奴は我が殺したはず・・・。まさか、あやつ・・・。)
「!!?」
 その時、海中に漂う白い泡の中からライドルホイップを手にしたXが飛び出し、ポセイドンをX字に斬った。
「ぐあっ!!」
「Xライダー!! ポセイドン! 貴様の思い通りにはさせん!!」
「貴様ぁ。」
 ライドルホイップを構えポセイドンを睨み付けるX。ポセイドンもX字に斬られた傷口を両手で押さえXを睨み付けた。
「そうか、貴様が奴の言っていた仮面ライダーか。で、ここに何しに来た。」
「貴様を止めに来た。」
「忘れたか。貴様は我に一度殺されかけたのだぞ? なぜ無事だったかは知らんが、今度はただでは済まさん。死ぬぞ?」
「俺は死なない! たとえ肉体が朽ち果てようとも、何度でも蘇るさ。貴様を倒すまで!」
「ほざけ。」
 ポセイドンが力を込めると、流れ出ていた血が止まり傷が塞がった。まだ赤い筋が見えるものの、傷口は急速に回復をし始めた。これも神の力なのか。その様子に唖然とするXに向け、ポセイドンはモリを突きつけた。
「ならば見せてみろ。貴様の言う、不滅の力をな!!」
 ポセイドンは足場のないはずの海水を蹴りXに向かっていった。
 速い。
 あの時闘ったときよりもポセイドンは強くなっていた。封印が解けたポセイドンの力はXの予想を凌駕し、攻撃を受け流すことが精一杯だった。
「どうした! 我を倒すのではなかったのか!」
「ぐっ・・・。」
 素早い攻撃でXを翻弄し少しずつXを追いつめていくポセイドン。そしてついに、ポセイドンのモリはXを捉えた。ライドルを弾き飛ばし、ガードが開いたXの腹部目掛けてポセイドンのモリが迫った。
「死ね!」
「しまった!!」
 と、その時、何者かがポセイドンとXの間に割り込んできた。
「ライダァァ、チョーップ!!」
「何!?」
「ライダァァァ、パァーンチ!!」
「うおおっ!!?」
 彼はモリを手刀で折り、無防備なポセイドンの顔面に鉄拳を叩き込んだ。吹っ飛ばされたポセイドンはそのまま海底に森のようにそびえる岩やサンゴ礁に叩きつけられた。
「ふう・・・、何とか間に合ったようだな。」
「本郷さん!?」
 その男はもちろん、仮面ライダー1号、本郷猛だった。
「本郷さん、どうしてここに?」
「ふっ、話は後だ。長くなるからな。それに・・・。奴はまだ生きている。」
 崩れた岩のかけらと砂埃の中からポセイドンが姿を現し、ゆっくりと二人の前に浮かんできた。そして二人の前へ立つと、口から流れる血を静かに拭った。
「不意打ちとは、なかなか卑劣な手を使う。」
「卑劣か・・・、確かにそうだな。」
「貴様もまた、懲りずに来たか。」
「本郷猛。仲間の危機を指くわえて見ているほど、落ちぶれてはいない。」
「貴様も奴が言う、『仮面ライダー』というモノか・・・。面白い。役者はそろったというわけだな。」
 そう言うと、装飾を取り再びそれをモリに変化させた。
「どういうことですか? 本郷さん。ポセイドンと闘ったことがあるんですか?」
 本郷の過去を知らない敬介が訪ねた。
「ああ。ずっと前にな。だがそれも後で詳しく話そう。今は・・・。」
「・・・ええ、そうですね。」
 Xはライドルを手にし、1号も静かに息を吐くように構えをとった。そして、
「いくぞ!!」
「はい!!」
 同時に海中を蹴り、ポセイドンと1号、Xのダブルライダーが激突した。








