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スターゲートアトランティス シーズン4

4X06 - TABULA RASA
4X06 − 白紙状態。

アトランティス。
夜。
ラボでロドニーは机の前に座って、ぼんやりと天窓から見える2つの衛星を見を上げています。
彼の顔には汗が吹き出し、視線を下げて空ろな目でラボ内を見回します。
彼が立とうとすると立てずに驚いて見下ろすと左手がインシュロックで机に繋がれていました。
そして左腕の袖は捲り上げられていて、その腕には文字が書かれていました。
彼は腕を自由にしようと動かしますが自由にはなりません。
彼はラボを見回して叫びます。
「おい! おい、誰か居るか? 誰かここにきて助けてくれ!」
返事は返ってきません。
何気なく机の上を見ると目の前にはコンピュータタブレットがあります。
モニタはスクリーンセーバーが起動しており、タブレットに「ここを押せ」という付箋が貼り付けられていました。
矢印が書かれている先にはタブレットのボタンがありました。
当惑しながら彼はボタン押します。
そしてデジタルビデオカメラで撮影された自分の姿がモニターに映ります。
モニタ内の彼の顔は汗まみれでカメラを見つめています。
『よし。多分今パニックになっているだろう。
 でも時間がない。注意して聞いてくれ。
 誰が縛ったのかと思っているだろう。
 実は、君自身…つまり僕だ。
 このメッセージを聞いて欲しいからそうしたんだ。
 全部説明するには時間がかかりすぎる。
 それにそれを覚えておくことはできないだろう。
 だから気にせずに僕を信用するんだ。
 ナイフが椅子の裏側にテープで貼り付けられている。
 それで自由になれる。』
ロドニーは椅子の下に手を伸ばして小さなナイフを見つけ出します。
そして手首のインシュロックを切ります。
『そしたら聞いてくれ。この女性を見つけ出すんだ。』
モニタ内のロドニーはタブレットにカメラを振ります。
そこにはテイラの写真があります。
写真の下には「これはテイラ。彼女を見つけだせ」と書かれています。
ロドニーは数秒間写真を映すと自分にカメラを戻します。
『彼女がどこにいるか分からない、でも彼女を見つけ出すんだ。
 彼女なら助けることが出来る。』
タブレットを見ていたロドニーは疲れ切って、当惑した顔でちらっとの手を見ます。
『食堂を確認してみてくれ。
 それか営倉に連れていかれたかもしれない。
 分からないが、探し続けるんだ。
 他の事は何も心配しなくていい。
 そしてお願いだから誰も信用するな。
 ただ早く彼女を見つけだすんだ。
 そうしないと何百人という人たちが君を含めて死ぬことになる。』
カメラのスイッチは切れ、モニタには先ほどのテイラの写真が映ります。

14時間前。日中。
ロドニーは植物学のラボの中に入って見回します。
ラボには色々な種類の花と植物で満たされています。
「ケイティ?」ロドニーは植物学者の女性ケイティ・ブラウンに声を掛けます。
彼女は同僚の植物学者と話をしていました。
しかし声が聞こえるとロドニーの方に振り返り微笑んでやってきます。
「ロドニー! 何しに来たの?」
「君が戻ってきたと聞いたから、それにしばらく君にあってなかったし…」
「分かってる。この新しいメインランドには調査対象が沢山あって、
 この1週間ずっとサンプル採取をして戻ってきたの。」
「なるほど。何か興味深いものは?」
「ランティアで見つけたのと似た新種をいくつか見つけたわ。
 ああ、思い出した。あなたのためにいくつかおもしろいのを見つけてきた…」
「へえ!」
ケイティはくすくす笑いながら近くのテーブルに彼を導きます。
彼女はテーブルから羽毛状の葉が天辺から生えている背の高いサボテンのような鉢植えを取り上げます。
「これが低木の植え込みに隠れているのを見つけたの。」
ロドニーは特に驚いた様子もなくそれを見ます。
「これは何?」
「まだ名前は無いわ、でもこう呼ぼうと思ってるの…」
彼女は少し躊躇ってから言います。
「…ロドニアニバロサ…どう?」
自分の名前をつけられたロドニーはサボテンに興味を持ちはじめます。
ケイティは彼にポットを手渡すと彼は驚いてそれを見つめます。
「本当に ?! そう命名するの?!」
「ええ。」
「うわぁ!」
彼は一層しっかりとサボテンを回して見ます。
「注意して。棘を刺すわよ。」
「ああ! ところで、これから一緒に昼食でもどうだい?」
「ええ、そうしたいんだけど調子が悪くて。
 頭痛と少し眩暈がするのよ。 だから医務室に行こうと思ってたの。」
「ああ。それなら一緒に行こうか?」
「悪いわ、ロドニー、一緒に来なくてもいいのよ。
 あなたが病人の周りにいるのが嫌なの知ってるわ。」
「ああ、いや、本当は大丈夫だから。」
「ああ、よかった! ありがとう。」
ロドニーはドアに向かって手を差し伸べます。
「さあ。」
ケイティがドアに進むと、ロドニーはサボテンを嫌そうな顔をしながらテーブルの上に戻して、
ジャケットで手を拭きながらケイティの後を追います。

医務室。
ロドニーはケイティを連れてジェニファーのところに行きます。
「ブラウン博士。 常連患者を連れてきてくれたのね。」
「えっ?違うよ、今回は僕じゃない。彼女の付き添いだ。」
ジェニファーはケイティに向きます。
「オーケー、じゃあ、症状を聞かせて?」
「ずっと頭痛がおさまらないんです。 それと眩暈がするんです。」
ジェニファーはケイティの首を触診します。
「最初に気付いたのはいつ?」
「今朝からですけど、どうして?」
ジェニファーは部屋の奥に二人を連れて行きます。
「同じ症状で来たのがあなたで四人目。 植物学では二人目だからよ。」
彼女は看護士に検査を受けながらベッドで横たわっている男を指し示します。
「ジェラルド?」
ケイティはその男が同僚の博士である事に驚きます。
ジェラルドが彼女に手を上げると彼女は応えます。
「あなたも?」
「誰?」
ロドニーは彼女に誰なのか尋ねます。
「ジェラルド・バックスター。
 彼は私のチームよ。前に会ったでしょ。  彼は昆虫採集の担当よ。」
ロドニーは彼を忘れていたようでごまかします。
「ああ、もちろん。思い出したよ。」
彼はジェラルドに手を上げます。
ジェニファーはケイティに促します。
「じゃ、採血するわね。」
そしてロドニーにも、
「あなたもよ、博士。」
「何で?」
ロドニーは不安そうに言います。
「もし伝染性のものなら、あなたも感染してるかもしれないでしょ。」
ロドニーは不安そうにため息をつきます。
「残念だけど。」
ジェニファーはご愁傷様といった様に言います。

