第2話:逆襲のショッカー

昔―――――
世界征服を目論む悪魔の秘密結社があった。
その名は、ショッカー。

彼等は自らの野望のために科学の粋を集めた怪人、改造人間を使い人々を恐怖のどん底に陥れた。
そんなとき、人々の前にショッカーと戦う正義のヒーローが現れた。
その名は、 仮面ライダー。

2人のライダーは、優秀な人材を求めていたショッカーにさらわれ、バッタ怪人に改造されてしまう。
改造されたことに怒り、憎み、苦しむ2人だが、その力を使って正義のため、平和のため、
そして人のためにショッカーと戦うことを決意する。
次々と送られてくるショッカーの怪人に苦戦しながらも、
立花藤兵衛、滝和也、そして少年ライダー隊の助けにより、次々と倒していき、
ついにショッカー、ゲルショッカーを壊滅させることに成功する。
こうして2人のライダーによって世界は救われた。
だが、それは人々から忘れ去られ、仮面ライダーもショッカーも過去のモノになりつつあった。
だが・・・。


現代―――――
ここはアメリカ、ニューヨークの国連ビルFBI分室。捜査官、滝和也はそこの会議室に呼ばれた。
「滝和也です。入ります。」
中にはいると5人の上司が滝を待ちかまえていた。
「滝和也か、待っていたよ。」
「お話というのはなんでしょうか。」
「実は君に頼みたいことがあってな。」
「頼みたいこと?」
「そうだ。君にしかできないことだ。」
「俺にしか?」
「そうだ。」
「・・・なんなんすか? それは。」
「君に『仮面(マスクド)ライダー』を探し出してほしいのだ。」
「!?」
滝は驚いた。何年ぶりに聞いただろうか、その名を。
まさかこの名を彼等から聞くとは思いもせず、滝は驚きの表情を浮かべていたが、すぐにニヤッと笑った。
「どういう風の吹き回しですか? これは。」
「・・・・・・。」
「俺が仮面ライダーに関する報告書を出したとき、
 俺の作り話だといって鼻で笑ってたのはどこのどいつでしたっけねぇ。」
「君、言葉を慎み賜え!」
滝から見て左から2番目の眼鏡をかけた男が怒鳴った。
「あんな報告書を出されて、信じろと言う方が異常だ。」
「体を改造されて、それに苦しみながらも正義のためだけに戦う? 
 スーパーマンやバットマン、スパイダーマンじゃあるまいし。」
「我々だって利益があるからこの仕事をしているのだぞ。」
「そんな自分には何の得にもならないことをしてどうするというのかね?」
(ちっ、このクソダヌキどもが・・・。)
真ん中以外の上司が口々に答える中、滝は歯を噛みしめそう呟いた。
「たしかに我々はそう思っていた。」
4人の真ん中に座っている頭が薄く、小太りの上司が言った。
彼こそは、このFBIのトップに君臨する男、デューク・シュナイダーである。
「だがな、君の作り話を信じざるおえなくなってしまったよ。」
「・・・・・・。」
「君は大学生連続失踪事件のことを知っているか?」
デュークは机の上で手を組んで、その上に口を乗せた。
「ええ、知ってますよ。一週間のうちに成績優良の大学生10人が次々と消えてるってヤツでしょ?」
滝は気だるそうに頭をかきながら答えた。
「実はな、消えたと言われる現場の近くで、豹の様な人間が目撃されているんだ。」
「豹怪人・・・ですか?」
「そうだ。」
「・・・・・・。」
「しかも、ネット上に流れている噂によると、『SHOCKER』が復活するらしい。」
「!! ショッカーが!?」
滝は驚きを隠せなかった。かつて、ダブルライダーと協力し壊滅したショッカーが復活するというのだ。
それなら豹怪人の出現も説明できる。
「ふふふ、驚いたかね?」
「・・・・・・。」
驚愕の表情の滝にデュークはニヤリと笑いながら聞いた。
「君と『仮面(マスクド)ライダー』が壊滅させたという『SHOCKER』が復活したとすれば、
 世界は再び恐怖に陥れられるだろう。」
「・・・それで、俺にどうしろと?」
「そこで君は、『仮面(マスクド)ライダー』捜索と、『SHOCKER』について調べてくれないか? 
 もちろん責任は我々がとる。」
「・・・復活したショッカーと仮面ライダーを戦わせるつもりですか?」
「勿論だ。」
「・・・・・・。」
「どうだ? 引き受けてはくれないかね?」
「・・・・・・。」
滝は口を閉ざした。しばらく部屋の中に沈黙が流れた。
そして、滝はタバコをくわえ、火をつけると、
「・・・わかりました。」
と答えた。
「おお、引き受けてくれるか。」
「ええ。ただ・・・。」
「? ただ、何かね?」
「俺もあいつらが今、どこにいるかさっぱりわからないんで、あまり期待しないで下さい。」
滝はそれだけ言うと部屋を出ていった。しばらく部屋の中に沈黙が流れる。
「・・・局長、よろしいのですか? 滝に任せて。」
「たしかに滝は優秀な捜査官でした。しかしそれは21年前までの話です。」
「滝よりも優秀な捜査官はたくさんいます。」
「なぜ今頃滝なんかが?」
眼鏡の男が言ったのを皮切りに、デューク以外の4人が口々に意見する。
デュークはため息をついて、組んだ手に口を乗せた。
「滝に最後のチャンスを与えたのだよ。」
「最後のチャンス?」
「ああ、最後のチャンスだ。」
そう言うとデュークはジッと滝が出ていった扉を見つめた。


――――――なあ、本郷。
――――――――――――なんだ?
――――――お前はなんで戦ってるんだ?
――――――――――――俺か? 正義のため、かな?
――――――嘘だろ。
――――――――――――え?
――――――本当は、ショッカーに復讐するために戦ってるんじゃないのか?
――――――――――――・・・そうだな、そうかもしれない。
                  でも、今ではこの力で多くの人を救いたいと思ってる。
――――――・・・・・・。
――――――――――――たしかに、俺はショッカーによって改造人間にされた。
                 その時は、ショッカーを憎んで、この体になったことに怒り苦しんで、
                 何度のたうち回ったことか・・・。
――――――・・・・・・。
――――――――――――だが、俺はこれを運命だと思ってる。
                 悪を倒すために俺たちに与えてくれた運命だと・・・。
――――――・・・・・・。
――――――――――――だから俺は戦う。たとえ人から避けられ、理解されなくても。
                 人のために、平和のために、そして正義のために。
――――――・・・・・・。
――――――――――――たぶん一文字(あいつ)も同じだ。
――――――・・・そっか。・・・・・・。


