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スターゲートアトランティス シーズン4

第64話 − ドッペルゲンガー
4X04 - DOPPELGANGER

ポピーによく似た赤い花が沢山咲いています。
ロノンはナタでその花を切り分けながら進んでいきます
シェパードのチームはジャングルの中を歩いていて、ロノンがチームの先頭に立ち道を切り開いていました。
ロノンはうんざりして口を開きます。
「俺達は何をしてるんだ?」
「ペガサス銀河の探求さ、それ以外に何がある?」
ロドニーがあっけらかんと答えます。
「俺が聞きたいのは、目的だ」
「レイスやレプリケーターの争いに役に立つようなものはなさそうね。」
テイラが答えます。
「おい、まだ早いだろ、惑星は巨大なんだ。」
ロドニーが文句を言い始めます。
「お前はいつも文句を言ってるな。」ロノンが言います。
「いつものあなたらしくないわね、ロドニー?」テイラもロノンに言います。
「気が変わったのさ」ロドニーはブツクサといいます。
「ジャンパーでの通常任務では、上空からは生命反応はなかったぞ。」ジョンが言います。
「10分ぐらいの調査で、ここに何もないって判断するのか?」
ロドニーはジョンに言います。
「ああ、俺には分かるね。」
その時ロドニーの持っているエンシェントの装置がビープ音を出します。
「奇妙なエネルギーを探知したぞ。」ロドニーは装置を見て言います。
「どこからだ?」ロノンは枝を払いながら後ろのロドニーに聞きます。
「正確には特定できてない。ジャングルなんだから、どこにあるかなんて分からないよ。」
ロドニーは泣き言を言い始めます。
「さあな、誰かがコンピュータに細工して、喜んでんじゃないのか?」ジョンはからかいます。
「ゼレンカがやったって言ってるの?」ロドニーは言います。
「だとしたら、ただじゃすまないぞ。」ロノンはイラっとした口調で言います。
「なあ、エンシェントデータベースに幾つ詳細不明のゲイトアドレスがあると思ってるんだ?」
ロドニーはイライラしながら訪ねます。
「42位か?」ジョンが答えます。
「いや、もっと多いと思う。よくは覚えてないけど。
 そういうことじゃなく、情報がないんだ。
 だから調査してるんだろ」ロドニーは説明します。
「だからそれは、情報を書くに値しない星って事だろ。」シェパードは反論します。
「それか、エンシェントが何かを隠そうとしていたのかもしれない」ロドニーも食い下がります。
「自分達からか?」ジョンは疑問を投げかけます。
「エンシェントがいなくなってから、かなりの時間が経ってるんだ。
 変わったのかも、彼らがいなくなってから。」
ロドニーは推測を投げかけます。
「あなたはそれを賭にしてるんでしょ?」テイラがロドニーに尋ねます。
「どうしてそう言うかな?」ロドニーはブツブツと言います。
ジョンは倒木を跨いで踏み出すと何か柔らかい物を踏みつけます。
「クソッ!汚れちまったぜ。」
ジョンは文句を言いながら泥から足を引き抜きます。
「もういいだろ!皆ジャンパーに戻るぞ。」
「何でだよ!」ロドニーは不平を言います。
ロノンが彼にニヤリと笑いかけます。
「そう言うな、マッケイ?今回はあきらめろ。」
ロノンがそう言うと皆はもと来た道に引き返そうとします。
その時ロドニーの後ろの立ち木の一部がまるでライトでも点いたように光りだします。
「おい、おい!皆!これは何だ?」
ロドニーはそれに気がつき木を指を差すと皆は振り返ります。
ジョンは木に向かって歩きます。
木の幹からは突き出たクリスタルが円形状に光っていました。
「自然に成長したクリスタルみたいだ。これがエネルギーの発生源だな。」
ロドニーが言うとテイラが近づいてクリスタルを見ます。
「きれいね。」
ジョンはじっとクリスタルを見ます。
「子供の時に遊んだおもちゃみたいだな。」
「コモドール64か?」
ロドニーが銃の名前を言うとジョンはしかめっ面をします。
「それともショットガンか?」
ロノンもその冗談にあわせます。
「万華鏡だ。」
ジョンが言うとロドニーはニヤリとします。
「これが何なのか分かるのか?」
「成長して輝くエイリアンキノコだ」
「木に寄生するエネルギー発生源だ」
ロドニーが説明している間、ジョンは魅せられるかのようにクリスタルを見つめ続けます。
「あんまりエネルギーは持ってないみたいだけど、このクリスタルを増やせば…」
ジョンがクリスタルに触ろうとゆっくりと手を伸ばすと、ロドニーは慌ててそれを制します。
「おい、触るなよ、何してるんだ?」
ジョンの手がクリスタルに触れる寸前、クリスタルは閃光を放ちジョンは後ろに吹き飛ばされます。
ジョンは唸って倒れている場所へ皆が心配そうに集まります。
木のクリスタルは光を失っています。
「大丈夫?」
テイラが尋ねるとジョンは上半身を起こします。
「ああ、平気だ、少し感電しただけだ。」
「危険だって言っただろ!これはエネルギーを発生してるって。」
ロドニーが言うとジョンは当惑して話し出します。
「正直に言って、なんで触ろうとしたのか分からない。」
ロドニーはため息をついてエンシェントの装置を見ます。
「おい、死んだぞ!」
「本当か?」
ジョンはロドニーの言葉に反応します。
「もうエネルギーを発してない」
「怖がらせたのかもな。」ロノンが言います。
「生き物かどうかも分からないのにか?」ジョン言います。
「ひどいな、何で触ったんだ?!」
ロドニーは怒った口調でジョンを責めます。
ロノンとテイラはジョンが立ち上がるのを手伝います。
「分からないよ!そう言っただろ! 勝手に手が…もう行くぞ」
「この辺りに仲間が生息してるはずだ。」
ロドニーは装置を操作しながら周囲をスキャンし始めます。
「科学チームにもう一度、再調査をさせるよ。」
「僕が科学チームだ。」ロドニーはジョンの言葉に憤慨します。
ジョンとテイラは向きを変えてもと来た道を戻ります。
ロノンはロドニーの背中を掴んで引っ張って行きます。
「分かったよ。重要な発見を見捨てるつもりか?
 ゼレンカとの賭けに負けるじゃないか。」
ロドニーの文句を無視してロノンは彼を引っ張って行きます。

