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SMALLVILLE(スモール・ビル)
邦題:ヤング・スーパーマン

 

#202 Heat

プロローグ

『#201 Vortex』から数ヵ月後。

スモールヴィル高校。新学期の始まり。
高校の入口の上には、「おかえりなさい!」と書かれた大きな幕が掲げられている。

場面変わって、クラーク・ケントのアップ。
画面右上には、赤い「REC」という文字がある。
画面が揺れ動く。クラークはビデオカメラに向かって話しているところである。

クラーク:(不安げに)ホイットニー…海外に行ったそうだね。
      そっちは…その、暖かくて過ごしやすいんだろうね。
      (足元を見下ろし、一人で笑う) こんなんじゃ、全然ダメだ。

ラナがビデオカメラを持って、クラークを撮っている。二人がいる場所は学校のホールである。

ラナ:(安心させるように)いいのよ、クラーク。感じたままをしゃべってくれれば。

ラナの後ろからピートが登場。

ピート:映画俳優クラーク・ケントが何してるんだ?
クラーク:海外にいるホイットニーのために、ラナがビデオレターを作ってるんだ。
ラナ:これくらいしか、してあげられないから。
    (ビデオをピートに向けて) ねえ、あなたもどう?
ピート:(クラークに向かって)プロのやり方を見てな。
    (カメラに向かって) 竜巻の後、町は今でも再建工事がおこなわれてる。
    新学期は最低。おまけに、ここ25年間で最悪の猛暑続き。
    とどのつまり、安全な場所にいて、早く帰ってきてくれ。
    追伸。フォードマンのいないフットボールチームは惨敗だよ。
ラナ:(笑って)完璧よ、ピート。
クラーク:ほんと、最高。
ピート:(クラークの肩をたたいて)今度はNGを出すなよ。

ピートは去り、クラークはラナに向き直る。

ラナ:どう、クラーク? テイク・ツーをやってみる?
クラーク:また今度にするよ。
ラナ:いいわ。そうね…後でタロンに寄ってくれる?
クラーク:わかった。
ラナ:うん。 (小さく手を振って) それじゃ。

立ち去るラナ。クラークはその後ろ姿を見送る。

クロエ:(声のみ)なつかしい光景ね。

振り向くクラーク。すぐそばにクロエが立っている。

クラーク:クロエ!
クロエ:やあ。

クラークはクロエをぎゅっと抱きしめる。クラークはとてもうれしそうに笑顔を浮かべる。

クラーク:戻ってきたんだ!

クロエもクラークを抱きしめ返す。ただし、彼女の顔はどこか寂しそうである。

クロエ:ええ、ええ。
     メトロポリスと、デイリー・プラネットのインターン制度の荒波にもまれて帰ってまいりました。

クロエは小さく笑う。

クラーク:君が大成功したってピートから聞いたよ。もう会えないかと思ってた。

二人はホールを歩き始める。

クロエ:そうなのよ。うちのパパがもう一度レックスコープで働くことになってね、
     で、このド田舎に舞い戻ってきちゃったってわけ。

二人は笑いあう。

クラーク:(クロエの肩を抱き寄せながら)君がここにいてくれてうれしいよ。
      この夏は君がいなくて寂しかった。

クラークに抱き寄せられたクロエは困ったような表情を浮かべて、クラークから少し身を遠ざける。

クロエ:そうねえ、Eメールも山ほど送ってくれたことだし。

クラーク:(気まずそうに)ああ、その、ごめん。農場の仕事とか、いろいろあって…。
クロエ:気にしないで。大したことじゃないから。

クロエの様子に気づかず、クラークは話を続ける。

クラーク:その…君の話をいろいろ聞いてみたいな。

クロエ:(うれしそうな振りをして)そうね、実を言うと、話すほどのことは何もないのよ。
     ああ、でも、メトロポリス高校から来た、超いかしたインターンと出会ったわ。
     もう、かっこいいの!
     彼のおかげで、3ヶ月の間、スモールヴィルのことなんて考えもしなかったわ。

クロエは立ち去っていく。
クラークは驚きと困惑の表情を浮かべて、クロエを見送る。
クラークはため息をついて、ホールの反対側を見る。その時、クロエが振り向く。
クロエはクラークが何の反応も示していないことを見て、寂しそうな表情を浮かべる。

場面変わって、生物学の教室。クラークとピートが入ってくる。
一人の生徒が、教室の真ん中に旧式の映写機を運んでくる。

ピート:(皮肉っぽく)最高。
クラーク:何?
ピート:コワルスキーおばあちゃんは、毎年、生物学の最初の授業に、
    古臭い性教育の映画を見せるしきたりなのさ。

クラークとピートは前のほうの机に並んで座る。ラナとクロエは、その数列後ろの机に座る。

クラーク:誰に聞いたんだ? お兄さんか?
ピート:(笑って)親父から。
クラーク:まあ、そんなに悪くはないさ。

教室の前の扉が開く。デズリー・アトキンス先生が入ってくる。
20代後半か30代前半の美しい女性である。
デズリーは胸元が大きく開いた超ミニのワンピース姿である。

デズリー:みなさん、おはよう。わたしの名前はアトキンス。
      みなさんの新しい生物学の教師で、健康と人間発達に関して講義をします。

男子生徒は座りなおして注目する。
クロエはおもしろそうな表情を浮かべる。
デズリーは映写スクリーンを下ろして位置を調節する。
デズリーが中腰になると、ミニスカートの奥が見えそうになる。
じっと見ていたクラークは椅子からずり落ちそうになる。ラナとクロエはおもしろそうに見ている。

デズリー:ここはエアコンがきいてないのね。でも、一緒に我慢するしかないわね。
ピート:(小声で)もう喜んで。

ラナはくすくす笑い、デズリーは窓のブラインドを下ろす。

デズリー:じゃあ、映画を始めましょう。みんな、眠らないようにね。

映写機が動き出す。哺乳類の生殖に関して、単調な男性のナレーションが延々と続く。

ナレーション:単細胞生物から高等哺乳類にいたるまで、
        自然界のあらゆる生物は生殖活動をおこないます。
        これにより、個々の生物はおのれの遺伝子情報を次世代へと受け渡すことができます。
        動物はさまざまな求愛行動をおこないます。
        これら生殖活動のプロセスは、交尾あるいは性交と呼ばれる行為から始まります。
        多くの場合、メスはフェロモンと呼ばれる匂いの化学物質を使ってオスをひきつけます。
        (クロエは笑っている) フェロモンは異性から特定の行為を引き出すために使われ、
        体の分泌腺から分泌され、汗のような体液と混じることもあります。
        哺乳類における求愛行動の目的は…メスに精子を…精子は移動して…。

うだるような暑さと退屈なナレーションのせいで、生徒たちはうんざりした顔になっている。
クラークは後ろを振り向く。デズリーが教室の後ろの机に寄りかかっている。
デズリーは手を伸ばして足をなでさする。クラークの顔に汗が光る。
デズリーはぼんやりと鎖骨に指を滑らせている。
デズリーはクラークが見ているのに気づき、前を見なさいというふうに無言で示す。
クラークは前を向く。そんな二人の様子を見ていたクロエは、皮肉っぽい笑みを浮かべる。
その間も映画のナレーションは続き、
動物がフェロモンを使ってどのようにして異性を操るのかという説明をしている。
クラークは再び後ろを振り向く。
デズリーの胸の谷間に汗がしたたり落ちていくのを見て、クラークは息をのむ。
突然、クラークが顔をしかめ始める。クラークは前を向いて、何度もまばたきを繰り返す。

クラークが前を向くと、目がかすかに光を放ち始める。
クラークは息をあえがせる。
すると、両目から波のような熱線が発射され、映写スクリーンに数ヶ所焦げ目ができる。
すぐにスクリーン全体が燃え始め、パニックにおちいった生徒たちが立ち上がる。
クラークは椅子に座ったまま、荒い呼吸をして、手で顔をぬぐう。

デズリー:みんな、歩いて。走っちゃダメよ。教科書はそのままにして。さあ、外に出ましょう!

