第1話:伝説の序章

東南アジア某国
03:14 p.m

未確認生命体第0号、ン・ダグバ・ゼバとの雪山での死闘から2年が過ぎた。
「ん〜、これからどこに行こうかな。」
五代雄介は愛車、ビートチェイサー2000に寄り掛かり地図を広げていた。
雄介は東南アジア、360度に広がる広野の真ん中を突っ切る真っ直ぐな道路にいた。
雪山での死闘の後、雄介は再び旅に出ていた。
「・・・よし、とりあえず、ずっと南に行ってみよう。」
雄介は地図をとじ、バイクにまたがるとエンジンをかけた。
エンジンを吹かしながら雄介は下腹部をさすった。
そこは霊石アマダム、つまりクウガに変身するベルト、アークルが埋め込まれている場所だった。
「・・・しばらく戦いのことはわすれよう。」
元々雄介がクウガになって戦ったのは「みんなの笑顔を守るため」で、戦いを好むタイプではない。
すでにン・ダグバ・ゼバとの戦いで傷ついたアマダムは元に戻ったが、雄介は自らの力でアマダムを封印した。この旅
を機に戦いから離れることにしたのだった。
「よし、行こう。」
雄介はスロットルを握り、バイクを走らせた。
徐々にスピードが上がっていき、雄介は地平線の彼方に消えていった。

「伝説の序章」

東南アジア某国 第3避難民キャンプ
02:43 p.m

「ほら、この手を見てて〜、・・・ほらっ。」
 雄介は何もないはずの手からバラの花を出した。
それを見た子ども達の顔はパァと輝き歓声が上がった。
雄介は2000の技の一つ、手品を使って子ども達を喜ばせていた。
ここは避難民のキャンプ。
今、雄介がいる国は正規軍とゲリラとの内戦が起こっていて、絶えず銃声や爆音が響きわたる所だった。
戦う力のない人々は家を捨てて逃げ惑い、ここに流れ着くのだ。
その中には子どもの数も少なくない。いや、むしろ多い方だ。特に家族を失った子どもが多い。
その子達は、家族を殺しすべてを奪っていった大人達を恨み心を閉ざしてしまった。
そんな場所に雄介は数日前にたどり着いた。
雄介は自分を恨めしそうな目で見ては目が合ったとたん逃げ出す子ども達を不審に思った。
そして子ども達が大人達を恨んでいると知った雄介はここに残り、子ども達の笑顔を取り戻そうと決意した。
最初は自分の2000の技を見せても、全く反応を見せずとまどったが、
それでも諦めず根気よく接していくと、徐々に子ども達は心を開いていった。
そして今では名前で呼び合うまでの仲へとなった。
「ねえユウスケ。それどうやるの? 教えて教えて。」
「私も。」
「僕も。」
「あたしも。」
「俺も。」
 雄介の周りに子ども達が集まってきた。ほんの数日前まで笑顔を失っていた子ども達がである。
「ははっ、そっか、じゃあ特別に教えてあげるね。」
 雄介は先ほどの手品を子ども達に教えることにした。子ども達の目は輝いている。
「いいかい、これを・・・。」
「五代君。急患だからちょっと来てー!」
 これから手品を教えようとしたところで、雄介は白衣を着た日本人女性に呼ばれた。
「ああ・・・、ごめん。終わったら教えるから。」
「え〜・・・。」
子ども達のブーイングの中、雄介は女性の元に行った。
彼女は斉藤千里。日本からここに派遣された医師団の1人である。
元々は大学病院の優秀な医師だったのだが、この国の状況を知り、
周りの反対を押し切って医師団参加に希望したのだ。
次々にやってくる患者を千里は順々に処置していく。雄介はその傍らで千里の手伝いをしていた。
そして最後の患者の治療が終わると、2人は仮設の病院の外に出た。
外では子ども達が楽しく遊んでいた。
「五代君、あなたのおかげで治療がはかどったわ。」
「いやぁ、それほどでも。」
「本当よ。あなたが来てくれて本当に助かったわ。ありがとう。」
「えっ、どうしたんですか? 急に改まって。」
「あなたが来てくれたおかげで、心を閉ざしていたあの子達に笑顔が戻ったわ。
 今まで誰にでも恨めしそうなまなざしを向けていたあの子達が、
 今ではすっかり子どもらしさを取り戻してるわ。これもあなたのおかげよ。ありがとう。」
「いやぁ、だって人間って笑ってなきゃダメでしょ? 特に子どもなんて。」
雄介は照れて頭をかきながら笑った。
「・・・でも、いつまで続くのかしら。この争い・・・。」
「・・・・・・。」
「みんな誰もかれも、この国のため、この国のためって言って戦ってる。
 そんなことのために何の罪もない人達が死んでいく・・・。あの子達のお父さん、お母さんも・・・。」
「・・・・・・。」
「あの子達はそんなことは望んでないわ!
  ただ、今まで通り家族と一緒に平和に暮らしていきたいって、それだけなのに・・・。
 この争いの本当の被害者は、あの子達よ!」
「・・・・・・。」
「こんな争い、早く終わればいいのに!!」
「だいじょうぶ、もうすぐ終わりますよ。」
「え?」
千里は驚いて雄介を見た。
「みんな気付きますよ。自分たちがいかに愚かなことをしていたかって。だからだいじょうぶですよ。」
そう言うと雄介は笑顔になって親指をピッと立てた。雄介の癖、サムズアップだ。
そんな雄介を見て千里はおかしくなった。
「ふふっ、あなたは不思議な人ね。」
「え? そうですか?」
「ええ。なんだかあなたが言うと、本当に終わりそうな気がするわ。」
「そうですか? まあとにかく、俺達だけでもがんばりましょう!」
雄介はそう言うとまたサムズアップをした。すると、千里も笑顔でサムズアップをして返した。
そして雄介は子ども達の所に駆け寄っていった。約束どおりに手品を教えるために。
そんな雄介の姿を千里は笑顔で見送った。
だが、状況は雄介の思惑通りにはいかなかった。
内戦はさらに悪化し、雄介や千里がいるキャンプにも続々と避難民がやってきた。
その中にはもちろん両親を失った子ども達の姿もあった。
心に深い傷を負い、心を閉ざしてしまった子ども達を見て雄介は、
自分の無力さとそれでも戦いを続けるモノ達に怒りを覚えていた。