 ポセイドン号の無線は壊れていたため、「エクセリオン」からの通信を繋げることはできなかった。本郷から事情を聞いた船長はすぐさま無線を修理し、エクセリオンへ状況を報告した。ポセイドン号の無事に歓喜に沸くエクセリオンだったが、ただ一人、神妙な表情の男がいた。滝和也だった。
「本郷、それに敬介って奴、死ぬんじゃねえぞ。」
 まるで神に祈るかのように、両手の拳を強く握りしめた。
 その頃、ダブルライダーは苦戦していた。両手両足にはめられていた封印の枷が外れ、本来の力、いや、それ以上の力を持ったポセイドンは素早い動きでダブルライダーを翻弄し、二人掛かりの攻撃をことごとくかわしては、叩きのめしていた。
「くっ、まだまだ!」
 岩とサンゴのがれきから一足早く立ち上がった1号が再びポセイドンに拳と蹴りの波状攻撃をかけた。だが、これらもポセイドンは赤子の手を捻るかのごとく軽くあしらった。
「くぅ・・・。」
「のう、貴様と闘ってからいく年が過ぎたか?」
「何?」
「ニンゲンとは不憫なモノよのぅ。貴様から『老い』が感じられるぞ。」
「・・・たしかに、俺の人工筋肉も時が経てば衰えてくる。だが!」
 この時、1号が放ったパンチが、鉄壁だったポセイドンのガードを弾き飛ばした。
「俺にはそれを補う、これまでの闘いで培った経験と知識がある!!」
 そしてガードが開き、がら空きにボディに1号渾身の掌底が飛んだ。だが、それもポセイドンには効かなかった。
「なるほど。たしかに老いは感じたが、あの時より技のキレはよくなっている。だが、その程度では我には勝てん!!」
「ぐあっ!!」
 蹴り飛ばされた1号は再び岩に叩きつけられた。
「本郷さん! くっ、おのれ!」
 その隙を狙いXはロングポールを振るった。だが、ポセイドンに片手で受け止められ1号のように岩に向かって投げ飛ばされた。海中に漂うXの体。岩に叩きつけられる寸前、起きあがった1号がXの体を受け止めた。
「本郷さん!!」
「ぐっ・・・、大丈夫だ。それより俺の心配するくらいなら、奴をどうするか考えろ。」
「はい。」
 傷だらけの2人が見上げるとポセイドンは勝ち誇った笑みを浮かべ見下ろしていた。
「・・・悔しいが、奴は強すぎる。」
「ええ。このままでは倒せませんね。」
「俺の方は、海中での活動が限界にきている。お前もこれ以上はきついだろう。」
「こうなれば手は一つしかないですね。」
「ああ。」
 2人が共に考えていること、それは、『一撃で奴を仕留めるしかない!!』
 であった。しかし問題も多い。2人が戦ったときよりも遥かに強くなったポセイドンに隙という隙は見当たらない。しかも共に苦戦し残りのエネルギー残量が少なくなっている。2人は確実に一撃でしとめなければならない。外せば、待っているのは、死・・・・・・。
「そうだ、本郷さん、耳を貸して下さい。俺にいい考えがあります。」
 Xは顔を近づけ1号に耳打ちした。
「・・・どうです?」
「うむ、やってみるか。」
「それじゃあ、本郷さん、おねがいします。」
「うむ。」
 ダブルライダーはそれぞれ別々の方向へと散った。
「ふん、何を企んでいるかは知らんが、無駄なことだ。」
 Xは三角飛びで海中に漂うポセイドンに斬りかかった。しかしそれをモリで受け止め、Xの腹部に蹴りを入れた。少し吹っ飛ばされたものの、踏みとどまったXはライドルをホイップに変え、フェッシングのようにその鋭い先端で高速に突き始めた。だが、ポセイドンはその高速突きさえも全てかわした。
「まだ闘うつもりか。貴様等に勝ちは無いというのに。」
「何度だって闘うさ。人の未来のためなら。」
「ふん、話にならんな。」
 ポセイドンはホイップを受け止めると、Xの脇腹に回し蹴りを与え、身をよじったXを蹴り飛ばした。それも何とか踏みとどまり、今度はポセイドンに頭から突っ込んでいった。
「うぬっ、このっ!」
