第2章:『碧(みどり)』 

(1)
「変身!」
雄介の腕、足、体、そして顔が、徐々に変わって行く。
かつて未確認生命体と戦い抜いた戦士の姿へと・・・!
資材置き場に突っ込んでいた白い怪人がゆっくりと起き上がり、向き直る。
「・・・ク、ウ、ガァァァァ・・・!!」
目の前に立つ戦士に向けられた怪人の唸り声、だがそれは憎しみの中にも、
どこか再び好敵手に巡り合えた喜びが感じられた。
戦闘態勢をとるクウガ、
その姿は数ある彼のフォームの中でも「赤の黒」と呼ばれるアメイジングマイティである。
「・・・?」
その姿を見つめる一条には、一つの疑問が湧きあがっていた。
かつて0号との闘いにおいて、クウガは究極の姿であるアルティメットフォームに変身しながら、
その心を失う事なく制御している。
それなのに、なぜアメイジングなのか・・・?

ジリ、ジリ、と互いに間合いを測る。
先に仕掛けたのは怪人の方だった。
一気に間合いを詰め懐に入るや、強烈な拳を突上げる。
間一髪避けたクウガが、すかさず反撃に出る。
腰を落としている怪人の顔めがけ右のミドルキック!
だが怪人はキックが当たるより早く跳躍すると、今度は頭上から鋭い爪を光らせてクウガに襲い掛かる。
素早く体をひねってかわすクウガ。完全に避けたかに見えたが、背中に浅いが爪痕が残っている。
それを見た怪人は一気呵成に攻め込む・・・
かと思いきや、一度距離をとり直すと、クウガの周囲を跳ね始めた。
スピードでは自分が有利と見て取った怪人は、ヒットアンドアウェイの戦法を選んだのである。
事実クウガは四方八方から攻めてくる怪人に対し防戦一方となっていた。
己の力を過信せず、確実に獲物を仕留める・・・
その戦い方が、怪人が百戦錬磨の戦士である事を物語っていた。
だがしかし、それはクウガにしても同じである。
怪人の攻撃に晒されながらも、クウガは反撃の糸口を探していた。
そしてそれは、先程怪人が突っ込んだ資材置き場にあった。
怪人が体勢を整える一瞬を逃さず、資材置き場に跳んだクウガは「それ」を蹴り上げると、
自らも飛び上がりつつ叫んだ。
「超変身!」
空中で掴んだ「それ」、鉄パイプが、手の中でロッドに変わる。
そして着地したクウガの姿もまた変わっていた。
「青の黒」、アメイジングドラゴンへと!

(2)
一方、アギトはなおも青い怪人に引きずられていた。
「くっ、そぉぉぉ!!」
ベルトの右側のスイッチを叩き、
フレイムフォームへと変わったアギトは渾身の一撃を怪人の鳩尾(みぞおち)目掛け放つ!
「ッガ・・・!!」
首を締め上げる手の力が緩む。
アギトはここぞとばかりに怪人の体を掴み、巴投げの要領で投げ飛ばす。
停めてあったパトカーに突っ込む怪人。
その隙に起き上がったアギトは、オルタリングからフレイムセイバーを取り出し、
ゆっくりと起き上がる怪人に向かい構える。
「クソォォォォ!ヨクモ、ヨクモ、ヨクモォ!!!」
一度ならず二度までも飛ばされた怪人は、先ほどにも増して憎悪を剥き出しにしてアギトに襲い掛かった。
ゆっくりと姿勢を整えるアギト、フレイムセイバーの飾りが開く。
必殺のセイバースラッシュの体勢だ。
「はぁぁぁぁ・・・・・」
呼吸を整え、攻撃のタイミングを計る。
一閃!乾いた音が響く。だが・・・

パキィィン・・・!。

砕けたのはフレイムセイバーの方であった。
「何!?」
アギトが怪人を振り返る。
見るとその右拳が白煙を上げている。
怪人の拳の破壊力がセイバーのそれを上回っていたのだ。
アギトが呆然としていたのは、ほんの一瞬だった。
だが、闘いではその一瞬が命取りになる事もある。この瞬間が正にそうであった。
怪人は素早く地面を蹴り、アギトに肉迫するや、お返しとばかりに鳩尾に拳を打ち込む!
「ぐぅっ!」
強烈な一撃を喰らい、アギトの手から折れたセイバーが落ちる。
さらにもう一発、寸分違わぬ場所に正確に拳が叩き込まれる。
もはや立っている事ができず、膝を落とすアギト。
かろうじて両手をつき、顔面から倒れるのを防ぐ、が・・・
ガスッ!
怪人がアギトの頭を踏みつける。
「フン!ヨワイヤツガ・・・チョウシニ・ノルナ!!
 ボクハ・サイキョウニ・ナル・ソンザイ・ナンダゾ!?」
ぐりぐりとアギトの頭を踏みにじりながら、怪人はようやくその溜飲を下げていた。

