第3話:目覚めろ、その魂


警視庁、警視総監室。
ここに滝和也、一条薫の他、4人の刑事と婦警が集められた。
彼等には見覚えがある。
そう、彼らは2年前、五代雄介と共に未確認生命体と戦った
かつての未確認生命体関連事件合同捜査本部の杉田守道、桜井剛、松倉貞雄、笹山望見だった。
「忙しい中、ごくろうだった。君達を呼んだのは、他でもない。」
大きな机に両腕を乗せ座っている警視総監は彼等を見回して答えた。
「1週間前、私はそこにいる滝和也君の報告書を読んで驚愕した。
 まさか、我々の知らないところでこのような恐ろしい組織が動き始めているということを知ってな。」
「・・・・・・。」
「今、日本ではアンノウンによる殺人事件が多発し、我々の手が回らない状態だというのに、
 ショッカーが復活されては、日本は終わりだ。」
「・・・・・・。」
「G3システムや、未確認生命体第4号のような戦士が多数いるとしても、
 彼等だけに負担をかけるわけにはいかない。」
G3システムとは、未確認生命体ことグロンギの壊滅後、
グロンギの復活にそなえて警視庁が開発した特殊強化装甲服のことである。
クウガのデータを元に制作されたため、外見がどことなくクウガに似ている。
「そこでだ。我々は『ショッカー対策班』を正式に設立することにした。」
警視総監は少し声を上げてここにいる6人に言った。
何となく予想していた滝と一条以外の4人は動揺を隠せず、お互いの顔を見合わせた。
「じゃあ、我々をここに呼んだのは・・・。」
少し額が広いベテラン刑事、杉田が警視総監に聞いた。
「うむ。君達は2年前、第4号と共に未確認生命体と戦った経歴がある。そこで我々は君達を選んだ。」
「・・・なるほど。」
「だが、今回はそれ以上に危険な相手だ。強制はしない。
 君達にも家族がいる。もし、今回の任務を降りたければ、申告してくれ。」
「・・・・・・。」
しかし、警視総監が彼等を見回しても誰1人申告してくる者はいなかった。
「そうか・・・、わかった。詳しいことはおって報告する。以上だ。」
こうして2年前の事件に関わった彼等が再び集結した。

警視総監室から出た6人はショッカー対策班の本部へと向かっていた。
「しかし、またこうして集まるなんて思ってもみませんでしたよ。」
「ああ、まったくだ。」
一条が言うと杉田は一条の肩を叩いて答えた。
久しぶりの再会に滝を抜かした5人の会話ははずんでいた。
「2年前の事件にしろ、アンノウンに今回のショッカーにしろ、安心して暮らせん世の中になったものだな。」
「ええ。」
「まっ、そのために我々や、G3システムがあるのだからな。」
「でも、杉田さん。本当にいいんですか?」
「? 何がだ?」
1人張り切る杉田に、細身で目つきがきつい刑事、桜井が訪ねた。
「杉田さんには、たしか娘さんがいるんじゃないですか?」
「ああ。それが?」
「今回の件は、前の事件よりも危険なんですよ。もし杉田さんの身に何か起こったら・・・。」
「わかってる。だが、これから奴らがのさばってきたら、娘にも魔の手が伸びるかもしれん。
 だから俺は戦うんだ。五代君みたいにな。」
「・・・・・・。」
「・・・まっ、死なない程度にな。」
「ふっ、そうですね。」
笑いながら杉田が答えると、桜井はおかしくなって笑った。
「しかしよぉ、その五代って奴、全然帰ってくる様子がねえなぁ。」
すっかり忘れ去られた滝が少し不機嫌そうな口調で言った。
「・・・もう帰ってきてるかもしれませんよ。」
「? なんでわかるんだ?」
「いえ、なんとなく・・・。」
「なんとなくかよ・・・。」
根拠のない一条の答えに呆れる滝。そんななか彼等は本部の前についた。
「五代の奴、このドアの奥に居たりして。」
「ははは、まさかぁ。」
「いや、わからんぞ。中で何か食ってたりしてな。」
 それぞれ冗談を言い合いながら、本部のドアを開けた。
「あ。」
「あ。」
6人は唖然とした。
そこには、整理されておらず所々に積まれたダンボールに腰掛け、
カレーを頬張っている五代雄介の姿があったからだ。
「五代・・・。」
「あ、すみません一条さん。お腹空いてたんで、勝手に出前取っちゃいました。」
「・・・いや、お前、いつ帰ってきたんだ?」
「ついさっきです。」
「いや、ついさっきって・・・。」
「一条さん。五代雄介。ただいま日本に帰って参りました!!」
ポカンとする一同をよそに、雄介は敬礼をしてニコッと微笑んだ。

「いやぁ、一条さんを驚かせようと思って連絡を入れなかったんです。
 でも、ここに着いてここの部屋に通されたんですが、誰もいなかったんで俺の方が驚いちゃいましたよ。」
「そんなことはいい。出前のことも別に謝ることはない。
 だが、一つふに落ちないのは、どうして俺がお前のツケを払わなきゃいけないんだ?」
「すみません。空港までの道のりと飛行機代で全部使っちゃって・・・。
