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スターゲートアトランティス シーズン4

4X18

オフワールド惑星。
火葬用の薪の山が森の開けた場所に積まれています。
その上には男性の遺体が横たえられ、近くにはテイラが立っていて、
その後ろにはジョン、ロドニー、ロノン、サムが並んでいます。
彼らの両脇には松明を持った村人の男が一人づつ立っています。
薪の山を見つめているテイラにサムは同情して顔を向けます。
「とても残念だったわ、テイラ。
 カナンはいい人だったのに。
 いい父親になったでしょうね。」
テイラは薪を見つめ続けています。
「私は、彼を助け出せると思ってた。」
ジョンが静かに話します。
「君はできるだけの事はしてきた。
 それは誰もが認めるさ。」
「彼は今、とても幸せなはずよ。」
サムがそう言うとテイラは俯き目をつぶります。
彼女の頬には涙が流れ落ちます。
直ぐに彼女は顔を上げて覚悟を決めます。
「いいわ。気持ちの整理がついた。」
彼女と村人は薪に向かって歩きます。
彼女はしばらくの間、カナンを見つめます。
そして村人の一人に向くと、村人は松明を彼女に渡します。
彼女はひざまずいて薪の下に松明で火をつけます。
火がつくと彼女は再び立ち上がり松明を村人に返します。
彼女はカナンの顔から目を離さずゆっくり後退します。
炎は燃え上がり火の勢いが増します。
数秒後、カナンは目を開けて頭を起こします。
テイラは驚いて目を見開きます。
「テイラ?」
カナンは炎の中から頭に彼女に向けます。
「テイラ。」
「彼はまだ生きているわ!」
「助けてくれ、テイラ!お願いだ!」
テイラが薪に向かって走ろうとすると、ジョンとサムは彼女の腕をつかんで抑えます。
「助けてくれ!」
カナンが叫ぶとテイラは自由になろうともがきます。
「彼はまだ生きている!行かせて!」
「テイラ、もう遅過ぎるわ!」
サムはテイラを諭します。
「助けてくれ、テイラ!テイラ!テイラ!」
カナンの顔が炎に焼かれ黒くなり始めると、彼はもだえ苦しみます。
カナンは絶叫を上げます。
「テイラー!」

テイラが喘ぎながら目を開くと、そこはアトランティスの部屋のベッドで横たわっていました。
彼女の耳にはまだカナンの叫び声が鳴り響いています。
彼女はベッドに身を起こし辺りを見回します。
うろたえた彼女の顔は悪夢だと分かり深い悲しみで満ちます。

日中。
アトランティス医務室。
サムはジェニファーと話しています。
「ご承知のとおり、しばらく前から、ペガサス銀河で新たな病気が発生したのを調査しています。
 いつどこで発生したかのか分かりませんが、今のところ7つ惑星で発生しています。」
ジェニファーがサムに報告をしているとジョンとロドニーが部屋に入ってきます。
「8つ目だ。」
ジョンは彼女の報告に付け加えます。
「447から戻ってきたところだが、そこもそうだった。」
「本当に?同じ兆候が?」
ジェニファーが聞き帰すとロドニーが応えます。
「ああ。」
彼は室内をぐるりと見回して、近くにあった手を消毒するアルコールディスペンサーを見つけます。
話し続けながら彼は手にアルコールをかけ擦り合わせます。
「呼吸困難から始まって、急速に致命的な臓器不全になる。」
ロドニーが手をすり合わせながら他の者に近づきます。
彼らがその手を見ているとロドニーは彼らの顔を見ます。
「ああ、これは消毒だ。」
「俺たちはバイオスクリーンから戻ってきたばかりだぞ、ロドニー。
 危険だったら出てこれないだろ。」
ジョンはロドニーの神経質さに口を挟みます。
「ああ、まあ、念には念をいれてだ。」
サムはジェニファー向きなおります。
「どうやって広まって行ったの?」
「それが奇妙なんです。
 これらの惑星の大部分には、お互いとの定期的な接触はありません。
 でも接触のある星でも、完全に影響を受けていない場所もあります。」
「今のところはな。」
ジョンが付け加えます。
「このままだとどうなるの?」
サムはジェニファーに先を促します。
「予測をするとしたら、M1R-992の証拠に基づくと、目新しい情報はありません。
 自然な病気の蔓延をたどっているようです。」
「そして…?」
ジェニファーはため息をつきます。
「人口の30パーセントは死んでしまうでしょう。
 他の星も同様だと考えるとおよそ20万人の死者数がでます。
 これ以上広まらないと仮定してですが。」

食堂。
テイラは一人でテーブルに座り悪夢にうなされたままの顔をしています。
ロドニーがブルーのリボンを着けた小さな白い箱を後ろ手に持って入って来ます。
彼は彼女に近づき顔を見ます。
しばらくすると彼女は顔を上げ彼に笑顔を向けます。
「ロドニー。ケラー先生の研究に進展はあった?」
「残念ながら、まだない。でも取り組んでいる最中だ。」
テイラは彼が背中に何を隠しているのに気づいて眉をひそめます。
「何を隠しているの?」
「僕、えー…その、君にいつ渡そうかと待ってたんだけど、
 色んな事があったし、僕は、そのー…とにかく、あー…」
彼は箱を彼女に手渡します。
「…これをさ。」
テイラは微笑んで箱を受け取ります。
「こんな事する必要なかったのに、ロドニー。」
「まあ、懐妊祝いだと思ってくれればいい。」
テイラはリボンを解き始めるとロドニーは続けます。
「地球に戻ったとき、胎児用の録音をしてくれる会社があったんだ。
 それで思ったんだ、例えば大作曲家の音楽を聞くことで、子宮の中でゆったり過ごせる。
 それに、赤ん坊は音楽的能力を持って生まれる傾向がある、
 この場合は、科学だ。」
テイラは箱を開けて、MP3プレーヤーとステレオイヤホーンを取り出します。
彼女は彼を見上げて喜びます。
「ああ。僕の最新の理論に関する考察を記録したんだ。
 ちょうど2時間分だ。」
テイラは微笑みながら応えます。
「随分、手間をかけたのね。」
ロドニーはどうって事ないよというふうに手を振ります。
「ああ、それは全く問題じゃなかった。」
彼女が再び箱の中にプレーヤーを詰めると、彼は彼女を見ます。
彼女の笑みは失われ、何か考え事をしているようです。
彼は顔をしかめます。
「どうしたの?」
「ええ…」
少し考えてから彼女は周りを見回します。
「誰かに話そうかとどうか迷って。」
「ああ。」
頷くと彼は椅子を引き出して座ります。
「誰かに話すって、何をだい?」
「夕べ、ビジョンを見たの。」
「ビジョン?」
「カナンを見たのよ。この子の父親。
 私は彼がメッセージを伝えようとしてると思うの、
 彼は生きているわ、そして彼の捜索を諦めちゃいけないって。
 そして一族の皆も。」
彼女が話している間、ロドニーは俯きポーカーフェイスを崩さないように努力します。
「それって眠ている間の事かい?」
「夢だと思ってるの?」
「いや、僕は…僕は…」
「夢なんかじゃなかった。あれは夢とは違うわ。」
それでもロドニーは信じられないという顔をします。
「あなたが疑うのは分かってた。話すべきじゃなかった。」
「あのさ、僕はエイリアンの宇宙船で繭に包まれた。
 その時僕の中に別人がいることに気づいた。
 そんな事滅多にあるもんじゃない。
 でも、自分の2つの異なった意見はある。
 それを判断するのは誰だと思う?
 君がビジョンを見たと言うなら、ビジョンだったんだと信じるよ。」