アトランティス医務室。
夜時間。
ベッドにはジョンが横になりテイラが脇に立っています。
ケラー医師がベッドへとやってきます。
「検査の結果はクリアよ。血液検査も問題ないわ。
 私が言えるのは、あなたは健康体だって事。」
ジョンはニヤリとテイラにほほ笑みます。
「分かっただろ?言った通りだ。
 ありがとう、先生。」
ケラーは彼に指さします。
「もう衝動的に触らない事。」
「分かってますよ。」
ジェニファーは彼に微笑んでから部屋を出て行きます。
ジョンはベッドから飛び降りるとテイラと一緒に医務室から立ち去ります。
「すごく疲れたよ。」
「長い1日だったから。」
「付き添ってくれてありがとう。」
「心配だったから。」
「俺は平気さ。」
ジョンは歩きながらテイラの背中に手をかけます。
ジョンの手が一瞬白く光り直ぐに消えます。
ジョンは手をどかし彼女に向きながら言います。
「もう寝ろよ。」
「おやすみなさい、ジョン」

後に。
テイラがベッドに横たわり寝ています。
彼女は目を閉じ寝ているようですが悪夢でも見ているように眉をひそめます。

彼女の夢の中で。
テイラはジョンたちと始めてあった時の服を着て、アソスたちのテントの中にいます。
彼女が困惑した表情をしていると背後からジョンが声をかけてきます。
「うまいな、これはなんだい?」
ジョンはいくつか料理の乗った皿を前にテーブルに座りそれを食べています。
テイラは周りを見回します。
ジョンの姿は消え、その代わりロノンが立っていました。
「お前達はくっ付くと思ってたがな」ロノンは笑顔で言います。
「くっ付くって何?夕食を一緒にしてるだけでしょ。」
その脇をロドニーがエンシェントの装置を持って歩きます。
「ここには奇妙なエネルギーが出てるんだけど。」
テイラはロドニーがテントの中を歩くのを目で追っていると、
突然ジョンが近くに立っていました。
ジョンは彼女をじっと見つめています。
「何をしてるの?」
「カーター大佐は君を信用していない。俺以外誰もな。」
「一体何の話?」
「どうしてだと思う?」
ジョンは彼女の周りを歩き始めます。
「どういう意味?分からないわ。」
「君はレイスの女王と精神を通わせた時から、君は君じゃなくなってしまった。」
「えっ?」彼女は眉をひそめます。
突然男の声がテントの外から響きます。
「テイラ!」
テイラはテントの入口に目をやります。
その時ダーツの飛び交う音が聞こえてきます。
「父さん!」
彼女はテントの入口に向かって急ぎます。
しかし彼女が開けようとしたその時、ジョンが入って来ます。
ジョンの顔はイレイタスバグにやられた時のように下半分が変化しています。
服も制服ではなくバグの洞窟に入った時の分厚いコートでした。
彼は片手で彼女の喉を掴んでテーブルに押し付けます。
二人ともしばらくの間、動きませんでしたがジョンはレイスのようにテイラの胸に開いている手を押し付けます。

テイラは悪夢に目を覚まし身を起こします。
悪夢のせいで息が切れ胸を押さえます。

早朝。
テイラ、ロドニー、ロノンは海の見渡せる大食堂のバルコニーのテーブルに座っています。
「何て言っていいのか分からないけど。」
「解決したいんだろ?言ってみて…」
テイラの言葉にロドニーは促します。
「お前に分かるのか?」
ロノンはロドニーを茶化します。
そこへジョンがトレー持ってテイラの横に座ります。
「おはよう。」
ジョンが挨拶するとテイラは落ち着かない様子で顔を背けます。
ジョンは雰囲気を感じ取りロドニーたちを見回します。
「どうしたんだ?」
「テイラが昨夜、君の夢を見たんだって」
ロドニーがジョンに言うとテイラはロドニーを睨み付けます。
「ロドニー!」
「本当か?どんな夢だったんだ?」
ジョンは興味深そうに彼女に尋ねます。
「まさに悪夢よ、話したくないわ。」
「怪物から君を救い出すヒーローだったか?」
「お前が怪物だったんだ。」
ロノンが横から口を挟みます。
ジョンは眉を上げます。
「本当か?」
「さっきも言ったけど、その話はしたくない。」
彼女は席を立ち上がります。
「どこに行くんだ?」
「悪いけど、うが頭痛がするの。 昨夜は寝不足だったし」
彼女は向きを変えて歩き去ります。
ジョンはジョンしかめ面をしロドニーたちを見ます。
「俺の事を怒ってるのか?」
誰も口を開きません。
「俺が夢を操れるわけないだろ?」
ジョンが言うとロドニーが続けます。
「本当に夢を操れないと思うのか?
 7歳の頃、親父が「白鯨」を読んでくれた。
 どうなったと思う?
 鯨に飲み込まれる悪夢をどれだけ長い間見ていたことか。」
ロノンはジョンをちらっと見てからロドニーを見ます。
「まだ続いているのか?」
「ああ。」ロドニーは不快そうに答えます。

ハイトマイヤーのオフィス。
テイラがハイトマイヤーの前に座り心理分析を受けています。
「外からダーツの音が聞こえてきたんで、テントから出ようとしたんです。
 そしたら彼が入ってきて。
 本物のシェパード中佐じゃないのは分かるんですけど、現実の彼にも違和感を感じるんです。
 これは私の潜在意識からの警告なんでしょうか?」
「もし二人の間に何かを感じるんなら無視してはいけないと思うわ。
 でも考えすぎてもダメよ。」
「前にもこんな事がありました。
 子供の頃父がレイスに連れ去られて、でもその時以来こんな悪夢を見てはいません。
 目を覚ました時、息もできなかった。
 変に聞こえるかもしれないけど、眠るのが怖いんです。」
ハイトマイヤーは真剣な面持ちになります。

医務室。
テイラがベッドに腰掛けてケラーが彼女の血圧を計っています。
「身体的には問題なさそうね。
 訴えてる体の不調は睡眠不足からきてるんじゃないかしら?」
ケラーは近くのキャビネットに行って錠を開けます。
「しばらくはこれを飲んでみて。」
彼女は錠剤を取り出します。
「これでダメならもう一度診察しましょ。」
「熟睡できるんならそれでいいわ。」
彼女はベッドから降ります。
「大丈夫よ。 私もここに着てからこれを飲んでるの。」
テイラは彼女から錠剤を受け取ります。
「ありがとう。」
テイラは微笑してジェニファーの腕に手をかけます。
「気にしないで。」
ジェニファーは微笑します。
「おやすみなさい。」
「あなたも。」