東南アジア某国 第8避難民キャンプ
06:01 p.m

「・・・ひどい、ひどすぎる・・・。」
雄介は立ち尽くしていた。そこは目を覆いたくなるほどの情景が広がっていた。
所々火がくすぶり、建物の瓦礫や残骸が散乱し、そして無残に殺されたたくさんの人の屍が転がっていた。
「ひどすぎる・・・。これが『第三の勢力』の仕業なのか・・・?」
雄介そう呟くとまるで夢遊病者の様に歩き出した。
話はそれから2日前にさかのぼる。


東南アジア某国 第3避難民キャンプ
08:19 a.m

「子どもが消えてる?」
「ええ。」
その日の朝、雄介はある噂を千里から知らされた。
それはゲリラ派とも正規軍でもない別の勢力、
通称、『第三の勢力』が避難民のキャンプを次々に襲っているという噂だった。
それによると男女、外国人医師に関係なく皆殺しにしているというのだ。
だが、一つだけ気になるのはたくさんの屍の中に、子どものものが一つもないというのだ。
「これは一体、どういうことなんですかね。」
雄介は前にしたイスの背もたれに寄り掛かりながら噂のことを千里に聞いた。
「さあ・・・。あくまで噂だから・・・。」
「でも、その噂のせいでみんな怖がってますよ。」
「そうね、なんとかしないと・・・。」
確かにそうだった。この噂が子ども達の耳に入ると、皆一斉に恐がり始めた。
中には泣き出して止まらない子どもも少なくはなかった。
この噂が子ども達の心の傷を確実にえぐっていた。
「いくら医師でも、心の傷までは完全に治せない・・・。なさけないわね・・・。」
「・・・・・・。」
千里は唇を噛んで悔しがった。それは雄介も同じだった。
いくら2000の技を使って子ども達の笑顔を取り戻しても、心に残った傷までは完璧に治すことはできない。それが歯
がゆかった。
「でも、噂が本当だったら・・・。」
「近いうちにここに来るかもしれないわね。」
「そのときは・・・。」
「私が守るわ! この命に代えても!」
「・・・そうですね。」
 雄介は力強く答える千里を見て、思わず笑った。
「でも、この噂の出所ってどこかしら・・・。」
「そこら辺は俺が調べますよ。」
「え?」
 雄介はそう言うとヘルメットを持って立ち上がった。
「ちょっと五代君、どこに行くの!?」
「いや、とりあえずいろいろまわって、調べようかと・・・。」
「だめよ! 危険すぎるわ。」
「だいじょうぶですよ。」
「あなたはいつ銃で撃たれてもおかしくないようなところに行こうとしてるのよ!」
「いや、ホント、だいじょうぶですって。」
「だいじょうぶなわけないでしょ!!」
「ホントにだいじょうぶですから、心配しないでください。」
「あなた、何の根拠があってそんなことが言えるの?」
「え? 俺、絶対死にませんから。」
「は?」
雄介のあまりにも素っ頓狂な答えに千里は目を丸くした。
雄介は過去に一度、未確認生命体から受けた毒で死んでしまったが、
数時間後蘇り、しかも新たなる力をも手に入れた。
それはアマダムの力のせいなのだが、雄介は自分の不死身さに自信を持っていた。
「絶対死なない・・・、ってちょっと、五代君!!」
雄介は千里の制止を振り切ってビートチェイサーにまたがった。
「ああ、もしゲリラ軍や正規軍に会ったら、もう戦いをやめるように言ってきますから。」
「そうじゃなくて、ちょっと、五代君!!」
千里の引き留める声もむなしく、雄介は左手をヒラヒラと振りながら出かけていった。
「もう・・・、仕方ないわね・・・。死んだって知らないわよ。」
千里は呆れながらこう呟いた。
だが千里には雄介が必ず無事に帰ってくるという確信があった。
雄介が言った、絶対に死なないという言葉が不思議と本当のように聞こえたからだ。
雄介の口調に嘘がないような、そんな気が・・・。
やみくもに捜してもどうにもならないと考えた雄介は、
とりあえず各地の避難民キャンプをまわってみることにした。
しかし、どこも噂ばかりで、確信にいたることはなかった。
北のキャンプがダメなら西、西がダメなら東と調べまわり、気が付くと2日が経過していた。
そんな中あるキャンプを訪れたとき、
ここから50キロほど離れた第8避難民キャンプで「第三の勢力」に襲われ、
命からがら助かったという正規軍の兵士が運び込まれたらしい、という情報を耳にした。
確信とは言い難いが、雄介はとりあえずそこに行ってみることにした。