 タックルでポセイドンの体に食い込んだXの背中に肘を3発落として引き離し、怯んだXのマスクに裏拳を叩き込んだ。それでもXは殴られても投げられても何度でもポセイドンに向かっていった。
「ふん、こざかしい真似を。真の力を取り戻した我に叶うわけがないのだ!!」
「・・・勝てるさ。」
「ほざいたな? まあいい、これでとどめを刺してくれる!!」
 そう言うとポセイドンは、右手を後ろに引いた。
「くたばれ、龍の波動だ。力の差を思い知るがいい!!」
「・・・貴様のその過信が命取りになる。くたばるのはお前の方だ!!」
「何ぃ!?」
 その刹那、どこからか発生した巨大な渦がポセイドンの体を飲み込んだ。渦の中心は真空状態になり、ポセイドンの装飾などが次々と剥がされ飛ばされた。
 その渦の招待は仮面ライダー1号であった。残り全エネルギーを使い、両手を広げ自らの体をスクリューのように高速回転した。それによって生まれた巨大な渦がポセイドンを飲み込んだのだ。
「ぐううう、こざかしい真似・・・を・・・。」
 その時、ポセイドンは確かに見た。渦の中心をもの凄いスピードで突っ込んでくる何かを。
 1号だった。右足をピンッと伸ばし、ポセイドンの胴体目掛けて突っ込んできた。
「う、うおおおおおおお! くらえ! ライダァァァ、キィィック!!」
「ぐぅぉおおおおおお!!!」
 1号のライダーキックがポセイドンの腹部に突き刺さった。さらに勢いは止まることなく、渦を突き破り、そのまま岩にポセイドンの体を叩きつけた。
「ぐぁはぁ・・・。」
 岩には無数のヒビが入り、磔にされたポセイドンは口から大量の血を吐き出した。
「ぐっ・・・、さっきから貴様がいなかったのはこのためだったのか・・・。だが、この程度では俺は倒せ・・・ん・・・。」
 1号がゆっくりとポセイドンから離れていく時、1号の後ろで何かが光った。それはクルーザーのヘッドライト。いつの間にか、クルーザーに跨ったXが待機していた。
「ま、まさか・・・。」
 ポセイドンの顔がこの闘いで初めて青ざめた。そう、そのまさかだった。Xはスロットルをフルに絞ると、クルーザーは白い弾丸となって海中を走り出した。
「クルーーーザァァァァ、アタァァァァク!!!」
「ぐぅああああああああああああ!!!!」
 クルーザーの前輪は縛り付けていた岩ごとポセイドンを砕いた。口から、そして塞がりかけていた体のX字の傷が開き、吐き出された大量の血液が海中を染めた。
「ば・・・かな・・・、我・・・がヒトに・・・負け・・・た? この・・・我が・・・?」
 ポセイドンの体はゆっくりと砂煙の中に消えていった。その様子を無言のまま見下ろす1号とX。しばらくすると砂煙が消え、砂の代わりに海底に敷き詰められた岩石とサンゴ礁が現れた。ポセイドンの姿はない。おそらくあの瓦礫のなかであろう。
「・・・勝った、のか?」
「ああ、そのようだ。」
「そうですか・・・。」
「・・・・・・。」
 2人に勝利の喜びは無かった。そのかわり、これまでにない強力な敵を倒したという安堵感だけが2人を包み込んでいた。
「手強い相手だった・・・。」
「ええ。もしあれが外れてたら俺達は・・・。」
「ああ、こうしてお前と話していることすらできなかっただろうな。」
 そう言うと1号はスゥーと上に上がっていった。
「もう限界だ。俺は先に上がる。」
「はい、俺も後から行きます。」
 Xは1号が海上に上がるのを見送ると、再びポセイドンの亡骸が埋まっているであろう瓦礫を見下ろした。なんの変化は見られなかった。
 それを確認すると、Xも振り返り1号の後を追って海上へと上がっていった。
 その時だった。
 瓦礫が動く音に気付き、振り返った。目の先には、小刻みに動く瓦礫と上に登っていく細かな気泡が目に付いた。
「ま、まさか・・・。」
――――――生きてる?!








