第4話:心に残る深い傷

「ここは・・・、どこだ・・・?」
 光が一切無い暗闇の中、仮面ライダーブラックRXこと南光太郎は1人さまよっていた。
目を閉じても開いても目の前の情景は全く変わらないこの場所になぜ自分がいるのか。
気がついたらここにいて、気がついたら歩いていた。
何故。
そんな疑問と恐怖が心を支配していく中、ただひたすらに明かりを求め歩き回る光太郎。
と、その時だった。
光太郎の目の前に巨大な人影がぼぉっと現れた。
その人影が姿を現したとき、光太郎は仰天した。
「え、閻魔大王・・・?」
そう、その人影こそ、地獄の王、閻魔大王だった。
閻魔大王は巨大な壇に腰掛け、ジッと光太郎を睨み付けていた。
そして閻魔大王はカッと目を見開くと、槌で壇を叩き声を荒げてこう言った。
「被告人、南光太郎。
 その方、正義の戦士、仮面ライダーと名乗り、犯してきた悪行の数々、誠によって許し難い!!!」
「なっ・・・! 俺が、悪行だって・・・!?」
光太郎はさらに仰天した。
自分は人々のために戦ってきたことはあっても、悪行を犯したことはない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は人のためにずっと戦ってきた。
 それなのに、そんなことを言われる筋合いはない!!」
光太郎も負けじと睨み付け、閻魔大王にそう主張した。しかし、
「ほぅ、まだしらを切るつもりか? いいだろう。ならば、これを見よ。」
閻魔大王はその主張を鼻で笑うと、光太郎の後ろを指差した。
光太郎は後ろを振り返り、閻魔大王の指の先を見つめた。
すると、またもや影が浮かび上がり、それは一つの映像として映し出した。
「こ、これは・・・。」
その映像を見た瞬間、光太郎は驚愕し、身震いした。
その映像とは、まだ光太郎がRXではなくブラックだった頃、
光太郎と同じく暗黒結社ゴルゴムに時期世紀王として改造された親友、
秋月信彦ことシャドームーンにサタンサーベルでとどめを刺すものだった。
「ああ・・・。」
「貴様は、『正義』という大義名分を利用し、人の心を失っているとはいえ、
 親友であり幼なじみである秋月信彦を、その手で殺した。」
「ち、違う。これは・・・、仕方がなかったんだ・・・。こうするしか・・・。」
「ほう、仕方がない、とな? ならば、これも見るがいい。」
頭を抱え悶えながら否定する光太郎に追い打ちをかけるべく、
閻魔大王は今度は光太郎の右横を指差した。
すると、三度影が浮かび上がり、映像を映しだした。
「あああ・・・。」
それを見た瞬間、光太郎は崩れ落ち、ひれ伏した。
その映像は、クライシス帝国との最後の戦い。
RXがクライシス皇帝にとどめを刺すと、
苦しみ悶える50億ものクライシス人もろとも、怪魔界が爆発、消滅したシーンだった。
「貴様は地球の民とクライシスの民を天秤に掛け、『正義』の大義名分のもとに、
 50億ものクライシスの民を全滅させた。これでもまだ仕方がないと言えるのか!!!」
「ううう・・・。」
光太郎に反論の余地はなかった。これらはすべて、事実なのだから。
「俺だって・・・、こんなことはしたくはなかったんだ・・・。こんなことは・・・。」
「今更言い訳など言っても無駄だ。南光太郎、貴様に判決を言い渡す!」
そう言うと閻魔大王は壇に槌を打ち付けた。
「被告人、南光太郎。貴様の犯してきた悪行は誠にもって許し難く、万死に値する。
 よって、死刑を言い渡す!!」
「!!」
「地獄の業火に焼かれ、骨の髄まで苦しむがいいわ!!!」
「!? う、うわあああああああああ!!!」
その瞬間、光太郎の足下が崩れ落ち、光太郎は真っ赤に燃え上がる炎の中に落ちていった。
(俺だって・・・、こんなことはしたくはなかったんだ・・・。こんなことは・・・。)

「!!」
光太郎はベットから飛び起きた。窓からは青白い月の光が射し込み、
周りからはリーンリーンと虫の声が聞こえていた。
光太郎は額に浮き出た汗を拭うと部屋を見回した。
「夢か・・・。」
光太郎は深くため息をつき、倒れるように横になると再び深い眠りについた。
しかし、そんな光太郎を二つの目が窓の外から
ジッと睨み付けているなど、当の本人は知る由もなかった。


雲一つない真っ青な空を突き破るかのように、小さな機影が姿を現した。
その機影は徐々に大きくなり、黒く長い滑走路に滑り込むように着陸した。
ここは日本随一のリゾート地、沖縄である。
すでに夏は過ぎ、観光客の数も少ない。
しかしそれでも飛行機の扉が開かれるとたくさんの人の群がはきだされた。
その中に、五代雄介と一条薫の姿があった。
「あ〜、いい天気だなぁ。本郷さんのいいつけじゃなければ、海にでも行きたかったのに。」
「そうだな。俺ものんびり海でも眺めていたいものだ。」
なぜこの2人がここ、沖縄にいるのか。
それは3日前にさかのぼる。

「・・・異議あり!!」
「ダメだ。」
「ふざけるな。俺は納得いかねえ。」
ここは3日前の喫茶店「Laten」。
そこのカウンターで本郷と一文字が険悪なムードで睨み合っていた。
古くから共に戦い阿吽の呼吸で知られた彼等がここまで険悪なムードは珍しいのだが、
雄介、一条、滝、そして藤兵衛は呆れ顔でその様子を見つめていた。
「俺はこんな適当な決め方はいやだったんだよ。」
「一文字、めんどくさいから手っ取り早くジャンケンで決めようって言ったのはお前の方だぞ。」
「くぅ・・・、まさか自分が負けるとは・・・。」
「とにかく負けは負けだ。お前は留守番。」
「くそ・・・。」
一文字はそう呟くとガックリと項垂れた。
ショッカーの復活にアンノウン。
次々と強力な敵が姿を現す中、ライダー達には仲間が必要だった。
こうして、日本にいる仲間にだけでも連絡を取ろうと、
一文字の提案で、ジャンケンでそれを決めることになった。
本郷と滝がXライダーこと神敬介がいる室戸海洋研究所、雄介と一条がRXこと南光太郎がいる沖縄。
そして言い出しっぺの一文字は一番負けしてしまい・・・。
「しかし一文字、ここに残るのも重要だぞ。」
「・・・そうか?」
「ああ。G3ユニットはまだ修理中。
 今、ここで敵が出てきたら、ここを守る者がいなくなってしまうからな。」
「・・・・・・。」
「ショッカーは今だ動きは見せない。だが、油断は禁物だ。」
「・・・わかったよ。残ればいいんだろ、ったく、しょうがねえなぁ。」
一文字は渋々ながら承諾した。
こうして一文字は東京に残り、本郷と滝は室戸へ、雄介と一条はここ、沖縄に向かった。

