- 第1話 -
「それではアンノウンだとおっしゃるのですか!」
警視庁、大会議室。そこにはG3-Xの英雄・氷川誠の姿があった。
「10年前に氷川部長が撃退した謎の生命体、
 アンノウンは諸君らも知ってのとおり、完全に消滅したと信じられてきた。
 だが、今回の事件はアンノウンの生き残りの可能性を疑わざるを得ないものだ。
 そこで氷川部長に来てもらったのだ。」
「アンノウンは私とアギトの力を持つ者とで滅ぼしたはずです。
 それはG3システムに録画された映像でもお分かりの通りです。
 私にはどうしても今回の事件がアンノウンの仕業だとは思えないのですが。」
アギトと神の闘いから10年、かつて神と闘った男たちはそれぞれの「場所」で生きていた。
この日、警視庁、いや日本を震撼させた「西港海水浴場惨殺事件」は
かつて人々を恐怖におとしめた謎の生命体、アンノウンの再来を予感させるものだった。
「海水浴場で429人もの人命が一瞬にして失われているんだ。
 例えアンノウンの仕業ではなかったとしても、極めて重大な事件であることに間違いはない。
 氷川部長、G7ユニットの最高司令官として本件の真相究明、解決に当たって欲しい。」
「分かりました、必ずこの未知の犯人を逮捕します。」

「G7」ユニット、氷川誠が装着したG3および、G3-Xの進化改良版の特殊強化装甲服である。
当時は未確認生命体、アンノウンの撃退を目的に活躍していたが、
アンノウンの消滅後、年々凶悪化する犯罪に対処するための目的でその研究改良は続行された。
また、いつ何時アンノウンのような生命体が現れても十分対処できるように
人命救出などの目的だけではなく、「戦闘力」としても警視庁が極秘に改良を続けている。
そこで生まれたのが第7世代、G3から5代目のG7(Generation7)システムである。

「それにしても何なんでしょうね、今回の事件。
 まさかアンノウンが復活したとか、そんなことが無ければいいんですが。
 ってねえ、氷川さ、氷川部長、聞いてるんですか!」
「あ、すいません、ちょっと気になることがあって。
 尾室管理官、これについて少し調べてもらえませんか?」
「なんです、これ?
 まさか氷川部長、この人が犯人だって言うんですか?
 でもなんでこんな研究者が。」
「違いますよ、この人は犯人じゃありません。
 ただ、少し気になることを耳にしまして。
 やっぱり私にはアンノウンの犯行とは思えない、なにか別の生命体の存在があるのかもしれない。
 だいたい、アンノウンは超能力者を狙うんですよ?
 今回の犯行は無差別だし、現場に残された足跡も人間と同じものですから。」
「分かりましたよ、部長、城西大学の研究室、調べてみます。」