 でも、お腹も空いてたし、しかたなく・・・。」
「まったく・・・。」
「いや、一条さん。俺、ちゃんと払いますよ。」
「いや、これくらいは俺が払う。それより五代。よく帰って来てくれたな。」
「はい。」
一条はそう言うと雄介の肩を叩いた。雄介はそれにサムズアップで答えた。
しかし、一条は雄介の無邪気な笑顔を見ていたたまれなくなった。
(これで本当によかったのだろうか・・・。
 また五代を戦いに巻き込んでしまって・・・。)
 そして、
「五代、本当にすまない。」
「えっ、一条さん?」
一条は雄介に頭を下げた。突然のことにキョトンとする雄介。
「俺はもう二度とお前を戦わせまいと思っていた。」
「・・・・・・。」
「だが、こうしてまたお前を戦わせることになってしまった・・・。すまない。」
一条は再び頭を下げた。他の者も一条の姿を黙ってみていた。だが、
「一条さん、顔を上げて下さい。」
「・・・・・・。」
「俺、がんばります。」
「五代、お前・・・。」
「俺、この間ショッカーと戦ってわかったんです。またクウガの力が必要なんだって。」
「・・・・・・。」
「俺、正直言って戦うのは嫌だけど、みんなが悲しむのはもっと嫌なんです。」
「・・・・・・。」
「だから俺、がんばります。もう一度、みんなの笑顔のために。」
雄介はそう言うと再びサムズアップをした。
そんな雄介に一条は笑いながら両手で雄介の両肩を叩いた。
そこにタバコを吹かしていた滝が近づいてきた。
「しかしよぉ、最初は、ちゃらんぽらんなヤローかと思ったけどよ、
 結構骨のあるヤローじゃねえか。気に入ったぜ。」
「? 一条さん。この人は・・・。」
「ああ、紹介が遅れたな。この人はFBIの捜査官、滝和也。俺のいとこの兄さんだ。」
「一条さんのいとこですか?」
「ああ。」
「滝和也だ。よろしくな。」
滝はそう言うと、雄介の腹を軽く叩いた。
「ひょっとして一条さんが俺に会わせたい人って滝さんだったんですか?」
「ああ。だが、本当に会わせたい人は、あと2人いる。」
「2人・・・、ですか?」
「ああ、俺のダチ公だ。今、『Latin』って喫茶店にいるけどよ、行くか?」
「はい、今すぐでも会ってみたいです。」
「よし、よく言った。」
(ふぅ、助かった・・・。)
「? 滝さん、なんか言いましたか?」
「い、いや、何でもない。こっちの話だ。」
「?」
「ま、まあ、とにかく、そういう訳だから、よっ!!」
「!!」
そう言うと滝は、雄介の首に腕をまわし、わきに抱えた。
「ちょ、ちょっと、滝さん。苦しいっすよ。」
「薫、早速よぉ、本郷と一文字にこいつを会わせに行ってくるからよ。」
「ええ。こういうのは早いほうがいいでしょう。」
「おう、じゃっ、いってくるぜ。」
滝は苦しくてもがいている雄介を連れて部屋を出ていった。
(まったく、思い立ったらすぐ実行するんだな。あの人は。)
そんな滝を見た一条は、一息ついて呟いた。その時、笹山望見が一条に話しかけてきた。
「ん? どうしたんだ?」
「一条さん。あの2人行かせてよかったんですか?」
「ん? ああ。あいつにとって、本郷さんと一文字さんの出会いはいいきっかけになるはずだ。
 それなら早いほうがいい。」
「一条さん! 私はそう言うことを言ったんじゃないです!」
「?」
「2人が居なくなったらこれ全部、私たちが片付けなきゃいけないんですよ。」
「・・・あ。」
一条は思い出したように辺りを見回した。辺りは整理されていないダンボールが山積みされていた。
「・・・やられた。和也兄さん、最初からそのつもりで・・・。」
一条はバツが悪くなり、思わず頭をかいた。

ここは郊外にある喫茶店、「Latin」。
そう、かつて仮面ライダー1号、2号、滝、と共にショッカーと戦った立花藤兵衛が営む店である。
そのLatinに本郷と一文字がいた。
2人はカウンターに座り藤兵衛となにやら話をしていた。
「まだ連絡がつかないんですか?」
本郷は口に付けていたコーヒーを離し、言った。
「ああ、もう何度も奴の家に電話しているんだが・・・。」
「おやっさん、その風祭って奴はいつから来なくなったんですか?」
今度はコーヒーをスプーンでかき回している一文字が言った。
「10日前だ。いつも楽しそうに来ていたから、無断で何日も休むような奴だとはおもえんのだが・・・。」
「・・・・・・。」
「風祭真。わしがスカウトしたんだが、なかなかの素質を秘めた奴でな、
 いい機会だからお前達や滝に指導してもらおうと思っていたんだが・・・。」
藤兵衛は風祭真と自分が映っている写真を2人に見せた。
その写真を見た瞬間、2人の表情は少しづつ険しくなっていった。
「・・・なあ、本郷。」
「ああ、まさか・・・。」
「? なんだお前達、どうしたんだ?」
2人は顔を見合わせた。2人の顔は険しい。藤兵衛は訳が分からず、2人の顔を眺めた。
