- 第2話 -

「ク、クローン人間!? まさか、クローン人間ってこの生命体がですか?」
G7のマスクを脱いだ古東。
「そうよ。どこかではまだ「製造」されているとは思っていたけどね。
 でもまさか日本にもいるとは思ってもなかったわ。」
しゃがんだ小沢はクローン人間を見たままに話す。
困惑した氷川が訊く。
「でも一体、誰が何のためにクローン人間を・・・?」
「分からないわ。
 でもいい悪いは別として、今の技術でクローン人間を創ることはたやすいことよ。
 早熟技術もあるから通常の人間の10倍のスピードで成長させることも可能だわ。
 とにかく、犯人の身柄を確保して一度、本庁に戻りましょう。」

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「どうした、古東。」
本庁に戻るGトレーラーの中でひとり塞ぎ込んでいる古東に尾室が声をかけた。
「どうもこうもないっすよ。
 いったいなにがどないなっとるのか、俺には理解できません。」
普段は懸命に標準語を話そうとしている古東だが、
よほど混乱しているのだろう、大阪弁がついつい出てしまう。
小沢がそんな古東を諭すかのように言う
「理解できないのはあなただけじゃないわ。
 そもそもクローン人間をどこで、どうやって、何の目的で製造したのかも分からないし、
 なぜクローンが人を狙うのかも分からないわ。まったく謎ばっかりだわ。」
「でもおかしくないですか。」
「どうしたの、氷川君?」
「いえ、こんなことを言うのは不謹慎ですが、
 例の2件の大量殺人に比べて今回は現場急行が成功したとはいっても、
 死者0人というは出来過ぎじゃないですか?
 今回の事件と例の大量殺人事件の関係は薄いのかも知れません。
 大量殺人の犯人は別にいる可能性も考えられませんか?」
「そうね、まあ本庁でじっくりクローン人間を調べてみれば何か分かるんじゃないかしら。」

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本庁に戻ったG7ユニットは今回の事件の犯人であるクローン人間の身柄を拘置所に移した。
Gトレーラーから担ぎ出されるクローン人間の口が突然開いた
「は はなせ おまえたちも も やつらの な なかま なのか 」
「! 氷川部長!こいつ、話しましたよ!」
古東の眼が大きく開いた。
「なに! いったいどういうことだ。」
「はなせ せ は なせ」
「何言ってんだ?もう少ししっかり話せ!」
「落ち着きなさい、古東君!あなたは犯人を運べばいいの。余計な刺激は与えないで。」
「すいません・・・」
「でも氷川部長、あいつ本当に2件の事件の犯人なんですかね?
 俺も氷川部長と同じであいつが犯人だとは思えないんですよ。
 人は襲っていましたが、殺すことはできないんじゃないかと。」
「同感です。
 尾室管理官、やはり一連の事件にはなにか大きな裏があるようですね。
 とにかく、思い当たるところから調べてみましょう。」
その日、拘置所に移された犯人、クローン人間は古東G7の弾丸がかすめた足を治療するのみにとどまった。
翌日からの事情聴取においても相変わらずの反応で情報を聞き出すことは出来なかった。