後に。
ロドニーとジョンは廊下を歩きながら話しています。
「あれがビジョンだっていうのは本当に疑問だぞ。」
「前にもあっただろ。」
「レイスとの接触はあったけど、他の人間とじゃない。
 それに、アソス人達がいなくなってから、6カ月も経つ。
 まだ生きていると本気で思ってるのか?」
「俺にどうして欲しいんだ、ロドニー?
 希望を捨てるように彼女に言えってか?」
「どっちにしたって、彼女は他に選択はないんだ。」

夜。
テイラはベッドで眠っています。
暗かった部屋が突然、光にあふれ、そよ風が彼女の顔に吹きます。
彼女が目を開けると驚いて辺りを見回します。
彼女の寝ていたベッドは森の中に置かれていました。
彼女は身を起こし、うろたえながら辺りを見回し、掛け布団を跳ね除けてベッドの脇に座ります。
数秒後、渦を巻いたトランスポータのような現象が起き、彼女の正面の草地にカナンが出現します。
彼女は立ち上がり彼に顔を向け喜びに微笑みます。
「カナン!」
カナンは驚いて彼女を見つめて、彼女の大きなお腹に手を伸ばします。
「テイラ?」
彼は驚いていますが、喜んで口に手を当てます。
彼女は笑います。
しかし彼の笑顔は薄れ手を下ろし真剣な顔で彼女を見ます。
「俺達を助けてくれ。」
「どうやって?」
「俺達を救ってくれ。」
「どこにいるの?皆はどこにいるの?」
彼は首に掛けていた黒いペンダントに手を伸ばします。
そしてチェーンを千切って彼女の目の前にペンダントを掲げます。
「君がこれを買ってくれた。」
「ええ。」
「どこで買ったか覚えているか?」
「クローヤの村。そこにあなたがいるの?」
彼は彼女の手にペンダントを落とします。
「俺を探しに来てくれ。」
彼が彼女を見つめると、日の光は陰り、そしてテイラは目を開けます。
彼女は暗闇のベッドの上に起き上がります。
そして彼女の伸ばした手は何かを握っているように結ばれています。
彼女は指を開きますが中には何もありません。

日中。
サムのオフィス。
ジョンとサムが話をしています。
「彼女はカナンが姿を消す前に渡したペンダントとビジョンで見たものが同じだと言っている。
「それで、その意味は?」
「まあ、そのー…」
ジョンはしかめ面をします。
「よく分からない。」
「それで彼女は何を望んでるの?」
「M2S-181の村でそのペンダントを買ったそうだ。
 そこに行って調べたがっている。」
「そこは友好的な取り引きの村ね。
 彼らがアソス人の失踪と何か関係があるとは思えないけど。」
「俺もそう言ったが、彼女は行きたがってる。
 カナンがメッセージ、手がかりを送って来たんだと考えてるんだ。」
「それで、あなたは?」
「そうは思えないが、テイラには、借りがあるし。」
サムは頷きます。
「OK、今はこの病気の事で、かなり手薄だから。」
「俺が早めに切り上げさせる。」

ワームホール旅行。
M2S-181。
村に向かう途中、背の高い草の野原を通ってシェパード達は歩いています。
「私はクローヤの職人からペンダントを買ったの。
 これから向かおうとしている村のね。
 アソスでは敬慕と敬意の表現で贈り物を贈るのは極一般的よ。」
テイラがアソスの風習を語るとロノンはロドニーに向きます。
「おい。そこに行ったら、俺が何か選んでやるよ。」
「本当か?」
「ああ。」
「分かったそれじゃ、聞き込みをするぞ。
 何か役に立つ情報が得れないかどうか。
 だが、もし少しでも危険を感じ始めたら…」
ジョンがそう言い掛けるとテイラが分かっているとばかりに言います。
「...私はまっすぐゲイトに向かうわ。あなた達に後は任せる。」
「そうしてくれ。」

クローヤ。
チームは市場を歩きます。
テイラは辺りを見回しペンダントを買った店を見つけると店の番をしている女性に近づきます。
「すみません。
 前にここの場所で店を出していた職人はどうしたんです?
 その人は手作りの宝石類、ブレスレット、ペンダント、チェーンを専門にしてて…」
「亡くなったよ。」
「亡くなった?」
「病気になったのよ、数週間前に村に蔓延して。
 彼の他に40人もね。残念だけど、子供もいたわ。
 彼は死んだわ。」

アトランティス医務室。
サムが入ってきて、ジェニファーに向かいます。
「なに。私に話があるって?」
「ええ。病気の原因を見つけたみたいです。
 そして以前、私たちが遭遇したことがあるものです。」
彼女はサムをスクリーンに導いて、それを起動します。
「これは元々ホフと呼ばれる星の住民によって作られた独特なタンパク質です。
 レイスの供給能力を妨げるように設計されています。
 それらの過程に免疫を持つようになります。」
「それって、レイスが摂取すると死んで、住民の半分も死んだ事件ね。」
「そうです。」
「でもこれは、自然に広まる接触伝染じゃないわ。」
「ええ、これは大量殺人です。」