潮の匂いが香る海辺の道を雄介が乗るビートチェイサー2000と
一条のトライチェイサー2000が平行に並んで走っていた。
すぐ横の海は波が起つ度にきらめき、ウィンドサーフィンのウィンドによりさらに映えた。
「一条さん、まだですか?」
「首里城の近くだと聞いてる。だからもうすぐだろ。」
本郷は、光太郎が勤めている観光ヘリ会社は、首里城、
沖縄戦跡国定公園を中心に廻り、少し規模が大きいため行けば解ると言っていた。
しかし、首里城までの案内板は何度も頭の上を通り過ぎたが、
まぶしいほどの朱色の建物は全く姿を現さない。
休憩無しで走り続けて来たため、そろそろ疲労がたまってきた。
雄介が無線で一条に休もうと提案しようとしたその時だった。
「あっ、一条さん。」
「おっ。」
2人が上を見上げると、白いヘリコプターが頭の上を通り過ぎていった。
2人は道路の脇にバイクを止めると、空高く飛ぶヘリを見送った。
ヘリはそのまま首里城方面へと消えていった。
「この近くかもしれんな。」
「そうですね。行きましょう。」
2人はそれぞれのバイクに跨ると再び首里城方面へ向け走り出した。

白いヘリは旋回すると、「H」と書かれた丸い円の中心にゆっくりと着陸した。
プロペラが徐々に力を無くしていくと、
パイロットは帽子、マイク付きヘッドホン、サングラスを外しヘリを降りた。
そして、事務所へと向かいながら、ジャンパーのチャックを下ろし、両手の皮の手袋を外した。
彼こそが仮面ライダーブラックRXこと南光太郎。
歴代ライダーの中で、クウガに次いで若い戦士である。
「社長、ただいま戻りました。」
「おお、南君か。ちょうどよかった。」
光太郎が事務所に戻ると、そこには頭が薄く小太りの社長と、
長髪で仏頂面の男と、絶えずニコニコと笑っている青年が向かい合って座っていた。
「お前にお客さんだ。東京から来た五代雄介君と一条薫君だ。」
2人は立ち上がり軽く会釈をした。すると光太郎も返すように会釈をした。
「まあ、ゆっくりしていって下さい。」
社長はそう言うと奥の社長室へと引っ込んだ。
「初めまして。自分は警視庁ショッカー対策班の一条薫です。こちらは友人の五代雄介です。」
「ショッカー対策班・・・?」
「はい。本郷猛さんの使いでやってきました。」
「本郷さんの・・・? ああ、じゃあやっぱり・・・。」
「? やっぱり?」
「・・・ここでは何ですし、首里城まで行きませんか?」
光太郎はそう言うとニコッと笑った。

首里城。かつて沖縄が琉球と呼ばれていた時代の城址。
沖縄地上戦で全壊したものの再建され、
今では首里城公園として解放され沖縄の象徴的な建造物となっている。
そこを雄介、一条、光太郎の3人が話しながら歩いていた。
「じゃあ南さんは俺がクウガだってことを知ってたんですか?」
「いや、知ってたというより、そんな感じがしたんだ。五代さんは普通の人間じゃないって。」
「でも、どうして解ったんですか?」
「俺の腹の中にも君と同じような石が埋め込まれてるからね。
 もしかしたらそれが反応したのかもしれない。」
光太郎の腹の中に埋め込まれた石、『キングストーン』。
まだRXの前身のブラックの時に、次期創世王の証として暗黒結社ゴルゴムによって埋め込まれた石。
キングストーンと雄介のアマダム。
両者とも強力なエネルギーを発するため、互いに反応したのだろう。
「それで、俺に用って。」
「ええ。あなたもご存じかと思いますが、今、東京では『アンノウン』と呼ばれる敵が現れました。」
光太郎の問いに一条が神妙な面もちで答えた。
「他にも、まだ表立った活動はしていませんが、ショッカーも復活しました。」
「・・・・・・。」
「俺達が本郷さんの使いでここに来たのは、あなたにも協力して・・・。」
「!! うわぁ・・・。」
一条が話を進めていく中、3人の視界が開けた。雄介は思わず唸った。
3人の目の前には広大な首里城の中心、御庭(うなー)が広がっていた。
「すごいなぁ。俺、初めて見た。」
「お、おい、五代!?」
雄介は2人より先に歩き出し、子どものように目を輝かせながら御庭を見回した。
「フッ、まったく、しょうがない奴だ。」
一条は呆れながらも、子どものようにはしゃぐ雄介を見て笑った。
「五代さんはいつもあんな感じなんですか?」
「ええ、あいつは子どもみたいに純粋で、自分よりも他人のことを一番に考えられる。
 そんな奴です。」
「・・・・・・。」
「だからこそ、2年前の戦いも戦ってこれたし、
 『究極の闇』をもたらす禁忌の姿(アルティメットフォーム)になっても、
 純粋な心のままでいることができたのです。」
「・・・でも俺は、五代さんの様にはなれない。」
「え?」
「一条さん。ここに来たのは俺にも戦ってもらいたいからですよね?」
「え、ええ。」
「すみません。俺、戦えません。」
光太郎はどこか悲しく微笑んで答えた。
「・・・なぜ?」
一条はまるでこうなることを解っていたかのように、顔色を変えず聞き返した。
「俺は、友をこの手で殺した。」
「・・・・・・。」
「俺と一緒に改造されて、必ず助けると約束した友を俺は殺した。」
「・・・そのことについては、本郷さんから聞きました。あの時は仕方がなかった。
 秋月さんの意志はシャドームーンの悪の意志に支配されて元に戻ることは不可能だったと。」
「でも、結果的には俺は助けることはできなかった・・・。
 それに、俺はクライシス帝国の50億の人達を殺した・・・。」
「それだって、こうしなければ地球の人達は助からなかった。」
「わかってる! でも・・・、両方が助かる手が、あったはずだ・・・。」
「・・・・・・。」
「一条さん、あなたの言い分もわかる。今、俺の力が必要としているってことも・・・。
 でも、ダメなんだ。俺が変身して戦うたびに人々は不幸になっていく・・・。
 そんなのはもう・・・、いやなんだ・・・。」
「南さん・・・。」
「帰って下さい。一条さん。俺、このことは、あまり思い出したくない・・・。」
「・・・・・・。」
顔を手で覆い、静かに語る光太郎と静かに見つめる一条。
そんな2人を四方の門や宮殿が見つめていた。

「やっぱダメでしたか。」
「ああ。」
夜。雄介と一条はホテル近くの沖縄料理店で夕食を取っていた。
「本郷さんから話を聞いていて覚悟はしていたんだが・・・。」
雄介と一条は沖縄に来る前に、本郷から光太郎のことを聞いていた。光太郎の過去の事を。
そして最後に、光太郎の「心の傷」は思ったよりも重く深いため、
生半端な説得では心を開かないことを伝えられた。
「でも俺、南さんの気持ち、解る気がします。」
「?」
「俺だって、助けることができなかった人が何人もいるから・・・。」
「・・・・・・。」
一条は無言のまま烏龍茶を一口飲んだ。それから2人は黙ってしまった。
黙り込む2人の周りには食器の音や、客の話し声や注文の声などがざわめきとなり包み込んでいた。
「・・・でも俺、明日南さんを説得しに行ってきます。」
しばしの沈黙の後、雄介がようやく口を開いた。
「だってこのまま帰れないし、
 それに、みんなでがんばらないとショッカーやアンノウンには勝てないような気がして。」
「そうだな。もう少し粘ってみるか。」
「大丈夫ですよ。なんとかなりますよ。」
そう言うと雄介はいつものようにサムズアップをした。と、その時、
「お待ちどう様でした〜。」
「!!」
「!!」
2人のテーブルに子豚一頭丸々使った料理が運ばれてきた。