「ハッ!?」
滝はソファーから飛び起きた。部屋の中は暗く、時計は1時を過ぎていた。
仮面ライダー捜索を言い渡されて、2週間が過ぎた。未だに彼らの足取りはつかめていない。
滝は日本を離れて以来、彼らとは連絡を取り合っておらず、捜せというほうが無理な話だ。
「夢か・・・。」
滝は頭をかきながら体を起こすとキッチンへ足を進めた。ここは滝が住む高層マンション。
部屋は広く、しかもかなり高い場所にあるためか、窓から見えるニューヨークの夜景が美しい。
滝はゲルショッカー壊滅後、FBIに戻った。
だが、彼を待ち受けていたのは英雄としての歓迎ではなく、命令違反の降格だった。
実は滝は一度FBIから帰還命令を受けていた。
だが、滝はあえてそれを無視し、ライダーと共に戦うことを決意した。
本来ならショッカー、ゲルショッカー壊滅に協力した功績で命令違反は相殺されるはずだったのだが、
中に滝をよくおもっていない者がおり、その者たちのせいで滝は責任をすべて負うことになってしまった。
そのため、滝の報告書はすべて作り話と処理され、
ショッカーとゲルショッカーについての事はすべて闇に葬られてしまった。
それ以来滝は抜け殻のようになった。
人のために、正義のために死ぬ気で戦った結果がこの仕打ち。
そんな滝に愛想を尽かし、日本から帰ってきてすぐに結婚した妻も家を出ていった。
それ以来滝は1人でこのマンションで暮らしていた。
冷蔵庫からペットボトルのアイスコーヒーを出し、コップに注ぐとそれを飲みながらベランダに出た。
下界は、ニューヨークの美しい夜景が広がり、遠くに世界一のビル、エンパイア・ステート・ビルが見える。
滝はこの宝石の海に叫びたかった。
この明かりを守ったのが誰なのかを。自分とは言わない。
見返りもなく、ただ人のため、正義のために戦った2人の男がいたことを
頭の片隅にでも覚えておいて欲しかったからだ。
「正義のため、か・・・、くそっ!」
滝はベランダの手すりを叩いた。そして頭を擦り付けた。
「すまん本郷、一文字。俺はお前らに会わす顔がない・・・。
 今の俺には、昔のような情熱や正義はもう無いんだ・・・。」
滝は悔しかった。FBIに裏切られ、すべてを失ったふがいない自分が情けなくて悔しくて涙が出てきた。
しばらく泣いて落ち着くと、滝はポツリと呟いた。
「そろそろ潮時だな・・・。」
そんな滝を励ますかのように、光り輝く摩天楼から車の音だけが鳴り響いていた。


「たすけてぇ、たすけてくれよぉ。」
真っ暗な部屋の中、金髪のロングの青年が手足を固定され寝かされていた。
彼の顔は涙と鼻水でグシャグシャになっていた。
その時、寝ている彼にスポットライトが照らされ、そこ横にある男がやってきた。
「ひっ!」
青年はこの男の顔を見て恐怖におびえた。男の顔は人間の顔ではなく、豹の様な顔だったからだ。
「たのむよぉ、たすけてくれよぉ。」
青年はこの男に泣きすがった。だが、
「貴様は我々から逃げようとした。だから殺す。」
と言い、突き放した。
「たのむよぉ・・・、もう・・・、逃げたり・・・、しないから。
 だから・・・、殺さ・・・、ないで、たすけてよぉ。」
それでも青年は声にならない声で助けを求める。そんな彼に男は冷たい目で見下ろしていた。
しばらくして男の前に突き出た口が開いた。
「いいだろう。助けてやろう。」
「ほ、本当!?」
「ああ。ただし、運がよかったらの話だがな。」
「!!」
その瞬間、たくさんのメスがついた触手が現れた。そして、
「う、うわあああああああああ!!!」
青年の叫び声が部屋中に響きわたった瞬間、彼の血液が男の体に飛び散った。


「そうか、やめるのか・・・。」
「はい。」
滝は公衆電話であるところに国際電話をかけていた。
「・・・もう決めたことなのか?」
「はい。」
「そうか・・・。ならわしは、とやかくはいわない。」
「すみません。『おやっさん』。」
彼が『おやっさん』と言うのはこの世で1人しかいない。
立花藤兵衛。21年前、2人のライダーと滝と協力しショッカー、ゲルショッカーと戦った人物。
そして2人のライダーだけでなく、歴代ライダーを時にはきびしく、時には励ましたりと、
彼等にとって藤兵衛はまさに父親的な存在だった。
そしてそれは滝にとっても同じ事だった。
今現在、彼は老いた体ながらも、少し規模が大きくなった
「立花レーシングクラブ」の会長として若手ライダーの育成や、
道楽家業として喫茶店「Latin」をオープンさせ、幅広い活動をしている。
「謝ることはない。お前が決めたことなんだからな。」
「はい。」
「もし、行く宛がなかったら、わしの所に来ないか?」
「立花レーシングクラブにですか?」
「そうだ。なかなか筋のあるヤツがいてな。どうだ?」
「・・・・・・。」
「? どうした?」
「・・・いえ、なんでもないです。・・・ありがとうございます。」
「?」
こんなふがいない自分にも快く接してくれる。滝はうれしくなって、言葉を詰まらせた。
それから滝は電話ボックスから出ると、タバコをくわえ火をつけた。
その横の大通りでは先ほどから頻繁にパトカーがけたたましいサイレンを鳴らし走っていた。
(そういえば、あんなことも言ってたっけな・・・。)
走り去っていくパトカーを横目で見ながら、滝は今日の朝方行われた会議を思い出した。
それは豹怪人が次の標的と思われる人物が解ったという事だった。
上級大学に通うロバート・サムソン。知能指数が高く、第2のアインシュタインと言われている男である。
FBIは総力をあげて彼の護衛をすることを決めた。それは相手が豹怪人という得体の知れない相手だからだ。
だが、滝だけがこの護衛から外された。それはライダーを捜すと言っては、
ニューヨークの街をふらつくだけの滝へデュークからの戦力外通告に等しかった。
(・・・まぁいいか。どうせ今日、これを出すつもりだったし。)
そう言うと滝は『Resignation』と書かれた一枚の封筒を内ポケットから取りだした。
『Resignation』=辞表。これは滝の辞表届けだった。滝はそれを太陽にかざした。
(・・・思い残すことは、ない、か。)
そう呟き、辞表届けを再び内ポケットにしまった。
もう思い残すことはない。ショッカーと戦った、それだけでも十分じゃないか。
そう心の中で何度も繰り返す滝。だが、それとは別になんども謎の声が頭に響く。
(本当にそれでいいのか?)
と。
その時、突然辺りが騒がしくなった。
「? なんだ?」
滝がその方に目を向けると、逃げ惑う人々の中から金髪のロングの青年がふらつきながら歩いてきた。
(・・・あいつ、どっかで見たことあるな。)
滝は膨大な記憶の中から彼の顔を重ね合わせる。そして、一つの顔が一致した。
(! あいつはたしか、行方不明の大学生。)
そう、あれは豹怪人にさらわれたらしい大学生だった。
「おい、どうしたんだ?」
「助けてぇ・・・、助けてくれよぉ・・・。」
滝が青年に駆け寄ると、青年は涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を上げ、滝に助けを求めた。
「いったい何があったんだ?」
「俺、俺、死んじゃうよぉ!」
「!!!」
泣きながら青年はTシャツをめくった。彼の腹には時限爆弾がくくりつけられていた。
いや、そんな生易しいものではない。まるで肉体と融合しているかのごとく、爆弾は腹に食い込んでいた。
「な、なんだこりゃあ・・・。」
「助けてよぉ、俺、死にたくないよぉ!!」
「・・・・・・。」
(無理だ・・・。)
誰の目からも、外すことは不可能だった。また、時限爆弾の時計は10分を切っていた。
泣きすがる青年に滝もどうすることもできず、呆然としていた。
(無理だ・・・、絶対に無理だ、こんなの・・・。)
(ちくしょう、どうすりゃいいんだ、こんなもの・・・。)
(・・・やっぱり、俺には・・・。)
(俺には・・・。)
(・・・・・・。)
「・・・諦められるわけねえだろ!!!」
滝はそう叫ぶと、青年を背負い近くの広場に向かった。最悪の場合、被害を最小限に抑えるためだ。
「あいつらだって絶対に諦めなかった。俺だって、諦めるかよ!!」
滝はそう叫びながら必死で走った。
アメリカに帰ってきてからずっと淀んでいた彼の目に、再び光が灯り始めていた。

