- 第6話 -

「もしもし、氷川です。クローン人間の調査レポート、ありがとうございます。
 実はお聞きしたいことがあってお電話したのですが。」
「はい、何でしょう?クローン人間、すごく複雑な記憶があるみたいなんですけど。」
「あのぅ、レポートにある『中年男性』というのは誰か分からないでしょうか?
 イメージだけでもお伝えいただければと・・・」
真魚からの届いたクローン人間の報告書にある『中年男性』なる人物の
正体を知るために直接電話で連絡をとった氷川。
「私が『見れた』のは50代くらいの人なんですけど、白い服装です。
 ワイシャツか白衣だと思うんですけど、他にもイメージがありますから直接そちらにお伺いします。」
「すみません、お手数をおかけします、よろしくお願いします。
 警視庁では前回、お渡ししたIDカードをロビーでご提示くださればご案内いたしますので。」
「はい、それではのちほどうかがいます。」
電話を切るか切らないかで小沢が訊く。
「来てくれるの?
 ちょうどいいわ、他にもいろいろ訊きたいことがあるし。」
「はい、すぐに来てくださるそうです。
 古東、真魚さんのお迎えにロビーまで・・・」
「はい!もちろん行かせていただきます!
 真魚さんがいるならどこへでも!」
トレーニング後の汗だくのままで古東はGトレーラーを飛び出していった。

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- 警視庁ロビー 

「こら!貴様!真魚さんに近付くな!
 すいません、ささ、こちらに。」
鬼の形相、猛スピードで突進してくる古東。
古東よりも一足はやく到着していた真魚のIDカードをチェックしている警察官を押しのけて言う。
「は、はぁ・・・」
汗だくの古東に少々戸惑っている真魚。
「ま、まま真魚さん、お早いですねぇーー!」
単純な男だ、声が裏返っている。
「はい、すぐそこまで来ていたものですから。」
「そうなんですか、どうもごぉ面倒をおかけぇいたしまぁす。」
流れる汗は止まらない。
真魚はそんな古東と距離を置いて歩く。
終始この調子で真魚をGトレーラーまで案内した。