東南アジア某国 第2避難民キャンプ
03:43 p.m

約1時間後、その兵士が運び込まれたという第2避難民キャンプにたどり着いた。
そこは、雄介がいたキャンプとほぼ同じ規模だった。
ただ、雄介のキャンプと違うところは、子ども達心を閉ざしたままだということだった。
雄介が子ども達を相手にしているとき、仮設の病院から医師が出てきた。
それは雄介にとって懐かしい男だった。
「五代、五代じゃないか!」
「椿さん。ひさしぶりですね、どうしてここに?」
彼は椿秀一。
雄介が日本で未確認生命体と戦っていたとき、お世話になった関東医大の医師である。
思いがけない再会に雄介は喜んだ。
「しかし、五代。お前は元気そうだな。」
「ええ、俺は相変わらずですよ。それより椿さん。どうしてここに? 関東医大はどうしたんですか?」
「ああ、そのことか。まあ、ついてこいよ。歩きながら話す。」
秀一は雄介を手招きすると、病院の中に入っていった。雄介はその後を追った。
「ちょうど今から2ヶ月前にここに派遣されてた俺の恩師が急病で倒れてな、
 俺が入れ替わりでここに派遣されたって訳だ。」
「そんなことがあったんですか。」
「ああ、あと2週間で先生がここに戻ってくるらしい。だから俺はそれまでらしいがな。」
「あ、そうなんですか。」
「正直言うと、もう少しここに居たいんだがな。」
「え?」
「お前みたいに、彼等のために俺なりに戦いたいと思ってな。」
「・・・・・・。」
「まあそれより、どうしたんだ? いきなりここに来て。」
秀一と雄介は診察室に入っていき、二人はイスに座った。
それから雄介は自分が聞いた噂と『第三の勢力』に襲われた兵士の事をすべて話した。
そしてその兵士に会わせてくれないかと秀一にたのんでみた。
秀一は、怪我が重いのであまり薦められないが10分程度ならとOKを出した。
こうして雄介は『第三の勢力』のことを知っていると思われる兵士にようやく対面できることになった。
雄介は兵士の病室に案内されたが、そこは病室というより監獄に近いものだった。
薄暗く一筋の光が窓から射し込む病室の真ん中にポツンと体中に包帯を巻かれた兵士が横たわっていた。
「五代、10分だけだぞ。」
「はい。わかってます。」
雄介は頷くとベットの横のイスに座った。
秀一は入り口の横にもたれ、二人の様子を黙って見ていることにした。
「・・・誰だ? お前は。」
「あ、俺はこういう者です。」
雄介は自分のイラストが入った名刺を兵士に渡した。
兵士は包帯でぐるぐる巻きにされた手で名刺を取った。
だが、その名刺を見て彼は顔をしかめた。
「あ、すみません。日本語わからないんですよね。俺、五代雄介っていいます。」
「・・・何のようだ?」
「ええ、ちょっと『第三の勢力』について聞きたいんですけど・・・。」
「・・・・・・。」
「噂で聞いたんですけど、なんか『第三の勢力』に襲われてなんとか助かったって聞いて・・・。」
「・・・・・・。」
兵士は天井を見つめたまま何も喋らなかった。雄介が何を聞いても何も答えなかった。
兵士が口を閉ざしたまま時間は刻々と過ぎていった。
雄介が諦めかけたその時だった。
「・・・俺たち正規軍は、ゲリラ軍と戦うため兵を進めていた。」
「!」
兵士はようやく口を開いた。
「隊の規模は小さいが、装甲車を2台、
 トラックを5台引き連れてゲリラ軍が潜んでいるジャングルに向かっていた。」
「・・・・・・。」
「その時、奴らが来たんだ。奴らが・・・。」
兵士は震えた声で言った。
「全身黒づくめで、ドクロのような模様の入った黒いマスクをした兵隊が50人くらい・・・。
 そいつらの中心には迷彩服を着た男がいた。」
「・・・・・・。」
「俺たちはゲリラかと思った。奴らの姿を見るなり、すぐさま攻撃を開始した。
 でも、奴らは・・・、奴らはおかしいんだ。」
「おかしい?」
「どんなに銃で撃っても、装甲車の大砲を撃っても、
 奴らは死の恐怖を感じてないのか物ともせずに向かって来るんだ。まるでサイボーグみたいに・・・。」
「・・・・・・。」
「50人、たった50人だぞ! 
 その50人のサイボーグに俺たち200人の正規軍は次々にやられていったんだ・・・。
 俺も戦ったさ。でもなすすべがなかった・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・気がついたらこの様さ。聞いた話だと、俺たちの隊は全滅したんだとよ。たった50人によ。
 結局、俺だけ生き残っちまった・・・。クックック・・・。」
兵士は手で顔を覆い苦笑した。その笑い声は震えていた。
「『第三の勢力』はそのそいつらなんですか?」
「まちがいないだろうな。」
「そうですか・・・。」
「五代、そろそろ時間だ。」
腕時計を見た秀一が雄介に言った。雄介はその兵士に軽く礼を言い病室から出ようとした。
その時、兵士が立ち去ろうとする雄介を呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「お前はそんなことを知ってどうするつもりだ?」
「俺は・・・、もし奴らが来たら戦うつもりです。」
「俺たちでさえも敵わなかったんだぞ。」
「それでも戦います。子ども達の笑顔を守るために。」
「・・・我々も同じだった。」
「・・・・・・。」
「この国の秩序を乱すゲリラ軍から人々を守るために戦っていたつもりだった。
 でも、実際には違っていた・・・。」
「・・・・・・。」
「この戦いで俺たちは人々の心にも体にも傷をつけてしまった・・・。
 なあ、俺たちはどこで間違ってしまったのかな・・・。」
「・・・・・・。」
雄介は答えなかった。