――――――我ガ、負ケタ? 神デアル我ガ?


 岩石とサンゴ礁の瓦礫の中、虚ろな表情で呟いていた。


――――――我ガ、負ケタ? 神デアル我ガ?


 死期が迫るポセイドンの虚ろな瞳に写るのは何なのか?


――――――イヤダ。


 フラッシュバックされていくかつての風景。それは何万年もの昔、2人の「神威の戦士」と2人の「裏切り者」に敗れた時のもの。


――――――イヤダ。


 なす統べなく「封印の枷」をはめられ、結界の中に閉じこめられたあの日。


――――――イヤダ。


――――――モウアンナオモイハイヤダ。


――――――イヤダ。


――――――イヤダ。


――――――モウアンナオモイハシタクナイ・・・。


「我が名はポセイドン。海洋神ポセイドン。ヒトに負けることは許されん。」
 ポセイドンの瞳に再び光が点った。感覚を取り戻すかのように少しずつ、少しずつ体を動かした。
「・・・万物神様、お許し下さい。あなたから頂いたこの体と命を捨てます。仮面ライダーを倒すために。」
 その瞬間、瓦礫の中から一つの影が飛び出した。無論、それはポセイドンだった。体中から大量の血が流れ出て、鬼気迫るような表情でXを睨み付けた。
「くっ、ある程度予想はしていたが、まさか本当に蘇るとは・・・。」
 Xはクルーザーから降りると、ベルトに納めたライドルを再び引き抜いた。そして立つことすらままならない状態のポセイドンに向け海中を蹴った。
「覚悟っ!」
 海水を斬ってライドルが振り下ろされた。屍のようにピクリとも動かないポセイドンにライドルが襲いかかる。だがその瞬間、ポセイドンは片手でライドルを受け止めた。
「!?」
「万物神様、お許し下さい。あなたから頂いたこの体と命を捨てます。」
「何!?」
「海洋神ポセイドンは、神であることを捨てます。貴様を・・・、仮面ライダーを倒すために!!」
「う、うおお!?」
 次の瞬間、ポセイドンの体から無数の触手のような足が飛び出した。Xはその勢いに吹き飛ばされた。
「おおおおおおお・・・。」
 絶えず体を突き破り飛び出してくる足は蛇のように幾重に絡みつき、そして、
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
 ついにポセイドンの体が四散に弾け飛んだ。
「い、一体何が・・・。」
 砂煙がたち、視界が悪い中、Xはポセイドンの姿を探し回った。だがその時、砂煙の中、二つの巨大な目のようなものが光った。それをXが気付いた瞬間、Xは巨大な鈍器のようなもので殴られ、岩に叩きつけられた。
「ぐはっ・・・。一体何が・・・。」
 その時、Xは確かに見た。あの美しい容姿が、禍々しく巨大な姿に変わり果てたポセイドンを。
「こ、これは・・・。」








 360度見渡しても船の姿すら一つもないこの海面に、淡いメタリックグリーンの仮面が顔を出した。ライダー1号だった。
「はぁ、はぁ・・・。ふっ、地上の空気がこんなにうまいものだとはな。」
 苦しそうに肩で息している1号の姿が、海中での闘いの厳しさを物語っていた。
「・・・しかし、奴はあれで倒れたのだろうか。」
 一人呟く1号。だがこの時、1号は知らなかった。海底から1号目掛けて迫ってくる何かを。
「・・・Xの帰りも遅い。もう一度潜る必要がありそうだな。」
 その時。何者かが1号の足を掴み、瞬時に海中深くまで引きずり込んだ。何が起こったか判らずもがく1号。そんな1号に太い蛇のようなものが幾重にも絡みつき、きつく体を締め付けた。骨が軋むほどの締め付けに1号はもがき苦しみ、マスクから吐き出された二酸化炭素が海上へと昇っていく。力が抜けていき、意識がとぎれそうになったその時、
「本郷さん!!」
 Xが現れ、ライドルホイップで1号を締め付けていたものを全て断ち切った。
「本郷さん、大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ、敬介、一体何が起こったんだ?」
「あれを・・・。」
「・・・何だあれは。」
 Xが指さす方を1号が見下ろすと、そこには巨大な「タコ」がいた。無数に生えた足、巨大な丸い頭に、その下の方にある怪しく光る眼。欧州では「デビルフィッシュ」と言われ恐れられているタコ。まさにそれを象徴するかのような禍々しい姿がそこにあった。
「あれはまさか、ポセイドン・・・、なのか?」
「・・・奴は俺達に勝つために神であることを捨てたんです。だからあんな姿に・・・。」
「そうだ。我が名はポセイドン。神を捨てた男。どうだ。禍々しいだろう。毒々しい姿だろう。だが我は後悔していない。貴様等を倒すためなら、この命、惜しくはないわ!!」
 ポセイドンはいくつもある足を2人に向けて伸ばしてきた。1号は手刀で、Xはライドルホイップで足をなぎ払う。だが斬られた足はすぐさま再生し、再び2人を襲ってくる。
「くっ、これじゃあキリがない・・・。」
「くっ・・・。」
「本郷さん!?」
 何を思ったか1号は、ポセイドンの巨大な胴体目掛けて突っ込んでいった。それに応じるように無数の足が1号に襲いかかるが、手刀で断ち、隙間をぬって胴体を目指した。そして、
「ライダァァァ、キィィック!」
 1号のライダーキックが胴体に命中した。だが、
「ふん、あまい。」
「!?」
 まるでゴムまりを指で押したような感触。全く手応えのない感覚。1号の体は壁に跳ね返ったボールのように弾き飛ばされ岩に激突した。
「本郷さん!!」
「ぐはっ、どうなってるんだ?」
「驚いたか。我の体はゴムのように弾力性を増した。もはや貴様等の打撃の技は通じん!」
「なん、だと・・・?」
「くっ、ならば!」
「X、キィィック!!」
 Xも続いてキックを放った。だが、同じ事だった。胴体はへこむものの、すぐに反発しXも岩に叩きつけた。
「敬介!!」
「がはっ・・・。」
「フハハハハハハ、無駄だ無駄だ。どうだ。打つ手があるまい。悔しければ、この体を突き破ってみせい。もっとも、その力があればの話だがな。フハハハハハ。」
「・・・・・・。」
 2人は何も言えなかった。ポセイドンの言うとおり、打つ手がなかった。人間体の時にほぼすべての力を使った2人には反撃する力すらなかった。そんな2人にポセイドンの巨大な体が、岩をなぎ倒しながら2人へと近付いてきた。