(3)
跳躍と交錯・・・縦横無尽の戦いを展開する黒と白、二つの影。
アメイジングドラゴンとなったクウガのスピードは、怪人のそれに対して一歩も引けをとらない。
力で上回るようになった怪人の力押しの攻撃も、ロッドで流水のように受け流す。
だがクウガの攻撃もまた怪人の体裁きにかわされ、決定打とはならない。
戦いはまさに一進一退であった。
「ち、これではラチがあかんな・・・」
怪人は少しずつであるがしびれを切らせ始めていた。
わずかではあるものの攻撃が大振りになっている。
もちろん、それを見逃すクウガではない。
空振りした怪人の右手の爪にロッドを引っ掛ると、ひねりを加えこれを折り飛ばす。
「しまった!」
怪人に一瞬の隙ができる。
畳み掛けようとするクウガはしかし、怪人の爪が戦いを見つめる一条目掛けて飛んでいるのに気付く。
今の一条では避けきれない・・・!
「いけない!」
一条の処へ跳んだクウガは、すかさずロッドで爪を叩き落す。
「一条さん、安全な所へ下がっていてください!」
「!危ない、五代!」
今度はクウガに隙があった。
戦いの最中に敵に背を向けてしまったのだ。
好機と見た怪人の、残った左手の爪がクウガ目掛け振り下ろされる!
咄嗟にロッドで受けるクウガ、だがそのロッドが二つに折れる!
爪はクウガの頭部を直撃・・・!!

・・・していない。
二つに折れたと思われたロッドは金色の鎖で繋がれ、その鎖が爪を受け止めていた。
見るとロッド両端の伸びる部分は縮んだ状態となっており、ヌンチャクの形となっている。
「ホアァァ!」
怪鳥音と共に、クウガがヌンチャクに爪を絡めたまま怪人の腕を引く。
体勢を崩した怪人の顔面に裏拳を放つ。
ドラゴンフォームの力とはいえ、怪人をひるませるには充分であった。
その間に退避する一条。
軽くステップしながらヌンチャクを振り回し、
カンフースターよろしくファイティングポーズをとるクウガ。
「フフ・・・楽しませてくれるな・・・!」
軽く唇を切ったのか、にじんだ血を親指でぬぐうと、ペロリとその指を舐め、
怪人もまたファイティングポーズをとった。

(4)
その頃、科警研で装着を終えたG3・Xもまた、現場へと急行していた。
クウガの出現からしばらくして、ようやく到着した彼の目に飛び込んできたのは
青い怪人に踏みにじられているアギトの姿であった。
「アギト!」
とっさにGM・01を抜き怪人目掛け連射する。
側頭部に直撃を受け、バランスを崩す怪人。
すかさず足元から転がり抜けるアギト。
頭を振りながらよろける怪人を、アギトとGX・05を構えたG3・Xが挟み込む。
「チィィ・・・」
腹立たしげに舌打ちし、二人を睨む怪人。
だが、形勢不利は否めなかった。脚を踏みしめ、GX・05発射態勢を取るG3・X。

ズガガガガガガガ・・・・!!!!!

発射されたガトリング弾が怪人に命中し、白煙が上がる。
勝負あったかに見えた、しかし・・・
白煙の中から現れたのは、青い怪人を護るように
背中の甲羅でGX・05の掃射を受け止めた、あの黒い怪人だった。
「お前は・・・!」
突然の黒い怪人の登場に動揺を隠せないG3・X。
「一体どうやって・・!?あっ?」
見ると黒い怪人の足元の舗装が割れている。
怪人は地中を掘り進み、青い怪人の救出に現れたのだ。
「悪いが、まだコイツを死なせる訳にはいかんのでな・・・グッ」
片膝をつく黒い怪人。さすがに至近距離からのGX・05は堪えるようだ。
だが、致命傷ではない。
「一旦退くぞ、いいな」
「イヤダ!コイツラ・ミンナ・コロス!オマエモ・ヤラレタ!クヤシク・ナイカ!!」
「急いては事を仕損じる・・・お前もまだ完全ではあるまい?」
「クッ・・・!」
黒い怪人に諭され、不機嫌そうにうつむく青い怪人。
それを見て取った黒い怪人は、一際大きく雄叫びをあげた。

ブオオオオオ・・・!!

(5)
クウガと白い怪人の攻防は、尚も続いていた。
だがそこへ黒い怪人の雄叫びが木霊するや、怪人は動きを止めた。
「ちぃっ、潮時か・・・仕方あるまい・・・。クウガ!この勝負ひとまず預けるぞ!」
クルリと背中を向けて立ち去ろうとする怪人に、あわててクウガが問い掛ける。
「何?待て!お前達は一体!?未確認・・・グロンギの仲間なのか!?」
立ちどまった怪人は、振り向くことなく答える。
「違う・・・だが、近き者ではある、とだけ言っておこうか。
 我が名はバゴー、覚えておくがいい!」
跳躍。白い怪人・バゴーの姿は茂みの中へと消えた。

一方、黒と青の怪人もまた撤退を始めていた。
「すまんが肩を貸してくれんか?穴掘りと背中の傷で少々疲れたのでな・・・」
「チェッ・メンドクサイ・・・」
ブツブツ言いながら黒い怪人を支える青い怪人。
その光景を呆然と眺めていたG3・Xだったが、ハッと我に返る。
「に、逃がさない!!」
予備カートリッジを装填し、再びGX・05を構える。
黒い怪人がチラリと横目に見ながらつぶやく。
「やめておけ・・・今はまだ戦いの時ではない・・・。
 時が来れば嫌でも戦う事になろう、横の奴は特に、な。」
怪人の言葉に、お互い顔を見合わせるアギトとG3・X。
「私はゲノム、こっちはセルだ。近いうちにまた会う事になるだろう・・」
そう言い残し、二人の怪人は黒い怪人・ゲノムが掘った穴へと消えていった。