それから7分後、広場にニューヨーク市警とFBIが到着した。
そして1人、青年に貼りついた爆弾を解体するために格闘していた滝の元に
2人の爆弾解体のエキスパートが向かった。
「滝!!」
「おお、早くなんとかしてくれ! 俺じゃ限界だ!」
「わかった!」
2人は青年の爆弾を見た。だがその瞬間、2人の顔色が変わった。
「? どうしたんだ?」
「・・・無理だ。」
「なに!?」
「解体は無理だ。」
「なんだと! どういうことだ!!」
「こいつは、神経直結爆弾だ。」
「神経直結爆弾? なんだそりゃ。」
「この爆弾のコードが、すべて神経とつながってるんだ。」
「なんだと・・・!?」
「爆弾を止めると、こいつが死んじまう。今の俺達にはどうすることもできない。」
「そんな・・・。」
2人のエキスパートが言う絶望の言葉に、滝は絶句した。
そしてそれをさらに身近で聞いていた当の青年は死の恐怖に泣き叫んだ。
「何とかなんねえのかよ! なんとかよぉ!!」
「・・・・・・。」
「くっ、どけぇ!! 俺は諦めねえ! 絶対何か手はある! 俺は絶対諦めねえぞ!!」
「滝・・・。」
滝は諦めムードの2人を差し置き、再び解体方法を探し出した。
そんな滝の熱意にたじろぐ2人。だが、時間は待ってはくれなかった。
すでに時計は1分を切っていた。
「滝、もうダメだ。諦めろ!」
「ふざけるな! まだ時間はある!」
「お前まで死ぬぞ!!」
「かまうもんか、そんなこと!」
「滝!!」
2人は何度も滝を説得するが、滝は全く聞く耳を持たない。
しかたなく2人は強制手段に出た。だが滝はそれを振り切ろうと2人の腕の中で暴れ回る。
その異変に気付いた数人の刑事も駆け寄り、滝の体を押さえつける。
「離せ! 離せ!!」
「滝! いい加減にしろ!!」
「うるせえ!! 俺は諦めたくねえんだ!! あいつらだって絶対に諦めなかったんだ!! 
 俺だって諦めてたまるかよ!!」
「・・・しかたがない。」
そんな中、1人の刑事が懐から拳銃を取りだし、それを狂ったように暴れ回る滝の頭に振り下ろした。
鈍い音がしたと思うと、滝は意識を失った。
それから1時間後、気がついた滝に青年は爆死したと伝えられた。

夕方―――――。
空は夕焼けで真っ赤に染まり、摩天楼に次々と黄色い明かりが灯り始めた頃、
滝はエレベーターでビルの地下へ向かっていた。
彼が向かう国連ビルの地下は武器庫になっていて、
捜査官が使う武器や犯人から押収した銃刀類が保管されている。
エレベーターが地下5階に到着すると、滝は真っ直ぐに延びる廊下を何も目もくれずに歩き出した。
そしてある扉の前で立ち止まると、勢いよく扉を開けた。
中には、まるで新品のように黒く輝く、最強の破壊力を誇る拳銃デザートイーグルと、
西部警察の大門圭介が使用したことで有名なレミントン・ライアット・ショットガンが、
大量に陳列されていた。滝は6つのガンベルトをわしづかみにすると、次々と体に装着した。
そして、棚に並べられているデザートイーグルを手に取ると、マガジンを引き抜き、
そこに次々と弾丸を込め、再び拳銃に装着しホルダーに収めた。
(ちくしょう・・・、ちくしょう・・・。)
(なにがあの頃のような情熱は無くなっただ、正義は無くなっただ! ふざけるな!!)
(それだから、俺はあいつを助けることができなかったんじゃねえか!!)
(ちくしょう・・・、ちくしょう・・・。)
滝はそう呟きながら一連の動作を繰り返す。
(情熱が無くなったなら、もう一度蘇らせればいい!!)
(俺の正義は無くなっても、あいつらに教えられた正義はずっと心の中で生きてたんじゃねえのかよ!!)
(あいつらがいねえなら、俺1人でもやるしかねえだろうが!!)
(ショッカーは・・・。)
「ショッカーは、俺が倒す!!!」
滝はそう叫ぶと最後の拳銃を6つ目のホルダーに収めた。
そのとき、デュークが滝の元に駆けつけたてきた。
「滝! お前何をやっている!!」
「決まってるでしょ? 俺もロバート・サムソンの護衛に行くんですよ。」
滝は振り向かず、今度はショットガンの用意を始めた。
「お前は護衛から外したはずだ! 勝手な真似は許さん!!」
「それでも俺は行きます。」
「お前はもう戦力外なのだ!! お前が行っても邪魔になるだけだ!!」
「ふん、ショッカーの怪人と戦ったことのない奴らが護衛についても無駄なんですよ。
 じゃ、俺は行ってきます。」
滝は持ってきた黒いロングコートを羽織るとショットガンの弾丸をポケットに詰め込んだ。
そして額に血管を浮き立たせ怒鳴り散らすデュークを無視し、武器庫を後にした。
「滝!! きさま、命令違反でクビにするぞ!! いいのか!!!」
デュークは立ち去る滝の背中に向かって怒鳴った。
「・・・いいですよ。好きにしてください。」
「何ぃ!?」
「これが俺の最後の事件(ヤマ)ですから。」
「・・・!!」
滝は立ち止まり、後ろを振り返りデュークを睨み付けて言った。
そしてエレベーターに向かって再び歩き出した。
そんな滝を絶句しながら見つめるデューク。
(あの目は、21年前の滝の目・・・。)
「そうか・・・。滝和也は蘇ったのだな・・・。優秀なFBI捜査官、滝和也に。」
デュークがそう呟いた瞬間、滝を乗せたエレベーターの扉が閉まった。