クローヤ。
テイラが村人と話し終えるのに従って、ジョンは彼女に近づきます。
「もういいんじゃないのか?」
「まだよ。」
「二度もこの場所は聞きまわった、なのに誰も何も知らないじゃないか。」
「誰かが知ってるはずよ。まだ、探し出せてないだけ。」
ジョンは静かに彼女を見ます。
「私はここに導かれたの。
 私にペンダントを見せることによって、カナンはこの村に来るように伝えたのよ。」
「なあ、つらい事だとは思うが、答えが欲しいのか?
 もう分かってるんだろ?それが君の判断を曇らせているって…ほんの少し。」
「何が言いたいの、ジョン。
 ビジョンに対する私の解釈が間違ってると?」
「いいか、ここで十分聞きまわったじゃないか。
 もし何かあれば今ごろ、もう何か見つけたはずだ。」
顔を背けて彼は無線ヘッドホンを起動します。
「ロドニー、ロノン、帰るぞ。」

アトランティス。
会議室。
ジェニファーとサムは発見についてジョンとロドニーに話をしていました。
「それが同じタンパク質だと確信できるのか?」
ロドニーは説明の確認をします。
「比較テストをしたわ。
 ほとんど完全に一致した。」
「ほとんど?」
サムが聞き返します。
「これは新しく改良されたバージョンみたい。
 ホフ薬は被験者の50パーセントを致死させたけど、これは30パーセントの致死率なの。」
「それが30パーセントでも多過ぎる。」
ジョンは驚きます。
「8つの異なった星の人たちが、どうやって薬を盛られたんだ、それも誰にも知られずに?」
マッケイが訊ねるとジェニファーが応えます。
「食物や水に混ぜられたのかもしれないわ。
 今、色々とテストをしてる。」
「それで、誰がこんな事を?」
今度はサムが尋ねます。
「多分、ホフ人達は薬の配布を再開したのよ。
 これまで以上のはるかに大きなスケールで。」
「彼らには無理だ。
 レイスにそれを見つけられて文明を壊滅させられた。」
ロドニーが反発するとジョンが別の考えを述べます。
「多分、何人かは生き残って、復讐を計画したんじゃないか。」
「この薬の分配のランダム性は明らかに計画的。
 どう見てもレイスを一掃しようとしてる。
 レイスには餌となる誰が感染しているのか全く分からない。」
サムが状況から推測を述べます。
「すると、空腹で怒りっぽくなるのは時間の問題だ。」
サムとジョンはロドニーを見ます。
「つまり、僕もそうだから。」
「ホフに戻る必要があるわね。」
サムの言葉にジョンとロドニーはため息をつきます。
「なにか捜してだして、別の星が狙われる前に、状況を変えられるかどうか探し出すのよ。」
「行くぞ、ロドニー。」
ジョンの合図にロドニーは嫌そうにサムを見ますが、立ち上がってジョンについて部屋を出ます。

テイラの部屋。
日中。
テイラはベッドの上に座っています。
胡坐をかき両の手をひざの上に置き掌を上に向け目を閉じ瞑想をしています。
集中するに従って、彼女はカナンの声を聞きます。
「テイラ。」
彼女が目を開けると目の前には森が広がり、カナンが立っています。
「カナン!どこにいるの?」
「分からない。」
「誰があなた達を連れ去ったの?」
「分からない。」
「どうすればあなた達を見つだせるの?」
「もう既に答えは分かっているだろう。」
「村ね?」
「君は探すのをやめてしまった。」
「行ったわ!でも何も見つけられなかった。」
「近くまで来ていたんだ。
 お願いだ、テイラ。もう時間がない。」
彼は手を彼女に差し出します。
「君が必要なんだ。」
「カナン。」
テイラは苦しそうな顔で彼の差し出した手に手を伸ばし掴むとビジョンは色あせます。
彼女は目を開けて伸ばしていた手を見ます。

その後、まもなく。
テイラはサムと共にサムのオフィスに向かって歩いています。
「眠っていたの?」
サムがテイラに訊ねます。
「瞑想していたけど、確実に目覚めていました。
 疑問の余地はありません、これは真実です。」
サムはひじ掛け椅子を示し、二人は座ります。
「でもあなたはもうあの星に行ったわ。」
「何かを見逃したんです。
 そう確信しています。」
「信じてはあげたいけど、テイラ、私は科学者なの。
 まず疑うように訓練されてる。」
「説明はつきます。
 カナンは贈り物を持っています、私と同じ力を。」
「レイスのDNA?」
「ええ。
 私たちの中では贈り物は役に立つと考えられていますが、一人に絞られるんです。
 時には困難になる場合があるから。
 カナンはその事を本当に理解してくれる唯一人でした。」
「それがあなた達を引き付けたのね。」
「幼い頃から共有してきたものなんです。」
「でも以前にも、こんな事が?」
「いいえ、どう思っているか分かります、大佐。
 皆がどう思っているのかも。」
 『彼女は自分の望んだ事を見ている、信じていたい事を信じている』って。
 でも断言できます、そんな事は決してないと。」
テイラは希望をいだいてサムを見つめ返しますが、サムは少し長い間彼女を見ます。
ついにサムは決断します。
「分かったわ。
 シェパード中佐がホフから戻ったら…」
「もう待てません。
 カナンは時間がないと言っていました。
 すぐに出発しないと。」
「分かったわ。」
再び彼女はテイラを見つめます。
最悪を想定してテイラは主張します。
「あなたの許可は必用はありません、大佐。
 私を拘束するつもりがねければ…」
サムは頷いてヘッドホンを起動します。
「ローン少佐、応答を。」
ローンが無線に応えます。
「どうぞ、大佐。」
「チームを集めて。
 テイラを護衛してM2S-181に行ってちょうだい。」
「了解。」
嬉しそうにほほ笑んでテイラは立ち上がると、サムも立ち上がります。
「あなた一人で行かせるわけにはいかないわ。」
「ありがとうございます、大佐。」
「サムって呼んで。」
「ありがとう、サム。」