生徒たちは慌てて教室の外に出て行く。クラークは立ち上がり、怯えた目でスクリーンを見つめる。

第1幕

スモールヴィル高校の外。
校舎のそばに消防車が停まっていて、生徒たちは駐車場のあたりで動き回っている。
消防士が生徒に質問している。クラークとピートは消防車のとなりで成り行きを見ている。
突然、自動車のクラクションの音がして、銀のフェラーリが停まる。
ドアが開き、レックスが慌てて出てくる。クラークは車のほうに向かう。

クラーク:(喜んで)レックス!

二人がいるほうにレックスが急ぎ足でやって来る。

レックス:知らせを聞いて、すぐに来たんだ。

クラークは笑みを浮かべるが、それはすぐに困惑へと変わる。
レックスはクラークの存在にほとんど気がつかないまま横を通り過ぎ、
まっすぐにデズリーのもとへと向かう。

デズリー:あら!
レックス:やあ。

二人は抱き合い、口づけを交わす。

レックス:大丈夫か?

クラークとピートは顔を見合わせる。

デズリー:ええ、大丈夫。
      (クラークを示し) この生徒のおかげでね。
      (クラークに向かって) クラーク、ちょっと来てくれるかしら。
      (レックスに向かって) 火事の間、彼だけはずっと冷静だったの。火を消したのも彼よ。
レックス:もう何度目になるかな。クラーク、礼を言わせてもらうよ。
クラーク:一体どういう関係?

レックスは大きな笑みを浮かべる。

レックス:そうだったな、すまない。
      (デズリーに向き直り) この人はデズリー・アトキンス。俺の婚約者だ。

デズリーは微笑み、クラークは驚く。
後ろのほうでは、消防士が「もう安全です」と言い、生徒たちは再び校舎のなかに入っていく。

デズリー:じゃあ、教室でね、クラーク。

デズリーはレックスの手を握ってから、校舎に戻っていく。二人はデズリーの後ろ姿を見送る。
クラークは訳がわからないといった感じで、レックスは恋に溺れた男といった有様である。

クラーク:婚約者? 誰かとつきあってることすら知らなかったよ。本気なの?
レックス:(デズリーの後ろ姿から目を離さずに)これ以上本気になったことはないね。
      ああ、そうだ…。

レックスはジャケットのポケットを探る。

レックス:配達させようと思っていたんだが、ちょうど良かった。

レックスはクラークに小さな封筒を手渡す。
クラークは封筒を受け取って開ける。なかには一枚のカードが入っている。

クラーク:結婚式の招待状じゃないか…それも今夜。
レックス:急な話なのはわかってるんだが、君に俺の新郎付添人になってほしいんだ。

クラークは驚いてレックスを見つめる。

クラーク:レックス…その、どう言っていいのか…。
レックス:イエスって言ってくれ。
クラーク:(困ったように)驚いたよ…。

クラークはレックスの顔を見て、これがレックスにとってはとても大事なのだと気がつく。

クラーク:…でも、喜んで引き受けさせてもらうよ。

レックスは笑顔を浮かべる。

レックス:良かった。

レックスはクラークの肩を叩き、車に戻っていく。

レックス:教室に戻れ。今度はいつ火事があるかわからんからな。

レックスは車に乗り込む。クラークは校舎に入っていくデズリーを見て、少し不安そうな顔をする。

場面変わって、ルーサー家の屋敷。
レックス・ルーサーとデズリー・アトキンスとの間の婚前契約書が準備されている。

デズリー:(レックスの机から婚前契約書を取り上げて)
      あなたのお父様からの結婚式のプレゼントね。これにサインしてほしいのかしら?

猛暑の影響がひどく、レックスとデズリーは汗をかいている。

レックス:もし君がサインしないと、俺は遺産を相続できないことになる。
デズリー:(笑って)いいわ。サインする。でも、その前にキスをして。

デズリーはレックスの首に手を回して、引き寄せる。二人は激しく口づけをかわす。
デズリーが唇を離すと、そこからピンク色の霧のようなものがあらわれ、
レックスの口と鼻のなかへと入っていく。デズリーはレックスの顔をさぐるように見る。

デズリー:(口をとがらせて)でも、結婚式の日に、こんなのにサインするなんて嫌だわ。
レックス:君の言うとおりだ。
      (囁き声で) 君は最高の女性だ。俺は死ぬまで君と一緒にいるつもりだよ。

レックスは婚前契約書を取り上げて、二つに引き裂く。デズリーが笑みを浮かべる。

場面変わって、ケント家の台所。
マーサがテーブルに座って、請求書をチェックしている。マーサは卓上扇風機の風にあたっている。
ジョナサンが農作業から戻ってくる。顔は埃まみれである。

ジョナサン:やあ。
マーサ:(請求書でパタパタと扇ぎながら)ハイ。
ジョナサン:(冷蔵庫に向かいながら)暑いな。
マーサ:これでもまだエアコンを買わないの?
ジョナサン:(冷蔵庫からレモネードを取り出し)電気代がかかるだろ。

クラークが学校から帰ってくる。

マーサ:おかえりなさい、クラーク。

ジョナサンはグラスを手に、クラークのほうを見る。

マーサ:学校はどうだった?
クラーク:以前とは違ってた。
ジョナサン:(レモネードを2つのコップに注ぎ)どんなふうに?
クラーク:生物学のクラスで火事があったんだ。

マーサは心配そうな顔をする。

クラーク:大丈夫だよ。怪我人はいない。広がる前に僕が消し止めた。
マーサ:なら、あなたは立派なことをしたのよ。
クラーク:でも、火事の原因は僕かもしれない。

マーサは驚いてクラークを見る。

ジョナサン:何だって? どういうことか説明してくれないか。
クラーク:(少しいらだって)暑くなってきたんだ。目が燃えてるような感じだった。
      次の瞬間、僕が見つめてた場所が燃え始めたんだ。
マーサ:ただ見つめただけで?
クラーク:僕を誰だと思ってるのさ? トラクターを持ち上げて、壁の向こうが見える男だよ。

クラークは両親に背を向け、足音高く歩き去ろうとする。

ジョナサン:(クラークに近づいて)クラーク、ちょっと待つんだ。
       それがおきた時のことをくわしく説明してくれ。
クラーク:新しい生物の先生が来たんだ。それで、僕らは映画を観てた。
マーサ:教育映画?
クラーク:性教育の映画。

マーサとジョナサンは「なるほど」といったような顔をしてクラークを見る。
クラークはバツが悪そうな様子で、テーブルのところに戻ってきてレモネードの入ったコップを手にとる。

ジョナサン:(マーサに)ややこしい話になりそうだな。
マーサ:(言葉を選びつつ)ねえ、クラーク。
     その…事件は何かその…ホルモンと関係があるのかもしれないわ…。
ジョナサン:そうだ。

クラークは一息でレモネードを飲み干し、両親のほうを振り向く。

クラーク:(イライラして)ああ、そう! じゃあ、僕は火をふく怪物に成長したわけ?
ジョナサン:いや、クラーク、そうじゃなくて…。

マーサはジョナサンに先をうながす。

ジョナサン:…他の能力を使いこなしたように、今回の力も完全に理解してマスターしないと。
クラーク:他の能力は、物を燃やしたりなんかしなかったじゃないか!