所変わって、ここはニューヨーク郊外にあるロバート・サムソンが住むマンション。
5階建ての古ぼけたマンションで、ロバートは最上階の右奥の部屋に住んでいる。
ロバート・サムソン護衛の責任者、ケニー・レノはロバートのマンションの窓から
遠いニューヨークの街の灯を見つめていた。
そこに奥の部屋からケニーの部下らしき2人の捜査官が出てきた。
「ダメです。部屋に閉じこもったきり、食事も受けつけようとしません。」
「まあ無理もないだろうな。突然我々が来て、お前は豹のような怪人に狙われていると言われたらな。」
「しかし、ホントに奴は来るんですかね。」
「今日奴が来るとは限らん。まあ、気長に待つか。」
ケニーはそう言うと、再びニューヨークの灯を見つめた。
だが、水面下で着々と事が進んでいることに彼等は気付いてはいなかった。
「・・・そろそろ定時連絡の時間だな。ジャック、連絡を取ってくれ。」
それからしばらくして時計を見たケニーが捜査官、ジャックに指示を出すと、
ジャックはスーツの懐から携帯電話を出してこのマンションの周りなどを見張っている捜査官に連絡を取った。
「正面玄関、異常ありません。」
「裏口、異常ありません。」
「マンション周辺、異常ありません。」
しかし、返ってくるのはいずれもその言葉だった。
「全部、異常ありません。」
「そうか。」
「しかし奴はなぜ学生ばかりを狙うんですかね。」
もう1人の捜査官、ロビンがケニーに聞いた。
「わからん。ただ。」
「ただ、なんですか?」
「もし、奴が『ショッカー』の1人だとするなら、優秀な人材を求めているらしい。
 改造人間にするためのな。」
「改造人間!? ははっ、そんなマンガみたいな話、信じられませんよ。」
「まったくだ。」
2人の若き捜査官は声を上げて笑った。
そんな2人をケニーは何も言わず横目で見ながら、再び窓の外に目をやった。と、その時だった。
ジャックの携帯電話が鳴った。発信先は正面玄関のの捜査官からだった。
「こちらはジャック。どうかしたのか?」
『・・・・・・。』
「おい、どうした? 応答しろ!」
しかし、何度ジャックが訪ねても相手からの応答は無かった。
「どうかしたのか?」
「ええ、それが・・・。」
「貸してみろ。」
異変に気付いたケニーがジャックに近寄り、携帯電話を取り上げた。
「電話代わった。どうかしたのか?」
「・・・・・・。」
しかし相手の反応は同じだった。ケニーは電話を切ると、裏口の捜査官に電話をかけた。
正面玄関の様子を見てくるように指示を出すためだ。
しかし、コールが響くだけで電話には誰も出てこない。
ケニーは電話を再び電話を切ると、また別の捜査官に電話をかけた。
しかし、どの捜査官に電話をかけても誰も電話には出なかった。
「・・・・・・。」
「一体、どうなってるんですか? これは・・・。」
「・・・奴が来たな。」
「ええっ!?」
「そんな、奴がホントにここに!?」
「何をボサッとしてる! 奴がここに来る前に早くここを出るぞ!!」
驚愕し恐れおののく2人だったが、それとは対照的にケニーは冷静に2人に指示をあおった。
だがその時、ゆっくりと部屋の扉が開いた。
3人は素早く拳銃を抜き構えるが、中に入ってきたのは血塗れの捜査官だった。
「!! どうしたんだ、その姿は!!」
ロビンは拳銃をしまい彼に駆け寄った。
彼は3人の姿を確認すると、ふらつきながら歩み寄り口を開いた。
「逃げてください・・・。奴が、奴が、ここに・・・、!!!」
「!!」
その刹那、彼の左胸を何者かの腕が貫いた。
大量に血が飛び散り、彼のスーツがなお一層赤く染まった。
そしてゆっくりと腕が引き抜かれ、
崩れ落ちる彼の後ろには返り血を浴び黒いボディが真っ赤に染まった豹怪人がいた。
「ひょ、豹怪人!!」
「ひ、ひいいいいいい!!」
「くぅ、出たな!! 貴様の好きにはさせんぞ!!」
おびえる2人の捜査官をよそに、ケニーは拳銃を豹怪人に向け連射した。
だが、豹怪人はそれにモノともせずにケニーに歩み寄り、平手で殴り飛ばした。
ケニーの体は部屋の家具に叩きつけられズルズルと崩れ落ちた。
そして彼の左頬には四つの赤い筋ができていた。
豹怪人は殴り飛ばした際に、爪でケニーの頬をえぐったのだった。
豹怪人はクルッと向きを返ると、ロバートの部屋へと向かった。
「・・・くそぉ、俺達だって!!」
年輩捜査官のケニーの勇姿に奮い立ったのか、
2人の若き捜査官は取り押さえようと、豹怪人に飛びかかっていった。
そんな2人を振り払い、部屋に向かう豹怪人。
だが、2人は何度も振り払われながらもしつこく豹怪人に飛びかかる。
そのしつこさにいい加減苛ついたのか、豹怪人は2人の顔を掴むと、ギリギリと握り締めた。
ミシミシと頭蓋骨が軋む音が2人の頭に響く。
豹怪人は一気に2人の頭を握りつぶそうとしたその時、銃声が響きわたり豹怪人の顔面に弾丸が命中した。
豹怪人はまるで寝違えたように首をひねったままピクリとも動かなくなった。
拳銃を撃ったのはもちろんケニーだった。
大量に出血している左頬を抑えながら、拳銃の銃身は豹怪人の頭を捉えていた。
「どうだ、クソ野郎。人間をなめるなよ。」
豹怪人にそう罵声を浴びせると、ケニーは拳銃の撃鉄を引いた。
しかし、豹怪人はまるで死んだようにピクリとも動かない。
そして手の力が抜け、2人の捜査官がその場に倒れ込んだ。
2人は激痛のあまりすでに意識を失っている。
それからしばらくの沈黙の後、ケニーはゆっくりと立ち上がり慎重に豹怪人に近付いていった。
そして豹怪人の前方に回り、顔を見ようとのぞき込んだその時だった。
「!!!」
それを狙っていたかのように、動かなかった首が急に動き、ケニーを睨み付けた。
ケニーはすぐに拳銃を構えたが、豹怪人はそれを右手でたたき落とし、
左手でケニーの首を掴み壁に叩きつけた。
「がはぁ!」
「・・・よくも俺の顔に。」
「くっ・・・。」
「ロバート・サムソンをさらう前に、貴様を殺す!!」
「くっ、くそぉ!!」
豹怪人はケニーを自分よりも高く持ち上げると、右手をピンっと伸ばした。
その指には先ほどケニーの左頬をえぐった鋭い爪が伸びていた。それでケニーを突き殺すつもりだろう。
足をバタつかせ、抵抗するケニーだったが、豹怪人はピクリともしない。
そして豹怪人は呼吸を止めると、ケニーの左胸目掛けて右手を突き出した。
だが、
「ちょっと待ったぁ!!」
部屋に何者かが飛び込んできて、持っていたショットガンを3発発砲した。
三つとも命中し、豹怪人は吹っ飛ばされた。
「くっ、一体誰だ・・・?」
その場に尻餅をついたケニーは自分を助けた男の顔を見た。そして驚いた。
その男こそ、まるで映画「マトリックス」のキアヌ・リーブスのような出で立ちの滝和也だった。
「滝・・・、和也!!」
「・・・・・・。」
「きさま、どうしてここに!?」
「・・・そんなことより、早くここからロバートって奴を連れて逃げろ。」
「何ぃ!?」
「こいつらと戦ったことのないあんたらじゃ、邪魔だって言ってんだよ!」
「何を言う!! 貴様だって戦ったことはないだろう!!」
「・・・あるさ。21年前、イヤってほどな。」
「・・・・・・。」
「さあ、早く!! 俺だって、こいつを倒せるなんて、思ってもないんだからな!」
そう言うと滝は、まだ起きあがってこない豹怪人に向けショットガンを向けた。
ケニーはふらつきながら立ち上がると、気絶している2人を揺り起こし、ロバートの部屋へと消えた。
それと同時に、豹怪人がゆっくりと体を起こした。
「・・・た・・・き・・・・。」
「へぇ、俺の名前を知ってるってことは、やっぱてめえはショッカーか?」
「・・・・・・。」
「・・・こいよ。21年前からのケリ、きっちりつけてやるよ!!」
それから2人はしばらくの間、無言で睨み合っていた。
そこにロバートをつれた3人が部屋から出てきた。その瞬間、豹怪人は4人に襲い掛かった。
「おっと、そうはさせるかよ!!」
しかし、滝はそれに反応し、飛び掛る豹怪人のボディにショットガンを連発した。
再び吹っ飛ばされた豹怪人に滝は駆け寄り、ふらつきながら立ち上がる豹怪人のボディに一発蹴りを入れると、
続けざまにショットガンのグリップで顔面を殴りつけ再びボディに向け発砲した。
「・・・・・・。」
「す、すげぇ・・・。」
普段見ることのない滝の姿に二人の若き刑事は唖然と見つめていた。
「おい、なにしてんだ! 早く逃げろ!!」
滝は弾切れになったショットガンに新しい弾薬を詰めながら叫んだ。
それにケニーはゆっくりうなずくと、3人をつれて部屋を出て行った。
滝はそれを横目で見送ると、まるで死んだようにピクリとも動かない豹怪人にゆっくりと歩み寄った。
(・・・まさか、これで死んだわけじゃねえよな・・・。)
滝が様子を見るように覗き込んだその時だった。
カッと豹怪人の目が開き、パッと起き上がると滝の顔面めがけて張り手を喰らわせた。
だが、滝は間一髪のところでショットガンを盾にして顔面を守ったが、
張り手の勢いが強すぎたのかそのまま吹っ飛ばされ壁に激突した。
「・・・くっ、やっぱそう簡単にはいかないか。」
ズルズルとその場にへたり込んだ滝が再び立ち上がりショットガンを構えようとした。
しかし、ショットガンは先ほどの張り手によりくの字に折れ曲がっていた。
「チッ。」
滝はショットガンを捨てて、懐のデザートイーグルを2丁取り出し、豹怪人目掛けて連射した。
次々に床に落ちる薬莢。そして徐々に視界が悪くなるほど立ち上る硝煙。
「クッ、いかん!」
完全に視界が悪くなり、滝は発砲をやめ場所を移動した。
この煙を破っていつ豹怪人が襲ってくるか解らないため、慎重に移動した。
だが、その刹那、硝煙を突き破って豹怪人が滝に襲い掛かってきた。
「!! しま・・・。」
「死ね。」
「うおおおおお!!!」
その時、部屋に鈍い音が響き渡った。