「!!」
その夜、光太郎はまたも悪夢を見て飛び起きた。
「・・・信彦。お前も俺を憎んでいるんだな・・・。」
光太郎が見た夢は、シャドームーンから元に戻った信彦が
両手のシャドーセイバーで何度も何度も斬り付けるというモノだった。
斬られた感触が生々しく残り、また、信彦の恨めしい形相が目が覚めた今でも
光太郎の脳裏に焼き付いて離れず、光太郎は頭を抱え悶えた。
「許してくれ、信彦。許してくれ、許してくれ・・・。」
そんな苦しむ光太郎を窓の外から見つめる人影があった。それは、
「もう少しだ。もう少しで南光太郎を『壊せる』。」
と呟くと、ニヤッと笑った。

次の日、雄介は早速、光太郎が勤める観光ヘリ会社へと足を運んだ。
「・・・五代さん。何度来たって俺は戦いませんよ。」
つい昨日の事だけに、雄介を見た光太郎の反応は冷たいモノだった。
「一条さんから聞いたんでしょ? 俺はもう戦いたくないんです。」
「わかります。俺、南さんの気持ちわかります。」
「・・・・・・。」
「俺だって、助けられなかった人が何人もいますから。」
「・・・・・・。」
「2年前、0号と戦ったとき、俺、全然敵いませんでした。
 俺、メチャクチャにやられて、奴は俺の目の前でたくさんの人を笑いながら殺していきました。」
「・・・・・・。」
「俺、悔しくて悔しくて。俺が弱いせいだ、俺がもっと強ければって思ったんです。」
「・・・・・・。」
「だから俺、戦ったんです。嫌だったけど、でも、俺がやらなきゃ、みんなが悲しむから。」
「・・・でも、俺は五代さんのように強くはない。」
光太郎はそう言うと、雄介が来る前に買って置いた缶コーヒーを飲んだ。
「俺は今でもあの時の夢を見る。
 そして手には信彦を殺した感触が、耳にはクライシス人の苦しむ声が今でも聞こえるんだ。」
「・・・・・・。」
「俺には、戦う資格がないのかもしれない。」
「資格なんて関係ないです! みんなを守りたいってその気持ちがあれば・・・。」
「だが、俺は、その守るべきものを殺した。だからもう、戦えない・・・。」
光太郎はそう言うと口を閉ざした。そして雄介も何も言えず黙ってしまった。
「・・・けど、そんな格好いいことを言ってるけど、本当は戦いたくないんだ。」
「・・・・・・。」
「・・・本郷さんに伝えてください。
 俺は戦いに行くことはできないけど、みんなの無事を祈ってると・・・。」
「!! 南さん!!」
光太郎は虚ろな目で言うと、突然崩れ落ちた。
雄介は何とか受け止めたが、光太郎の顔を見て驚いた。
よく見ると光太郎の顔色は青く、目の下には黒い隈ができていた。
そう言えば、昨日初めてあったときもどことなくやつれている感じがしていた。
「五代さん、すみません。」
「南さん。どうかしたんですか? すごくやつれてますよ。」
「実は最近、寝てないんだ。」
そう言うと光太郎はゆっくりと立ち上がり、目を擦った。
「寝てないって、何があったんですか?」
「ああ、実は、ずっと悪い夢を見てるんだ。」
「悪い夢、ですか?」
「ああ。2ヶ月位前から、ちょくちょく見ているんだ。
 その時はそれほど気にはしてなかったけど、
 ここ2週間位から毎日見るようになって・・・。
 そうしたら最近は寝る度に見るようになって、寝ればすぐに夢を見る。
 それの繰り返しで、眠れないんだ。」
(2ヶ月前・・・?)
雄介は2ヶ月前という言葉に変な違和感を感じた。
何か変な共通点があるような気がしたが、すぐには思い出せなかった。
「でも、そんな体じゃ仕事に関わるんじゃ・・・。」
「大丈夫。コーヒーやガムとか噛んで、ヘリの中じゃ寝ないようにしてるから。」
そう言うと、眠気覚ましの板ガムを9枚全部口に押し込んだ。
本人は大丈夫だと言うが、生気をなくした顔に説得力はなかった。
「それで、その夢って・・・。」
「さっき言ってた信彦やクライシス人を殺した時の夢。」
「!!」
それを聞いた雄介はようやく気付いた。
違和感を覚えた2ヶ月前。
それは本郷の研究所の職員が次々と消えたあの事件と重なる。
(まさか・・・。)
雄介に嫌な予感がよぎった。
「それじゃあ、俺は仕事に行ってくるから、本郷さんによろしくおねがいします。」
光太郎はおぼつかない足取りで、へりへ向かった。
そして、その夜もまた光太郎は悪夢にうなされた。

光太郎は大の字になり横たわっていた。
動こうと思っても、両手両足を何かで固定され体を動かすことも出来ず、
しかも声を出すこともできない。
その時、両手にシャドーセイバーを持った信彦が現れた。
信彦は怪しく笑うと光太郎の両足に刀を突き刺した。
激痛が光太郎の全身に走り渡るが、体が動かせず、
声も出ない光太郎はまるで虫のようにジタバタともがくだけだった。
信彦は両刀を引き抜くと、次は両肩に突き刺した。
(やめろ、やめてくれ。)
光太郎は信彦に向かって何度も叫んだが、声が出ないため全く伝わらない。
するといつの間にか光太郎の周りをたくさんの見覚えのない人々が取り囲んだ。
その者たちはそれぞれ手に木の杭を持っていた。
何をされるか察知した光太郎は脱出しようと何度ももがくが無駄な努力だった。
そして信彦と人々はそれぞれ手にしている物を光太郎の体に何度も突き刺した。
光太郎に脳天を突き付けるほどの激痛が走る。
だが、おかしいのは明らかに致命傷となる場所に刺されているのにも関わらず、
まったく死ぬ気配がないのだった。
ただ、拷問のように気絶するくらいの激痛が繰り返し向かってくる、それだけだった。
気も遠くならない。ただ激痛だけが走り渡る。
(痛い・・・、痛い・・・。死にたい・・・、死なせてくれ・・・。)
光太郎は涙を流し、虚ろな目で天を仰いだ。
と、その時、徐々に痛感がなくなってきた。
(ああ・・・、ようやく死ねる・・・。)
光太郎はまるで暗闇に吸い込まれるように意識を失っていった。
だが、その時だった。
「南さん!!」
「!?」
光太郎は目を覚ました。そこには明るい自分の部屋と、雄介と一条の姿があった。
「五代さん、一条さん、どうしてここへ?」
「良かった。南さん、あと少しで死ぬところだったんですよ。」
「? どういうことですか?」
雄介の言うことがさっぱり解らず光太郎は顔をしかめると、雄介は話し始めた。
「南さんの話が気になったんです。
 悪い夢を見始めた時期と、ショッカーが活動したした時期が重なったのが。
 なんか偶然とは思えなくて、ずっと南さんを張ってたんです。
 そうしたら思った通りでした。」
雄介の話が終わると、一条が拳銃を抜き、ベットの横にある窓に向かって拳銃を構えた。
「出てこい! お前がそこにいるのはわかってる。」
すると、窓ガラスが割れ、中に突風が入ってくると同時に、15歳くらいの少年が姿を表した。
群青色の髪に白い顔、獣のような瞳に頬に入った青のタトゥー。
明らかに地球の人間とは思えないその姿に3人は驚いた。
「お前は、ショッカーなのか?」
「・・・・・・。」
「なぜ南を追い詰めるような真似をする!」
「・・・・・・。」
「答えろ!!」
だが、その少年は無言のまま、ただ、ベットの上から3人を見つめているだけだった。
一条は撃鉄を引いた。
得体の知れない相手だけに、いざというときに備えた。
と、その時、少年がようやく口を開いた。
「・・・なぜ邪魔をする。」
「?」
「もう少しで南光太郎を『壊せた』のに。」
そう言うと少年は雄介と一条に向かって手のひらをゆっくりと突き出した。
すると、一瞬空間が歪んだと思うと、強烈な衝撃波が襲い、2人を吹き飛ばした。
雄介は壁に激突し、一条はそのまま玄関の外まで吹き飛ばされた。
「五代、大丈夫か!?」
「・・・南さんは?」
一瞬、意識を失い気が付いたときには、すでに少年と光太郎の姿はそこにはなかった。
「!? 南さん!!」
「くっ、しまった! やはり奴はショッカーだったんだ。
 仮面ライダーである南を殺しに来たんだ。」
「でも、どうして悪い夢で追い詰めるようなそんなまわりくどい事をしたんですか。
 寝込みを襲うとか、いくらでもそんなチャンスはあったのに。」
「わからん。だが、このままでは南が危ない! 追うぞ!!」
「はい!」
2人はすぐさま光太郎の家を飛び出し、少年と光太郎の後を追った。
そんな2人をアメリカンハットを被った男が影から見守っていた。