ジョナサンは口を開きかけて閉じる。

マーサ:だからこそ、ゆっくり時間をかけないと。だから、その…。
クラーク:ああ、そう。
マーサ:だから…なるべく家にいて、その、みんなで考えましょう。

クラークはため息をついてうなずく。ふと、あることを思い出す。

クラーク:無理だよ。

ジョナサンはクラークに目で問いかける。
クラークはポケットから結婚式の招待状を取り出し、マーサに手渡す。

マーサ:どうして? これは何?
クラーク:信じられないと思うよ…。

場面変わって、結婚式場。
シャンパンの栓が音をたてて飛び出す。招待客が歓声をあげる。
ここはルーサー家の館の一角にある、屋外パーティー用のホールのような場所である。
黒いスーツ姿のレックスと、肩ひものない白のウェディングドレス姿のデズリーが、
巨大なウェディングケーキのそばで笑っている。
大勢の招待客が歩き回っている。暑さをしのぐために、扇風機も設置されている。。

ベランダの下では、レックスが人差し指に砂糖パウダーをつけてデズリーの口元に差し出している。
デズリーは砂糖を少し舐める。人々が拍手をする。
レックスは残った砂糖を舐めて、招待客に笑いかける。
レックスと同じような正装をしたクラークがそれを見ている。
うれしそうだが、どこか困惑を隠し切れない様子でもある。

執事がレックスとデズリーにシャンパンを運んでくる。
二人はグラスを受け取り、招待客に向かって乾杯する。招待客が歓声をあげる。
クラークが笑みを浮かべて、その様子を見ている。
クラークは招待客を見回し、クロエに目をとめる。クロエは薄い紫と白のドレスを着ている。
クラークは部屋を横切って、クロエの隣に立つ。

クラーク:やあ、クロエ。君を探してたんだ。

二人は並んで歩き出す。

クロエ:ほんと? あたしを見つけるのは、そんなに難しくないわよ。
     (贅沢な飾りつけを指さして)
     48時間以内に、こんなおとぎ話みたいな結婚式の準備ができるなんて、
     レックス・ルーサーくらいのものよね。

クラークは少し笑ってから、真面目な顔つきになる。

クラーク:ねえ…今朝のことだけど、なんだか少し素っ気ない態度だったから…
      僕らの間には何も問題はないよね。
クロエ:ええ、バッチグーよ。
クラーク:(クロエの前にまわって)待った。やっぱり何か変だ。
      “バッチグー”なんて台詞を言うのは、僕の父さんだけだ。
クロエ:ねえ、クラーク…その、ちょっと、機嫌が悪かっただけよ。
     それに…あたしたち、友達でいるって決めたでしょ。あたしはそのほうがいいんだけど。
クラーク:(笑顔で)僕もだよ。
クロエ:(むりやり笑顔をつくって)良かった!

クロエは目をそらして、レックスとデズリーのほうを見る。二人はお互いの目を見つめあっている。

クロエ:でも、どう言ったらいいのかしら。
     ルーサー夫人から性教育の手ほどきを受けるなんてね。
     あのレックスが結婚するなんて、信じられないわ。
クラーク:心から愛してるんだって。
クロエ:まあ、愛は盲目ってやつね。いいフェロモンを持ってるのかも。
クラーク:え?
クロエ:(皮肉っぽく)化学成分よ。持ってる人もいるし、持ってない人もいる。

クロエは立ち去っていく。クラークはその場に取り残されて、クロエの後ろ姿を見送る。
クラークは振り返ってレックスとデズリーが立っていたところを見る。
レックスの姿はなく、デズリーがカメラマンの前でポーズをとっている。
クラークは物思いに沈んで、しばらくデズリーを眺めている。ふいに声がかけられる。

レックス:クラーク、じろじろ見るんじゃない。

レックスがシャンパンを片手に近づいてくる。

レックス:(おもしろそうに)目が焼け落ちるぞ。
クラーク:いや、その…。
レックス:かまわん。デズリーはいい女だ。わかっている。ああ、そう、来てくれてありがとう。

クラークは少しためらった後、思い切って口にする。

クラーク:レックス、正直言って…かなり驚いたよ。
      だって、2週間前に君がビジネス旅行に出かけたと思ったら、
      今は僕の母さんがウェディングケーキの仕上げに手をかしてるんだもんな。
レックス:まったくだ。出かける時には、俺自身こうなるなんて思ってもいなかった。
      仕事に追われて駆け回っていたら…突然そこにデズリーがいたんだ。
クラーク:第一印象がすごかったんだね。

レックスは笑ってクラークに身を寄せる。まるで秘密を打ち明けるような感じで。

レックス:実は、俺を救いに来たって言ったんだ。
      (クラークがおかしな顔をしたのを見て笑う) 俺も冗談だと思ったさ。
      俺の名前や財産に興味があるだけだってね。
      でも、その夜を過ごしているうちに、この人は違うってわかったのさ。
クラーク:そんなに急に?
レックス:(真面目な調子で)慎重に考えて時間の無駄をすることもあるし、
      まっすぐ突き進んだっていい。
      クラーク、人はな…正しい時にはちゃんとわかるんだよ。

レックスは花嫁のところへ歩いていく。
クラークは周りを見回し、ラナに目をとめる。ラナは飲み物を手に、涼もうとしている。

場面変わって、タロン。夜。
礼服を着たままのクラークがビデオカメラに向かってしゃべっている。

クラーク:それから…シャークスの試合は全部ピートが録画してくれてる。
      だから、見逃すことはないよ。でも、あのプレーを見たら、君も参加したがるかも。
      その…あの時の約束は忘れてないよ。
      だから、心配しないで。早く帰ってきてほしい。元気で。
ラナ:(停止ボタンを押しながら)すごいわ。本当にありがとう、クラーク。

ラナはスツールを降りて、テーブルの上にビデオカメラを置く。

ラナ:で、ホイットニーと何を約束したの?
クラーク:その、君から目を離さないようにって。

ラナは動きを止め、クラークを振り向く。クラークは誤解を解こうと、急いで説明する。

クラーク:いや、別に君を信用してないという意味じゃないよ。

ラナはうなずき、話題を変える。

ラナ:暑いわね。アイスコーヒーでもどう? すぐ作るわ。

ラナはカウンターへ向かう。

ラナ:マネージャーの特権の一つは…24時間いつでもカプチーノが飲めることよ。

ラナはグラスを2つ取り出して、氷を入れる。クラークがカウンターに近づく。

クラーク:それで…君はホイットニーに何て言ったんだい?
ラナ:5、6回やってみたんだけど、最後までうまく言えなくて。言いたいことがたくさんありすぎて…。
クラーク:大変だね、遠距離恋愛ってのは。

ラナはクラークを振り向く。

ラナ:ホイットニーがいなくて寂しいわ。

しばし見つめあうクラークとラナ。ラナは再びカプチーノ・マシンに向き直る。

ラナ:それに、心配もしてるし。でも、こんなふうに中途半端でいるのは嫌だわ。
   この選択はお互いにとって正しかったのかしら。

ラナはクラークのほうを振り返る。

ラナ:彼からEメールが届くの。
    (再び背を向け) 今は大変な時期みたい。
    最初は基礎訓練で、今は海外に派遣されてしまった。誰か頼りにできる人が必要なのよ。

ラナは飲み物を作り終えて、カウンターを回り込んで運んでくる。

ラナ:いつもあなたがあたしの面倒を見てくれているし。でしょ?
クラーク:この夏はあんまりそばにいなかったけどね…
      (ラナからグラスを受け取って、カウンターに座る)
      でも、あの竜巻以来、農場がひどい有様でさ。
ラナ:あの日以来、みんな元の生活に戻ろうと必死なのよね。

クラークはうなずく。

クラーク:レックス以外はね。あんなに幸せそうなレックスなんて見たことないよ。
ラナ:でも、ちょっと変よね。
クラーク:良かった。そう感じるのは僕だけかと思ってた。
ラナ:だけど、ロマンチックなことに変わりはないわ。
クラーク:レックスには簡単なことなんだろうな。
ラナ:そうね、簡単なことなのかも。
    レックスは情熱のおもむくままに行動して、ためらうということを知らない。
    あたしたちにも、同じことができるかしら?

見つめあうクラークとラナ。
突然、クラークが狼狽して、まばたきをしたかと思うと、しっかりと両目を閉じる。
クラークはスツールを降りる。

クラーク:あ…う…。
ラナ:クラーク、どうしたの?