その頃、ケニー達4人はマンションの階段を駆け降りていた。
「しかし、ホントにだいじょうぶなんですか? 1人だけ残していって。」
「我々でも敵わない相手なのに。」
2人はケニーに言った。ケニーはしばらく何かを考え、ゆっくりと口を開いた。
「大丈夫だ。滝はFBIで唯一、ショッカーと戦った男だからな。」
「えっ!? でも、あの報告書は・・・。」
「全部私が闇に葬ったのだ。」
「えっ・・・。」
思いもしない返答に2人は顔を見合わせた。ケニーはさらに続ける。
「私の父と祖父は太平洋戦争で日本軍の捕虜にされ殺された。
 私は幼い頃から母親に日本人は悪い奴だって教え込まれてきた。」
「・・・・・・。」
「そんな私の偏見が1人の優秀な捜査官を落ちぶれさせたんだ。
 いや、ただ妬んでいたのかもしれん。
 日本人のくせにドンドン出世という階段を駆け登っていく滝に・・・。」
「・・・・・・。」
「だから私は他の滝をよく思っていない連中と結託して、滝の命令無視を種に滝を陥れたんだ・・・。
 私は最低な男だ・・・。」
「・・・・・・。」
ケニーは階段の踊り場で立ち止まり、拳を壁に叩きつけた。
彼の肩は小刻みに震えていた。再び顔を見合わせる2人。そして、
「・・・ケニーさん。今は任務の事だけを考えましょう。」
意を決して、ジャックがケニーに言った。
ケニーは顔を上げジャックを見ると、深く頷き再び走り出した。
そして彼等が一階と二階の中間の踊り場に差し掛かったときだった。
突然、けたたましいほどのエンジン音がしたかと思うと、
一台のバイクが階段をものすごいスピードで上ってきたのだった。
だが、驚いたのはその後だった。バイクにまたがっていたのは普通の人間ではなかった。
薄い緑の仮面に赤い目、2本の白いラインの入った黒い服と緑色のボディ、
そして赤いマフラーと銀色の手袋とブーツをまとった男がバイクで階段を駆け上がっていたのだ。
驚愕する4人を無視し、その男はさらに上を目指し登っていった。
「なんだ今の・・・。」
「豹怪人の仲間か・・・?」
「・・・・・・。」
呆然と階段の上を見つめる4人。その時、ケニーはハッとした。
「・・・・・・。」
「? どうしたんですか?」
「あの怪人を見たことがある・・・。」
「え!?」
ケニーは身震いした。たしかにあの怪人を見たことがある。そう自分が闇に葬った滝の報告書で・・・。
「ま、まさか・・・、奴が、滝の報告書にあったあの・・・。」

