序章・『玄(くろ)』 

(1)

降りしきる雨の中を2台の警察車輌が走っていく。
後方を走っているのはG3ユニットのGトレーラーだ。
「まったく、何であの男がいるのよ。警護なんて私達だけで充分なのに。」
Gトレーラーの司令室で小沢澄子が毒づく。
あの男とは、前を走るパトカーに乗っている北條透の事である。
「万一の場合に備えて、と志願されたそうですが。」
G3・Xを装着し、ヘルメットだけ外した氷川誠が正直にそう答える。
「フン!どうせイイ所見せたいだけでしょ。
 だいたい万一の事があったにしてもG3・Xがいるんだから
 アイツの出番なんてある訳ないじゃない。」
「ハハ・・・」
誠は苦笑するしかない。
ヘタに口を挟んだら矛先が自分に向かうのは重々承知している。
話題を変えようと、誠は自分達が警護を命じられたものを見つめた。
「それにしても、なぜこんなモノが狙われるんでしょうか?
 どう見てもただの石にしか見えませんが。」

誠が言う石、それは未確認生命体事件の後で全国的に行われた
古代遺跡調査において発見された物であった。
類似した物が日本の東西南北から計4つ出土し一時期話題に上ったものの、
巨大オーパーツ漂着と、それと時を同じくしたアンノウンの出現により、
人々の記憶からは次第に忘れられ、細々と研究が進められているのみとなっていた。
だが、ここ最近異変が起こり始める。
発端は北で発見された黒い石であった。
化石化してしまっていた他の3つに比べ、この石は氷壁の中から発見されたため、
氷を溶かすことによって容易に復元できるのではないかと考えられ、
最も重点的に研究が進められていたのだ。
厚い氷が取り除かれ石が空気に触れたその瞬間、信じられない事が起こった。
石に付着していた何かの肉片がじわじわと増殖を始め石を覆ったかと思うと、
石が脈動をはじめ、周囲にいた研究者に襲いかかったのである。
研究者達を次々に取り込み、吸収した石はやがて人に似た形態をとり始める。
いや、それは人ではない。亀のような甲羅と蛇のような尾を持つ異形の姿であった。
研究所からの通報を受けた警察が駆けつけた時には、
既に怪物の姿は何処かへと消えていた・・・。
それから間もなく、西で発見された白い石と
南で発見された赤い石の研究室が襲われるという事件が発生する。
現場の状況から犯人はこの怪物の仕業と思われた。
これを受けて残る最後の1個、東で発見された青い石を安全な場所へ移送する事が決定。
怪物が人知を超えた存在である可能性がある為、G3ユニットが警護を命じられたのであった。

「さてね。でもその怪物、アンノウンじゃあないわね。
 人を取り込む・・・捕食しているとも言える行動は
 これまでのアンノウンには見られないもの。 」
小沢は急に冷静な口調で分析を開始した。
「かといって過去に出現した人間を狩猟ゲームの対象にしていた未確認とも違う・・・。
 ま、私達にしたら規定外・・・『イレギュラー』な存在ってトコね。」
「『イレギュラー』、ですか?」
誠が聞き返そうとした、その時!

キキキィーッ!!

Gトレーラーが急ブレーキをかけ、
進行方向と逆向きに座っていた小沢はシートから投げ出された。
「キャアッ!!」
がしっ、と正面に座っていた誠が受け止める。
「小沢さん、大丈夫ですか?」
「あ、ありがと氷川くん・・・。つったく、なんて運転してんの!」
小沢は無線機に向かい、運転席にいる尾室を怒鳴りつけた。
「ちょっとアンタ、もう少しマトモな運転しなさいよ!」
「お、小沢さん・・・」
無線機から聞こえる尾室の声が震えている。だが、その恐怖は小沢に対するものではない。
「で、出ました!か、かかか、怪物が・・・!!」
「!!」
誠と小沢の顔に緊張が走る!!