クラークは急いで出口へと向かう。両目を閉じたまま、ラナから遠ざかろうとする。

クラーク:気分が悪いんだ…。

痛みが激しくなり、クラークは立ち止まる。ラナが近づいてきて、クラークの額に触れる。

ラナ:大変…すごい熱よ。家まで送るわ。

ラナは車のキーを取りに、カウンターの後ろへと向かう。
クラークは目を閉じたまま、ふらつく体を立て直そうとする。
クラークが目を開くと、両目から熱線が発射され、カプチーノ・マシンを直撃する。
カプチーノ・マシンは爆発して炎を吹き上げる。ラナが悲鳴をあげる。
驚いたクラークは別の方向に顔を向ける。すると、今度は壁が熱線を浴びて炎を吹き上げる。
クラークはパニックに陥って周囲を見回す。クラークが見た部分が次々に炎を吹き上げ始める。
ようやく、熱線がおさまる。クラークはうめき声をあげ、頭をふり、目を閉じて、こめかみをさする。

ラナがクラークの背後に来て、クラークの腕にすがりつく。
信じられないような面持ちで、炎上するカプチーノ・マシンと壁を見つめる。
クラークはラナの体に手を回す。

クラーク:大丈夫?
ラナ:ええ。あたしは大丈夫。何がおきたの?
クラーク:わからない…。
ラナ:警察に電話するわ。

場面変わって、翌日。ケント家の納屋。
なかは暗い。クラークが階段のところに腰かけている。
納屋の扉が開いて、ジョナサンが入ってくる。突然入ってきた光に、クラークはまばたきをする。

ジョナサン:クラーク? もう学校に行ったのかと思ってたぞ。
クラーク:今日は行かない。

ジョナサンは黙ったまま、説明をうながす。

クラーク:タロンで、またおきたんだ。
ジョナサン:何? また火事か?
クラーク:(徐々に興奮して)前よりひどかった。止まらないんじゃないかと思った。
      (立ち上がり)  消防署の人が放火じゃないかって言ってた。そうさ、その通りだよ…。

ジョナサンはクラークを落ち着かせようとする。

ジョナサン:何を言ってる。わざと火事をおこしたんじゃないことはよくわかってる…。
クラーク:(怒って)ラナもその場にいたんだ…もし彼女を傷つけたりしたら…。

ジョナサンはクラークの肩に手を置く。しかし、クラークはその手を振りほどいて歩き出す。

ジョナサン:おい、クラーク…クラーク!

クラークは立ち止まる。
ジョナサンはクラークの両肩に手を置いて、自分のほうを振り向かせる。
クラークは目をそらしたままである。

ジョナサン:さあ…クラーク…こっちを…私の顔を見るんだ。

クラークはしぶしぶジョナサンの顔を見る。

ジョナサン:いいか、何が火事をひきおこすのか、その原因がわかった気がする。

クラークは期待に満ちた目でジョナサンを見る。

場面変わって、外の畑。
クラークが棒を地面に突き刺している。棒の先にはカカシの人形がある。

ジョナサン:よし。ルールその1。必ず納屋から離れた場所で練習すること。さあ。

ジョナサンはクラークの肩を叩き、二人は連れ立って、カカシから少し離れたところに歩いて行く。

クラーク:父さん、どういうこと? これがおきないようにするんじゃないの?
ジョナサン:(うなずいて)オフスイッチを探すためには、まず、オンスイッチを探さないとダメだろ?
       さてと…。

ジョナサンはクラークを振り向かせて、カカシと対面させる。

ジョナサン:(カカシを指さし)さあ、最初の火事がおきた時、
       お前が考えていたことを正確に思い出すんだ。

クラークはジョナサンを見て、それからカカシを見る。二人はしばらくじっとカカシを見つめる。

ジョナサン:(励ますようにクラークの肩を叩き)さあ。

クラークはじっとカカシを見つめ、集中しようとするが、うまくできない。

クラーク:父さん、悪いんだけど、その…。
ジョナサン:一人になりたい。ああ、そうだな。

ジョナサンはクラークの背中をポンと叩いてから、歩き去る。

クラーク:ありがと。

ジョナサンはクラークをその場に残して、納屋に向かって歩き出す。
クラークはカカシをじっと見つめる。クラークは集中しようとするが、何もおこらない。
クラークはさらに見つめ続け…

クラーク:ラナ。

突然、クラークの両目が光を放ち始め、熱線が発射される。カカシが炎に包まれる。
クラークは自分の成果を見て、うれしそうに父親のほうを見る。
ジョナサンは首を横にふって笑みを浮かべる。

暗転

第2幕

簡易フライパンつきポップコーンが熱線で温められている。
なかでトウモロコシがはじけ、アルミホイルがふくらむ。場所はケント家の台所。
ジョナサンとマーサが見守るなか、クラークが目から熱線を放射してポップコーンを作っている。

ジョナサン:かかしが5体、水桶が2つ、メールボックスときて…。
クラーク:父さんの言うとおりだよ。
      原因がわかったら、セックスについて考えなくてもコントロールできるようになったよ。

クラークの台詞とともに、ポップコーンの容器が爆発して、あたりにポップコーンがばらまかれる。
ジョナサンとマーサは愉快そうにクラークを見やる。

ジョナサン:本当に大丈夫か?
クラーク:(バックパックを持ち上げながら)僕を信用して。
      今度デートすることがあっても、相手の子を燃やさなくてもすむよ。
ジョナサン:そりゃ安心だな。
クラーク:(笑って)大丈夫だよ。

多少の不安を残しながらも、ジョナサンとマーサはうなずく。

場面変わって、夜。ケント農場の納屋。
なかではクラークがロウソクの列の前で座り込んでいる。
クラークはヒートビジョンを使って、ロウソクに順番に火をともしていく。
練習は順調に進み、クラークは新たな能力を早くもマスターしているようだ。
突然、納屋の扉が開き、一人の女性が階段を上ってくる足音がする。

デズリー:クラーク、そこにいるの?

デズリーが姿を見せる。納屋のいたるところにあるロウソクに目をとめて笑う。

デズリー:ロウソクをともすなんて、少し暑いんじゃない?

クラークは立ち上がる。

クラーク:(驚いて)ルーサー先生…。

デズリーは露出度の大きい赤い服を着て、長い髪を持ち上げている。

デズリー:(笑って)学校ではね。それ以外の時は、デズリーでかまわないわ。
      (髪を肩にたらして) 家のほうに寄ったら、誰もいなくて…
      納屋に明かりが見えたものだから。
クラーク:ええ、今、二人とも町に出かけてて…。
デズリー:実はあなたに会いに来たのよ。
クラーク:僕に?

デズリーはクラークを悩ましげに見つめる。クラークは困ったように見つめ返す。
デズリーはゆっくりとクラークに近づいていく。クラークは後ずさる。

デズリー:女はね、たいてい年上の男が好きなのよ。
      でも、あたしは違うわ。年下が好きなの。経験がない分は、情熱でおぎなってくれるし。
クラーク:そうなんですか?
デズリー:そうよ。あなたはこの前、教室であたしのことを見てたわよね…。

クラークは後ずさり、椅子につまずいてシートの上に倒れこみ、天井から下がったランプに頭をぶつける。
デズリーはさらに接近して、クラークの肩に手をすべらせる。

クラーク:(ランプを避けながら)すみません。あの…。
デズリー:いいのよ。本当はうれしかったの。
      はっきり言うとね、教師と生徒の関係だけじゃ物足りないのよ…。

クラークは居心地悪そうに身を動かす。

クラーク:あ…その…あなたは僕の親友と結婚してるんですよ。

デズリーはさらに近づき、二人の顔が触れあうほどの距離になっている。
デズリーの口からピンク色の霧があらわれ、クラークはそれを吸い込む。
デズリーは軽く微笑み、少し体を離してクラークの太ももに手を這わせる。
デズリーはクラークにキスしようと近づくが、クラークは身を引き離して急に立ち上がる。

クラーク:ちょっと待って…。

クラークは部屋を横切って、デズリーから距離をとる。

クラーク:何を期待してるのか知らないけど、レックスは僕の親友なんだ。
      レックスを傷つけるような真似はしないよ。
デズリー:(恥ずかしげな振りをしながら)あたしったら、どうかしてたわ。
      (泣きそうになりながら) お願い、このことはレックスには言わないで。本当にごめんなさい。

デズリーはクラークを残して納屋を出て行く。

場面変わって、翌日。
スモールヴィル高校のトーチの編集室。
パソコンの画面に、デズリーの写真の入ったメトロポリス高等裁判所の書類が映しだされている。
その書類には、アリソン・サンダースからデズリー・アトキンスへと名前を変更したことが記されている。
クラークとクロエが画面を見ている。

クロエ:ルーサー夫人には別名があったというわけね。おもしろそうだわ。

クラークはプリンターから印刷された書類を手にとる。

クラーク:ねえ…たとえばだよ…アトキンス先生が昨夜、僕の納屋にやって来て…
      僕を誘惑したって言ったら、どう思う?