 「ポセイドン号」がニューヨークの港に到着した。滝は船から下りてくる乗客の中から本郷と敬介の姿を探した。しかし、2人の姿は無く、滝の元に戻ったのはエンジンが焼き付いた新サイクロンだけだった。
「本郷・・・。」
 あれからもう何時間も経過している。どうしても不安をぬぐい去れない滝であった。








 その頃2人は、ポセイドンの猛攻に逃げ回るしかなかった。
「どうした。逃げ回ってばかりじゃ何もならんぞ!」
「くっ、ダメだ。本郷さん!」
「うぬぅ・・・。」
 すでにあきらめの色を浮かべる敬介。だが1号は猛攻をかわしながら何かを探っていた。
(あるはずだ。きっとあるはずだ。ウィークポイントが。)
 残りわずかのエネルギーでこの巨大な敵を倒すには、ウィークポイント、弱点をピンポイントに攻撃する。1号はそれに賭けるしかなかった。
 そして1号がポセイドンの頭部にさしかかった1号はついに見つけた。
「見つけた! 奴のウィークポイントが!!」
 だがその時、ポセイドンの攻撃を喰らい、1号の体は岩に叩きつけられた。
「本郷さん!!」
 Xが1号の元へ急ぐと、体の上に積まれた岩を退けゆっくりと起きあがった。
「大丈夫ですか?」
「ああ。それよりこの戦い、もしかしたら勝てるかもしれんぞ。」
「ホントですか?!」
「ああ。奴のウィークポイント、弱点を見つけた。」
 1号はそう言うとXに耳打ちした。
「・・・なるほど。」
「そこを狙えば、いくら奴の体でも突き破れるはずだ!」
 その時、鋭く尖った無数のポセイドンの足がダブルライダーに迫ってきた。
「もう動けんようだな・・・。死ねぃ!!」
 シルエットで鋭い足がダブルライダーを貫いた。だがそれは貫かれたのではなく、足をわきで抱え受け止めていた。
「ぐっ、まだそんな力があったか。」
「誰が動けないだと?」
「何度も言わせるな。俺達は貴様を倒すまで何度だって立ち上がるってな!」
 2人は同時に抱えている足を握りしめた。力を入れた瞬間、2人の両足がボコッという音と共に沈んだ。そして2人は巨大な体のポセイドンを振り回し始めた。最初は僅かしか動かなかったが、さらに力を入れていくと徐々にだがポセイドンの体が浮き始めた。
「なにぃ!? そんな馬鹿な!?」
「うおおおおおお!」
「ぬおおおおおお!」
『ライダアァァァァァパワァァァァァァ、全開!!!』
 やがて遠心力によりポセイドンの体が完全に海中に浮いた。さらにさらに力を入れ、圧力で周りの岩やサンゴ礁がなぎ倒され、海上に巨大な渦が出来るほどポセイドンを振り回した。それからどれくらい回しただろうか。ダブルライダーは同時に離し、巨大なポセイドンの体を投げ飛ばした。
「ぐうううう・・・。ちょこざいな奴らめ。殺してくれる・・・、何?」
 もうろうとする頭で2人の姿を探したが、もうそこには2人の姿はなかった。ポセイドンが気が付いたとき、すでに2人は頭の真上にいた。
「な・・・に・・・。」
『いくぞ!!』
「SET! 目標、敬介がつけた『十字傷』!!」
「ライダァァァァァ、ポイント、キィィィィーック!!!」
「おおおおおお! クルーザー大回転!!」
「X、キィィィィーック!!!」
 目標に向け一直線に撃ち出された緑色の弾丸と、クルーザーの高速縦回転から撃ち出された銀色の弾丸は重なり合い、1号が言うウィークポイント目掛けて突っ込んでいった。そう、ウィークポイントはまだポセイドンが人間体のときにXがつけたX字の傷だった。治りかけていた傷はXのクルーザーアタックで抉られ、怪物体になった今でもちょうど額の部分にうっすら残っていた。
 どんなに頑丈なダムでも、小さい穴が開けば水圧に耐えきれず、やがて崩壊する。1号はその確率に賭けたのだった。
「ポセイドン!」
「これが俺達の。」
『全力だ!!』
「ライダァァァ。」
「ダブル。」
『キィィィーック!!!』
「グギャアァァァァァァァァァァァァ!!!」
 二つの弾丸は水圧を切り裂き、X字の傷に突き刺さった。断末魔のような雄叫びを上げるポセイドンと、吹き上がる大量の血液。だが、それでも勝利の女神は微笑まなかった。弾丸は膝上辺りまで突き刺さったまま止まった。ポセイドンに致命傷を与えるまでにはいかなかった。
「そ、そんな・・・。」
「ふふふ、どうやらそれが限界のようだな。内心焦ったがな。」
「くそっ、これまでか。」
「ふっ、これで貴様等の最後だ。攻撃が強ければ強いほど跳ね返る力も強くなる。今度は岩に叩きつけられるだけでは済まんぞ。」
 ダブルライダーの足が食い込んだ部分が収縮し始めた。尋常ではない収縮だった。2人が全力でぶつかったため、跳ね返ればただでは済まない。岩に激突し、骨は砕かれ、臓器が破裂することは必至であろう。
「ちくしょう、ちくしょう・・・。」
「・・・無念だ。」
 もう為す術は無かった。2人は死を覚悟した。だが、その時だった。
「どうすれば、どうすれば・・・。」