夜。
ジェニファーはベッドで眠っていましたが、ベッドの脇のテーブルの無線機の受話音で起こされます。
『ケラー先生、緊急事態です。 至急医務室まで来てください!』
ケラーは枕許のライトをつけて置いてあった腕時計を取り上げ時間を確認してベッドから出て行きます。
彼女が医務室への廊下を歩いていると医務室の方からテイラのうめく声が聞こえてきます。
医務室から看護婦がやってきたのでケラーは訪ねます。
「どうしたの?」
「テイラが、ひどい腹痛で。 先生から薬を出してもらったと。」
医務室に入るとジョンが彼女の枕許に立っていました。
「眠れないと言うから睡眠薬をだしたけど。 テイラ?」
テイラは横向きにベッドに寝て腹を抱えて唸っています。
「夜食を一緒に食べていたんだ。 そしたら腹を押さえて苦しみだした。」
ジョンが説明します。
「もう寝ていると思ったわ。 薬は飲んだの?」
「いいえ。」息を荒げテイラは答えます。
「分かったわ、落ち着いて。診察させて。」
彼女は看護婦と一緒にテイラを仰向けにします。
テイラは苦しんで唸り続けます。
「抑えてて。」ケラーはジョンに言います。
ジョンがテイラの腕を抑えると、もう1人の看護士がテイラの脚を抑えます。
ケラーがテイラの腹を触診していると突然彼女の腹の下で何かが蠢きケラーは手を引っ込めます。
彼女は驚いた顔で後ずさりします。
「何なのこれ?」
テイラの腹の下で何かが激しく動きます。
テイラは突き刺すような悲鳴を上げます。
ジョンは非難がましくケラーを見ます。
「先生、何をしてるんです?」
「えーと。」ケラーは途方にくれますが指示を出します。
「まず、鎮静剤を、それから…」
するとテイラの腹は盛り上がり彼女は悲鳴を上げます。
そして腹の皮が破け当たりに血を吹き出します。
ケラーは自分にかかった血を見て青ざめます。
「大変だわ!」
テイラの腹部は引き裂かれて羽を持った巨大なクモのような生きものが鳴き声を上げながら出てきます。
テイラの目は見開き天井を向いていました。
ジョンは驚いた顔でケラーを見つめます。
「こんな事信じられるか?」
ジョンを見つめていたケラーは自分のベッドで目を覚まし息を荒げ身を起こします。

医務室。
ジェニファーは入って来くると、薬キャビネットへ行って錠剤を取り出します。
扉を閉じて振り返るとロノンが立っていて彼女は驚きます。
ロノンの後ろからジョンが出てきます。
ロノンの左眉の上には傷がありました。
「悪かった。脅かす気はなかったんだが。」
「スパーリングしてたら、運悪く打ってしまって。」
ジョンはロノンの傷を説明します。
「真夜中よ!」
「あんただって。」
「座って、診てあげるから。」
ケラーはベッドにロノンを腰掛けさせます。
彼女はロノンの傷を見て言います。
「縫わないとダメね。」
彼女は非難がましく申し訳なさそうに肩をすくめるジョンを見ます。
「俺が教えたんだ、嬉しいよ。」
「ええ、そうね。」
「待ってなくていいぞ、平気だ。」
ロノンはジョンに言います。
「いいのか?」
「ああ。明日またやるからな。」
「そう言うと思ったよ。おやすみ。」
彼は歩き去ります。
「明日またな。」
ジェニファーは思いにふけってジョンの背中を見つめます。
「どうかしたか?」
ジェニファーは彼を見てから頭を振ります。
「ううん、なんでもないわ。」
彼女は再び彼の怪我を見ます。
ロノンは少し微笑します。
「奴は誰も付き合ってないぞ。」
「えっ、違うわよ!
 そうじゃないの…
 横になってくれない、その方が縫いやすいから。」
「オーケー。」
ロノンが横になるとケラーは手袋をつけます。

後に。
治療の終わったロノンは額に絆創膏をし、廊下を歩いていました。
何かの気配を感じて彼はゲイトルームに行きますが誰もいません。
「おい?」
階段を上ってコントロールルームに行きますが誰もいません。
「誰もいないのか?」
ロノンはパニックになり始めてイスを押し倒しながらコントロールルームの向こう側に走ります。
そして階段を駆け下り医務室に戻ります。
しかしそこにも誰もいません。
「誰か?!」
彼は医務室の向こう側のドアを開けます。
するとそこは部屋ではなく森でした。

ロノンは当惑した表情でドアを抜け森に入ります。
後ろにあったはずのドアはなくなっています。
ちょうどその時、レイスのショックガンが彼を掠めて打ち込まれます。
彼はビームをよけながらすぐに走り出しました。
森の中を走り回っていると突然目の前に大きな枝が現れ、彼は胸をぶつけ仰向けに倒れます。
すると木の陰からジョンが出てきます。
ジョンは右手を不自然に後ろに隠していました。
「よう、お前だったのか。 なんで逃げてるんだ?」
「さあな。」
ジョンはにこやかに左手を差出します。
「さあ。」
するとジョンは突然隠し持っていた木の枝でロノンの頭を殴りつけます。

しばらくしてロノンが意識を回復して目を開けると彼は地面に掘られた穴の中に横になっていました。
ロノンは猿轡をされ後ろ手に縛られて、ジョンがその体に土をかぶせていました。
何をされているのか分かったロノンは呻き身をよじって土を払いのけます。
しかしジョンはお構いなしに土をロノンにかぶせ続けます。

医務室で、ロノンは恐怖でハッと目を覚まします。
そしてケラーが傷を縫っている腕を掴み上げます。
「ごめんなさい、痛かった?」
ロノンは部屋を見回し、彼女の手を離します。
「いや、悪かった。 つまり、そのー…」
「眠ってたわ。」
「変な夢を見た。」
「平気?」
「ああ、続けてくれ。」
「もうすぐ終わりよ。」
彼女が縫合を続けるとロノンは深くため息をつきます。

日中。
大食堂バルコニー。
ケラーはテイラ、ロノン、ロドニーと一緒にテーブルに座っています。
「あれは怖かったわ。
 あなたのお腹から汚らわしいエイリアンの虫が這い出てきたの。
 そしたらシェパード中佐が今まで見たこともないような冷たい目で見てたのよ。」
ケラーは自分の見た夢の内容を話します。
「まるで映画みたいだな。」ロノンが言います。
「ええ、「エイリアン。」っていう映画。 見たことあるの?」
「シェパード中佐が時々話してくれるから。」テイラが答えます。
「最初に見たときの事を思い出すよ。 まじあれはキモかった。」ロドニーが顔をしかめて言います。
「一度、医学校で友達にいたずらされた事があってね。
 解剖の実習の時、遺体のなかに生きた蛇を忍び込ませてあったのよ。」
ケラーは昔の思い出話をします。
「まあ、あれは子供の見るものじゃないな。
 ポスターからして怖さを煽っていた。
 近所の映画館がホラー祭りをやってたときは、僕は16だった。
 僕は思ったね、映画館でデートすれば、ジョセリンって子だけどオタクっぽくて、
 女の子って怖いと直ぐに抱きつくんだよね。」
ロドニーの話にテイラはうんざりします。
「あなた達の星って本当に変な習慣があるのね。」
「とにかく、僕は不安になると食べるんだ。」
「そりゃ、知らなかった。」ロノンは皮肉を言います。
「それで、緊張して彼女はそわそわし出し、僕はポップコーンを食べてたんだ。
 エイリアンが飛び出した瞬間。」
「言わないで。」テイラはため息をつきます。
「彼女に吹きかけちまった。」
「その映画は見てみたいな!」ロノンはニヤリとします。
「皆がシェパード中佐の関わる悪夢を見たのは変じゃない?」
ケラーは話題を元に戻します。
「あれはシェパード中佐じゃなかった。」
テイラは否定しますが嫌そうな顔をします。
「僕は見てないよ。」ロドニーが言います。
「最近悪夢を見てないの?」ケラーが尋ねます。
「えっ、ないよ。 昨夜はカーター大佐に夕食に招待される夢を…」
「それは私達の話とは違うでしょ、ロドニー。」
テイラがあきれて言います。
「私は「悪夢」って言ったのよ。「男の妄想」じゃないわ。」
ケラーは否定します。
「待ってよ、聞いて。 彼女はチキンにレモンをかけたんだ。 レモンだよ!
 それに僕を夕食に招待したのはゼレンカの昇進の話だ。」
「それで?」ロノンが先を促します。
「で、僕は鯨に飲み込まれた。 その先は聞かないで。」
ケラーは一瞬当惑して眉をひそめますが話題を元に戻します。
「こんな話は変だと思う? 夢の事だけど、最初はテイラで、次には私…」
「あれ以来悪夢は見なくなったわ。 薬を貰ってよく眠れたわ。」
テイラは言います。
「ロノンは私が治療してる最中だったわ。」
「重要な問題か? あんたが言ったように、ただの悪夢だろ?」
ロノンとロドニーは立ち上がってテーブルを後にします。
テイラとケラーは一瞬お互いを見ます、そしてケラーは肩をすくめます。