ゲイトルーム。
カーターとジョンが階段をのぼってコントロールルームに入ります。
「ドーシー少佐のチームがM6R-214から戻ったわ。
 破壊された場所から1、2隻のレプリケータの船の部品を見つけた。」
「短時間でレイス達は組織化して反撃しだした。」
「そうだと思う。結局のところエンシェントが破られたってことね。」
「レプリケータはエンシェントに見えるかもしれないし、同じ技術を使ってるかもしれない。
 でも一緒だと思わない方がいいんじゃないか。」
無線でジェニファーがカーターに呼びかけます。
『カーター大佐、応答願います。』
カーターは無線のスイッチを入れ応えます。
「どうぞ、先生。」
『深刻な状況になって来たんですが、アドバイスをお願いします。
 医療施設の階を隔離したいんですが。』
「何が起きたの?」
医務室には次々と患者が運び込まれています。
「この1時間の間に11人の患者が頭痛とめまいを訴えてこちらきました。
 彼らのうち8人はメインランドから戻った調査チームです。」
「何が原因?」
「血液検査を行ったら、見た事がない細菌を見つけました。
 今、エンシェントのデータベースと照合しています。」
「俺達はどうしたらいい?」
「まずメインランドに行った者達は全員隔離して、ニーバス先生と看護婦で検査を。」
「分かったわ。引き続きお願い。」
無線が終了すると看護士がタブレットをジェニファーに持って来ます。
「検査の結果がでました。あなたも私も感染しています。マッケイ博士もそうです。
 幸い症状の進んだ者でも軽いインフルエンザの症状を示しているだけで、
 これ以上は悪くはならないでしょう。」
「そう願うわ。」

現在。
タブレットをしっかり抱えて不安そうなロドニーは都市の回廊に出てきます。
近くには誰もいません。
「おーい?」
彼はしばらくの間、誰にも会わずに歩き続けますが、
角を曲ると男が壁に背中をつけてベンチに座っているのを見つけます。
男の目は閉じられています。
ロドニーは安堵の溜息を漏らし近づきます。
「ああ、おい。」
ロドニーは男の肩を揺ります。
「おい、目を覚まして。」
すると男は横に倒れます。
ロドニーは男が死んでいると分かって息を呑みます。
ちょうどその時、ラデクが金属パイプを手に不安そうにロドニーの後にやってきます。
「ここで何をしている?」
ロドニーは驚いて振り向きます。
「ぼ、僕は、わからない」
ロドニーが近づくとラデクはパイプを振り上げます。
「お前は何をしてるんだ?」
ロドニーは近づくのを止め両手を上げます。
ラデクはじっとロドニーを見つめます。
「軍人じゃないのか?」
「君がそういうなら多分。」
ラデクはパイプを下ろし不安そうにあたりを見まわします。
「僕と一緒に来た方が安全だ。」
彼は急いで立ち去り始めます。
「おいおい、慌てるな。ここで何が起きてるんだ?」
「僕らを探しているのは軍人だ。もし捕まったら連れていかれる。」
「どこに連れて行くっていうんだ? 軍人って?ここはどこ?」
「しっ! 静かに! 軍人に聞かれる。」
ロドニーは無視して大声で怒鳴ります。
「一体何が言いここで起きてるんだ?何も思い出せないのはなんでだ?」
「分からない! 誰も分からないんだ。」
「誰も分からないって? 他の人達に会ったのか?」
「ああ。ニ、三人、軍人たちから隠れている。」
ロドニーは彼にタブレットのテイラの写真を見せます。
「彼女はどうだ? 彼女はそこにいたか?」
「いや。」
「僕は彼女を見つけないといけないんだ。」
「なんで?」
「分からない、でも大事なことなんだ。」
「多分軍人たちが連れていったんじゃないか? さあ。」
「じゃあ、彼らに聴くことはできないかな?」
「バカなことを言うな?! もし軍人に出会ったら撃たれて連れていかれる。」
「また逃げればいいだろ!」
「僕と一緒に隠れた方がいい、その方が安全だ。」
「ダメだ、探し続けないと。」
ゼレンカは怒りだします。
「分かった、勝手にしろよ。 捕まったって僕は助けないからな。」
ラデクはチェコ語で怒ってぶつぶつ言いながら歩き去ります。

10時間前。
ロドニーは医務室でジェニファーと一緒に歩いています。
医務室内は大勢の患者が寝ていて、看護士達で感染していない者はハザードスーツを着ています。
「突然だったんだ、そしたら急に止まって。」
「分かったわ、話してくれるのはありがたいけど。」
「何もしないのか?」
「正直言って、因果関係があるかどうか。」
「新しい症状だ。これは重要かもしれないだろ。」
「その膝がひりひりするって症状が一人だけだと関連性が、 特にあなただと。」
「ああ、今のところは。 でもこの病気のことは何も分からないんだろう。」
「あのね、あなたが今しないといけないことは、落ち着いて、私に仕事をさせること。」
彼女はコンソールにタイプし始めます。
ロドニーはジェニファーがちらっと彼を見るまで見つめています。
「分かったよ。」
ロドニーは膝を摩りながら出て行きます。
近くで、ハザードスーツを着た婦長がケイティのベッドにお茶の入ったマグを持って来ました。
「どうぞ。」
看護婦はマグをケイティに手渡します。
「ありがとう。」
看護婦が出て行き、ケイティがお茶を飲んでいるとロドニーがやってきます。
「ケラー先生は何て言ってた?」
「ああ、彼女は、あー、僕の症状を言ったら感謝していたよ、 あー…大丈夫かい?」
ケイティは彼にマグを手渡します。
そして彼はそれをベッドのサイドテーブルに置きます。
「大丈夫よ。」
「まあ、ケラー先生達は試行錯誤しながら、一生懸命やってるよ。
 すぐに治療法を見つけるだろう。」
ケイティはほほ笑もうとしますが直ぐにしかめっ面になります。
「どうした、大丈夫か?」
ケイティはため息をつきます。
「頭痛がひどくなる一方なの。」
「僕に出来ることはあるかい?」
「看護婦さんにお茶を持って来て貰って?」
ロドニーはテーブルからマグを取り上げます。
「これじゃないのかい?」
彼女は全く見覚えがないといったような顔でカップを見ます。
「ああ。そうだったわ。」
彼女はマグを受け取ります。
近くでガシャンという音がします。
二人が見るとワゴンを倒して倒れている婦長を見ます。
ジェニファーともう1人のハザードスーツを着た看護師が彼女のところに走ります。
「マリー? どうしたの?」
「分かりません。ただ眩暈が。」
彼女は震えた声でため息をつくと、ジェニファーと看護師が彼女をたすけ起こします。

サムのオフィス。
ジョンが近くに立っていて、サムはジェニファーと無線で話し合っています。
「バイオハザードが発生したと言ってるの?」
ジェニファーは医務室でコンピュータを見ながら話します。
「確証はありませんが、彼女が感染したはずがないんです。
 しかし私たちは考えているよりも早く既にみんなに感染したかもしれません。
 都市内の血液検査を行っている医療関係者が感染したとなると。」
「メインランドから持ち込まれたものじゃないのか?」
ジョンが尋ねます。
「植物学チームによって持ち込まれた植物と土壌サンプルにはなかった。
 でも原因はそれかもしれない。」
「データベースは?」
カーターが尋ねます。
「まだ見つかっていません、検索中です。
 もう1つ、この病気が何なのか、あるいはどうやって広がるのか分かりません、
 たとえ対処方法で押さえる事ができても、ゲイトはしばらく見合わせた方がいいかと。」
「分かったわ、先生。」

医務室。
ケイティはベッドで眠っています。
ロドニーは食器のトレイをベッドのテーブルに置いてがつがつ食べていると
ケイティが目を開いて彼を見ます。
彼は彼女にほほ笑みます。
「やあ。気分はどうだい?」
「わ、分からない」
「ああ、そうだ夕食を持って来た。
 おいしそうなソールズベリーステーキだ。
 それから君の友人のバックスター博士についてケラー先生に聞いたけど、彼は眠っていて、熱は下がったみたいだ。」
ロドニーが話をしている間、ケイティは不安そうに部屋を見まわしていました。
そして彼女は彼に眉をひそめます。
「誰が?」
「バックスター博士だよ。」
彼は自分がいつも名前を間違える事に気づきます。
「名前が間違ったかな、君のチームの人だよ?」
ケイティはまだ困惑しているようで、再び部屋を見回します。
「ケイティ?」
彼女は彼を見ます。
「ここはどこ?」
「何を言ってるんだ?医務室じゃないか。 僕が連れてきたのを忘れたの?」
「あなたは誰?」