(2)
外していたヘッドパーツを装着し、携行武器を装備したG3・Xが外に駆け出すと、
先導していたパトカーから降りた北條が怪人と対峙していた。
G3・Xはレッドアイザー越しに怪人の形状を確認した。亀のような甲羅と蛇のように伸びた尻尾。
報告にあった研究所を逃走・襲撃した怪人に間違いない。
「動くな!一歩でも動けば撃つ!」
牽制する北條に目もくれず、怪人はGトレーラーに向かって歩を進めはじめた。
無視された格好になった北條は、怒りの形相で怪人に向けて引き金を引いた、
が、キィン!と無機質な音をたてて銃弾は弾かれた。
「くっ!」
逆上した北條が次々と発射した弾丸も全て弾き、
怪人は歩を緩めることなくその横を通り過ぎようとした。
「止まれェッ!」
なおも食い下がろうとする北條だったが・・・
『ジャマ・ダ』
怪人がまるで虫でも追い払うかのように軽く放った平手を受け、
あっけなく吹き飛ばされてしまった。
「ぐ、はぁ!」
自分が乗っていたパトカーに直撃し、そのまま地面に崩れ落ち気を失う北條。
「北條さん!」
一瞬、気をやるG3・Xだったが、今重要なのはこちらに歩み来る怪人の方である。
ホルスターからGM・01ーを抜き、構える。
「止まれ!」
だが、怪人は気に留める風もなく、尚も近づく。
「氷川くん、撃ちなさい!」
小沢の指令を受け、G3・XがGM・01を発砲する。
今度は弾かれる事はなく爆発を起こした。
『ウ・ヌ』
怪人の足を留める事には成功したが、本体にダメージを与える事はできなかったようだ。
接近戦に切換えるべく、GM・01をホルスターに戻し左肩から電磁ナイフのGK・06を抜く。
「氷川くん!先手必勝よ!」
先手必勝で掛かって行って勝利した例がどれくらいあるだろう、
そう思いながらもG3・Xは怪人に斬りかかった。
狙いは甲羅の隙間、そこならば貫き徹せるはず・・・だが!
シュルルルッ!、と伸びた尾がG3・Xの右手を絡めとり、攻撃を封じる。
締め上げる尾の力は凄まじく、
振り下ろすどころか動かす事もできない。
怪人は両手でG3・Xの残った左手と首を掴み、同じくギリギリと締め上げる。
「ぐああ・・・!」
Gトレーラーから戦いをモニターしている小沢と尾室にも危機感がつのる。
「氷川くん!」
「小沢さん!いくらG3・Xつけてても、このままじゃ氷川さん窒息しちゃいますよ!」
「言われなくても解ってるわよ!アンタはよそ見してないでモニターしてなさい!!」
『アナタモ・ネ?』
人間のものとは思えないその声に、ハッして2人が向き直る。
G3・Xが出動したまま開いていたハッチに立っている影・・・
それは赤い鳥のような姿をした別の怪人だった。
「!!!」
怪人は手にしていた羽根をふっ、と2人の方に飛ばした・・・
「ぐ・・意識が・・・遠のいていく・・・」
失神寸前の誠、とその時Gトレーラーの中から爆発が巻き起こった。
「!何だ!?」
瞬間、誠は消えかかっていた意識を取り戻し、
ありったけの力を振り絞って怪人の腹を蹴って戒めから抜け出した。
「ゴホッゴホッ・・・小沢さん!尾室さん!」
Gトレーラーに駆け寄るG3・Xの前に赤い怪人が姿を見せる。
「!もう1体いたのか!?」
G3・Xを一瞥した赤い怪人は黒い怪人に向き直り、手にしたモノを誇示して見せた。
「それは・・・!」
それは誠達が警護していた、あの青い石であった。
『オワッタ・ナ・・・』
くるりと踵をかえし、さっさと立ち去っていく黒い怪人。
赤い怪人はつまらなそうに口を尖らせ、翼を広げた。
「くっ、逃がさん!」
飛び去ろうとする赤い怪人に必死に飛びつくG3・X。バランスを崩し落下する赤い怪人。
『キ・サ・マ!』
なおも組み付くG3・Xに怒った怪人はブチブチッと両手に5枚ずつ、
計10枚の羽根を引きちぎり、投げつけた。

ドガガガァァァァン!!