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― Gトレーラー

「氷川部長、身元不明の男が本庁ロビーで部長に会わせろともみ合いになっているのですが!」
緊急通報かと思いビックリした尾室をよそに氷川が応じる。
「古東、いったい誰なんだ? 私に会いたいなんて。」
「ど、どんな方と言われましても、あ、やめんかい、お前!」
声のむこうでは男が古東のマイクを横取りしようとしているのだろう、
古東の割れた怒声がGトレーラーのスピーカーから聞こえる。
やはりここでも大阪弁が出てしまったようだ。
「俺だ、葦原だ。氷川いるのか?
 話したいことがある。いますぐに出てきてくれないか。」
「こら、貴様、逮捕されたいんか!
 暴れるだけ暴れて、揚げ句の果てに氷川部長を呼び捨てにするとは!
 こら!聞いてるんか!」
スピーカーからは葦原涼よりもはるかに狂暴な声が聞こえる。
氷川が慌ててGトレーラーを飛び出した。
警視庁ロビーでは仲間の警察官におさえられている古東と
もみ合いで乱れた服装を整えている葦原涼の姿があった。
「お久しぶりです、葦原さん。」
「10年ぶりだな、氷川。」
「こ、こら、氷川部長に向かって氷川とは!」
「古東、席を外しなさい。」
「り、了解しました。氷川部長、くれぐれもこいつにはお気をつけください。」
「なんなんだ、あいつは?」
去っていく古東を見て涼が氷川に尋ねた。
「私の部下です。葦原さんへのご無礼数々、申し訳ないです。
 あれでも根は真面目な人間なのですが。」
「ふっ、そうだな、やつはお前に似ている。不器用な男のようだな。」
「え?ぶ、不器用ですか・・・」
「どうした氷川、そんなことよりも津上から何か聞いていないか?」
「津上さんですか?
 先日、津上さんのもとを訪問したんですが、なにも特別なことはお聞きしていませんが。」
「そうか、津上は気付いていないのか。」
「気付くって、もしかして葦原さん、分かるんですか?」
「ああ、お前たちもあの事件を追いかけているんだろう。
 あの海水浴場の事件の時、衝動を感じたんだ。
 はじめはなにかの思い違いかと思っていたんだが、あの時とよく似た衝動だ。
 まさか、またアンノウンがまた現れたんじゃないだろうな?」
「はい、アンノウンかどうかは分からないんですが新生命体の存在が考えられています。
 事件の犯人らしい生命体の身柄は確保したのですが、極めて人間に近いもののようです。
 でも葦原さんだけがなぜ衝動を感じられたんですか?」
「それは分からない、ただ、津上とは違って俺はの力はギルスの力だ。
 ギルスがどんな存在なのかは分からないが、アギトよりも人間に近いのであれば、
 今回の衝動も理解できなくはない。人間に近い存在、それが俺を反応させたんだろう。」
「そうですか・・・。
 葦原さんが衝動を感じられたということはやはり人間ではない何かが動きだしたのかも知れません。
 葦原さんには今後、ご協力していただくことがあるかも知れませんが、お願いできますか。」
「これだけ人が殺されているんだ、協力しないとは言えないだろう。」
「ありがとうございます。」

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「氷川部長、捜索の結果がでました。
 天本秀樹、城西大学教授、遺伝子工学の権威です。
 学生からの評判も良くて真面目な先生らしいですよ。
 ただ、最近、研究室にこもったきりで、突然いなくなることもしばしばあるようです。」
 事件から数日後、氷川が尾室に依頼していた捜索の結果が報告された。
「ありがとうございます。ほかに何か教授についての情報はありませんか?」
「いや、氷川部長、それがホントに評判のいい先生で悪いように言う関係者がいないんですよ。
 突然いなくなるのもご病気の息子さんの通院の送り迎えかなんかだろうって。
 でも珍しいですよ、今時あんなに評判のいい先生なんて。」
「そうですか・・・ありがとうございました。」
「え?氷川部長、どうしたんですか? そんな浮かない顔しちゃって。
 そうだ、焼肉食べに行きましょうよ、焼肉! 小沢さんの歓迎会も兼ねて!」
「いいわね、じゃあ、今日は尾室君のおごりでね。
 まさか歓迎会で私に払わせるなってないわよね?
 よし決まった、古東君、一緒に行くわよ。」
「え?俺もいいんですか? 尾室管理官、ごちそうさまです!」
「えー! 小沢さん・・・」

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翌日、古東は飲めない酒を尾室に付合わされ、体調不良のままで取り調べを続けていた。
事件発生から今日で6日、クローン人間は身柄搬送の際に口を開いて以来、口を閉ざしたままだった。

「なぁ、なんでもいいから話さないとどうにもならないぞ。
 たのむから話してくれよー。」
事件以降、毎日取り調べをしている古東は何も話そうとしないクローン人間に頼み込むように言う。
「お、そうだ、カツ丼食べるか!カツ丼食ったら話し出すとか?」
古東はかなり誤った認識を持っているようだ。
幼い頃から警察官に憧れ、刑事ドラマは欠かさず見ていた。
「なぁ、そんなに俺が嫌いか?なんとか言ってくれよ。」
頭を抱える古東がぼそりともらしたその時、
「おれは は たたかう だけ の もの じゃない お おれは にんげん だ だ」
クローン人間が突如話しだした。
「闘うだけの物? 人間? どういうことだ、話してくれ。」
驚く古東は内線電話でG7ユニットのメンバーを取調室に呼び集めた。
「ほかの やつら らとは ち がう おれは あんなも の にははいら ない」
「あんなもの? あんなものとはなんですか?」
落ちついた口調で相手を安心させるように氷川が訊く。
「ぜ ぜろ はい いらない」 

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