後に。
ケラーとサムはゲイトルームを通ってサムのオフィスへ向かう途中です。
「あなたを煩わせるほどの事でもないと思うんですけど。
 確かな証拠があるわけでもないし。」
「馬鹿げた事でも直感が正しい事もあるわ。 怪しいと思ったら調べないと。」
「悪夢は誰でも見ます、日々の生活のうえではあたりまえです。
 でもこの悪夢は違います、本当に混乱するんです。
 連鎖反応するんです、最初はテイラ、次は私、そしてロノン。
 夢の中ではシェパード中佐は否定的な存在。」
「何か心当たりは?」
「分かりません。 でも、シェパード中佐がM3X-387でクリスタルに触れた直後に始まったんです。」
「医学的に彼は問題なかったはずよね?」
「ええ。」
中国人の技術者が二人に近づいてきます。
「すみません。 宿舎への通路で緊急事態が発生しました。
 警備隊が出動しています。」
「分かったわ。」
サムは技術者にそう言うとケラーに言います。
「悪いけど。」
サムは急いで立ち去ります。

通路。
裸足でローン中尉が恐怖に凍った顔でジョンに拳銃を向けています。
ジョンは武装していないことを示すように両手を伸ばします。
彼の背後には海兵隊員達がローンに銃を向けています。
「銃を下げろ、中尉。 話せば分かる。」
「誰かA.R.Gを持って来い、直ぐに! 奴を撃つんだ!」
テイラとハイトマイヤーが近く立っています。
「中尉、話を聞かせて。 何があったの?」ハイトマイヤーはローンに穏やかに尋ねます。
「関係ない!危険なんだ! もし奴が人間なら、死にはしないはずだ。」
「ジョン、一体彼は何を言ってるの?」
テイラはジョンに尋ねます。
「奴と話すな! シェパード中佐はレプリケーターだ。」
テイラとハイトマイヤーが不安そうにジョンを見ます。
「なあ、ローン、一体どうしたんだ?」
ジョンはローンに尋ねます。
「私がか?私じゃない!」
サムがやってきてジョンの脇に立ちます。
「中尉。銃を下げなさい。」
「奴はレプリケーターだ!」
サムは混乱してローンを見ます。
「何だ、信じないのか?」
彼は銃の撃鉄を起こします。
「撃ってみれば分かる。」
「おいおい、その必要はないだろ。 抵抗はしてないんだから。」
ジョンは穏やかに言います。
「A.R.Gを用意して。」
サムが言うとジョンは彼女を見つめます。
「奴を信じるのか?」
「そうじゃないけど、怪我はしないはずよ。 それに銃を下ろすかもしれないじゃない。」
ローンが彼女に向かって銃を向けます。
「お前も仲間だな! 立ってないで奴らを撃て!」
ローンが海兵隊員に言った途端、誰かがローンにレーザー銃を打ち込みます。
ローンはしびれたようにその場に倒れ、海兵隊員達がローンを拘束します。
上を見上げるとロノンがショックモードでバルコニーから撃っていました。
テイラは他の海兵隊員が持っているA.R.Gを受け取ってジョンとサムに向けます。
「私にこれを撃たせないで。」
テイラがそう言うと二人は顔を見合わせます。

後に。
ローンは回復して隔離室でテーブルの前に座っています。
彼は部屋の上を見上げます。
「誰も負傷者が出なくてよかった。」
「何も覚えてないの?」
ハイトマイヤーが隔離室の上から尋ねます。
「ええ、正直に言うと10歳までは夢遊病癖はありましたが。」
ハイトマイヤーは部屋にいる他の者に振り返ります。
「夢遊病患者は目を覚ました時、記憶がないのは普通です。」
「俺が触ろうとしたクリスタルが原因だって思うのか?」
ジョンが言うとケラーが答えます。
「それが原因としか思えないの。 ローン中尉だけじゃないのよ。
 影響を受けた者全員が夢の中であなたの事を否定的な存在として報告してる。」
「俺がやってるわけじゃないぞ!」
「ええ、でも何かあるはずよ。」
サムが思案顔で言います。
「何だって、俺の偽者が夢の中に出てるのか?」
彼は疑って頭を振ります。
「これと似たようなエイリアンの例があるの。
 オニール将軍が大佐だった頃、クリスタル型のエネルギー生命体に触って意識を失った事があるの。
 その後彼の偽者が出たわ。」
「エイリアンの偽者って事?」
ハイトマイヤーが尋ねます。
「ええ、今回はちょっと違うようだけど。」
サムは答えます。
「問題は何なんだ?」ジョンも尋ねます。
「多分私達の恐怖を餌にしてるのかも。」
ケラーが言うと皆が彼女を見ます。
彼女は頭を振ります。
「なんでもないわ。」
「いいえ、飛躍した話でもないわ。 でも証明ができないのよ。」
サムがフォローします。
「最初はテイラだった、次が私で、治療中にロノンだったわ。」
「クリスタルに最初に触った俺は悪夢なんか見てないぜ。」
「それが皆の悪夢にあなたが現れる原因かも。 それがあなたの姿を使ってるのかもしれないわ。」
ハイトマイヤーは分析をします。
「考えがあります。 これ以上広がらないように、接触を制限したらどうでしょう?」
ケラーは提案します。
「分かったわ、ローン中尉と接触した者も隔離する必要があるわね。
 もしこれがエイリアンの影響なら、探し出す方法を見つけ出さないと。」
サムは決断を下します。