「何なんだ、お前達。急に黙り込んで。・・・んん?」
「おやっさん、こいつはあくまで最悪の場合だが・・・。」
意を決して、本郷が口を開いた。
「もしかしたら風祭って奴は、ショッカーにさらわれたのかもしれない。」
「!! なんだと!?」
藤兵衛はハンマーで殴られるほどの衝撃を覚えた。
「いや、おやっさん、落ち着いてくれ。あくまで俺の考えなんだから。」
「・・・・・・。」
「ただ、何の連絡もなく忽然と消える。このやり方は奴らのやり方に似てるから。」
「・・・・・・。」
本郷が言い終わると、藤兵衛も険しい顔になり黙り込んでしまった。
店の中はとたんに重苦しい空気に包まれていった。
「・・・いや、おやっさん。まだそうだと決まったわけじゃないんだ。だから元気出してくれよ。」
重苦しい雰囲気に耐えきれず、一文字が口を開いた。
「・・・わかってる。わかってるが・・・。」
「・・・・・・。」
「奴らはわしらを何だと思っているんだ!」
「・・・・・・。」
「人間をモルモットのように扱いおって・・・!!」
「おやっさん・・・。」
体中を震わせ怒りを露わにする藤兵衛の姿を2人は黙って見つめていた。
「なあ、本郷。」
「ああ、念のため調べておく必要がありそうだな。」
「今のところショッカーの動きは無いと言っても、裏で何をしているかわからないからな。」
「ああ。しかし、こうも動きが無いのはかえって不気味だな。」
「そうだな。」
と、2人がショッカーについて話し合っていたその時だった。
店の前にバイクが止まり、滝が入ってきた。
「おっす。何しけた面してんだよ。」
「滝!」
「話はもう終わったのか?」
「ああ、ついさっきな。ショッカー対策班が正式にできるってよ。俺が思った通りだったぜ。」
そう言うと滝は一文字の隣のイスに腰掛けた。
「そっか。ついにショッカー対策班ができるのか・・・。」
「それからよ、何か本部の片づけがあるらしくてよ、めんどくさいから逃げてきた。」
「おいおい・・・、お前なぁ・・・。」
「へへっ、なんてな。ホントはこいつが帰ってきたから、お前らに紹介しようとおもって連れてきたんだ。
 おう、入れよ。」
「はい。」
滝は振り返り、雄介を呼んだ。すると中に雄介が入ってきた。
「初めまして、五代雄介です。」
「おお、君が五代雄介か。俺は本郷猛、こっちは一文字隼人。よろしくな。」
本郷と一文字は席を立ち歩み寄り、雄介と握手を交わした。
「君のことは一条くんから聞いている。」
「一条さんから?」
「ああ、『仮面ライダークウガ』として、未確認生命体と戦って日本を救った男ってな。」
「えっ!? 仮面、ライダー・・・?」
一文字に仮面ライダーと言われキョトンとする雄介。
その時、雄介の脳裏に1ヶ月前のことが甦ってきた。
カマキリ怪人、ジュゲムと戦ったときのことが。
「本郷さん。」
「ん?」
「仮面ライダーって、何なんですか?」
「は?」
「この間、カマキリみたいな奴と戦ったとき、
 しきりに俺のことを、仮面ライダー、仮面ライダーって言ってたんです。」
「・・・・・・。」
「そいつは、昔仲間を滅ぼした仮面ライダーが憎いって言ってました。」
「・・・そうか、やはりな。」
「仮面ライダーって一体何なんですか?」
この2人は何か知っている。そう感じた雄介は2人に問いつめた。
2人は困ったように互いの顔を見合わせた。
「いや、何なんですかって言われてもな・・・。」
「それは俺達のことだってしか言いようが無いんだがな。」
「・・・は?」
それから2人は仮面ライダー、つまり自分たちのことについて話し始めた。
23年前、ショッカーに拉致されバッタ怪人に改造されたこと。
脱出し『仮面ライダー』としてショッカーと戦ったこと。
心強い仲間に助けられたこと。
そして、ショッカー、ゲルショッカー壊滅後も、
デストロンやクライシス帝国などの組織と戦ったことを雄介に話した。
「そんなことがあったなんて・・・、全然知らなかった・・・。」
「まあそうだろうな。警察がすべてもみ消したらしいし。」
滝はそう言うとアイスコーヒーに口を付けた。
「あと噂では、ショッカーは日本政府とも結託していたらしい。まあ、それだともみ消すのも楽だわな。」
「そんな・・・。じゃあ本郷さんや一文字さんは何のために・・・。」
雄介は絶句した。
自分と同じ力を持ちながらも、自分よりはるかに辛い境遇に置かれ、
それでも歯を食いしばって戦ってきた。雄介はそんな2人への仕打ちが許せなかった。
「だがな五代。俺達は何もヒーローになりたくて戦ってきたわけじゃない。」
「・・・・・・。」
「人々が平和に暮らせれば、それでいいじゃないか。」
「でも・・・。」
「五代、こいつらはそういう奴なんだ。わかってやれよ。」
滝はそう言って雄介をなだめた。