(6)
バゴーが立ち去った後、変身を解きゆっくりと振り返る雄介、それを見つめる一条。
かけたい言葉は山ほどある。
だが、口にする事ができない。
万感の思いで胸が一杯で、何と声をかければいいのか解らない。
ようやく導き出した言葉、それは実に彼らしいもの、
「「遅いぞ五代!」」
正確にハモる二つの声。
呆気にとられる一条に、雄介はしてやったりと、いたずらな笑顔を見せる。
「・・・でしょ?一条さん。五代雄介、帰ってきました!」
そしてビシッと敬礼する。
そんな雄介を見て、怒る気力も無く、ただ苦笑するしかない一条であった。
「あ、そうだ。オレ一条さんに御礼言わなきゃいけませんでした。」
「御礼?」
突然の言葉に不思議そうな顔をする一条に微笑むと、
雄介は傍らに停めていたバイクをぽんぽんと叩く。
「こいつですよ。科警研の人たちに頼んでくれたんでしょ?
 オレが帰ってくるまで預かっててほしい、って。」
「ああ・・・」
照れ臭そうに指で頬をポリポリと掻く一条。
雄介と共に戦場を駆けた愛車・ビートチェイサー2000。
未確認対策班の解散に伴って長野へと帰る一条にとって唯一心残りだったのは、
主人を無くしたマシンの処遇であった。
一時は廃棄処分も検討されたが、
一条をはじめ関係者の熱意によって科警研にて保存する決定を勝ち得たのだ。
「いやー、日本に帰ってきたのはいいんですけど足が無いと色々不便じゃないですか。
 それでもしかしてーとか思って科警研に行ってみたら・・・

<雄介の回想>
「2年振りかぁ・・・懐かしいなぁ。
 榎田さん、まだ居るかな?案外ジャンと再婚して辞めちゃてたりして・・・」
雄介が科警研の前でぶつぶつ言いながら想い出に浸っていると、
それに気付いた所員の一人が怪訝な顔で窓から顔を覗かせた。
雄介もまた、その所員に気付いた。
「あっ、柏原さん!お久しぶりです!!」
にっこり笑ってサムズアップする雄介。
名前を呼ばれた当の柏原は、一瞬何が起こっているのかわからなかった。
だが次の瞬間、驚きと喜びが一度に押し寄せて来た。緊張で口が上手くまわらない。
「ご、ごごご、五代さん!帰ってきたんですね!!」
その勢いに、今度は雄介がタジタジになる。
「あ、はいっ。えっと・・・榎田さん、いらっしゃいますか?」
「おいっ!榎田さんは!?」
柏原は、帰ってきた雄介を一目見ようと同じく窓に身を乗り出していた椎名に尋ねる。
「え?えーっと、来客中で今は確かハンガーの方に・・・」
「五代さん、中に入って待っててください!今呼んで来ますから!!」
興奮した柏原は雄介にそう言いながら部屋を飛び出して行く。
「榎田さーん!お客さんですよー!!」
廊下に響く柏原の大声に、顔を見合わせ苦笑する雄介と椎名であった・・・。

しばらくして、柏原から事情を聞いたひかりが、息を切らせながら雄介の待つ応接室へと走り込んできた。
「はぁはぁ・・・うわーホントに五代くんだ・・・」
「ご無沙汰してました。
 でも、良かったんですか?お客さんいらしてたそうですけど?」
「ああ、いいのいいの。もう用事は済んでて雑談してたトコだったからね。」
ソファーに腰掛け、テーブルに出されていたコーヒーを一口飲んで落ち着いたひかりは、
改めて雄介の顔を見つめる。
「・・・おかえり。」
そう言ってにっこり微笑むひかりに、雄介もとびっきりの笑顔を返す。

「あはは、君らしいわねー。」
雄介から科警研に来た理由を聞かされたひかりは、
半ば呆れたような顔をしながら雄介を伴って再びハンガーへと向かっていた。
「すいません・・・。あっ!コレもしかしてG3システムってヤツですか?」
ハンガーに置いてあるガードチェイサーやG3・Xに興味を示す雄介。
「ああ、君が0号を倒したに開発されたのよ。
 君に頼ってばっかじゃいけない、戦う力を手に入れるんだーってね。
 結構外国の新聞とかニュースでもやってたの?
 日本に居なかった君が知ってるくらいなんだから。」
「やっぱり気になりますからね。・・・戦う為の力、か・・・」
そう言った雄介の顔は、どこか寂しげであった、が、ひかりが気付く事は無かった。
二人はハンガーの更に奥、サムズアップマークの扉の前にやって来た。
「この扉のマークって・・・」
「そりゃー、君の為の部屋なんだから。一発でそれと解かるように、ね?」
得意気にそう言うひかりに、苦笑する雄介。
ロックが解除されると、扉が静かに開いて行く。
パチッ、ひかりが部屋の電気をつける。
一瞬、眩しそうなに目を細めた雄介の顔が、次の瞬間ほころぶ。
「おおっ!」
そこに並んでいるのは、雄介・クウガの鋼の脚となり戦場を駆けた2台のマシン。
トライチェイサー2000と、その後継機ビートチェイサー2000であった。
そしてその奥に、もう一つの影・・・クウガのしもべ、装甲機ゴウラム。
「久しぶり、みんな元気そうだな。ピカピカにしてもらってるし。」
1台1台を優しくなでながら、声をかけていく雄介。
「一条君がね」
不意にひかりが口を開く。
「一条君が上層部に掛け合ってくれたのよ。
 いつか君が帰ってくる時のために残しておいて欲しいってね。」
ひかりからマシンが科警研で保管される経緯を聞かされ、
雄介はもう一度愛しそうにマシン達を眺めた。
「そっかぁ、一条さん・・・」