会議室。
ロドニーは出入口に立って腕を組んでいます。
ジョンは問題を知っている者達と一緒にテーブルに着いています。
「座れよ、ロドニー。」
「僕はここがいいんだ。」
「今外に出ているチームにはここに戻らないように指示したわ。
 ゲイトは使用禁止、追って指示が出るまで全員待機よ。」
サムが皆に話します。
「いい加減にしろよ、本当に必要なのか? ただの悪夢だろ?」
ロノンが愚痴を言います。
「実際、何が起きているのか分かってないの。
 既に人から人に渡り歩くエイリアンに乗り移られてるかもしれないわ。」
サムが言うとハイトマイヤーが続けます。
「これまでの経緯からすると、悪意があるのは事実だわ。
 聞いたところでは、夢の中のシェパード中佐は極めて悪質だと判断できる。」
ジョンはテイラを見ます。
「俺は顎鬚をはやしてたか?」
テイラは頭を振ります。
「今は悪夢を見せているだけだけど、それだけなのかどうかまだ分からないわ。」
ハイトマイヤーが言うとテイラが聞き返します。
「まだ始まりに過ぎないと言うんですか?」
「こんな事は今まで経験した事がないもの。
 危険ではないと言い切れないでしょ?もっと悪くなるかもしれないわ。
 たとえ取り付いた者の潜在意識を操るだけだとしても、いつか誰かの命が失われる事になるかもしれない。」
「それは何の話をしてるんだ? エルムガイのフレディか?」ジョンが冗談を言います。
「おいおい! 確かな証拠はまだ何一つないんだ。
 つまり確固たる証拠が出るまではブギーマンと一緒だ。」
ロドニーがハイトマイヤーの意見に疑問を投げかけます。
「シェパード中佐が触ったクリスタルのある星に戻る必要があるわね。」サムが提案します。
「何だって?!どうしてそんな事を?」ロドニーは不安そうに尋ねます。
「あなたが言ったように証拠を集めるためよ。 他にもあるのかどうかね。
 何者かの意思なのかどうか調べる必要があるわ。
 そしてもしそうならローン中尉の中にいる者を排除するする必要がある。
 以上よ。」

皆は立ち上がって部屋を去り始めます。

「でも、君はゲイトを封鎖するって言ったじゃないか。
 僕はそれが賢明な決定だと思ったけど。」
出て行こうとするサムにロドニーは尋ねます。
「私は「追って指示が出るまで。」って言ったのよ、マッケイ。 これは私の指示よ。」
「ああ、でももっと最適な科学チームを送るべきでは…」
ロノンが戻ってきてロドニーに言います。
「お前も科学チームじゃなかったのか?」
「…分かったよ、でも惑星は大きいんだ。 もっと大勢の人員が必要だろう?」

M3X-387.
シェパードのチームは全員防護服を身にまとい、以前と同じルートを歩いています。
ゼレンカや数人の科学者達も同行しています。
「僕まで連れてくるなんて信じられないね。」ゼレンカはロドニーに文句を言います。
「ああ、お前は賭けに負けたんだ! この星には確かに何かがある。」
「ああ、でも僕は「価値がある」とハッキリ言ったばずね。 今回の発見は重要だとは言えないよ。」
倒木が見えたときジョンはチームを導きます。
「こっちだ。」
ロドニーは勝ち誇って笑いゼレンカの背中を軽くたたきます。
「はっ!行けよ!お前が調べるんだ。」
「いつも僕ばっかし。」ゼレンカはチェコ語で不機嫌そうに言います。
「ああ、分かったよ。」
彼は木に歩いて機能を失ったクリスタルを調べ始めます。
テイラが立っている近くの立ち木にクリスタルが輝きだします。
「ロドニー!」
「なんだい?」
彼は振り返りクリスタルを見るとそれに向かって歩きます。
「見るんじゃない!絶対に触るなよ。」
「そんな事思ってもなかった。」
ロドニーはエンシェントの装置を取り出してクリスタルをスキャンし始めます。
「ラデク、こいつは生きているぞ。」
ラデクは振り返ってそれを見て言います。
「この2つを比較した方がいいみたいね。」
「僕もそう思っていた。」
「でも注意深くね。 わけの分からない何かがいるかも知れないんだから危険よ。」
「ほう。僕と同じ考えか。 でもお前が終わる前に、僕の方が先に片付けるさ。」
ラデクは機能を失ったクリスタルに戻りしかめっ面をします。
ジョンは肩をすくめます。
「ああ、お先にどうぞ!」
ゼレンカはそう言うと木から機能を失ったクリスタルを切り取るため、
不安そうに2本のハンマーのような装置を上げます。

アトランティス科学研究室。
活動を停止したクリスタルとまだ活動中の双方が別々の容器に入れられています。
種々のモニターがクリスタルに取り付けられいていました。
ケラーはまだ活動中のクリスタルを覗き込んでいましたが腰を伸ばします。

「生きているクリスタルを持って帰ってきて大丈夫なの?」
「ああ、その容器には伝導性でないから。
 他の者に乗り移るには伝導性がないとダメだと思う。」ゼレンカが説明します。
「それに生きているクリスタルには直接手を触れないセンサーで、
 エネルギーの検出をできるようにした。」ロドニーが付け加えます。
「もし誰かに乗り移ったら直ぐに分かるはずね。」
「ああ、僕らが何をしようとしているか悟られない限りな。
 さもなきゃ、スキャンする前に誰かに乗り移られてしまう。
「ああ、もちろんこれらが気づく事だってありえる。
 かなりの知能を持ってるみたいだから。」
ケラーは計測器に没頭して話し込んでいる二人をよそに、生きているクリスタルの容器に近づきます。
「これまでの結果かなりの知性を証明した。」
ロドニーが話しているとジェニファーは容器により近づき屈みます。
クリスタルの中には彼女の顔が映りこみます。
「基本的な回避能力を持っていたんだ。」
「スキャナーの範囲を広げないといけないな…」
ゼレンカは言葉を止め何か思いつき指を鳴らします。
「ちょっと待ってよ。」
彼はロドニーに向きます。
「都市の生命探知器を使えば。」
ジェニファーは容器に触れようと手を伸ばし始めます。
「ああ、そりゃいい! 名案だ!」
ロドニーが言った瞬間、ゼレンカは彼女の手をつかんで容器から引き離します。
彼女はハッとして我に返ります。
「何をしてるの?」
ジェニファーは驚いています。
「分からないわ。」
彼女は容器を見ます。
「なんだか引き込まれて。」
彼女は再びゼレンカを見ます。
「安全だって言ったじゃない。」
「思うって言ったんだ。まだ…」
「自分でも良く分からないの。 突然触りたい欲求に駆られて。」
「ああ、そうやって犠牲者を誘い込むんだ。」
ロドニーが言うとケラーは驚いて容器を見てからゼレンカを見ます。
彼は彼女に頭を振って容器を見てから、嫌悪感に鼻にしわを寄せてコンソールに戻って行きます。