「俺もな、お前と同じことを聞いたら、さっきと同じように答えたんだ。」
「・・・・・・。」
「まあ、こいつらは何ていうのかな、アレだよ、アレ。そう、欲がないんだよ、欲が。」
滝は笑いながら隣の一文字の肩をバンバン叩いた。
「それによ、お前もこいつらと同じだろ?」
「・・・まあ、そうですけど。」
「だからよぉ、わかるだろ? こいつらの気持ち。」
「はい。」
雄介は少し納得しない顔をしながらも、それを理解し頷いた。
「しかし、五代の話だとショッカーは世界中に勢力を伸ばしているようだな。」
藤兵衛が腕を組みながら言った。
「そうですね。だれにも気付かれないように地下で勢力を広げていったんだろうな。」
「なあ一文字。海外にいる仲間に連絡は取れないかな?」
「う〜ん、難しいだろうな。とりあえず日本にいる仲間に連絡しておいたほうがいいと思うが。」
「そうだな。とりあえず室戸海洋研究所の神と、
 沖縄の観光ヘリのパイロットをしている南には連絡を取る必要があるな。」
神敬介こと仮面ライダーXと、南光太郎こと仮面ライダーRX。
彼等2人は4年前のクライシス帝国との戦いの後日本に残り、それぞれの人生を歩んでいる。
「しかし、この2人しか連絡が取れないと言うのは、厳しいな・・・。」
「ああ・・・。」
だが、1号、2号、クウガを抜かした9人のライダーのうち、
連絡を取れるのはたったの2人というこの現状に、すっかり意気消沈する5人。
そんな中、雄介の携帯が鳴った。相手は一条からだった。
「もしもし、一条さん?」
『五代か? ついさっきアンノウンが出現した。』
「アンノウンが!?」
本郷、一文字、滝の3人は『アンノウン』と聞くと、すぐに立ち上がり、電話に耳を傾けた。
『現場は住宅街にある城北公園だ。今、現場に向かっている。五代も現場に向かってくれ。』
「おいおい、ちょっと待てよ、薫。
 MPD/SAUL(未確認生命体対策班)はどうしたんだよ!
 G3はまだ直ってねえのかよ!!」
『はい、まだ修理中です。』
G3は10日前、初めて姿を現したアンノウンと戦い、破壊され現在修理中である。
「かぁ〜、こう肝心なときに・・・。」
滝は呆れはて額に手をあてた。
『だから我々が代わりに出動したんです。とにかく向かって下さい。』
「わかりました、一条さん。俺達も行きます。」
「一文字、五代、行くぞ!!」
4人はLatinを出て、それぞれのバイクに跨った。
そして五代を先頭に、本郷、一文字、滝と菱形の陣形を組んで出発した。
「変身!!!」
雄介がそう叫ぶと、アークルが現れ、仮面ライダークウガに変身した。
そしてバイクの色も青みがかったシルバーの車体が黒く変色した。
「ほぅ、それが『クウガ』か。」
「? 本郷さん?」
クウガが右後ろを振り返ると、そこには本郷の姿は無く、仮面ライダー1号が新サイクロンに跨っていた。
「これが『仮面ライダー』だ。」
次は一文字の声が聞こえ、左後ろを振り返ると、仮面ライダー2号がいた。
「どうだ五代。驚いたか?」
「はい、なんか、ところどころ俺にそっくりで・・・。
 でも、2人とも同じ姿形だから、ちょっと・・・。」
「本郷が1号、俺が2号。見分ける方法は・・・、手袋とブーツの色と白いライン。
 銀で2本線が1号で、赤で1本線が俺だ。まちがえるなよ。」
「本郷さんが1号で、一文字さんが2号・・・。はい、大丈夫です、覚えました。」
「まあ、改めて、よろしくな。」
「はい、こちらこそ、先輩。」
「ふっ、先輩か。こりゃいいや。」
(うわぁ・・・、3人の仮面ライダーか・・・。これがあと9人もいるんだよな・・・。
 すげえもんだ・・・。)
後ろで3人の様子を見ていた滝が唖然としながら呟いた。
それから数分後、一条の覆面パトカーと合流した。

時は雄介達がLatinで話をしているときにさかのぼる。
ここは東京郊外のある住宅街。
そのある一角にある美杉家。
その美杉家の庭にある家庭菜園で、青年が1人、野菜と戯れていた。
彼の名前は津上翔一。訳あってこの美杉家に居候している青年である。
「おっ、キュウリがもう大丈夫そうだ。」
翔一はひらがなの「し」の字のように曲がったキュウリを10本、ザルの中に入れた。
「ただいま、翔一くん。」
「あ、おかえり真魚ちゃん。」
翔一が振り返ると高校の制服を着た女の子が立っていた。
彼女は風谷真魚。幼くして両親を失い、美杉家に引き取られている少女である。
「翔一くん、どう?」
「見てよ、形は悪いけど、スーパーで売ってるやつよりも数倍うまいよ。」
「そうじゃなくて、記憶よ、記憶!」
「・・・え? ああ、全然。」
翔一はそう言うとテラスに腰掛けた。そして真魚も翔一の隣に腰掛けた。
「ねえ翔一くん。本格的に記憶を取り戻すこと考えたら?」
「う〜ん、でも、最近はこのままでも別にいいかなぁ、って。」
「そんなこと言って、気持ち悪くないの? 記憶喪失のまま生きていくなんて。」