東南アジア某国 第2避難民キャンプ
05:19 p.m

時間は5時を回り、日は沈みかけ、空の色が徐々に藍色に変わっていった。
「椿さん。俺、そろそろ帰ります。」
「ああ。」
バイクにまたがってヘルメットをかぶる雄介。秀一は雄介を見送りに来ていた。
「じゃあ、何かあったら俺に連絡して下さい。」
「連絡して下さいって言っても、手段が無いぞ。」
「あ、そういえばそうでした。」
雄介は頭をかいて笑った。
「まあ、いざとなったら俺も戦うさ。お前みたいにな。」
「はい。」
雄介はバイクにエンジンをいれ、二、三度空ぶかしした。
「じゃ、俺、行きます。」
「ああ、そっちの女医さんにもよろしくな。」
「はい。」
雄介はバイクを発進させ、振り返って左手を大きく振った。秀一もそれに返すように手を振った。
バイクはスピードを上げ、次第に見えなくなっていった。
自分のキャンプへの帰路を急ぐ雄介。
街灯などない暗い道を星の光とバイクのヘッドライトをたよりにただひたすら真っ直ぐに進んでいた。
雄介は秀一のキャンプを出たときから、いやな予感を感じていた。早く戻らなければならない。そんな感じが。
(なんだろう・・・。この不快な感じは・・・。早く帰らなきゃ、早く。)
直感的にそう感じた。雄介はバイクのスロットルをフルにした。バイクは一気にスピードを上げた。
しばらく走ると遙か前方の方角にいくつもの明るい光が見えてきた。
それは秀一のキャンプに行く前に寄った第8避難民キャンプだった。
「そっか、もうそんな時間か・・・。」
すでに夕食時、おそらく用意をしているのだろう。
だが、どこか様子がおかしい。火が明るすぎる。
「・・・まさか!」
またイヤな予感がした。雄介はすぐさまキャンプへ向かった。
そこには・・・、目を覆いたくなるほどの情景が広がっていた。
所々火がくすぶり、建物の瓦礫や残骸が散乱し、そして無残に殺されたたくさんの人の屍が転がっていた。
その惨状にさすがの雄介も吐き気を催すほどだった。
「ひどい・・・、ひどすぎる・・・。これが『第三の勢力』の仕業なのか・・・?」
雄介はまるで夢遊病者のように歩き出した。
「おーい、誰かいないのかー!」
そして生存者を捜し始めた。声を大にして呼びかけるが、その声はむなしく響くだけだった。
しばらく捜し回った雄介はあることに気付いた。それは、子どもの死体がひとつも無いことだった。
「みんなさらわれちゃったのか? でもどうして・・・。」
「うう・・・。」
「!!」
その時、誰かのうめく声が聞こえた。雄介が振り返るとそこには、若い男がうごめいていた。
「! だ、だいじょうぶですか?」
雄介は急いで駆け寄り、彼を抱き起こした。
手にぬるっとした感触を覚えた雄介は手を見てみた。手は真っ赤に染まっていた。
「しっかりしてください! なにがあったんですか?」
「・・・悪魔だ。」
「!?」
「黒い悪魔だ・・・。」
雄介の呼びかけに、男は途切れそうな声で答えた。
(黒い悪魔・・・? もしかしてあの人が言ってたドクロのマスクをした奴か?)
「あいつらは・・・、俺たち仲間を全員殺しやがった・・・。」
「子どもは、子ども達はどうしたんですか?」
「嫌がる子ども達を・・・、無理矢理トラックに押し込んだ・・・。」
「どこに、連れて行かれたんですか? そいつらは一体、何者なんですか?」
「『ショッカー』・・・。」
「!! ショッカー・・・? そいつらが『第三の勢力』なんですか!?」
「・・・・・・。」
「! しっかりしてください!!」
しかし、男はすでに事切れていた。
雄介はゆっくりと男を寝かせ、手を胸の辺りで組ませると、ゆっくりと手を合わせた。
(・・・ショッカー。!! ウッ!!)
その時、雄介の下腹部、そう、アマダムが埋め込まれている場所が急激に疼いた。
(まただ、この不快感・・・。)
先ほどよりもひどい不快感。そしてまるでアマダムが脈打つかのように疼く下腹部。
ふと、雄介の頭にあることがよぎった。
(みんなが危ない!!)
雄介はすぐさまビートチェイサーにまたがり発進させると、自分のキャンプへ急いだ。