クロエは信じずに笑う。

クロエ:そうねえ、この学校の男子生徒全員の願望でしょうね。
    クラーク、彼女はレックスと結婚したばかりなのよ。あなたに興味を持つはずがないでしょ。
クラーク:そりゃどうも。

クロエはクラークに向かって眉をあげる仕草を見せる。

クラーク:彼女はレックスの悪口を言ってた。僕と彼女の間の障害は、レックスだけだって。
クロエ:その話、単なる悪趣味を通り越してるわよ。
クラーク:クロエ、作り話じゃないんだ。彼女は不思議な力でレックスを支配してるんだ。
クロエ:(皮肉っぽく)へえ、それは何かしら。

クラークはいらだって、椅子から立ち上がる。

クラーク:本当だよ。単に美人というだけじゃない。
クロエ:クラーク、相手はあのレックス・ルーサーなのよ。
     結婚する前に、あらゆる不幸な可能性を考えてるはずでしょ?
クラーク:わからない。 (手元のプリントアウトを見ながら)
      でも、見つけてみせる。レックスと話をしてみる。もう少し調べてくれないか?
クロエ:ええ、いいわ。火のないところに煙は立たずって言うしね。

クラークはトーチの編集室を出て、レックスのもとへと向かう。

場面変わって、ルーサーの屋敷の書斎。
レックスがビリヤードをしている。レックスはいらだった様子である。
キューを使って、乱暴にビリヤード球を打つ。クラークが書斎に入ってくる。

レックス:(ビリヤード台を回りこんで)クラーク、来ると思ってたよ。
クラーク:そう?

クラークは黙って立っている。

レックス:気まずい沈黙など無用だ。デズリーが全部話してくれた。
クラーク:レックス、どう言っていいのか…。

レックスは次のショットを打つために場所を移動する。

レックス:今までずっと、他人の真意について疑ってばかりいた。

レックスは力をこめてビリヤード球を打つ。

レックス:友人というのは俺には決して許されない贅沢なんだと思い始めていた。
     (クラークに近づきながら) クラーク、君に会う日まではな。
     君があの川から俺を救ってくれた日から、俺は君だけは全面的に信用してきた。

クラークは微笑む。

クラーク:そんなふうに思ってくれてうれしいよ、レックス。
レックス:(声の調子を変えて)だから、君が俺の妻にのぼせ上がっているのは…困るんだよ。
クラーク:のぼせ上がる?

レックスはじっとクラークを見つめる。

クラーク:レックス、彼女が何て言ったかは知らないけど、向こうが誘ってきたんだ。
レックス:ほう、俺にそれを信じろと? この前デズリーを見ていたあの目つきは何だ?
     授業中にも見てたそうだな。
クラーク:違う、レックス…これを見てくれ。

クラークはポケットから書類を取り出して、レックスに見せる。

クラーク:君の奥さんの本当の名前はアリソン・サンダース。スモールヴィル出身だ。
     彼女はそんなこと一言も言ってなかったんじゃないか?

レックスは書類を受け取って、目を通す。

レックス:ああ。

レックスは書類をビリヤード台に放り投げ、クラークに背を向ける。

クラーク:もし彼女が真実を話してないとしたら、彼女の言うことなんて信用でき…。
レックス:(声を荒げ)デズリーは俺の妻だ。俺は妻を愛してる!

クラークはレックスをじっと見つめる。

レックス:正直言って、こんな言いがかりじゃなく、謝罪の言葉が聞けるものと思っていたよ。
      クラーク、俺たちの友情はもっと意味があるものだと思ってたがね。
クラーク:もちろんだよ…。
レックス:出ていってくれ。

レックスは怒りを顔ににじませて、さらに激しくビリヤード球を打つ。
クラークが書斎の扉に向かうと、デズリーが入ってくる。

クラーク:(デズリーに)レックスに何をしたかは知らないけど、僕はあきらめないからな。

クラークは部屋を出て行き、デズリーはレックスに近づく。

デズリー:残念だわ、レックス。つらかったでしょう。

レックスは怒ったようにデズリーを見る。

レックス:(書類を示しながら)説明してくれないか?

デズリーは書類を取り上げて、それに目を通す。

デズリー:クラークの言うとおりよ。あたしは名前を変えたの。
      でも、昨日、ルーサーに変えたばかりよ。それが一番大事なことでしょう?
レックス:どうして俺に黙っていたんだ?

デズリーはレックスを見つめ、体をすり寄せる。
デズリーはレックスを背後から抱きしめ、耳元に囁きかける。

デズリー:ねえ、そう言えば…ここ6時間くらい、夫からキスしてもらってないわ。
レックス:デズリー、今はこの話をしてるんだ。

デズリーはレックスを見つめる。
デズリーの口からピンク色の霧が吐き出され、レックスはそれを吸い込む。
レックスは力がぬけたかのようにキューを床に落とす。
デズリーはレックスの前にまわって、さらにピンク色の霧を吹きかける。
レックスは目を閉じ、デズリーはレックスに激しく口づける。
デズリーは身を離して、レックスの様子をうかがう。

デズリー:クラークは過去の人間よ。この町の人間も同じ。

レックスはぼうっとした表情でデズリーを見る。

デズリー:レックス、彼らは必要のない人間よ。あたしたちには必要ないわ。
レックス:君の言うとおりだ。

場面変わって、タロン。
クロエがビデオカメラに向かってしゃべっている。

クロエ:じゃあ、頭を下げて弾に当たらないようにしてね。
    戻ってきたら、独占インタビューを期待してるから。

ラナは笑って、ビデオカメラのスイッチを切る。

ラナ:良かったわ、クロエ。
クロエ:ありがと。

クロエはデジタルカメラを取り出して、店内の写真を撮り始める。
椅子から立ち上がり、カウンターに向かう。

クロエ:そうそう、もう一つお礼を言っとかなくちゃ。
     これのおかげで『図書館の改修工事始まる』の記事を第2面に移せるわ。

クロエは、タロンでの火災事件をトーチの一面に掲載するつもりらしい。ラナは笑う。

ラナ:夏の間ずっとメトロポリスで過ごすなんて…楽しかったでしょう。
クロエ:そうね、逃げるのはいいものよ。
     距離を置くと、自分がしたことを客観的に見れるようになることもあるしね。
     過去の間違いとかね。
ラナ:クラークと一緒にダンス・パーティーに出かけたのは、間違いなんかじゃないわ。
クロエ:(自虐的な笑みを浮かべて)いいえ、間違いよ。
     クラークへの思いに溺れて、結局は傷ついただけ。

ラナはクロエの隣に座る。

ラナ:でも、少なくともリスクを背負う勇気を持ってたってことじゃない。
クロエ:まあね。あたしは恋の戦場で倒れた兵士なのよ。

二人はくすくす笑う。

クロエ:3ヶ月かぁ。ふっきれると思ってたんだけど。
    でも、ホールで彼の姿を見た時、今までの思いが全部戻ってきちゃったんだよね。
    あたしったら、メトロポリスで男に会ったなんて、つまんない嘘ついて、彼を試そうとしたし。
ラナ:クラークは今でもあなたのことを気にしてるわ。
クロエ:わかってる。でも、あなたのことをもっと気にしてる。
ラナ:クラークのことで、あたしたちの友情を壊したくないわ。
クロエ:あたしもよ。どうすればいいの?
ラナ:大切なのは自分が何をするかよ。誰とデートするとか、しないとか…そんなことじゃないわ。
クロエ:そうね。

扉の開く音がする。レックスがタロンに入ってくる。手には何かの書類を持っている。

レックス:ラナ。話がある。
クロエ:(椅子から立ち上がり)じゃ、あたしはトーチで仕事があるから。
ラナ:わかったわ。それじゃ。

クロエが去り、ラナはレックスに向き直る。

ラナ:会えて良かったわ。
   (カウンターから書類を取り出して) ちょうど保険の最終調整ができたところなの。
   (レックスにペンを差し出しながら) あなたが確認のサインをしてくれれば、修理が始められるわ。