翔一は1年前、ある海岸で倒れているところを発見された。
だが翔一は過去の記憶、そして自分の名前さえも思い出せない、記憶喪失になっていたのだった。
この『津上翔一』という名前も、
発見されたときに握り締められていた『津上翔一』と書かれた封筒からつけられた。
こうして翔一は数々の事を経て美杉家に居候することになった。
ちなみに翔一は家事全般が得意で、美杉家の台所を預かっている。
「でも、別に今のところ不都合はないし、それに今の生活、結構気に入ってるしね。」
「ふーん。」
翔一の無頓着な答えに、真魚はおもしろくなさそうな顔になった。
真魚は翔一の過去が本人以上に気になるようだ。
「それよりさ、このキュウリで早速いろんな料理を作ってみようと思うんだけど。」
「え〜、ちょっとやめてよね。この間だって、ここで取れたトマトを使ってトマトづくしだったんだからね。」
「そんなこと言わないでさ、せっかく取れたんだから・・・。・・・!!」
その時、翔一は何かを感じ取った。まるで何かに共鳴するかのように頭がガンガン響く。
翔一の異変に気付いた真魚は翔一の顔をのぞき込んだ。
「どうしたの? 翔一くん。」
「ごめん真魚ちゃん。俺、行かなくちゃ!」
「もしかして、また出たの?」
「うん。」
翔一は真魚にキュウリが入ったザルを渡すと自分のバイク、
HONDA VTRファイアーストームへと向かった。
そしてすぐさまエンジンをかけると、何かに引かれるように美杉家を飛び出していった。
「翔一くん、ちゃんと帰って来なさいよ! 翔一くん!!」
走り去っていく翔一に真魚は大きな声で言った。
それが聞こえたのか翔一は、左手でサムズアップした。

ここは城北公園。
住宅街のほぼ真ん中に創られており、遊技場や広場だけでなくちょっとした森や池もあり、
夕方には子どもや主婦などで賑わう場所である。
そんな平和だったこの公園に突如恐怖が訪れた。
アンノウン、豹怪人パンテラス・トリスティスが突如現れたからだ。
恐怖に戦き、逃げ惑う人々。そんな彼等を面白がるようにトリスティスはゆっくりと後を追っていた。
しかし、トリスティスは逃げ惑う人々全員を狙っている訳ではなかった。
彼が狙っているのはまだ幼い子供を抱えて逃げていたある若い女性だった。
彼女が人々の群から抜け、公園の森の方へ逃げていくとトリスティスもその後を追った。
必死で走って逃げる彼女だったが、トリスティスは先回りをし彼女の前に立ちふさがった。
恐怖に震えながらも彼女は胸に抱えた子供をかばうように抱きしめた。
トリスティスは左手を胸にかざし、手の甲に漢字の『二』を書くように二本指で切ると、彼女へ襲いかかった。だが、その
時だった。
「はやく逃げて下さい!!」
そこに翔一が駆けつけ、トリスティスにヘルメットを投げつけ怯ませると、女性を庇うように立ちふさがった。
「俺にかまわずはやく逃げて下さい!!」
彼女は頷き、すぐさま逃げていった。
翔一はそれを確認すると、あるポーズをとった。
すると翔一の下腹部にベルトか現れた。
そして右手をゆっくり突き出すと、空手の呼吸法のように息を吐き、
「変身!!!」
と叫びベルトの腰の部分を叩いた。
バイク音が響き渡ると、ベルトの中心が金色に輝き翔一は二本の角、金色のボディの戦士へと変身した。
その姿はどことなくクウガに似ていた。
「ア・・・、ギ・・・、ト・・・。」
トリスティスは唸るような声で言い、その金色の戦士へ歩み寄っていった。
そして金色の戦士を殴りつけた。
だが、金色の戦士はそれをかわし、カウンター気味にトリスティスのボディへと拳を入れた。
トリスティスは吹っ飛ばされ倒れるが、
すぐさま起きあがり金色の戦士にパンチとキックの連続攻撃を繰り出した。
だがその攻撃も全てかわされ、逆にローキックで倒され、
そこへ正拳突きをされたが、トリスティスはそれをうまくかわした。
トリスティスは立ち上がり天に右手をかざすと、白い円が浮かび上がり、そこから槍をとりだした。
そしてそれを金色の戦士に向けて構えると、金色の戦士もゆっくりと構えをとった。

ちょうどその頃、5人は公園にたどり着いた。
「一条さん、アンノウンはどこですか?」
「森の方だ。俺と和也兄さんは公園に来ていた人を避難させるから、五代はアンノウンを頼む。」
「わかりました。」
クウガは頷くと、バイクのまま公園の中へ入っていった。
1号、2号ライダーもその後を追った。
森は公園の奥にある。3人はアスファルトで固められた遊歩道を通り森へと向かった。
「一文字、五代。アンノウンはG3を倒すほどの強者だ。油断するなよ。」
「わかってるよ。」
「はい。」
3人は森にたどり着き、バイクを降りると、すぐさまアンノウンの元に向かった。
だが、現場に着いた3人は唖然とした。
「なんだあいつは・・・。」
「五代、あいつは誰だ?」