―――――私を呼んで下さい。


「!!?」
 敬介の脳裏に突然あの青年の声が響いた。


―――――もし、どうしても力が欲しいとき、そのときは私を呼んで下さい。


「・・・・・・・。」


―――――私の名前は・・・。


「・・・・・・・。」


―――――私の名前は・・・。




「ア・・・・・・・ギ・・・・・・・・ト。」




 その瞬間、Xのベルトが金色に輝き始めた。そしてXの食い込んだ足下を中心に金色の紋章が浮かび上がった。それは六本の角がある顔のようなもので、日本でアンノウンを倒した謎の戦士アギトのモノと同じだった。
「そ、それは。敬介、お前・・・。」
「こ、この光は・・・。まさか、なぜ!? なぜ貴様がアギトの力を?」
「アギトの力・・・? 敬介が!?」
 驚愕する1号とポセイドン。その頃Xの方は、足下に出来た紋章が渦を巻くように両足に吸い込まれていった。その瞬間、少しずつだがXの体が傷の中へと沈んでいった。
「そんな・・・、バカな・・・。」
「敬介・・・。」
「はあああああああああ。」
 まるで吸い込まれるように沈んでいくXと1号の体。押し返すように収縮を繰り返すが、それすら押し返す力を今のXは持っていた。そして2人の体が完全に体内へと入った。
「ぐあ、ぐあああああああ、やめろ、やめろぉ!!」
「はあああああああああ、はぁっ!!!」
「ギャアアアアァァァァァ!!」
 金色の光がポセイドンの体を突き破り、ポセイドンの断末魔と共にその中から1号とXが飛び出した。
「くぅ・・・。敬介、お前は・・・。」
「・・・・・・。」
 心配そうに見下ろす本郷に対し、敬介は取り憑かれたかのようにしゃがみ込んだまま動こうとはしなかった。そのうちベルトから発せられた金色の光が徐々に弱まり、やがて消えた。
「敬介! 大丈夫か? しっかりしろよ!」
「・・・・・・本郷さん。俺は一体・・・。」
「・・・覚えていないのか?」
「何をですか?」
「お前がポセイドンを倒したんだぞ!」
「ええ!?」
 敬介は心底驚いた表情で後ろを振り返ると、そこには無数の足をバタつかせ、もがき苦しむポセイドンの姿があった。
「・・・これは一体。」
「ホントに覚えていないのか? お前は、突然金色の光に包まれて、そうしたら、奴のゴムみたいな体を突き破ったんだぞ?」
「・・・すみません、覚えてません。突然頭の中が真っ白になって、気が付いたらこうなってて・・・。」
(これはどういうことだ? 敬介が突然光に包まれて、足下にアギトと同じ紋章が浮かびあがった・・・。じゃあ、アギトは敬介なのか・・・? だが、しかし・・・。)
 その時、2人の間にポセイドンの足が叩きつけられた。そこにはあの禍々しくも恐ろしいほどの威圧感を発していた姿は無く、弱々しく2人に近付こうと這いつくばるポセイドンの姿があった。
「何故だ! 神であることを捨て、全てを捨てた我が何故負けた!!」
「ポセイドン・・・。」
「ヒトを滅ぼし、再び神が地球を統治せねば成らぬのに、何故!!」
「違う・・・。違う! 誰にもそんな権利はない! 神にも、人にもだ! たしかに、お前の言うとおり、人は地球を我が物顔で汚してきた。だが、その過ちに気付いた人達だっている! 人はまだ未熟なんだ! それが何故、お前ほどの男がわからない!!」
「黙れ!! 奴と同じことをほざきおって! ・・・殺してやる。殺してやる!!」
「・・・ダメだ、敬介。今の奴に何を言っても無駄だ。行こう。もう奴も終わりだ。」
 Xの肩を引き1号が言った。Xは無言で頷くと、死期迫るポセイドンを後目にし立ち去ろうとした。だが、
「・・・逃がさん!」
「!!?」
 Xの足にポセイドンの足が絡みつき引き戻した。そして海底に倒れ込んだXに幾重にも足を絡みつかせた。
「敬介!!」
「貴様等が神にも匹敵するモノだと知れば、生かしては帰さん。せめてこやつだけでも道連れにして死んでやる!」
「くっ、敬介!」
「ダメだ! 本郷さん! 来ちゃダメだ!!」
 まるでミイラの包帯のように絡みつかれる足の合間から手を出し、助けに入ろうとする本郷を止めた。
「本郷さんはみんなのリーダーなんだ。あなたまで死んでしまったらどうやって復活したショッカーと戦えばいいんですか!!」
「敬介、知っていたのか。」
「ええ、耳には入ってましたよ。だから、本郷さんは逃げて下さい! 俺は何とかしますから!」
 しかし、敬介の必至の叫びも空しく、足はどんどん絡みついてくる。
「無駄だ。どんなにもがいてもこれを外すのは不可能だ。」
「早く、にげ・・・。」
 ついにXのマスクにまで巻き付き、Xの体は完璧に隠れてしまった。
「さあ、どうする。もう、我の命はあとわずかだ。早く逃げねば体の爆発でここら一帯は吹き飛ぶぞ。」
「・・・フッ。ポセイドン、言っただろう。この本郷猛、仲間の危機を指くわえて見ているほど、落ちぶれてはいない、とな!!」
 1号はそう言うと、両手の指先までピンッと伸ばし、Xを助けるべくポセイドンに向かっていった。だが、その1号を阻むかのように残った足が襲いかかってきた。それをなぎ払いなんとか近付こうとするが、数が多い足に苦戦し近付くことがなかなか出来ずにいた。
「どうした。もう時間は無いぞ。」
「くそっ!」