東南アジア某国 第3避難民キャンプ
07:06 p.m

雄介の予感はあたっていた。
雄介のキャンプはドクロのマスクをした黒づくめの兵士達が人々を襲っていた。
逃げ惑う人々を次々と襲い、嫌がる子ども達をほろのついたトラックに次々と乗せていった。
そしてその魔の手は千里にも伸びていた。2人の兵士が千里を捕まえ、ジープの所に連れていった。
ジープからはこの兵士達のリーダーと思われる迷彩服を着た軍曹が下りてきて千里の前に歩み寄った。
「いやぁ、離してぇ!!」
「ふふふ、お前は日本人か?」
「あなた達は一体何者なの!?」
「俺の名はジュゲム。この国を司る『ショッカー』の幹部だ。」
「『ショッカー』? それより、子ども達をどうする気!?」
千里の視界には泣き叫びながら足をバタつかせる子ども達を
兵士達が小脇に抱えて次々とホロが覆ってあるトラックに運ばれる情景が映っていた。
「ふん、あのガキどもは我々の重要な戦力になるのだ。」
「あなた達は何とも思わないの? あの子達は私達大人の被害者なのよ!」
「それがどうした。」
「!! ・・・あなた達は最低ね。」
千里はジュゲムを睨み付けた。そんな千里をジュゲムは鼻で笑った。
「ふん、何とでも言うがいい。そんなにガキどもが心配なら、我々の傘下に下るか?」
「だ、だれがあなた達なんかに!!」
「悪い話では無いと思うがなぁ。」
「あなた達の仲間に入るぐらいなら、死んだほうがましよ!!」
千里は目に涙をためながら、心の底から叫んだ。
それを聞いたとたんジュゲムは眉を寄せ、千里を睨み付けた。
「ここに来る前に襲ったところでも同じ事を言う奴がいた。」
「・・・・・・。」
「そいつは結局この手でただの肉片と化したがな。」
「・・・!!」
 ジュゲムが右手を高く振り上げた。すると腕が弾け飛び、中からカマキリの鎌の様な腕が現れた。
「貴様もそうなる。」
そしてその右手を思いっきり振り下ろした。
「い、いやぁーーーーー!!!」
千里は襲いかかる死に恐怖し絶叫した。と、その時だった。
けたたましい音と光と共にウィリーをしたビートチェイサーが突っ込んできて、
ジュゲムの右手を吹っ飛ばした。
そしてバイクを横にして止めると、そのまま千里を捕まえていた兵士1人を前輪を持ち上げて殴り飛ばした。
「千里さん!」
「五代君!」
雄介はバイクから降りるともう1人、千里を捕まえている兵士を引き離した。
「だいじょうぶですか? 千里さん。」
「ええ。それより、早く子ども達を。」
「はい。」
雄介は子ども達を助けに行こうとしたが、その前に黒ずくめの兵士とジュゲムが立ちふさがった。
「くっ。」
「・・・この俺を吹っ飛ばすとは、貴様一体何者だ?」
「五代雄介!」
「五代、雄介か・・・。覚えておこう。」
「お前達が『ショッカー』だな。子ども達をどうするつもりだ?」
「ほう、貴様が『ショッカー』を知っているとはな。
 いいだろう。冥土の土産に教えてやろう。
 あのガキどもは我ら『ショッカー』の忠実な僕(しもべ)となるのだ。」
「どういうことなんだ?」
「ふん。子どもは純粋だから洗脳しやすい。
 洗脳した後、成長抑制剤を飲ませて、大人と変わらない体格にすれば、我々の忠実な僕だ。」
「な、なんてひどい・・・。あなた達は悪魔よ!!」
「なんとでもほざけ。さあ話は終わった。今度は貴様らが死ぬ番だ。」
ジュゲムが手を挙げると、兵士達は2人を取り囲んだ。
(くっ、このままじゃ。)
「五代雄介、と言ったな。」
「・・・・・・。」
「どうだ? この俺を吹っ飛ばした勇気が気に入った。我々の仲間にならないか?」
「・・・断る。」
「そうか。それは残念だ。ならば死ぬしかないな。」
「俺は・・・、死なない!」
「・・・なにぃ!?」
「俺は、俺は絶対に、子ども達の笑顔を守る!!」
「ふっ、ふはははははは、何を抜かすかと思えば。」
ジュゲムは腹を抱えて笑った。そして右手の鎌を雄介に突き付けた。
「貴様は普通の人間なんだぞ! 何の能力もない、弱い人間なのだぞ!!」
「・・・・・・。」
「貴様はかつて我々の仲間を滅ぼした憎き『仮面ライダー』では無いのだぞ!!」
「・・・・・・。」
「五代君・・・。」
「・・・確かに、俺は『仮面ライダー』なんかじゃない。でも、俺にはみんなを守るだけの力はある!!」
「・・・なにぃ!?」