「これからどうするの?もう少しゆっくりして行けばいいのに。」
ビートチェイサーに跨りエンジンをかけている雄介に、名残惜しそうにひかりが言う。
「すみません。これから挨拶廻りでもしようと思ってるんです。まずは椿さんトコから。」
ヘルメットを被りながら申し訳なさそうに頭を下げる。
「うん、わかった。でも又来てよね!もしかしたら一条・・・」
「え?」
「あ、ううん。何でもない。絶対よ!約束したからね!」
「ハイ!」
そう言ってサムズアップする雄介に、ひかりもまたサムズアップを返す。
走り去るビートチェイサーを見送りながら、ひかりはさっき口にしかけた言葉を思い返した。
「一条君がまたこっちに来る理由・・・五代君には言えないよね・・・彼はもう充分戦ってくれたんだもん。」

(7)
一方のアギトとG3・X。
怪人の去った後、まだ腹部にダメージの残るアギトは肩で息をしながら、
精神波でマシントルネイダーを呼ぶ。
その時、こちらへやって来る雄介と一条に気付く。
アギトの姿を見つけ、雄介は少し驚いた顔をして隣の一条に尋ねる。
「一条さん、向こうの青い人は科警研で見たんですけど、
 こっちの人も警視庁の開発したスーツかなんかなんですか!?」
「いや・・・おそらくレポートにあった『アギト』と呼ばれる存在だろう。」
真っ直ぐにアギトを見つめる一条、思わず目をそらしてしまうアギト。
(うわ!あの刑事さん、こっち見てるよー。
 まさか俺の正体に気付いたとか!?
 いやまさか・・・でも氷川さんと違って有能そうな人だし・・・)
「あ、あの、もしかして!」
少々困惑気味のアギトの横から、大いに興奮気味のG3・Xが身を乗り出す。
「以前未確認対策班でご活躍されていた、一条刑事でいらっしゃいませんでございましょうか!?」
興奮のあまり敬語が滅茶苦茶になっている・・・
「あ、ああ、そうです・・・」
G3・Xを装着したまま迫る誠の迫力に押され、身じろぎする一条。
「やっぱり!ボク、尊敬しているんです!
 一条刑事の勇気!行動力!射撃!それに、それに・・・!!」
「す、すまないが、せめてマスクを外してくれないか・・・?」
「!?あ、す、すすす、すみません!失礼しました!」
慌ててヘッドパーツを外そうとする誠だが、急ぐあまり手元が狂って中々外せない。
(ふぅ、ホントに不器用なんだから氷川さん・・・)
「アギト、って言うんだ。」
誠のぶきっちょ加減を半ば呆れながらも見つめていたアギトは、突然呼びかけた声の方を振り向く。
そこにはアギトをじっと見つめる雄介の姿があった。
その瞳は仲間を得た喜び、その境遇の辛さを知る者としての同情など複雑な色を写している。
雄介は胸ポケットから一枚の名刺を取り出し、アギトに差し出す。
そこに『夢を追う男・2000と51の技を持つ男・五代雄介』と書かれている。
「俺は五代雄介。またの名はクウガ!
 警察の人には『第4号』とか呼ばれてたけど。」
「2年前の活躍はホントに・・・よ、4号!?」
あっけらかんとそう言う雄介に、一条に一方的にまくし立てていた誠が過剰に反応する。
「4号って・・・対策班に協力して未確認を倒し、消息が不明になってるあの4号ですかっ!?」
「あ、は・・はい。その4号ですけど・・・」
「そんな・・・だって4号と言えば雄々しく、孤高で、・・」
誠の中で一条と同じ位英雄視されているクウガと、
目の前にいる雄介ではよほどギャップがあるのか、パニックになっている。
「本当だよ。それに君が思っているような奴では未確認との戦いは続けていられなかったろう。
 彼だからこそ、やり抜けたんだ。」
そんな誠を一条が優しく諭す。
苦笑しながら、改めてアギトの方を向く雄介。
しかしアギトは到着したトルネイダーに乗るや、一目散に駆け出した。
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
「すみません!俺の正体はまだ言えないんです!」
制止しようとする雄介に詫びながら、走り去るアギト。
「ああああ・・・・」
虚しく空を切った手を持て余す雄介、その肩を一条が叩く。
「この後付き合えるか?アギトに関しては・・・心当たりがある。」
「あ、はい。」
二人がそんな会話をしているとは、未だパニックから立ち直らない誠は知る由も無かった・・・