「冥土の土産に教えてやろう。神は私一人ではない。世界各地に我のように封印されている。もちろん、全ての神である万物神様もな。・・・奴らももうすぐ目覚める。」


「何・・・!?」
 1号が驚愕し動きが止まった瞬間、ポセイドンの足が体に絡みついた。
「しまった!」
「・・・終わりだ。」
 その時、ポセイドンの頭上に日本に現れたアンノウンのように白い円が現れた。
「それは・・・。」
「残念だったな。終わりだ。」
「くそっ、くそっ!!」
「・・・万物神様、そして友よ。あとは、たのむ。」
「う、うおおおおーーーーーーーーーーーーー!!!」
 その瞬間、ここ一帯の海が金色に光った。




 大西洋で巨大な爆発が起きたというニュースが全世界に流れた。
 隕石落下説、海底火山噴火説が囁かれたが、アメリカの海域と言うこともあり、核実験説が有力な説として流れた。
 アメリカ政府はその事実を否定。そして調査団を付近に派遣し調査することを報道した。







 ここはバハマ諸島のエリューセラ島の海岸。そこに2人の男が海から上がってきた。
 本郷猛と神敬介だった。
 2人とも体中から血を流し、互いに肩を借りふらつきながら砂浜に上がった。そして糸が切れた人形のように砂浜に倒れ込み仰向けになった。
「はぁはぁ、本郷さん。」
「・・・何だ?」
「俺達、勝ったんですね。」
「ああ。」
「俺が捕まってから、一体どうなったんですか?」
「・・・わからん。気が付いたらお前と歩いていた。」
 本郷は記憶の断片を無くしていた。ポセイドンに捕まったXを助けようと単身突っ込み、自分も捕まった。そこからの記憶が無くなっていた。気が付いたらあの一帯から何キロも離れたところに倒れていた。おそらく爆風でここまで飛ばされたのだろう。1号はその隣に倒れていたXを抱えこの海岸まで歩いてきた。ただわかっているのは、ポセイドンを倒したと言うこと、そしてポセイドンの他に神が他に存在することだけだった。
(一体何が起こったんだ? 何も思い出せないが・・・。)
「本郷さん。」
「何だ?」
「俺、もうやばいです。」
「俺もだ。もう死にそうだ。」
「本郷さんもですか? 俺も死にそうです。」
「だが大丈夫だ。もうすぐ滝がここに来るはずだ。」
「本郷さん、俺、眠くなってきました。」
「ん? ああ、今回はかなりハードだったからな。」
「滝さんが来るまで少し寝てますよ。」
「ああ。」
「ああ・・・。・・・死ぬってのは、案外、やさしい、もんなんだ、な・・・。」
「おいおい、敬介。何を言って・・・。敬介?」