「もう、二度とこの力を使いたくはなかった・・・。
 でも、俺はみんなを、みんなの笑顔を守るために、もう一度この力を使う!!!」
雄介はそう叫ぶと、両手を下腹部にかざした。
すると、下腹部に力を解放するモノ、変身ベルト・アークルが現れた。
「ナ、ナニィ!? そ、それは!!」
ジュゲムは驚愕した。ジュゲムはそれに似たモノを見たことがある。
そう、かつて仲間達を滅ぼした戦士、『仮面ライダー』のモノに・・・。
「変身!!」
雄介は数カ月ぶりの変身のポーズをとり、両手を横に広げた。
アークルの中心が赤く光り、雄介は足下から見る見る姿を変えていった。
「そ、そんなバカな! まさか、まさかこいつも!?」
驚愕し震えるジュゲム。見る見る変わっていく姿はまさに・・・。
「こいつもあの、『仮面ライダー』だというのか!!」
そして雄介は、体、手、腕、そして頭が変化し、
雄介は完全にみんなの笑顔を守るための戦士、クウガへと変身を遂げた。
実に数カ月ぶりの変身だった。だが、クウガは自分の体の異変に気付いた。
「・・・戻ってる。元の姿に戻ってる。」
そう、クウガの姿は黒い体でも金のラインも入っていない、ただの赤い体、マイティフォームに戻っていた。
おそらく、黒と金の力はまだ封印が解けていないのだろう。
(・・・でも、戦える!)
クウガは両手の拳を握り締めた。
だが、驚いているのはなにもジュゲムやクウガだけではなく、真後ろにいる千里も例外ではなかった。
(ウ、ウソ・・・。五代君が・・・、未確認生命体第4号・・・?)
千里がここに来る前、日本ではちょうど未確認生命体による殺人事件が多発していた頃で、
千里は新聞で未確認生命体第4号、つまりクウガの姿を見たことがある。
そして千里本人も神出鬼没で、訳もなく殺人を繰り返すクウガも含めての未確認生命体におびえていた。
だが今、その未確認生命体第4号が目の前にいる。しかも正体は自分がよく知る五代雄介その人だった。
驚くのも無理はない。
「千里さん。俺から離れないで下さい。」
「・・・・・・。」
「千里さん!」
「!」
千里は正気に戻った。いくら未確認生命体といっても正体は五代雄介。
しかも気のせいかクウガの姿と元の雄介の姿がダブって見えた。
(第4号は五代君・・・。だから、だいじょうぶだよね。)
「わかったわ。」
千里はゆっくりと頷いた。
「くっ、殺せ! その女も仮面ライダーも、2人とも殺してしまえ!!」
ジュゲムが右手の鎌を振り下ろすと、兵士達は腰に装備していたサバイバルナイフを手に取り、
一斉にクウガに襲いかかった。クウガは斬りかかる兵士の腕を払い殴り飛ばした。
つづけざまに、千里に襲いかかった兵士を1人は蹴飛ばし、もう1人は肘鉄で倒した。
兵士達はクウガの圧倒的な力に次々と倒されていった。
(くっ、さすがに仮面ライダー相手だと、戦闘員では無理か・・・。)
「おい、そこのお前。ちょっと来い。」
ジュゲムは戦闘員1人を呼ぶと耳打ちをした。戦闘員は頷くと走り去っていった。
「うおお!!」
クウガは最後の戦闘員をワン・ツーで倒すと、ジュゲムへと歩み寄った。
「さあ、子ども達を解放するんだ!」
「! 五代君、あれ!」
「アアッ!」
千里の声に気付いたクウガが遙か前方を見てみると、子ども達を乗せたトラックが出発しようとしていた。
後を追おうとするクウガ。だが、それを阻むかのようにジュゲムが立ちはだかった。
「ふふふ、そんなにあのガキどもの側に行きたいか。それなら・・・。」
「!!」
「この俺を倒してから行くんだな!!」
「い、いやぁ!!!」
ジュゲムがそう叫んだ瞬間、ジュゲムの体が弾け飛び、中からカマキリの様な姿を現した。
(この姿、未確認生命体に似ている・・・。『ショッカー』って一体・・・。)
「ふふふ、ついに滅ぼされた仲間の無念を晴らすときが来た・・・。死ねぇ! 仮面ライダー!!」
ジュゲムは両手の鎌でクウガに襲いかかった。クウガは振り下ろされる鎌をかわすと、両手で鎌を掴んだ。
「うおお!」
「ぐうう!」
クウガが押してるかと思えばジュゲムが押し返す、逆にジュゲムが押していればクウガも負けじと押し返す。
そんな押し問答のような力比べが続く。だがしばらくしてジュゲムのほうが徐々に押してきた。
「くっ、くうう!」
「どうした、そんな、ものか。」
「ううう・・・、おりゃあ!!」