レックスは答えず、手に持っていた青い書類を手渡す。
その書類には:売買契約書。と記されている。ラナはショックを受ける。

ラナ:レックス、どういうことなの。
レックス:簡単な話だ。契約書の売買事項にも書いてあるが、
      共同経営者として、この土地を売却することに決めた。

ラナは書類に目を通す。

ラナ:24時間以内に施設を明け渡せですって?
レックス:その通りだ。俺たちのビジネス関係を見直すことにした。タロンは十分な利益を出していない。

レックスは背を向けて歩き去ろうとする。ラナが後を追いかける。

ラナ:こんなのひどいわ! タロンはちゃんとやってきたじゃない!
レックス:俺も倒産が理想的なビジネスモデルだとは考えてない。(ラナに向き直り) 
      正直言って、閉店後友人と楽しんでいる時に何千ドルもの被害をだした人物を
      共同経営者に選んだのは、俺の判断ミスだったかもな。
ラナ:あたしはクラークと一緒にいたのよ!
レックス:今の俺はコーヒー店の経営なんかに興味はないし、クラークに対する信用もゼロだ。

レックスはタロンを出て行く。ラナは言葉もなくその後ろ姿を見送る。

場面変わって、学校のホール。
クラークが廊下を歩いてくる。
ラナが教科書をロッカーに放り込み、乱暴に扉を閉めている。クラークはラナに近づく。

クラーク:ラナ、何かあったの?
ラナ:タロンから追い出されたのよ。
クラーク:何だって?
ラナ:レックスが火事を理由に、ビルを取り戻そうとしてるの。

ラナはロッカーの鍵を閉めて歩き出す。クラークが後に続く。

クラーク:そんなのないよ。火事になったのは君のせいじゃない!
ラナ:レックスだって、ちゃんとわかってるわ。理由を探してるだけよ。

ラナはますます怒りをつのらせていく。

ラナ:彼とビジネスをすればどうなるかって、みんなにさんざん言われたのに。
    工場を守るために一生懸命になってるレックスを見て、彼は変わったって思ってたのに!

クラークはラナの前に回る。

クラーク:ラナ、君はタロンを一から作り直したんだ。タロンは君の全てじゃないか!
ラナ:最初からあたしのものじゃなかったってことよ。

ラナは歩き去り、クラークは一人残される。クラークは近くにデズリーがいるのに気がつく。
デズリーは掲示板にチラシを貼りつけながら、クラークを見返している。
クラークは怒りにかられ、デズリーに歩み寄る。

デズリー:(クラークに背を向けたまま)こんにちは、クラーク。ラナは機嫌が悪そうね。
      何があったのか聞いた?
クラーク:ああ。レックスがタロンを閉鎖するってさ。彼が一人で決めたことだとは思えないな。
デズリー:ええ、その通り。夫婦で相談して決めたのよ。

デズリーは歩き出す。クラークが後に続く。

デズリー:証明したかったのよ。

クラークはデズリーの行く手をさえぎる。

クラーク:誰に? ラナにか?
デズリー:いいえ。クラーク、あなたによ。よく覚えておきなさい。

デズリーはクラークの周囲をまわり、背を向ける。

デズリー:あたしはあなたの大切な人間を操ることができる。
      レックスにタロンを閉鎖させるなんて簡単なことよ。
      レックスを操って、この町の人間と対立させたらどうなるかしら。
      あなたの友達も。あなたの両親もね。
クラーク:そんなことはさせない。
デズリー:やめてほしい? だったら、あたしたちに関わらないことね。
クラーク:僕は引き下がったりしない。

クラークとデズリーはお互いにじっとにらみ合う。

クラーク:必ずレックスの目を覚ます方法を見つけてやる。

クラークは立ち去り、デズリーはその後ろ姿を見送る。

場面変わって、夜。駐車場。
メトロポリス・ナンバーの赤い車が駐車されている。それはデズリーの車である。
何かの液体が車体表面を流れ落ち、地面にしたたっている。

マッチが点火され、地面を流れる液体の筋のところに落とされる。
液体はすぐに燃え上がり、炎の筋が自動車に向かって伸びていく。
車が炎に包まれ、やがて大爆発をおこす。デズリーがその様子をじっと見ている。
しばらくして、デズリーはその場を立ち去る。

場面変わって、ケント家の居間。
クラークがレモネードの入ったグラスを持っている。
ジョナサンとマーサが驚きと怒りの入り混じった表情で座っている。

マーサ:クラーク、どうしてもっと早く言わなかったの?
クラーク:その…どう言えばいいか、わからなかったんだ。言いにくいことだし。
ジョナサン:タロンのことは何ともしようがないな。
       夫を丸めこんでビジネスの判断を誤らせたとしても、別に違法なことじゃないからな。
マーサ:でも、高校生を誘惑するのは違法よ!
     明日の朝一番で教育委員会に電話をして、その教師を停職処分にしてもらうわ!

ノックの音がする。ジョナサンが玄関に向かう。

ジョナサン:はい…(戸口に立っている人物を確認して) イーサン。どうぞ。

スモールヴィルの保安官が室内に入ってくる。クラークが立ち上がる。

ジョナサン:こんなところまで、何の用かな?
イーサン保安官:ミセス・ルーサーという高校教師が、
          クラークが彼女の車に放火するところを見たというんだ。

クラークは驚いてマーサを見る。

イーサン:クラーク、この3日間で不審火が3件続いてる。
      (手錠を取り出し) 悪いが、この件が片付くまで、君を拘留しなくちゃならん。
クラーク:母さん、父さん! 僕じゃない!

マーサはやさしくクラークの腕に触れる。

マーサ:わかってるわ。
ジョナサン:クラーク、イーサンの言うとおりにするんだ。きっと何とかしてやる。
イーサン:後ろを向いて。

クラークは後ろを振り向いて両手を差し出す。マーサは泣きそうな顔になっている。

暗転

 
第3幕

タロンにて。
レックスが携帯電話で話しながら、階段を下りてくる。

レックス:そうだ。ビルと、なかにある物を全部売り払う。
      メトロポリスの取引先と金額の相談を済ませたら、俺に連絡しろ。

レックスは電話を切る。入口からマーサが入ってくる。

レックス:ケントさん。
マーサ:ネルを探してたの。
レックス:ああ、さっき出て行ったところです。引越し業者のところだと思います。
マーサ:そう、お邪魔したわね。

マーサが出て行こうとすると、レックスが呼び止める。

レックス:ケントさん、クラークのことは本当に残念です。
マーサ:本当にそう思ってるの?

マーサとレックスはじっとお互いを見る。マーサはレックスに近づき、目の前に立つ。

マーサ:わたしの息子は留置場にいるのよ。あなたの妻のせいでね。
レックス:一連の火事は、助けを求めるサインだったのかもしれません。
マーサ:それはあなたの考え? それとも、あなたの奥さんに洗脳されたの?
レックス:ケントさん、俺はあなたに『ご主人に逆らえ』などど言ったことはありません。
      俺の妻を侮辱するような言い方はやめてください。
マーサ:いい関係というのは信頼から生まれるものよ。でも、意見が合わないことだってあるわ。
     あなたのことで、わたしとジョナサンの意見が違うようにね。
     夫はルーサーという名前しか見ていなかったわ。
     でも、わたしはあなたが本当にクラークと友達になろうとしてるんだと思ってた。
     結局、ジョナサンの言うことのほうが正しかったのかもしれない。
レックス:ミセス・ケント、俺だってこんなことは望んでなんかいませんよ。
マーサ:あなたはクラークがどんな人間か知ってるでしょう。あの子は犯罪者なんかじゃない。
     どんなことがあっても、あの子だけはあなたを支えようとしてた。
     よく考えてちょうだい。本当にクラークにこんなことができると思うの?
レックス:信じたくはない。でも、俺はデズリーを知っている。
マーサ:レックス! 一週間前に知り合って結婚したばかりなのよ!
     一体彼女の何を知っているというの?