「わかりません。でも、俺達に似てる・・・。」
「まさか奴は、『仮面ライダー』なのか・・・?」
そこには2本の角に赤い瞳、そして腰に巻いてあるベルト。
多少の姿は違えど、謎の金色の戦士はまさしく『仮面ライダー』だった。
見たこともないライダーに驚きを隠せない3人。
「奴は一体・・・。」
「あれは『アギト』です。」
「『アギト』・・・?」
3人が振り返るとそこには、人々の避難を終え3人に追いついた滝と一条がいた。
「あのライダーは『アギト』と言うのか?」
「ええ。10日前、初めてアンノウンが現れたとの一報がありました。
 すぐさまG3が出動し、アンノウン殲滅に向かったのですが、
 この神経断裂弾よりも強力なG3の武器は全くアンノウンには効き目が無かったんです。」
神経断裂弾とは、2年前の未確認生命体事件のときに科警研が開発したその名の通り、
命中した部分の神経を断裂させるという特殊な弾丸である。
この弾丸がこの事件の解決に大いに貢献したことは言うまでもない。
「G3はアンノウンに完膚無きまでに叩きのめされ、破壊される寸前でした。
 しかし、そこに現れたのがあのアギトだったのです。」
「あのライダーがG3を助けた・・・?」
「はい、間違い有りません。」
「なら、あのライダーは俺達の仲間なのか?」
「・・・だといいがな。」
滝は静かに答えた。その顔は少し強張って見えた。
「それはどういうことだ? 滝。」
1号ライダーが聞き返したその時だった。しばらく睨み合っていた両者が動いた。
トリスティスは槍でアギトに斬りかかった。
しかしアギトはそれをことごとくかわし、受け流した。
そしてトリスティスが突いてきたところを小脇で槍を受け止め、
無防備の右脇腹へ回し蹴りを2発お見舞いし、
怯んだところをボディに蹴りを入れトリスティスを吹っ飛ばした。
アギトは槍を捨てると、ゆっくりと構えをとった。
するとアギトの角が開き、2本から6本になると足下に金色のアギトの顔が浮かび上がった。
そしてそれは渦を巻いてアギトの両足へと吸い込まれていった。
「・・・決めるぞ。」
「ええ・・・。」
2号とクウガは呟き、アギトを見た。
どんな技で倒すのか、5人はいつしかアギトの圧倒的な力に魅せられていた。
トリスティスはよろめきながら起きあがると、構えたままピクリとも動かないアギトに向かっていった。
徐々に縮まっていくアギトとの距離。
だが、アギトはまるで自分だけの世界にいるかのように全く動く気配すら見せない。
そしてアギトとの距離がほんの数十メートルに差し掛かったとき、アギトの赤い目がカッと光った。
「はっ!! たぁぁ!!!」
アギトはトリスティスに向かって跳躍し、胸元目掛けて右足を突き出した。
アギトのキックはトリスティスの胸部に命中し、トリスティスは後方に吹っ飛ばされ倒れた。
起きあがり再び静かに構えたアギトに立ち向かおうとするトリスティスだったが、
アギトのライダーキックのダメージは確実にトリスティスの体を蝕んでいた。
「グオオ・・・!!」
トリスティスは突然苦しみだし、先ほど槍を取りだしたときに出てきた白い円が彼の頭上に現れた。
そして断末魔とともにトリスティスは爆発し果てた。
「・・・さて、問題はこれからだ。」
突然滝はそう呟くと、拳銃、デザートイーグルを取り出した。
「おいおい、滝。何やってんだ。アンノウンは倒されたんだぞ。」
「本郷、奴が俺らの仲間だと決めつけるのは早いぜ。」
「どういうことだ?」
「あいつはな、G3を破壊した張本人なんだよ。」
「なんだと!?」
「おいおい、何言ってんだよ。G3を破壊したのはアンノウンだろうが。」
「本当です、一文字さん。G3にとどめを刺したのはアギトです。」
一条はそう言うと、滝同様拳銃を取り出し、弾倉に神経断裂弾を詰め込んだ。
構えを解いたアギトは、5人に気付くと、まるで睨み付けるようにジッと見つめた。
「とにかく話は後です。皆さん、警戒して下さい。」
「そうだな。一文字、五代、気をつけろ。奴は・・・、強い。」
「おお。」
「はい。」
3人のライダーは身構えた。アンノウンをまるで赤子の手を捻るように倒したアギト。
歴戦の勇者であるライダー1号、2号もアギトに強大な力を感じていた。
5人に襲いかかってくるのか、5人とアギトの間に張りつめた空気が漂う。だが、
「・・・?」
「あれ・・・?」
突然アギトはプイッと背を向けると変身と同時に変形した翔一のバイク、マシントルネイダーに跨った。
G3を襲ったときのように向かってくるものかと思っていた5人はすっかり拍子抜けし、
呆然とアギトを見つめた。
そんな5人をよそに、アギトはバイクのエンジンをかけ、立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってくれ。君は敵なのか? それとも、俺達と同じ『仮面ライダー』なのか?」