ホフ。
S01E07の時以来、レイスの空爆により酷い打撃を受けています。
ロドニーは棚とキャビネットでいっぱいの大部屋の中にいます。
書類があたりに散乱しています。
ジョンが無線で彼に呼びかけてきました。
「ロドニー、聞こえるか。」
「聞こえてるよ。」
「何か見つけたか?」
「ゴミばかりだ。君の方は?」
ジョンはどこかに通りの外にいます。
「何もない。
 レイスはこの場所をかなり叩いたようだな。」
「まさしく無差別攻撃だ。
 この場所は以前、ホフ人の知識の倉庫だった。
 ほとんどなくなってるよ。」
近くで何かが大きな音を立てて倒れます。
ロドニーは音の方向に向きます。
「誰だ?」
「ロドニー?どうした?」
ロドニーはオロオロして応えます。
「物音が聞こえた。」
「落ち着け。たぶんネズミだろ。」
ロドニーは更にオロオロします。
「ネズミだって?」
彼は不安そうに地面を見ながら、音が聞こえた方向に向かいます。
「OK、もし隠れてるんなら、出て来たほうがいいぞ。」
再び音が近くで聞こえます。
「冗談で言ってるんじゃないぞ!」
彼は慎重に部屋の端に向かって進んでいくと、
多くの子供達が、突然様々な隠れていた場所から出てドアに走り始めます。
「おい!ワオ!」
子供達はロドニーを押しのけて逃げます。
「おい!」
ロドニーは襲われないことに安堵してると、別の子供が隠れ場所から飛び出しドアに走ります。
「おい!」
彼は子供を逃がさないようにドアに走ります。
「ワオ、ワオ、ワオ、ワオ、ワオ、ワオ、ワオ、止まれ。」
少年は立ち止まり目を大きく見開いています。
「君らを傷つけるつもりはない。
 ただ2、3質問に応えて欲しいんだ。
 君達は何者だ?ここで何をしていたんだ?」
逃げ道を捜して少年は答えません。
「OK、手伝って欲しいんだ。
 ある医学関係のものを探しているんだ、本とかファイルや設備なんか。」
少年は首を横に振ります。
「そんな物知らないよ。
 僕達がここに来た時には、ほとんど持ち去られた後だった。
 僕達は残った物を集めてるだけさ。」
ロドニーは少し顔を背けて、ヘッドホンを起動します。
「シェパード。」
少年はロドニーのスキをついて押しのけてドアに走り出します。
ロドニーは無線を続けます。
「ここにいるのは僕達だけじゃないみたいだ!」
「何か見つけたのか?」
「廃墟に大勢子供達がいる。」
「火事場泥棒か。
 そいつらが俺達の探し物を持っていったと?」
「ホフ人の研究なんかあの子らには意味ないよ。」
「そうか、なら誰が持っていったんだ?」
「分からない。
 でもこれだけは確かだ。
 それが誰であっても、盗んだ連中は何なのか分かっていたんだ。」

M2S-181。
テイラとローンのチームはクローヤの村に入ります。
市場に入ると、ローンは辺りを見回します。
「ふむ!昔、故郷でよく開いていた蚤の市を思い出すな。
 毎週日曜日にベイエリアまでぶらついて、欲しい物を見つけるんだ。」
彼は様々な売店を見ます。
「でも、大抵見つからないんだ。」
テイラは立ち止まって、商人が黒いペンダントを客に見せている売店を見ます。
ローンは彼女の顔に気付きます。
「どうした?」
テイラは下に手を伸ばしベルトから小型ナイフを取り出して売店に向かって歩きます。
ローンは不信そうに見ます。
「テイラ?」
ローンは彼女が売店に行く後を追います。
彼女は店にいた客をにらみつけます。
「どいて。」
彼女がナイフを握っているのを見ると客はその場を後にします。
テイラは商人の手をつかんでナイフを彼の喉に押し当てます。
「一度しか聞かないから、正直に答えなさい。
 どこでこのペンダントを手に入れたの?」
「貿易業者からさ。
 これがそんなに好きならやるよ。」
ナイフを彼の喉から離しテイラは、彼の手からペンダントをひったくって見ます。
ローンはテイラに訊ねます。
「それに見覚えが?」
「これはカナンのものよ。」
彼女は商人を見ます。
「その貿易業者から他に何を手にいれたの?」
商人は売店の後から小さな木箱を取り出し、テイラの正面にテーブルに置きます。
彼女は箱を開いて中を見るとネックレスを手にします。
商人はいい訳じみた事を言い出します。
「ここで騒ぎは起こしたくないけど、その品物は私が金を出して買ったものだ。
 これをあんたにやってもいいが、純粋に商売としてみれば私がただ手放すのはどうかと…」
「このネックレスはベルーラのものよ。」
彼女は商人の言葉を遮りそう言うとローンを見ます。
「彼女の成人の記念に両親が彼女に贈ったのよ。」
次に彼女はリングを取り出します。
「そして、このリングはホーリングのもの。」
商人は目を泳がせため息をつきます。
ローンは彼を見ます。
「これを売りに来た貿易業者を見たのはいつが最後だ?」
「数日前、彼は定期的にここに来るよ。
 実際、今日あたり来るんじゃないかな。
 紹介して欲しいなら、よろこんで。」

アトランティス。
ジョン、ロドニー、ロノンはゲイトルームからの階段をコントロールルームに走り、
チャックのコンソールのそばに立っているサムに向かいます。
「何か見つけた?」
サムが尋ねるとジョンが応えます。
「いや、何もなかった。」
ロドニーは近くの起動している大きなスクリーンを見ます。
「これってもしかして?」
「見慣れた光景になり始めてるでしょ。」
ロドニーの問いにサムが答えます。
「それは何だ?」
今度は訳の分からないロノンが訊ねます。
「レイスのサブスペース追跡装置。お友達よ。」
サムが応えるとロドニーが驚きます。
「トッドか!」
「多分、彼は話したがっているわ、そして多分、私たちを待ち伏せしようとしている。
 その可能性はいつものことね。」
「まあ、探る方法は1つしかない。」
ジョンがそう言うと彼とロノンは階段の方に向かいます。
ロドニーは苛ついて彼らを見ます。
「なあ、おい!たった今戻ったばかりなんだぞ!」
「悪いわね、ロドニー。」
サムがそう言うとロドニーは悲しげに文句を言います。
「まだ昼飯だってまだなんだ!」
ロドニーはぶつくさと言いながら階段に向かいます。
サムはチャックに向きます。
「ダイヤルして。」

クローヤ。
商人は売店のテーブルの上に新たな商品を並べています。
すると誰かが近づいてくるのを見つけ近くで待っているローンに目を向け頭で合図を送ります。
貿易業者が商人の売店に近づくき、ローンは何気ないふりで歩き出します。
貿易業者は商人のテーブルに小さなバッグを置きます。
「今日はいい物を持ってきたぞ。本当にいい物だ。」
彼はブレスレットを取り出して、商人にそれを示します。商人は、それを感心して見ます。
貿易業者がバッグから品物を取り出し続けていると、ローンは彼の側にやってきます。
「おい、そこの。調子はどうだい?
 そいつをどこで手に入れたの教えてくれないか?」
貿易業者はローンをよく見て、次に商人を見返します。商人は目を大きく見開きます。
貿易業者はゆっくりバッグを取ってローンに向きます。
するとバッグをローンの胸に押し付け走り出します。
ローンがバランスを失うと貿易業者は反対方向を向いて走りだします。
ローンは追いかけます。
貿易業者は歩道を駆け下りますが、テイラが彼の行く手に待ち構えていました。
彼女はビンを掴み、貿易業者の顔を殴りつけます。
彼は地面に倒れ気を失います。