現在。
不安そうにロドニーは廊下を歩いています。
彼の後ろからローン少佐と数人の軍人たちが角を曲がってやってきます。
ローンたちはロドニーを見るとレイスのショックガンを引き抜きます。
「おい! そこで止まれ。」
ロドニーは手を上げて振り向きます。
「僕は問題を起こしたくない。ただ…」
軍人の1人、ケンプ中尉がロドニーを撃ちます。
ロドニーが床に倒れると全員彼に近づきます。
そしてケンプがひざまずいて彼を仰向けにします。
ローンは彼を見下ろします。
「よし、他の者たちと一緒にしておけ。 こいつも同類だ。」
「イエッサー。」
四人の軍人がロドニーを担いで運びます。
ローンはベストのポケットから瓶を取り出し錠剤を手の平に取り出します。
そしてケンプにビンを渡すと、彼はその錠剤を飲み込みます。
彼らが歩き去ると、ベンチの下にタブレットがテイラの顔を映したまま放置されていました。

8時間前。
ジョンはサムのオフィスの中に入りながらため息をつきます。
「その後何か?」
「検査の結果が出たわ。 別々の六ヶ所で六人が感染してる。」
「あまりいいとは言えないな。」
「統計学的にみても基地内に広がるのは異常ね。
 確認のために検査を続けてるけどいいとは言えない。」
「君がどうか知らないが、俺は何ともない。」
「私もよ、それが問題なのよ。
 もし症状の出現に差がないなら、何が起きたのか分からないうちに蔓延したはず。
 スターゲイトコマンドにゲイトオペレーションはしばらく見合わせてると知らせたわ。」
ジェニファーが無線で連絡してきます。
「カーター大佐、ケラーです。」
「何?」
「記憶喪失の徴候を示し始めている3人の患者と、
 ケイティ・ブラウンのスキャンを送りました。
 彼ら全員が側頭葉の中間に何かあるんです。
 細菌は記憶領域の細胞にアクセスを妨げるホルモンを作り出しているようです。」
「それってどのぐらい最悪なんだ?」ジョンが尋ねます。
「感染者は段々増え続ける一方。
 このまま治療できないと進行してもっと悪くなる。
 いずれ自分の名前すら忘れる事になるわ。」
「最初の症状は頭痛とめまいだったわよね。」
「ええ、そうです。」
「後になってから記憶喪失の症状が現われたって事?」
「変化してきているようです。 およそ6時間ぐらいで。」
「君はどうなんだ、先生? 症状は?」ジョンが心配して尋ねます。
ジェニファーはため息をつきます。
「ええ。三十分ほど前から頭痛が始まったわ。」
「分かったわ。データベースを調べ続けて。
 それしかこの病気を見つけ出す事ができないわ。」
「やってみます。でもこのまま感染が続けば、新たな患者が増えていく一方です。
 ここでは対応し切れません。」
「食堂は? あそこを片付ければ一時的に病室に使えるだろ。」ジョンが提案します。
「ええ、それがいいわ。 少なくとも、処置も隔離も一箇所でできる。」
ジェニファーはジョンの意見に賛成します。
「やって。」カーターはジョンに指示を下します。

現在。
ロドニーは食堂のベッドで意識を取り戻します。
うなって身を起こすと部屋には多くの人達ががいます。
彼らは全員汗まみれです。
部屋には様々なベッドが沢山あります。
何人かはベッドで横になっています。
しかしほとんどの人たちは立っているか、不安そうにしていました。
近くにいた男が彼を見下ろします。
「大丈夫か?」
「ああ。」
ロドニーは辺りを見回します。
「ここはどこだ?」
近くに座っていたジェニファーが応えます。
「あなたが知ってると思って期待してたのよ。」
「皆は誰なんだ?」
ロドニーが尋ねると今度は科学者らしい男が応えます。
「分からないんだ。」
「誰も何も覚えてないのよ。」ケラーが続けます。
「何が外で起きてるんだ? 何を見たんだ?」
最初の男がロドニーに外の様子を聞きます。
ロドニーは立ち上がって言います。
「何も。廊下には誰もいない。 僕はどうやってここに?」
「軍人があなたを連れて来たのよ。」ケラーが応えます。
「なんで?」
「彼らはここに皆を連れて来る。
 それが僕らの安全のためだと言うんだ。」科学者が応えました。
ロドニーはふらっとドアへと歩きます。
彼が壁のパネルに手をかざしても開かず、ビープ音を出します。
別の科学者がそれを見て言います。
「時間の無駄だ。開かないよ。」
「どうして僕らを? なんで誰も思い出せないんだ?」
皆は当惑してロドニーを見つめます。
突然ロドニーは何かを思い出します。
「僕の…コンピュータは?
ロドニーはベッドに戻って下を見ます。
「コンピュータはどこだ?」
「連れてこられた時、持ってなかったわ。どうして?」ケラーが応えます。
「僕は女性を見つけないといけないんだ。
ロドニーは少し考えてから思い出します。
「テイラだ!誰か知ってるか?」
誰も返事をしません。
彼は部屋中に叫びます。
「誰かテイラを知ってる人はいるか?」
皆がぼんやりと彼を見つめます。

過去。
ロノンはジョンを手伝って食堂にベッドを運んでいます。
「こんな事にならないように、都市はある程度自動的に隔離するんじゃなかったのか?」
「そうだが。」
「で? 何が起きたんだ?」
「何って、俺に聞いてるのか?」
ジョンはしかめっ面をして手を額に当ててベッドに寄りかかります。
「頭が痛いのか?」
「ああ。時間の問題だと思ってたが。」
テイラがそれを見て近づいてきます。
「ジョン?」
「大丈夫だ。」
彼は歩き去ります。
ロノンはベッドの上に座ってテイラを見ます。
「おい。お前は平気なのか?」
「平気よ。」
「何も症状はないのか?」
「ええ。何もないわ。」
「俺もだ。」
ロノンは眉をひそめます。
「どうして?」
「皆感染してると思ってるようだが? 俺の血は検査されてねえ。」
「私もよ。でも空気感染だとしたら全員感染してるんじゃない。」
「なんでだ?感染したと決まったわけじゃねえだろ。
 全員に症状が出るとはかぎらねえ。
 俺に分かるのは俺は大丈夫だって事だ。」
「私もよ。 ケラー先生に話すべきね。」
「ああ。そうだな。」
彼はベッドから降りて部屋を去ります。

医務室。
ロノンは患者を押しのけて部屋の中に入ります。
「俺をスキャンしろ。」
彼は混雑した部屋を見回し、
ジェニファーが聴診器で患者を診察しているのを見つけます。
「ケラー先生。話がある。」
「あー、今は忙しくて。」
「俺は発病していない。」
「じゃあ、感染してないんだったら、ここに入ってきたら感染するわ。」
「いや。俺はもう感染してる。 1日中感染者の中にいたんだ。
 だが症状は出ない。テイラもそうだ。」
ジェニファーはロノンの首を触診します。
「抗体があると言うの?」
ロノンは肩をすくめて言います。
「医者はあんただろ。」
「分かったわ。 血液サンプルを取る。」
「必要なだけ取ってくれ。」