レックスは歯を食いしばる。マーサは頭を横にふって出て行く。

レックス:ケントさん…

レックスの呼びかけはマーサの耳には届かず、マーサはそのまま出て行く。

場面変わって、ルーサー家の屋敷。
プールでデズリーが泳いでいる。
デズリーは端から端まで潜水して泳ぎ、梯子をのぼってプールから上がってくる。
ジョナサンがプールに向かって歩いてくる。

プールから上がったデズリーは、髪から水滴をしぼる。

デズリー:あら、ケントさん。

ジョナサンはデズリーから目をそらす。デズリーはトップレス姿である。

デズリー:クラークのことで、お話にいらしたのかしら?
ジョナサン:(目をそらしたまま)そうだ。
       (近くの椅子からローブを取り、それをデズリーに投げて)
       服を着て話をしてくれるとありがたいんだが。
デズリー:ええ。

デズリーはローブに袖を通し、腰のところを紐でしばる。ジョナサンに向かって近づいていく。

デズリー:息子さんのことは、お気の毒ですわ。でも、これはきっと前兆の一つにすぎません。
      息子さんはかなり問題のある生徒です。
ジョナサン:(怒って)どうしてそんなことが言える?
デズリー:明らかじゃありませんか。
      自分で火をつけておいて、その後で自分が消したと言って注目を浴びる。
ジョナサン:クラークはあんたの車には近づかなかったと言ってる。私は息子を信じる。
デズリー:あら、そう。じゃあ、息子さんは嘘をついてるのね。残念だわ。
ジョナサン:きちんと話し合おうと思ってここに来たんだが、どうやら無理みたいだな。

ジョナサンは立ち去ろうとする。

デズリー:ケントさん、お願い、待って。ごめんなさい。あなたの言うとおりだわ。

ジョナサンはデズリーに背を向けたまま立ち止まる。デズリーが近づく。

デズリー:みんなレックスのせいなんです。

ジョナサンは首をふって、振り向く。

ジョナサン:これは、あんたの夫のレックスとは何の関係もない。

デズリーはふいにジョナサンに近づくと、口からピンク色の霧を放出する。
霧を吸い込んだジョナサンは目を閉じる。ジョナサンはデズリーにキスしようとする。
デズリーはジョナサンの唇に指をおいて、押しとどめる。

デズリー:その前に、してほしいことがあるの。

ジョナサンはうなずく。デズリーはジョナサンを引き寄せて口づける。

場面変わって、警察署の留置場。
鉄格子の扉が開き、ラナとクロエが入ってくる。二人はクラークの独房の前までやって来る。

クロエ:ごめんね。差し入れのケーキを焼く時間がなくて。
ラナ:どんな感じ?

クラークは立ち上がって、扉のところまで行く。クラークは鉄格子を握りしめる。

クラーク:連続放火犯で、親友の妻と不倫したって疑われてる以外は、元気だよ。

ラナ:良い知らせを持ってきたわ。クロエがアリソン・サンダースに関する追跡調査をしてくれたの。

ラナは鉄格子ごしに、クラークに古い新聞の切り抜きを手渡す。

クロエ:昔アリソンという名前だった魔性の女は、高校時代にも男子学生の間で人気があったみたいね。
ラナ:(もう一枚紙を取り出して、クラークに渡す)隕石群が墜落した時、彼女は恋人と一緒にいたの。
クロエ:『レッジャー』の記事にはくわしく書いてないけどね、
     湖のそばのトラックのなかで何をしてたかは、ご想像にお任せするわ。
ラナ:数週間後、恋人がキレて、彼女の両親を殺害。彼女は両親の遺産を全部相続した。
クロエ:それから5年後、デズリーは教師になった。彼女は貿易会社の重役と結婚。
     でも、彼は頭のおかしくなった男子生徒に殺された。
ラナ:どちらの事件も、容疑者は取調べで同じ受け答えをしてる。
クロエ:いわゆる典型的なブラック・ウィドウってやつね。
     ただし、第二の事件の後、彼女はインターネット事業の投資に失敗。
     全財産を失った彼女はレックスに狙いをつけたってわけよ。
クラーク:だから彼女は僕を誘惑してレックスを殺させようとしたのか。
      どうして僕がそんなことをするなんて思ったんだろう?
クロエ:フェロモンよ。

クラークはクロエを疑わしそうに見る。

クラーク:クロエ…。
クロエ:隕石群が落下した時、彼女は情熱の真っ只中にいたのよ。
     彼女のフェロモンレベルが増大したとしたら、男を思い通りに操ることだってできるはずよ。
     幸い、クラーク・ケントは、ある種の女性には興味がないようだけど。

クラークはクロエを見る。二人はしばらくの間、じっと見つめあう。
その時、イーサンが留置場の扉を開く。

イーサン:時間だ。

ラナとクロエはイーサンを見て、すまなそうにクラークを見る。

クロエ:はい…。

ラナとクロエは出て行こうとする。クラークが呼びかける。

クラーク:(イーサンに聞こえないように)父さんがデズリーのところに行ったんだ。ここから出なくちゃ!
クロエ:もうちょっと待って、ね?

ラナとクロエが出て行く。クラークはどこかに逃げ口はないかと周囲を見回す。
独房の向かい側の壁にある配電ボックスに目をとめる。

場面変わって、警察署のメインルーム。
突然、爆発音が響く。火災警報が鳴り響き、イーサンと副保安官が立ち上がる。

イーサン:消防署に連絡しろ!

副保安官が電話をかけようとする。イーサンは留置場へと急ぐ。
留置場内は煙が充満して、配電ボックスが炎に包まれている。

イーサン:くそっ!

イーサンは留置場の扉を開け、クラークの独房の鍵を開ける。配電ボックスが火花を散らしている。
クラークは怯えたふりをして炎を見ている。

イーサン:クラーク、ここから出るんだ。俺のそばにいろ!

クラークは独房から出る。イーサンは火元に目をやる。
その隙に、クラークは超スピードで移動する。イーサンが振り向く。

イーサン:クラーク?

クラークの姿はなく、警察署の扉が開いている。

場面変わって、ルーサー家の屋敷。
すでにサインされた、一枚の正規契約書がある。
それは『レックス・ルーサーの遺書』である。レックスがそれを手にとって、目を通す。

レックス:話がある。

バーのところにデズリーが立って、飲み物を作っている。

デズリー:何かおかしなことでも?
レックス:よくわからん。
      愛は盲目と言うが、君と出会ってから、俺は理性的な思考ができなくなっているみたいだ。
      友人のことも、ビジネスのことも。どうしてなのか、よくわからん。
デズリー:考え直すのはもう遅いわ、レックス。契約書は承認された。
      あなたのものは全部あたしのものになるのよ。
レックス:俺が死んだ場合の話だ。

デズリーはレックスを見つめたまま、ドリンクを口にする。
レックスははっと気がつく。まるで冗談を言うかのように、にやりと笑う。

レックス:君は俺を殺す気だったのか?
デズリー:いいえ。

デズリーは背を向けて、書斎の扉のほうへ歩いていって、扉を開ける。

デズリー:殺すのは彼よ。

ショットガンを持ったジョナサンが入ってくる。
ジョナサンは撃鉄をあげ、レックスに狙いを定める。レックスの目が恐怖で大きく見開く。

暗転

第4幕

ルーサー家の書斎。
デズリーとジョナサンが並んで立ち、ジョナサンはレックスにショットガンを向けている。
レックスはジョナサンを落ち着かせようとする。

レックス:ケントさん、俺はあなたを知ってる。
      あなたは人を殺せるような男じゃない。お願いです…銃を置いてください。

レックスはじりじりと後ずさり、机の上の電話に手を伸ばす。
ジョナサンがショットガンで電話を撃つ。レックスは身をこわばらせる。レックスの顔に汗がしたたる。

ジョナサン:お前の犠牲者のリストにデズリーを加えることは許さん!
レックス:ケントさん、あなたは彼女に利用されてるんです。
      彼女が何を言ったかは知らないが、それは本当のことじゃない。

ジョナサンは再び撃鉄をあげ、レックスに狙いを定める。
突然、書斎の扉が開き、クラークが室内に走りこんでくる。

クラーク:父さん! やめて!