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- Gトレーラー 

「ご足労願いましてどうもありがとうございます。」
油圧式独特の開閉音のGトレーラーの扉、氷川が立ち上がってあいさつをする。
「いえ、私もどうしても報告したいことがありまして。」
「では早速なんですが・・・」
氷川が報告書についての質問をしようとしたその瞬間、
「あ、ちょっと尾室さん、いいっすか。
 ささ、真魚さん、どうぞお座りください。」
小沢の横に座っている尾室を押しのけて真魚に座席を案内する。
「はい、ありがとうございます。」
さらに戸惑う真魚。
「真魚さん、電話でもお聞きした『中年男性』のことなんですけど、
 もう少し詳しく教えていただけませんか?」
改めて質問する氷川。
その横で席を追い払われて困惑する尾室。
「50代くらいの白い服装というのは電話でも言いましたが、
 あとクローンと思われる人間の声で『やめてくれ』というのが聞こえるんです。」
「『やめてくれ』ですか、クローン人間本人の言葉・・・」
クローン人間本人が言ったとされる言葉に氷川は返答が出来ない。
いったい何がどうなっているのか、
これまで数えるほどにしか言葉を発しなかったクローン人間の
このはっきりとした言葉は何を意味するのか。
「あの、断片的な記憶しかたどれなかったのですが、親しそうに『先生』という言葉も聞こえました。」
「それで白い服装となると、医者ってことでしょうか。」
「どういうこと? 氷川君。
 白い服装っていうのは白衣じゃないの?」
これまで真魚と氷川のやりとりを見ていた小沢が氷川に聞く。
「いえ、白衣とはわからないのですが、白衣、もしくはYシャツのような『白い服装』だそうです。」
「白い服装に中年男性、先生となれば普通は医者を想像しますよねぇ。」
尾室も会話に入る。
尾室のようなごく『普通』の人間であってもこのキーワードを持って医者を想像する。
「それで、報告書にある整理した記憶の流れなんですけど、
 前半と後半で全く雰囲気の違う記憶なんです。
 前半と後半というよりも、最後の少しだけがすごく暗いというか、
 悲壮な雰囲気で『やめてくれ』もこの最後なんですが、それまではなんの変哲もない記憶です。」
「ホントに謎だらけね。
 急に記憶の色が変わってくるなんてよくあることなの?」
「私もそんなに多くの記憶を見てきたわけではないですが、
 こんなに変化の大きな記憶は見たことがありません。
 しかもこの記憶の変化の間に大きな隙間があるんです。
 記憶がないっていうか、これも今までに見たことのないものです。」
「大きな変化、大きな隙間、クローン人間だからなのでしょうか。」
氷川がぽつりともらしたその時、
「ちょっと、なんでクローン人間なのにそんなに確かな記憶があるの?
 あのクローンはどう見ても二十歳は越えてるわ、
 20年以上も前に人間を複製できるようなクローン技術はなかったからここ最近のクローンでしょ?
 早熟技術を使って育成したって考えないとつじつまが合わないのよ。
 それなのにどうしてこんなに確かな記憶がたくさんあるの?」
まくしたてるように、誰に言うでもなく小沢が言った。
「本当ですね、変ですよ、やっぱり小沢さんだなぁ。」
感心する尾室をよそに小沢は続ける。
「まさか記憶を保有したクローン?
 そんなの聞いたことがないけど考えられないことはないわね、
 現に今考えられないことがたくさん起こっているんだから。」
「記憶をもったクローン、医者ではなくて研究者ですかね?
 研究者なら氷川さんのマークしている天本教授も該当しますし、
 研究者であればそんな技術を持っていてもおかしくないんじゃないですか?」
汗を拭きながら古東が初めて口を開く。
「ホントだ、古東もたまにはいいこと言うなぁ! 
 氷川さん、小沢さん、やっぱり天本教授が何か関係してますよ、きっと!」
相槌しか打てない尾室、真魚が聞く。
「天本教授って城西大学のあの天本教授ですか?」
「ええ、そうです、城西大学の。ご存知ですか?
 どんな小さな情報でも、お聞かせください。」
天本教授に関しては氷川も敏感だ。
「私、城西大学に行ってたんです。」
G7ユニット全員の動きが止まった。
一連の事件のキーパーソンである天本教授についてどんな小さな情報でも見逃すことはできない。 
「天本教授には何度かお会いしたことがあるのですが、
 私が三回生だったころに息子さんが亡くなって。
 それから長い間休まれていました。
 私が卒業してからまた戻られたようですが、
 一人息子さんだったから相当ショックだったんだと思います。
 でもこれって関係ないですよね?」
氷川と尾室が顔を合わせた。
「氷川さん、息子さんって・・・」
「真魚さん、息子さんは亡くなられたんですか?
 その後にまたお子さんが生まれたとか、そのような話は?」
「教授、離婚されているようで、引き取られたお子さんだったんです。
 話は研究室の友人から聞きました。
 でもあまり広くは知られていないようですけど。 」
「なるほど、やぱり天本教授にはなにか隠されていますね。」
それまでは天本教授に疑いを持っていた氷川であるが、その疑いはさらに確かなものになった。
子どもの通院のために席を外していた天本教授には現在子どもはいない。
「氷川君、天本教授、もう一度お願いね。」
「はい、すぐに天本教授にあたってみます。
 尾室さんは天本教授以外にも遺伝子の専門家の調査をお願いします。」
「あ、でも僕も行かなくて大丈夫ですか?」
「ええ、今回は私ひとりで。
 できるだけ多くの情報を収集したいですから、調査をお願いします。」
氷川がGトレーラーの自動扉を開けた時
「! 氷川さん、またです!」
真魚が立ち上がった。
この衝動、クローン人間・ゼロシステムであろうか。
「真魚さん、どこですか?」
「南です!」
「よし、Gトレーラー出動!」
扉から戻った氷川はGトレーラーの出動とともにG7の準備を指示した。
「古東!G7出動だ!」
「はい!」
ピーー
Gトレーラーに入電、涼からだ。
「氷川、出たぞ、城西大学だ!」
「現在現場に向かってます、葦原さんも!」
もう電話は切れていたが涼も城西大学に向かったようだ。
真魚は携帯電話を取り出し、翔一に連絡をとる。

「G7準備完了、グライドチェイサー発進します!」
G7・古東の出動、現場の城西大学に急行した。
時速300キロを越えるグライドチェイサー、間もなく現場に到着。
直後、涼、翔一も駆けつけた。

「 変  身 ! 」

ギルス、アギトに姿を変え、逃げ惑う学生に逆行して3人は走った。
倒れ、傷ついた人の先にはやはりゼロシステムが。
「・・・」
「どうしたの!? 古東君!」
「お、小沢さん、ゼロシステムが4体・・・」

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