現在。
ロドニーはベッドに座って忘れないように右腕にテイラの名前を書いています。
ジェニファーが近づきます。
「何をしてるの?」ジェニファーが尋ねます。
「忘れないようにしてるんだ。もう、直ぐに忘れるから。」
彼は近くの箱の上に立ち皆を見ます。
額には大量の汗が噴出し、状態は悪化しているようです。
ケイティは彼の真正面のベッドで横になっています。
しかし彼女はぼんやりと見つめていました。
もちえろんロドニーは彼女を認識できません。
「それで、今度は何をするの?」ジェニファーが再び尋ねます。
「ここから出るんだ。」
ロドニーは大きな声で皆に語りかけます。
「いいか、皆、しっかり聞いてくれ。
 僕はできるだけ早くここから逃げたい。
 どうすればいいか分かる人はいるか?」
「逃げられないわよ。」ジェニファーが言います。
「どうして?」
「軍人がいるからでしょ?」看護婦のマリーが応えます。
「彼らを出し抜く必要がある。
 頭がおかしいともってくれても構わない。
 でも僕は彼らを信用してない。」
「だからといって逃げることは。
 逃げたところでなんになるんだ。」二人目の科学者が聞き返します。
「これは何か起きたんだ、だからといってここにいたって何も分からない。
 どこかにあの女性…名前は…」
彼は思い出そうとしますが言葉が出てきません。
すでに右腕に書いていた事を忘れています。
しかしサムは皆を掻き分けて近づきます。
彼女はロドニーよりは記憶の維持はできるようですが、ほとんど皆と変わりません。
「テイラよ。」
「テイラ、そうだ。 ありがとう。」
彼は箱から降りペンを拾い上げて左腕に書こうとしますが書く場所は残っていません。
それで彼は手の平に書き始めます。
「彼女なら何か知っていると思う。」
「何を?」ジェニファーが聞きます。
「分からない。 兎に角、外に出て探し出さないと。」
「彼のいう事を聞くべきだわ。」カーターがロドニーの意見に賛成します。
「なぜ?」ジェニファーがカーターに聞きます。
「つまり、どうして軍人達は私たちに何が起きたのか言わなかったのか?
 どうすればいいのかも言わなかったのは何故なのか?
 多分、彼らも私たちと同じで何も知らないのよ。」
カーターは他の者たちに向きを変えます。
「計画が必要だわ。」

過去。
ジョンはゲイトルームに速足でロドニーが2階に行く途中で合流します。
「お前は大丈夫なのか?」
「二回目の血液検査で全員陽性だった。
 もう医務室を隔離したところで始まらないよ。」
「症状はあるのか?」
「頭痛が。」
「ああ、俺もだ。」
「五時間後には皆、記憶を失い始めるんだ。」
「ロドニー!」ジョンは憤然として言います。
彼らはサムに近づきます。
「ああ、食品、水、毛布は確保したわ。
 ベットが足りないけどなんとか間に合わせないと。」
「じゃあ、手のあいてるものは全員食堂に集めた方がいいかも知れない。
つまり彼らを集めておけば記憶喪失の人間が廊下をさまようことも無い。」
ロドニーが提案します。
「それが心配だったんだ。 ローンたちのチームを送って命令しておこう。」
サムは彼らをオフィスに導いて、机から錠剤の入った二つのビンを取り上げて、
ジョンとロドニーに渡します。
「これはニーバ先生から。
 これは興奮剤よ。 記憶喪失の症状を遅く出来るわ。
 気休めにしかすぎないけど、数時間はもたせられるかも。」
ロドニーは錠剤を取り出しますが不安そうにそれを見ます。
「アレルギーがあるんだけど、これって大丈夫かな…」
「飲んでおけ。」ジョンは強制します。
ロドニーが不安そうに見ている間、ジョンは口の中に錠剤を放り込みます。
サムはジョンにもう1瓶手渡します。
「ローンたちにこれを配って。
 それと、ゼレンカ博士にゲイトのクリスタルを取り外すように言っておいた。
 何が起きているか分からないけど、銀河や地球にこの病気を広めるわけにはいかない。」
「全員が記憶を失ったらどうするんだ?」ロドニーが不安そうに聞きます。
カーターは納得したというよりは希望を抱いて。
「そうなる前にケラー先生が何かを思いつくでしょう。」

医務室。
ロノンが再びやってきて、ジェニファーのもとに近づきます。
彼女はバックスター博士の枕許から離れます。
彼女の顔は汗まみれです。
「おい。全員食堂に集めるんじゃなかったのか?」
「彼は最初に発病した患者よ。
 彼のバイタルがあまりにも不安定で。
 何か用?」
「何か分かったかどうか聞きにきた。」
「それはどういう意味?」
「俺は発病していない、忘れたのか?」
「ああ。免疫があるのかもしれないわね。」
彼女は彼の首を触診します。

ロノンは眉をひそめます。
「先生…」
「ちょっと待ってて。血液サンプルを取るわ。」
「先生。もうとったよ。」
ジェニファーは彼を見つめます。
「私も悪化してるのね?」
アラームが鳴ります。
マリーはバクスターの枕許に立ってジェニファーに向きます。
「先生、痙攣を起こしています。」
ジェニファーはベッドまで走ります。
「オーケー、あー、彼に…うーん…あー、 meda …medazelam 、4ミリグラム。」
マリーは薬を取ってこようと走ります。
その時バクスターの痙攣が止まります。
「心室細動よ。除細動器を。」
看護士が除細動器を持って来ると、ロノンはわきに立っています。
ジェニファーはパドルをつかみます。
「200にチャージ。」
マリーはバクスターの胸をまくります。
そしてジェニファーはパドルを当てます。
「クリア。」
彼女はショックを与えてからスクリーンを見ます。
変化はありません。
「300にチャージ…クリア。」
彼女は再びショックを与えます。
モニターはフラットライナーを表示します。
ジェニファーは恐怖の目でチームを見つめます。

現在。
ローンたちは数名の者達を捕えて食堂に連れて来ます。
ドアに着くとローンは壁のパネルに手をかざします。
ドアがスライドして開くと中にいた者たちが入口に殺到します。
「行け! 行くんだ!」
皆は驚いている軍人たちを押しかえしてドアから離そうとします。
「やめろ!やめるんだ!」
ローンはショックガンを取り出し皆を撃っている間、
ジェニファーは廊下の角に走りサムとロドニーに合図します。
「こっちよ!」
ジェニファーの声に気付いたローンは彼女を撃ちます。
サムとロドニーはコーナーに急いで走り回って、
ローンは皆を撃ちまくっている軍人たちに二人を追いかけるように言います。

しばらく後、サムは一瞬立ち止まります。
「いいわ、ここまでくれば。」
彼女は息をつこうとして体を折り曲げます。
ロドニーは息を切らしています。
「ああ、ありがたい! 肺が壊れるところだった!
 それで次はどうする?」
「分からない。どうやって彼女を見つけ出すの?」
「誰?」
サムは彼の左手をつかんで手の平をみせます。
「テイラよ! そのために危険を覚悟で逃げたんでしょ!」
「そうだった。でも分からない。」
「そう。それじゃ部屋を一つずつ探し回るしかないわね。
 ここはどのぐらい広いのかしら?」
彼女は屋外へのドア抜けてバルコニーに出ます。
二人は目の前に広がる都市のタワーを見て驚いて見つめます。
そして二人は顔を見合わせます。