 嫌な予感がした。どうやって助けたのかわからないが、一番爆心地に近かった敬介が爆風による影響を受けるのは当たり前。本郷はようやく気付いた。敬介は自分よりも致命傷を負っていることを。本郷は飛び起き近付いた。
 敬介は力無く横たわっていた。
「おい、敬介、ウソだろ? おい、敬介! 敬介! 敬介!! 目を開けろ、敬介!!」
 いくら本郷が揺り起こしても敬介は目を開かなかった。
 敬介が、死んだ・・・?
「ウソだろ? お前が死ぬなんて。お前は仮面ライダーだろ? お前が死んでどうするんだ?」
「・・・・・・。」
「お前は第五の戦士だろ? 後輩がいるんだぞ? 死んだらどうやってまとめればいいんだ?」
「・・・・・・。」
「そうだ。お前に会わせたい奴がいるんだ。知ってるだろ? 未確認生命体第4号って。そいつが日本に帰ってきたんだ。新しい仮面ライダーだ。お前の新しい後輩だぞ? クウガっていうんだ。五代雄介っていうんだ。すごい奴なんだ。たった一人で未確認生命体と戦って来た奴なんだぞ。会ってみたいだろ? 帰って先輩風吹かせたいだろ? なあ。」
「・・・・・・。」
「目を開けろ、敬介。なあ、目を開けろ。敬介!! 敬介!!!」
「・・・・・・。」




「敬介ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」







 仮面ライダーXこと、神敬介。




 死す・・・。












 だが、
「・・・・・・・くー。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「くー、くー。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
 早とちりだった。
 もっと落ち着けば呼吸、脈の確認をすればわかることだったが、本郷はすっかり忘れていた。
 敬介はホントに寝ているだけだった。
「なんだそりゃ・・・。」
 緊張の糸が切れたのか、本郷はそのまま仰向けに倒れた。
「まったく、泣いた俺がバカみたいじゃないか・・・。バカめ。」
 本郷はうっすらと浮かべた涙を拭った。悲しみの涙を拭うと今度はうれし涙が流れてきた。それも拭った。
「おーい、本郷ー。」
 そこに故障が直った新サイクロンで滝が駆け付けた。
「おお、滝か。遅かったな。」
「遅かったじゃねえよ。心配かけさせやがって。死んだかと思ったぞ。」
「すまんな。だが、今回は本当に死ぬかと思ったよ。」
「そっか。まあ、無事で何よりだ。そこの神って野郎も無事みたいだしな。」
「・・・滝、すまんが俺も寝たい。寝かせてくれ。」
「って、おいおい、寝るな。お前まで寝たらお前らをどうやって運んでいけばいいんだ、って、もう寝てるし・・・。ったく、しょうがねえなぁ。」
「ぐー。」
 本郷も疲れているのかすぐに眠りに落ちた。
 呆れたようにため息をついた滝は、敬介をおぶり、本郷はサイクロンの上に乗せ、2人を病院に運んだ。
 2人は体の傷と疲れを癒すかのように3日間眠り続けた。
 幸せそうな顔で眠る2人。だが2人は感じていたはずである。




 RotR、アンノウンに続く新たなる敵の鼓動を。





     To be continued








 本郷達がアメリカにいる頃、日本ではアンノウンの被害が増えていた。
 アンノウンを倒すべく出動するG3こと氷川誠。
 だが、アンノウンの圧倒的な力に結果を出すことが出来ずにいた。
 そんな中、本庁は次に出現したアンノウンを倒せない場合、氷川誠を任務から降ろす決定を出す。
 自分のあまりの不甲斐なさに愕然とする氷川。
 そこに沖縄から五代雄介が帰ってきた。
 五代雄介との出会いは氷川に何をもたらすのか?
 次回、仮面ライダーLEGEND、第7話。
「強き者」
 お楽しみに。
「氷川さんは弱くなんかないですよ。人のために戦う人に弱い人なんていませんから。」
 

<戻る  第七章>