その後、貿易業者は窓から日の光が差し込む誰もいない部屋で、
部屋の中央の椅子に手首と足首を縛り付けられています。
彼の頭はだらりと後ろに倒れており、まだ気を失っているようです。
ローンがバケツの水を男に掛けると、男は意識を取り戻し咳込みます。
「起きろ!」
チームの一人が小さな木箱をローンに渡します。
ローンは貿易業者にそれを広げ内容を示します。
「見ろ、この品物をどこで手に入れたのか教えるんだ。」
「色んなところと取引してるから、いちいち覚えてない。」
「そうか?商人によると、お前はここで仕事をしてるそうだな。
 お前が最近持ってくる物はいつものがらくたより物がいいそうだ。」
「奴がそう言ったのか?」
「ああ。そう言った。」
「説明するわけにはいかないんだ。
 俺の私は関係筋をばらすわけにはいかない、企業秘密だ。」
「お前の企業秘密などどうでもいい。
 お前がこれをどこで手に入れたのか知りたいだけだ。」
「もし言わなかったらどうする気だ?
 そのユニフォームを知ってるぞ。
 噂は聞いている。アトランティスから来たんだろ?
 この銀河の問題を解決しようとしている奴らが、俺を傷つけるはずはない。」
テイラが暗闇から現れます。
「私はユニフォームを着てないわ。」
ローンは脇によけます。
彼女は椅子に近づいて貿易業者を見下ろします。
貿易業者はニタニタ笑います。
「妊婦か!こりゃたまげた!」
テイラは太目の木の枝を男の胸に押し付けると強く押し男を椅子ごと後ろへ倒します。
「あなたをレイスの崇拝者だと村人に知らせて、彼らに制裁をさせるのはどう。」
テイラはチームに言います。
「行きましょう。」
彼らが出て行こうとすると貿易業者は慌てて声を上げます。
「待ってくれ。待ってくれよ!」
テイラ達は立ち止まって男を見下ろします。
「オフワールドのゴミ捨て場で見つけたんだ。」
「ゴミ捨て場?どういうことだ?」
「ほとんどは死体だ。身元すら分からない連中のな。
ぞっとしてテイラは男を見ます。
ローンは同情的に彼女を見ます。
「時々そういった連中の持ち物に貴重品があるんだ。
 それに死体に貴重品は無駄だろ。」
「お前は死者からこれらを取ったのか?」
ローンが訊ねます。
「いや、そいつは違う。」
テイラは少し希望を抱いて見下ろします。
「この前その星に戻ったとき、新しい墓を見つけたんだ。
 いい掘り出し物があると思った。
 でも掘り起こしたら死体はなくて、その品の入った箱を見つけた。
 誰かが捨てたものを手に入れただけだ。
 最初は変だとは思ったが、俺としちゃ…」
テイラは強い口調で話を中断させます。
「私達をそこまで案内して。
 どこで見つけたのか教えなさい。」
「もちろん。言うとうりにするよ。」
ローンはチームへ命令します。
「起こしてやれ。」

遠くの惑星。
レイスのクルーザーが砂漠地帯に着陸しています。
クルーザーは明らかにしばらくそこに置いてあり、砂に半ば埋もれていました。
ジョン、ロドニー、ロノンはクルーザーの内部の廊下を用心深く進んでいます。
ロノンが何かを見つけます。
「シェパード。何か見つけたぞ。」
ジョンとロドニーがロノンの後を付いて行くと、レイス一人と2人の警備員が床に倒れていました。
ロノンはそれらをチェックッします。
「死んでる。撃たれた形跡はない。」
近くからレイスの声が聞こえてきます。
「毒でやられたからだ。」
チームは声のする方に向き武器を向けます。そこにはトッドがいました。
「お前達はその事を知っているはずだ。」

M2S-181。
テイラとローン達、貿易業者はスターゲイトへ向かっています。
ローンがテイラに言います。
「ゲイトに着いたらまずアトランティスへ無線連絡をする。
 どこに行くかを言っておかないとな。」
彼女は頷きます。
「聴いてくれ、 テイラ。
 君が仲間に起こった事の答えを探しているのは分かる。
 だが、俺達に任せてくれれば調べる事は厭わない。」
「少佐…」
「なあ、先に俺達が偵察してくる。」
すると近くの上空から戦闘機の飛ぶ音が聞こえてきます。
「何だ?」
ローンは見上げます。
「ダーツだ!」
レイスのダーツが視界に入ります。
まっすぐテイラ達に向かって来ると、全員逃げ出します。
しかしダーツはトランスポータビームが起動させて低空飛行してきます。
貿易業者はテイラを掴んで故意にビームの通り道に抑えます。
ビームは二人を吸い上げ、ダーツは空高く上昇していきます。
ローン達は悔しそうに見上げています。

遠くの惑星。
遺棄されたレイスクルーザー。
ジョンはレイスの死体を調べると、立ち上がりながらトッドを見ます。
「さて、当ててみようか、何を食べたのか。」
「仲間のレイス達は食物供給に対する攻撃の犠牲になった。」
「ああ、それは残念だ。
 だが、それは俺達のせいじゃない。」
「我々が推測するに、この攻撃は多くの人間の命の犠牲によって成り立っている。
 お前達が過去に起こした何か。
 もちろん、お前達にこの病気の蔓延に責任がないならな?
 お前達が人間の命を犠牲にしているのを「許容範囲」と考えているとすればだが。」
「実は、俺達がこの容疑者リストを作っていたとき、オタクがそのトップに上がっていたんだ。」
「ほう。」
「お前がライバルを蹴落とすためにな。」
「有効的で、効果はあった。
 創造的ではあるが、実際は全てのレイスの派閥に影響を受けいる。
 我々の食物供給は手当たりしだいに汚染され、
 次の食事が我々の最後になるかどうかも分からない。」
「そうか、時間がないんだ。
 俺達をここに呼びつけた説明になってないぜ。」
「お前達の助けが必要だから、ここに呼んだのだ。
 ホフ人がこの薬を精製するのをお前達が手伝ったと思っている。
 ハイブの者に治療薬を与えるために、お前達の持っている資料を渡してくれ。
 私のハイブだけに。」
「それはできない。」
「いつもそう言うが、最後にはいつもやってくれる。」
「そうか?だが今回は違う。
 以前の地球征服の事はまだ根に思ってるしな。」
「私はそれに関わっていなかった。」
ロドニーが口を挟みます。
「そう言うが、結局はオタクが手を貸したようなもんだ。
 攻撃の陣頭指揮を執っていたレイスはオタクがアトランティスへ来た時に盗んだ情報で、
 ミッドウェイステーションにアクセスしたんだ。」
「奴は私からその情報を盗んだ、お互いに犠牲者だ。
 この話は別の機会にしようじゃないか。
 提案があるんだが。」
ジョンは目を泳がせます。
「聞こう。」
「資料と引き換えにこの毒を分散してレイスと人間の両方を殺している人物の情報を渡そう。」
ロノンがあきれます。
「ほう。さっきは、俺達の仕業だと言ったんじゃねえか。」
「このような攻撃ができるのは二つの組織だけだ。
 お前達でないならば、消去法でいけば残りはもう一つ。」