一瞬遅く、ジョナサンは引き金をひく。レックスは机の後ろに身を投げ出そうとする。
画面がスローモーションになる。銃口から発射された銃弾は、ゆっくりとレックスに向かっていく。
銃弾がクラークの前を通り過ぎた時、クラークは銃弾に向かってヒートビジョンを放つ。
銃弾は高熱を受けて、溶けて散り散りになる。

画面が普通の速度に戻る。レックスは無傷で床に倒れている。
ジョナサンは再び撃鉄をあげて、レックスに歩み寄り、狙いを定める。
仰向けになったレックスは、ジョナサンが至近距離から自分を撃とうとしているのを見て、
両手をあげて身を守ろうとする。

クラークが駆けつけ、ジョナサンから銃を奪おうとする。

クラーク:父さん、やめるんだ!
ジョナサン:(クラークを押しのけようとしながら)クラーク!

クラークはジョナサンを壁に押しつける。
ジョナサンは書斎の本棚で背中を強打し、気を失って床に倒れこむ。

クラーク:(ジョナサンの隣にひざまずき)父さん! 大丈夫?

デズリーはレックスが立ち上がろうとしているのを見る。
レックスは怒りにかられ、デズリーに詰め寄ろうとする。
デズリーはバーにあったスコッチのガラス瓶をつかむと、それでレックスの背中を殴る。
レックスの着ていたシャツにスコッチが染みこむ。
デズリーはスティックタイプのライターをつかむと、レックスのシャツに向けて着火する。
スコッチに引火して、レックスの背中がまたたく間に炎に包まれる。
クラークがレックスの様子に気づく。

レックス:うああああっ! クラーク!

クラークはレックスのもとに駆け寄る。
レックスは悲鳴をあげながら、シャツを脱ごうとしている。
クラークはデズリーが逃げようとしているのを見て、
金属製のドアノブに向かってヒートビジョンを発射する。
ドアノブをつかんだデズリーは、あまりの高熱に悲鳴をあげる。

クラークは壁からカーテンをひきちぎり、それでレックスの体を包み込む。
クラークはレックスを床に押し倒し、炎を消し止める。
クラークはレックスの状態を確認する。
レックスはクラークを見上げ、二人はしばらく見つめあう。
それから、レックスは安心したように目を閉じる。

場面変わって、ケント農場。
台所では、マーサが鍋つかみを使って、マフィンの乗った2枚の皿をオーブンから取り出している。
振り向いたマーサはクラークと衝突しそうになる。
クラークは素手で皿をつかみ、テーブルの上に置く。

マーサ:ああ、ありがとう、クラーク。あなたが戻ってきて良かったわ。
クラーク:(マフィンを手に取り)留置場の食事以外の食べ物を見るのもうれしいよ。

ジョナサンが台所に入ってくる。

ジョナサン:イーサンと電話で話したところだ。
       レックスが証言してくれたことで、放火…
       (マフィンをつかもうとして) あちっ! 放火容疑は取り消された。
       イーサンの話によると、デズリー・アトキンスも年貢の納め時らしい。
クラーク:僕の脱獄については?
ジョナサン:お前はまだ未成年だし、
       レックス・ルーサーの命を救ったという事実なんかも考慮して、
       今回は厳重注意で許してくれるそうだ。
       (レモネードを一口飲んで) 今回は本当に運が良かった。

クラークは安堵のため息をつく。

マーサ:レックスは…何がおきたのか、しゃべったのかしら?
ジョナサン:その件については…お互いに触れないほうがいいだろう。

マーサはジョナサンの腕をさする。

ジョナサン:さて、ケントさん、ここの仕事が終わったら、君を夕食に誘いたいんだがね。
       夫婦水入らずでね。まあ、クラークさえ良ければの話だが。

クラークは笑みを浮かべる。

クラーク:どうぞ、ご自由に。

場面変わって、夜。ケント家の納屋。
クラークはハンモックに寝そべって、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』を読んでいる。
レックスが階段をのぼってくる。

レックス:クラーク、ここにいると思ったんだ。

クラークはハンモックから身をおこす。

クラーク:やあ、レックス。気分はどう?
レックス:悪い夢からさめたみたいだ。
クラーク:本当に彼女のことが好きだったんだね。
レックス:だと思ってたんだがな。

レックスは窓辺から外をながめる。

レックス:婚姻無効届を提出した。数日以内に弁護士が片をつけてくれるはずだ。
      デズリーは警察の手に任せることにする。
クラーク:(レックスに歩み寄りながら)その後は?
レックス:もっと気をつけるようにするさ。
      俺は情熱に流された。もう二度と同じ過ちは繰り返さん。
クラーク:レックス…情熱を感じるのは悪いことじゃないよ。
レックス:クラーク、君の言うとおりだ。
     人生、仕事、友人への情熱はすばらしいものだ。
     自分を見失わない限りはな。俺は君を参考にすべきだった。
クラーク:どういう意味?
レックス:ラナとの付き合い方だよ。
     俺はいつもアタックしろって言ってたが、君はそうしなかった。
     クオーターバックがいなくなった今でもな。
クラーク:(笑って)アタックしたいさ。
      だけど、まずラナがホイットニーへの気持ちを整理しないと。僕は待ってるよ。
レックス:待ちすぎるなよ。

レックスはクラークの肩を叩き、納屋から出て行く。

場面変わって、タロン。
ラナがビデオカメラに向かって、ホイットニーのためにビデオレターを作っている。

ラナ:ハイ、ホイットニー。
   早くビデオレターを作ろうって思ってたんだけど、今週はそれどころじゃなくて。
   でも、ある意味、これで良かったの。だって、何を言うべきか、考える時間ができたから。

ノックの音がする。ラナはビデオカメラのスイッチを切ってから、ドアのところに向かう。
ラナがドアを開けると、クラークが入ってくる。

ラナ:あら、クラーク!
クラーク:やあ、ラナ。修理を手伝おうかと思って。
ラナ:ありがと! 良い知らせよ…もうすぐ再オープンできそうなの。
クラーク:悪い知らせは?
ラナ:新しいエスプレッソ・マシンの使い方がわからないの。

新型エスプレッソ・マシンの光景。かなり派手な作りである。

クラーク:何て言うか…イタリア風だね。
ラナ:レックスからの贈り物よ。
   バラの花束と一緒に、もう二度とこんなことがおきないように、
   共同経営者の条件を改善したいっていう申し出もあったわ。
    (鍵をカウンターに置いて、椅子に座る) アトキンス先生とあなたのお父さんのことは、
   レックスから聞いたわ。あなたが現場にいて良かった。
   でも、変よね。彼女はあなただけは誘惑できなかった。

クラークは肩をすくめる

クラーク:まあね、彼女は僕の好みのタイプじゃないから。
ラナ:留置場は?  どうやって逃げ出したの?
クラーク:その、火事があったんだ。保安官が扉を開けてくれて、思わず駆け出したんだよ。
ラナ:3件の火事。あなたはいつも現場にいた。
クラーク:妙な偶然だよね。
ラナ:それとも、これもクラーク・ケントの秘密の一つかも。

クラークはラナを見つめ、話題を変えようとする。クラークはビデオカメラに目をとめ、それを指さす。

クラーク:ホイットニーへのビデオレターはどんな感じ?
ラナ:本当の気持ちを話すことにしたの。
クラーク:強がるふりはやめたの?
ラナ:二人にとって良くないわ。あたしは自分の気持ちを偽ってた。
   傷つけるのはわかってるし、こんな時に言うのも最低だと思う。
   だけど…秘密と嘘ばかりの関係なんて、続くはずがないもの。
   (クラークをじっと見て) そう思わない、クラーク?

クラークはうなずく。

クラーク:その通りだね。

外では、夕立のような激しい雨が降り始める。

ラナ:ようやく猛暑が終わったみたいね。 (笑って) うれしいわ。
クラーク:ああ、僕も。 (カメラを示して) 邪魔しちゃ悪いね。

二人はしばらく見つめあい、クラークが沈黙を破る。

クラーク:さよなら、ラナ。
ラナ:さよなら。

クラークはタロンを出て行く。
ラナはクラークの後ろ姿を見送って、ため息をつく。
ラナはビデオカメラのスイッチを入れる。深呼吸してから、録画ボタンを押す。
ラナは悲しげにほほえんで、しゃべり始める。

ラナ:ホイットニー。あなたのことは、とても大事に思っています。これからもずっとそう。
   でも、お互いに嘘をつかないでいようって約束したわよね。だから、本当のことを言います…。

暗転