クウガは2、3歩歩み寄り、声を上げてアギトに訪ねた。
しかしアギトはこちらの方に目も向けず、何も言わずに走り去っていった。
「あいつは一体・・・。」
取り残された5人は呆然と走り去るアギトを見つめていた。

アンノウンを倒し、公園を走り去るアギト。
流れゆく景色の中で、アギトはブツブツとあることを繰り返し呟いていた。
「あの男・・・。あの男どこかで・・・。」
公園での戦い、アギト自身も5人の事が気になっていた。特にクウガの存在が。
「思い出せない・・・。あの男はどこかで・・・。」
クウガはどこかで会ったような気がする。しかし、記憶に埋もれて出てこない。
顔が険しくなるアギト。だが、
「・・・? あれ? 何を考えていたんだっけ・・・?」
アギトから翔一に姿が戻ると、とたんにその事を忘れてしまった。
アギトに変身したことによって浮かび上がった微かな記憶。
しかし、翔一に戻るとその記憶は再び底深く埋もれてしまった。
だが、そのアギトの埋もれた記憶が、後に教科書にもない人類の歴史、
そして重大な事実をもたらすことになるとは、
「・・・まあ、いっか。」
翔一はまだ知らない。

「アギトはアンノウンを倒した後、ダメージを負って動けないG3に襲いかかり、
 特殊強化服を破壊しました。」
アンノウンが消え、平穏を取り戻した公園を、
5人は一条の覆面パトカーと滝のバイクが止めてある駐車場に向かって歩いていた。
先ほどの事もあり、公園内には人1人なく静寂に包まれていた。
「しかし、アギトは一体、何者なんだ?」
「さあな。まあ、奴もある意味『アンノウン』なんだろうな。」
滝はそう言うと、タバコの煙を吐き、ため息をついた。
「でも、敵じゃないと思います。」
そんな滝に雄介はそう答えた。
「五代、どうしてそう思う?」
「いえ、よくわからないんですけど、ただ、アギトは俺と似ているなって。」
「なるほど、ようするに俺や一文字、五代みたいにアギトの正体も同じ人間だということか。
 それなら奴が敵ではないと納得できるな。」
「・・・はい。」
納得する一同だったが、雄介は1人深く考え込んでいた。
(アギト・・・。どうしてだろう。どこかで・・・、ずっと昔に会ったことがあるような気がする・・・。)
雄介もまた、アギトと同じ思いに苛まれていた。
雄介自身生まれてこの方アギトを見たことはない。
しかし、なぜか彼の姿が記憶の奥にへばりついている。
「・・・? 五代、難しい顔してどうしたんだ?」
「あ、いえ、一条さん、何でも無いです。」
「?」
普段はあまり見ない雄介の表情が気になり、一条は訪ねた。
雄介は笑ってごまかしたが、今回の事は雄介の脳裏に刻まれることとなった。
(アギト・・・、あいつは一体・・・。)

駐車場に戻ってきた5人。
本郷、一文字は「Latin」、滝と一条は警視庁、
そして雄介は旅に出る2年前までお世話になっていた洋食屋「ポレポレ」にそれぞれ帰ろうと準備をしていた。
その時、一条の携帯が鳴った。
しばらく何かを話していた一条は携帯を切り、雄介を呼んだ。
「五代、今からポレポレでお前の帰りを祝うパーティーをするそうだ。」
「えっ!? 俺のですか? なんか悪いなぁ。」
「気にするな。これはみんなの気持ちだ。」
「はい。」
雄介はニコッと笑うと大きく頷いた。そして雄介は本郷、一文字、滝の方を向き訪ねた。
「本郷さん達もどうですか?」
「俺達もいいのか?」
「本郷さん達も来て下さい。みんなで楽しみましょう。」
「そうだな。じゃあ、行くか。」
こうして突如決まった雄介の帰国会。早速5人はポレポレに向かってバイク、車を走らせた。
日は沈みかけ、辺りが徐々に暗く鳴り始めた頃、5人はポレポレに着いた。
しかし、どこか様子がおかしい。
「・・・?」
「なんだよ、誰もいないんじゃないのか?」
店には明かりが無く、人の気配が全く無かった。
「おい、薫よぉ。こりゃ、どういうことだ?」
「いや、電話では確かにここで・・・。」
「一条さん、入ってみましょう。」
雄介が先頭になり、5人は恐る恐る中へ入ってみた。
中を見回すと、薄暗い室内にテーブルがたくさんあり、その上に何かが積み上げられていた。
雄介が目を凝らしてそれを見ようとした、その時だった。
急に店に明かりが灯り、クラッカーの音が鳴り響いた。
「!!」
『お帰りなさい! 五代雄介!!』
「えっ!? え、ええ!?」
突然のことに驚き固まる雄介。
そこには雄介と関係の深い人達が、クラッカーを持ち待ちかまえていた。
彼等は雄介を驚かすために店を暗くし隠れていたのだった。
目を丸くし、唖然とする雄介に、
ポレポレのマスターであり雄介の父親的存在である飾玉三郎が近付き肩をたたいた。
「おやっさん。」
「よく帰ったな。雄介。」
「みんな、俺のために?」
「ああ、お前が帰ってきたって、杉田刑事から聞いて急いで用意したんだ。」