ここはアメリカ軍基地の横にある空き地。
基地拡張のためか、所々に土が盛られ、鉄骨が山のように積み上げられていた。
「がっ、あ・・・。」
光太郎は少年に連れ去られここに連れて来られた。
放り出された光太郎はふらつきながらも起き上がったが、
すぐさま少年が発する衝撃波で吹っ飛ばされ二転三転し倒れた。
「お前を『壊して』、その後、死ぬまでいたぶろうかと思ったけど、もういいや。
 今ここで殺してやる」
少年はそう言うと、再び立ち上がろうとする光太郎を衝撃波で吹っ飛ばした。
連日の睡眠不足による疲労と体力低下で、光太郎はもはや立ち上がることはできなかった。
すると少年は人差し指を自分の方へ引き寄せると、光太郎の体はスゥッと浮かび上がり、
少年の元まで引き寄せられ、寸前で止まった。
少年は意識がもうろうとしている光太郎をそのまま宙に浮かせ、拳を握り締め光太郎を殴った。
まるでサンドバックのように何発も何発も光太郎を殴り飛ばした。
「4年前、あるところに小さな子供がいた。」
「・・・・・・。」
「その子は、父親が幼いころに死んで、母と2人で生活していた。
 でも、寂しいと思ったことは一度もなかった。
 家の周りに住む人たちに愛されていたからだ。」
「・・・・・・。」
「何の不自由もなく、何ら普通に生きていくのかと思ってた。
 だが、そんな平凡な人生を狂わす事が起きた。
 少年が住む怪魔界に崩壊の危機が訪れたんだ。」
「・・・・・・。」
「怪魔界の国、クライシス帝国の皇帝は、
 その危機を回避すべくお前らが住むこの世界を征服しようと考えた。
 そうすればたくさんの人は助かり、生き長らえることができるはずだった。
 だが、それを阻止しようとするバカな奴が現れた。・・・お前だよ!!」
「!!」
少年は光太郎の顔面を思いっきり殴りつけた。
その瞬間、口の中にたまっていた血が吐き出された。
「お前のせいで計画は一向に進まなかった。
 そんなことをしている間にも怪魔界は崩壊していった。」
「・・・・・・。」
「そしてついに、お前は皇帝を倒した。
 その瞬間、怪魔界は崩壊し、たくさんのクライシス人は飲み込まれていった。
 ただ1人、その子を除いてな。」
「・・・・・・。」
「母親は、この子だけは助かるようにと、すべての力を使って、その子をこの世界に飛ばした。
 ・・・結局、助かったのはその子ただ1人だった。
 その子は復讐を誓った。母を殺し、すべての人の未来を潰したお前にな。
 そしてその子は・・・、この僕だ!!」
「!!!」
少年は先ほど以上の力で光太郎を殴り飛ばした。
光太郎は吹っ飛ばされ、大の字になって倒れた。
「お前は知らないだろう! 僕が今までどれほど惨めに過ごしてきたか。
 常に1人になった寂しさに耐え、地球人が残した残飯を食べて、
 寒いときには、ボロ毛布をまとって耐えてきた事を!! でもお前は何だ?」
少年は倒れている光太郎の胸倉を掴むと、無理やり立ち上がらせた。
もう、光太郎の意識は無いも等しかった。
「あの時のことを忘れて、のほほんと平和に暮らしていたじゃないか!!」
「・・・・・・のほほんと暮らしてなんかいないさ。」
少年の大声に気付いたのか、光太郎は腫れ上がった目を開き呟いた。
「俺はこの4年間、ずっと罪の意識で苦しんでいたさ。
 これしか手はなかったのか、他に手はあったんじゃないかって。」
「今ごろそんな言い訳するな!!!」
少年は手を離すと、三度衝撃波で光太郎を吹き飛ばした。
「そんなある日、僕はショッカーに拾われた。
 何で僕がクライシス人だって知ってたのか分からないけど、復讐に力を貸してやるって言ってきた。」
「・・・・・・。」
「それからの僕の生活は充実した日々だった。
 元々、クライシス人には超能力が備わっているから、
 それを引き出すための苦しい訓練を毎日やったけど、全然苦じゃなかった。
 むしろ、復讐の機会が近づいてくるのが待ち遠しくてしかたがなかった。」
「・・・・・・。」
「そして僕はこの力を入れた。
 それで2ヶ月前、夜、お前に暗示をかけてお前に悪夢を見させるようにしたんだ。
 毎日毎日悪夢にうなされて、お前の精神を壊してから、衝撃波でいたぶろうと思ってね。
 でも、それももう終わる。」
少年は倒れている光太郎に歩み寄り、光太郎の上に手をかざした。
「100トンの衝撃波をお見舞いしてやる。さすがのお前も耐えられないだろう。」
「・・・・・・。」
光太郎の上にかざされた手にものすごい力が集まっていくのを感じた。
だが、光太郎はピクリとも動かない。それほどダメージが大きかったのか。
いや、それだけではなかった。
光太郎はこれですべての罪を清算できると思っていた。
だから観念したように、光太郎は抵抗もせず静かに眼を閉じた。
その時だった。
「フン、無様だな、RX。」
「!! 誰だ!!」
光太郎の頭の中に謎の声が響き渡った。
光太郎が目を開くとそこは真っ白な空間が広がり、
目の前には銀色のボディ、緑色の瞳、RXの以前の姿、ブラックに似たその出で立ち、
かつての宿敵であり親友のシャドームーンがいた。
「シャドームーン・・・。どうして・・・。」
「貴様の無様な姿を見に地獄から帰ってきたと言えば、わかりやすいか?」
「・・・・・・。」
「あんなガキに良いようにあしらわれやがって。それでも次期世紀王か?」
「・・・くっ。」
「あんなガキ、貴様のリボルケインで突き殺せばいいだろうが。」
「そんなこと! できるもんか・・・。
 あの子がああなったのは、俺のせいなんだから・・・。」
「フッ、情けない顔しやがって。ホントに、しょうがないな。光太郎。」
「!? 信彦・・・!?」
その時、シャドームーンの変身が解け、信彦が姿を現した。
唖然とする光太郎に信彦は少し呆れた笑顔で語り掛けた。
「よっ、久しぶりだな光太郎。」
「信彦・・・。」
「なんだよ、久しぶりに会ったってのに、しらけた顔しやがって。」
「・・・・・・。」
「・・・まだ、気にしてるのか? あの事を。」
「当たり前だ! 俺は、お前を殺したんだぞ? 
 必ず助けるって言ったのに、助けられなかった・・・。」
「助けられたさ。」
「え!?」
光太郎は信彦の意外な言葉に驚き信彦を見た。
信彦はまた笑った。
「俺はシャドームーンに改造されてから、シャドームーンの悪の人格に閉じこめられて、
 俺がしてきた悪行の数々をずっと見てきた。死ぬほどつらかった。」
「・・・・・・。」
「お前を一度殺したときは特につらかったさ。
 もういやだ、もう死にたい、誰か助けてくれって。」
「・・・・・・。」
「どうせ、元に戻らないんだったら、せめてお前の手でとどめを刺してもらいたい。
 ずっとそう思ってた。
 お前にとどめを刺されて死んで、甦って、また死んで、
 俺はようやく解放されたような気がしたよ。」
「・・・・・・。」
「お前があのまま俺を放っておけば、俺はもっと取り返しのつかないことをしてただろう。
 おそらく俺の手で妹も殺してたかもしれない。だからお前が気を病むことはないんだ。」
「・・・・・・。」
しかし、信彦の説得にも関わらず光太郎の表情は暗いままだった。
信彦はため息をつくと光太郎の両肩を掴み揺さぶった。
「しっかりしろ、光太郎!! 
 お前がそんな調子じゃ、今まで守ってきた人達はどうなる!!」
「よしてくれ!! 俺はそれと引き替えにたくさんの罪の無い人を殺した。
 両方助かる何かがあったのかもしれないのに!!」
「たしかに、お前のしたことは正しいのかわからん。
 いや、間違ってるのかもしれん。けどな、あれを見ろ。」
「!!」
光太郎が目を見開き、飛び込んできたモノは、光太郎に追いついた雄介と一条が、
生身の体で必死になって戦う姿だった。
何度も少年が放つ衝撃波に吹き飛ばされながらも、
必死になって立ち向かう2人の姿を見た光太郎は言葉を失った。
「あいつらだって、自分のしてることが正しいとは思ってないさ。
 でもな、あいつらには守るべきモノがあるんだ。
 だからああやって歯を食いしばって戦ってるんだ。」
「お前には守れる力がある、守るべき者もいる。
 だから、俺を守れなかった分、お前が守るべき人たちを守ってくれ。
 たのむ、光太郎!!」
「・・・・・・。」
「光太郎・・・。」
しかし、光太郎は苦痛の表情を浮かべながら頭を抱えた。
光太郎の心は確実に揺れ動いていた。
だが、やはりどこか踏ん切りのつかないモノがあった。
信彦は肩を落としため息をつくと、光太郎の両肩を軽く叩いた。
「そうか・・・。それでもダメなのか・・・。
 わかった。それがお前の意志なら仕方がない。けど、あの子はどうするんだ?」
「・・・・・・。」
「あの子はお前を恨んでる。どうするつもりなんだ?」
「・・・わかってる。俺なりにけじめをつけるつもりだ。」
「・・・死ぬつもりか?」
「・・・・・・。」
「わかった。もう何も言わない。けど、もう一度よく考えるんだ。
 お前が自分の命を渡すほどの価値のあるモノなのか。」
「え!?」
「あの子は母親に助けられたと言っていたな。」
「ああ。」
「その母親が復讐を望んでると思うか?」
「そ、それは・・・。」
「そこらへんをよく考えるんだな。」
信彦はそう言うと振り返り光の中へ立ち去ろうとした。
「信彦!」
「お前には善し悪しどちらにせよにもやらなきゃいけないことがあるだろ。
 俺は先に逝く。」
「信彦・・・。」
「わかってる、もう、何も言うな。」
「すまん・・・。」
「目を覚ませ。そして、あの子にちゃんとけじめをつけるんだ、光太郎!」
「信彦!!」
光太郎が気がつくと、空には満点の星空が瞬いていた。
光太郎がゆっくりと体を起こすと、そこには少年と戦う雄介と一条の姿があった。