過去。
ロノンとジョンは一群を率いて廊下を歩いています。
「どこに連れていくの?」科学者の一人がジョンに尋ねます
「言ったはずだ、食堂だよ。」
「行きたくない!」
「落ち着くんだ。 皆が恐がってるのは分かってる。
 だが俺を信用しろ、それがみんなのためだ。」
ジョンはロノンに急いで近づきます。
「うるさいったらありゃしないな!」
彼らは分かれ道に着きます。
ジョンは真っ直ぐに歩き続けますがロノンは立ち止まり右側を指します。
「おい。食堂はこっちだ。」
「そうだった。」
ジョンは右に向きを換え再び歩き始めます。
ロノンはジョンの症状が悪化してきたと思い見つめます。
「そんな目で見るなよ。 ここまでは来れたんだから。」
彼らは食堂に着いて入って来ます。
多くの人々はすでに中にいます。
サムが彼らに歩み寄ります。
「ローン少佐たちがほかにも集めている。少し抵抗し始められているがな。」
ジョンはカーターに報告します。
「ええ、彼らは記憶を失い始めてるわ。
 おそらくなぜ軍人がいるのかも理解できてない。」
「だから兵器庫に行ってショックガンを装備するように言った。」
サムはしかめっ面をします。
「仲間を撃つなんて納得できないわ。」
「それしか方法がないからな。」
「ええ、そうね。まもなくパニックになる人達がでるわ。」
「ああ。」
「分かった、許可するわ。」
彼女は歩き去ります。
ジョンは何か考えているような無表情で見送ります。
「どうした?」ロノンが無表情のジョンに尋ねます。
「俺と一緒に来てくれ。」
彼は部屋から彼を導きます。

兵器庫。
ローンのチームが武装していると、
ローンはベンチに座って手の平に錠剤を出しています。
ジョンとロノンが入って来ます。
ローンがひと握りの錠剤を口の中に放り込むのを見てジョンは眉をひそめます。
「飲みすぎなんじゃないのか、少佐。」
「いえ、我々は可能な限り時間を稼がないといけません。
 もし全員が忘れてしまったら一大事です。」
「ああ、判ってる。
 そこで話がある。 思いついたんだが。」

現在。
サムとロドニーは廊下に沿って歩いています。
「前にここを通らなかった?」ロドニーは辺りを見て言います。
「いいえ。」
「本当に?」
サムは廊下を振り返ります。
「通ってないわ。」
「考えがあるんだけど。」
彼はペンをポケットから取り出して壁に×印を描きます。
「何をしてるの?」
「またここに戻って来たら、これで前に来た事が分かるだろ。」
「もちろん、でもそれを書いたのが自分だと覚えてればね。」
ロドニーは眉をひそめます。
ちょうどその時、足音が聞こえ、隠れるためにコーナーに飛び込みます。
ラデクが不安そうにレイスのショックガンを向けながらやってきます。
「そこにいるのは分かってる。 武器を置いて、ゆっくりと出て来い。」
ラデクがあちこちにガンを向けている間、
サムとロドニーは用心深くコーナーで様子を窺っています。
ラデクはもう片方の手に何かをしっかりと握っています。
ロドニーは彼を見て何かを思い出します。
「メガネをかけた奴だ。」
マッケイは左袖を引っぱり上げて腕の文字を見ます。
そこに書かれた文字を見て笑みを浮かべます。
そして陰から出て行こうとすると、サムが彼の腕をつかんで引き戻します。
「何をしてるの?」
「あいつは知り合いだ。」
ロドニーは手を上げて陰から出て行きます。
「撃たないでくれ。」
ラデクはショックガンを向け撃とうとしますが怖気づきます。
「僕は武器は持ってない。」
サムも同じく手を上げてロドニーについて出ます。
「あんたは誰だ?」
「私たちは軍人に捕まったんだけど、逃げてきたの。」
ラデクは驚きます。
「本当に?」
ロドニーはラデクの抱えている物を見ます。
「おい、それは何だ?」
ラデクは自分の物だといわんばかりに後ずさりします。
「僕がこれを見つけたんだ。」
「見せてくれ。」
ラデクは頭を振ります。
カーターはロドニーに尋ねます。
「あれは何?」
「分からない、でも何か重要な気がして。」
「なぜだ?」ラデクも尋ねます。
「分からないよ。」
ロドニーは嘆願するようにラデクに手を伸ばします。
ラデクは持っている物を渡します。
それはタブレットです。
ロドニーはそれを受け取った拍子にボタンを押します。
テイラの写真とメッセージがモニタに現れます。
ラデクは驚いて見つめます。
「おい!どうやったんだ?」
「知らない。ただ点いたんだ。」
「じゃあ、これの彼女が! テイラ!」カーターが写真を見て尋ねます。
「彼女を知っているのか?」ラデクも尋ねます。
「よくは知らないけど。彼女を探してるの。 彼女なら私たちを助けてくれると思う。」
「はぁ!」
ラデクはモニタを見ます。
「”彼女を探せ”と書いてある。 どうやって探すんだ?」
サムとロドニーはお互いを見ます。
彼らには考えが浮かびませんでした。

過去。
サムのオフィス。
ジェニファーはサムとシェパードのチームたちとそこにいます。
彼女はウォールスクリーンに映像を呼び出します。
「これを見せたかったんです。」
「これが病気を起こしている細菌?」テイラが聞きます。
「そうじゃないけど、とてもよく似てるの。」
「データベースで見つけたの?」カーターが聞きます。
「データベースを調べるのはやめました。
 テイラとロノンだけが検査の結果、陰性だったのか分かったんです。
 セティダについては情報がありませんので、
 それでアソスのベケット先生の記録を調べ始めたんです。」
彼女はスクリーンを示します。
「これは十歳の男の子の血液サンプルです。
 何て呼んでたかしら、うーん…アー…書いたんだけど。」
「Kirsan 熱?」
「ええ、それよ。」
「それはこの銀河では子供が掛かる普通の病気よ。
 私は8歳のとき掛かったわ。」
「俺は十歳の時だ。」ロノンも応えます。
「でも同じ病気のはずがないわ。
 Kirsan熱は大人には感染しないし、記憶喪失も起こさない。」
「まあ、それはそうかもしれないけど、
 この細菌はあまりにも似てるの。
 これは親類だと思う。」
それを聞いたロドニーは数回指を鳴らします。
「ちょっと待ってくれ。 多分同じものだ。
 だからセンサが脅威と感知しなかったんだ。」
「どうしてそう言えるの?」テイラが尋ねます。
「まあ、考えてみろ。
 つまり僕らがここに来るまで、この星にスターゲイトはなかった。
 多分エンシェントが最初にこの星に来た時、彼らは偶然に細菌を持ち込んだんだ。
 アー…Kirsan熱を。 それが問題だったんだ。
 1万年の間に僕らが今経験している症状を起こす突然変異をしたんだ。」
ジェニファーはテイラを見て言います。
「だからあなたとロノンが感染しなかったのかがそれよ。
 子供の頃に感染してたから抗体を持ってたのよ。」
「じゃあ、抗体があるなら…」カーターは希望を持って尋ねます。
「抗体を培養するには数カ月掛かります。
 つまり、無理だという事です。」
「enchuriていう植物の樹液。
 私達はKirsan熱の薬として先祖代々それを使ってたわ。
 効き目があって、大量には必要ないわ。」
「手に入れに行こう。」ジョンは立ち上がります。
「ジャンパを使って。」カーターはジョンに指示を出しますがロノンが止めます。
「ちょっと待て。ゲイトは閉鎖中だろう?」
サムはいぶかしそうに彼を見ます。
「ゼレンカ博士にクリスタルを外すように言ったでしょ。
 彼はそれをどこに置いたの?」テイラが尋ねます。
サムは唖然とします。
ジョンはヘッドセットを作動させます。
「ゼレンカ、こちらシェパード。応答しろ。」