「がああ!」
一方、滝は豹怪人に殴り飛ばされ壁に叩きつけられていた。
滝の顔は腫れ上がり体中には豹怪人から受けた無数の爪痕が浮かび上がっていた。
「ちっ、やっぱ敵わねえのかな・・・。」
滝はボロボロになった体で立ち上がろうとするが、そこに豹怪人が立ちはだかった。
「クッ、クソォ。」
「・・・滝、お前はやはり素晴らしい男だ。」
「・・・・・・。」
「21年という月日が流れても、この俺を圧倒するほどの戦闘力。気に入った。」
「・・・・・・。」
「どうだ、最後のチャンスをやろう。貴様のその力をショッカーで生かしてはみないか? 
 そうすれば命だけは助けてやる。」
「・・・・・・。」
「どうだ?」
「・・・クッ。」
「!?」
「クックックッ、ハハハハハハハハハ。」
滝は何を思ったか、大声で笑い始めた。
「何がおかしい!」
「いや、21年前にあんたらの仲間を滅ぼした俺に、
 まさかあんたらからスカウトがくるとは思ってなくてな。」
「・・・・・・。」
「俺はな、そういうスカウトには、こう答えることに、決めてるんだよ!!」
そう言った瞬間、滝は拳銃を素早く抜き豹怪人の顔面目掛けて引き金を引いた。
弾丸はまるでアッパーのように豹怪人の顎にヒットした。
だが豹怪人は、ダメージを受けた様子は無く、ゆっくりと顔を下ろし滝を見下ろした。
「そうか・・・、それがお前の答えか・・・。ならば、死ね!!」
そして豹怪人は右手をピンと伸ばした。指先は滝の左胸を捉えていた。
滝は再び拳銃を構えたが、豹怪人はそれを左手で払い、右手を左胸目掛けて突いた。
(ちくしょう、これまでか・・・。
 やっぱりあいつらがいねえとダメなのかよ・・・。
 ・・・・・・。
 正義のために死ぬ、か・・・。
 ・・・悪くないかもな。)
滝は観念したかのように目を閉じた。だが、その時、けたたましいほどのエンジン音が響き渡った。
それに驚いた豹怪人は突き刺す寸前で右手を止めた。
「だ、誰だ!?」
「・・・・・・フッ。」
「!?」
「フフフ、ハハハハハハハハハハハ。」
「貴様、何がおかしい!!」
豹怪人は再び狂ったように大声で笑う滝の胸ぐらを掴み問いただした。
「へっ、こういうピンチの時に来るヤツは、正義の味方って相場が決まってるだろ?」
「何ぃ!? ・・・ま、まさか、奴が!?」
豹怪人の表情は一気に青ざめた。そう、それならこの近付いてくるエンジン音も説明できる。
自分たちの天敵でも、憎き相手でもあるあの男・・・。
「そうだ、スーパーマンやバットマン、スパイダーマンみたいなあんなマンガのヒーローなんかじゃねえ!
 日本が誇る最強のヒーロー、『仮面ライダー』だ!!」
その瞬間、バイクがドアを突っ込んできて、豹怪人をはね飛ばした。
バイクはへたり込んでいた滝の前に止まった。
バイクに乗っていたのは滝のよく知る男、21年前共に戦った良き戦友、本郷猛こと仮面ライダー1号だった。
「本郷、本郷なのか!?」
「・・・滝、こんなところで何やってんだ?」
「バ、バカヤロウ! 俺はあと一歩で死ぬところだったんだぞ!!」
「・・・そうか。それはすまなかったな。」
1号はバイクから降りると滝の前にしゃがみ、滝の肩を軽く叩いた。
「だが、俺が来たからにはもう大丈夫だ。」
それから1号はゆっくりと立ち上がると、よろめきながら起きあがる豹怪人に歩み寄り立ちはだかった。
「見つけたぞ、バザン!! もう逃がさんぞ!!」
「仮面ライダー!! 貴様に殺された仲間達の恨み、今ここで晴らしてやる!!」
バザンはおぼつかない足で1号に向かっていき次々とパンチを繰り出した。
だが、1号はそれらを軽くかわした。
「くぅ、おのれぇ!!」
それからバザンは1号の脇腹目掛けて蹴りを出したが、
1号はそれをガードしてバザンの顔面にカウンターパンチをくらわせた。
「トォ!」
1号は右、左とバザンの顔面に拳を入れ、そして、
「うおおおおお!!!」
まるでマシンガンのような連続パンチをバザンの体に叩き込んだ。
部屋中に鈍い音が響く中、滝は1号の圧倒的な戦いぶりを唖然と見ていた。
(つ、強え・・・。21年前よりも強くなってる・・・。)
1号こと本郷猛はすでに40代過ぎで肉体が衰え始める年齢である。
だが、1号はそんなことを微塵も感じさせない戦いぶりをしていた。
「トォ!!」
1号はバザンのボディを蹴り飛ばすと、バザンとの間に少し間合いをあけた。
(・・・まさか。)
滝は直感的に感じた。1号は次の攻撃でバザンにとどめを刺すだろうと。
そして滝の思惑はその通りになり、1号はバザンに向かって突進していき、寸前で跳躍した。
(い、いかん!)
「ライダァ、キーーーーーッ・・・。」
「ダメだ、本郷! そいつを殺すな!!」
「!!」
バザンに向けてライダーキックを繰り出す1号だったが、滝の叫びに思わずバランスを崩してしまった。
バザンはその一瞬を見逃さなかった。
間一髪ライダーキックをかわすと、そのまま窓ガラスを破ってその場から逃走した。
1号は急いで後を追い窓から見下ろしたが、すでにバザンの姿は無かった。
「滝、どういうことだ!? 奴を殺すなって。」
「奴は、行方不明になってる大学生を知ってるはずだ。
 奴から居場所を聞き出すまで、死なすわけにいかねえんだ!」
「心配するな。我々がここに来る前に全員助けた。・・・1人、残念な事になってしまったがな。」
「なんだよ・・・、そうだったのかよ・・・。」
それを聞いた滝は力が抜け、思わずその場にへたり込んだ。そんな滝の元に1号は歩み寄った。
「大丈夫か?」
「・・・ああ、なんとかな。」
「そうか。」
「へっ、しっかし俺はよっぽど閻魔様に嫌われてるらしいな。」
「フフッ、そうだな。」
「・・・って、こうなごんでる場合じゃねえだろ!! 早く奴を追いかけないと。」
「大丈夫だ。奴なら今頃、一文字が追いかけてるはずだ。」
「!! あいつもここに来てるのか!?」
「ああ。バザンを追いかけていたとき、一文字とも合流したんだ。」
「なんだ・・・、へへっ、あいつもいるのか・・・。」
滝はこのニューヨークの空の下に、懐かしいかつての戦友がいると思うと嬉しくなって、
思わず顔がほころんだ。
「・・・よし、俺達もそろそろ後を追わないと。滝、立てるか?」
1号はゆっくり立ち上がるとそう滝に訪ねた。
滝は頷くとよろめきながら立ち上がった。
そして2人は1号のマシン、サイクロンの元に急いだ。
「滝は後ろに乗ってくれ。」
「ああ。」
2人がサイクロンに跨ると、1号はエンジンを駆け二、三度空ぶかしした。
「行くぞ。」
「・・・本郷、その前に聞きたいことがあるんだ。」
「?」
「ショッカーは、本当に甦ったのか?」
「・・・・・・。」
滝の問いに1号はしばらく黙っていた。だがその後1号は静かにこう答えた。
「・・・ああ。間違いない。」