雄介も一条も少年の衝撃波を喰らいフラフラだった。
だがそれでも立ち上がり立ち向かおうとしていた。
「変し・・・、うあっ!!」
変身のポーズを取った雄介だったが、それよりも早く少年の衝撃波が襲い、
吹っ飛ばされ真後ろにあったビートチェイサーに激突した。
「五代、俺が奴を引き付ける。今のうちに変身しろ!」
「はい。」
一条は拳銃を構え少年へ向け撃った。
しかし弾丸は衝撃波により寸前で止まると、一条へ向かって跳ね返っていった。
「ぐあっ!!」
「一条さん。うあっ!!」
弾丸は一条をかすめて全て逸れたが、一条は吹き飛ばされ、雄介もまた、吹き飛ばされた。
「くそ・・・。」
一条は落とした拳銃を拾おうと手を伸ばした。
しかし、手に取る瞬間、少年が立ちはだかった。
「くぅ・・・。」
「これ以上邪魔をするなら、南光太郎を殺す前に、お前達を殺す。」
少年は一条に手をかざし、再び力を集め始めた。
雄介がふらつきながら助けに入ろうとするが、間に合わない。
一条に向け衝撃波を発射しようとしたその時だった。
足取りがおぼつかなく、今にも倒れそうなほどボロボロの体の光太郎が3人の元へ歩いてきた。
「待つんだ。その人達は関係ない。憎いのは俺のはずだ。」
「南・・・。」
「南さん!!」
「南・・・光太郎・・・。観念したか。」
「俺は、自分のしたことに弁解するつもりはないし、いいわけもしない。
 好きにすればいい。」
「・・・いい度胸だ。」
少年はそう言うと光太郎を蹴り倒し、両手を光太郎の上にかざした。
「さあ、懺悔しろ。そして死ぬほど自分のしたことを後悔しろ。
 母さんやみんなの恨み、今、ここで晴らしてやる!!」
「わかってるさ。わかってる。けど、一つだけ君に聞きたいことがある。
 君を助けたお母さんはこんなことを望んでいるのか?」
「・・・なにぃ?」
光太郎の思いもしない言葉に驚き顔をしかめた。光太郎はさらに続けた。
「俺には物心ついたときには親父もお袋も死んでいて、
 お袋がどういうものかってのは全くわからない。
 でも、自分の力、すべてをつかって助けたのは復讐じゃなく、
 君に生きていてもらいたかったからじゃないのか?」
「だ、だまれ! 何、勝手な事をベラベラと!!
 二度とその減らず口利けなくしてやる!!」
「待て! 南の言うとおりだ。」
逆上した少年が光太郎に向けて衝撃波を発射しようとしたとき、
ふらつきながら立ち上がった雄介と一条が制止した。
「母親と言うのはつねに自分の子の幸せを願ってる。
 お前を助けたのは、こんな知り合いなど誰もいないこの地でも、
 強く、強く、強く生きて欲しかったからじゃないのか!」
「・・・だまれ。」
「もう一度、よく考えろ!! 
 お前の母親は、自分の復讐のために我が子を生かすのか? 違うだろ!!」
「だまれ、だまれ、だまれ、だまれ!!! お前らに何がわかる!!
 こうなったら・・・、お前達全員吹き飛ばしてやる!!!」
一条に問いつめられ、さらに逆上した少年は掌を光太郎と雄介、一条へと向けた。
そして最大限の衝撃波を放つために再び掌に力を集めた。
掌周辺の空間がまるで陽炎のように歪み始め、
強いエネルギーが三人に向けて発射されようとしたその時だった。
「憎しみに駆られた、そんな姿を君のお母さんは望んでない!
 君のお母さんは悲しんでる!!」
「!!」
しかし、雄介が叫んだときにはすでに遅かった。
衝撃波は三人に向け発射され、辺りは轟音と共に砂ぼこりが舞い上がった。