ハイパースペース。
レイスクルーザー。
テイラは大きな腹を守るように抑えオリの中に座っています。
よく知っている人物がオリのドアに近づくと、彼女はぞっとして立ち上がり見つめます。
「マイケル!」
マイケルはオリの外からじっとテイラを見つめます。

アトランティス。
ジョンとロドニーはサムのオフィスで報告をしています。
ジェニファーもそこにもいます。
「トッドによるとあらゆるレイスの派閥が攻撃を受けているため、
 レイス達の仕業ではないと言っている。」
ロドニーの言葉にジョンが続けます。
「俺達じゃないと言ったら、奴はもう一組織だと言っていた。」
「その組織に心当たりは?」
サムの問いにジョンは頷きます。
「マイケルだ。」
「ベケットが人間に変えたレイスの科学者ね?」
ジェニファーが訊ねます。
「変わったのは一時的だ。
 結局は、人間とレイスのハイブリッドになった。」
ロドニーの説明にジョンが付け加えます。
「一方レイスは奴を仲間と認めなかった。
 それ以来奴は恨みを抱いている。」
「あいつは人間よりでもない。
 あいつにとってホフ薬は完全な兵器だ。」
ロドニーの意見にサムが口を挟みます。
「でもそれはただの推測でしょ。何か証拠はある?」
「ない、仮にあったとしても、あいつを見つけ出す方法も全くない。」
「トッドのところに戻ろう。
 奴が他に何を知ってるか探り出すんだ。」
ジョンが提案するとジェニファーが止めます。
「待って?本気なの、彼にホフ人のタンパク質の資料を渡す気?」
「ダメなの?」
ロドニーはあっけらかんと言い放ちます。
「だって薬の製法を教えてしまったら数百万人もの感染者を出すかもしれないじゃない。」
「理論的にはそうだけど、自分達の食料を汚染させるのは得策じゃない。
 僕らの資料で連中が解毒剤を作ったとしても。
 違うだろ。
 ありそうなシナリオだと、連中は短期的な解決として既存の脅威に働く解毒剤を見つける事だ。
 連中がタンパク質を武器化するならその後だろ?
 より効果的な散布システムを作り出し、媒体者を作り出す。
 この場合人間が犠牲者だけど。
 どっちにしたって僕らのやろうとしてる事は、連中同士が全滅する事になる。」
「だから、時には連中に塩を送るのもいい考えかもな。」
ジョンがそう言ったとき、スターゲイトはダイヤルインします。
チャックがコントロールルームから館内放送をします。
「ワームホール接続。」
ローンのチームがゲイトを通り抜けてくると、サム達は部屋から出て階段を下ります。
ワームホールは閉じます。
ローンはサムに向かって歩きますが彼の顔は後悔した顔で俯いています。
「中佐、テイラはどこ?」
サムはテイラが一緒ではない事に訊ねます。
渋々とローンは顔を上げます。

マイケルのクルーザー。
テイラはオリの格子からマイケルをにらみつけます。
マイケルの姿は多少変化をしています。
目の瞳孔は縦長のままですが鼻の両サイドの穴は小さくなりエコーの掛かった声はなくなり、
てかっていた皮膚の輝きも薄らいでいます。そして髪はより黒っぽくなっています。
「どうして私ここに?何が狙いなの?」
マイケルはじっと彼女を見ます。
「答えなさい!」
「がっかりしたよ。もう少し感謝されると思っていた。
 再会させようとこんな芝居をしたんだが。」
「再会?」
彼女は何か言おうとしましたが、何のことか理解して目を大きく見開きます。
「私の仲間ね! あなたが彼らを連れて行ったのね?」
マイケルは首をかしげます。
彼女はオリのドアに近づき廊下を見ます。
「皆はどこにいるの?皆に何をしたの?」
「生きている。そして私と共に同じ目的に向かって動いている。」
「一体なんの話し?」
マイケルはより近づきます。
「レイスの撲滅だ。私はこの銀河で奴らに取って代わるための軍隊を作っている。」
「怪物の軍隊ね。」
「認めよう。
 初期の試みは残念だが…ダメだった。
 だが現在は全てが変化した。
 完璧なバランスを作るためにレトロウイルスを精製した。
 人間を超えた能力を持つ者達を。
 しかし弱点を克服せねば、レイスの二の舞になる。」
彼は右手を上げて手のひらを彼女に見せます。
そこにはエネルギーを吸い取るスリットはありません。
「食物が必要になった。」
「あなただったのね。あなたがホフ薬を広げた犯人ね。」
「これから始まる攻撃の第一陣だ。」
「どうやって薬を見つけたの?」
マイケルはきびすを返し歩き去り始めます。
テイラは彼を呼び止めます。
「どうやって精製したの?」
彼は彼女に振り向きます。
「手伝ってもらった。」
彼はわずかに微笑んで、振り返って歩き去ります。
「待って!仲間はどこなの?」
マイケルは歩き続けています。
「マイケル!」