その時、クウガが押し返しボディに蹴りを入れジュゲムをぶっ飛ばした。
そしてクウガは落ちていた戦闘員のナイフを拾い上げた。
「超変身!!」
クウガがナイフを振るった瞬間、アークルの赤い光は紫色に変わり、
マイティフォームはタイタンフォームに変化した。
そして手に持っていたナイフは紫色の巨大な剣、タイタンソードに変化していた。
タイタンフォームは、通常のクウガよりもパワーと防御力が増しているが、
素早さがいちじるしく落ちてしまうのが弱点である。
ゆっくりとジュゲムに歩み寄るクウガ。
ジュゲムは両手の鎌で再びクウガに斬りかかるが、クウガの鎧のようなボディはビクともしない。
そしてクウガはタイタンソードで左、右の順に鎌を斬り落とした。
「ぐ、ぐあああああ・・・。」
激痛にのたうち回るジュゲム。
クウガは少し距離をおくと、タイタンソードを地面に突き刺し、マイティフォームに戻った。
そしてゆっくりと構えると右足の裏に封印エネルギーを蓄積させ、
ふらつきながら立ち上がったジュゲムに向かって突進していった。
右足が地面につくたびに、炎のようなエネルギーが地面を焦がした。
そして跳び上がり空中で一回転すると、
「おりゃあ!!!」
の、かけ声と共に炎のように燃え上がった右足を尽き出し、ジュゲムの胸にマイティキックを放った。
「ぐああ!!!」
ジュゲムは吹っ飛ばされ、二転、三転し倒れた。
ゆっくりと起きあがるジュゲムの胸には封印エネルギーで赤く燃え上がったリント文字が浮かび上がった。
「ぐああ・・・、おのれ・・・、おのれぇ・・・!」
「・・・・・・。」
「貴様、貴様一体・・・、何者だ!」
「俺は・・・、俺はクウガ。」
「!! ク、クウガだと!?」
「!! クウガを知っているのか!?」
「まさか・・・、まさかあの・・・、伝説の戦士が・・・、蘇るとは・・・。う、うおおおお!!!」
ジュゲムはそれだけを言い残し、大爆発し粉々に吹っ飛んだ。
(どうして・・・、どうして俺の事を知っているんだ・・・?)
呆然と立ちつくすクウガ。そこに千里が走ってきた。
「五代君!」
「千里さん、大丈夫ですか?」
「五代君、お願い! 子ども達を助けて!」
「・・・はい!」
クウガは深く頷くと、ビートチェイサーに乗り子ども達を乗せたトラックの後を追った。
だが、トラックが出発してからかなり時間がたっている。
しかも何の目印も無い広野で探し当てるのは至難の業だった。しかしクウガは、
「超変身!!」
マイティフォームから緑色の戦士、ペガサスフォームへと姿を変えた。
ペガサスフォームは通常よりも五感が発達し、
聞き取りにくい音や見えない敵などを探知することができるのだが、
神経をよけいに使うため50秒しか持たないのが弱点である。
クウガは走りながら子ども達をさらったトラックを探すため耳を澄ませた。
いろいろな雑音が入ってくる中、クウガはそのトラックの音だけを探した。
しかしわからない。もうすぐ50秒がたつ。クウガにあきらめの色が浮かんでいたその時だった。
「!! 聞こえた!」
わずかだが聞き取れた。トラックの音と、子ども達の泣き叫ぶ声が。
クウガは元の姿に戻ると音がした方にバイクを向かわせた。
アクセルを全開にして必死にトラックを追うクウガ。そしてついに、トラックのテールランプを捉えた。
クウガに気付いた戦闘員はトラックのスピードを上げるが、
クウガも負けじとスピードを上げトラックに隣接した。
「超変身!!」
そしてクウガは今日三度目の変身、青色の戦士、ドラゴンフォームへと姿を変えた。
ドラゴンフォームは通常のクウガよりも運動能力が上がり、素早い攻撃を得意とするが、
そのかわりパワーが落ちてしまうので、力が強い敵には苦戦をしいられる。
クウガはビートチェイサーからトラックの屋根に飛び移ると、
フロントガラスを破って中に入り戦闘員二人をトラックから叩き落した。
そしてブレーキを踏んでトラックを停止させた。
荷台の子ども達は恐怖と絶望で涙を流していた。
その時、トラックが止まりドアが閉まる音がすると、何者かが近づいてくる気配がした。
近づいてくる恐怖に慄き、子ども達は体を寄せ合った。
そしてホロが開くとそこには一人の男がいた。
それを見た瞬間、子ども達の顔がパァっと華やいだ。
「みんな、大丈夫?」
そこにいたのは、いつもと同じ笑顔で見つめる五代雄介の姿だった。