(8)
「う・・・うう・・・こ。ここは・・・どこだ・・・?」
芦原涼は闇の中に居た。
辺りを見回しても、何も無い。誰も居ない・・・深い闇の中に。
「誰か、誰か居ないのか!?」
と、涼の前に一人の女性の影が現れた。
「真由美・・・」
片平真由美。かつて涼の恋人だった女性。
ギルスとなった涼を恐れ、去っていった女性・・・。
涼は真由美が恐れたその力で、ギルスの力で彼女を救った。
だがそれを彼女が知る由も無かった。
「ま・・・」
手を伸ばそうとした涼であったが、真由美の影はスッと消えてしまう。
そして新しい影が・・・。
「亜紀!?」
榊亜紀。涼がギルスである事を受け入れ、共に生きようとしてくれた女性。
涼がアギト捕獲部隊の銃弾により絶命したと思った彼女は
謎の男・沢木哲也によって自身に秘められた超能力に覚醒。
アギト捕獲作戦に参加した者達に復讐を開始した。
だがその力はより強力なアンノウンを引き寄せる事となり、クイーンジャガーロードの手にかかる。
涼はクイーンジャガーロードを倒し、亜紀の最後を看取ったアギトに遭遇。
アギトが亜紀を殺したと誤解し、以後アギトを狙っている。
「見ていてくれ亜紀。オレが必ずお前の仇を取る!アギトをこの手で殺してやる!」
だが、亜紀の影はそんな涼に悲しい瞳を向け、静かに首を横に振る・・・(違う)と言うかのように。
「どうしたんだ亜紀!?待ってろ、アギトを倒したら俺もそっちに・・・!」
そんな涼を更に悲しげに見つめる亜紀の瞳から涙がすっと零れ落ちたかと思うと、
影はゆらめき始め消えていく。
「亜紀!?待て!俺も連れて行ってくれ!亜紀!!」
消えていく影にすがろうとする涼、だがその前に、白い光が・・・
(行っては駄目・・・貴方は生きなくてはいけない・・・あなたの力は・・・・のために・・・)
今まで聞いたことが無い女性の声。
だが、どこか懐かしいような安心させてくれるような優しい声・・・
「何だ?何を言っている!?お前は一体・・・!?」
(忘れないで・・・「生きること」・・・「生き抜くこと」を・・・!)
声が段々遠ざかる。
急速に意識が覚醒していく。

「ハッ!」
ガバッと飛び起きた涼が廻りを見渡す。
どこかの公園、涼はその中ほどにある大きな木の木陰のベンチに居た。
「そうか、俺は・・・」
再び襲ってきた変身の後遺症、全身を襲う激痛に耐えかね、
木陰で休んでいこうと座ったはいいが、そのまま眠ってしまったらしい。
「くそ・・・最近間隔が短くなっているみたいだ。俺の体は後どれくらい保つんだ?」
「あの・・・」
自嘲気味に呟いた涼の前に一人の女性が立っていた。
涼はその女性に面識は無い。
歳は涼とさほど変わらないように見える。
若干年上だろうか?
「大丈夫ですか?
 なんだかひどくうなされてらしたみたいだったから・・・良かったら、これどうぞ。」
そう言って、女性は涼に缶入りの冷たいお茶を差し出した。
受けとってもいいものかどうか戸惑う涼。
「あ、気にしないで下さい。私の分もありますから。」
言うが早いかもう一本お茶の缶を取り出すと、女性は涼の横に腰をおろし、飲み始める。
「美味しー。私このお茶大好きなんですよ。」
微笑む女性につられて、涼も缶を開け、飲む。
冷たさが心地よく、一気に飲み干す。
「ぷはっ!ふぅー。」
一息ついた涼の顔を女性が見つめている。
それに気付き、今さらながらに照れてしまう。
「な、なんで俺に、その、親切にするんだ、いや、するんですか」
「え?あ、うん・・・何だか、放っておけない感じがしたから、かな。
 そんなに深く考えなくてもいいですよ。」
もう一度笑う。不思議な笑顔だった。見ているだけで心安らぐような・・・
後遺症にボロボロな体が少しずつ癒されていくような、まどろんだ時間。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。

バサバサバサ・・・!