遠くの惑星。
レイスのクルーザー。
二人のレイスの警備員がレイスの死体に向かって歩きます。
そして死体の腕を掴んで床を引きずっていきます。
テイラを除いたシェパード達が到着して警備員に銃を向けます。
トッドが角から出てきます。
「ああ、気にするな。片付けの手伝いに呼んだのだ。」
ジョンは頷いてロドニー、ロノン達に兵器を下ろすよう前に出ます。
警備員は死体を引っ張り出します。
「私の条件を飲むようだな。」
「それはない。」
「この不幸な出来事を起こした張本人を知りたくはないのか?」
「もう分かってる。少なくとも見当はついてる。」
ロドニーが応えるとジョンが続けます。
「俺達はそいつをマイケルと呼んでいる。
 理由を聞かないでくれ。
 そいつは以前、レイスだった。
 今そいつが…何をしてるか分からないが。」
「お前の言う事は理解できる。そしてお前の言うとおりだ。
「何も渡してないのに、随分気前がいいんだな。」
「他の情報が欲しいのだろう、でなければここには来るまい。」
ロノンが脅しをかけます。
「お前を殺しに来ただけだ。」
トッドは驚きます。
「そうなのか?」
「残念ながら、違う。」
ジョンは否定します。
「まあ、次の機会にしてくれ。」
トッドが安堵するとジョンはロドニーに声をかけます。
「ロドニー?」
ロドニーからトッドに話します。
「僕らの仲間の事だけど、テイラが今日、ダーツに連れ去られた。」
「既に彼女は運のいいレイスの餌となっただろう。」
「これは刈り取りじゃない。彼女は狙われたんだ。
 誰かが罠を仕掛けた。」
「お前達が疑ってる…なんと言ったか?マイケル?」
「そうじゃなきゃ、タイミングがよすぎだ。」
ジョンが言います。
「そうだな。」
「お前の情報網を使って、探し出してくれ。」
ジョンがそう言うとロドニーは銃を離し、背中に手を回しコンピュータタブレットを取り出します。
そしてトッドに差し出しながら。
「このタブレットには、オフワールド中継局のアドレスが入っている。
 メッセージをくれれば僕らに届く。
 それに、ホフ薬の資料も入ってる。」
「そうか。」
トッドはタブレットを取って起動させます。
「興味を湧かすには十分だろ。
 俺達に必要な情報をかき集めたら、残りを渡す。」
ジョンは取引を持ちかけます。
「まあ、できる限りの事はやってやろう。」
トッドは二人に笑顔を向けます。
彼らは睨み返しながら出て行きます。

マイケルのクルーザー。
食事の入った小さなボールを持って、マイケルはテイラのオリに近づきます。
「食事を拒否するのは分かるが。」
テイラは彼をにらみつけます。
「これは大丈夫だ、心配だというのであれば。」
彼は小指をボールに入れて、食べ物を少し口に入れます。
それでもテイラは彼をにらみつけます。
彼はオリに近づき格子の隙間からボールを差し入れます。
「受け取れ。体力が持たないぞ。」
テイラは彼の手にしたボールを払い落とします。
「私の事なんか気にしてどうなるの?」
「十分気になる。」
テイラは彼に目を細めます。
「私たちが友人だと思うほどバカではない。
 だが私たちには歴史がある。
 君は何度も私を裏切ってくれたが、それでも君はただ一人だ。
 人間でありレイスであり。
 君の事はかなり解明が進んでいる。」
テイラは皮肉を言います。
「そうなの?」
「私たちはそれ程違いはない、テイラ。
 君は人間だがレイスのD.N.A.をもっている。
 ハイブリッドだ、私のような。」
「私は殺人者じゃないわ。」
「君は仲間や自分を守るために殺すだろう?
 私もそうしている。
 もちろん、状況的には私の方がスケールは大きいが、基本は変わらない。」
「狂ってるわ。」
一瞬マイケルは少し傷ついたような顔をします。
「なんと言われても構わない。
 だが、子供を犠牲にはするな。」
テイラはチラッと自分のお腹を見ます。
そしてマイケルを憎しみを込めて睨み付けます。
「私の子はあなたには関係ないわ。」
「それは違う。その子には大いなる計画がある。」
彼女は彼をぞっとして見つめます。
彼はチラッと彼女の腹を見下ろしてから、きびすを返し出て行きます。

アトランティス食堂。
ロドニーはテーブルで食事をしています。
食べ物をすくい上げ、ものすごい速さで口に運んでいます。
ジョンとロノンはテーブルの向かい側に座っていて二人は呆気に取られて彼を見ています。
「よくそんなに喰えるな?」
ロノンは呆れながら声をかけます。
ロドニーは食べながら応えます。
「冗談だろ?今日初めてのまともな食事なんだぞ。
 それに、テイラを助け出すのに自分達が飢えてたら助け出せないだろ。
 力を蓄えておかなくちゃ。
 君達も食べておいたほうがいいぞ。」
ロノンはジョンを見ます。
「なあ、彼女は見つけだそうぜ。」
「何とかしないとな。」
サムが彼らのテーブルに来ます。
「中佐。」
ジョンは立ち上がって彼女に面します。
「トッドみたいなのからあなたに。」
ロドニーが尋ねます。
「あいつが?」
「中継局からメッセージが届いたわ。
 どうやら、私達の仲間を捕虜したという噂が、レイス崇拝者に広まってるそうよ。
 座標を送ってきたわ。」
「分かった。ローンのチームも連れて行く。」
ジョンの意見にサムは返します。
「自分から志願してきたわ。
 近くの星までゲイトで行って、ダイダロスがそこから拾っていくから。」
ジョンは後ろの二人に向きます。
「行くぞ。」

マイケルのクルーザー。
テイラはオリの中で座っていて、ドアから顔を背けていました。
人影がドアから現れて立ち止まります。
テイラはよく見もせずに口を開きます。
「言わなかったかしら?お腹は減ってないわ。」
彼女は頭を向けますが、そこに立っていたのはマイケルではありません。
カナンでした。
彼女は顔をほころばせて、急いで立ち上がり近づきます。
「カナン!」
彼はまるで彼女を見分けないかのように彼女を見つめます。
彼の鼻の両脇にはレイスと同じようjな穴が開いています。
「あいつはあなたに何をしたの?」
それでも、彼は彼女で茫然と見つめます。
「カナン。私よ?テイラよ。
 あなたが言ったように、あなたを迎えに来たのよ。」
カナンの脇にマイケルが姿を現します。
「私が言ったのだ。
 君の見たビジョンは私が送ったものだ。
 もちろんうまく偽装してな。」
「ウソよ!」
「1万光年離れた場所から、君の心に送ったのだ。
 君が思っているよりも、私たちの絆は強い。
 子供が生まれれば、さらに深まるだろう。」
マイケルはチラッとカナンを見てから、再びテイラを見ます。
「再会を楽しんでくれ。」
彼は歩き去ります。
テイラはマイケルが立ち去るのを見届けると、オリの格子につかまりカナンを見ます。
「カナン。私を助けて。」
カナンは初めて彼女の大きな腹を見て反応を示します。
「私たちの子供を助けるのよ。
 お願いよ、カナン。」
「子供は目的を果たすだろう。
 そうなれば、すぐに銀河は我々のものとなる。」
彼は振り返って歩き去ります。
テイラはショックを受け彼の後ろ姿をじっと見つめます。