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「いらっしゃいませ! 今日のおすすめは"翔一スペシャル"ですが・・・、
 あ!氷川さん!お久しぶりです!元気してましたかー?
 いやー、ホント何年ぶりですかねー。」
そこにはあの日と変わらない笑顔があった。
アギトこと津上翔一の経営するレストランアギトに氷川が足を運んだ。
「お久しぶりです、津上さん。少しお尋ねしたいことがあって伺ったのですが。」
「なんですか? ボクに分かることなら何でも聞いてください。
 それより氷川さん、お腹減ってませんか?
 今日のおすすめは翔一スペシャルなんですけど!」
「いや、勤務中ですから・・・」
「そんなこと言わずにどうぞ! 食べてみてくださいよ。きっと美味しいですから!」
「はあ・・・。」
いつもの調子で翔一のペースに乗せられる氷川。
何年経ってもふたりの関係は変わらない。
「ところで津上さん、最近なにかおかしなことはないですか?
 たとえば突然体に衝撃が走るとか。」
スープを飲む手を休めて氷川が尋ねた。
「うーん、最近のおかしいことと言えば太一が大学に合格したことくらいですかね。
 ほら、氷川さん知ってるでしょ、美杉家の太一!
 ぜんぜん勉強してなかったのになぁ。
 やっぱりおじさんの血を受け継いでるんですかねー! はっはっは!」
「津上さん、そういうことじゃなくて、
 アギトであるあなたに変化はなかったかとお尋ねしてるんです。」
「あれからアンノウンも出てこなくなって何も変化ありませんよ。
 あ、でもやっぱり昔みたいには体が動かないかな? アギトの力も歳には勝てませんよ。」
「そうですか、実はご存知だと思うんですが、海水浴場で一瞬にして400人あまりの人が殺されたんです。
 アンノウンの犯行とも噂されているんですが、やはりアンノウンではないようですね。
 津上さんはアンノウンが現れると身体が反応すると以前、お聞きしました。」
「でも氷川さん、アンノウンじゃなかったら一体、誰が400人も・・・」
「それが分からないんです。
 私も調査を続けますが、津上さんもお気付きの点などありましたら、ご連絡ください。」
氷川が渡したごく普通の名刺に翔一は驚いた。
「え!氷川さん、警視監ってなんですか? もしかしてすごくエラくなったんですか!
 いやー、スゴイですね!今日はどんどん食べていってください!
 氷川さんの、おっと、氷川警視監の昇進祝いですから! 」

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「氷川君!G7システムの整備は完了よ!いつでも出動できるわよ。」 
「ありがとうございます、小沢教授。」
氷川が微笑むその先にはG3システムの開発者、小沢澄子の姿があった。
「まさかこんな形で私が警視庁に呼び戻されるとはね。
 G3-Xの一件以来、私は二度と警察とは関らないと思ってたんだけどね。」
「無理を言って申し訳ないです。」
アギトと闇の神との闘いの際、G3-Xを半ば「強奪」同然のかたちで出動させた小沢は
自らその身を引き、大学で教鞭を執っていた。
ところが今回の件でG7ユニットの強化を図るため、
G7ユニット技術責任者として警視庁に招聘された。
当初、小沢はこの招聘を断っていたが、氷川からの猛烈な依頼と、
ただならぬ事件の実態を知るにつれ、気持ちが揺らいでいった。
気がつけば、かつてのメンバーである氷川、尾室と共にG7ユニットに携わることになっていた。

そしてもちろんこの男も。

「これはこれは、小沢教授、お久しぶりです。」
「あら北條君、久しぶりね。またイヤミでも言いに来たのかしら?
 まさかG7の装着員になりたいとか言うんじゃないでしょうね?
 すぐに逃げだしちゃうあなたには無理よ。」
「それはありませんよ。明日の日本を守る若い警察官にG7システムはおまかせしますよ。
 私も小沢さんももう歳ですからね。
 あらら、小沢さん、少し背が縮まれたのではないですか?
 歳をとると背が低くなると言いますからね。」
「あなたやっぱりその性格は直ってないわね!私の前から消えなさい!鬱陶しい!」
「おやおや、物騒ですね。小沢さんと氷川部長のご活躍、期待していますよ、フフフ。」
「え?またボクだけ仲間はずれですか〜」
尾室が力ない声で嘆いた。 

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「西港海水浴場惨殺事件」を機に急速に危機管理体制を強化した警視庁。
かつて世間を騒がせた未確認生命体やアンノウンに続く、
新たな生物の存在さえも視野に入れたかつてない強化体制を持って警視庁は万全の布陣をしいた。
西港海水浴場惨殺事件から2ヶ月、再び静けさを取り戻しつつあった警視庁は未曽有の事件に直面する。 
日本有数のテーマパークとして広く知られるフェスティバルランドで768人もの人々が惨殺された。
今回の事件も前回同様にごく短時間にして信じがたい人数が惨殺された。
対新生物のために整備されたG7ユニットは現場到着を目前にして
大量の死者を出す最悪の結果になってしまった。