―――――お母さん。
――――――――――どうしたの?
―――――僕たちこれからどうなっちゃうの?
――――――――――それはお母さんにもわからないわ。
          でもね、お母さんは今みたいに地球の人達を追い出して
          そこに私達が住むのは間違ってると思うの。
―――――どうして?
――――――――――地球に住んでいる人達もそこに生きてるから。
               私達と同じようにお父さんやお母さん、友達に好きな人もいるから。
               だから私達には地球の人達の幸せを壊す権利なんて無いのよ。
―――――でも、それだと僕たちが死んじゃうよ。
――――――――――誰だって死ぬのは怖いわ。
               お母さんだって怖いもの。
               でも、だからといって地球の人達を追い出す理由にはならないわ。
―――――僕にはわからないよ。
――――――――――もっと大きくなったらわかるわよ。


「・・・?」
「・・・生きてる?」
今だ砂ぼこりが消えぬ中、2人の影がうごめいていた。
雄介と一条、2人は生きていた。
強力な衝撃波を受け、体中の骨は砕け、内臓は破裂しているだろうと思っていたが、
体には何ら異常は無く、そのかわりに顔には小石が当たったためか所々に傷がある程度だった。
頭がボーとしているせいか、まだ意識ははっきりせず、周りを見回したとき2人はギョッとした。
2人のすぐ後ろには衝撃波によって出来たと思われる巨大なクレーターができあがっていたからだ。
「・・・これは一体どういうことなんですか、一条さん。」
「まさか、外れたのか?」
「もしかして俺が出す直前にあんなことを言ったからですかね?」
「そうかもな。」
「・・・そうだ! 南さんは?」
2人はハッとしてすぐさま光太郎を捜し出した。
砂ぼこりを手で払いながら、必死になって光太郎の名を呼んだ。
すると砂ぼこりが治まり始め、1人の影が浮き出てきた。
「南さん、よかった・・・。」
雄介の顔がほころび光太郎に駆け寄った。
だが雄介は再び驚いた。
それは光太郎ではなく、群青色の髪の少年だった。
思わず身構える雄介と一条だったが、どこか様子がおかしかった。
少年は跪き、大粒の涙を流し嗚咽していた。
「・・・・・・。」
「お母さんは・・・、地球人を追い出して・・・、
 僕達が住むのは間違ってるって言ってた・・・。」
「・・・・・・。」
「お母さんは・・・、僕達に・・・、
 地球人の幸せを壊す権利は無いって言ってた・・・。」
「・・・・・・。」
「お母さんは・・・、お母さんは・・・、優しかったんだ・・・。」
「・・・・・・。」
「そんなのないよ・・・。今頃思い出すなんて・・・。」
「・・・・・・。」
雄介と一条は互いの顔を見合わせた。
その顔は悲しかった。
そこに、砂ぼこりの中から光太郎が姿を現した。
どうやら光太郎の方も衝撃波が逸れたようだ。
「・・・君。」
「・・・お前のせいだ。お前のせいだ!!!」
少年は光太郎をキッと睨み付けると、すぐさま胸ぐらを掴み、顔に掌を押し当てた。
「お前が悪いんだ。みんなお前が悪いんだ・・・。」
「・・・すまない。」
「お前が・・・、みんなお前が・・・。
 ・・・ううう、うわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
少年は大粒の涙を流し、崩れ落ちると大声で泣き出した。
4年前からずっと押し込めてきた感情が一気に吹き出したような、そんな涙だった。
そんな少年を光太郎は抱き締め、
「すまない・・・。すまない・・・。」
と、詫び続けた。
光太郎は死ぬ覚悟は出来ていた。
しかし信彦はそれではこの少年が救われないことを知っていた。
だから光太郎の意識の中に現れたのだった。
この光太郎の詫びには、少年に対する、大切な人達を奪ったことの懺悔、
復讐をやめてくれたことへの感謝、そして信彦に対する感謝の気持ちがこもっていた。
雄介も一条もこれで全てが丸く収まると思っていた。
だが、この後、予想だにしない出来事が襲った。
「・・・ちっ、つかえねえガキだ。」
「があ!!?」
「!?」
その時、どこから飛んできたのか、
長さ15cmほどの鋭く尖った針(ニードル)が少年の背中に突き刺さった。
「な・・・、お、おい、しっかりしろ!」
「くっ、いったいどこから・・・。」
「! 一条さん、あれ!!」
雄介が指差した先には、土の盛られた小高い山のてっぺんにアメリカンハットの男が腰掛けていた。
「言いくるめられて、はい、そうですか、か。ふん、所詮はガキだな。」
「き、貴様は・・・?」
「俺は、そいつのお目付役さ。」
「お目付役・・・? まさか、貴様、ショッカーか・・・?」
「ショッカー・・・? ああ、昔はそう言われてたらしいな。」
「昔・・・? どういうことだ!!」
「『RotR』。『Revenge of the Rider』。
 貴様ら仮面ライダーに煮え湯を飲まされ続けてきた
 俺達の同胞が貴様らへの復讐の為に組織したものだ。」
「俺達への、復讐・・・? じゃあ!」
「そうだ。そのガキは、南光太郎を殺すために派遣された俺達の仲間さ。」
「なんてこと・・・。」
「おい、しっかりしろ!」
その時、光太郎の声に気付いた雄介と一条が目を向けると、
 そこには、虫の息の少年と彼を抱き起こし声をかけ続ける光太郎の姿があった。
「くっ、しっかりしろ、しっかりするんだ!」
「・・・僕は、僕は、何をしていたんだろう・・・。」
光太郎の声に気付いたのか、少年の瞳が静かに開いた。
「お母さんの仇を討つために、今まで生きてきたのに・・・。
 今頃お母さんは復讐なんて望んでないって、気付くなんて・・・。」
「もういい。もう喋るな。」
「お母さんは怒ってるかな? お母さんは許してくれるかな・・・?」
「・・・許すに決まってるだろ! この世に、子どもを許さない親が何処にいる!!」
「よかった・・・。」
少年の頬に一筋の涙が流れ落ちると、少年は息絶えた。
あまりにも儚すぎる命だった。
「けっ、やっと死んだか、このマザコン小僧が。
 あんまり、ママー、ママーってうるさけりゃ、とどめを刺すところだったけどな。」
「き、貴様ぁ!!」
「許さない! 俺はお前だけは絶対に許せない!!」
卑劣なこの男に普段は見せない怒りの感情を表に出す雄介。
そしてクウガに変身しようとポーズを決める雄介。
だがその時、少年を静かに横たわらせた光太郎がポツリ呟いた。
「この子が可哀想すぎる・・・。
 俺のせいで自分の居場所を失って、復讐の為だけに今まで生きてきて、
 そしてようやく自分の過ちに気付いたとき、お前に裏切られた・・・。」
「南さん・・・。」
「この子の一生は何だったんだ? この子は何のために生きてきたんだ?」
「南・・・。」