廊下。
ローンたちが歩いています。
ローンは廊下の部屋を指差して部下に指示をします。
「あの部屋とあの部屋をチェックするんだ。 このセクションを10分で片付けろ。」
「ローン、聞こえるか。」ジョンが無線で呼びかけます。
「はい、聞こえます。」
「ゼレンカを見かけたか?」
「はい、会いました。」
「食堂に連れて行ったのか?」
「あー、すみません、取り逃がしました。
 我々が来る音が聞こえたんでしょう。
 鉄パイプで部下が頭を殴られました。
 私が撃つ前にハッチの下に姿を消しました。
 今どこにいるかは不明です。」

後に。
ジョンとテイラはラデクを探しに廊下に出ています。
「ゼレンカ、応答しろ? ゼレンカ、聞こえてるか。」
ジョンは無線でラデクに呼びかけながら各部屋を探します。
「ラデク? 危害は加えないわ。あなたの助けが必要なの。」
テイラもジョンと同様に探していました。
ロドニーとロノンが別の方向から来て合流します。
「オーケー、これは無意味だ。
 あいつがまだ無線を持っているかどうかすら分からない。
 それにたとえ見つけだしても、
 クリスタルをどうしたか覚えていないかもしれない。
 現実を見つめようよ。」
「それじゃ他の方法を探さないとな。
ジョンはしばらく考えます。
「ジャンパーはどうだ? D.H.D.を動かせないか?。」
「それは無駄だ。
 コントロールクリスタルがなしで、安定したワームホールは確証できない。
 どこにも行けないよ。」
ジョンは眉をひそめます。
「忘れぽっくなってる。 集中できない。」
「メインランドは?」ロノンが提案するとテイラが応えます。
「ロノンの言う通りかも。
 enchuriはどこの星にもあちこちに生えてる。
 ここにもあるかもしれない。」
「よし。そいつを見つけ出したとして、どうやって皆に使う?」
ジョンはロドニーに目を向けます。
ロドニーは悲しげにため息をつきます。
「僕が何か考えるよ。」
彼はラボに向かって離れます。
テイラがロノンに言います。
「私はロドニーと一緒にいるわ。どんな物か知ってるわよね?」
「セティダにも雑草みたいにあったからな。」
テイラはうなずいてロドニーの後に従います。
ジョンとロノンはジャンパベイに向かいます。

パドル・ジャンパー。
ジョンとロノンが中に入ると自動的に点灯したライトにジョンは中を見回します。
ロノンはパイロット席にジョンを押します。
「あー、そこだ。」
ロノンが副操縦席に着くとジョンは座ります。
ジョンはぼんやりとコンソールを見つめています。
「お前は操縦できる。それは文字通りお前の血の中にあるんだ。」
全く不安そうにジョンはコントロールに手を置きます。
するとジャンパはベイから離陸し、外の海の上に飛び出します。

ロドニーのラボ。
ロドニーはラップトップにタイプして別のラップトップに向きます。
彼は動きを止め一瞬、顔をしかめ、手で目をぬぐってからぼんやりと見回します。
「待ってくれ。僕は何をしてるんだっけ?」
「治療薬を広める一番速い方法は霧状にして、換気システムから散布するのがいいって言ったの。
 あなたは今、温度と湿度と気圧を調整しようとしてる。」
「そうだった、よし、簡単だ。」
彼はラップトップにかがんでタイプします。
「単にルートディレクトリを見ればいいだけの事だ。
 そして、あー…」
コンピュータは否定的にビープ音を出します。
「ああ、もう!」
「ロドニー?」
「いやいや、こんなの眠ってでもできるはずだ。」
ロドニーは自分の症状に気がつきます
「何てこった。僕にも症状が出始めたのか?」
「落ち着いて。」
「いいや、君は分かってない。
 僕は元々記憶力は悪かったんだ。
 つまり、人の名前や誕生日なんか。
 5年も続けて母の日を忘れたぐらいだ。」
「円周率は何?」
「それはパイだ。3.14159265…
 こんなのは簡単だよ。」
「あなたは科学者でしょ、ロドニー。
 もっとも長くやってきた事じゃない。」
「その通りだ。」
テイラは奨励して彼の腕を軽く叩きます。
彼はコンピュータに引き返します。
「それで…」
彼は再び頭を上げます。
「ちょっと待ってくれ。 それってそれしか能がないって事?」
「あなたがみんなの命を救うって事よ。」
彼女はラップトップにジェスチャーで表現します。
「ああ!わかった!」
励まされた彼は仕事に戻ります。

現在。
医務室のドアが開きます。
そしてロドニー、サムとラデクが用心深く中に入ります。
「ここは何だ?」ラデクが呟くとロドニーが答えます。
「さあ。」
彼は見回します。
床には散らかった薬箱や設備があります。
「急いでみたいだな。」状況を見たロドニーが言います。
「彼女はここにいないわ…」
カーターがそう言ったとき遠くからローンの声が聞こえてきました。
「こっちだ! こっち!」
カーターはささやき声で二人に言います。
「静かに!隠れて!」
彼らは部屋の別々の場所に隠れます。
そのすぐ後にローンたちに中に入ってきます。
「よし、散会しろ。 この中のどこかに隠れてるかもしれない。」
軍人達は部屋を捜索し始めます。
サム、ロドニー、ラデクキャビネットなどの後ろに息を潜め隠れています。
ケンプ中尉がサムの隠れているキャビネットに近づきます。
彼はキャビネットの中を見ます。
一方ローンはゆっくりと別の棚を見回ります。
ロドニーはその脇に隠れています。
もうじきローンがロドニーを見つけるかと思ったときケンプが叫びます。
「少佐!」
ローンは彼に振り向きます。
ケンプはキャビネットから錠剤の入ったビンを取り出します。
「これを見つけました。」
「よし。」
ローンはチームに指を鳴らします。
「行くぞ、ここから出る。」
彼らは部屋を去ります。
彼らが行った途端にサムとロドニーはゆっくりと出てきます。
キャビネットの脇でじっとしゃがみこんでいたラデクは悲しげに彼らを見上げます。
「ここから出られるのか?」
サムは考えながらロドニーに向きます。
「どうした?」
「考えがある。来て。」

過去。
メインランド。
ジャンパは着陸し、後部のドアが開いています。
「行くぞ。」
ロノンは二つの袋を拾い上げてブラスターをホルスターに収め外にジョンを促します。
ジョンはタラップで立ち止まります。
「ちょっと待ってくれ。」
ロノンはあきれたように振り向きます。
「ここはどこだ?
「メインランドだ。」
「なんでここにいるんだ?」
ロノンは苛立ちます。
「何度も話しただろ。 例の植物を手に入れる必要があるんだ。」
「胡散臭いな。」
ロノンはブラスターの設定を変えてジョンを撃ちます。
ジョンは気を失って倒れます。
「悪く思うな。」
ロノンはジャンパの中にジョンを戻して、
サイドベンチに彼を座らせロープで手足を縛り上げます。
それから彼の髪をつかんで無意識の顔を見ます。
「すまないな、相棒。足手まといなんでな。」
頭から手を離すと肩を軽く叩いてからジャンパを出てリモコンでドアを閉めます。
そして森の中に入っていきいます。