その頃、豹怪人バザンはニューヨークの街を道行く人々の悲鳴を無視し歩道、
車道関係なく車よりも速いスピードで走っていた。
(くっ、ここはいったん戻って体勢を立て直させば・・・。
 しかし、奴らがこの国にまで来ていようとは・・・。
 だが、次は必ずや奴らを血祭りに・・・。ぬぅ!!)
1人ブツブツと呟いていたその時、バザンは目がくらむほどの光に包まれた。
バザンが目を凝らしてよく見てみるとそこには、
ついさっき自分をはね飛ばした赤と白のバイク、サイクロンと仮面ライダーの姿があった。
だが、先ほどの1号とはどこかが違う。
1号の白銀に輝く手袋とブーツではなく、まるで炎をまとったような紅い手袋とブーツをしていたからだ。
そう、彼こそもう1人の仮面ライダー、一文字隼人こと仮面ライダー2号である。
「バザン! 本郷からはうまく逃げられたようだが、俺はそうはいかないぜ。」
「くぅ、貴様は一文字隼人か!?」
「逃がしゃしねえぜ!!」
2号はそう言うと、アクセルをさらにひねった。
徐々に縮まるバザンとの差だったが、前方に渋滞が見えてきた。
バザンはニヤリと笑うと徐行運転の車をまるで飛び石のように飛び跳ねていった。
2号も負けじと車の間を縫うようにバザンを追いかける。
だが、やはりそれだとバザンとの差は開いていく。
「トォ!!」
2号はサイクロンのライトの下から翼を出し、エンジンをフルスロットにした。
するとサイクロンは飛び上がり、次々と車の列を飛び越していった。
そして道路脇のビルの窓に着地(?)すると、そのままの体勢で走り出した。
このサイクロンは、最高50メートルまで跳躍でき、垂直の壁を走ることができる。
「なにぃ!? そんなバカな。」
「言っただろ? 逃がしゃしねえって。」
「くぅ、おのれぇ!!」
バザンは走るスピードを上げ、ある広場へと入っていった。
そこは滝が爆弾を取り付けられた青年を助けるためにかつぎ込んだ広場だった。
2号もその後を追って広場へと入っていく。
そして、再びサイクロンは跳躍するとバザンを飛び越し、行く手を阻むかのようにバイクを止めた。
「くぅ、おのれぇ!!」
「バザン、ここはなぁ、貴様に爆弾を取り付けられた青年が死んだ場所だ。」
「・・・・・・。」
「さあ、ここで青年の無念を晴らしてもらうぞ!」
2号はバイクから降りバザンに歩み寄っていく。
バザンは拳を握りしめ2号に向かっていき殴りつけるが、2号はカウンターパンチを顔面にヒットさせた。
ふらつくバザンに2号はゆっくりと近づきもう一発顔面を殴りつけた。
バザンは力を振り絞り反撃するが、2号は攻撃をすべてかわし、ボディに拳を入れアッパーをおみまいさせた。
1号のようなキレは無いが、まるでバズーカ砲のような強力なパンチを次々とバザンに喰らわせた。
そして、渾身のストレートでバザンを吹っ飛ばすと、ゆっくりと構えた。
「とどめだ!」
と、その時だった。眩いばかりの光がこちらに近づいてきた。
それは2号と全く同じ赤と白のマシン、そう、1号のサイクロンだった。
ただし、ハンドルを握っているのは滝和也で、1号は後ろに乗っていた。
「本郷!!」
「いくぞ、一文字!!」
「おお!!」
「滝、たのむ。」
「OK、ぶちかましてこい!!」
そう言うと滝は、サイクロンを横で止めた。その急停止に乗って、1号は天高く跳躍した。
そして2号も、それに合わせて跳躍した。
2人は空中で横に並び、1号は右足、2号は左足を突き出し、バザンに向かって突っ込んでいった。
「ライダー!」
「ダブル!」
『キーーーーーーーック!!!』
2人のキックはバザンの胸部に命中し、
体は宙を浮きそのまま何十メートルも吹っ飛ばされ広場の中心にある大木に激突した。
「がぁ・・・、がはぁ・・・、お、おのれ、仮面ライダー・・・。」
「・・・・・・。」
バザンはボロボロの体で立ち上がり、ふらつきながら3人に近づいていった。
「お、俺が、死んでも・・・、必ず、他の仲間が、貴様らを地獄に、送って、くれる・・・。」
「・・・・・・。」
「そして、必ずや、『あのお方』が、全人類を統治するだろう・・・。
 ざまあみろ・・・、う、うおおおおおお!!」
バザンは断末魔を上げその場に倒れると爆発し息絶えた。
3人はしばらく無言でくすぶっている火を見つめていた。
「・・・これで事件は解決した。もう大学生が消えることはない。」
「けど、まだ終わってねえ。」
1号が静かに呟くと、滝はそう言って返した。
「いや、むしろこれが始まりだろ?」
「・・・・・・。」
「本郷、一文字、またお前らの力が必要な時が来たんだな。」
「・・・ああ。」
2人のライダーは静かに頷いた。