「小沢教授、氷川部長、今後のG7ユニットの方向性についてなにか意見が欲しいんだが。」
「今回はG7ユニットの責任者として、このような事態を招いてしまったことをお詫びいたします。
 今後このようなことが無いように、今後のG7ユニットのあり方についての方針案を製作しました。
 まずはお手元の資料をご覧ください。」
神妙な顔つきの氷川は続ける。
「G7ユニットはその源流であるG3ユニットからGトレーラーという大型トラックを
 主な移動手段として利用してきました。
 ですが、今回のような短時間での犯行を食い止めるためには、
 1秒でもはやく現場に到着することが最重要課題です。
 そこで、G7ユニットは新たに高速移動用バイクを導入し、
 Gトレーラーよりもはやく現場に到着できるようにしたいと考えます。」
「それはなぜ今まで実現しなかったんだ。すぐに出来そうなものだろう。」
事態のあまりの大きさに会議に出席している警視総監が指摘した。
「いえ、G3からG6まではその着衣の重量、バッテリーや武器の関係から、
 Gトレーラーのバックアップが不可欠でした。
 ですが今回、小沢教授をお招きして、G7ではこれらの要因をすべて取り除くことに成功し、
 大きなバックアップ体勢は確保しつつ、高速移動用バイクのみでの出動も可能になりました。」
「なるほど、とにかくようやく新生物に対するG7システムも完成したのだ、
 G7ユニットの活躍を期待している。頑張ってくれたまえ。」

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「警視庁から各局、港区西本町に謎の生命体が出現との情報、至急現場に急行せよ!」 
「ついに出たわね!いよいよG7、出番よ。」
待ちきれない様子の小沢。10年ぶりのG系戦闘オペレーションの開始である。
「頼んだぞ、古東! G7出動!」
「はい!」

氷川が出動を命令した人物、
G7ユニットの装着員、古東良介(ことうりょうすけ)は大阪府警から来た熱血漢。
氷川にひけをとらぬ情熱家で勇敢すぎるところがあり、身体には銃弾が2発、ボルトが4本入っている。
悪を決して許さない性格は氷川そっくりだが、氷川よりは器用な人間だ。
本来、G7ユニットは装着員が複数人体制で組織されるはずだったが、
その過酷すぎるトレーニングにより、多くの装着員希望者が辞退していった。
たったひとり残った古東は苦しさを苦しさと思わないその能天気さで地獄のトレーニングをこなしてきた。

「グライドチェイサー発進!」
 G7ユニットからの新兵器、高速移動用バイク「グライドチェイサー」に乗り、
現場に急行したG7古東から無線で音声、映像を受信するG7ユニット。

「新生物発見!GM-O1R、発砲します!」
「待て!古東! 犯人は人間だ!」
氷川のとっさの音声にわずかに的を外し、発砲された弾丸は新生命体の足をかすめた。
痛みのために地面でのたうちまわる新生命体。
 古東が声を荒げてG7ユニットに言う。
「どういうことですか氷川部長、相手は人間に見えますがちがいます!
 いま仕留めないと大変なことになりますよ!氷川部長 !!」
「焦るな!古東!
 とにかく、生命体の動きは封じたんだ、
 トレーラーが現場に到着するまで生命体を監視してくれ。」
「り、了解・・・」

Gトレーラーが現場に到着し、新生命体に接近した時、小沢が青ざめた様子でふともらした。
「まさか日本にもいたなんて。」
「小沢教授、どうしたんですか? こいつを知っているんですか?」
驚く尾室に小沢が続ける。
「4年くらい前に中東で同じような「人間」が数人発見されたのよ。
 はじめは突然変異と考えられてたんだけど、遺伝子サンプルを分析して分かったの。
 突然変異でもクローン人間の突然変異よ。
 ほら、見て分かるでしょ?目が緑色でしょ。
 それに親指と小指が著しく短いわ。まさか生きていたなんて。」

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