突如、大きな物体が二人の目前に舞い降りてきた。
それは・・・イレギュラー、赤い怪人!
「フフフ・・・幸せそうなトコ悪いンだけどぉ、私ちょぉーっとお腹すいちゃったのよね。
 そっちの可愛いコいい?食・べ・ちゃ・っ・て?」
女性を指差しながら、一歩ずつ近づいてくる怪人。
涼は咄嗟に女性を庇うように立ちふさがる。
「あら?邪魔するの?私って美食家だから綺麗な女性しか食べないの。
 だから男は見逃してあげるけど、邪魔するなら・・・殺すよ?」
『殺す』、その言葉に涼の体、いや正確には体内の賢者の石が強く反応し、押し動かす。
「うおおおお・・・!」
怪人に飛び掛った涼は、恐怖にすくんでいる女性に向かって叫んだ。
「逃げろ!早く、早く逃げるんだ!!」
涼の声に我に返った女性は、涼の事を気にしながらも走り出した。
必死に怪人を押さえる涼。
だが、怪人の目は走り去る女性を捉えたままで、涼などまるで意に介していない風である。
「フフフ、逃げる獲物を追い詰めて狩るっていうのも、いいかもね・・・」
「!貴様!」
怪人の言葉に逆上した涼が殴りかかる、が、怪人は涼の方を見もせずに片手で払いのける。
「ぐああっ!」
直撃を食らった涼が突っ込み、先ほどのベンチは残に破壊される。
その音に女性は思わず脚を止め、振り返ってしまう。
それを見据える怪人。
女性はまるでヘビに睨まれたカエルのように、萎縮しうごけなくなってしまう。
ゆっくりと歩み寄る怪人・・・
「う・・・く・・・さ、させない・・・もう・・・殺させない!」
よろよろと立ち上がった涼は、顔の前で両手を交差させ全神経を集中する。
「ウオオオオオォォォ!!!!!」
雄叫びを上げ、大地を蹴る!
「変身!」
涼にシルエットが重なる。
それは忌まわしき呪縛、だがそれは戦う力、汝の名は・・・ギルス!
「ワァーゥ!」
変身完了したギルスが怪人に踊りかかる。
組み倒し、そのまま女性から離れるように転がる。
「え!?」
涼の変わり果てた姿に、女性は驚きを隠せなかった。
だが、自分を守ってくれているんだという事はわかった。
もみ合いながら女性と距離をとったギルスは、頃合いを見て怪人の体を蹴り飛ばす。
立ち上がった両者がにらみ合う。
ギルスは両手のクローを伸ばし、怪人は無造作に羽根をひきちぎる。
空気がピリピリと張り詰める。
じり、じりと円を描きながらお互いに間合いを詰めていく。
パキ!折れ落ちた小枝が踏まれる。
それが合図であるかの如く、双方一気に前に駆ける。
怪人が羽根を手裏剣のように投げつけるが、ギルスは巧みにこれをかわし、ジャンプ!
「ワゥ!」
怪人めがけ、左右のギルスクロウを振り下ろす。
すんでで避ける怪人。
着地したギルスは間髪入れない水面蹴り。
これもバク転でかわされるや、右手のクロウをフューラーに変え、怪人目掛け放つ。
怪人の左腕に巻きつき、ガッチリと喰い込むフューラー。
ちょうどチェーンデスマッチの形となる。
「フゥゥ・・・!」
乱暴に怪人を引き寄せるギルス。
つんのめるように引きずられた怪人に、強烈な延髄切りがヒットする。
「ッカ・・・!!」
意識が混濁する怪人、その足元もおぼつかない。
それを見て取ったギルスの、右足首のクロウが伸びる。
「グワァァウ!!」
さらなる雄叫びをあげながらジャンプ!必殺のギルスヒールクロウだ。
「!」
しかし、ヒット寸前で怪人は最後の力を振り絞って上空へと離脱する。
「く・・うぅ・出来そこないの分際でよくも邪魔を・・・。覚えておいで!」
捨てゼリフを残し、飛び去る怪人。
それを確認しギルスは変身を解く。
「ふぅ・・・っ!」
一瞬の安堵も束の間、またしても後遺症が涼の体に襲い掛かる。
今回はいつにも増して痛みが酷い。
そのま意識を失っていく涼は、気絶する寸前あの女性が駆け寄ってくるのを見たような気がした・・・

(9)
「う・・・」
目を覚ました涼は、どこかの部屋でベッドに寝かされていた。
額には冷たいタオルが置かれている。
「ここは・・・どこだ?」
全身にはまだ痛みが残っており、なんとか首だけ動かして部屋を見渡す。
部屋の作りからマンションの一室であるとわかる。
また、部屋の雰囲気からこの部屋の主が女性であることが想像される。
と、不意に部屋のドアが開いた。
「あ、気がつきました?」
入ってきたのは、ギルスとなった涼が助けたあの女性だった。
「良かった。いくら呼びかけても覚まさないから、心配してたんですよ。」
そう言いながら女性は涼の額のタオルを取り、手を置いた。
「・・・うん、熱も下がったみたい。でも、まだ安静にしてた方がいいですよ。」
涼はかいがいしく自分の世話をしてくれる女性をしばらく目で追っていたが、
「オレが・・・怖くないのか?あんな化け物に・・・変わるんだぞ・・・」
しゃべるのも辛い状態だが、涼はしぼり出すように問い掛けた。
女性は不意の質問に介護の手を止めたが、振り返り
「どうして?だって、私を助けてくれたじゃないですか。」
事もなげにそう答えながら、にっこりと微笑みを浮かべた。
その笑顔に涼の心は救われる思いであった。
しかし
「それに私、あなたの様に変身できる人知ってるんです。」
「!?」
女性の続けた言葉に涼は激しく反応した。
(こいつ、まさかアギトの正体を知っている―!?)
今すぐ飛び掛かってでも問い正したい涼だが、変身の後遺症で体は動かない。
そんな涼の心中など知る由も無く、女性は言葉を続けた。
「その人は・・・誰かの笑顔を守るために怪物たちと戦ったんです。
 本当は誰よりも、人を傷つけるのが嫌いな人なのに・・・
 自分自身も、その怪物たちと同じになってしまうかもしれない恐怖と戦いながら、
 それでも決して笑顔を忘れることなく。」
そう語る女性の顔はどこか寂しげに見えた。
(・・・アギトの事じゃないのか?一体こいつは・・・)
「お前は・・・」
涼の問いかけに、はっと我にかえって女性は答えた。
「あ、すみません私ったら一人で・・・。
 自己紹介がまだでしたね。私、五代みのりって言います。」