「・・・で、本郷、一文字。どうしてアメリカに?」
バザンとの戦いを終え、傷の治療を終えた滝と本郷と一文字の3人は
とあるビルの最上階にあるバーに来ていた。
薄暗いが温かい電球色が彼等を包み込み、店の中には心地よい音楽が流れ、
そして窓の外には摩天楼の美しい夜景が広がっていた。
3人はカウンターに座り、ブランデーを飲んでいた。
本郷はブランデーを一口ふくむと、今までのことを話し始めた。
「俺はクライシス帝国との戦いが終わった後、イギリスの研究所で遺伝子の研究をしてた。」
クライシス帝国とは3年前仮面ライダーブラックRXが壊滅させた異次元からの侵略者である
「遺伝子の研究ってのは、遺伝子の操作で病気とかを治そうとか、そういうやつか?」
「ああ、そんな感じだ。」
「へぇ。」
「だが2ヶ月前、優秀な所員が次々に姿を消していったんだ。」
「えっ!?」
「なんの前触れもなく、突然姿を消したんだ。」
「おいおい、それって・・・。」
「ああ、今回のアメリカの事件と同じだ。」
「ちっ、あの野郎、イギリスでも事件起こしてやがったのか・・・。」
滝はブランデーを一気に飲み干した。本郷はさらに話を続ける。
「俺は不審に思ってな、独自に調べた。そうしたら、奴の仕業だってわかったんだ。」
「・・・・・・。」
「だが、気付いたときには遅かった。
 俺がバザンの居場所をつきとめて、駆けつけたがそこにはバザンもさらわれた所員もいなかった。」
「ってことは、もう・・・。」
「怪人か戦闘員に改造されてるかもな・・・。」
ずっと黙っていた一文字が初めて口を開いた。滝は拳を握り締め、唇を噛んだ。
「・・・だがよぉ、本郷。何で相手がショッカーだって、断言できるんだ?
 あれからいろいろ出てきたじゃねえか。
 え〜と、たしか、デストロンとか、GOD(ゴッド)とか。
 ・・・あと、最近の奴だとクライシス帝国とか。」
「・・・こいつを見つけた。」
滝が次々と歴代ライダーが戦った悪の組織をあげていく中、本郷はポケットから小さなバックルを出した。
それを手にとって見てみた滝は驚愕した。
「!! こ、こいつは・・・。」
「・・・ああ、決定的な証拠だ。」
そのバックルには、地球の上に翼を広げた鷲のような鳥が乗っかっている絵が描かれていた。
これは、ショッカーのシンボルだった。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。ショッカー首領は死んだんじゃないのか!?」
「ああ・・・。」
「じゃあどうして・・・。」
「おそらく、ショッカーやデストロンとかの生き残りが地下に潜んで機会を伺っていたのかもしれん。」
「じゃあそいつらがショッカー首領を甦らせた?」
「・・・考えられないことじゃない。」
「くそぉ! ふざけやがって!」
滝はカウンターに拳を叩きつけた。
かなりの音が店内に響いたが、マスターは全く動じず、カクテルのシェイカーを振っていた。
「・・・なあ本郷、一文字。これからどうするんだ?」
「俺達は日本に行こうと思ってる。」
「たぶん奴らはまた日本を拠点にするだろうと思うからな。」
「そっか。」
「なあ、滝・・・。頼みがあるんだ。」
「ん?」
「また俺達に協力してくれないか?」
「・・・・・・。」
「お前の力が必要なんだ。たのむ。」
「・・・・・・。」
本郷は滝の目を真っ直ぐ見て頼んだ。滝は上着からタバコを出しくわえた。
そして煙を吐き出すと静かに答えた。
「・・・ダメだ。」
「・・・・・・。」
「俺はもう、21年前とは違うんだ。」
「・・・・・・。」
「今の俺にはあの時のような正義も情熱もなんにもない、ただのダメなヤローだ。」
「・・・・・・。」
「お前らについていったって、足を引っ張るだけだ。」
「滝・・・。」
「・・・って、ついさっきまでの俺だったら言ってるだろうな。」
「滝、それじゃあ!」
「ああ、手伝ってやるよ。」
滝はニッと笑い答えた。すると本郷と一文字は顔を見合わせニッと笑うと互いの手を鳴らした。
「滝、すまんな。」
「いや、いい機会だしよ。」
「? 何のことだ?」
一文字は身を乗り出して聞いた。
「ん? いや、こっちの話だ。」
「?」
本郷と一文字は訳も分からず、首を傾げた。
キョトンとした顔の2人を見て、滝はおかしくなり思わず微笑んだ。

次の日、滝はデュークに辞表を提出した。
デュークは始め冗談かと思っていたが、滝は本気だった。
しかし、滝の評価は昨日の事件で一気に上り、
唯一ショッカーと戦ったことのある人間としてFBIに残そうという動きが高まっていった。
それから3日間、毎日デュークなどの上司が滝の家に説得しに来た。滝は戻るつもりはなかった。
だが、嫌がらせと思うほどのしつこさにとうとう折れ、
結局無期限の出張という条件付きで滝はFBIに戻ることになった。
そしてその1週間後、3人は成田空港へと降り立った。
「ふぅ、ひさしぶりの日本だな。」
滝はそう呟きかけていたサングラスを外し、上着の胸ポケットにさした。
「なあ、これからどうするんだ?」
「たしか、迎えの奴が来てるらしいけど・・・。」
一文字が聞くと、滝は辺りを見回した。実は3人はこれから警視庁に行くことになっている。
そんな3人の元にスーツ姿で耳が隠れるほどの髪の長い男が近づいてきた。
「?」
「久しぶりですね、和也兄さん。」
「久しぶりって・・・、!! ・・・もしかして、お前、薫か!?」
この男こそ、2年前、未確認生命体事件でクウガこと五代雄介と共に戦った刑事、一条薫である。
実はこの2人、いとこ同士なのである。
「はははっ、すっかり見違えたな、お前。この間会ったときは、まだガキンチョだったのによぉ。」
「この間って・・・、一番最後に会ったのは、21年前じゃないですか。」
「? 滝、知り合いか?」
楽しそうに話す2人にすっかり取り残された本郷は、滝に訪ねた。
「ん? ああ、すまんすまん。こいつは、一条薫。俺のいとこだ。
 んで、こいつらは、本郷猛と一文字隼人。俺のダチ公だ。」
「初めまして。自分は長野県警捜査一課の一条薫です。」
「こちらこそ初めまして。本郷猛です。」
「一文字隼人、よろしく。」
一条と本郷、一文字は握手を交わした。
「本郷さんに一文字さん。お二人のことは警視総監から聞いています。」
「えっ?」
「21年前、未確認生命体の事件と同じように、人々のために戦った2人の戦士がいるって。」
(ちっ、まったく、局長はよけいなことを言う・・・。)
2人のことはどうやらデュークから警視総監に伝わっているらしい。
「ん? まてよ。未確認生命体の事件と『同じように』・・・?」
本郷は疑問に思った。
日本で未確認生命体の事件のことはイギリスでも大々的に報じられたため知っている。
ただ本郷が気になったのは、『同じように』という言葉。
「ああ、それは・・・。」
一条は、その事件について説明した。
ある遺跡から正体不明の敵が甦り、ゲームと称して人々を殺していったこと、
五代雄介が戦士クウガとなって1人みんなの笑顔のために戦ったこと、
そして、今現在も『アンノウン』と呼ばれる敵が現れたことを3人に話した。
「なんてこった・・・、敵はショッカーだけじゃないのか・・・。」
一文字は新たなる敵の存在を知り言葉を失った。
「アンノウンに対しては、未確認生命体対策班があるので心配ないのですが、問題はショッカーです。」
「・・・・・・。」
「今のところ動きはありませんが、我々の驚異になるとこは間違いありません。」
「そっか・・・。まっ、そのために俺達がこいつを渡しに行くんだからな。」
そう言うと、滝は今回の事件の報告書を出した。
この報告書は今回の事件についての報告書である。
彼等はこれを警視庁に渡すために日本に来たのである。
そしてそのまま日本に滞在するつもりである。
「とにかく、本庁に行きましょう。」
「そうだな。」
4人は成田空港を出て、本庁へと向かった。


それからまた一週間後。
1人の青年が久しぶりに日本の土を踏んだ。
「うわぁ、久しぶりだなぁ。日本の空気は。」
仮面ライダークウガこと五代雄介がこの日帰国した。

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