ロドニーのラボ。
夕方。
ロドニーはラップトップにタイプし終えてから別のラップトップに向きます。
「どんな塩梅、ロドニー?」
「おおかた終ってる…と思う。」
外から音が聞こえてきます。
「あれは何だ?」
「私が見に行くわ。続けて。」
彼女はラボを去ります。
ロドニーは彼女が出て行くのを見てからコンピュータに引き返します。

テイラは用心深く見回してながらバルコニーの内側を歩きます。
ちょうどその時、 ローンたちがコーナーを曲がってやってきます。
彼らが彼女を見つけるとショックガンを向けます。
「動くな!」
テイラの目は一瞬見開かれます。
しかし彼女は安心させるように彼にほほ笑もうとします。
「ローン少佐。私よ、テイラよ。」
ローンは彼女にショックガンを向けたままです。
「なぜこんなところにいる。」
「少佐、私よ。」
「全員食堂に集めるように命じられている。」
彼が話をしている間にテイラは彼からゆっくりと後ずさりします。
軍人達の1人がジャケットからタイラップを取り出します。
「でもマッケイ博士と私は…」
「ゆっくり頭に手を置くんだ。」
タイラップを持った男が彼女に接近すると、彼女は数回その男の顔を殴り、倒します。
二人目の男が彼女に走ります。
しかし彼女は殴り倒し持っていたショックガンを掴みます。
最初に倒した男が起き上がって再び彼女をめがけて突進すると、
彼女はショックガンを向けながら男のウエストと腕を掴んで盾として使います。
ローンは男の背中を撃ちます。
男は呻いて痙攣を起こし倒れます。
テイラはが逃げ出すとローンたちは追いかけます。

ラボで、ロドニーはドアの方に不安そうに歩きます。
「テイラ?」ロドニーは囁き声で呼びかけます。
彼はドアから外を見つめます、しかし近くには誰もいません。
「大変だ。」ロドニーは不安そうに言います。

テイラはショックガンの攻撃を受けながらローンたちから追われます。
彼女は物陰に隠れ反撃します。
彼らが物陰に隠れると彼女は再び逃げ去ります。
チームは追跡を開始します。
彼女は階段を飛び降り、物陰のない廊下を進んで、
やっとトランスポートのドア前にたどり着きますが、
軍人の一人が走ってきて彼女の背中にショックガンを撃ちました。
彼女は床に前のめりに倒れます。
ケンプは彼女に近づきスタナーを蹴り飛ばすと、ローンが彼女を仰向けに返します。
他の者達も彼女に近づいてきます。
「よし、彼女を運べ。」
彼とケンプは彼女を引き起こし、肩に彼女の腕を掛けさせて引きずって連れて行きます。

ロドニーのラボで、彼はデジタルカメラを手にして作動させ始めます。
「いいか!」
ロドニーは準備のできたレンズを見つめます。
「よし。
 多分今パニックになっているだろう。
 でも時間がない。
 注意して聞いてくれ。
 誰が縛ったのかと思っているだろう。」

現在。
営倉でテイラはオリの中をうろついています。
営倉のドアが開き、彼女は振り返ります。
ローンが汗まみれの顔で中に入ります。
「目が覚めたか。」
「ローン少佐、私を解放して。」
「それはできない。
 答えを聞くまで、君はどこにも行かせない。
 仲間達に何をしたのか教えるんだ。」
「私が?! あなたは私がこれをしたと思ってるの?」
「薬か? 細菌兵器か?」
「少佐、彼らは病気なの。あなたもよ。」
ローンはニヤリとします。
「基地内は全て病気に感染してるの。」
ローンは錠剤の入ったビンをベストのポケットから取り出します。
「君以外は全員な。」
「ええ。私には免疫があるから。」
ローンはいくつか錠剤を飲みます。
「それは都合が良くないか?」
「今、何粒飲んだの?」
「俺の心配より自分を心配したらどうだ?」
「それは避妊薬よ。
 だからこんな事をしてるのね。
 その薬のせいで混乱してるのよ。」
「混乱してるだと?!
 俺のせいで病気が蔓延したわけじゃないだろ?
 無駄口は聞くな、廊下で何をしていたのか教えるんだ」
ショックガンの銃声が聞こえローンの背中にあたり彼は倒れます。
彼を撃ったのはサムで、ロドニーとラデクと一緒に部屋に入って来ます。
テイラは喜んで彼らを見ます。
「ロドニー!」
「テイラか?」
「ええ! あなたに会えてよかった。
 カーター大佐、ゼレンカ博士、あなたたちも。
 どうやって私を見つけだしたの?」
「あー、まあ、あなたを見つけだすのは難しいと思って、 彼の後をつけたのよ。」
彼女はローンを指さします。
「仕事は終わった?」テイラはロドニーに尋ねます
「何が?」
テイラは残念そうにため息をつきます。
「このシールドを解除できる?」
彼女はシールド制御装置があるオリのコーナーに歩きます。
ロドニーは彼女の行く方側に回って制御装置を呆然と見つめます。
「わ、分からないよ。」
彼はしばらくそれを見てから何か思いついたように左袖をまくります。
そしてコントロールパネルに腕に書かれたものを見ながらタイプします。
シールドが切れてロドニーは驚いて、出入り口のところに行ってドアを開きます。
テイラはオリから出るとチラッと皆に振り返り営倉を後にします。
「急いで。」
他の者は彼女の後に従います。

メインランド、晩。
ロノンは二袋に一杯に詰めた植物を運んでジャンパに向かって走ります。
しかすジャンパーの後部ドアが開いているのを見て一瞬立ち止まり、
急いでジャンパーの中に駆け込みます。
そこには縛っておいたはずのジョンはいません。
ロノンはため息をつき袋を落とすとブラスターを引き抜いて慎重に外に出ようとします。
ジャンパーの外に出た時、ジョンがジャンパーの陰から出てきてロノンの後頭部に拳銃を突きつけます。
「動くな。」
ロノンはしてやられたという顔をします。
「そいつを落とせ。」
ロノンはブラスターを地面に落として手を上げます。
「離れろ。」
ロノンはブラスターから数歩離れて、
ジョンがそれを拾い上げるとゆっくりと向きを変えます。
「さあ、話せ。 お前は何者だ?」
「お前は何も覚えてないんだろ。 何が起きてるのかも分からない。
 混乱して不安な事も分かる。 だが俺を信用しろ。」
ジョンはピストルの撃鉄を起こします。
「俺達は仲間だ。 いつも一緒にいたんだよ。
 誰も何と言っても、例え病気で記憶が無くなってもそれは変えられない事実だ。」
ロノンの言葉にジョンは何か思い出しているような感じです。
「そうだ、心の中では俺が本当の事を話していると分かってるはずだ。」
ジョンの腕は段々と下がります。
「その銃をよこせ。」
ロノンが銃に手を伸ばすとジョンは再び彼にそれを向けます。
「その手には乗らないぞ。」
ロノンはがっかりして手を挙げ後ずさりします。
「お前が俺を縛り上げたんだろう。」
ロノンは諦めたように手を降ろします。
「そうだ。 それなら撃てよ。
 暗い森の中に一人取り残され、 自分が何者なのか、どこに行っていいのか、
 次に何をすればいいのか分からずじまいだ。
 そうなっても俺は何もできないがな?」
ジョンは思考がまとまらず混乱した表情になります。
彼はロノンにしかめっ面をします。
「確かにそうだな。」
ロノンはピストルを下げるためにジェスチャーで示します。
数秒後ジョンは撃鉄を下げ銃を下します。