(10)
G3・Xを解除するには科警研に戻る必要があるため、渋々別行動を了承した誠と別れ、
雄介と一条は一条が言う「心当たり」の場所に向かっていた。
信号待ちをしている間に一条は、隣の雄介にずっと気になっていた事を思い切って聞いてみることにした。
「五代・・・さっきは本当に助かった。改めて礼を言わせてくれ。」
「?どうしたんです一条さん?急に改まっちゃって・・・?」
「あの時・・・第0号を倒した時、君の戦いは終わったはずだ。
 今は警視庁の開発したG3システムもあるし、それに・・・」
「アギトもいるから、ですか?」
「あ?あ、ああ。未確認との戦いは、君にとっても苦い思い出のはずだ。
 肉体だけじゃなく、精神的にも。
 まして争いを好まない君が・・・」
「・・・誰か他の人がやるから、自分はやらなくてもいい・・・そんなの寂しいじゃないですか。
 自分にやれる事があるなら、やれる力があるんなら、精一杯やりたいんです。」
「だが、これ以上クウガの力を使えばベルトの神経組織が君の脳に到達して・・・!」
感情を押さえきれず、身を乗り出す一条。
本気で自分の体を心配してくれている、それが雄介には嬉しかった。
「それに関しては、さっき椿さんに診てもらいました。
 ・・・もう脳に到達しちゃってるそうです。」
「!!?」
愕然とする一条に、変わらぬ笑顔でサムズアップしてみせる雄介。
「心配しないでください。」
その時、信号が青に変わる。
「っと、それじゃその辺りの事情は行きながら話しますね。」
ビートチェイサーを発進させる雄介、遅れて一条もアクセルを踏む。

<雄介の回想>
科警研を後にした雄介は関東医大病院へとやって来た。受付で椿の所在を確認し、階段を昇る。
目的の階に着いて曲がり角にさしかかった時、奥から走ってきた人とぶつかってしまう。
「うわっととと!」
「すみません!今は急いでますので!」
ぶつかった人は申し訳なさそうに頭を何度も下げながら、急いで階段を駆け下っていった。
「はぁ、何かあったのかな?」
奥の方に視線を戻すと数人の看護婦が誰かを探している。
(ひょっとして、さっきの人を?)
そう思っていると、看護婦の一人が雄介に気付いて走ってきた。
「すみません!この辺で背の高い、スーツ姿の男性を見かけませんでした?」
「ええっと、その人かどうかわかりませんけど今すごい勢いで下に・・・」
「ありがとうございます!もぉ、本当なら安静にしてなきゃいけないのに・・・」
そう言いながら看護婦は階段に走っていく。
「無茶する人って、どこにでもいるんだなぁ・・・」
よく知っている男の顔を思い出し、苦笑しながら雄介は目的の部屋へ歩き出した。

「はぁー、ここも変わってないなぁ・・・よくお世話になったっけ。」
椿のいる部屋のドアの前に立ち、感慨にふける雄介であった。
「ととと、懐かしがってても仕方ない。」
ガチャ、ノブを回し、勢い良く部屋に入っていく。
「失礼しまっす!」
元気一杯に挨拶する雄介。
椅子に座ってカルテに目を通していた椿が、椅子を回して向き直る。
「やっと捕まえたか。困りますよ・・・って・・・」
部屋に入ってきたのが自分が探して連れてくるように言った患者でない事と、
予想だにしなかった男の突然の訪問で、椿は一瞬何が起こったのか判らなかった。
「どうも!椿先生、ご無沙汰してましたっ!」
「???ご、五代・・・?五代、五代雄介!!?ホントに、本物の五代か!?」
「はいっ!」
グッ、とサムズアップ。
見ると、うつむいた椿の肩がプルプルと震えている。
「あれ?椿さん・・・ひょっとして泣いて・・・?」
顔をのぞき込もうとした雄介、と、その頭がガッチリとヘッドロックされる。
「っこの野郎!人に散々心配かけさせやがって!!
 連絡の一つくらい、入・れ・ろ・よ・な!!」
雄介の頭をグリグリしながら怒鳴る椿だが、やはり言葉の端々には喜びが込められている。
「痛たたた・・・!ギブッ、ギブッすよ!」
パンパンと椿の腰を叩き、ようやくヘッドロックから開放される。
「まあ元気でやってるみたいだな・・・安心したよ。
 で?今日はどんな用件なんだ?帰国の挨拶って訳でもないんだろ?」
「はい、今俺の体がどうなってるか確認しとこうと思って・・・」

一通りの検査を終え、雄介の結果を見つめる椿
「・・・五代、結論から言わせてもらう。
 ベルトから伸びた神経組織は・・・お前の脳に到達している。
 もはや融合していると言っていい。
 だが・・・お前には変わった風な処は無い、よな?
 『戦うだけの戦闘マシンになる』ってのは、俺の思い過ごしだったか。」
椿は安堵したように椅子の背もたれに寄りかかる。
「・・・俺、考えたんですけど。」
「ん?」
「ベルトの神経と脳が一つになるって事は・・・
 確かにベルトに支配されるとも考えられるけど、逆に言えば
『完全にベルトの力をコントロールできる』って事じゃないですか。
 俺が0号との戦いで自分を失うことなく究極の戦士になれたのは・・・
 意思の力だと思うんです。
 今まで金の力って電気ショックが原因で新しい力が発動したんだと思ってましたけど、
 ひょっとしてクウガの最初の姿は「黒い戦士」で、
 なんか安全装置みたいなモノが働いてたのが俺の意思が霊石の意思にシンクロした時、
 それが解除されたんじゃないかって・・・。」
椿は黙って雄介の推測に聞き入っている。
「一回目の時も二回目の時も、俺は力を望んでました。
 もっと強い力を、皆を守れる力を!って。はは、なんか照れますね。
 で・・・「凄まじき戦士」の幻を見た時っていうのは怒りで頭が一杯になってて未確認を、
 こう、ぶちのめす力を!って思ってたんです。
 何かを壊すんじゃなくて、何かを守ろうと力を求めた時にだけ、
 ベルトが本来の力を解放してくれるんじゃないかって思うんです。」
「なるほどな・・・」
雄介のレントゲンを手に取り、椿は目を閉じる。そして意を決し雄介に告げる。
「脳と融合した、という事がどういう事か・・・判るな?
 もう手術による摘出は不可能だ。
 話によると例の遺跡にあったミイラもベルトが外されるまでは仮死状態だったと言う。
 お前は・・・お前の体は・・・!」
「・・・もう、普通の人間じゃない、戻れない、って事・・・ですよね?」
椿も雄介の性格は判っているつもりである。
だが、この事実はやはり相当ショックのはずだ。
しかし雄介のこの落ち着きは一体?
そんな椿の困惑を知ってか知らずか、雄介は言葉を続けた。
「0号と戦った直後の俺だったら、多分かなり凹んだと思います。
 でも、クウガになったからのう一度廻った世界で
 今まで見れなかったモノが見れるようなって、聞けなかったものが聞けるようになって、
 行けなかった場所にも行けるようになったんですよ。
 あ、言っときますけど危ない意味じゃないですからね?
 ・・・で、色んな人にも会いました。
 俺と良く似た、いや俺なんかよりずっと過酷な境遇でも決して諦めない、挫けない人達に・・・」
それを聞いた椿は椅子から立ち上がり、雄介に顔を押し付けるようにして聞き返す。
「お前と同じ境遇?どういう事だ?まさか同じような遺跡が世界中に!?」
「うーん、ちょっと違うんですけど。
 ま、とにかく、その人達に会って思ったんですよ。
 『なっちゃったモノは仕方ない』って。
それよりも自分に何ができるか、これからその力をどう役立てるか考えよう!って。」
どこか遠くを見つめながら、ガッツポーズを見せる雄介。
ふぅっ、と鼻でため息をつきながら椿は椅子に戻る。
「まったく・・・お前らしいと言うか何と言うか。」