それから雄介はショッカーの基地の場所を探し当て、たった一人でのり込んでいき、
洗脳寸前だった子ども達を救出することに成功した。
爆発炎上する基地を遠くから見つめる雄介と子ども達。だが、雄介の心は晴れなかった。
(クウガのことを知り、未確認生命体のような怪人を作り出している『ショッカー』。
 そして、『仮面ライダー』って一体・・・。)
自分の知らないところで何かが起こりつつあることを実感し、得体の知れないモノを感じる雄介だった。


東南アジア某国 第3避難民キャンプ
01:25 p.m

その事件から3週間が過ぎた。
すっかり噂の方は消え失せたが、未だに正規軍とゲリラ軍の戦闘は続いていた。
そのたびにまた多くの子ども達がここに避難してきた。
深く傷つき、笑顔を忘れた子ども達が。
雄介は一人でも多く子ども達の笑顔を取り戻すべく、雄介なりの戦いを続けていた。
「ユウスケ、見て。できたよ。」
「俺も。」
「私も。」
「僕も。」
「おお、みんなすごいなぁ。よし、今日はこのカードを使った手品をおしえてあげるね。」
雄介はそう言うと、ポケットからトランプを取り出した。すると以前よりも多くの子ども達の歓声が沸いた。
そして雄介がトランプを切ろうとしたその時だった。
旅に出て以来、鳴ることのなかった雄介の携帯電話が鳴った。
「? 誰からだろう。」
雄介は携帯を耳に当てると、聞こえてきたのは懐かしい人の声だった。
「五代か?」
「! 一条さん!!」
その声はかつて未確認生命体と共に戦った戦友、長野県警の一条薫だった。
「ひさしぶりだな、五代。」
「ホントに一条さんですか? うわぁ、ホントに懐かしいですね。」
「ああ。」
「でも、どうしたんですか? 急に電話をかけてくるなんて。」
「実は急で悪いのだが、頼みたいことがあるんだ。」
「え? なんですか? 頼みたいことって。」
「日本に帰ってきてもらいたいんだ。」
「え!? どういうことですか?」
雄介は思いもしない一条の言葉に驚いた。
「・・・まさか、未確認生命体がまた出たんじゃ・・・。」
「・・・ああ。正確には『アンノウン』と呼ばれるモノだが。」
「『アンノウン』?」
「ああ。」
「・・・・・・。」
「それに、世界征服を目論む悪の秘密結社、『ショッカー』も不穏な動きを見せているらしい。」
「!! 『ショッカー』ですか!?」
雄介は再び驚いた。まさか日本にいる一条の口から『ショッカー』という言葉を聞くとは思わなかったからだ。
「? 五代、知っているのか?」
「はい。実は俺、戦ったんです。『ショッカー』と。」
「戦った!? それは本当か?」
「ええ。なんか、カマキリみたいな奴と戦ったんですけど、未確認生命体みたいで結構強かったです。
 クウガになってやっと倒せたんですけど。」
「そうか・・・。近々、警視庁に『ショッカー対策班』できて、俺もそこに加わることになるだろう。」
「・・・・・・。」
「・・・お前にこんな事を言うのは酷だと思ってる。だが、五代、もう一度力を貸してくれないか?」
「・・・・・・。」
雄介は自分の周りにいる子ども達を見た。みんな不安そうな目で雄介を見ていた。
本当は内戦が終わるまでここに残るつもりだった。子ども達を守るため、子ども達の笑顔を取り戻すために。
だが、一条から日本の現状を聞かされ、雄介は迷った。この子達のためにここに残るか。
それとも日本に行き、『ショッカー』と戦うか・・・。迷った挙げ句、雄介の出した結論は・・・。
「一条さん。俺、日本に帰ります。」
「・・・すまない。」
「いえ、いいんです、一条さん。俺が『クウガ』である限り、それが俺の『使命』だと思ってますから。」
「そうか・・・。すまないな、五代。」
「あ、でも、少し時間がかかると思います。」
「そうか。だが、なるべく早く頼むぞ。」
「はい。」
「お前に会わせたい人がいるからな。」
「え? 誰なんですか?」
「いや、日本に帰ってきたときに紹介する。」
「あ、はい。それじゃあ、また日本で。」
「ああ。」
雄介は電話を切った。その瞬間、子ども達が一斉に雄介に群がった。
「ユウスケ、ニホンに帰っちゃうの?」
「ヤダ! ずっとここにいて!」
「帰っちゃヤダ! 帰っちゃヤダよぉ・・・。」
「・・・・・・。」
泣きながら口々に叫ぶ子ども達。雄介は寂しそうな表情になり、子ども達の頭をなでまわした。
「ごめんね。俺だって、ホントはみんなを置いて帰りたくないよ。」
「じゃあ、どうして?」
「・・・日本に、悪い奴らが出たんだ。君達をさらったような奴が。」
「・・・・・・。」
「俺は日本に住む人を守るために戦わなくっちゃいけないんだ。」
「・・・・・・。」
「だから、日本に、帰らなくちゃ。」
「・・・・・・。」
子ども達の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
そんな顔を見て雄介も悲しくて、切なくて、寂しい思いがこみ上げてきた。
だが、
「だいじょうぶ。俺、絶対帰ってくるから。」
雄介はいつもの笑顔に戻るとサムズアップをした。
「悪い奴をすぐに倒して、絶対みんなの所に帰ってくるよ。」
「本当?」
「本当さ。だからみんなも笑顔を忘れないで。なっ。」
「・・・・・・。」
「ほら、笑って笑って。これで会えなくなる訳じゃないんだから。」
「・・・うん!」
子ども達は涙を拭うと、かわいい笑顔を雄介に見せた。
それを見て安心したのか、雄介も再び笑顔になってサムズアップをした。


東南アジア某国 第3避難民キャンプ
05:31 a.m

次の日の朝、雄介は誰も起こさないよう黙って避難民キャンプを出た。みんなとの別れが辛いからだろうか。
(みんな・・・、元気で。)
雄介はそう呟くと、ビートチェイサーを押して避難民キャンプを後にした。
しばらく歩くと舗装されていない道に出た。そこで初めて雄介はビートチェイサーのエンジンをかけた。
しばらくエンジンを吹かせると、雄介は避難民キャンプがある方向を振り向いた。
(だいじょうぶ。戦いはもうすぐ終わるよ。みんなわかって来始めてるから・・・。)
そう呟き、雄介はビートチェイサーを発進させた。
まだ朝日が昇っていない薄暗い中、ビートチェイサーのライトが地平線の彼方に消えていった・・・。
だが数日後、雄介の言葉が本当になる。内戦は2人の男の活躍により沈静化する。
炎のような赤い仮面の男と、異質な右手を持つ男によって・・・。


日本国 東京都千代田区警視庁
01:27 p.m

雄介との電話を済ませ、一条は携帯を切った。
しばらく呆然と携帯の画面を見つめる一条の後ろに3人の男の影があった。
「しかし驚いたな。日本の警察がまさか『仮面ライダー』を造っていたなんてな。」
「ああ。しかもモデルになった俺たちも知らないライダーがいることもな。」
「もう少したったら会えるんだろ? 楽しみだな。」
口々に話す3人。一条はニッと笑うと後ろを振り返ると、
「自分も驚いていますよ。これ以前にもクウガに似た戦士が日本のために戦っていたなんて。
 知りませんでしたよ? 和也兄さん。」
と、言った。その時、窓から日が射し、3人の影が姿を現した。
そこにはFBI捜査官、滝和也。
そして『技の1号』の異名を持つ仮面ライダー1号こと本郷猛と
『力の2号』の異名を持つ仮面ライダー2号こと一文字隼人。
そう、通称『ダブルライダー』の2人がそろっていた。

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