隔離部屋。
ゼレンカがローンにハンドスキャナーで検査をしています。
彼は観察部屋を見上げてサムとロドニーに頭を振ります。
「彼じゃない。」
「乗り移るには伝導性が必要だって言ったわよね?」
「ああ、基本的には…」
彼は次第に言葉を弱め、何か思いついてサムを見つめます。
「送電線か?」
サムはうなずきます。
「送電線は都市中張り巡らされてる!」
「誰にでも乗り移る可能性があるわ。」
二人は観察部屋を出て行きます。

コントロールルーム。
テイラが慌てた様子で外のバルコニーにやってきて上の方を見上げます。
誰か女性のあえぐ声が聞こえてきます。
「ケイト!何をしてるの?」
ケイトは柱に捕まりテイラの方を向いてバルコニーの手すりの上に立っています。
「死にたくない!」
テイラは安心させるように微笑しようとします。
「穏やかに:分かったわ。そこから降りてきて。」
ハイトマイヤーは手すりの上でゆらついています。
「できないの。」
「どうして?」
ハイトマイヤーは絶望的に彼女を見つめます。
「助けて!」
彼女はすすり泣きます。
テイラが彼女を止めようと踏み出すと、脇からジョンが現れて彼女の腕をつかんで押しとどめます。
「ジョン、どいて。彼女を助けないと!」
彼女はジョンの腕を振りほどこうとしますが彼はニヤニヤしながら動こうとはしません。
「一体何なの?ジョン、どいて!」
「テイラ!テイラ!」ハイトマイヤーは怯えた声で叫びます。
「ケイト!」
ハイトマイヤーは悲鳴を上げながら手すりから真っ逆さまに落ちていきます。

都市のどこかの部屋で、入口が開きます。
そしてジェニファーが入ってきます。
彼女はベッドの足元にテイラが立っているのを見てからベッドを見ると、
目を閉じて寝巻きを着て横たわるハイトマイヤーを見て立ち止まります。
テイラは悲しげな顔でケラーを見ます。
「彼女が任務に出てこなかったから、 彼女を目覚めさせられなかった。」テイラは悲しげに言います。
ケラーはベッドに歩いてハンドスキャナーを作動させます。
彼女はスキャナーの表示を見て目を丸くしテイラを見ます。
「死んでるわ。」
テイラの目は涙があふれ出します。

コントロールルーム。
サムは都市全体に館内放送をかけます。
「カーター大佐です。 皆、私の話を聞いてください。
 非常に残念な事ですが、今日遠征隊の貴重なメンバーを失いました。」

テイラは部屋でベッドに座って悲しげに発表を聞きます。

「ケイト・ハイトマイヤー医師です。 彼女の死は悲劇というほかありません。」

ジョンは部屋でベッドに腰掛聞いています。

「残念ながらまだ脅威の真っ只中にいます。
 よって追って指示があるまで完全隔離体制は継続します。
 冷静になってください。
 皆の安全を確保し速くこの状況を解決するため努力します。
 以上です。」

彼女は技術者に頷き館内放送のスイッチを切ります。
近くにいたケラーにサムは近づきます。

「安心したわ。
 怖くてたまらなかったけど、あなたの力強い声を聞いて。
 皆もあなたの声を聞いて安心したと思う。
 でも私には必要ないわ。」
「こんな日は仕方がないわ。 じゃあ。」

ジョンの部屋。
ジョンはベッドの上に横たわっています。
しばらくすると彼は決断したように起き上がり、
ドアに行って壁のパネルに手をかざします。
ドアが開くとそこにはテイラが立っていました。
「ちょうど君に会いに行こうと思ってたんだ… 君は会いたくなかったかも知れないけど。」
テイラは何も言わず近ずき頭を彼の肩に乗せ腕を彼の背中に回します。
泣き出す彼女の背中へためらいがちにジョンは腕を回し抱きしめます。

コントロールルーム。
ゼレンカがサムのオフィスへと入っていきます。
「あー、カーター大佐?
 すみません。
 都市全体に拡張センサーの取り付けは終わりました。」
サムは立ち上がってコントロールルームへ彼について出ます。
「適切に機能しています、少しトラブルもありましたが…」
彼らは壁のスクリーンに着きます。
「探知はできたようです。」
赤い点がスクリーンに光っています。
「誰なの?」
スクリーンはシグナルの源にズームインし、部屋を特定します。

隔離部屋。
ドアが開きロドニーが入ってきます。
「僕に何の用だい?」
ロドニーは壁一面黒いカバーをされている事に気づきます。
「何でカバーを?」
「すまないね、ロドニー。 僕は行くよ。」
ゼレンカは彼から離れ部屋から出て行きます。
ロドニーはゼレンカの背中を見送ります。
「おい、冗談だろ?」
ゼレンカが部屋を出ると武装した海兵隊員が入口の外からドアを閉めます。
ロドニーは向きを変えてサムとケラーが見下ろしている観察部屋の上を見上げます。
サムは申し訳なさそうに彼に手を振ります。
二人の後ろにジョンが入って来て窓のところに着ます。
「ロドニーの中にいるのか?」
ジョンが尋ねるとサムが答えます。
「他の者に乗り移らないように隔離室を絶縁したわ。」
「もし正しければ閉じ込めたことになる。」ケラーが言います。
「ああ、だがマッケイは助けられないな? もしそいつが夢で人間を殺すなら…」
「ええ、彼から引き離す方法を見付け出さないと。」
サムがジョンに答えているとロドニーがしたから呼びかけます。
「誰かコーヒーを持ってきてくれない? ここにいると疲れるんだ。」
「しばらくの間、彼には起きててもらう事は薬でできるけど、長く続けば肺の機能障害がでるわ。」
ケラーがロドニーへの対処法を説明するとサムが言います。
「ええ。 前にも同じ事があったわ。
 あなたはあなたの事をして。 何か方法を見つけるわ。」
彼女は下の観察部屋に叫びます。
「そこにいてね、マッケイ。」
「ああ、ありがたいね! 他に方法はないんだろ?」
ロドニーは残念そうに言います。