病院の駐車場、ビートチェイサーを始動させている雄介と見送りに出てきた椿がいる。
「これから何処に行くんだ?」
「とりあえず挨拶回りしようと思ってます。んー、とりあえずポレポレかな?」
「沢渡さんには、もう会ったのか?」
「あ、そうだ。桜子さんって今何処にいるのかな?
 もうとっくに卒業しちゃってるだろうし。椿さん、何か知りません?」
「いるよ。」
「え?」
「沢渡さんは、まだ城南大学の研究室にいるよ。
 誰かさんを待ってから、っていつも窓を開けてな。」
「え、それって・・・」
バシン!突然椿が雄介の背中を叩く。
「早く行ってやれ」
「っ痛―・・・・・。ハイ!」
雄介が発進しようとしたその時、入れっぱなしになっていた警察無線が緊急事態を告げる。
『・・・ガガ、本部より各車へ!
 ・・・署にイレギュラーと思われる怪人が出現!
 対策班及びG3ユニットにも出動要請!繰り返す・・・!』
「イレギュラー?椿さん、イレギュラーって何です!?また未確認が!?」
「あ、。ああ。
 お前に余計な心配させまいと黙ってたが、
 また人間を襲う化け物が出没するようになっちまってな・・・」
「とにかく俺、現場に行ってみます!」
雄介は無線が告げた場所へ向けてビートチェイサーを発進させる。
その背中を見送る椿。
「誰かのために・・・だがそれだけで本当に良いのか?五代・・・」

「そうか、そんな事が。」
「はい、それで現場に着いてみたら一条さんがいるわ襲われてるわで、
 ビックリしたなぁもう!でしたよ。」
「フ、それはお互い様だ。」
「ハハハ。
 あの、ところで一条さん、なんかこの道って俺すっごく良く知ってる気がするんですけど?」
「ああ、それはそうだろう。ほら、あそこが目的地だ。」
一条が指差す方を確認する雄介。そこにあったのは・・・
「え!?あれって!」
一条の言う目的地、そこは雄介が行こうとしていた店・・・『ポレポレ』であった。

(11)
昼尚暗い森の中、ひっそりと立つ主無き洋館。
そこにイレギュラーのゲノム、そしてバゴーの姿があった。
「セルも復活し、いよいよ儀式にとりかかる時がきた。」
「だが、まだクウガを倒していない。
 儀式を行おうにもまた邪魔されるのではないのか?あの時のようにな。」
「ふむ、この前の戦いではアギトの姿もあったな。
 だがかえって好都合やも知れぬ。上手くすれば『アレ』が二つも手に入る。」
壁によりかかり腕組みしていたバゴーが、ゲノムの前に歩み寄る。
「アギトは任せる。だが、クウガを仕留めるのはこの俺だ!それは忘れるな。」
「心得ている。」
ふん、と鼻を鳴らしバゴーは部屋を見渡した。
「ところでセルと・・・ジュウザはどうした?気配も感じられんが?」
「2人共腹が減ったと言ってな。出て行ってしまったよ。」
「ちっ、気楽なモンだな。」
呆れたバゴーが窓から空を見上げる。相変わらずの曇り空だ。
「もうすぐだ。その時は存分に戦おうぞ・・・クウガ!」

その頃、赤い怪人・ジュウザはギルスから受けたダメージを回復すべく、女性を襲っていた。
「キャアアアァ!、ア!、ア!、ア、アァァァァァ・・・・・」
また一人、女性を吸収し、ジュウザのダメージは完全に回復した。
「あーもう、あの出来そこない、今度会ったらタダじゃ済まさないわ!
 とことんまで追い詰めて・・・殺す!」

バサバサバサ!

血塗られた真紅の翼が空に舞う。

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