「俺は、俺は、俺は貴様を許さない!! 貴様だけは、俺が倒す!!」
光太郎は涙を浮かべた瞳で男を睨み付けた。
そして男の元へ歩みだした。
「俺を倒す? はっ、笑わせるな。
 変身も出来ない分際で。知ってるんだぜ。
 お前はエネルギー源である太陽光が無ければ変身も出来ないってな!」
まだRXになる前、光太郎はクライシス帝国に捕まり
仮面ライダーブラックへの変身機能を破壊され宇宙に放り出されたことがあった。
だがその時、太陽の光がベルトのキングストーンに反応し新たなる力、
RXへの変身能力を身につけることができた。
そのため、太陽の光を浴びることによりハイブリットエネルギーが生まれ、
より強靭な力を発揮することができるが、
その反面、太陽が出ていない夜中では変身することすらできない。
「変身できないテメエはカスのような人間に同じ!
 テメエに勝てる要素は一つもねえんだよ!」
「それはどうかな?」
「なにぃ?」
その時だった。東の空が輝いた。朝日が顔を出したのだ。
「ひ、日の出、だと・・・?」
あまりにも良すぎるタイミングに唖然とする男をよそに、
光太郎は4年間封印していたRXへの変身を解いた。
「変身!!!」
ベルトから発せられる七色の光が体を包み込むと、
光太郎は、丸みを帯びた全体に黒と深緑のボディ。
大きな瞳に左胸のエンブレムがついた黒き戦士、仮面ライダーブラックRXへと姿を変えた。
「俺は、『光の王子』太陽の子、仮面ライダーブラック、RX!!」
その瞬間、RXの姿が朝日によって神々しく輝いた。
RXは男を睨み付け、ゆっくりと歩み寄っていった。
「南さん。」
「五代さん、手を出さないでくれ。こいつは俺の敵だ。」
「くっ、変身したぐらいでいい気になるな!!」
その瞬間、衣服や皮膚が弾け飛び、
中からスズメバチのような模様をしたハチ種怪人、キラーが姿を現した。
さらにベルトのバックルには、本郷が持っていたものと同じショッカーのエンブレムがあった。
キラーは少年に刺さったものと同じニードルを両手ずつ4本取りだした。
「予定は狂ったが、RX! お前は俺が殺す!!」
「そんなもので、俺は殺せない。」
「ほう・・・。だったら、ためしてやろうか!!」
キラーは8本のニードルをRXに向けて投げた。
ニードルはRXに向かって一直線に飛んでいき、全てのニードルがRXの体を貫通した。
しかし、RXは一度立ち止まりはしたものの、再びキラーに向かって歩き出した。
「な、何ぃ!? ど、どうなってるんだ!?」
キラーは今し方起こったことに理解できず驚いていたが、
すぐさま無数のニードルをRXに向けて放った。
だが、それら無数のニードルも全てRXを突き抜けていった。
あきらかにRXにはダメージはなかった。
「くっ、どんなトリックを使ったか解らねえが、直接攻撃すれば避けようがねえだろ!!」
キラーはニードルを指の間に挟み、RXに殴りかかった。
拳はRXの左胸を突き抜けることなく命中した。
だが今度はニードルがまるで硬度の硬い鎧に当たったように、粉々に砕け散った。
唖然とするキラー。
するとRXは左手でキラーの首を掴み、
まるで仮面の下の形相が分かるような殺気を放ち、睨み付けた。
「どうだ。そんな針では、あの子は殺せても俺は殺せない。」
「どうなってるんだ・・・? 突き抜けたり砕け散ったり・・・。」
「まだ解らんか? お前、俺の事を知ってるんだろ?」
「・・・?」
「俺には2つの変身能力がある。
 一つは『悲しみの王子』ロボライダー。
 そして『怒りの王子』バイオライダー。
 今の俺の中にはあの子が受けた怒りと悲しみがある。」
「ま・・・、まさか・・・。」
「そうだ。今の俺にはその2つの力があるんだよ!!」
ロボライダーの能力は頑丈な体とパワー。
バイオライダーの能力は水のような軟体の体にスピード。
キラーの放ったニードルが突き抜けたり、
粉々に砕けたのはその能力がRXの状態にも備わっていたからである。
RXは右手をゆっくりと上げ、メキメキと骨が鳴るほど強く拳を握った。
「さあ、ロボライダーお得意の、必殺のパンチ・・・。受けてみろ!!」
「ぐはぁ!!」
RXの拳はキラーの顔面を捉え、キラーは地面が抉れるほど豪快に吹っ飛ばされた。
「くっ、つ、強い・・・。」
「どうした? もう終わりか?」
(どうする。こいつ、聞いた以上に強い・・・。このままじゃやられる・・・。
 ・・・だがまてよ。こいつを使えば勝てるかもしれない。)
「どうした。観念したか?」
「けっ、確かにテメエは予想以上に強かった。だが、最後に笑うのは、この俺だ!!」
「むっ!?」
そう言うとキラーは背中の透明な羽を広げて、この場から飛び去った。
「・・・逃がさない。アクロバッター!!」
RXが呼ぶと、彼方からバイク音が響き、一台のバイクが物凄いスピードで近づいてきた。
それはブラック時代からの相棒で、バッタをモチーフにした青いバイク、アクロバッターである。
RXは高速走行しているアクロバッターに飛び乗り、すぐさまキラーの後を追った。
「一条さん、俺たちも後を。」
取り残された雄介と一条も、二人のバイクへ向かい後を追おうとした。
だが、その時だった。
この騒ぎに気付いたアメリカ駐屯兵が雄介たちの前に立ちふさがった。
ついこの間のテロ事件のせいか、アメリカ兵は全員M16ライフルを手に持ち、
異様なほど殺気を放っていた。
一条は事のあらましを説明しようとアメリカ兵へ近づいていった。
だがその時、雄介はこの兵隊達から発せられる邪悪な気を感じ取った。
「あぶない!! 一条さん!!」
「え!?」
雄介の声に振り向く一条。
その時、一人のアメリカ兵がライフルの安全装置を解除し、一条へ向けて発砲した。
「変身!!」
雄介はすぐさま変身のポーズをとり、クウガへ変身すると、凶弾から一条をかばった。
「があっ!」
「五代!」
「大丈夫です。何ともないです。」
タイタンフォームになれば生体鎧によってダメージはなかったのだろうが、
そんな余裕もなくマイティフォームのまま一条をかばったため、クウガは多少のダメージを負った。
「一体、どういうことだ。」
「奴らは人間じゃないです。たぶんショッカーの戦闘員です!」
「なんだと!?」
クウガがそう言った瞬間、アメリカ兵は迷彩服を脱ぎ捨てた。
すると中からはクウガがかつて東南アジアの某国で戦った戦闘員達が姿を表した。
「くっ、奴らは俺たちの足止めか。」
「一条さん。ここは危険です。逃げてください。」
「いや、俺も戦う。」
「でも。」
「甘く見るなよ。こう見えても2年前、未確認生命体の戦いで生き残ったんだからな。」
一条はそう言うとトライチェイサーの陰に隠れ、
神経断裂弾を拳銃の銃創に詰め込むと、戦闘員に向けて発砲した。
戦闘員にもこの弾丸の効果はあるらしく、次々と倒れていった。
そしてクウガも、マイティフォームのまま単身突撃。
次々と戦闘員を倒していった。