サムのオフィス。
サムとジョンが入って来ます。
「捕獲されたと思ってると思うか?」
ジョンが聞くとサムが答えます。
「さあ、どうして?」
「他の方法が…よく説明できないけど。」
「ウィア博士ならどうすると思う?」
「悪者なら撃ち殺すだけだ。」
テイラとロノンが入ってきます。
「聞いたぞ。」
「私達にできる事は?」
ロノンとテイラが言うとサムが答えます。
「それを今話してるとこ。」
彼女はジョンに向きます。
「さっきの話に戻って、どうやってコミュニケションを? あなたの意見は?」
「さあ、そこまで考えてなかった。」
「もしあれが恐れを餌にしたり、もっと最悪の宿主を殺す事が目的だとしたら今が最後のチャンスよね。」
「それではマッケイを殺すな。」
サムはため息をついて頭を下げるとジョンは続けます。
「生き残ったらどうする? 罠では捕まえられないぞ。 宿主が死ねば奴も死ぬのか?」
「なんとも言えないわね。」
「生き残るチャンスを与えたら?家に帰る。」
テイラが提案をします。
「クリスタルの中に?」サムは聞き返します。
「そうだ、でもどうやって? 奴をゲイトで元の星に戻すには?」ジョンが聞きます。
「以前、夢の中で話をする人たちの事を聞いた事がある。
 もしかしたらマッケイに催眠術をかければコミュニケートできるかも。」
サムはSG1にいた頃に経験した事を持ち出します。
「彼は前にも瞑想ができてたわ。」テイラが思い出します。
「ああ、遺伝子を書き換えられたときにな。」ジョンはしかめっ面をして言います。
「おい、なんだ?マッケイの意見は無視か?」ロノンはロドニーのことを心配します。
「マッケイの話をしてるんだ。 あいつが恐怖に負けたらおしまいだ。」ジョンは答えます。
「そして彼は現在潜在意識を操る生命体に取り付かれてる。」サムは続けます。
「その中に入ることができればなあ。」ジョンが言うとサムが聞き返します。
「マッケイの夢に?」
「ああ、あいつを助けるには、精神的なサポートが必要だ。
 なあ、君なら人の夢に入り込む方法は知ってるんじゃないのか?」
サムは彼の言葉に何か思い出し何も言わずにコントロールルームに行きます。
「どこに行ったんだ?何しに?」ロノンはわけが分からずジョンに聞きます。
「さあ、だが見る事のできなかったマッケイの内面を見られるかも。」
「あなたじゃなくてもいいんじゃない?」テイラは心配します。
「いや、俺のせいだからな。」
彼はサムの後を追いかけます。
「そりゃなんだ?」ロノンはまだ理解していません。
テイラもジョンの後に続きます。
「何だよ?」ロノンはため息をついて彼女の後を追います。

隔離部屋。
ロドニーとジョンは隣り合ったベッドに横たわっています。
ケラー、ゼレンカと数人の科学者達はハザードスーツを着て装置を組み立てています。
サム、テイラ、ロノンはその準備を観察部屋で見ています。
「10年前にある惑星で大虐殺の生存者が仮想世界に住んでいた技術よ。
 その後SGチームのバーチャルトレーニングに改良したの。
 潜在意識の活動に調整しただけだけど。」サムが説明します。
「それでシェパードがマッケイの夢の中に入るのか?」ロノンが尋ねます。
「正直言って、こんな方法は試した事がないけど。
 夢は意識的な思考よりずっと複雑だから。
 シェパード中佐がマッケイの夢を理解できるようにシステムが構築できればいいけど。
 二人の意識がつながるのを願うしかないわ。」

隔離部屋では機能を失ったクリスタルが容器に入ってケーブルにつながれロドニーの頭に接続されています。
ロドニーは隣のジョンを不安そうに見ます。
「大丈夫かな?」ロドニーは不安そうにジョンに聞きます。
「さあな。」
ロドニーはおびえたように自分の頭を指差します。
「気が狂いそうだよ。」
「俺もだよ!」
「準備ができたわ。」
ケラーが準備が整った事を告げるとロドニーは再びジョンを見ます。
「ありがとうな。」
「俺はまだ何もしてないよ。」
「この試みにだよ。 後でいわなかったって言うなよ。」
「鎮静剤を投与。」
ケラーがロドニーの腕に向くと彼は目を閉じます。
ゼレンカはロドニーとジョンを繋ぐ装置を作動させます。
「何も起きないぞ。」ジョンは不審そう言います。
「彼はまだ夢を見てないから。」ケラーは彼をなだめます。

ロドニーは夢を見始めます。
ロドニーは大雨の降る中、一人でボートを漕いでいます。
時々稲光と雷鳴が轟きます。
ロドニーは漕ぐのを止めて進行方向に顔を向けます。
遥か遠くにアトランティスが浮かんでいます。
再び彼がボートを漕ぎ出すと、近くの海面に鯨が現れます。
それを見たロドニーはびくつきます。
「やれやれ。」
彼は再びボートをこぎ始めます。
「鯨さん。鯨さん。 僕は友達だよ。だから僕を食べないでくれよ。」
「諦めろ。」
突然ジョンが彼の目の前に座っていました。
彼は腕を組んでニヤリとロドニーにほほ笑みます。
「逃げられはしない。 お前は弱い。」
「怒って:ありがとうよ!応援してくれて。 どうすれば助かる?」ロドニーは怒って聞きます。
「どうして俺が助けるんだ?」
「だって君は…」
二人目のジョンが彼の後ろに現れ声をかけます。
「そいつは俺じゃない、ロドニー。 話を聞くんじゃない。」
ロドニーは振り返って彼を見て、それから前にいるもう一人のジョンを見ます。
「哀れだな。飛び込んだらどうだ?」偽ジョンが言います。
当惑してロドニーは本物のジョンに向きます。
「怖がるな。」
「ああ、戻らないと。」
彼は再びボートをこぎ始めます。
「僕は戻らないといけないんだ。それしか方法がない。」
「お前はここで死ぬんだ。」偽ジョンはロドニーに不安を煽り立てます。
「黙ってろ! 聞くんじゃないぞ、ロドニー。」
ジョンが後ろから言うとロドニーは声を荒げ言います。
「言うのは簡単だ! 漕ぐのを手伝ったらどうだ?」
一瞬でジョンはロドニーの右に座っていてオールを持っていました。
たった今後ろにいたはずのジョンが居なくなり、ロドニーは当惑して脇を見て驚きます。
ジョンがボートを漕ぎはじめると、彼は再び背の方を見ます。
「分かったか?これでどっちが本物なのか。」
「ああ」ロドニーはボートを漕ぎながら後ろを振り返り肩越しに指さします。
「それならこれは何?」
ジョンはさっきまで座っていた場所を振り返ります。
そこにはピエロが座っていました。
ジョンは向きを変えてロドニーをにらみつけます。
「ピエロは嫌いだ。」
二人は再びボートをこぎ始めます。
偽シェパードはニヤリとしながら言います。
「好きなだけ漕げよ。どこにも行けないんだから。」
「あいつが正しいかも!僕はここで死ぬ運命だ!」
ロドニーは自信なさそうにジョンに言います。
「奴はお前が恐れるのを望んでいる。 奴の言いなりになるな。 お前を傷つける事はできないんだから。」
「それは間違っているぞ。」
偽ジョンが言うと海底から突然鯨が浮上しボートを飲み込んでしまいます。