雄介よりも先に日本に帰ってきた椿が雄介に歩み寄り答えた。
雄介の目の前にはたくさんの料理があり、すべて出来立てのためか、湯気が立ち上っていた。
「でも、何だか悪いなぁ。俺のために。」
「気にすることはないわよ。これは私達の気持ちだから。」
「そうです。五代さんは私達にたくさんのことを教えてくれましたから。」
「コレハ僕タチノ、感謝ノ気持デスヨ。」
科警研の榎田ひかり、遺跡の研究をしていた夏目教授の娘、実加、
城南大学の大学院生、ジャン・ミッシェル・ソレルは言った。
彼等は今日、雄介が帰ってくると聞き、それぞれ忙しい中、ここに集まった。
特に実加はわざわざ長野からここまで来ていた。
「五代。」
「あっ、神崎先生。」
肩を叩かれ振り向くと、そこには小学校時代の恩師、神崎昭ニの姿があった。
「みんなはな、お前のためにここまでしてくれたんだぞ。みんな、お前のことが大好きなんだよ。」
まさしくその通りだった。五代雄介という存在は何よりも大きかった。
何もクウガだからという訳ではなく、
笑顔を絶やさず、自分よりも人のことを思いやる、その心に皆惹かれたのだろう。
「ほら、お兄ちゃん。」
「みのり。! お、おわっ!?」
雄介は突然、妹、みのりに腕を捕まれ引っ張られた。
「おい、ちょっと、なんだよ。」
「いいからこっち来て。」
雄介は訳も分からず引っ張られ、ある女性の前に出された。
「ほら、お兄ちゃんが一番会いたかった人。」
「・・・桜子さん。」
「五代くん・・・。」
彼女は沢渡桜子。
城南大学で考古学を専攻している大学院生で、
2年前の戦いではクウガのベルトが発見された遺跡に刻まれたリント文字を解析し雄介を助けた。
「・・・ただいま桜子さん。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
久しぶりの再会に緊張しているのか、照れくさいのか、なかなか会話が続かない2人。
「俺・・・。」
「・・・・・・。」
「約束守ったよ。」
「・・・?」
「俺、『聖なる泉』枯らさなかったよ。」
「・・・・・・。」
それを聞いたとたん、桜子は口に両手を添え俯いた。
雄介の言う約束は、2年前、最後の戦いに向かうときに桜子に会い、そこで桜子が言ったことである。
聖なる泉、それは雄介の清き心を指し、それが枯れたとき、クウガは究極の闇をもたらすモノ、
つまり悪魔のような存在になってしまうのだった。
しかし、雄介は清き心を保ち続けたため、
悪魔のような存在に成ることなく、0号を倒すことができたのだった。
「桜子さん?」
雄介はどこか様子のおかしい桜子の顔をのぞき込んだ。
「桜子さん? どうしたの?」
「・・・・・・バカ。」
「え?」
「ううん。おかえり、五代くん。」
桜子は顔を上げニコッと笑うと、雄介に言った。気のせいか、彼女の目は少し潤んでいた。
「・・・うん、ただいま。」
ようやく笑顔になった桜子に雄介も笑顔になってサムズアップして返した。
「ヒューヒュー、お前ら恋人同士みたいだな。」
「なっ、ちょ、ちょっと、何言ってるんですか、滝さん!!」
すでにビール瓶一杯空けてしまっている滝が2人を茶化すと、桜子は顔を真っ赤にしてそれを否定した。
「あ、滝さん、そう見えます?」
「ちょっと五代くんまで! もう、知らない!!」
悪気はなかったのだが、調子に乗って雄介もそう言うと、
ついに桜子は怒ってしまい、店の奥に引っ込んでしまった。
「ちょっと、桜子さん。・・・なんで怒ってるんだろ?」
なぜ桜子が怒ったのか、いまいち解らず、首を傾げながらも桜子の後を追う雄介。
そんな2人を見て笑う一同。
こうして次の日から始まる壮絶な戦いのことを忘れるかのように、
彼等の平和なひとときは、夜遅くまで続いた。

ちょうどその頃、美杉家では、
「ジャーン、お待たせ。きゅうりカレーにきゅうりシチュー、きゅうりのパスタにきゅうりのグラタン。
 きゅうりのサラダに漬け物。そしてこれが自信作、きゅうりの炊き込みご飯。」
「・・・・・・。」
今日採れたばかりのきゅうりをふんだんに使った翔一特製、きゅうりづくしが食卓に並べられていた。
「翔一くん、これ全部庭の菜園で採れたきゅうりか・・・?」
「はい。採れたやつ、全部使いました。」
唖然と並べられたきゅうりづくしの料理を見つめながらこの家の主、美杉義彦が言うと、
翔一は屈託のない笑顔で答えた。
「まさかホントに作っちゃうなんて・・・。」
「も〜、勘弁してよ〜。」
義彦の息子、太一はそう言うと食卓のイスから転げ落ちた。
こうして、ポレポレの美味い料理を食す雄介達とは対照的に、
美杉家の人々はきゅうり独特の渋みが染み込んだ料理を渋い顔で食すのだった。

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