至近距離で直撃したG3・Xは、握り絞めていた怪人の着衣をちぎりながら吹き飛ぶ。
『フン!』
体勢を立て直した怪人は再び翼を広げ、夜空へ飛び去ってしまった。
「う、ぐ、そうだ・・小沢さんたちは・!?」
自らのダメージも深刻だったが、今はそれよりもGトレーラーが気がかりであった。
トレーラーの中に飛び込んだG3・Xは2人の姿を探した。車内にはガラス片が散乱している。
あの青い石を入れていたケースのものだろう。
「特殊強化ガラスがこれほどまでに粉々になるなんて・・・あっ!」
床に倒れ伏した2人を発見し、慌てて駆け寄り抱き起こすG3・X。
「小沢さん、しっかりしてください!小沢さん!!」
「う・・・」
2人共かろうじて意識はあるようだ。
怪人の羽根爆弾が2人の座っているトコロから少し離れた場所にあった
ケースを狙ったもので、直撃ではなかったのが幸いであった。
装着を解いた誠は、通報を受け到着した救急隊に
小沢、尾室、北條の3人を任せ、自らは警視庁へ向かう。
救急隊からは自分のダメージも心配だから一緒に来るように言われたが、頑として断った。
「今はヤツラへの対応策を練るのが先だ・・・」
痛む胸を押さえながら、誠はパトカーを走らせた。

(3)
暗く鬱葱と木々の茂る森の中を歩いているのは、あの黒い怪人。
と、その前方の木陰に、もたれかかって立つ影がある。
それに気付き黒い怪人は歩を止めた。
『オワッタ・カ』
黒い怪人の方を向くでもなく、影は問い掛けた。
『・・アア』
くい、と人差し指を上空に向ける。と、何時の間に飛来したのか赤い怪人が
あの青い石を持って枝の上に立っていた。
『コレデ・ソロッタワ』
木にもたれていた影は、2人の方に歩き出した。
木陰を抜けた時、月を隠していた雲が払われ、
月光が差し込む。
月明かりに照らされた影の主は隻眼の白い虎のような怪人であった。
『・・・「センシ」ハ・イタカ?』
『ワレラノ・サガス「センシ」ハ・マダ・ダ』
『セイナル・イシノ・センシ・ネ・・』
3人の怪人が近づくと、青い石が急に明滅を始めた。
まるで3人に呼応しているように・・・。
『マズハ・コイツノ・フッカツ・ネ』
『エサヲ・サガス・カ・・・』
青い石を見つめながら相談している黒と赤の怪人に背中を向けて、白い怪人は月を仰いだ。
『「センシ」・・・カナラズ・タオス!』
「???何だ?」
3人の怪人が集結したの時を同じくして、
津上翔一の変身ベルト・オルタリングに納められた霊石、賢者の石が反応し始めた。
「アンノウン・・・の感じじゃないな。一体これは・・・」

同時刻、葦原涼のベルト・メタファクターの賢者の石も反応していた。
「何だ?今までの感じと違う・・・。まさか、終わりが近いのか・・!?」
度重なる変身で崩壊していく体を引きずりながら、それでも涼は歩いていく。
「まだだ・・・オレにはまだ、やる事がある・・・!」
今の涼を突き動かすもの、それは・・・
「殺す・・・アギトを・・・!!」

そして・・・
「この感じ・・・なぁんか嫌な予感がするなぁ。よっし!急ごう!!」
腹の辺りを擦りながら、走り出す一人の青年の姿があった。
肩にしたディバッグには、たくさんの御守りがぶら下がっていた。

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