ハイパースペース。
ダイダロス。
シェパード達はコールドウェルがいるブリッジに行きます。
「大佐。」
「シェパード。」
兵器担当の女性が報告します。
「目標の座標に到着します。」
「離脱だ。」
「了解。」
ハイパースペースウィンドウが開くと、ダイダロスは正常な宇宙空間に出て星の近くの軌道に入ります。
シェパード達はコールドウェルの正面に回って勢ぞろいします。
コールドウェルはジョン達に言います。
「テイラの皮下に埋め込んだ発信機を拾えない。」
「驚きませんよ。マイケルが取り除いたんだ。」
ロドニーが応えると、ジョンが続けます。
「大変な道のりになるな。」
「いいじゃねえか。やろうぜ。」
ロノンが言うとコールドウェルは兵器担当に頷きます。
彼女がコントロールパネルに触れると、チームは武器を準備します。
アスガードのトランスポータビームは、星の施設に彼らを転送します。
転送されたジョンはローンに向きます。
「いいか。連絡は絶やすな。」
「了解。」
ローンは自分のチームを連れて行きます。
ジョンたちのチームは別の方向へと施設を捜し始めます。
しばらくして、シェパードのチームは突き当たりの壁にドアを見つけます。
彼らはドアに向かって歩き、ジョンがドアを開け中に入ります。
ちょうどその時、誰かが彼らの後ろの角から現れて、レイスのスタナーを発射します。
ビームはジョンとロドニーの頭の間の壁に当たります。
二人は屈み込み、ロノンは廊下の反対側に飛び込みながら撃たれた方向に向かってブラスターを撃ちます。
撃ってきた者は角に隠れます。
その時ジョンとロノンは上体を乗り出して攻撃します。
撃ってきた相手はレイスではなく人間でした。
シェパード達が交戦をしていると、ローン達のチームもその音を聞きつけ音のする方へと顔を向けます。
男が再び攻撃しようと陰から出ると、
ロノンはブラスターを反対向きに持ち替えて、手だけを陰から突き出し、相手を見ずに発砲します。
ビームは男の腕に当たります。
大声で叫んで倒れ掛かる男に、ジョンはマシンガンモードで撃ちまくります。
男は床に倒れます。
ローン達は別の人間の警備員からの攻撃を受け動く事ができません。
ローンはチームを行かせようと、手信号を仲間に送ります。
そして陰から出ると援護射撃を行い、その間にチームは廊下を駆け抜けます。
ローンが一旦陰に引っ込むと、相手の男が一発打ち返して再び陰に隠れます。
遠方の銃撃音を聞いて、シェパード達は用心深く進んでいます。
ロノンとジョンが撃った男は床を這って逃げようとしていました。
ジョンは男を見下ろした後、ローン達の方から聞こえる銃声に顔を向けます。

惑星の上の宇宙空間ではハイパースペースウィンドウが開いて、レイスの船が現れ、
ダイダロスに向かって飛んできます。
兵器担当が報告します。
「別の船がやってきました。レイスのクルーザーです。」
「シールドを上げろ。」
クルーザーはすれ違いながら砲撃を行いますが、ダイダロスはシールドに守られています。
「反撃をするんだ!」
兵器担当が応じると、コールドウェルは通信を起動します。
「シェパード、こちらダイダロス。レイスのクルーザーと交戦中。」
ジョンは無線で応えます。
「状況は?」
「私たちは大丈夫だが、君らは急いでくれ。」
ジョンは負傷している男に近づきます。
「ボスは誰だ?」
男は返答しません。
ジョンは男を足で仰向けにすると、しゃがんで胸にピストルを突きつけます。
痛みでしかめつらをした男はジョンを見上げます。
「早過ぎたな。」
「それはどういう意味だ?」
「彼が戻ってくる。
 重要な捕虜と共に戻ってくる途中だ。」
男が誰の事を離しているのか分かり、ジョンは目を見開きます。
ジョンは立ち上がってヘッドホンを起動します。
「こちらシェパード。応答を。
 ダイダロス、聞こえてるか?」
「シェパード、こちらダイダロス。」
「敵艦を攻撃しないでください。繰り返す。
 敵艦を攻撃するな。
 テイラが中にいるかもしれない。」
コールドウェルと兵器担当は驚き顔を見合わせます。
「聞こえましたか?
 テイラが中にいるかもしれない。」
クルーザーからの攻撃があり、ダイダロスは衝撃を受けます。
「聞こえた。」
コールドウェルは再び兵器担当に向きます。
「攻撃中止だ。」
「了解。敵は既にダメージを負っています。」
彼女のコンソールがビープ音をだします。
「敵が退却しようとしています。」
「エンジンを狙え。」
ダイダロスはクルーザーに向かって発砲しますが、既に向きを変え交わします。
ダイダロスが再び発火すると、クルーザーの前にハイパースペースウィンドウが開き飛び込んでしまいます。
「すみません。」
「悪いニュースだ、シェパード。
 クルーザーがハイパースペースに入った。
 逃げてしまった。」

この間、ローンは銃撃戦を続けていますが、警備員を撃退する事はできません。
すると警備員の脇の廊下からビームが放たれ、警備員は撃ち倒されます。
男が倒れるのを見ていたローンは、シェパード達が視界に入るのを見ます。
ローンはチームに合図を送りジョンたちに合流します。
「彼女の方は?」
「ここにはいない。」
「本当ですか?
 この警備員は何かを守っているようでしたが。」
彼とジョンは先の方にあるドアに目を向けます。
ジョン、ロドニー、ロノンがドアに近づくと、他の者達は援護の準備をします。
ロドニーはドアを見ます。ドアはボルトで締められてロックされています。
ジョンはロドニーに頭で合図します。
ジョンが錠に銃を向けると、ロドニーは背中を向けて耳を覆います。
ジョンは錠を撃ち壊します。
ロドニーは即座にボルトを引き抜き脇に寄ると、ジョンがドアを蹴り開けます。
ジョン、ロドニー、ロノンはドアの内側に踏み込みます。
銃を構えますが、立ち止まり信じられないといった顔つきになります。
灰色の囚人服を着た男が部屋のベッドの上に座っています。
男は死んだはずのカーソン・ベケットです。
彼は安堵した表情でため息をつきます。
「やっとか。ひどいじゃないか。」
彼は立ち上がります。
「何でこんなに長く掛かったんだい?」
 

E19に続く