隔離部屋で。
ジョンは目を覚まします。
そして部屋の中ではフラットライナーを示す音が聞こえます。
ジョンはどうなったのか分からず聞きます。
「どうなったんだ?」
「クリア!」
彼の横にいたロドニーは胸をはだけさせられ、ケラーが除細動器を彼に使います。
しかし心拍は戻りません。
ジョンは起き上がって額からコードをはずします。
ケラーがロドニーに心臓マッサージを始めるとゼレンカが彼に振り返ります。
「心拍停止になった。」
彼はエアバッグをロドニーの顔に当て酸素を送ります。
ケラーは心電図のモニターを見て手を離します。
「ごめんなさい。これ以上は無理。死んでしまったわ。」
ジョンはサム、ロノン、テイラが恐怖で見下ろしている観察室を見上げます。

後に。
ジョンはまだショック状態でゆっくりと廊下を歩いてます。
ちょうどその時、テイラが彼に近づいてきました。
「これは全てあなたのせいよ、ジョン。」
彼女の怒りに困惑するジョン。
ロノンが彼を睨み付けながら近づいてきます。
「もしお前があのクリスタルを触ってなかったら、マッケイは死なずにすんだ。」
サムもやってきます。
「あなたなら助けられると思ったのに。」
「やったさ。」ジョンは答えます。
ケラーがやってきます。
「大した友達ね。」
「中佐、あなたは危険だわ。 あなたを任務からはずします。」
サム達の理不尽な仕打ちに当惑したジョンが目を転じると、
廊下の隅に偽シェパードが彼を睨み付けていました。
「この野郎!」
ジョンは走り出し偽シェパードに体当たりします。
すると二人とも後ろの壁をすり抜けてしまいます。

隔離部屋でケラーはロドニーに除細動器を当てていました。
「離れて、クリア!」
ゼレンカはエアバッグを外し離れます。
除細動が成功しロドニーの心臓は鼓動を再開します。
ロドニーは目を開いてかすんだ目で見回します。
「大丈夫よ。 落ち着いて。」
「何があったんだ?」
「心臓が停止したの。」
「生命体は?」
「シェパード中佐の中だ。」
ゼレンカが答えると彼らは隣に横たわっているジョンを見ます。

ゲイトルーム。
ジョンは偽ジョンと共にゲイトルームの床に倒れ込みます。
偽ジョンはジョンを投げ飛ばし、二人とも離れて立ち上がります。
ゲイトは開いた状態です。
「今すぐにやめろ! 貴様なんか恐れてはいないぞ!」ジョンは偽者に怒鳴ります。
「いいや、あるさ。 自分自身を恐れている。 お前は友達を死なせた。
 お前が元凶だ、お前には止められない。」

偽ジョンとジョンの素手での戦いが始まります。
ありとあらゆる体術を使って戦いますが、偽ジョンの方が一枚上手で敵いません。
ついにジョンは偽ジョンに階段の上の踊り場へと投げ飛ばされ倒れます。

隔離部屋ではケラーがジョンのモニターを見ています。
「心拍数が以上に早いわ。」
観察部屋からカーターが聞きます。
「彼を目覚めさせる事ができる?」
「できない事はないけど、今の状態では大変な事になるかも。」
「ええ、それに生命体はまだ離れてない。」ゼレンカが答えます。
ロドニーは肘で体を支えベッドに横たわっています。
突然彼の目は丸くなります。
「もう一度僕を中に!」

コントロールルームでは偽ジョンがジョンを弄っていました。
偽ジョンはジョンを蹴り飛ばし彼はバルコニーから落下します。
偽ジョンはバルコニーから飛び降りてジョンに近づきます。
「起きろよ。さあ、ジョン。戦え!」
「イヤだね。 お前が喜ぶだけだ。」ジョンは弱弱しく答えます。
「ハイトマイヤーはお前のせいで死んだ。 マッケイもそうだ!」
「僕は死んでないぞ。」
偽ジョンが驚いて振り返るとロドニーがニヤリとしながら階段を降りてきました。
偽ジョンは睨み付けて彼に向かって歩き始めロドニーの胸倉を掴んで後ろの壁に押し付けます。
「お前は勝てない。」
ロドニーは少し微笑します。
「いや、勝てるね。 お前は電気ショックに弱い。
 だから僕はまだ生きているんだ。 お前は僕を殺す前に僕から抜け出した。」
ロドニーが言い終えると同時に偽ジョンは電気のスパークに包み込まれ呻きます。
ジョンは驚いて身を起こしそれを見つめ尋ねます。
「一体何をしたんだ?」

隔離部屋ではケラーが除細動器でジョンの腹にショックを与えていました。

ゲイトルームでは偽ジョンは電気ショックに呻きひざを落とします。
電気が弱まっていくとぼんやりとしている偽者にジョンは立ち上がって近づきます。
ジョンは偽者の胸倉を掴み立たせて振り回し、開いているゲイトに投げ飛ばします。
後ろで見ていたロドニーはどっちが本物なのか分からずに不安そうにジョンに尋ねます。
「君はどっち?」
「俺だよ。」
「いい方、悪い方?」
「俺は俺だ。」
ジョンは不安そうにロドニーを指さします。
「お前が助けに?」
「そうだよ。」
「ありがとう。」
「ああ。」
彼はゲイトルームを見回します。
「それにしても本当に気味が悪いな。」
「お前が言うな!」
「君の事だからいい女が居ると思った。」
「残念だが!」
ロドニーはガッカリして再び見回しため息をつきます。

隔離部屋ではロドニーの頭の方に置かれていたクリスタルが再び輝いています。
ゼレンカは容器の上のボタンを押し装置を停止しさせます。
ケラーがロドニーの米神から線を外すと彼は目を開いてジョンを見ます。
ジョンも目を覚ましロドニーを見ます。
二人ともホッとしてベッドに頭を落とします。
ジョンはホッとした顔で観察室から見ている皆を見上げます。

M3X-387。
チームは防護服を着て惑星に戻っています。
彼らの二人が容器から地面へとクリスタルを置くと
クリスタルが帰って来たのを歓迎するように彼らの周りの木々の幹のクリスタルが光りだします。
あちこちでクリスタルが輝きだすとチームは不安そうに見回します。
「ねえ、思ったんだけど、どうやってここから出るの?」ロドニーは不安そうに聞きます。
「面白い事を言うな。」ジョンは笑い飛ばします。

アトランティス。
夜。
ジョンは一人で大食堂のバルコニーのテーブルに座って雑誌を読んでいます。
テイラがやって来ると彼は顔を上げ微笑します。
「眠れなくて。」
「ああ、俺もだよ。」
テイラが椅子に座ると、ロドニーがトレーに食べ物を沢山乗せてやってきます。
「腹が減って少し夜食をね…」
「ああ、俺らも眠れなくてな。」
同じようにロノン、サム、ケラーもやってきて座ります。

おしまい。