アクロバッターのライトがキラーを捉えた。
「逃がさない。お前だけは絶対に逃がさない。」
RXはアクセルをさらに絞った。キラーとの差が詰まった。
「ふん、いい気になるな!!」
キラーは振り向きざま、4本のニードルを放った。
「くっ。」
しかしRXは突如飛んできたニードルに反応に、寸前のところでかわしたが、
1本だけRXの右肩をかすった。
それを横目で見たキラーはニヤッと笑みを浮かべた。
「無駄だ。そんなモノで俺は殺せないと何故わからない。」
「そいつはどうかな?」
「なにぃ? !!? う、うぐっ・・・。」
その時、RXが突如苦しみだし、バイクから転げ落ちた。
「ぐああ・・・、こ、これは一体・・・。」
「俺がただ逃げていただけだと思ったか?」
肩を押さえ苦しむRXの前にキラーが立ちふさがった。
その手にはニードルが、だが、通常の銀色のニードルとは違い、
真っ黒く、針の先からは謎の滴が一滴一滴こぼれ落ちていた。
「そ、それは・・・。」
「こいつか? こいつはな、強力な劇毒を含んでる特別製のニードルだ。
 こいつが刺されば、象だって一瞬で死ぬぜぇ。」
それはこぼれ落ちる滴が物語っていた。
落ちた付近の雑草は滴がかかったとたん、瞬時に枯れていたからだ。
「お前も、死ぬぜ。」
「貴様・・・。」
RXはよろめきながら起きあがり殴りかかるが、
グロッキー状態のためパンチに力は無く、
キラーに受け止められるとカウンターで腹部にニードルを突き刺された。
「ぐわあああああああああ!!」
RXは倒れのたうち回った。
ニードルはすでに抜いているが、毒はRXの体の中を急速に徘徊していた。
そのうちRXの力が急激に抜けていく感じがした。
「ほう、お前の二つの力が毒から守ったか。なかなかやるじゃねえか。」
その通りだった。
ロボとバイオの力が毒物を中和し、痺れるほどの毒はあるものの、
なんとか死ぬまでにはいたらなかった。
だが、その代償も大きい。
体の中にあった二つの力が失われてしまい、
もう体を固くすることも軟体化することもできなくなった。
「だが、もう終わりだ。残念だったなぁ。仇が討てなくて。」
「・・・くそぉ。」
今すぐにでも殴り飛ばしたい。
しかし、体が動かない。
RXは悔しさから土を強く握り締めた。
そしてキラーは、うずくまるRXの背中にニードルを突き刺そうと腕を振り上げた。
その時だった。
「!?」
空気が抜けるような銃声が響きわたると、キラーの握っていたニードルが粉々に吹き飛んだ。
「な、何だ!? どうなってるんだ!?」
キラーが訳も分からず、辺りを見回した。
そしてRXも状況が分からず顔を上げた。
そんな2人の目に映ったのは、土の盛られた山でペガサスボウガンを構えるクウガの姿だった。
その銃身からは硝煙が上がっていた。
「南さん、今です!」
「ちっ、てめえ!!」
キラーは黒いニードルを取り出すと、クウガに向けて投げた。
しかし、その時には山の反対側へ飛び降りたあとだった。
(そうだ。俺はここで寝てるわけにはいかないんだ・・・。
 あの子の無念を晴らすために、戦わなくちゃいけないんだ!!)
「うおおおおおおおおおお!!」
体中のしびれでRXは立てる状態ではなかった。
だがRXはふらつきながら、しかし力強く立ち上がった。
「な、何!? そんな馬鹿な。立ち上がることすらできないはずなのに。」
「俺は仮面ライダー。こんなところで、負けるわけにはいかないんだ!!!」
仰天するキラー。
そんなキラーを圧倒するようにRXは叫んだ。
その時、RXのベルトが輝き出した。
「キングストォォォン、
   フラァァッシュ!!!」
キングストーンフラッシュ。
光太郎の腹部に埋め込まれたキングストーンから発せられる高エネルギーを放出する技。
この技で幾度もブラック、RXのピンチを救ってきた。
そして今回も。
七色の光がRXを再び包み込み、体中に取り巻いていた毒気が一瞬にして消し飛んだ。
「そ、そんな馬鹿な。毒が全て抜けただと!?」
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
そしてRXを包み込んでいた光が再びベルトへと集まり始めた。
RXはベルトの中央へ手をかざすと、光は剣の柄のような形へ姿を変えていった。
「リボルケイン!!」
RXはそれを引き抜くと光の束は、光の剣、リボルケインになった。
RXは構え、キラーに向かって突っ込んでいった。
「く、くそ。く、来るな。」
キラーは自分に向かって一直線に向かってくるRXに恐れをなし、
がむしゃらにニードルを投げまくった。
しかし、RXはそれらを全てなぎ払い、香車のごとくキラーへと突っ込んでいった。
「く、来るなぁ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「リボル、
  クラァァァァシュ!!!」
リボルケインがキラーの腹に突き刺さった。
リボルケインが貫通した背中から火花が散り、キラーは苦しそうにうめいた。
だが、それでもキラーは最後の力を振り絞り、黒いニードルをRXに突き刺そうとした。
しかし、それよりも早くRXは、キラーの腹を抉るように横一文字に斬った。
「くそぉ、くそぉぉぉぉ、RX!! 
 ・・・あ、RotRに、栄光、あ、れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「・・・・・・。」
RXが振り返り、リボルケインを祓った瞬間、キラーは断末魔を上げ爆発した。
RXは何も言わず、静かにリボルケインをベルトに収めた。
「南さん。」
「南。」
すべてが終わり、そこにクウガと一条が駆け寄ってきた。
しかし、RXは彼等を見ることなく、天を仰いだ。
空にはすでに太陽が空高くまで上がり、RXを優しく包み込むように照らしていた。

雄介、一条、そして光太郎の三人は赤い自動車の前に立っていた。
それはRXの専用車、ライドロン。
怪魔界のワールド博士が設計した水陸地中を走行可能な万能マシンである。
光太郎はライドロンのドアを開けると、抱きかかえていた少年の亡骸を乗せた。
「・・・この子の母親が眠る一番近い場所に葬ってくれ。」
そう言ってドアを閉めると、ライドロンは前部から鈎爪グランチャーを出し、土の中へと進んでいった。
「悲しいことだが、これで母親の近くにいけるんだな・・・。」
一条は静かに呟いた。
雄介の表情も沈んでいた。光太郎は2人の方を振り向き言った。
「結局、俺はあの子も救うことも出来なかった。」
「・・・・・・。」
「わかっただろ? 俺が戦う度に人々は不幸になっていくんだ・・・。」
「・・・・・・。」
「俺は、誰も守れない。」
雄介、一条は何も言えなかった。
光太郎は振り返り、太陽を見上げ、そして呟いた。
「でも・・・。」
「?」
「俺が戦わなければもっとたくさんの人が不幸な目に遭うかもしれない。」
「・・・・・・。」
「もし俺が戦うことで、少しでもそれが減るなら、俺は戦いたい。」
「南さん!」
「五代さん、一条さん。俺を、東京へ連れていってくれ。たのむ。」
光太郎は2人に頭を下げた。
それを聞いた雄介と一条は互いに手を叩き合い喜んだ。
そして、
「南さん、東京へ行きましょう。」
「・・・はい!」
雄介がいつものようにサムズアップをすると、光太郎は初めて生き生きとした笑顔を見せた。
(信彦、すまない。お前の元に行けるのは、当分先になりそうだ。)
こうして光太郎を仲間にし、帰路につく3人。
光太郎はそう静かに呟くと、心なしか信彦がどこかで微笑んでいるように感じた。

雄介と一条が光太郎を仲間にした頃、
室戸海洋研究所にいるはずの本郷と滝は、何故かアメリカにいた。

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