ロドニーのラボ。
テイラは中に皆を連れて入ります。
そしてロドニーをラップトップの1つへと連れて行きます。
「これよ。 座って。」
「君がやった方がいいんじゃないか?」
「私には分からないわ。」
ロドニーは嫌々座ります。
「僕がやるのか?」
「ええ。 プログラムの書き換えは、ほとんど終ってると言ってたわ。」
「へえ、それなら簡単だな。」
「ロドニー、聞いて。
 あなたがやらないといけないの。
 それしか方法はないの。」
ロドニーはいやそうにモニタを見ます。
「知識はあなたの頭の中よ。思い出して。」
ロドニーはモニタとキーボードを見てためらいがちに手を伸ばします。
そしてエンターキーを押します。
モニタに映っていた換気システムの概略図が点滅し消えると、
エンシェントのテキストがスクロールしはじめます。
サムとラデクは驚いてモニタを見つめます。
しばらくテキストがスクロールすると、
モニタに「プログラム完了」も文字が現れます。
テイラは喜んで微笑します。
「うわーっ。」ロドニーは自分のした事に驚きます。
「成功だ。」ラデクも驚いてみています。
「ほとんど終ってたと言ってたけど、本当だったんだ。」
「この後は?」カーターが尋ねます。
「今はただシェパード中佐とロノンが無事に帰ってくるのを待つだけ。」
「そうか、よかった。」
ロドニーはホッとしてサムにほほ笑みます。
すると三人とも呆然とした顔でテイラを見ます。
「誰?」

コントロールルーム。
軍人がラップトップのモニタを見ているとケンプに中に入ってきました。
「どうした?」
「船が屋上のベイから進入してます。」
「識別信号は?」
「いえ。もしかすると援軍かも。」
「敵の攻撃かもしれない。 他の者達に連絡を取れ。
 ジャンパベイに集まるように。
 それとローン少佐を探せ。」

ジャンパベイ。
ジャンパが陸します。
「いい操縦だ。」
「ありがとう。」
「さあ、荷物を持ってくれ。」
ロノンは後部に行き袋を拾い上げます。
ジョンは後に続きます。
「これをすぐにテイラに渡さないとな。」
「誰だ?」
「気にするな。」
彼らがジャンパーから降りてくるのと同時に、
軍人たちがショックガンを向けて入ってきます。
「手を上げろ。」ケンプが銃をむけて言います。
「聞いてくれ、中尉、これは薬だ。 直ぐに運ばなければならない。」ロノンは説明します。
「手を上げろと言ったんだ。」
怒ってロノンは袋を落とし手を上げると、
軍人の1人が彼のブラスターを取り上げます。
「営倉に連れて行け。」
「誤解だ。」
ロノンはチラッと袋を見下ろします。
「これを待ってる病人がいるんだ。」
ジョンはロノンにわけが分からず尋ねます。
「どういう事か分からないのか?」
ローンが到着します。
「一体どうした?」
「少佐、この男たちが基地に潜入しようとしているのを捕えました。」
「ローン、俺の話しを聞け。
 そうしないとこの基地内の人間が全員死ぬ事になるぞ。」
ロノンはローンに話しかけます。
「お前は何者だ?」
「ポケットを見ろ。」
「何だ?」
ロノンは強い口調で再度言います。
「いいからベストのポケットを見るんだ。」
ローンはポケットの中に手を伸ばして中にあるものを引き抜きます。
それはジョンのポラロイド写真です。
下の白い余白に文字が書かれています。
”ジョン・シェパード中佐。彼はあなたの部隊指揮官。彼を信用しろ!”
「万一に備えて、お前がこいつの写真を撮ったんだ。 俺も同席していた。」
ローンは写真を見て仲間に言います。
「彼は本当の事を言ってる。」
彼はジョンを見ます。
「あなたが我々の指揮官です。」
「そうだ。俺が指揮官だ。 だから命令に従ってくれ。」
ジョンは空ろな感じで言います。
「イエッサー。」
全員ショックガンをホルスターにしまいます。
「命令は何ですか?」
ジョンは一瞬、考えてからロノンに親指をぐいと動かします。
「彼の言うことを聞け。」
ロノンはブラスターを取った軍人に言います。
「銃を返せ。」
軍人はロノンのブラスターを返します。
ロノンは屈んで袋を一つ拾い上げます。
「俺の後に続け。」
ローンは残った袋を拾います。
他の者達はロノンの後に続きます。

日中。
ジョンは医務室のベッドで目を覚まします。
ロノンとテイラが彼の枕許に近づきます。
「中佐、目が覚めた。」
「ウーム − ふーん。どうなった?」ジョンは眠そうに応えます。
「テイラが換気システムで薬を撒いた。 それでお前は気を失ったんだ。」
「どれぐらい眠ていたんだ?」
「1日だ。」
「1日 ?! 。」
「他の連中より少し効き目が強かったみたいだな。」
「ジョン、どんな気分? 記憶はどう?」
「まあ、大分いい、と思う。
 記憶が少しあいまいでなんだ。
 もし来年君の誕生日を忘れてたら…」
テイラは微笑んで応えます。
「許してあげる。
 よくなったらローン少佐と話をして。
 事態の悪化にかなり責任を感じてるから。」
「それはあいつのせいじゃないだろ。
 あいつが俺の写真を持っててくれて助かったんだ。」
「あれはいい考えだったな。」
「ええ。もし治療薬の散布が遅れたら、もっと多くの人が死んだわ。」
ジョンはテイラの言葉に驚きます。
「それはどういう事だ?」
彼は眉をひそめて医務室を見回します。
「マッケイはどこだ?」

医務室の別の場所で、ロドニーはケイティの枕許に座っています。
彼女は彼の手を握った状態でロドニーは突っ伏していました。
ケイティの目は閉じています。
ジェニファーが近づいてきてロドニーの肩に手を置きます。
「ちゃんと寝たら。」
ロドニーはボウッとして頭を上げます。
「いいんだ、平気さ。」
「彼女が目を覚ましたら知らせるから。」
「ここにいたいんだ。」
ロドニーがジェニファーを見上げると彼女はほほ笑みます。
「分かったわ。」
ロドニーは再びケイティを見ます。
「心配ないわ。 彼女は強いから。」
ロドニーはあいまいにうなずきます。
ジェニファーは彼の肩を軽くたたいて歩き去ります。
ちょうどその時ケイティの親指が動きます。
「ケイティ?」
ケイティは眉をひそめて普通の眠りになったようです。
「先生!」
ジェニファーが行こうとするのを留めるため立ち上がります。
ジェニファーは戻って来ます。
ケイティは指を動かしています。
ジェニファーは枕許へと来ます。
「ケイティ? ケイティ!」
ケイティは目を開いて頭を巡らし彼女を見ます。
「よかった。」
ケイティは弱弱しく尋ねます。
「どうしたの、ここはどこ?」
「医務室よ。もう大丈夫。何かを覚えてる?」
「うーん…」
彼女はジェニファーの肩越しに見ます。
「ロドニー?」
ロドニーは喜んで微笑します。
彼女も微笑します。
「元気そうね。」
ロドニーはほとんど涙ぐんで応えます。
「ああ、君もね。」
彼は嬉しそうに微笑んで再び彼女の手を握り締めます。

おしまい